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2013年8月23日 (金)

最近読んだ経済以外の専門書から

8月も残すところ来週1週間となり、子供達の中学校や高校の夏休みも終わりに近づきました。といったこととは何の関係もなく、最近読んだ経済書以外の専門書のご紹介です。

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まず、アーロン L. フリードバーグ『支配への競争』(日本評論社) です。昨年、『キッシンジャー回想録 中国』上下巻が話題になりましたが、今年の中国論はこの本で決まりかもしれません。著者はプリンストン大学教授であり、ブッシュ政権下でチェイニー副大統領の補佐官を務めた中国問題の専門家です。そして、一言でいうと、『キッシンジャー回想録 中国』とはまったく逆の結論に達しています。すなわち、本書は1990年代初頭から最近までの米中の外交戦略を分析し、来たるべき数十年の中国の方向性を読み解こうとしており、結論として、中国のパワーと野心が増す中で、中国と利益が対立する多くの分野で米国は強硬な姿勢を採るべきだと明確に主張しています。封じ込めと連携を並べた造語である「コンゲージメント」という言葉も出て来ますが、融和的なキッシンジャー路線とは大きく異なると理解すべきです。ただし、本書が書かれたのは2011年であり、その後のオバマ大統領の再選、習近平主席への中国指導体制の交代などの前に上梓されていますので、少しこの点は考慮に入れて読むべきだと受け止めています。特に考慮すべきはエネルギー問題です。本書ではほとんど考慮に入っていませんが、米国がシェール・オイルやシェール・ガスの実用化を可能とする技術開発に成功し、中東へのエネルギー依存を低下させることに成功しつつある一方で、エネルギー集約型の成長をせざるを得ない中国との間で摩擦が軽減される可能性がやや出始めています。中国と我が国を含む周辺諸国との国境紛争や中国とアフリカ等との外交関係の進展は資源問題をテコにしているだけに、この点はエコノミストの私にも興味あるところです。ただし、本書を読み解くにはそれなりの水準の知識が必要で、私は必ずしも十分に理解したと主張するだけの自信はありません。

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次に、イアン・スチュアート『世界を変えた17の方程式』(ソフトバンク・クリエイティブ) です。本書と次の『円周率のあるんだ道』は数学書です。まあ、タイトルを見れば分かると思います。著者は英国ウォーリック大学数学部教授で、入門書を多く出版しています。本書はかなり難しい内容で、基本的に、物理学や化学や生物学などの自然科学系への数学の応用なんですが、最後の17番目にはブラック・ショールズ方程式も経済学を代表して登場しています。また、ベル・カーブの正規分布を表す方程式も統計学を通じて経済学との関係が深いといえます。物理学ではなんといっても、相対性理論を表す E=MC2 が13番目に登場しますし、波動方程式、ナヴィエ・ストークス方程式、シュレーディンガー方程式など、超有名な方程式のオンパレードです。なお、誠に残念ながら、私は「シュレーディンガーの猫」については、何度聞いても読んでも理解できません。直感的に理解する方法はないんでしょうか。また第16章ではカオス理論が取り上げられており、カオスとランダムは異なるということを主張しています。私は当然だと思うんですが、まだカオスとランダムを混同する科学者もいるのかもしれません。なお、私は地方大学に出向している時にランダム・ウォークに関して簡単に取りまとめた "An Essay on Random Walk Process: Features and Testing" と題するエッセイを紀要論文として刊行しています。ご参考まで。本題に戻って、経済学でも物理学でも、余りにノイズの多いマクロあるいはミクロの現実に観察された系をノイズを除去した方程式、あるいは、連立方程式体系でモデルとして構成することほどラクなことはありません。外国語が不得意な私にも数学を言語として用いることが可能ですから、数学は今後も大いに応用されることと思います。また、本書では現在というか、最近まで、数学の方程式は連続かつ無限の仮定の下で発展して来たが、コンピュータの進歩などにより離散かつ有限の数学に、別の言葉を私なりに選ぶと、紙と鉛筆でアナリティカルに方程式を解く数学から、コンピュータでリカーシブに解く数学に取って代わられる可能性を示唆しています。これについては私も同意すると思います。

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最後に、上野健爾『円周率が歩んだ道』(岩波現代全書) です。著者は京都大学理学部の名誉教授で、もちろん数学を専門としています。『世界を変えた17の方程式』と違って、西洋中心の数学観ではありません。すなわち、日本は言うに及ばず、中国、イスラム、インドなどにおける円周率のお話が盛り沢山です。ただし、円周率ですから、どうしてもストーリーの中心はアルキメデスから始まって、ニュートンとライプニッツの微積分の誕生を見た近代欧州になります。それにしても、そろばんという前近代においてはとてつもなく強力な計算機を持っていた我が国が、そのために数学の理論的な展開に遅れを来たし、技術的な解法に先進性を示した、というのは分かる気がします。円周率については、その昔にコンピュータのマシン・パワーを計測するためのプログラムがありました。(0, 1)の区間で乱数を発生させて、2組の乱数をカーテシアン座標にプロットし、それらの原点からの距離を計測し、1より大きいかどうかで再帰的に円周率を求めるものです。それでも10桁くらいまでの円周率を得るのは難しくありませんでしたが、この手法はあくまで確率的に円周率を求めるものであり、解析的に式を解いて行く手法ではありません。ですから、コンピュータのない世界では使えません。最後にどうでもいいことながら、7月22日のエントリーで鈴木光司『エッジ』がシャーリイ・ジャクスン賞を受賞したことを取り上げましたが、この『エッジ』は物理学ホラーで、円周率の値が小数点以下何桁かからゼロが続き出して、実は円周率は無限に続くわけではない、とか、リーマン予想が崩れた、とかから地球と宇宙の崩壊が始まり、突如として人間が消失します。円周率が無限小数の無理数ではない世界とはホラーなのかもしれない、と思ってみたりしました。いささか数式の展開や背理法を用いた数学的な証明が多くて、専門的な知識ない場合は無意識的な拒否反応を示す向きもなくはなさそうな気がしますが、そのあたりを飛ばして読んでもとても良質な教養書だと思います。

先週後半の夏休みから、あまり新刊書は読まずに、森博嗣のミステリとか、高田郁の時代小説とかの文庫本をツラツラと読み返したりしていました。わずかに3冊ばかりですが、国際問題と数学の教養書の読書感想文でした。

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