今週の読書は直木賞受賞の『破門』ほか
今週の新刊書の読書はベン・スティル『ブレトンウッズの闘い』、直木賞受賞の黒川博行『破門』ほか、以下の通りです。夜の日本シリーズが気になりますので、手短に取りまとめておきたいと思います。
まず、ベン・スティル『ブレトンウッズの闘い』(日本経済新聞社) です。著者は米国の外交問題評議会に所属する研究者、というかエコノミストです。外交問題評議会とは外交誌『フォーリン・アフェアーズ』の刊行で有名です。今週は、次の本も合わせて2冊のケインズ本を読んだんですが、本書は米国人エコノミストの立場から、第2次大戦後の1970年代初頭まで四半世紀余り続いたブレトンウッズ体制の成立、すなわち、米ドルの金為替体制下でのアジャスタブル・ペッグの固定相場制、国際通貨基金(IMF)や世界銀行といった国際機関の創設、などの歴史をひも解いたドキュメンタリーです。米英の両巨頭、すなわち、当時のルーズベルト米国大統領とチャーチル英国首相とともに、交渉の舞台で主役を務めたのは米国代表のホワイトと英国代表のケインズであり、いろいろと興味深いエピソードとともに、現在まで残る米ドル本位制などの国際金融システムに対する見方も養えるようになっています。なお、米国のホワイトは本書では、徹頭徹尾、当時の だったという著者の見方が示されています。以下のリンクは日経新聞の書評です。ご参考まで。
次に、ロジャー E. バックハウス/ブラッドリー W. ベイトマン『資本主義の革命家 ケインズ』(作品社) です。著者は世界的に著名な経済学史家とケインズ研究者であり、経済分析や経済政策策定だけでなく、哲学や芸術といった多方面からケインズの見方というものを明らかにし、リーマン・ショック以降の混迷の続く現代においてケインズ経済学について再考をした論考です。18世紀にスミスの『国富論』で成立した古典派経済学に対して、19世紀ないし20世紀に修正を試みた大きな動きは、いうまでもなく、マルクスとケインズです。私の理解によれば、いずれも資本制生産における過剰生産恐慌という不況を和らげることを目標とし、マルクスは生産手段の国有化と計画経済により市場による資源分配を停止することにより景気循環を抑止する提案をしたのに対し、ケインズは市場による資源分配を維持したままで財政政策と金融政策による景気循環の平準化を目指しているのが特徴です。マルクス経済学に基づく社会主義経済が20世紀末に破綻しましたが、すでに1970年代初頭の石油危機時にケインズ経済学も不況下のインフレというスタグフレーションで疑問視されながら、結局、今世紀初頭のリーマン・ショックで見直されたりしています。結局のところ、古典派経済学的に市場そのままに放置すれば最適な経済パフォーマンスが保証されるわけでもなく、何らかの市場に対する政府の介入が求められるという点については、ほぼすべてのエコノミストが同意するんではないかと私は考えています。その基礎となるケインズの経済学を取り上げた良書だと思います。
次に、橘木俊詔『ニッポンの経済学部』(中公新書ラクレ) です。著者は京都大学や同志社大学の教鞭を取った経済学者であり、格差に対するリベラルな対応や教育経済学の視点などで著名なエコノミストです。私自身が経済学部を卒業していますから、それなりに楽しく読み進みました。私の実感としては、経済学部はそれほど勉強しなくても、そこそこお給料のいい職を得られて、コストパフォーマンスは悪くないように感じられます。ということで、本書は「どうして経済学部制は勉強しないのか?」の問いから説き起こして、3章に渡る経済学部の盛衰記で旧制の帝大流のマルクス主義経済学と高商流の近代経済学を巧みに比較し、海外との比較に基づくアメリカンPh.Dの値打ちやビジネス・スクールの可能性にも話題を広げています。ノーベル経済学賞の傾向を含めて、経済学になじみのない読者にも分かりやすく、経済学部卒業生には耳の痛い話題も含めて、いろいろと面白おかしく論じています。通勤の往復で読み切ることのできるボリュームだという気がします。一応、念のため、70歳を超えた著者の新書ですので、我田引水的な「勝手な言い草」は我慢して読み進むべきです。
次に、黒川博行『破門』(角川書店) です。ご存じ、直木賞受賞作であり、作者の「疫病神」シリーズの最新作です。二蝶会の桑原と建設コンサルタントの二宮のコンビで話は進みます。資金を持ち逃げされて追いかける、というのがこのシリーズの定番なんですが、今回は映画作成の資金を持ち逃げされます。マカオまで追いかけてカジノに行ったり、基本的に、私には新味はありませんでした。5作目にしてマンネリ気味に受け止めて読み終えた気がします。それと、ヤクザが好きになれない、というか、行動パターンや思考方向がカネしかありませんので、市場原理主義エコノミストよりもさらに単純にカネを追いかけますから、これもマンネリ化する一つの要因ではないかと考えています。でも、今回はタイトル通りに、最後に桑原が二蝶会から破門されます。同じ作者の堀内・伊達シリーズは警察を辞めてからも2作目が続いたんですが、この疫病神シリーズも続くんだろうと思います。
最後に、藤崎翔『神様の裏の顔』(角川書店) です。作者はお笑い芸人を数年やった後、この作品で横溝正史賞を受賞して作家に転身だそうです。ストーリーは、「神様」とまで呼ばれて校長にまでなった人徳者の中学教員が亡くなったお通夜の夜を舞台に、残された故人の娘と会葬者、すなわち、喪主の娘、隣人、同僚教員、教え子などがそれぞれ故人に関して独白することにより進みます。人格高潔な教育者と考えられていた故人に対して、ストーカーや果ては殺人までのさまざまな疑惑が持ち上がり、それらを子細に検討する中で、意外な事実が明るみに出る、という作品です。老若男女数人の独白で物語は進みますが、話し言葉がキチンと書き分けられており、作者の力量を感じました。ストーリーの進み方と結論は特に新鮮味はないんですが、逆に、手堅い印象もあります。第2作が楽しみです。
来週末も11月3日の文化の日で3連休になる人も少なくないような気がします。今年の秋は連休が多くて、読書も進みますし、日本シリーズも楽しめます。
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