先週の読書から
先週の新刊書の読書感想文です。年度末で仕事は忙しいんですが、図書館からかなり借り出しています。何と、経済書がゼロになってしまい、ほとんどすべてがエンタメの小説ばっかりです。
まず、ジェフリー・ディーヴァー『シャドウ・ストーカー』(文藝春秋) です。原題は XO といい、キスとハグ、すなわち親密さを表します。実は、私は XO ではなく、XOXO とダブルで続くメールをよく知り合いの米国人からもらったりしています。それはともかく、私はこの作者のリンカー・ライムのシリーズとキャサリン・ダンスのシリーズは邦訳されている限りで、少なくとも長編はすべて読んでいると思いますが、本書は後者のキャサリン・ダンスのシリーズ最新作です。ライムがニューヨークで物的証拠をかき集めて推理を働かせている一方で、ダンスは「人間嘘発見器」と呼ばれるようにキネシクスを駆使してカリフォルニアで事実を明らかにしていきます。本作ではカントリー音楽の売れっ子歌手に対するストーカーと殺人事件の関係を解き明かします。この作者の独特のどんでん返しが楽しめますが、やや、このどんでん返しもマンネリになってきたような気がします。なお、ライムのシリーズの『ウォッチメイカー』でダンスがこの作者のミステリに初登場するんですが、この『シャドウ・ストーカー』では逆にライムが登場して、所轄警察の鑑識課長から神のごとくに崇め奉られたりします。なお、作者の最新作は、私の知る限り、ノンシリーズの October List 及びリンカーン・ライムのシリーズの The Kill Room と The Skin Collector がすでに米国で出版されたか、もうすぐ出版されるかというタイミングとなっており、私も邦訳されるのを楽しみに待っています。
次に、吉田修一『怒り』(中央公論新社) 上下巻です。読売新聞の連載を単行本として出版しています。八王子の殺人事件の犯人が整形手術の上で逃亡している、という設定で、おそらく市橋達也の事件をモデルにしているんだろうと私は受け止めています。そして、犯人に見立てられるのが、房総の漁港にフラリと現れた男、東京でゲイのエリート広報マンに拾われた男、沖縄の離島にキャンプするように住み始めた男、の3人です。それぞれに謎の部分を有する男たちであり、真犯人以外の2人についての謎は作品の中で明らかにされて行きます。しかし、真犯人の謎の部分は最後まで解明されません。もちろん、出発点になった八王子の殺人事件の謎も不明のままに終わります。その点はやや不満が残らないでもありませんが、この作者の作品はハズレがありません。この作品もとてもいい出来に仕上がっています。特に、下巻に入ってからは一気読みでした。出版社のセールストークのように『悪人』に匹敵する作者の代表作とまではいいませんが、さすがに売れっ子作家らしく、『平成猿蟹合戦図』くらいにはいい出来で、最近の『太陽は動かない』や『路』よりは私の評価は高いといえます。ただし、誠に恥ずかしながら、『愛に乱暴』はまだ読んでいません。最後に、どうでもいいことながら、この作者の最高傑作は今でも『横道世之介』だと私は考えています。もっとどうでもいいことながら、三浦しをんの代表作も『風が強く吹いている』だと思っています。要するに、大学生が主人公の青春小説が私は好きなんだろうと思います。
次に、桐野夏生『だから荒野』(毎日新聞) です。実は、私はこの作者の作品は初めてか、とても久し振りだという気がします。コチラは毎日新聞の連載を単行本として出版しています。まずまず高給取りのエリート広報マンの夫と大学生と高校生の2人の男の子を抱える家庭の専業主婦が、自分の46歳の誕生日に突然、傲慢で身勝手な家族から離れ「荒野」に向かってしまいます。東京から自動車で西へ向かい、最西端は長崎ということになります。ある意味では、小学生レベルの家出なのですが、主人公は家に帰るつもりがないので家出ではないと主張し、また、読売新聞の書評欄で角田光代さんがこの小説を評して、「逃亡」と表現しています。まずまず要領よく人生を生きる大学生の長男とイマイチの出来でネトゲにハマり込む次男の対比も鮮やかに描き出されています。難点をいえば、その次男が長崎に母を追う心境の変化はもっとていねいに書いて欲しかった気がします。最後は東京に戻るのは現実問題として仕方のない結末ながら、やっぱり難点なんですが、もうひと捻り欲しかった気がします。いずれにせよ、我が家と家族構成その他が似ていなくもないので、なかなか興味深く読むことが出来ました。
最後に、相場英雄『ナンバー』と『トラップ』(双葉社) です。私はこの作者の作品のうちで読んだのは『震える牛』だけだと思いますが、『デフォルト』という作品の出来がいいと聞いたことがあります。『ナンバー』と『トラップ』はこの順でシリーズになっており、経済犯や知能犯を追う警視庁捜査2課の西澤刑事を主人公にしています。両作品とも読切りにちかい短編4篇をそれぞれ収録していますが、微妙につながっていたりします。でも、シリーズ2冊を合わせて長編と見ることは出来ますが、各作品で長編ではないような気がします。『トラップ』の最後の短編が「トラップ」であり、主人公の西澤とその上司の何人かはミスにより所轄などに左遷されます。ですから、あるいは、2冊でシリーズが終わるのかもしれません。もっとも、誉田哲也の「ストロベリー・ナイト」のシリーズは姫川班がバラバラにされた後も続いていますので、このシリーズも続くのかもしれません。私にはよく分かりません。
今週の読書は、花粉の季節が本格化して自転車で遠くの図書館まで出かけなかったこともあり、たぶん、旧刊の文庫本などを読んで過ごしそうな気がします。大きな期待は出来ません。
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