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2013年8月31日 (土)

先週末から今週にかけて読んだ新刊書から

先週末から今週にかけて読んだ新刊書です。経済書が1冊と小説が4冊です。わずかに5冊ですから、新刊書を読むペースは落ちているような気がしますが、実は、新刊書でも何でもない10年くらい前の文庫本を読んでいたりします。

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まずは経済書からで、池尾和人『連続講義・デフレと経済政策』(日経BP社) です。リフレ政策を批判していて、そのバックグラウンドにあるモデルが極めてクリアに第1講で提示されています。非常にわかりやすいリフレ派批判なんですが、極めて不自然に自然失業率が4%であると前提しています。昨日発表の統計では失業率は4%を下回りましたから、日銀は景気加熱を防止すべく引締め策を取らねばならないんでしょうか。といった極めて恣意的な前提をモデルに取り込んだ議論となっています。また、ゼロ金利制約下ではモデルの特異な動きを許容し、ご自分の都合のいい議論に導いているのもどうかという気がします。さらに、私が注目したのは為替に関する議論であり、日米のマネーストック比率に対応した為替の動きを示すソロス・チャートは、やっぱり、ゼロ金利制約下では成立しないという議論が展開されています。本書では、グラフを見るという初歩的なレベルの議論で片付けられているんですが、最近、日銀が発表したワーキングペーパー「リーマン・ショック直後の円高の定量的解釈」では、Bacchetta and van Wincoop のスケープゴート・モデルを援用して、リーマン・ショック後の円高は投資家が消費者物価に対する主観的なウエイトを引き下げ、マネーストックに対する主観的なウエイトを引き上げたことによってもたらされたことを定量的に明らかにしています。日銀の研究により為替に対するマネーストックの影響力が確認されているわけです。本書のリフレ派批判はやや的外れと私は受け止めています。ただし、第5講の成長戦略に関しては私も同意する点が多くあり、単なるターゲティング・ポリシーは成長戦略ではないという指摘は大いに賛成です。

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次に小説で、伊坂幸太郎『死神の浮力』(文藝春秋社) です。我が家では私だけでなく子供達も東野圭吾作品や伊坂幸太郎作品を読みますので、今日のエントリーで紹介する本の中で、本書だけは購入しました。逆から見て、他の4冊は図書館で借りています。ということで、伊坂作品の死神シリーズはもう1冊短篇集の『死神の精度』があるんですが、この『死神の浮力』は長編となっています。死神はやっぱり千葉です。音楽が大好きです。この死神の千葉が、我が子を殺された作家の両親とともに行動します。千葉が評価する対象者はこの父親の方です。そして、この作家の子供を殺したのは、25人に1人いるといわれる良心を持たない人間です。私はよくわからないんですが、貴志祐介『悪の教典』の主人公の蓮見みたいなもんでしょうか。それはともかく、さすがに伊坂作品ですのでテンポよく話が進み、とても面白く読めました。長編ですからスピーディーな展開は犠牲になっているのかと思ったら、そうでもなくて、終盤の展開はある程度は予想通りというものの、伊坂作品のいいところを味わうことが出来ます。それにしても、死神がいる間はずっと雨降りというのは小説のプロットを考える上で何らかの制約条件にならないものなんでしょうか。少し気になります。

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次も小説で、篠田節子『ブラックボックス』(朝日新聞出版) です。7月7日のエントリーで真山仁『黙示』を取り上げましたが、同じようなラインに乗っている作品です。ただし、『ブラックボックス』では主人公や主人公側の人々が一貫して被害者としてストーリーが進んでおり、『黙示』と大きく異なる点です。物語としてはありきたりな内容で、大きな風呂敷を広げて収束するのに手間取り、極めて中途半端な終わり方をしています。単に食品の安全性に疑問を投げかけるだけで終わった作品であり、小説としてはこれでいいのかもしれませんが、将来に向けた何らかの明るい、もしくは、真っ黒の展望を示すことには失敗していると私は受け止めています。やや設定が極端に走っているきらいもあります。ハッキリ言って、生活実感のない小説でした。作品の登場人物に感情移入することがとても難しいと感じました。

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次はミステリで、森博嗣『神様が殺してくれる』(幻冬舎) です。欧州を舞台にした殺人事件をテーマにしています。私はこの著者の作品は、いわゆるS&MシリーズとVシリーズはほぼ読みましたが、ギリシア文字の入るGシリーズはほとんど読んでいません。ひょっとしたら、デビュー作の『すべてがFになる』がもっとも好きかもしれません。理系ミステリ作家らしくというか、何というか、人間臭い殺人事件の動機や人間関係、恋愛などの感情の機微をまったく無視して、可能性のない人物を消去法で消していくタイプの謎解きをする作品が多く、その謎解きにもムラがあって、すぐに犯人が分かる場合と極めて無理のある謎解きと、いろいろです。でも、人気ミステリ作家ですから、話題の新刊ということで読んでおいて損はないと思います。リオン・シャレットはVシリーズの小鳥遊練無のイメージだったりするんでしょうか。

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最後もミステリで、真梨幸子『鸚鵡楼の惨劇』(小学館) です。私はこの著者は割と好きで、メフィスト賞を受賞したデビュー作の『孤虫症』から始まって、『深く深く、砂に埋めて』や『殺人鬼フジコの衝動』なども読んでいます。非常にタイムスパンの長い作品が特徴で、この『鸚鵡楼の惨劇』もゆうに50年を超える物語です。ここまで長くはありませんが、直木賞を受賞した『カディスの赤い星』を思い出してしまいました。もっとも、この『鸚鵡楼の惨劇』は西新宿の狭い狭い地理的な範囲で生じた事件を取り上げており、日本とスペインを国際的に行き来する『カディスの赤い星』とはかなり趣きが異なります。かなり話はそれますが、『神様が殺してくれる』のリオンはどこか『深く深く、砂に埋めて』のゆりこに通じるものを感じました。終盤はとても意外性があってスピーディーな展開です。

今回読んだ中で、世間の評価が高い割に失望させられたのは『ブラックボックス』です。対立軸を明らかに出来ず、あいまいなままでストーリーを進め、何やらよくわからない結論に達しています。エンディングを考えずに書き始めてしまったのが手に取るように理解できます。

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