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2014年11月30日 (日)

今週のジャズは西山瞳・安ヵ川大樹「Down by the Salley Gardens」を聞く

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今週のジャズは西山瞳・安ヵ川大樹「Down by the Salley Gardens」です。このピアノとベースのデュエットは2年前の2012年に「El Cant Dels Ocells」で共演していますので、デュオとしては2作目のアルバムです。それから、表題曲はアイルランドのトラディショナル=民謡です。まず、収録曲は以下の9曲です。表題曲の5曲めとともに、3曲めと8曲めがトラディショナルである以外、ほかの6曲は西山瞳のオリジナルです。

  1. Pescadores
  2. Softwind
  3. 花笠音頭
  4. Loca
  5. Down by the Salley Gardens
  6. Epigraph
  7. Alma
  8. 大漁唄い込み
  9. Whispering

おそらく、安ヵ川大樹の興したマイナー・レーベルだと思うんですが、Daiki Musica レーベルの27枚目のリリースだそうです。秋の夜長に読書のBGMなんかで聞くのにはいいかもしれません。ピアノとベースですから、私のような貧弱なオーディオ・セットで聞いていればもちろん、どうしても、ピアノが前面に出てベースが後景に退きます。同じ楽器の組合せで、ビル・エバンスとスコット・ラファロの2人がドラムを押しのけて火の出るようなコラボを見せていたという事実がとてもあり得ないものだったというのが、今にしてよく理解できる気がします。ジャズのアルバムとして世界に通用するわけではないでしょうが、近くのレンタル店で借りて聞くにはいいかもしれません。下の動画は、前のアルバム「El Cant Dels Ocells」のものです。

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2014年11月29日 (土)

今週の読書は経済書なしで小説を中心に5冊ほど

今週の読書は経済書はなく、小説が中心に以下の5冊ほどです。

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まず、前田健太郎『市民を雇わない国家』(東京大学出版会) です。作者は気鋭の東京大学准教授であり、本書は作者の博士論文を改訂した学術書です。というか、今週読んだ唯一の学術書だったりします。副題が『日本が公務員の少ない国へと至った道』とされており、本書の内容そのものズバリを言い表しています。最初に、国際比較により日本の公務員数が人口当たりで少ない事実を明らかにしています。この点からすでに誤解している国民が少なくないとの指摘はよく見かけるものですが、我が国の公務員が少ないという事実はそれなりの学識を有する階層には明らかな事実ではないかと私は受け止めています。その上で、副題に対する回答たる結論としては、人事院勧告という公務員の給与面での制約が厳しいことから、財政の硬直性を打破して柔軟性を取り戻すためには、公務員数を厳しく制約せざるを得なかった、というものです。公務員給与は当然に財政から支出されるわけですが、その総額は公務員数に単価を乗じた額となります。当たり前です。そのうちの単価が人事院勧告で決められて動かせない以上、公務員数を総定員法で縛って財政の自由度を高める必要がある、ということです。これだけでは不親切なんですが、作者の専門外で私の専門分野ですので付け加えると、本書でもそれなりに取り上げられていますが、戦後のいわゆるブレトン・ウッズ体制下で固定為替相場を維持するための景気コントロール手段としてケインズ的な財政政策の自由度の確保の要請から、公務員数の制約の必要が生じた、という解釈です。日本と逆の道を行った英国を取り上げ、公務員給与の制約がストを背景にした団体交渉から政府の意に添わず、結局、いわゆる「ストップ&ゴー」政策により英国病が悪化した、といった趣旨の論考がなされています。本書に対する代替的な私の見方としては、中央政府が徴収した税金を市民に還元する道が2通りあります。すなわち、ひとつは北欧に典型的に見られるような福祉国家であり、公務員を雇って社会保障給付により直接に市民へ還元する方法です。もうひとつが日本のような土建国家であり、公務員を雇わずにインフラへの公共投資により土木建設産業を通じて間接的に市民にトリクル・ダウンすることを期待する方法です。この点に関する考察も欲しかった気がします。

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次に、川上弘美『水声』(文藝春秋) です。ここから3冊は小説です。不思議な小説です。でも、この作者らしい幻想的なファンタジーではなく、超常現象のような出来事は出てきません。私がこの作者の作品で少し前に読んだのは『七夜物語』ですから、子供向けのファンタジーでしたが、この『水声』は大人向けの純文学だと思います。2代に渡って、実際には夫婦ではないにもかかわらず、兄妹や姉弟がまるで夫婦のように同居して家族として過ごす小説であり、フォーカスは早世した前の世代のママに当てられています。よく、人間の体は水でできているといわれますが、そういった含意のタイトルだと受け止めています。どうでもいいことながら、「川上弘美+水声」でweb検索をかけると、信州大学の研究者による松本和也『川上弘美を読む』(水声社) がヒットします。この小説のタイトルと出版社名がどこまで関係するのか私には不明です。また、主人公の都が作者と同じ年の生まれに設定されていますが、どこまで作者自身と重ね合わせることができるのかも私には不明です。血のつながりのある兄妹や姉弟がまるで夫婦のように同居して暮らすという男女関係は、私には分かったような分からないような受止めなんですが、私が読んでいてとても共感を覚えたのはパパの生死観です。ママの死に際して、葬式をやりたがらなかったり、仕方なく葬式をやっても、死に装束を拒否して、会葬者に最後のお別れもさせないなど、一向門徒としての私の生死観に似たところがあります。私も「冥福を祈る」行為は真っ平ごめんですし、近親者の死に際してこのような発言を受けるだけでやや不愉快に感じます。一向門徒は死んだ瞬間に極楽浄土に生まれ変わりますから、49日間も冥土に渡らずにウロウロと旅をしたり、ましてや、三途の川を渡ったりはしません。それはともかく、私はこの作者の作品をそれほど数多く読んでいるわけではありませんが、この作者らしく男女関係を基軸にしつつ、社会的な出来事、例えば、地下鉄サリン事件や東日本大震災も視野に収めつつ、小学生から50代半ばまでの50年近くに渡る主人公の目を通して、やや不思議かつ濃やかな人間模様を鮮やかに描き切っています。

