雇用統計と商業販売統計と消費者物価に対していかに消費増税は影響したか?
本日は6月最終の閣議日で、いくつか重要な政府統計が発表されています。すなわち、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計、経済産業省の商業販売統計、総務省統計局の消費者物価(CPI)などが明らかにされています。いずれも5月の統計です。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
雇用22年ぶり高水準 5月有効求人倍率1.09倍
厚生労働省が27日発表した5月の有効求人倍率(季節調整値)は1.09倍と前月から0.01ポイント上がった。改善は18カ月連続で、1992年6月以来、約22年ぶりの高い水準。製造業やサービス業などで求人が伸びた。完全失業率も3.5%まで下がり16年5カ月ぶりの水準になった。雇用需給の引き締まりが賃金上昇を通じ、物価を一段と押し上げる構図になりつつある。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人1人に対して、企業から何件の求人があるかを示す。数字が高いほど仕事を見つけやすい。
5月に受け付けた新規求人数は4.0%増えた。プラスは4年3カ月連続。主要11業種のうち8業種で伸びた。製造業が12.2%増えたほか、教育が11%、サービス業が8.4%それぞれ伸びた。
雇用の逼迫は小売り現場のアルバイトなど非正規社員で先行したが、正社員の需給も改善傾向が鮮明になっている。5月の正社員の有効求人倍率(季節調整値)も0.67倍と前月から0.02ポイント上がり、比較できる2004年11月以来の最高を更新した。需給が釣り合っていることを示す「1倍」は大きく下回るものの、正社員の求人も増えている。
総務省が27日まとめた5月の完全失業率(季節調整値)は3.5%と前月から0.1ポイント改善し、97年12月以来の低い水準となった。完全失業率は15歳以上の働き手のうち、仕事に就かず職探し中の失業者の割合を示す。15歳から64歳の就業率は73.0%と比べられる68年以来で過去最高の水準となった。
雇用者に占める非正規の比率は36.6%と前年同月より0.3ポイント上がった。新たに働き始めた女性や高齢者はパートや嘱託で働くこと多いためだ。
総務省は雇用情勢について「引き続き持ち直しの動きが続いている」とみている。景気回復に伴い求人が増える一方、生産年齢人口の減少で働き手が少なくなっているためだ。人手不足が深刻な外食などの産業では賃金が上がりつつある。企業が膨らむ人件費を商品価格に転嫁していけば、上昇傾向の物価を一段と押し上げる可能性がある。
5月の小売販売額、2カ月連続で減少 家電や自動車で反動減
経済産業省が27日発表した5月の商業販売統計(速報)によると、小売業の販売額は11兆4340億円で、前年同月から0.4%減った。減少は2カ月連続。消費増税前の駆け込み購入に伴う反動で、自動車や大型家電の販売が振るわなかった。
前回の消費税率引き上げ直後の1997年5月(1.4%減)と比較すると下落率は小さい。経産省は「前回の引き上げ時に比べ、反動減からの回復が早い」とみている。
小売業の内訳をみると、普通車や小型車の販売が伸びず、自動車が4.1%減だった。冷蔵庫や洗濯機など消費増税前に駆け込み購入が目立った白物家電の販売が減ったため、機械器具が7.2%減。一方、気温上昇で初夏向けの衣料販売が伸び、織物・衣服・身の回り品が2.7%増だった。
大型小売店は0.5%減の1兆5929億円で、2カ月連続で減少した。既存店ベースは1.2%減。高額品を中心に駆け込みの反動が残り、百貨店は2.1%減。スーパーは0.8%減だった。
コンビニエンスストアは6.4%増の8779億円。たばこには駆け込み購入の反動減が残ったが、気温上昇でアイスなどの販売が好調で、既存店ベースでも1.3%増だった。
同時に発表した専門量販店販売統計(速報)によると、5月の販売額は家電大型専門店は2959億円、ドラッグストアが3808億円、ホームセンターが2955億円だった。
消費者物価5月3.4%上昇 32年ぶり伸び
総務省が27日発表した5月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は値動きの激しい生鮮食品を除く指数が103.4と、前年同月比で3.4%上がった。消費増税が5月支払い分の公共料金に反映され、全体を押し上げた。前年同月比3.5%上昇だった1982年4月以来、32年1カ月ぶりの高い水準になった。
日銀は消費増税の物価押し上げ効果が4月は1.7ポイント、公共料金分が加わる5月は2.0ポイントと推計している。増税の影響を除くと、5月の消費者物価上昇率は1.4%となり、4月の1.5%よりやや緩やかだった。
5月のCPIの内訳を財・サービス別にみると、電気料金は前年同月比11.4%上がったほか、都市ガスは8.9%、プロパンガスは8.1%、上下水道は3.6%それぞれ上昇した。原油高を背景にガソリンも上がっており、エネルギー全体では10.1%の上昇だった。
