『夢幻花』(PHP) は東野圭吾の最高傑作か?
昨日に続いて読書感想文のブログなんですが、悪い表現かもしれませんが、「ひと山いくら」の文庫本と違って、今日は我が国を代表する売れっ子作家のひとりである東野圭吾『夢幻花』(PHP) です。人気作家の最新ミステリです。まず、出版社の特設サイトから作品紹介を引用すると以下の通りです。
「黄色いアサガオだけは追いかけるな」
—謎のメッセージが意味するものとは。
独り暮らしをしていた老人・秋山周治が何者かに殺された。遺体の第一発見者は孫娘の梨乃。梨乃は祖父の死後、庭から消えた黄色い花のことが気にかかり、ブログにアップする。ブログを見て近づいてきたのが、警察庁に勤務する蒲生要介。その弟・蒼太と知り合った梨乃は、蒼太とともに、事件の真相と黄色い花の謎解明に向けて動き出す。西荻窪署の刑事・早瀬らも、事件の謎を追うが、そこには別の思いもあった。
「こんなに時間をかけ、考えた作品は他にない」と著者自らが語る長編ミステリ。
ということで、続いて、同じく出版社の特設サイトから小説における人物相関図を引用すると以下の通りです。

我が家では、中間試験を終えたおにいちゃんが読み始めて、次に私に回って来ました。ミステリですから一言だけ短く、犯人は意外かどうかを問うたところ、「そうでもない」との回答でした。安心できる回答と受け止めました。どうでもいいことながら、親バカの私の勝手な見方ですが、小説、特にミステリでは私は上の子の評価に一定の信頼を置いており、食べ物については下の子の評価に絶大なる信頼を寄せています。そして、私の評価は、ほぼこの作者の最高傑作に近い、というものです。「ほぼ」がつくのは、第1に、この作者の作品として、私にとっては『白夜行』が捨てがたいからです。読者によって評価は異なる可能性はありますが、堀北真希主演で映画化されてしまっては、私の中では小説と映画のセットで最強の地位を築きつつあります。でも、この作者の出世作である『秘密』はもとより、ガリレオや加賀恭一郎などのシリーズからはこの小説のレベルに匹敵する作品はまだ出ていないと私は認識しています。第2に、人物相関図の右下に小さく出ている早瀬刑事のご家族がエピローグで取り上げられていないからです。文庫本に収録する際に書き加えられることはないと思いますが、画竜点睛を欠く印象は残ります。もっとも、この些細な点を除けば、断片的なエピソードが最終章に向かって極めて有機的につながりあるものと解き明かされ、しかも、社会派的な趣きも大いに含んでおり、切れ味するどい謎解きとともに圧巻のエピローグを迎えます。このあたりの盛上りは圧倒的であり、一気読みした読者も少なくないと想像しています。ミステリとしての殺人事件の謎解きよりも、この黄色いアサガオをめぐる謎や人物相関の方に共感を寄せる読者も多いと思います。
ネタバレにはしたくないんですが、ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』からこの方、秘密裏に一家で持ち続ける伝統、というか、この作品の最終章では「負の遺産」と表現されていますが、そういった秘められた伝統を遂行する小説というのに私は注目しています。万城目学『プリンセス・トヨトミ』なんかもその流れで私は理解していますが、それほど長期に渡り、また、極めて希少な伝統の順守ではなくても、この『夢幻花』のような例も興味深いところです。現実離れしていると考えがちですが、小説なんてそんなもんです。「負の遺産」なのかもしれませんが、それに納得して小学生や中学生のころから一家の秘められたる目的に邁進する特定の人々が、ホントにいるかもしれないと思いつつ、我が家はそんな「負の遺産」であろうと、「正の遺産」であろうと、何もない家庭に生まれ育った有り難さも味わえます。
この作者の作品らしく、反社会的な集団や犯罪者グループのような存在は出て来ませんし、高い遵法精神に基づく適切な倫理観に支えられた作品です。ミステリとしての謎解きも万全で、原子力に対する主人公の考えにもある意味で共感できます。我が家のように、中学生や高校生にも安心して勧められます。繰返しになりますが、この作者の最高傑作と見なして差し支えありません。文句なくオススメの5ツ星です。
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