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次に、湊かなえ『物語のおわり』(朝日新聞出版) です。先々週の11月15日にも同じ作者の直前の作品である『山女日記』を取り上げて、デビュー作である『告白』から始まり、従来のモノローグの手法による読後感のよくないイヤミスの作品から、前作が転機になった可能性を示唆しましたが、この作品もイヤミスではなく、なかなか興味深い作品です。読者によってはこの作品もミステリと受け止める向きがある可能性は否定しませんが、私はミステリではなく、成熟した女性を主人公にした普通の文学作品であるとして読みました。主人公と目されるパン屋の娘である絵美が書いた小説、何となく中途半端な終わり方をしている何枚かの原稿用紙が封筒に入って、次々と回し読みされます。タイトルとは逆の「おわっていない物語」、しかも、その中身もさることながら、原稿用紙のモノとしての物語を中心にストーリーが進み、加えて、北海道などの北の大地を背景に、すなわち、作者の本拠地である瀬戸内海とは似ても似つかない舞台で物語が進行し、さらに加えて、かなり時間軸の長い作品となっています。人生で岐路に立った場合、どのような選択を行うべきか、あるいは、その際に、自分と周囲の人々との調和をどのように図るのがベストなのか、いろいろな読み方を許されそうな奥の深いテーマを個性的でとても強い描写力で浮き彫りにします。絵美のパートナーであるハムさんの包容力にも脱帽しますが、著者の新しい方向を向いた第2ステージの作品がこれからもっと出ることも大いに楽しみです。でも、時々は第1ステージの作品のような小説も書いて欲しい気がします。

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次に、有川浩『キャロリング』(幻冬舎) です。これを原作として、毎週火曜日のNHKのBSプレミアムのドラマが放送されているのはご存じの通りです。ただし、かなり前に森絵都の短編「風に舞いあがるビニールシート」がNHKでドラマ化された時にも感じましたが、かなり原作から離れている、というか、原作にないストーリーを形作っている気がします。本の方の『風に舞いあがるビニールシート』なんて、直木賞を授賞されたほどの作品なんですから、あそこまで脚色しなくてもいいような気がしたんですが、短編を数回のドラマに仕立てるのは難しいのかもしれません。でも、この『キャロリング』は長編なのですし、今週のドラマ第3話では柊子のお見合い(?)があったりしましたが、私が読み飛ばしているのでなければ、そのようなシーンは原作にはなかった気がしますので、ここまで違うイベントを物語に付け加えるのはやや疑問を感じる読者もいるかもしれません。それはともかく、原作本の方は心温まるストーリーで、特に12月のこのクリスマスを迎えようとしている愛と寛容のシーズンにはとてもいいお話だと受け止めています。以前から私が主張している通り、この作者はデビュー作の当時から自衛隊に対する思い入れ、思い込みが激しく、武器や戦闘シーンが、例えば、『図書館戦争』のシリーズではメインになっていた感がありますが、このあり得べからざる傾向を別にすれば、筆力は十分ですし、プロットも少し非現実的なくらいにご都合主義的だったりしますが、それはそれなりによく考えられていますし、いい作品を書くことが出来る一流の人気作家であることは間違いありません。自衛隊や武器や戦闘シーンのない作品はかなりオススメ度が上がる気がします。

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最後に、エッセイで川上未映子『きみは赤ちゃん』(文藝春秋) です。著者が35歳の年齢で男の子を出産する際の、あるいは、その後の1歳くらいまでの育児も含めてエッセイをつづっています。作家夫妻の妊娠・出産・育児ですから、我が家のようなサラリーマン家庭とはかなり様子が違います。もっとも異なるのはお金のかけ方です。無痛分娩に関しては、私も著者と同じ意見を持っていて、海外と同じようにもっと普及して何らかの公的な補助のようなものが出る方がいいんではないかと考えていますし、保育園のキャパが圧倒的に不足している現状はいろんな意味で好ましくないと思います。でも、シッターさんに来てもらって、湯水のごとく赤ちゃんにお金をかけても、やっぱり、育児や家事に関する女性の負担が男性に比べて著しく重いというか、その結果として、母親が父親に不快感を持つとかは、妊娠・出産を生物学的に経験し得ない男としては、とても貴重な情報だった気がします。私はこの著者のご亭主と同じで料理が出来ずに、単身赴任の際などにも苦労させられたんですが、これほど重視されているのは知りませんでした。男はいかんともしがたく妊娠時の代替的な役割を果たすことは出来ず、無痛分娩とはいえ出産の際の体力消耗、あるいは、その後の産後のホルモンの乱調などの体調の悪化も経験しませんし、なかなか実感として身に迫った受止めは出来ない限界を感じました。最後に、ネットやSNSなどで、妊娠・出産・育児などに関して、玉石混交の情報があふれているように感じているんですが、この妊娠・出産・育児のほか、人生の重要なポイント、例えば、受験や就職や結婚や何やといった際の情報の活かし方について、何とも漠たる不安を感じたのは私だけでしょうか?

この土日にもいくつかの図書館を周る予定ですが、来週の読書は経済書、というか、専門書を含めた教養書についても何冊か読む予定となっております。

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2014年11月28日 (金)

いっせいに発表された政府統計の経済指標から何が読み取れるか?

