ノルベルト・ヘーリング、オラフ・シュトルベック『人はお金だけでは動かない』(NTT出版) を読む
ノルベルト・ヘーリング、オラフ・シュトルベック『人はお金だけでは動かない』(NTT出版) を読みました。副題は「経済学で学ぶビジネスと人生」となっています。まず、出版社のサイトから本の内容を引用すると以下の通りです。
この本の内容
最新経済学ではこんなことまで研究されている!
労働市場や金融といった伝統的な分野だけでなく、文化、歴史、健康、幸福感、男女差、スポーツなどの分野にも経済学の研究が入り込んでいる。経済ジャーナリストがその最前線をわかりやすく解説する。
次に、章別の構成は以下の通りです。
- 第1章
- 人間――エコノミック・アニマルか?
- 第2章
- 幸福の追求
- 第3章
- 労働市場の謎
- 第4章
- 忘れさられつつある小さな違い
- 第5章
- すべては文化次第
- 第6章
- はかりとものさしの経済学
- 第7章
- グローバル化の論理
- 第8章
- 金融市場――とことん効率的なのか、まるででたらめなのか
- 第9章
- サブプライムの不意打ち――金融危機の構造
- 第10章
- 経営者も人の子
- 第11章
- 売り買いの高度な芸術
- 第12章
- スポーツ選手をモルモットに――なぜ経済学者はスポーツが好きなのか
- 第13章
- 市場経済の暗がりで
- 第14章
- 最後の警告
上の引用にもある通り、著者のおふたりはドイツの Handelsblatt のジャーナリストとして活躍しており、特にヘーリング博士は学位も取得しているようです。最近の経済学が開拓しつつある新領域をかなり平易に解説しています。「平易」とはいっても、最新の文献に当たっており、定評のあるジャーナルだけでなく、最新のワーキングペーパーやディスカッションペーパーなどの未公刊論文まで含めて、かなり多くの献をサーベイした結果といえます。
目次を見れば分かりますが、ホモ・エコノミクスの合理性に対する疑問から始まって、人間の選択行動に及ぼす文化、中でも宗教の果たす役割、金融市場における合理的なバブルの可能性や「勝者の呪い」から最新のオークション理論まで、ホントに幅広い最先端の経済学的なトピックを取り上げ、しかも、分かりやすく解説しています。さらに、私が感心したのは、参考文献が充実している点です。この書籍の体裁からして、最新の経済学理論と実証結果をサーベイした学術書、とはいい難い気はしますが、特に、専門的な経済学の教育を受けていない読者には最新の経済学に触れるため十分な内容だと受け止めています。さらに、トピックが幅広いだけでなく、取り上げ方がバランスよく、特定の主張に傾斜していないように感じました。すぐれた最新経済学の入門書です。
私は大学生のころにウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読んだ記憶がありますが、"Was Weber Wrong?" なんて論文が2009年に発表されており、プロテスタントの宗教的倫理観ではなく、プロテスタント教会の学校教育に対する熱心さとその結果としての識字率の高さが高い生産性をもたらしたと結論しています。恥ずかしながら、まったく知りませんでした。
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