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2013年3月25日 (月)

ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』上下 (早川書房) を読みオフィスの井戸端会議に参加する!

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ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』上下(早川書房) を読みました。著者は言わずと知れた著名な心理学者であり、トヴェルスキー教授などと行った経済学との学際分野における研究でノーベル経済学賞を授与されています。まず、出版社のサイトからごく短く書籍紹介を引用すると以下の通りです。

書籍紹介
私たちの「意思」はどのように決まるのか?
そして「直感」はどれほど正しいのか?
経済学が前提としてきた合理的人間観を覆し、心理学者にしてノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン。その彼が、経済学、政治学、法学、哲学、教育学だけでなく、ビジネスの実践にまで多大な影響を与えたみずからの研究を誠実かつシンプルな言葉で解説。
私たちは日々、無数の意思決定をなかば自動的に行なっている。カーネマンは、直感的、感情的な「速い(ファストな)思考(システム1)」と意識的、論理的な「遅い(スローな)思考(システム2)」の比喩をたくみに使いながら、意思決定の仕組みを解き明かし、私たちの判断がいかに錯覚の影響を受けているかを浮き彫りにしていく。人間はこれまで考えられていた以上に不合理なのだ――。
プライベートやビジネス、政治における、よりよい決断への道筋を示し、あなたの人間観、世界観を一変させる、21世紀に生きるすべての人、必読のノンフィクション。

ものすごく面白かったです。上下巻で邦訳700ページくらいの大作なんですが、一気読みとは行かないものの、とても早くに読み終わってしまった気がします。章別構成は40章近くあるので省略し、部の構成は以下の通りです。当然ながら、エコノミストとして面白かったのは第4部です。

第1部
2つのシステム
第2部
ヒューリスティックスとバイアス
第3部
自信過剰
第4部
選択
第5部
2つの自己

繰返しになりますが、とても面白かったです。最近読んだノンフィクションの本でこれに匹敵するのはサンデル教授の『これからの「正義」の話をしよう』くらいではないかと思います。引用した書籍紹介と目次の構成で、ある程度は内容が想像できると思いますので、下巻の第4部と第5部を中心に私が感銘を受けた部分を取り上げると以下の通りとなります。
まず、知っている人は知っていると思いますが、カーネマン・トヴェルスキーによるプロスペクト理論のキーとなるゲインとロスのグラフが下巻 p.77 の図10に示されています。同じく、有名な4分割パターン図も下巻 p126 の図13にあります。単純化していえば、利得(ゲイン)については確実に取りに行き、損失(ロス)についてはギャンブルをしてでも避けようとするのが一般的な傾向です。確率が極端に低い場合と高い場合の例として、下巻 p.124 では原子炉のメルトダウンの例が引かれています。そして、利得を取りに行くよりも損失を回避するのが自然な行動として描かれています。加点法ではなく、減点法で人事などを評価するのも一定の合理性があるわけです。また、幸福論との関係では、幸福感に対する所得の閾値が年収7万5千ドルと推定されています。そして、最終的に、セイラー教授の行動経済学などの成果も加味して、合理的なエコンではなくヒューマンな世界ではリバタリアン・パターナリズム的な政策対応が推奨されています。

最初に著者のカーネマン教授は本書の活用法をオフィスでの井戸端会議であると紹介しています。各章の最後には、実際の活用法を会話調で例示したりしています。ですから、とても読みやすくて、それでいて内容はかなり最新の経済学や心理学の成果まで盛り込まれています。上下各巻が2100円+税というやや高価な本ですが、ほとんどすべての公立図書館に所蔵されていることと思います。私も薄給の身ですので区立図書館で借りて読みました。オフィスの井戸端会議に参加するビジネスマンをはじめ、多くの方が手にとって読むよう強く強くオススメします。

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