米国の貧困と経済的不平等はどのように認識されているか?
昨日、米国の非営利民間調査機関であるピュー・リサーチ・センターから米国における貧困や経済的不平等に関する意識調査結果 Most See Inequality Growing, but Partisans Differ over Solutions が発表されています。米国の代表的なメディアのひとつである USA TODAY との共同調査です。我が国でも貧困問題や経済的な不平等の問題は年を追うごとに深刻化していると認識されていますので、貧困や格差の問題で米国の国民意識は、エコノミストとして興味あるところです。まず、ピュー・リサーチ・センターのサイトからリポートの最初のパラをサマリー代わりに引用すると以下の通りです。
Most See Inequality Growing, but Partisans Differ over Solutions
There is broad public agreement that economic inequality has grown over the past decade. But as President Obama prepares for Tuesday's State of the Union, where he is expected to unveil proposals for dealing with inequality and poverty, there are wide partisan differences over how much the government should – and can – do to address these issues.
引用したサマリーにもありますし、何よりもリポートのタイトルが明らかに示している通り、政党支持、というか、政治的な立場を超えて貧困の広がりや経済的不平等の深刻化は共通に認識されているんですが、政治的な立場に従って、支持する解決方法は異なっています。今夜のエントリーでは図表を引用しつつ、貧困や経済的不平等に関する米国の国民意識の調査結果を簡単に紹介します。なお、この調査結果は pdf ファイルでも提供されています。

まず、上の画像の前に、リポートには "Partisans Agree Inequality Has Grown, But Differ Sharply over Gov't Action" という表がありますが省略しています。タイトル通り、経済的不平等の進行は政党支持により違いはない、という結果を得ている表です。民主党支持層も共和党支持層も、過去10年間で富裕層が他の階層に対して不平等の度合いを高めている点については、ともに60%超が肯定しています。両党支持者の間で平均的な差は7%ポイントしかありません。しかし、"Wide Partisan Gap over How Best to Reduce Poverty" と題された上の表の通り、貧困削減や格差是正のために政府が何らかの行動を取るべきかどうかは共和党と民主党の両党支持者の間で大きな差がある、ということになります。当然、民主党支持層は政府の行動を支持し、共和党支持層は政府の介入を嫌います。なお、上の表は今回の調査結果のもっともコアになるものです。例えば、この調査結果を報じたハフィントン・ポストのサイトでもこの表が引用されています。

次に、"More Republicans, Independents Favor Gov't Action on Poverty than Inequality"、すなわち、貧困削減や格差是正に対して政府が行動すべきかどうかについて、政党支持別に意識調査した結果は上の表の通りです。タイトルの通り、共和党支持者に比べて、民主党支持者や独立系は貧困削減に関しても、格差是正に関しても、いずれも政府が行動を起こすべきと考えています。ただし、少なくとも貧困削減に関しては共和党支持者も A lot/Some の合計が大きく過半数を超えている点は忘れるべきではありません。格差是正についても貧困削減には届きませんが、共和党支持者の間で A lot/Some の合計が過半数に近い点は見逃すべきではありません。両党の支持者の間で貧困削減や格差是正に対応する政府の行動について差があることは確かですが、政府の行動へのサポートが民主党支持層と比べて相対的に少ない共和党支持者の間でもそれなりに政府の行動を求める声は存在することを理解すべきです。すなわち、民主党支持者が貧困や格差問題への政府の行動を求める一方で、共和党支持者が政府の不介入一辺倒であるとの間違ったイメージは払拭されるべきだと私は考えています。

引用の最後に、リポートから "Does Hard Work Lead to Success?" の結果グラフを引用すると上の通りです。2000年調査をピークに年を追って落ち続けて来たんですが、今年の調査では少し上昇しました。いずれにせよ、ほぼ60%以上ですので、米国らしく健全と私は受け止めています。ハードワーク、勤労が成功に導く鍵であることは当然ですが、経済社会環境などで貧困に陥ってしまった国民に対するセーフティネットも必要です。逆から見て、まじめに労働や勉強に努力しなくても政府が過剰に所得を保障するのは好ましくない面がある一方で、政府が貧困削減や格差是正に何の政策も持たずに国民個々人の努力の結果をそのまま受け入れることも適当ではありません。また、引用した図表以外にも、個人の努力を重視するか、個人を取り巻く環境を重視するか、と言った質問に対して、政党支持別のほかに所得階級別などの意識調査結果も示されています。かなり常識的な結果だと私は受け止めています。
何度もこのブログで繰り返しているように、私は雇用を重視するエコノミストとして、政府は国民に質の高い雇用を提供して所得を得る条件を整備しつつ、貧困に陥った場合のセーフティネットを準備し、社会的に受け入れられないような格差を是正する仕組みを用意することが求められています。米国でも日本でも、もちろん、別の国でも、程度の差はあるかもしれませんが、この原理は同じことだと思います。
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