経済協力開発機構 (OECD) の「経済見通し」 Economic Outlook No.95
昨日5月6日、閣僚理事会の開催を受けて経済協力開発機構 (OECD) から「経済見通し」 Economic Outlook No.95 が公表されています。来年2014年における先進国の成長率見通しを概観すると、我が国が前回の+1.5%成長から+1.2%に下方修正され、米国も+2.9%から+2.6%に下方修正された一方で、ユーロ圏欧州は逆に+1.0%から+1.2%に上方修正されています。2015年については、+0.1から+0.2%ポイントの小幅ながら、日米欧ともそれぞれ上方改定されており、総じて先進国では堅調な成長が続くとのシナリオが示されています。他方、非加盟国ながら、例えば、中国では2014年の成長率が+8.2%から+7.4%に大きく低下するとともに、2015年もわずかに下方改定と見込まれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
日本は1.2%成長、OECDが予想下方修正
経済協力開発機構(OECD)は6日、日米欧などの経済見通し(エコノミックアウトルック)を公表した。2014年の日本の実質国内総生産(GDP)成長率を前年比1.2%増と、前回の昨年11月の時点から0.3ポイント下方修正した。15年については1.2%増と0.2ポイント上方修正した。
OECDは、日本の輸出が新興国経済の停滞で減速しているなどとして、14年の成長率予測を引き下げた。ただ政府の積極的な財政政策などで、消費税引き上げによる影響は抑制されており、「景気拡大は続く」と予測した。労働市場の逼迫が賃金上昇につながるほか、減税などに支えられ設備投資も増えると見込む。
一方で、財政健全化は「日本の信頼を維持するための最優先事項」と指摘。予定通り15年までに消費税率を10%に引き上げるよう促した。加えて、成長につながる構造改革に取り組むよう求めた。
米国は「速いペースで経済が拡大している」と説明。強い寒波の影響で14年は前回予測より成長率の伸びは小さくなるものの「投資や消費が力強く上向く」と予想した。ユーロ圏は債務危機から「徐々に脱却している」との見解を表明。今後も回復が続くとの見通しを示した。ただ高い失業率や銀行の貸出金利の高止まりなど課題は残ると説明した。
中国については14年、15年とも予測を引き下げたが「持続可能な水準で、悲観的になる必要はない」(玉木林太郎事務次長)という。
国際機関のリポートを取り上げるのはこのブログの大きな特徴のひとつであり、実は私の方ではこのリポートの全文を入手しているんですが、今夜のエントリーでは、記者発表で配布された資料と個別に発表されたリポートの第1章 General Assessment of the Macroeconomic Situation から図表を引用しつつ、日本経済に関する事項を中心に簡単に紹介しておきたいと思います。
まず、上は地域別の成長率見通しの表です。これだけでは情報量が不足するという向きには、上の画像をクリックするとリポート本文 p.6 の Summary of projections と題する総括表が別タブまたは別画面で開きます。ということで、極めて大雑把に言えば、昨年2013年から今年2014年、さらに来年2015年にかけて世界経済は順調に成長率を高めるというシナリオが描かれています。例外は、昨年から今年にかけての新興国、特に中国と、今年から来年にかけての日本なんですが、ほとんど、落ち込みというほどの落ち込みを見せるとは考えられていません。なお、OECDでは「BRIICS諸国」との用語で、ブラジル、中国、インド、インドネシア、ロシア、南アフリカを指しており、通常のBRICsにインドネシアと南アフリカを加えています。OECD加盟の先進国では、経済回復が最も顕著だったのは米国であり、成長率は2014年に+2.6%、2015年は+3.5%と予測されています。 ユーロ圏欧州は3年間続いたマイナス成長からプラス成長に転じ、2014年は+1.2%、2015年は+1.7%の成長を示す見通しです。 今年から来年にかけて成長率を大きく高める米欧に比較して、日本では財政再建策を志向した消費増税が実施されることから成長が加速せず、2014-2015年は+1.2%の成長になると見込まれています。
当然ながら、高成長の背景は金融緩和です。上のグラフのうち、特に右のパネルは OECD Financial Conditions Index をプロットしており、数字が大きく、グラフで上にシフトするほど金融が緩和していることを表しています。我が国はかなり引締め的な金融政策スタンスだったんですが、2012年暮れの安倍内閣の成立とアベノミクスの第1の矢あたりから急速に金融緩和の度合いを強め、昨年の黒田総裁の就任からいわゆる異次元緩和が始まり、大きく金融緩和的なスタンスに変更があったことがグラフからも明らかに読み取れます。この金融緩和がアベノミクスを支え、現在までの景気の回復・拡大をけん引していることは忘れるべきではありません。
しかし、目を第2の矢である財政政策に転じると、2011-13年にかけては米欧に比較して我が国の財政がルーズであったことが上のグラフにも示されています。この民主党政権から始まったルーズな財政は安倍内閣に政権交代しても継続されており、民主党政権下の2012年と安倍内閣への政権交代を経た2013年はともに財政再建に逆行する政策スタンスを取っていることが示されています。米欧ではこの2011-13年にかなりの財政再建を成し遂げたことから、今年2014年は財政再建の負担は過去に比べて減少していますが、逆に、日本は過去のルーズな財政政策スタンスの修正を図るため、この4月から消費増税を実行したところであり、ようやく財政再建に大きく舵を切ったといえます。
最後に、政策課題として、米国には金融緩和の縮小とともに雇用創出の強化に取り組む必要性を強調し、ユーロ圏欧州については金融緩和を継続しつつ本格的な銀行同盟を目指すなど銀行部門の健全化を主張している一方で、日本に対しては上のグラフのように金融緩和と財政再建を継続しつつ第3の矢である構造改革の実行を求めています。改めて、なんですが、OECDではアベノミクスの第3の矢は「成長戦略」ではなく、構造改革であると受け止められているようです。私も正しい認識だと思います。財政リソースを割り当てるターゲティング・ポリシーを「成長戦略」と見なさないことは、国際機関として当然です。そして、最後に、下のフラッシュは OECD の Newsroom に置いてあるのに直リンしています。国別の情報を表示するフラッシュです。事情によりサイズは少し縮小してあります。
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