本日は月末の閣議日ということで、さまざまな政府統計が発表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数が、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、経済産業省の商業販売統計が、また、総務省統計局の消費者物価指数が、それぞれ発表されています。すべて10月の統計です。まず、とても長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

工業生産指数、10月0.2%上昇 基調判断は据え置き
経済産業省が28日発表した10月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調節済み)速報値は前月比で0.2%上昇の98.2だった。上昇は2カ月連続で、QUICKが27日時点で集計した民間予測の中央値(前月比0.6%低下)を上回った。スマートフォン(スマホ)関連の需要が好調で半導体・電子部品の生産が4カ月連続で伸びた一方、自動車やスマホを含む携帯電話、ノートパソコンなどが減少した。経産省は生産の基調判断を「一進一退にある」に据え置いた。
業種別でみると、15業種のうち6業種で生産が前月比で上昇、9業種で低下した。上昇業種では「はん用・生産用・業務用機械」が前月比4.4%上昇と最も伸び率が高かった。半導体製造装置や分析機器などの増加が目立ったという。スマホ関連の部品需要を追い風に「電子部品・デバイス」は4カ月連続で上昇した。一方、低下業種では自動車などの「輸送機械」が2.6%低下、携帯電話やノートパソコンなど「情報通信機械」は6.9%低下した。
出荷指数は0.4%上昇の98.4で、2カ月連続で上昇。在庫指数は0.4%低下の111.4と、2カ月連続で低下した。経産省によると、「在庫指数は8月をピークに低下傾向にあるが、前年同月との比較ではまだ高い水準にある」という。出荷の勢いは力強さを欠き、出荷に占める在庫の割合を示す在庫率指数は112.4と0.9%上昇した。
製造工業生産予測調査によると、11月が2.3%上昇、12月は0.4%上昇を見込む。11月は情報通信機械、電子部品・デバイスなどの業種で上昇率の高さが目立った。
完全失業率2カ月ぶり改善 10月3.5%、女性の就業進む
総務省が28日発表した10月の完全失業率(季節調整値)は3.5%で、前月に比べ0.1ポイント低下した。改善は2カ月ぶりで、QUICKがまとめた市場予想(3.6%)を下回った。人手不足感が強まり女性の就業が正規、非正規とも増え、女性の完全失業者数が6万人減少。完全失業率全体の低下につながった。総務省は雇用情勢について「引き続き持ち直しの動きが続いている」と判断している。
完全失業率を男女別にみると、男性が0.1ポイント上昇の3.8%、女性は0.2ポイント低下の3.2%だった。就業者数は6355万人で前月から11万人減少したものの、女性の就業者数は2744万人と現行の調査体制になった1953年1月以降で過去最高となった。
完全失業者数は234万人で3万人減少した。うち勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は4万人増、「自発的な離職」は6万人減、「新たに求職」している人は3万人減だった。仕事を探していない「非労働力人口」は4483万人と12万人増えた。
10月の小売販売額、1.4%増 4カ月連続プラスも伸び率は縮小
経済産業省が28日発表した10月の商業販売統計(速報)によると、小売業の販売額は前年同月比1.4%増えた。前年を上回るのは4カ月連続。気温の低下で秋冬物衣料などの販売が伸びた。一方で、10月上旬に台風が直撃したため客足が鈍り、伸び率は9月(2.3%増)から縮小した。
小売業の内訳をみると、織物・衣服・身の回り品が5.0%増。飲食料品が3.6%増。一方、自動車は1.8%減と2カ月ぶりに減少し、家電製品など機械器具は4月の消費増税以降の前年割れが続いた。
大型小売店は1.0%増の1兆6064億円。伸び率は2カ月連続で縮小した。既存店ベースでは横ばい。このうち百貨店は0.2%増、スーパーは0.1%減だった。
コンビニエンスストアは6.0%増の8935億円。ファストフード及び日配食品などが伸びた。既存店ベースでは1.1%増えた。
同時に発表した専門量販店(速報)によると、10月の販売額は家電大型専門店は2990億円、ドラッグストアが3925億円、ホームセンターが2622億円となった。
10月CPIは2.9%上昇 17カ月連続プラスも上昇幅の縮小続く
総務省が28日朝発表した10月の全国の消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、生鮮食品を除く総合が前年同月比2.9%上昇の103.6と17カ月連続でプラスだった。冬物衣料や宿泊料の上昇が寄与したが、4月の消費増税の影響(2%)を除くと、過去に日銀の黒田東彦総裁が「割れることはない」と発言していた1%を下回った。消費増税の影響を除いて1%割れとなるのは昨年10月(0.9%上昇)以来だ。
前月は3.0%上昇だった。エネルギーの上昇幅縮小が続いたことで、CPIの上昇幅は3カ月連続で縮小した。原油価格の下落を受けて、電気代やガス代が引き続き伸び悩んだ。昨年10月に値上げがあった傷害保険料など反動で上昇幅が縮小した品目もあり、総務省は「足元というより昨年の動きの反動が出た影響が大きい」と説明する。
同時に発表した11月の東京都区部のCPI(中旬の速報値、10年=100)は、生鮮食品を除く総合が2.4%上昇の102.0で、上昇幅は前月(2.6%)から縮小。原油安でガソリン価格の上昇幅が縮小したことなどが響いた。
総務省はCPIの先行きについて「しばらくは横ばいの推移が続くだろうが、将来的には日銀の追加緩和の効果が出てくるのではないか」とみていた。

いずれも網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、これだけの記事を並べるとそれなりのボリュームになります。これだけでお腹いっぱいかもしれません。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。景気後退期のシャドーについては雇用統計や商業販売統計も同様です。

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まず、生産は2か月連続の増産となりました。9月に+3%近い増産を示した後、10月はほとんど横ばい圏内ながら、前月比で+0.2%増を記録しました。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは▲0.6%の減産でしたし、前月の統計発表時に明らかにされた製造工業生産予測調査でも▲0.1%減でしたから、やや上振れした印象です。業種別に見ると、15業種のうち6業種が増産、9業種が減産で業種によるばらつきがあり、減産した業種も少なくない一方で、特に、輸送機械こそ前月比▲2.6%減のマイナスでしたが、はん用・生産用・業務用機械が+4.4%増、電気機械+3.2%増などの我が国における主力業種がプラスを記録しています。生産が前月比+0.2%増を示し、出荷も+0.4%増となりましたので。在庫が前月から▲0。4%減を記録しています。着実に在庫調整が進んでいる結果が示されています。さらに、足元の11月についても、製造工業生産予測調査に従えば、前月比で+2.3%増、12月も+0.4%増と見込まれており、生産は8月を底に反転から持直しに向かう可能性が高まっています。統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「一進一退」に据え置いていますが、もしも、11月の生産が製造工業生産予測調査と同じくらいの+2%増を超えれば、ひょっとしたら、この基調判断が上方修正されるかもしれないと私は見込んでいます。

