日銀短観は総じて改善を示し家計とともに企業も景気を牽引する全員参加型へ!
本日、6月調査の日銀短観が発表されました。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査の▲8から大きくジャンプして+4と跳ね上がり、大企業の今年度2013年度の設備投資計画も3月時点の▲2.0%から+5.5%に大きく上方修正されました。まず、少し長くなりますが、統計のヘッドラインを報じた記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。なお、この日経新聞のサイトでは何らかの登録を要求されるかもしれません。悪しからず。
景況改善、中小にも拡大 雇用・賃金への波及焦点
日銀短観6月調査、景況感が改善
日銀が1日発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)は大企業に加え中小企業でも景況感が改善し、2013年度の設備投資計画も市場予想を上回る上方修正となった。円安・株高が一服し、市場がやや不安定になるなかでも、企業行動が前向きになっていることが確認できた。今後は雇用や賃金に波及し、景気の自律的な回復につなげられるかが課題となる。
大企業の13年度の設備投資計画は全産業で前年度比5.5%増となった。前回の3月調査の2.0%減からプラスに転換した。
老朽化した設備の更新需要が蓄積していることが上方修正につながったもようだ。非製造業では「堅調な内需に加え、消費増税を控えた駆け込みの投資が計画されている」(SMBC日興証券の宮前耕也氏)との指摘もある。
調査を実施した5月下旬から6月下旬にかけては度々株価が急落し、円相場が反発するなど市場が大きく変動した。通常は株安・円高の局面では企業心理が悪化しやすいが、今回は企業の収益の見通しが着実に改善していることが下支え役となった。長い目でみた円安傾向が製造業を起点に企業の見方を強気にしている。
13年度の大企業の収益計画をみると、経常利益は製造業で前年度比14.6%増となり、前回調査の10.9%増から上向いた。非製造業も3.7%増と前回の3.3%増から小幅ながら上方修正となった。昨秋以降の大幅な円安に伴う収益改善効果が企業心理の改善を支え、設備投資にもプラスに働いた格好だ。
今回調査で浮き彫りになったのが、景況感改善の中小企業への裾野の広がりだ。とくに中小非製造業の業況判断指数(DI)はマイナス4となり、1992年5月調査以来、約21年ぶりの高水準となった。
一方、14年度の新卒採用計画は大企業が1.7%減と3年ぶりのマイナス計画となった。景気の回復傾向を持続的なものにするのは、企業の景況感の改善が設備投資だけでなく雇用や賃金などにも波及することが欠かせない。個人消費などの内需拡大を通じ、企業収益をさらに改善させる「好循環」につなげられるかが課題となる。
ということで、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、産業別・規模別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。このブログのローカル・ルールで、昨年1-3月期を景気の山、昨年10-12月期を谷と仮置きしており、ほかのグラフについても以下同文です。
企業マインドの改善はほぼ市場の事前コンセンサスにミートし、大きなサプライズはなかったものの、かなり市場予想の上限に近いと受け止めています。大企業や中小企業といった規模、あるいは、製造業と非製造業の産業別など、いくつかのセグメントを見てもほぼすべての規模や業種で景況感が改善しています。引用した記事にもある通り、大企業だけでなく中堅から中小企業にも業況感改善の裾野が広がっている点は忘れるべきではありません。もちろん、アベノミクスによる円高修正や株高と公共事業の拡大といった政策効果とともに、米国と中国をはじめとする世界経済の回復など、さまざまな要素が組み合わさって出た結果であるといえます。夏季ボーナスも含めて、将来に向けた賃金上昇が現実化すればさらに景況感は改善すると考えられます。また、この短観を見る限り、5月下旬からの金融市場の混乱、すなわち、株価の下落、円高修正の一巡、長期金利の上昇などは、メディアは騒がせたものの、企業の景況感に大きな影響を及ぼさなかった可能性があります。なお、大企業製造業の事業計画の前提となっている為替の想定は、3月調査の1ドル85.22円から6月調査では91.20円に大きく円安に振れました。
上のグラフは企業規模別に設備と雇用のそれぞれの判断DIをプロットしています。設備と雇用はいずれも要素需要であり、景気にいくぶん遅行すると考えるべきですが、この6月調査の日銀短観では、まず、完全に払拭されたわけではないものの、設備に対する過剰感がかなり和らいでいます。さらに、雇用についてはすべての規模の企業で人員の過剰感が払拭されて不足感に転じたとの結果が示されています。しかも、規模の小さい企業ほど人員不足感が広がっています。上のグラフの下のパネルの通りです。もっとも、後で取り上げるように、来年度の新卒採用は減少するとの結果になっています。少し不思議な気がします。
統計としての短観のひとつのクセ、というか、我が国企業の投資計画そのものがそうなっているという気もしますが、設備投資計画の3月調査はマイナスでスタートする、という経験則があります。もちろん、よほどの景況感の盛り上がりがあれば別なんでしょうが、最近では2007年度が3月調査でプラスのスタートとなっています。最近の設備投資計画は上のグラフの通りで、2013年度の大企業の設備投資計画は3月調査の時点では前年度比▲2.0%でしたが、今回の6月調査では+5.5%にジャンプしました。市場の事前コンセンサスは+3%台の増加でしたので、直感的に少し大きいと感じていますが、この先9月調査あたりでは下方修正される可能性が残りますし、また、2012年度計画の実績が3月調査時点の実績見込よりもかなり下方修正されましたので、前年度からの繰越し部分が多少はあるのかもしれません。最終の仕上がりを見込むと計画段階の+5.5%増はやや大きいと感じるエコノミストも少なくないような気がしています。
日銀による2%のインフレ目標の設定との関係で注目された価格判断DI、すなわち、大企業製造業の仕入れと販売の価格判断DIは上のグラフの通りです。仕入れと販売のいずれも昨年10-12月期を直近のボトムとして価格判断DIは上向きに転じています。景況感と同じで、「ヨソは楽だが、我が社は厳しい」という隣の芝生は青くて自虐的なバイアスがつきまとい、仕入れ価格が上昇すると予想する一方で、販売価格は上げられないと、デフレ期待が半分くらいしかまだ払拭されていないんですが、それでも、販売価格DIもほぼゼロの▲1までこぎつけました。今後、インフレと賃金の関係も忘れるべきではありませんが、実際に価格が引き上げられるようになると、この販売価格マインドは一気に改善される可能性があると期待しています。
最後に、先ほどの雇用判断DIが大企業から中堅・中小企業まで軒並み人手不足感が出始めた一方で、来年度2014年度は新卒採用を手控える企業が増加しています。今年春の新卒採用が増加していますので、その反動の側面もあるんでしょうが、私には少し疑問が残ります。政府の成長戦略で要素需要のうちの投資ばかりが促進され、雇用が置き去りにされることがないように期待しています。
最近時点まで、消費に現れた強気な家計部門と投資に現れた弱気な企業部門という単純な対比で見ていたんですが、6月調査の日銀短観の結果を見ると、総じて企業マインドの改善が示され、5月下旬からの株価下落などの金融市場の混乱にもそれほど影響されず、先行きに明るい展望を持って企業活動が行われているとの印象を持ちました。家計と政府だけでなく、企業や海外部門も景気を牽引する全員参加型の景気回復・拡大という望ましい姿になりつつあることを確認できた短観でした。
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