農業保護のコストはどのような家計が負担させられているのか?
一昨日のエントリーで貿易統計を取り上げた際、貿易における農業保護に関連して、国際協力開発機構 (OECD) のリポート Agricultural Policy Monitoring and Evaluation において、我が国の農業保護が加盟国の中で3番目に手厚いとの結果をグラフも引用してお示ししましたし、これを報じた日経新聞の記事「農家の収入、半分以上は政府支援 OECD」を紹介したりしているんですが、実は、日本経済研究センターから先週10月18日に「農業保護はどの程度家計負担を増やしているか -個票データを用いた主要6品目の影響推計-」と題するディスカッション・ペーパーが発表されています。我が国の農業保護のコストがどのように消費者側で負担されているかについて、コメ、小麦、牛肉、豚肉、乳製品、砂糖の主要6品目について、2004年の総務省「全国消費実態調査」の個票データを用いて検証しています。とても興味深い内容が含まれていると私は考えています。まず、日経センターのサイトから要旨のうち結論となる7点を箇条書きで引用すると以下の通りです。
要旨
- 6品目の消費者負担は1人当たり月額約2000円、年換算では約24,000円になる
- 高齢者世帯など低所得者層ほど負担が重い逆進性がある
- 逆進性は現行消費税よりも大きい
- 逆進性はコメにおいて最も顕著であり、負担額としてもコメが一番大きい
- 牛肉はコメに次ぎ負担が大きいが、高所得者ほど負担が重い累進性がある
- 直接消費分が7割強の効果を占める
- 6品目の農業保護は消費者物価を1%強押し上げている
データや分析方法などの詳細について「専門的に過ぎる」という理由で割愛すれば、要するに上の「要旨」の7点がすべてなんですが、一応、簡単に図表を引用して私が重要と考えるポイントについて取り上げると以下の通りとなります。

まず、ディスカッション・ペーパーの p.14 から 図2 所得10分位別の負担率 (可処分所得比) を引用すると上の通りです。コメなどの基礎的で所得弾性値の低い食料を保護して消費者に負担を求めていますから、所得の低い階層ほど農業保護のコスト負担が重く逆進性が大きい結果が示されています。コメについてはもっとも所得の低い第1分位はもっとも所得の高い第10分位よりも3倍もの負担率となっています。しかも、図表の引用はしませんが、この農業保護のコスト負担の逆進性は消費税の逆進性よりも大きいとの結論が得られています。消費税率に軽減税率を考慮するよりも、農業保護を撤廃する方が合理的であると考えるエコノミストも少なくなさそうです。私もその1人です。

次に、上のグラフはディスカッション・ペーパーの p.17 から 図4 年齢階層別負担率 (可処分所得比) を引用しています。この農業保護のコスト負担の年齢階級別の分布は、何と、高齢者に重くのしかかっています。年齢階級別に分析して経済政策を評価すると、社会保障政策を典型として、高齢者に圧倒的に有利なように設計されている場合がかなり多いんですが、この農業保護のコスト負担は高齢者に不利な結果となっています。高齢者の方がコメなどの基礎的な食料の消費が多かったりする結果なんだろうと受け止めていますが、逆から見れば、シルバー・デモクラシーで圧倒的な政治的パワーを持つ高齢者から農業保護の撤廃は賛同を得やすいテーマともいえます。
貿易における農業保護は極めて小さなグループに利得がある一方で、コストの不利益は広く薄く負担されるように設計されていますが、この分析のように所得階級別や年齢別などで実際に農業保護のコストを誰が負担しているのかが目に見えるようになれば、TPP などの貿易自由化がもっと進みそうな気がします。
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