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続いて、上のグラフは雇用統計です。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をそれぞれプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、シャドーを付けた部分は景気後退期です。さすがに、失業率が3%台半ばに達し、有効求人倍率も1倍を超えましたので、このまま一本調子で失業率の低下や有効求人倍率の上昇などの雇用の拡大が進むわけではなく、そろそろ、量的な雇用の拡大から質的な改善、すなわち、非正規雇用ではなく正規雇用の比率が上昇し、それにつれて賃金も増加を示す局面が近づいていると私は考えています。デフレ脱却に伴って、ともかく安価な労働力を求める姿勢ではなく、その昔とは違った意味なのかもしれませんが、雇用条件を改善することにより安定した労働力を確保することが企業としても重要な課題になる時代を迎えつつある気がします。また、別の観点ですが、足元の雇用情勢でも引用した記事にもある通り、女性の就業者数が60年余りの労働力調査統計の歴史で最大を記録しており、人口減少に向かう我が国経済の潜在成長率の下支えに貢献する可能性が示されています。

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商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。シャドーを付けた部分は景気後退期です。10月は週末に2回も台風による悪天候があって、消費へのダメージが気にかかっていたんですが、前年同月比でプラス幅を縮小したものの、4か月連続で前年同月比でプラスを記録しました。ただし、季節調整済みの系列は前月比マイナスでしたし、消費者物価が+2.9%の上昇ですから、CPIでデフレートして実質化すれば、前年同月比でもまだまだマイナスであることに変わりありません。また、私がこのブログで消費の代理変数として取り上げている商業販売統計は供給サイドの統計なんですが、需要サイドの家計調査ではまだまだ前年同月比でマイナスが続いており、この両者の統計の間で整合性が保たれていません。カバレッジとしては家計調査よりも商業販売統計の方が3-4ケタぐらい大きいので、商業販売統計の方が消費の実態を把握するのに適していると考えていますが、少し気になるところです。もっとも、私のように消費に関して慎重な見方に立つよりも、家計調査のマイナス幅も縮小していることなどから、いずれの統計もそろそろ消費の底打ちの兆しを示しつつあるという楽観的な見方を示すエコノミストも少なくありません。なお、下のリンクは総務省統計局の家計調査のサイトに貼ってあります。

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上のグラフは、消費者物価上昇率の推移です。折れ線グラフが全国の生鮮食品を除くコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが10月中旬値です。いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とは微妙に異なっている可能性があります。ということで、引用した記事にもある通り、日銀の黒田総裁はCPI上昇率が+1%を割ることはないと明言したにもかかわらず。10月統計では消費税の影響を除いたCPI上昇率がとうとう+1%を下回った、という結果になりました。基本的には原油などのエネルギー価格の低下の影響が大きいものの、もちろん、年央以降くらいの消費増税ショックに伴う国内景気の停滞も需給ギャップの拡大を通じて物価の下押し圧力になっていることは事実です。ラグはかなり長いでしょうが、日銀のハロウィン緩和の効果と雇用の質的な改善に伴う賃金上昇の効果が期待されるところです。まあ、繰返しになりますが、気の長い話かもしれませんが、デフレ脱却に向けた着実な足取りを感じます。

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最後に、消費者物価上昇率を財とサービス別に見た結果が上のグラフの通りとなっています。企業向け物価(PPI)と企業向けサービス物価(SPPI)については、財の物価が年央くらいから上昇率を大きく縮小させている一方で、サービスの物価上昇率は高止まりないし上昇幅の拡大が見られますが、消費者物価についても同じ現象が観察されます。電気・ガスはいずれもサービスではなく財に分類されていますし、サービス価格は賃金がコストに占める比率がより高いわけですから、基本的にはエネルギー価格と賃金動向による違いに起因すると考えていますが、少し気にかかります。

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2014年11月27日 (木)

統計数理研究所「日本人の国民性第13次全国調査」に見る日本人の国民性やいかに?

とても旧聞に属する話題ですが、先月末の10月30日に統計数理研究所から「日本人の国民性第13次全国調査」の結果が発表されています。調査の名が体を表す通り、日本人国民性について調査した第13次調査の結果です。今どきのことですから、pdfの全文リポートもアップされています。いくつか、「第13次調査の結果のポイント」のサイトなどから特徴的なグラフを引用しつつ、私の興味の範囲から簡単に紹介したいと思います。

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まず、「第13次調査の結果のポイント」のサイトから、図1 日本人の性格(長所)と日本の「心の豊かさ」に対する評価 を引用すると上の通りです。日本人の長所として上げられるものを具体的な10個の選択肢の中から複数回答で選択した結果です。「勤勉」、「礼儀正しい」、「親切」を挙げる人が7割を超えています。また、日本の「心の豊かさ」に対する4段階の評価結果では,「非常によい」あるいは「ややよい」とする人の割合は、1993年から1998年にかけて41%から26%へと落ち込み、そのまま30%を割り込んで低迷していましたが、2013年の今回調査では47%にまで急速に回復しています。どのようなバックグラウンドがあるのか、私にはよく理解できません。

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次に、同じく「第13次調査の結果のポイント」のサイトから、図2 たいていの人は,他人の役にたとうとしていると思いますか,それとも、自分のことだけに気をくばっていると思いますか? の回答結果のグラフを引用すると上の通りです。一言でいえば、利己的が利他的か、ということなんですが、ほぼ5年おきの調査を経て、傾向的に利他的な姿勢が増加する一方で、利己的は低下を続け、前回調査ではとうとう逆転しました。ただ、「利他的な目的」とか「より高次の善」とかは、私なんぞはやや胡散臭く感じることがあり、ついついニセモノにすり替えられる危険が付きまとうものですから、「利己的か利他的か」という質問の仕方は別にして、個人の幸福追求の権利は常に心に留めておきたい気がします。

