世界経済フォーラムの Global Risks 2013 を読む
昨日、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムから Global Risks 2013 が公表されています。もちろん、今日びのことですから、pdf の全文リポートもアップされています。今年のリポートは最後の Section 6 の Appendix を含めて、以下の6章で構成されています。
- Section 1
- Introduction
- Section 2
- Testing Economic and Environmental Resilience
Digital Wildfires in a Hyperconnected World
The Dangers of Hubris on Human Health - Section 3
- Special Report: Building National Resilience to Global Risks
- Section 4
- Survey Findings
- Section 5
- X Factors
- Section 6
- Appendix
また、例年の通り、以下の5分野のリスクに焦点が当てられています。
- Economic
- Environmental
- Geopolitical
- Societal
- Technological
今夜もエントリーでは、主として経済分野から pdf の全文リポートのグラフを引用して、簡単に紹介したいと思います。

まず、上のチャートはリポートの p.4 Figure 1: Global Risks Landscape 2013 versus 2012 のうちの経済リスクだけを引用しています。縦軸がインパクトの大きさ、横軸がリスクが現実のものとなる蓋然性を表しており、右上に行くほど深刻なリスクといえます。矢印は2012年から2013年への変化を示しており、繰返しになりますが、右上にシフトしていればリスクが深刻化し、逆に、左下へのシフトはリスクの緩和といえます。経済リスクについてインパクト、すなわち、ダメージの大きい順に見ると、もっともダメージの大きい金融のシステミック・リスクは蓋然性を増しています。財政不均衡については蓋然性が低下する一方でダメージは大きくなる方向に変化しています。また、エネルギーと食料の商品価格の変動はわずかながらインパクトも蓋然性も上昇しています。しかし、2012年から2013年への変化で最も注目すべきは労働市場不均衡と対をなす所得格差がともにインパクトと蓋然性を上昇させている点です。我が国ではまだ景気後退局面を脱したというエビデンスは明らかになっていませんが、世界経済全体では現在の景気回復局面で格差の拡大が生じるリスクが無視できないこが示唆されていると受け止めています。

次に、上のチャートはリポートの p.10 Figure 4: Top Five Risks by Likelihood and Impact を引用しています。ダメージの大きいリスクと実際に発生する蓋然性の大きいリスクを経済分野に限らず、先に上げた経済、環境、地政学、社会、技術の5分野すべてからトップ5を選んでいます。グラフの色分けは、経済が青、環境が緑、地政学がオレンジ、社会が赤、となっており、上のグラフに現れない技術は紫です。見ての通りで、蓋然性では所得格差が、ダメージでは金融のシステミック・リスクが、それぞれトップで、5のフルスコアのうち4を超えています。いずれも経済分野のリスクであることは明らかです。

続いて、目を我が国に転じると、上のチャートはリポートの p.17 Figure 8: Further Required Deficit Reductions for Fiscal Sustainability (2011) を引用しています。見ての通り、元資料は国際通貨基金 (IMF) なんですが、左側が債務残高のGDP比、右は必要とされる財政調整額のGDP比です。このグラフに中国は入っていませんが、押し並べて見て、先進国よりも新興国の方が財政に余裕があるのは明らかです。少なくともストックでは、何をどう見ても、財政に余裕のない先進国の中でも日本はワーストの財政状態であることは確かです。短期的には景気後退局面を脱するために財政による景気浮揚が有効としても、中長期的な財政運営に対する市場の信認を得ておかないと急激な金利上昇などが生じる可能性が排除できないことは肝に銘じるべきです。

最後に、上のチャートはリポートの p.41 Figure 27: Government's Risk Management Effectiveness and the Country's Overall Competitiveness Score を引用しています。縦軸に政府のリスク管理の効率性を、横軸に国際競争力を取ってカーテシアン座標に各国がプロットされています。我が国を例外にこの両者には正の相関があることが示されています。日本だけは国際競争力が高い一方で、政府のリスク管理が非効率であると見なされているようです。その昔に、「経済一流、政治は二流」といわれた時期がありましたが、今でもいくぶんはそうなのかもしれません。
総選挙と組閣の直後という事情もありますが、今年もダボス会議に我が国の総理大臣は出席しません。世界経済の中で我が国の相対的な地位が下がり始めてもう長いんですが、注目度が低下しているだけに、世界に向けた何らかの情報発信は必要なのではないかと思わないでもありません。
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