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2014年10月11日 (土)

今週の読書は加速度センサでデータを集める『データの見えざる手』ほか

今週の読書は経済書はなく、専門書・教養書が2冊のほかは小説が多くなっており、以下の通りです。

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まず、矢野和男『データの見えざる手』(草思社) です。ウェアラブルな加速度センサーに記録されたデータから、人間の肉体的な活動はもちろん、精神的なハピネスまですべてが解明できるとする論考です。著者は日立製作所の研究者です。この分野で私が覚醒したのはダンカン・ワッツの『偶然の科学』を読んだ経験であり、2012年2月27日のブログに読書感想文をアップしてあります。しかし、本書は『偶然の科学』を大きく超えるものであり、腕の動きが著者の名づけたU分布に収斂し、これが熱力学の第1法則、エネルギー保存と第2法則、エントロピー増大を完全に満たすところから始まって、「幸せは、加速度センサで測れる。」(p.78) と著者が断言するハピネスの計測まで、私が不勉強なだけかもしれませんが、驚きの連続でした。その後の第3章以降で人間行動の方程式が1/T方程式で示されたり、第4章で運の良し悪しが加速度センサで解明されたり、ましてや、第6章でドラッカーを援用して加速度センサで把握できる人の動きと経営効率が論じられたりするのは、ハッキリと付け足しのようなありきたりな議論です。読み手にもよりますが、第2章から第5章については、逆の順の方が段々と後半にかけて盛り上がる構成だったかもしれません。それはともかく、私は経済をはじめとする社会科学が対象としている社会現象の予測は、変数を増やしてモデルを複雑にし、変数間の相互関係をより反映するパラメータをデータを増やすことにより正確に推計できるのであれば、モデルは将来を正しく予測することが出来ると信じています。この信条に対して、加速度センサという今までになかった重要な計測機器の登場は歓迎すべきであり、しかも、それがハピネス=幸福度などと大きな創刊を有している可能性が示唆されたわけですから、今後、さらに社会科学の専門家も含めた学術的なデータの解明がなされることを願って止みません。本書はここ数年で私が読んだ本のうちでもっとも刺激を受けた本の中の1冊といえます。

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次に、山崎啓明『インテリジェンス1941』(NHK出版) です。タイトル通り、1941年12月の真珠湾への奇襲攻撃で日米開戦するまでの情報活動を取り上げているノンフィクションです。著者はNHKのディレクターで、昨年2013年12月8日に放送された番組からさらに取材した情報を付加して出版しているようです。スパイ衛星なんぞはない時代ですから、画像情報を解析するイミントはウェイトがとても低く、人を介して情報を得るヒューミントと暗号解読などのシギントが中心です。なぜか、番組的に絵にならないためか、公開情報を分析するオシントなども省略されています。第2次世界大戦がはじまった1939年の少し前からの世界的な諜報戦ですが、特に中心に置かれているのは英国のチャーチル首相です。ですから、英国のスパイ・マスターであり『暗号名イントレピッド』を自ら著したウィリアム・スティーブンソンなども登場します。スパイの活動や暗号解読などがどうしても中心になりますが、こういった情報戦は外交の延長であり、外交は政治活動の延長ですから、少なくとも諜報戦のバックグラウンドである外交活動にも十分な注意が向けられており、米国の軍事情報を収集していたスパイやスパイ・マスターは米国の実情に詳しいがゆえに、全力を上げて日米開戦を回避すべく努力していたことなどが明らかにされています。特に、「日米諒解案」として、日本が中国から撤兵するのを条件に米国が満州国を承認する外交交渉などは大きくハイライトされています(p.151)。難を言えば、もう少し「シギント」や「ヒューミント」などのインテリジェンス活動の基礎についての解説が欲しかった気がします。でも、まさに、柳広司の『ジョーカー・ゲーム』や『ダブル・ジョーカー』といったD機関シリーズの小説を地で行くようなノンフィクションです。