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次に、同じく「第13次調査の結果のポイント」のサイトから、図7 いくら努力しても,全く報われないことが多いと思う の結果のグラフを引用すると上の通りです。格差是正の観点とも共通するんですが、競争社会の中で、努力はいくぶんなりとも報われると考えていますし、少なくとも報われて欲しい気がします。「全く報われないことが多い」という表現はビミョーですが、前半部分の「全く報われない」ということであれば大きな問題です。でも、現在の格差の結果がすべて個人の努力に起因するかといえば、決してそうではなく、努力以外の、例えば、運の要素も決して小さくないと私は考えています。だからといって、努力が「全く報われない」と考えるのとは別物です。アタマの体操ですが、とんでもない年棒をもらっているプロのスポーツ選手は、もちろん、大いなる努力の賜物なんでしょうが、300年前に生まれていれば、その能力や才能は現在の年棒に結びつかなかった可能性が高いんではないでしょうか。その上で、すべてではないとしても努力は報われつつ、ある程度は平均に回帰するんではないかと私は受け止めています。

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最後に、「その他の特徴的な結果」のサイトから、図16 「原子力施設の事故」についての不安 のラグをを引用すると上の通りです。原子力施設の事故に対する不安感を4段階で問うたところ、当然ながら、2011年3月の福島第一原発の事故を経て、原発への不安が増加しています。不安を「非常に感じる」または「かなり感じる」という人の割合は、2008年までは4-5割程度でしたが、2011年3月の東日本大震災後の今回2013年は3人に2人に増加しています。

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2014年11月26日 (水)

経済協力開発機構「OECD 経済見通し」OECD Economic Outlook による我が国の成長率見通しやいかに?

昨日、経済協力開発機構(OECD)から「OECD 経済見通し」 OECD Economic Outlook, No.96 が公表されています。ヘッドラインとなる成長率見通しについて、日本の成長率見通しを消費再増税の先送りも織り込んだ上で、2014年は+0.4%、15年は+0.8%と見込み、前回5月の OECD Economic Outlook, No.95 と比べると、それぞれ▲0.8%ポイント、▲0.4%ポイントの下方修正となっています。引用はしませんが、日経新聞のサイトでは以下の記事がアップされています。ご参考まで。

今夜はOECDのサイトにアップされている「経済見通し」第1章に当たる General assessment of the macroeconomic situation のリポートからいくつか図表を引用しつつ、簡単に OECD 経済見通しを紹介しておきたいと思います。

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まず、リポートから経済見通しの総括表として、p.11 Table 1.1. The global recovery will gain momentum only slowly を引用すると上の通りです。前回5月の OECD Economic Outlook, No.95では、2014年と15年の成長率見通しが、それぞれ、米国で+2.6%と+3.5%、ユーロ圏で+1.2%と+1.7%、日本で両年とも+1.2%でしたから、米国では両年とも▲0.4%ポイント、ユーロ圏では▲0.4%ポイントと▲0.6%ポイント、日本では▲0.8%ポイントと▲0.4%ポイント、それぞれ下方改定されています。2014年の日本の成長率の下方改定幅が特に大きいのは、当然ながら、4月に実施された消費税率の引上げのショックに起因する景気の停滞が想定外だったからです。ただし、今回初めて公表された2016年の成長率は+1.0%と2015年からさらに高まると見込まれており、ハロウィーンの金融緩和や人手不足の顕在化に伴う賃金の上昇などから、緩やかな景気の回復が継続すると予想しています。

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続いて、リポートから日米英欧の主要国・地域の成長率、潜在成長率、コア・インフレ、需給ギャップ、失業率、雇用ギャップといった指標の見通しをプロットしたグラフとして、p.14 Figure 1.1. Macroeconomic performance among the largest OECD areas is expected to continue to differ を引用すると上の通りです。それぞれのデータはOECDのStatLinkにあります。注目点はいくつかありますが、AとBのグラフで示唆されているのは、我が国の人口動向などから潜在成長率が高まらず、従って、現実の成長率も英米欧に比べて低いままでとどまる、との事実であろうと受け止めています。また、EとFについては、我が国の失業率は水準でいえば英米欧よりも低いんですが、現状のままであれば3%台半ばにとどまってさらなる低下にはつながらない一方で、0.5%ポイントから0.7%ポイント近い失業ギャップ、すなわち、現実の失業率とインフレを加速しない失業率で定義されるNAIRUとのギャップが存在することから、労働市場などの構造改革によってさらなる失業率の低下が可能である、という点かと考えています。同時に、グラフは引用しませんが、リポートの p.28 Figure 1.6. Economic slack continues to hold back wage growth では、米英の失業ギャップがまだまだ大きく、そのために賃金がなかなか上昇しない、という分析も示しています。

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さらに、リポートから私の興味の範囲で為替の景気への効果を見た p.20 Figure 1.3. Impact on GDP growth of a euro and yen depreciation を引用すると上の通りです。ベースラインのシナリオから1%のユーロ・ドル為替のユーロ安と円ドル為替の円安が2014年7-9月期から見通し期間いっぱいの2016年末まで生じた場合のGDP成長率へのインパクトを計測しています。日欧とも2015年には+0.2%ポイント程度、2016年には+0.4%ポイント程度の成長率の上振れが生じると推計されているのがグラフから読み取れます。ちょっと信じがたいほどの大きなインパクトで、注にある「1%の減価」というのは「10%」ではないかと疑わしいほどです。というのも、内閣府による「短期日本経済マクロ計量モデル(2011年版)の構造と乗数分析(2011年1月)」と題するディスカッション・ペーパーでは、このグラフのような成長率への影響ではなく標準ケースからの乖離ですが、10%の円安で1年目+0.19%、2年目+0.38%、3年目+0.58%の影響を報告しています。こんなもんだろうという気がします。しかし、いずれにせよ、為替が成長率にこれほどのインパクトを持っているとすれば、異次元緩和以前の日銀の引締め気味の金融運営が日本経済の成長に悪影響を及ぼしていたということもうなずけます。

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最後に、リポートから設備投資動向を見た p.30 Figure 1.7. The post-crisis recovery in investment remains slow を引用すると上のグラフの通りです。サブプライム・バブル崩壊前の2008年1-3月期を100とする指数です。ユーロ圏欧州がずっと低い水準で推移している一方で米英は2013年末から2014年初にかけてバブル崩壊前の水準を超えました。ビミョーなのが日本であり、2013年1-3月期までは割合と米英に近いラインで推移していたのが、消費税率の引上げとともに我が国の設備投資は一気に落ち込んで、この先も低迷を続ける可能性が示唆されています。

