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2013年3月27日 (水)

小川洋子『ことり』(朝日新聞出版) を読む

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小川洋子『ことり』(朝日新聞出版) を読みました。著者の12年振りの長編小説です。まず、出版社のサイトからこの本のあらすじを引用すると以下の通りです。

ことり
12年ぶり、待望の書き下ろし長編小説。親や他人とは会話ができないけれど、小鳥のさえずりはよく理解する兄、そして彼の言葉をただ一人世の中でわかるのは弟だけだ。小鳥たちは兄弟の前で、競って歌を披露し、息継ぎを惜しむくらいに、一所懸命歌った。兄はあらゆる医療的な試みにもかかわらず、人間の言葉を話せない。青空薬局で棒つきキャンディーを買って、その包み紙で小鳥ブローチをつくって過ごす。
やがて両親は死に、兄は幼稚園の鳥小屋を見学しながら、そのさえずりを聴く。弟は働きながら、夜はラジオに耳を傾ける。静かで、温かな二人の生活が続いた。小さな、ひたむきな幸せ……。そして時は過ぎゆき、兄は亡くなり、弟は図書館司書との淡い恋、鈴虫を小箱に入れて持ち歩く老人、文鳥の耳飾りの少女と出会いながら、「小鳥の小父さん」になってゆく。世の片隅で、小鳥たちの声だけに耳を澄ます兄弟のつつしみ深い一生が、やさしくせつない会心作。

大昔はともかく最近では、私はこの著者の作品は『博士の愛した数式』と『猫を抱いて象と泳ぐ』しか読んだことがありません。すなわち、記憶の続かない数学の博士や自ら成長することを止めて椅子に入ったチェス・プレイヤーといった通常ではない人生を送る主人公の小説といえます。今夜取り上げる作品『ことり』は主人公ではなく、主人公の兄がそのカテゴリーに入るんではないかと思います。その意味で、書下ろしでもありますし、小川ワールド全開といえます。
主人公である弟にしか理解できない「ポーポー語」でしかしゃべれない兄と暮らし、普通の会社のゲストハウスの管理人として勤めを続ける主人公の死から物語は始まります。主人公の兄が「ポーポー語」をしゃべり始めたあたりに一度物語が戻り、当然ながら、両親の死や兄の死を迎えます。全部で250ページほどのこの作品で、兄の死までが90ページほどですから、大部分は「小鳥の小父さん」と呼ばれる主人公がひとり暮らしになってからの物語です。極めて現状維持バイアスの強い生活の中にも、それなりの変化が起こり、図書館司書とのほのかな恋心めいた感情、虫箱をもった老人との会話、「ことり」が「小鳥」だけでなく「子取り」にも通ずることを改めて感じさせられた事件、そして、最後の文鳥の鳴き合わせ会でのとっさの小父さんの行動、そして主人公の死で終わります。

現実離れしているかもしれませんが、甘くて切ない人生を描き切ったレベルの高い作品です。多くの図書館に所蔵されていることと思います。小川ワールドの好きな読者は必読です。

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