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2013年10月 5日 (土)

アセモグル & ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』とジンガレス『人びとのための資本主義』ほか

今週読んだ学術書や専門書はアセモグル & ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』上下 (早川書房) とルイジ・ジンガレス『人びとのための資本主義』(NTT出版) と倉重篤郎『小泉政権 1980日』上下 (行研) です。延べで数えると5冊だったりします。

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まず、アセモグル & ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』上下 (早川書房) です。著者のアセモグル教授は新進気鋭のMITのエコノミスト、ノーベル経済学賞よりも難しいと言われるジョン・ベイツ・クラーク・メダルの受賞者であり、ロビンソン教授はハーバードの政治学教授です。本書の論旨は極めて明快です。すなわち、包括的 inclusive な政治的・経済的制度の下では経済成長が実現されて国民は豊かになる一方で、収奪的 extractive な制度の下では経済成長は実現されない、という制度決定論です。ただし、制度と経済的な成果の間には何らかのインタラクティブな作用を認め、マルクス主義的な単純な唯物論ではありません。そして、まったく敷衍されていないので私の直感的な理解ながら、包括的とは制度の決定をはじめとする政治・経済への参加が多くのステークホルダーによってなされることであり、収奪的な制度はその逆です。ですから、政治的な民主主義と経済的な市場による資源配分の重要性がインプリシットに強調されています。ただし、悲しいかな、この制度をどのように政策的に創り上げるか、という点についてはまだ研究は進んでいません。すなわち、本書の表現を借りれば、産業革命はイングランドで始まったのであり、なぜペルーではなかったのか、ということについては完全な解明が出来ているわけではありません。私がいつも疑問に思っている点、すなわち、政治的な民主主義は自然人単位で、すなわち、1人1票で評価されますが、経済的には自然人単位ではなく経済効率単位で、すなわち、市場における購買力の大きさで評価されますが、この点は少なくとも同一ではないと私は理解しているところ、本書では必ずしも私の疑問には答えてくれていません。また、最後の明治学院大学稲葉教授による解説では、本書は経済史というよりも開発経済学の書として扱われていて、このブログでも紹介した最近の開発経済学の優れた成果、コリアーの一連の著書、バナジー/デュフロ『貧乏人の経済学』、イースタリーの一連の著書、サックスの本などと並べて評されていますが、やや疑問が残ります。本書は狭い範囲で限定を付すことなく、より総合的な経済書として評価すべきです。いずれにせよ、極めて水準の高い労作です。多くのメディアで書評が取り上げられており、今年の経済書のベストテンに入ることは間違いなく、読書人としては読んでおくべきと考えます。

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次に、ルイジ・ジンガレス『人びとのための資本主義』(NTT出版) です。この著者は私は知りませんでしたが、イタリア出身の米国シカゴ大学教授だそうです。そして、これも『国家はなぜ衰退するのか』に勝るとも劣らないとても優れた秀作です。リーマン・ショック後の米国をはじめとする資本主義の弱点について書かれた書物としては、私自身はクリントン政権で労働長官を勤めたライシュ教授の『暴走する資本主義』にとても共感したんですが、本書はそれ以上です。クローニー資本主義の弊害、政府をキャプチャして補助金や有利な制度変更を得たり、probusiness でありながら antimarket というか、promarket ではないシステムが作り上げられていくことに対して本書は危機感を表明しています。それに対しては、競争条件の整備や場合によってはロビー活動の制限などの規制の導入も視野に入れて、さまざまな市場論、経済学を展開しています。規制については直感的ながらシンプルな規制を推奨しています。もちろん、こういった promarket な政策に決め手があるハズもなく、著者もやや分裂気味の議論を展開している場合もあります。第2部の9章から10章にかけては、大学生に対する奨学金に競争を取り入れるという右派的な見方を示したり、所得の再分配には反対する姿勢を明らかにする一方で、倫理面を重視するリベラル的な方向性を打ち出したりしています。教育の公共財的な側面を見逃しているというか、市場の失敗の原因となる情報の非対称性や外部効果については認識されているものの、議論の展開の中で公共財という概念が極めて希薄な気がします。従って、あらゆる政府の補助制度を排除するような勢いで論旨が展開されます。また、米国の制度や考え方を中心に議論を進めているので、やや日本人には分かりにくい点もあるかと思いますが、これらを差し引いても、今年の経済書ベストテンに入る可能性も十分あります。先の『国家はなぜ衰退するのか』とともに読んでおくべき本といえます。

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最後に、倉重篤郎『小泉政権 1980日』上下 (行研) です。著者は毎日新聞のジャーナリストです。最近何年かの政権を見ていると、現在の安倍内閣が長期政権の可能性を示しているものの、それを別にすれば小泉政権は最後の長期政権であり、それだけに独自の政策を強力に推し進めた内閣と言えます。エコノミストの目から見て、経済財政諮問会議をツールとして使いこなし、郵政民営化という極めて反対意見の多かった改革を成し遂げました。私も割合と近くからこの内閣にお仕えして、とても印象に残った政策運営でした。やや懐かしく感じられるのは、私が年を取ったせいかもしれません。

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