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2014年1月12日 (日)

最近の新刊書の読書感想文

正月休み明け最近の新刊書の読書感想文です。一応、私の頭の中では新刊書のうちなんですが、人気本であるため図書館で延々と待って借りられた本もあります。そこそこ回って来たと感激していますが、正月休みを終えてドッと返却されたのかもしれません。

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まず、ニーアル・ファーガソン『劣化国家』(東洋経済) です。著者は言わずと知れた人気の経済史学者で、英国生まれのハーバード大学教授です。昨年は同じ著者の『文明』(勁草書房) を読み、この私のブログの9月18日付けの記事で取り上げています。内容としては、昨年2013年10月5日付けのエントリーで取り上げたアセモグル & ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』上下 (早川書房) とかなり共通する部分があります。ファーガソン教授は序章のタイトルである「なぜ西洋は衰退したのか」という問いに対して、民主主義、資本主義、法の支配、市民社会の4つの観点から説き起こして解決策を提示しようと試みています。なお、本書をよりよく理解するために、p.24 で上げられている本に目を通しておいた方がベターです。私はほとんど読んでいましたが、エルナンド・デ・ソト『資本の謎』だけは邦訳を見たことがありません。

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次に、清家篤『雇用再生』(NHKブックス) です。慶應義塾塾長であり、労働経済学の大家の著書です。ただし、著者の専門分野である労働経済学にとどまらず、労働法制や労使関係など、幅広い雇用問題について包括的に取り上げています。新卒一括採用の合理性や解雇規制の緩和への否定的な見解など、経路依存的な雇用慣行を引合いにして、ある意味で、パングロシアンな議論を展開しているように見えかねませんが、私のような雇用を重視するエコノミストから見れば、十分に常識的で世間一般の受止めからからしても違和感のない内容ではないかと考えています。雇用については「岩盤規制」という表現がなされるように、日本経済の構造改革のために極端な議論も必要とされる場合も否定しませんが、他方に、この本のような常識的な議論もバックグラウンドに留保しておくことも重要だと考えています。

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次に、村上春樹編訳『恋しくて』(中央公論新社) です。これまた、編者は我が国を代表する小説家で、日本に限らず世界を通じてノーベル文学賞に最も近い作家の1人といえましょう。編者が書き下ろした作品を含めて、10編のラブ・ストーリーが編まれています。最初の方にある「ニューヨーカー」などから取られた若い人たちのストレートなラブ・ストーリーが私には分かりやすかったですが、「恋と水素」と題する飛行船ヒンデンブルク号の事故に題材を取ったゲイの男性間のラブ・ストーリーも興味深いものがありました。映画にもなったタイタニック号の事故を、ちょっと思い出させるものがあります。もっとも、タイタニックほどは時間的な余裕はなかったと想像しています。繰返しになりますが、若い恋人達のストレートなラブ・ストーリーに私はひかれるものを感じました。どうでもいいことかもしれませんが、竹久夢二調の表紙には評価が分かれるところかもしれません。私の評価はやや低いといえます。

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次に、ジョン・アーヴィング『ひとりの体で』上下(新潮社) です。私はこの作者の作品は大好きで、昨年2013年3月20日の記事では前作である『あの川のほとりで』上下 (新潮社) を取り上げています。この最新作は表紙を見てインスパイアされる通り、ゲイとかバイセクシュアルをテーマにしています。それに、この作者らしく、演劇とレスリングが関係して来ます。まあ、この作者の代表作である『ガープの世界』を思わせるものがあるわけです。日本語版ではページ数の半分近く、上巻ほとんどすべてが、主人公の通った男子単学のプレップ・スクール時代の物語であり、最後は60代後半まで語りは続きますが、かなりの程度に青春物語としても読めるんではないかと思います。昨年暮れ12月29日付けのエントリーで @nifty 何でも調査団から「学生時代についての本音・実態調査」を取り上げ、高校生のころが学生時代としては1番楽しかった、との結果を示しましたが、私も6年間一貫制の男子単学の中学校・高校に通っていましたので、分かる気がします。少し物足りない可能性があるのは、社会全体としてゲイやバイセクシュアルに対する許容度が広がっていく過程を描写し切れておらず、主人公の周囲にとどまった狭い世界しか描けていない、という批判はあろうかと思います。しかし、作者の半自伝的な小説なんですから、そこまでの「大きな物語」を求めるのは酷かもしれません。

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最後に、新刊なのか、既刊書なのか、やや判断に迷うところですが、エラリー・クイーン「国名シリーズ」です。角川文庫から上の画像にある5冊まで新訳が出版されています。ただし、私はまだ読み始めたところであり、これらの5冊をすべて読んだわけではありません。実は、この「国名シリーズ」10冊すべてを中学生から高校生のころに読んだ記憶があります。1960年前後に翻訳された創元推理文庫版ではなかったかと思いますが、40年近く前のことですので記憶力の限界を超えて中身はほとんど覚えていません。「国名シリーズ」の中でも評価の高い『エジプト十字架』、『ギリシア棺』、『オランダ靴』が新たに翻訳されましたので、近くの図書館で一気に借りました。この先、『アメリカ銃』、『シャム双生児』、『チャイナ橙』、『スペイン岬』、『ニッポン樫鳥』と新訳が進むことを期待しています。なお、最後の作品は「国名シリーズ」には入らないとの説もありますが、私は詳しくありません。私の場合はすでに忘却の彼方なんですが、その昔の創元推理文庫版と新訳の角川文庫版では、かなり言葉遣いなんかが違うので、ゴッチャにして読まない方がいい、とミステリ好きの友人から聞きました。何らご参考まで。

つい昨日から今日にかけて、長らく図書館の待ち行列に並んでいた横山秀夫『64』(文藝春秋) と、タイミングよく新刊書が図書館に入荷されたところでゲットできた青山七恵『めぐり糸』(集英社) を借りることが出来ました。今週の読書はエラリー・クイーンの「国名シリーズ」を押しのけて、この2冊が中心になりそうです。

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