2012年就業構造基本調査に見る正規雇用と非正規雇用
先週金曜日7月12日に総務省統計局から2012年の就業構造基本調査が発表されています。人口が減少する段階に入った日本経済の雇用面の特徴をよく表していると私は考えています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
非正規、初の2000万人突破 就業構造調査
男女とも比率最大 ニートは2.3%に上昇
パートやアルバイトなど非正規社員として働く人が増えている。総務省が12日発表した就業構造基本調査では、役員を除く雇用者のうち非正規社員は全体で約2043万人となり、初めて2000万人を突破した。比率も38.2%と過去最大を更新した。産業構造がパート比率の高いサービス業に転換していることなどが背景にある。
20年前の調査と比べると、非正規の比率は16.5ポイント上昇した。男性・女性ともに過去最大の比率となった。正社員の比率が大きい製造業は生産拠点の海外移転などで雇用が減り、パートの多い小売やサービス業で働く人の割合が高まったことが背景だ。なかでもパートやアルバイトとして働く人が多い女性は非正規の比率が57.5%と、半数を大きく上回る。
正社員だった人が転職の時に非正規になる流れも強まっている。調査で過去5年の間に転職した人を見ると、転職前に正社員だった人のうち40.3%が非正規になった。2007年の前回調査と比べると3.7ポイント上がっている。逆に非正規社員が転職するケースでは、正社員になったのは4人に1人にあたる24.2%にとどまる。この比率も5年前より2.3ポイント下がった。仕事を変える時に、正社員を選ぶのは5年前よりも難しくなったといえる。
50代-60代の有業率は5年前と比べ男性では下がる一方、女性は上昇した。家計を補おうとパートで働く女性が増えた可能性がある。一方で非正規で働く人の割合が高い若年層は男女とも雇用が不安定なことが結婚・出産をためらう一因との指摘が多い。
仕事探しをあきらめた若者にあたる「ニート」も解消していない。15-34歳に占めるニートは5年前に比べて約1万5千人減ったものの、比率は2.3%と0.2ポイント上がった。働く意欲を失った若者が増えれば、経済の活力がそがれる。将来、低年金や生活保護の受給者になる可能性もある。
産業別に見ると、「卸売業・小売業」では約282万人、「医療・福祉」では約176万人の女性がパートやアルバイトとして働いている。高齢化に伴い伸びる福祉分野やサービス産業ほど女性が働く機会が多く、非正規の比率拡大にもつながる形だ。
過去5年間に介護や看護のために職を離れた人は約48万7千人。このうち女性は38万9千人で、8割に達する。高齢化に伴う介護や家事の負担が女性にしわ寄せされやすい状況も、女性が安定して質の高い働き方をするための壁になっている。
調査では、介護をしている全国の557万人のうち、60歳以上が約5割を占めることも分かった。「老老介護」の問題が深刻になっている現状も浮き彫りになった。
いつもながら、とてもよく取りまとめられた記事で、これ以上に付け加えるべき点はないような気もするんですが、一応、私の興味の範囲で、賃金以外の雇用の質、すなわち、正規非正規雇用の観点を中心に、いくつか図表を取り上げたいと思います。

まず、1982年以来の5年ごとの雇用者の正規・非正規比率は上のグラフの通りです。ほぼ5年おきに2-3パーセント・ポイントの割合で非正規雇用比率が上昇していますが、特に、1997-2002年の5年間で大きくジャンプしているのが見て取れます。非正規雇用の拡大は小泉政権下の新自由主義経済路線と関連づけて解釈されることが多く、私はそれはそれで決して間違いではないと受け止めていますが、少なくともその象徴のひとつである2004年における製造業への派遣解禁が非正規雇用の比率拡大に大きな役割を果たしたかどうかは、この統計からは不明です。また、非正規比率の上昇や人口減少などは決して果てしなく進むわけではなく、どこかで均衡状態に達すると私は考えているんですが、まだ当面は非正規比率の上昇などが進む可能性が高いと認識すべきです。

ということで、上のグラフは2012年の時点での産業別の正規・非正規比率です。すべての産業をカバーしています。平均的には極めて大雑把ながら正規比率が60パーセントですから、卸売業・小売業や宿泊業・飲食サービス業などはこれよりかなり正規比率が低いというか、非正規比率が高くなっています。次のグラフに見る通り、医療・福祉は雇用増の稼ぎ頭なんですが、現時点における正規・非正規比率から見て、特に非正規比率が高いというわけではありません。

上のグラフは、過去5年間における主要な産業別の転職就業者をプロットしています。全部の産業を網羅しているわけではありません。あくまで主要産業だけです。昨年、製造業雇用者数が1000万人を下回ったことが話題になりましたが、産業間で正規比率の高い産業から非正規比率の高い産業へ転職が生じると非正規比率は高まります。当然です。その意味では正規比率の高い製造業の雇用者が減少しているのは我が国全体の非正規比率の上昇のひとつの要因になっている可能性があります。
ただし、産業間の雇用者の移動でよく見かける誤解について、簡単に取り上げておきたいと思います。それは、雇用者が減少しているのは衰退産業であり、逆に、雇用者が増加しているのは成長産業である、という誤解です。もちろん、こういった面もあって、100パーセント完全に誤解だと言い切るつもりもないんですが、逆から見て、雇用者が減少している産業は生産性が向上している、という見方も出来ることは忘れるべきではありません。江戸時代に農業人口の比率が高かったのは農業の生産性がそれだけ低くて、例えば、1人で2-3人分の食料しか生産できなかったからであり、農業が生産性を向上させた結果、それほど食料生産に人手を要しなくなった、という見方が十分に成り立つことは認識しておきべきです。ですから、製造業についても生産性を向上させた結果、雇用者を従来ほどは必要としなくなった、という面があります。

最後に、過去5年間の転職と正規・非正規の関係を統計局のリポートの p.7 から引用しています。いかにもマルコフ・プロセス的な枝分かれ図で、私の趣味にも合致しています。見れば明らかですが、過去5年間で1000万人余りが転職を経験しており、特に、矢印がクロスしている部分を注目すると、非正規から正規に転職した割合が24.2パーセントにとどまる一方で、正規から非正規に転職した比率は40パーセントを超えます。この5年間に団塊の世代で定年退職に達した人も少なくないことから、正規雇用を定年退職して非正規雇用に移行したケースも多いとは思いますが、統計的に見て、 と考えるべきです。
なお、アジア開発銀行 (ADB) から「アジア開発経済見通し改訂」 Asian Development Outlook 2013 Supplement が公表され、アジア新興国・途上国の経済成長率見通しは今年2013年は+6.6%から+6.3%に、来年2014年は+6.7%から+6.4%に、それぞれ春の見通しから下方修正されています。このブログも3連休で遅れ気味になっていますので、日を改めて取り上げたいと思います。
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