その他のゴールデンウィークの読書など
昨日のこのブログの記事ではジャレド・ダイアモンド『昨日までの世界』とその前段となる同じ著者による『銃・病原菌・鉄』及び『文明崩壊』をゴールデンウィークの読書の成果として取り上げましたが、その他にも、チョロチョロと読書は進めていたりします。いつか書いたかもしれませんが、私は同時に2-3冊の本を読み進む場合があります。ダイアモンド教授の難しげな伝統的社会に関する本を読む息抜き、ではないものの、適当にいろんな読書をしていたりします。ゴールデンウィークにはそれほど外出もせず、音楽、特にジャズ・ピアノを聞きながら読書する機会が多かったのは確かです。
まず、ものすごく長らく、おそらく半年ほども積ん読の状態にあった猪木武徳『経済学に何ができるか』(中公新書) です。経済学とは、特に新古典派的な世界では、効率を追求する際に有益であるが、公平や平等は苦手、という印象がありますが、この本は徹底して「効率」という観点を排除し、倫理的な経済学について論じているように見えます。その意味でやや違和感を覚える向きがある可能性は否定できません。もっといえば、通常、「人間が出て来ない」といわれる経済学において人間を見据えている気がしないでもありません。でも、制度を論じている割には倫理を重視し、いくつか矛盾した結論も導いていたりします。例えば、特許や知的財産に関する部分です。また、私のようなリフレ派のエコノミストから見れば、インフレはハイパーインフレにつながる危険があるとするハイエクの説を引くなど、旧態依然たる経済学を展開するあたりにやや古さを感じましたが、現時点でも共感できる部分は少なくありません。現実を捨象したモデルと現実社会に当てはめる政策のズレといった議論は今でも必要かと思います。取りあえず、流行りの本ですので読んでおいて損はない気がします。でも、私の場合、これだけ長期間積ん読したものですから、買わずに借りておけばよかったと反省しています。
次に、永濱利廣・鈴木将之『団塊ロストワールド』(日本経済新聞出版社) です。短期から中長期の日本経済をコンパクトに取りまとめています。切り口は団塊の世代であり、社会保障が政策の中心になりますが、著者たちが理解を欠いているおそれがあると私が見ているのは、社会保障は経済学で決まるのではなく民主主義、それも、人数も投票率も他を圧倒する団塊の世代などの高齢者によるシルバー・デモクラシーで決まるという事実です。構成的には、第5章くらいまで既存の資料を上手に取りまとめていて、例えば、社会保障を取り上げた第5章では慶応大学の権丈教授の編集したシリーズからの引用部分が多いんですが、第6章の日本経済の将来見通しを産業連関表から推計する部分などはオリジナリティにあふれています。脚注が多いかどうかで、既存資料の取りまとめ部分か、著者たちのオリジナルか、一目で分かります。著者は2人とも民間シンクタンクのエコノミストですので、専門的な数量分析は限界があって、オリジナリティを求め過ぎるのも無理があるのかもしれません。最後の最終章の政策対応めいた結論部分がとてもありきたりなのが物足りないでもないんですが、こういったテーマを取り上げる以上は止むを得ないと考えるべきです。
専門外のところで、カール・ジンマー『ウィルス・プラネット』(飛鳥新社) も面白かったです。著者はサイエンス・ライターであり、こういった分野の本を私のような専門外のシロートにも分かりやすく解説するのが本職でしょうから、ある意味で分かりやすいのは当然かもしれません。ゴールデンウィーク前から中国の上海あたりでH5N9方の新型インフルエンザのニュースが盛んに流れていましたので、大いに興味を持って借りて読みました。ウィルスが生物ではないというのは初めて知りましたし、強烈な症状と致死率の高さで有名なエボラ出血熱は感染するスピードよりも宿主を死に至らしめるスピードの方が速くて感染が拡大しない、というのも、いわれればそうかという気がします。風邪やインフルエンザに限らず、HIVやエボラ出血熱、あるいは、少し前に話題になったSARSやウェストナイル熱のウィルス、地上から根絶された天然痘ウィルスなど、写真や図解も豊富に取り入れられており、私も見た記憶のある「アウトブレイク」などのパンデミックものの映画の話題も取り上げており、専門外の読者を対象に分かりやすく解説されています。
最後に読書ではないんですが、桑原あい「from here to there」を聞きました。中学生のころにエレクトーンからピアノに転向した若干21歳のジャズ・ピアニストのデビュー・アルバムです。実は、2枚目の「The Sixth Sense」がすでに4月に発売されているので、やや遅れ気味なんですが、取りあえず、デビュー作を聞いてみました。キャッチコピーには「上原ひろみを追いかける」といった趣旨があった気がしますが、かなり割り引いて聞いておく必要がありそうです。男女の違いはあるのかもしれませんが、松永貴志が17歳でデビューした時の爆発力のようなパワーも感じられません。あえていえば、森田真奈美のプレイ・スタイルに近いかもしれません。早めにセカンド・アルバムを聞きたいとも思いませんが、気長にフォローする可能性はあります。
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