国際通貨基金 (IMF) 「世界経済見通し」 World Economic Outlook 分析編を読む
やや旧聞に属する話題ですが、一昨日のエントリーの最後で触れた通り、春のIMF世銀総会に合わせて、国際通貨基金 (IMF) から「世界経済見通し」 World Economic Outlook の分析編である第3章と第4章が公表されています。もちろん、分析編だけのpdf ファイルの全文リポートもアップされています。まず、やや長くなりますが、分析編の両章のタイトルとサマリーを IMF のサイトから引用すると以下の通りです。
Chapter 3: The Dog That Didn't Bark: Has Inflation Been Muzzled or Was It Just Sleeping?
This chapter finds that inflation expectations have remained strongly anchored to inflation targets during the Great Recession and the sluggish recovery. Long-term inflation expectations in advanced economies remain close to targets despite wide variation in actual inflation rates. Even in Japan, expectations remain close to the 1 percent target announced in February 2012 despite a prolonged period of deflation. Furthermore, coincident with greater central bank credibility, this anchoring is found to have increased over time.
Chapter 4: Breaking through the Frontier: Can Today's Dynamic Low-Income Countries Make It?
The chapter compares this recent wave of dynamic LICs with the previous wave, primarily dynamic LICs in the 1960s and 1970s, and finds: Important similarities: Both achieved stronger investment rates and export growth than LICs that were unable to takeoff. Striking differences: Today's dynamic LICs sustained growth with much lower economic vulnerabilities than dynamic LICs in the past. This reflects in part greater reliance on foreign direct investment than on debt-financed investment, as well as faster implementation of structural reforms.
私自身は第4章の低所得国の経済開発の議論もとても興味あるんですが、今夜のエントリーでは黒田総裁を迎えた日銀による異次元の金融緩和とも大いに関連しますので、インフレに焦点を当てた第3章を中心に見て行きたいと思います。まず、リポートから第3章冒頭の Figure 3.1. The Behavior of Inflation Has Changed を引用すると以下の通りです。
上のパネルは先進国のインフレ率の推移です。読み取るべきポイントは2つあり、第1に景気循環が何循環かしたにもかかわらず、インフレ率は景気循環に影響されず横ばい状態で大きな変化はありません。第2に日本だけマイナスのデフレを続けており、物価安定を達成できていません。下のパネルも同じ意味であり、Great Recession 期に失業率がかなり上昇したにもかかわらず、物価上昇率は従来の景気後退期に比べて落ちませんでした。しかも、物価上昇率は金融政策当局が明示的あるいは暗黙のうちに目標にしているインフレ率周辺で落ち着いています。要するに、縦軸を賃金ではなくインフレ率とする拡大フィリップス曲線の傾きが緩やかになった可能性が示唆されていると理解すべきです。
次に、上のグラフはリポートから第3章の Figure 3.3. Current Headline Inflation Compared with Expectations を引用しています。今度は横軸に実際のインフレ率、縦軸に期待インフレ率を取ってプロットしています。45度線よりもフラットになっているのが見て取れます。普通は暗黙のうちにx軸が原因で、y軸が結果であると関数 y=f(x) のような因果を想定するので、そのような見方をすれば、実際にインフレ率が変動しても期待インフレ率が実績インフレほどの変動をしない、ということに解釈できます。日本のように物価上昇率を高める努力をしている国から逆に見れば、期待インフレ率をかなり大きく動かさなければ実際の物価上昇が生じない、という可能性も示唆されています。結論として、長期的なインフレ期待がアンカーされていれば、通貨当局は思い切った金融緩和をしても構わない、インフレを懸念する必要は小さい、ということになります。黒田日銀の異次元の金融緩和をサポートしているといえます。もっとも、ドイツ連銀のケース・スタディの結果などから中央銀行の独立性を重視する姿勢を打ち出しています。なお、この分析を基に、The Economist の最新号では "The death of inflation: Central banks in the rich world may have been too successful in subduing price pressures" と題する記事を掲載しています。ご参考まで。
第4章に入って、リポートから Figure 4.2. Frequency of New and Ongoing Takeoffs in Low-Income Countries を引用すると上の通りです。特に真ん中のパネルが見やすいんですが、2000年のミレニアムの少し前から低所得国の「離陸」 "takeoff" が活発になっていることが読み取れます。戦後の歴史を振り返って、1960-70年台の第1波で成長率の離陸を果たした低所得国と違って、1990年代なかば以降の第2波で離陸した低所得国について、高成長が長い期間にわたって持続していること、1次産品に依存した高成長ではなく製造業の役割が高まっていること、などが特徴として上げられています。必ずしも手放しで楽観できるわけではありませんが、低所得国が離陸を果たしたとしても、インフレが高進したり、対外債務が積み上がったりするリスクは以前に比べて小さいと指摘しています。
IMF の「世界経済見通し」のコアとなる第1章と第2章の見通し編は4月16日発表とアナウンスされています。公表された後、このブログでも取り上げたいと思います。
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