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2012年11月16日 (金)

宮本勝浩『「経済効果」ってなんだろう?』(中央経済社) を読む

宮本勝浩『「経済効果」ってなんだろう?』(中央経済社)

宮本勝浩『「経済効果」ってなんだろう?』(中央経済社) を読みました。著者は産業連関表分析を専門とするエコノミストで、長らく大阪府立大学に所属していたんですが、現在では関西大学に移っているらしいです。阪神タイガース優勝の経済効果などでお名前を伺った記憶があります。まず、簡単ですが、出版社のサイトから本の紹介を引用すると以下の通りです。

本の紹介
時折マスコミで取り上げられる経済効果。本書では、こんなものやあんなもの、この人やあの人の経済効果を計算してみました。楽しく読みながら、経済効果について考えてみませんか。

当然ながら、学術書ではあり得ません。一般書です。阪神タイガースの優勝やAKB48、東京スカイツリーや和歌山のたま駅長など数々の経済効果を詳しく記述した本です。最初のAKB48や東京スカイツリーの経済効果などで、シュンペーターのイノベーションを解説し、新しい商品、新しい生産方法、新しい販売先、新しい仕入れ元、新しい組織、の5点から、阪神の優勝やAKB48がシュンペーター的なイノベーションであることを確認した後は、ひたすら宮本教授が過去に推計した経済効果について詳しく羅列しています。誠に残念ながら、羅列としか私には見えません。ですから、本のタイトルは『「経済効果」ってなんだろう?』ではなく、『「経済効果」はどれくらいだろう?』の方が適当だという気がします。
読んでつまらなかったので批判になってしまいますが、改善点として以下の3点が考えられます。第1に、産業連関分析の基礎について分かりやすく解説すればどうでしょうか。波及効果については少し記述がありますが、産業連関表の逆行列などはすっ飛ばされています。ブラックボックスがあっては興味が湧きません。「経済効果」の解説が第7章の10ページ少々では物足りない読者もいそうな気がします。第2に、本書で取り上げたすべての「経済効果」を平板に羅列するのではなく、特定のトピック、例えば阪神の優勝とか、AKB48の経済効果だけについては、前提の置き方などを思いっ切り詳しく解説してみてはどうでしょうか。第3に、例外的なイベントもなくはないですが、本来の目的が別にある出来事については、きちんとした記述をすべきです。すなわち、「経済効果」はあくまで2次的な効果であることを認識していないような記述がいくつか見受けられます。大阪マラソンは経済効果だけを期待して開催されるわけではありませんし、世界遺産登録や各種の博覧会もそうです。
以上3点のほかに、最後にオマケで、改善点というよりも私の従来からの主張なんですが、経済効果については、ピンポイントで「xx億円」と有効数字5桁とか6桁で出すのは逆に信憑性に欠けます。というか、意地悪な見方をすれば、「お遊び」の雰囲気が出てしまいかねません。ですから、有効数字を絞るとともに、ある程度の幅を持って示すべきです。例えば、経済効果に関する予想の中央値か平均値かはピンポイントで「xx億円」と表現するとしても、95%の信頼区間で「±x億円」と但し書きをつけるとか、何らかの工夫が必要そうな気がします。おそらく、この信頼区間を出す方が難しいので中央値か平均値だけをピンポイントで示しているんだろうと想像しており、この点は政府統計や経済見通しなんかも同じなんですが、日銀などは工夫して見通しを提供し始めており、考えるべき点だという気がします。

著者も書いているうちに段々と興に乗って来ていて、私は経済効果はあくまで「推計」や「試算」するものだと考えていますが、「xx億円となった」という表現がやたらと使われています。「諸前提を置けばこうなった」という意味なんでしょうから、まあいいような気もしますが、中には、大阪マラソンの経済効果は「立証」にまで「神格化」されています。著者の表現の問題というよりも、編集者に人を得なかったのかもしれないと同情しています。5ツ星をフルマークとして、2ツ星は厳しいと私は考えます。せいぜい、1.5ツ星くらいでしょうか。

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