最後に、大きな負のインパクトを持っていた消費税率の引上げだったんですが、このリポートでは pp.35-37 で Box 1.3. Consumption tax increases in Japan と題したコラムで1997年の消費増税と比較しつつ分析を試みています。そして、"One possibility is that the expectation of a further tax increase contributed to the sharper-than-expected fall in economic activity in 2014." との仮説を持ち出しています。このブログで私が主張していた仮説、すなわち、来年2015年10月からの消費税率再引上げに備えた家計の生活防衛に伴う貯蓄率の上昇/消費性向の低下が現在の景気の足踏みの原因のひとつ、とまったく同じであると受け止めています。

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2014年11月25日 (火)

企業向けサービス物価 (SPPI) 上昇率はどうして上がったのか?

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI) が公表されています。消費税の影響を含むベースで前年同月比上昇率が9月の+3.5%から10月は+3.6%に0.1%ポイント上昇幅を拡大しています。消費税の影響を除くベースでも同様で、10月の前年同月比上昇率は+0.9%と前月から上昇幅を0.1%ポイント拡大しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月企業向けサービス価格、前年比3.6%上昇 増税除く伸び率は01年以降で最大
日銀が25日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は102.5と前年同月に比べ3.6%上昇した。伸び率は前月から0.1ポイント拡大した。企業収益の好調さを背景に広告などが伸びた。消費税引き上げの影響を除く伸び率は0.9%と、増税の影響を除くベースで前年比の比較が可能な2001年1月以降では最も高い伸びだった。
広告が前年同月比4.5%上昇と、プラス幅を拡大した。収益が好調な自動車や電気機械からの出稿が増え、新聞広告などが上昇に寄与した。情報通信もプラスだった。仮想店舗の売り上げ好調を背景に、インターネット付随サービスの伸びが目立った。
一方、道路貨物輸送などを含む運輸・郵便は前年比のプラス幅は9月から横ばいだった。輸送会社のコスト転嫁意欲は強く「供給力不足をてこにした値上げ交渉は続いている」(日銀調査統計局)という。
企業向けサービス価格指数は運輸や通信、広告など企業間で取引される価格水準を示す。
調査対象の147品目のうち、上昇が84品目に対し下落は38品目と13カ月連続で上昇が下落を上回った。上昇品目数は現行基準としては最多だった。日銀は「企業サービス関連の支出の明るさは続いている」(調査統計局)と見ている。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネルはサービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしています。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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企業向けサービス物価上昇率が+0.1%ポイントなりとも前月から上昇幅を拡大したのは、品目別に見て引用した記事の通りであり、オンライン・ショッピングの売上げ好調を背景としたインターネット関連の情報通信が寄与度で+0.10%、新聞広告やテレビ広告も企業の好調な売上げや収益に支えられて寄与度で+0.08%と上昇幅拡大に寄与しています。このあたりはトリクル・ダウン効果が現れている分野なのかもしれませんが、取りあえず、物価ですので直接の効果の計測は困難です。それよりも大きなパズルは、先月のSPPI発表時の10月27日付けの記事でも書きましたが、上のグラフにも見る通り、企業向け物価(PPI)上昇率が年央くらいから上昇幅を縮小させている一方で、企業向けサービス物価(SPPI)の上昇率が一向に鈍化せず、逆に、ここ2-3か月で加速している事実をどう説明するかです。何度か繰り返したように、一般にSPPIはPPIよりも需給ギャップに敏感と目されており、4月の消費増税ショックに起因する内需の低迷と整合性に疑問が生じます。単なる品目ごとの動向から全体を類推する手法では、モノのPPIがエネルギー価格の低下を主因として上昇率を鈍化させている一方で、サービスのSPPIは人手不足の影響による賃金上昇がより大きく反映されている、というのは何ら間違いではなく、その通りなんでしょうし、グラフは示しませんが、実は、消費者物価(CPI)の財とサービスのそれぞれの上昇率を見ても、やっぱり同じ傾向が見て取れます。すなわち、財の上昇率が年央くらいから上昇幅を縮小させているのに対して、サービスの上昇率は横ばいを示しています。しかしながら、現時点では、PPIとSPPIの年央以降くらいの動きの違いはエネルギー価格と人件費だけなのかどうか、まだ引き続きパズルが残るかもしれないと私は感じています。

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2014年11月24日 (月)

Feliz Navidad!

Feliz Navidad!

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Prospero año y Felicidad!

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2014年11月22日 (土)

今週の読書はいろいろ

先週から今週にかけては、かなり経済書や専門書を読んだつもりなんですが、どうもしっくり来ません。新刊書だけで経済書や専門書と小説を合わせて毎週4-5冊読んでいるので、ここ2-3週間はハズレの時期が続いているのかもしれません。だから、というわけなんですが、この週末には新刊書を買いに行く予定だったりします。

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まず、原田泰/齊藤誠[編著]『徹底分析 アベノミクス』(中央経済社) です。アベノミクスに対する賛否両論をバランスよく並べた経済書なんですが、どうも疑問が残ります。もちろん、筆者のうちの1人である高橋洋一教授などは経済学の限界を指摘していたりしますが、それでも、どういえばいいのか分かりませんが、アベノミクスという同じ経済政策を肯定的にも否定的にもどちらにも評価できる経済学という科学に対して、胡散臭さのようなものを感じ取る読者もいそうな気がします。専門的にいえば、バックグラウンドにあるモデルが異なるとしかいいようがなく、典型的には、論文の各章ごとに最後に配置されているQ&Aで、編者の1人である齊藤教授が何度か完全雇用の場合に成り立つ「フリードマン・ルール」をデフレ経済の分析で持ち出した質問を繰り返しているのに私は驚きましたが、いずれにせよ、「群盲象をなでる」がごとき印象を与えかねず、考え方や立場が異なれば同じ経済現象をいかようにも評価できるという経済学のよくない面も浮き彫りにされたように受け止めています。私自身はエコノミストとしては明らかにリフレ派であり、アベノミクスを肯定的に評価する立場なものですから、否定的な評価を下している論文には反論もあります。特に、先々週11月9日の読書感想文ブログにおいて伊東光晴教授の『アベノミクス批判』を取り上げた際と同じで、紋切り型でアベノミクスを「マネタイゼーション」とか、「ヘリコプター・マネー」とかのレッテルを貼って、そこで思考停止してしまうアベノミクス批判は見飽きた気がします。なぜ、長らく続いたデフレで苦しむ国民生活を目の当たりに見て、いろんな試行錯誤の結果として結論されたリフレ政策なのですがら、リフレ政策を批判する目的のレッテルがどうして批判されるべきなのかを論理的に解明して欲しいと思います。