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次に、仙川環『極卵』(小学館) です。私はかなり昔にこの著者のデビュー作の『感染 infection』とか第2作の『転生 transmigration』くらいを読んだような不確かな記憶があるんですが、すっかり中身は忘れました。今まで、小学館からこの作者が出す時は日本語タイトルとともに英語も併記されていたようなんですが、今回はそのまま GOKU-RAN としています。Excellent Eggs なんてのは医学用語ではないのでダメだったんでしょうか。小学館発行の単行本としては前作に当たる短篇集の『誤飲 misswallowing』あたりから英語タイトルが苦しくなって来たのは事実のような気がします。それはともかく、医者の登場人物が主要な役割を果たす医療ミステリを発表してきた作者ですが、この作品では医者は登場しません。食品の安心・安全、無添加、無農薬、有機栽培などをテーマに据えて、自然食料品店で売られ始めた4玉1000円の卵が、発売開始とともにいきなり摂取した人がボツリヌス中毒とみられる症状を呈して入院したり、重篤な症状を呈するのは言うに及ばず死者まで発生する中で、その真相に迫る主人公の女性ジャーナリスト瀬島桐子の活動を追います。この作者の作品は医療ミステリが多かったんですが、この作品は食品ミステリのカテゴリーといえます。でも、人の命の重さを扱うという点では同じかもしれません。その中で、いくつか著者の主張とおぼしき部分を抜き出すと、例えば、pp.17-18「良い食品を『良い』と言うのはいい。かけられるお金があるなら、買えばいい。でも、自分たちが選ばない食品を毒物扱いし、それらを食べている人を批判するのは、行きすぎではないか。」あるいは、p.160「絶対安全じゃないと嫌だ。リスクをゼロにしてほしい。だけど、費用負担はしたくない。それって、消費者の我が儘じゃありませんか?」などなど、極めてノーマルな国民多数の目線が強調されています。そして、消費者団体と称するテロ組織まがいの団体を批判し、より上位の目的であれば下位の犠牲も止むを得ないとする態度に対して疑問を投げかけています。ただ、私も理解できなくもないところながら、熱狂的かつ宗教的なカギカッコ付きの「信者」になってしまった人にはどうしようもない気がします。さかのぼって、初期の作品も読み返したくなる快作です。

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次に、姫野カオルコ『近所の犬』(幻冬舎) です。『昭和の犬』の直木賞受賞後の第1作です。作者自身の「はじめに」の解説によれば、『昭和の犬』は自伝的要素の強い小説、本作品『近所の犬』は私小説だそうです。ですから、事実度が大きく、視点=カメラの位置が語り手に固定され、エッセイ的に読める、と解説されています。その通りのような気がします。というか、エッセイそのものではないかと思って読んだんですが、エッセイではないということは、フィクションが混ざっているということなんだろうと理解しています。この作品によく出る言葉で、「私は犬が好きだが、犬が私を好くことはそんなにない」というのがあり(例えば、p.127)、このあたりがフィクションで、実は、作者は犬に好かれまくっている、という可能性もあります。それはともかく、さすがの直木賞作家で、犬の観察=犬見もしっかりしており、犬を見た際の反応として、「尾てい骨のあたりにホカロンを貼ったように、じーんとする」(p.141)とか、「犬の『訴えかけるような瞳』に弱い」(p.145)とか、「私のセンスは、ハスキー犬を『とんまな顔』と感じる」(p.155)とか、独特の視点から適確な表現力で読者に迫ります。写真について2点補足すると、残念ながら、私はまだ『オール読物・2014年3月臨時増刊号』は見ていません。それからもう1点は、これだけ犬に焦点を当てるのであれば、表紙の写真ももっと凝って欲しかったです。例えば、『世界から猫が消えたなら』クラスの写真を用意するべきです。最後の最後にもっとも重要な点をひとつだけ。この作者の最高傑作は私は直木賞を受賞した前作『昭和の犬』ではなく、『ハルカ・エイティ』であり、少なくとも私が読んだ中でこれに続く作品は『ツ、イ、ラ、ク』や『リアル・シンデレラ』だと思っています。直木賞受賞に目をくらまされて、作品の傾向が間違った方向に進まないことを切に祈っています。

