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2013年2月19日 (火)

矢野英基『可能性の大国 インドネシア』(草思社) を読む

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矢野英基『可能性の大国 インドネシア』(草思社) を読みました。昨夜のリポートに続いてインドネシアに関するミニ特集の第2弾です。まず、出版社のサイトから本の要約を引用すると以下の通りです。

可能性の大国 インドネシア
経済成長の伸びしろ、穏やかな国民性、そして世界屈指の親日……。世界第4位の人口を有し、今世紀の世界経済の牽引車と目されている新興国の素顔を紹介する。

昨夜のシンクタンクのリポートではまったく気づかなかったんですが、そういえば、インドネシアは世界でも有数の親日国だということをこの本を読んでいて思い出しました。しかも子供好きでもあって、10年以上前の小学校や幼稚園に上がるか上がらないかの我が家の倅2人はなかなかの人気者で、一家そろってとても楽しくジャカルタ生活を送っていたことを思い出します。ということで、順序が逆になりましたが、まえがきとあとがきを別にして、この本は以下の6章から構成されています。

第1章
経済大国への助走
第2章
ユドヨノ大統領の挑戦
第3章
イスラム大国の葛藤
第4章
熱帯雨林の悲鳴
第5章
汚職大国からの脱却
第6章
開発独裁の徐獏がとける日

第1商が経済、第2章が政治、第3章が宗教、第4章で環境、第5章で行政、第6章で開発をそれぞれ取り上げています。著者は朝日新聞のジャカルタ支局勤務の経験あるジャーナリストなんですが、なかなかよく考えられたバランスと構成だと思います。ただ、宗教の章でテロばかりがクローズアップされた印象がありますが、経済活動との関係ではイスラム教のラマダン、現地では「プアサ」と呼ばれる断食月についてと、豚肉のタブーに関してまったく言及がないのでやや奇異な気がします。
とてもいい本で、「インドネシア大好き駐在員」が大好きなインドネシアについて本気で書いたことが伺えます。時としてこういったジャーナリストの著作では、やや人物を強調し過ぎて偶然の歴史をひも解いているような本も見かけますが、この本はそうではありません。例えば、ユドヨノ大統領のリーダーシップで可能となった成果は数多いとは思いますが、本書ではユドヨノ大統領のスーパーマン振りを詳しく掘り下げるのではなく、市井の名もなき人々へのインタビューなどを基に、ユドヨノ大統領の成果のバックグラウンドにも目を配り、あるいは、ユドヨノ大統領の登場を必然ならしめたインドネシアの経済社会の発展や成熟の度合いといった面にも十分な取材がなされています。その面で決して英雄史観ではなく、一般市民の多くに支えられている経済社会について、単に指導者の上から目線だけでなく、国民と同じ目線でマクロに把握しようとする姿勢が見えます。

この本に最初にも書いてありますが、アジア諸国の経済については中国とインドが圧倒的に我が国論壇の注目を引いており、インドネシアに対してはその親日的な国民性や潜在的な経済規模に比較して、ふさわしい注意が向けられているとは思えません。我が家もジャカルタ在住3年間の経験を基に大いにインドネシアを応援したいと思います。そして、インドネシアがいつまでも「可能性だけの大国」ではなく、「現実の大国」になれるよう、ASEANの本部を首都ジャカルタに置くにふさわしい「大国」である、と多くの日本人から見なされるよう見守りたいと考えています。

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