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2013年2月21日 (木)

服部茂幸『危機・不安定性・資本主義』(ミネルヴァ書房) を読む

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服部茂幸『危機・不安定性・資本主義』(ミネルヴァ書房) を読みました。副題は「ハイマン・ミンスキーの経済学」となっています。著者は私と同窓で京都大学経済学部を卒業し、現在は福井県立大学経済学部教授です。まず、出版社のサイトから本書の内容紹介を引用すると以下の通りです。

内容紹介
今、世界経済は世界大恐慌以来の危機のもとにある。危機を防止するのが仕事である中央銀行家や金融当局は、今回の危機を引き起こした「戦犯」の一員である。彼らの失敗を受けて、主流派経済学に対する批判も高まっている。本書はミンスキーの理論に基づき、経済危機の原因を解明するとともに、危機を拡大させた経済理論と政策の誤りを明らかにする。

サブプライム・バブルの崩壊、その象徴としてのリーマン・ブラザーズ証券の破綻などの世界経済の大激震についてはすでに何冊も本が著されており、本書はやや遅れて出版された気がしないでもないんですが、フォーマルな定量分析こそないものの、本書は本格的な学術書であり、一般書とは区別されるのかもしれません。サブプライム・バブル崩壊の関係の本をすべて読んだというつもりもありませんが、本格的な学術書と一般書の中間的な分析書としては、ラインハート・ロゴフの『国家は破綻する』がもっとも有名な本のひとつでしょうし、私の志向するリベラルな経済学の立場からの解明を試みたスティグリッツ教授の『フリーフォール』やライシュ教授の『暴走する資本主義』なども興味深く読みました。これに対して、本書はミンスキー教授の不安定性の理論からの解明を試みています。その意味で、目を引いた点がいくつかあります。例えば、公開市場操作ではなく窓口規制を重視し、あたかも中央銀行が商業銀行のメインバンクとして振舞うような金融政策の推奨したりしています。また、グラス・スティーガル法による商業銀行と投資銀行の区別を無意味と指摘するのは、スティグリッツ教授の視点とまったく逆だと思ったりしました。米国の財務省や連邦準備制度理事会 (FED) を批判する視点は、この種の多くの本に共通しています。そのひとつの現われは、サブプライム・バブルの崩壊を経て、FED流のバブル観、すなわち、バブルの発生は放置しつつ、バブル崩壊後の大胆な金融緩和で手当てするという後始末戦略がまったく信認を失い、否定された点にあります。逆に、バブルの発生を金融不均衡と捉えて防止するBIS流のバブル対応策が中心になっています。本書も同じ路線を取っています。

本書が副題通りにミンスキー経済の特徴を出し切れているかといえば、やや不満の残る部分もあります。本書でいうところの「主流派経済学」に対する批判だけでなく、資本主義の不安定性を動学的に跡づけるモデルの提示など、もう少し踏み込んだ新たな経済学を知りたかった気がします。5ツ星を満点として1.5から2ツ星くらいの評価でしょうか。

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