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次に、長岡弘樹『群青のタンデム』(角川春樹事務所) です。私はこの作者の作品では『傍聞き』や最近作では『教場』などを読んでいます。ちなみに、『教場』と本作品の間にはヒットしなかった『波形の声』が今年になってから出版されていて、これも読んでいたりします。ということで、この作品も警察官を主人公にしたミステリの連作短編集です。タイトルの前半「群青」は警察官の制服を象徴し、後半「タンデム」は男女2人の同期生の警察官、戸柏耕史と陶山史香を主人公にしていることを表しています。2人が競い合いながら成長していく姿を写真の静止画のように切り取って行きます。この作者の今までの作品と大きく異なるのはタイムスパンです。主人公達がおそらく20代のルーキーのころから、60歳の定年退官を終えたあたりまで40年近い時間軸を持っています。最後までこの2人は独身を通しているように見えます。なかなか現実にはないような男女関係が描き出されています。物語が長い期間で捉えられますから、この作者らしいという表現もできますが、話が飛びます。従って、ある程度の読解力は必要です。人によっては2度3度と読み返す場合もありそうな気がします。また、新本格派のミステリに親しんでいる私としては、ミステリとしての完成度は低いと言わざるを得ません。典型的には最後の最後に明かされる殺人事件の真実など、情況証拠を積み上げた直感的な理解としては分からなくもないんですが、十分な論理性を持って読者に提示されているとは言いがたく、「反則」と感じる読者もいそうな気がします。でも、それがこの作者のスタイルといえばそれまでです。『傍聞き』や『教場』といったこの作者の作品がホントに好きであれば、この作品も買って何度も読み返すことをオススメします。そうでなく、私のように流行りものなので一応は借りて読んでおこうというのもひとつの手だという気がします。

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最後に、有栖川有栖『臨床犯罪学者・火村英生の推理 アリバイの研究』(角川ビーンズ) です。同じシリーズの既刊である『密室の研究』と『暗号の研究』に続いて、短編を編み直した第3弾です。もっとも、角川ビーンズ文庫では『ロシア紅茶の謎』や『スウェーデン館の謎』などの長編も再刊されています。本書に収録されているのは「三つの日付」、「わらう月」、「紅雨荘殺人事件」、「不在の証明」、「長い影」の5編です。当然ながら、アリバイ崩しがメインテーマの本格ミステリです。繰返しになりますが、いずれもこの作者の持ち味が生かされた本格的なミステリです。なぜか、2週続けて有栖川有栖の作品を取り上げることになりました。それだけ、私が新本格ミステリが好きなんだということなんだろうと考えています。

今週末は3連休になるサラリーマンも多く、私もそうです。秋の夜長の読書が進みます。

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コメント

幸せを加速度センサーで測るとは、おもしろい。ある意味あたっているかもしれません。最近jawboneという高性能ウェラブル加速度センサーを買いました。万歩計だけでなく、睡眠時の動きから、睡眠の深さを測れるとのこと。本当かなと思い実験してみましたが、レムとノンレム睡眠を計測できているようです。スマホ経由でクラウドに吸い上げてますが、歩数と睡眠の深さで一日を記録できておもしろい。アイウォッチなどでは心拍数もはかれるとのことで、その内脳波まで記録できるかもしれません。血中のアドレナリンやドーパミンを測ることで、恍惚度は測れますね。

投稿: kincyan | 2014年10月14日 (火) 07時39分

いやー、私もよく知りませんでしたが、そこまで分かるんですね。とても興味深いです。人間の肉体活動のみならず、精神活動まですべてを理解できるのかもしれません。

投稿: ポケモンおとうさん | 2014年10月14日 (火) 19時58分

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