法人企業景気予測調査と企業物価に見る消費増税の影響やいかに?
本日、財務省から今年4-6月期の法人企業景気予測調査が、また、日銀から5月の企業物価指数 (CGPI) が、それぞれ公表されています。法人企業景気予測調査については日銀短観ほどではないものの、企業マインドを把握できる指標として消費増税後の企業マインドの方向が注目されているところですが、大企業全産業の景況判断指数(BSI)でみて、1-3月期の+12.7から大きく悪化し、4-6月期には▲14.6と6四半期ぶりにマイナスをつけました。CGPIも4月に上昇した後の5月の動向が気にかかるところですが、国内物価の前年同月比上昇率で見て、4月の+4.2%から5月は+4.4%に上昇幅を拡大しました。まず、それぞれ頭系のヘッドラインを報じた記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
4-6月の大企業景況判断、マイナス14.6 7-9月はプラス13
内閣府と財務省が11日発表した4-6月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況感を示す景況判断指数はマイナス14.6だった。マイナスは2012年10-12月期(マイナス5.5)以来、6期ぶり。消費税率引き上げ後の反動で、幅広い業種で景況感の悪化が目立った。3月の前回発表時点での4-6月期見通し(マイナス9.8)から悪化した。
指数は自社の景況が前の期と比べて「上昇」と回答した企業の割合から「下降」の割合を差し引いて算出。消費増税を前にした1-3月期の大企業全産業の景況感はプラス12.7だった。
大企業のうち製造業はマイナス13.9と、5期ぶりのマイナス。自動車本体や同関連部品メーカーなどで景況感が悪化した。一方、非製造業はマイナス15.0で、マイナスは6期ぶり。住宅関連や衣料品などの卸売業、家電や自動車を取り扱う小売業などを中心に悪化が目立った。中小企業の景況判断指数は全産業でマイナス21.5だった。
一方、7-9月期の見通しでは大企業全産業がプラス13.4と改善に転じ、2004年4-6月期の調査開始以降で最高水準となる見込み。製造業はプラス16.0、非製造業はプラス12.1へと上向く。中小企業は7-9月期はマイナス3.7だが、10-12月期の先行きではプラス1.6を見込む。
14年度の設備投資計画(ソフトウエアを含む)は全産業で前年度比4.5%増だった。3月の前回発表時には5.1%減を見込んでいた。企業業績が上向いていることを受け、設備投資マインドに改善の動きがみられるようだ。このうち製造業は10.8%増で、半導体や自動車関連で設備増強や更新意欲が高い。一方、非製造業は1.5%増。不動産業で大型商業施設やオフィスビルの開発や、鉄道関連で安全投資を検討する企業が目立った。
調査は資本金1000万円以上の1万6192社を対象に実施し、回答率は80.0%。調査基準日は5月15日だった。
同調査は日銀が7月1日に発表する企業短期経済観測調査(短観)の内容を予測する手掛かりとして注目される。
5月の国内企業物価、4.4%上昇 5年7カ月ぶり高い伸び
日銀が11日発表した5月の国内企業物価指数(2010年平均=100、速報値)は106.1と、前年同月比で4.4%上昇した。エネルギー価格が高騰した2008年10月(4.5%上昇)以来5年7カ月ぶりの高い伸びとなり、市場予想の中心値(4.1%上昇)を上回った。消費税を除いたベースの上昇率も1.6%と前月(1.5%)をわずかながら上回った。4月の消費増税後も、需給の引き締まりで幅広い品目での値上がりが続いている。
企業物価指数は出荷や卸売り段階など企業間で取引する製品の価格水準を示す。全820品目のうち、前年比で上昇した品目は435、下落した品目は302。上昇が下落を上回るのは9カ月連続。円安一服で物価押し上げ効果が和らぐなか、上昇が続く状況について日銀は「需給の引き締まりで価格が落ちにくくなっている」とみる。
消費税を除くベースで項目別にみると、再生可能エネルギーの買い取り制度に伴う家庭の負担金の増加で「電力・都市ガス・水道」が前月に比べ上昇、物流や観光需要の高まりで「石油・石炭製品」も値上がりした。一方で、「農林水産物」、「情報通信機器」は値下がりした。
円ベースの輸出物価は前年比0.8%下落、輸入物価は0.7%上昇した。
統計が2本あるので、かなり長くなってしまいましたが、いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIをプロットしています。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と青の折れ線の色分けは凡例の通りです。影をつけた部分は景気後退期を示しています。これは企業物価上昇率のグラフも同じです。

言わずもがなで、消費増税前の駆込み需要で1-3月期に+12.7とプラスを記録していた大企業全産業の景況判断指数BSIは、消費税率が引き上げられた4-6月期にはドンと▲14.6まで落ちました。6四半期振りのマイナスを記録したわけですが、BSIのマイナスは続かず、早くも7-9月期には+13.4と大きくプラスに回帰すると見込まれています。引用した記事にもある通り、7-9月期の大企業ではやや製造業のマインドがよく、製造業BSIは+16.0、非製造業BSIは+12.1と見込まれています。中堅企業も水準は少し大企業よりも低いものの、四半期で見てプラスとマイナスの符号は大企業と同じですし、また、中小企業では7-9月期までBSIのマイナスが続くものの、10-12月期にはプラスに転換すると見込まれています。設備投資についても3月調査時点では本年度マイナスと計画されていたんですが、今回の調査では企業業績の改善などからプラスに転じています。現時点でこの統計のBSIや設備投資計画から企業マインドを推し量る限り、総じて、消費増税の影響は限定的で想定の範囲内と考えてよさそうです。ただし、売上げは下期にならないと回復を示さないと予想されているようです。

続いて、企業物価上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内と輸出入別の前年同月比上昇率を、下のパネルは需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。消費増税から2か月が経過した5月時点の企業物価は、早くも4月から上昇幅を拡大しています。すなわち、国内企業物価の前年同月比で見て、3月に+1.7%まで達していた上昇率が、4月には消費増税に伴う一時的な需給ギャップの悪化から消費税を除くベースで+1.5%に上昇幅を縮小させた後、5月には同じベースで+1.6%に上昇幅を拡大させています。ただし、4月から5月に向けて前月比で上昇した寄与が大きい項目が、電力・都市ガス・水道と石油・石炭製品ですから、景気の拡大に伴う需給の引締りから価格上昇圧力が生じているのかどうかはまだ疑問が残ります。もちろん、電力・都市ガス・水道といった公共料金を別にすれば便乗値上げの可能性も否定できません。ただし、長らくデフレが続いた後で、消費増税も含めて前年同月比で+4.4%の国内企業物価の上昇はかなり大きいと言わざるを得ず、これが川下の消費者物価に波及して行くわけですから、需給の引締りというディマンドプル要因だけでなく、コストプッシュ要因による物価上昇が受け入れられやすくなっているのは確かなんだろうと受け止めています。
今週に入ってから公表された消費者態度指数や景気ウォッチャーの消費者マインドも5月に大きく改善を示しましたし、企業マインドも年央以降に改善すると見込まれており、物価が徐々に上昇する中で、景気が拡大してお給料が上がる世界を早く取り戻したいと思います。まだ統計に出て来ていないのは、後はお給料だけかもしれません。
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