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次に、八代尚宏『反グローバリズムの克服』(新潮選書) です。副題が「世界の経済政策に学ぶ」ですから、タイトルからして、もっと頭を働かせればよかったんですが、本書は反グローバリズムに対する批判書ではなく、世界経済や世界の経済政策の解説書です。対象は主として北米・欧州・アジアであり、仕方ありませんが、南米とアフリカは抜け落ちています。グローバリズムの分析に関しては、主として財貿易のTPPに主たる焦点が当てられており、「グローバリズム」で多くの人が思い浮かべる資本移動はやや従の扱いかと見受けました。海外の経済政策で称賛されているのは米国のレーガノミクス、英国のサッチャリズム、ドイツのシュレーダー改革です。いずれも、従来からの著者の主張に沿った新自由主義的な経済改革を実行したものと私は受け止めています。同じコンテクストで、シンガポールのリー・クワンユー政権下での経済政策もドイツのシュレーダー政権下の政策と引き比べられています。私が興味深く読んだのは、著者が欧州の通貨統合に否定的な点であり、逆の見方として、誠に北海道民には失礼ながら、北海道が円とは異なる通貨を持ち、その通貨が円に比べて20-30%低い水準に設定されれば、北海道の経済にプラスとの見方を示しています(p.118)。これはある意味で私も感化を受けるところがありました。最終章でも、著者は地域間格差については地域に任せて中央政府としては放置する姿勢を容認しています。それはそれで一貫しているような気がします。ただし、これも特に最終章の議論ですが、国民の選択に委ねるのがいいのか、それとも何らかの政府による格差是正的な政策が必要とされるのか、私の読み方が浅かったためかもしれませんが、どうもよく理解できない点が残りました。最後に、私自身は移民の受入れには疑問を持っています。すぐ近くに世界最大の人口大国が控えており、小笠原の赤サンゴを乱獲していたりするんですから、日本文化がどうこうという以前に日本の経済資源が心配です。

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次に、高瀬正仁『高木貞治とその時代』(東京大学出版会) です。自分がそうだからいうのではありませんが、高木貞治博士の名を聞いてすぐに数学者だと理解できる人は一定の教養の水準に達していると考えてよさそうに思います。著者は九州大学の教授であり専門は数学史です。そして、この本が対象としている高木貞治博士は近代日本におけるもっとも重要な数学者の1人だと私は認識しています。ただし、数学は極めて抽象度が高くて難解な学問分野であると理解されており、しかも、私の専門外ですから、完全にこの分野を私が把握しているとはとても思えません。ちなみに、私の本棚には高木博士の『解析概論 改定第3版』(岩波書店) が麗々しく飾ってあります。「改定第3版」は1961年発行です。この前年1960年に高木博士は亡くなっていますから、晩年の本もいいところです。今ではちょっと見かけない箱入りで大判の教科書です。本書では pp.295-96 のあたりで取り上げられている本です。私の学生時代の京都大学教養部の数学の授業のテキストだったのかもしれませんが、もはやまったく私の記憶から欠落しています。長らくこの『解析概論』はヤング定理から始まっていると覚えていたつもりなんですが、今日になって開いてみると違っていたりしました。本書は日本伝統の和算から明治になって洋算を取り入れ、さらに、近代国家の形成の過程における数学研究や数学教育の黎明期から戦後すぐの1950年代くらいまでの数学界について、幅広く対象とされています。ですから逆にいって、焦点は高木貞治博士にとどまらず、私のように高木博士以外の数学者はロクに知らない専門外の人間には少しハードルが高いかもしれません。最初に記しましたが、出版社は東大出版会ですし、目にしただけで拒否反応を起こす人がいそうな難解な数式は含まれていませんが、それでも学術書に近いと覚悟して読んだ方がいいような気がします。

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次に、堀啓子『日本ミステリー小説史』(中公新書) です。著者は日本近代文学を専門とする東海大学文学部の教授であり、本書は科研費補助金を受けた学術研究の成果となっています。ですから、それなりに学術書の体裁になっているんですが、内容は一般向けというか、タイトルから理解される通り、我が国のミステリ・ファン向けにも十分読み応えがあるようになっています。ただし、副題が「黒岩涙香から松本清張へ」となっていることに表れているように、平成やましてや21世紀のミステリは対象外になっています。誠に残念ながら、私が愛読している昭和末期から平成初期のバブル経済期に始まった新本格派ミステリ、おそらくその嚆矢は綾辻行人の『十角館の殺人』だと思うんですが、こういった京大ミス研の法月綸太郎や同志社の有栖川有栖などは取り上げられていません。でも、学術書ですから、ミステリの定義をしっかりと提示しており、時間をさかのぼった思考過程に求めています。当然ながら、本格ミステリはポーの『モルグ街の殺人』をもって始まります。我が国ミステリ文学は明治期の黒岩涙香などの翻訳小説、あるいは、海外原作のミステリの翻案から始まり、一度、明治26年19世紀末にピークを迎えた後、四半世紀の下り坂の雌伏の期間を経て、大正から昭和初期にかけて活躍した江戸川乱歩によって再興されます。「二銭銅貨」の衝撃がよく伝わってきます。さらに、15年戦争の期間は娯楽小説たるミステリは不遇をかこち、戦後になって金田一耕助、明智小五郎に続く神津恭介の三大名探偵の時代を迎えます。今週の読書一番の本はこれだったかもしれません。

