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2013年1月27日 (日)

吉田修一『路』(文芸春秋) を読む

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吉田修一『路』(文芸春秋) を読みました。台湾を舞台に新幹線の売込みを図る商社の女性社員を主人公にして、ビジネス小説というよりも人間関係を中心に描いた小説です。まず、出版社の特設サイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

あらすじ
1999年、台北-高雄間の台湾高速鉄道を日本の新幹線が走ることになった。
入社4年目の商社員、多田春香は現地への出向が決まった。春香には大学時代に初めて台湾を訪れた6年前の夏、エリックという英語名の台湾人青年とたった一日だけすごし、その後連絡がとれなくなってしまった彼との運命のような思い出があった。
台湾と日本の仕事のやり方の違いに翻弄される日本人商社員・安西、車輛工場の建設をグアバ畑の中から眺めていた台湾人学生・陳威志、台湾で生まれ育ち終戦後に日本に帰ってきた日本人老人・葉山勝一郎、そして日本に留学し建築士として日本で働く台湾人青年・劉人豪。
それぞれ別々に進んでいた物語が台湾新幹線をきっかけに収斂されていく。1999年から2007年、台湾新幹線の着工から開業するまでの大きなプロジェクトと、日本と台湾の間に育まれた個人の絆を、台湾の季節感や匂いとともに色鮮やかに描いた、大きな感動を呼ぶ意欲作。

繰返しになりますが、企業小説やビジネス小説ではないことを前提に読むべきです。台湾新幹線を落札した日本の総合商社の社員を主人公に、日本で働く台湾人の建築家、台湾で生まれて青春時代を過ごした老人、台湾ローカルの若者とカナダ留学から予期せぬ帰国をした台湾人女性のカップル、などなど、さまざまな人間模様をたどりながら、台湾新幹線や我が国の昭和30年代の高度成長期のような活気あふれる台湾経済をバックグラウンドに物語は進みます。
このところ、企業小説・ビジネス小説といえば池井戸潤の作品を私は読んでおり、その観点からは物足りないと感じてしまいました。直木賞受賞作の『下町ロケット』や『ルーズヴェルト・ゲーム』のような理系トピックはまったくありませんし、主人公の同僚の男性商社マンは台湾人女性と浮気して離婚したリ、主人公も仕事よりは食い気に走って、仕事よりも食べ物や現地採用女性との会話がお話しの中心です。アルジェリアの事件があって何人もの犠牲者が出たタイミングだけに、商社のお気楽なお仕事振りが目につく気もします。
同じ傾向は吉田修一だけでなく、有川浩にも感じられ、ビジネス小説ではないものの、お仕事を正面から捉えた本作品とか有川作品の『県庁おもてなし課』や『空飛ぶ広報室』なんかは物足りなく感じられる一方で、吉田作品の『横道世之介』や有川作品の『植物図鑑』なんぞは、学生の本分たる勉学やビジネスの現場はほとんど関係ない内容で、私はとてもよい作品のように受け止めています。有川作品の『フリーター、家を買う』はその中間です。吉田修一や有川浩はややエンタメ傾向が強く、ビジネスを正面から描き切る作品は向いていないのかもしれません。

別の機会に取り上げましたが、来月2月下旬には、この作者の『横道世之介』を原作とする映画が公開されます。私は吉田作品をすべて読んだわけではないものの、この『横道世之介』は吉田修一の最高傑作ではないかと考えており、前売り券ももう買ってあり映画をとても楽しみにしています。

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