耐久消費財の値上がりも続いている。ルームエアコンが19.4%、ノートパソコンが15.5%、洗濯機が21.7%それぞれ上がった。サービス分野では、外食が3.0%上がった。サービス全体でも1.8%上がっており、労働需給の逼迫が、サービス価格をゆるやかに押し上げていることをうかがわせた。
全国の先行指標となる東京都区部の6月中旬速報値は生鮮食品を除く指数が102.0と、前年同月比2.8%の上昇だった。上昇幅は4月と同じだった。
いずれもとてもよく取りまとめられた記事なんですが、さすがに、これだけ並べるともうおなかいっぱい、という気もします。次に、雇用統計のグラフは以下の通りです。見れば分かると思いますが、一応、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数のグラフです。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。
4月統計が発表された際にもこのブログに書きましたが、雇用については消費増税のマクロ経済へのネガティブなインパクトをものともせずに改善を続けています。ただし、雇用の先行指標である新規求人については、上のグラフに見る通り、少しもたつきを見せています。失業率については、現状の3%台半ばを自然失業率と見なすエコノミストも少なくないんですが、私はここ1-2年でも十分に3%台そこそこ、すなわち、3.1-3.2%くらいまでは低下する余地があるし、さらに進んで、少し前までの我が国のフィリップス曲線を前提にして2%インフレを展望するならば、失業率が3%を割り込んで2%台にまで低下しても決して不思議ではない、と前々から表明しているところです。なお、雇用の非正規比率は前年同月と比較すれば、引用した記事のように、確かに上昇を見せていますが、季節調整していない原系列の統計ながら、直近では今年2014年2月をピークとして5月まで3か月連続で非正規比率が低下していることも注目すべきです。もっとも、繰返しになりますが、単なる季節的な動きなのかもしれません。昨年1月から取り始めた統計ですから、もう少しデータが蓄積されないと季節変動を除去ないし抽出することは困難です。
季節調整していない商業販売統計の小売業の前年同月比と季節調整した指数のグラフは上の通りです。小売業販売額の前年同月比は4月の▲4.3%減から5月は早くも▲0.4%減まで下げ幅を縮小しました。ただし、同じく個人消費の代理変数と見なされている総務省統計局の家計調査の結果は前年同月比で▲8.0%減と消費増税による大きな反動減がまだ続いています。おそらく、実感はこの商業販売統計と家計調査の間にあるような気もしますが、注意すべきは家計調査が物価上昇を差し引いた実質で表章されているのに対して、商業販売統計は名目である点です。名目で前年同月比が▲0.4%減ですから、後に見る消費者物価の上昇を差し引いた実質では▲4%減くらいの印象となります。いずれにせよ、その名目でも1997年4月の前回の消費増税の後には、駆込み需要とその後の反動減が一巡する間、すなわち12か月間の長きにわたって前年同月比マイナスが続いたんですが、今回については賃上げや夏のボーナスに伴う所得の状況にもよるものの、早い段階で前年同月比マイナスを脱する可能性があると私は受け止めています。
最後に、消費者物価上昇率の推移は上のグラフの通りです。折れ線グラフが全国の生鮮食品を除くコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のモアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが6月中旬値です。これもいつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。引用した記事にもある通り、消費増税の影響を除いた日銀試算ベースで、4月+1.5%上昇から5月は+1.4%の上昇と、やや物価上昇は緩やかになりました。ただし、これは主としてエネルギー価格の変動によるものであり、今週初めの6月23日の日銀黒田総裁による経済同友会会員懇談会における講演にある通り、「これから夏場に向けては、前年比プラス幅が一旦1%近傍まで縮小する」(p.4)と見込まれていますので、金融政策当局では織込み済みのようです。逆から見て、この程度の上昇幅の縮小では日銀は追加緩和には踏み切らないと私は考えています。
この週末を経て来週月曜日には鉱工業生産指数が、火曜日には日銀短観が公表されます。消費増税直後の経済指標はこれで一巡したこととなり、8月の1次QE、9月の2次QEを経て、来年10月1日からの第2段階目の消費増税の議論が進むことと私は予想しています。
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