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最後は今週の読書湯いい湯の小説である百田尚樹『フォルトゥナの瞳』(新潮社) です。ややネタバレなんですが、主人公は自分以外の人の死がおぼろげながら予測でき、近く死ぬ人は体が透けて見えるという特殊能力というか、何というか、そういう特性を持っていて、でも、その人の死を避けるような行動を取れば自分の体調悪化というリパーカッションがある、という設定です。なお、この特殊能力は主人公だけでなく、ほかにも何人かこの小説に登場します。ちょっと見では、「ハリー・ポッター」シリーズの第7巻あたりでも話題になった「より大きな善」に対する態度をどうするか、のようにも見えるんですが、私は違うと感じています。この小説であたかも賞揚されているがごとき、altruistic な態度というのは、あるいは立派な態度なのかもしれませんが、特に、この作者の小説で取り上げられる場合には、「より大きな善」が容易にニセモノと取り替えられるリスクを考えるべきです。この作者の作品で私が最初に読んだのは『永遠の0』で、主人公姉弟の祖父は、いかにも selfish に空中戦を避ける戦闘機乗員だったように見えながら、最後は特攻隊員として死神に囚われる、といったストーリーだったんですが、神風特攻隊でも「祖国防衛」などのニセモノにすり替えられた「より大きな善」という美名のもとに altruistic な行為を強要された歴史があることを忘れるべきではありません。selfish な思想や行為よりも altruistic な方がより価値あるように見える場合も少なくありませんし、実際にそうなのかもしれませんが、特にこの作者の作品を読んだ後の感想を述べるならば、市民としての幸福追求の権利をせいいっぱい発揮すべきことを訴えたいと思います。最後に、何らかの意味で「帳尻が合う」という考え方は、いわゆる平均への回帰も含めて、私は支持するんですが、この小説では少し奇怪な帳尻合わせが見られます。すなわち、altruistic に人の死を回避するというのがもしも「善」であるなら、主人公にはもっといいことが起こるハズなんですが、なぜか、死神の方の帳尻だけが合うようになっています。これも不思議な気がします。善悪の境がかなり恣意的に設定される危険を暗示していると私は受け止めています。

この週末は、なぜか、赤川次郎の「三姉妹探偵団」シリーズを大量に10冊くらい借りています。ほぼ「読書の秋」の季節も終わり、肩のこらない気軽な読書を楽しみたいと思います。明日と明後日は何もなければブログは書かずに、のんびりと過ごしそうな気がしないでもありません。

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2014年11月21日 (金)

野村総研「金融資産保有調査」に見る日本の富裕層やいかに?

今週の火曜日11月18日にの野村総研から我が国における2013年の純金融資産保有額別の世帯数と資産規模の推計結果が公表されています。結果は、ニュースリリースのタイトルに従えば、「日本の富裕層は101万世帯、純金融資産総額は241兆円」ということになります。

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まず、上の画像は野村総研のサイトから引用した2000年から2013年までの「純金融資産保有額の階層別にみた世帯数と各層の保有資産規模の推移」です。毎年調査ではないようですから、調査年は少し飛ばされているのもあります。超富裕層、富裕層、準富裕層、アッパーマス層、マス層の定義は画像の上のピラミッドのように見えるパネルの左側にある通りです。「日本の富裕層は101万世帯」というのは、純金融資産5億円以上の超富裕層5.4万世帯と1億円以上5億円未満の富裕層95.3万世帯の合計です。

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最初の画像の下半分の表から、ざっくりと各層の1世帯当たりの純金融資産保有額を計算してプロットしたのが上の棒グラフです。有効数字は2ケタくらいかもしれません。ついでに、世帯当たりの純金融資産保有額の格差、すなわち、超富裕層/マス層と超富裕層/アッパーマス層の比率を計算して折れ線グラフで示してあります。サブプライム・バブル期にジワジワと拡大していた格差がリーマン・ショックとともに弾けましたが、最近時点ではこの格差はバブル崩壊前の水準に戻っていたりします。

特に大きな含意はなく、やや興味本位かも知れませんが、週末前の軽い話題としてご紹介しておきます。なお、我が家は野村総研の定義に従えば当然ながら世間の8割を占める金融資産3000万円未満のマス層に属しており、それどころか、住宅ローンを背負っていますので、純金融資産はマイナスだったりします。

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2014年11月20日 (木)

今日発表の貿易統計から輸出は持直しのきざしが見えるか?

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインとなる輸出額は前年同月比+9.6%増の6兆6885億円、輸入額も+2.7%増の7兆3985億円、差引き貿易赤字は▲7100億円を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易統計が改善、赤字35%減・輸出9.6%増 10月
財務省が20日発表した10月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は7100億円の赤字だった。貿易赤字は28カ月連続だが、前年同月に比べ赤字額は35.5%減少した。アジアや米国、欧州連合(EU)の各地域向けに輸出額が増え、輸出全体の数量指数も2カ月連続で前年を上回った。
QUICKが19日時点で集計した貿易収支の民間予測の中央値は1兆224億円の赤字だった。輸出額は前年同月比9.6%増の6兆6885億円で、2カ月連続で増加した。自動車や船舶、鉄鋼などの輸出増加が寄与した。アジア向けは10.5%増の3兆6003億円で、うち対中国は7.2%増の1兆2296億円。アジア、中国向けともに輸出額は、現行基準で比較可能な1979年以降、10月として最大となった。輸出全体の数量指数は4.7%増と、2カ月連続で前年を上回った。2カ月連続の増加は、2013年10-12月に3カ月連続増加して以来となる。
一方の輸入額は2.7%増の7兆3985億円で、10月として最大だった。携帯電話を含む通信機、肉類、液化天然ガス(LNG)の増加が目立った。アジアからは4.2%増の3兆4619億円で、うち対中国は9.6%増の1兆8164億円。EUからの輸入額は4.9%増の6997億円。いずれも10月としては最大となった。
為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル108円36銭で、前年同月比10.3%の円安。地域別の貿易収支は対アジアが1384億円の黒字と2カ月ぶりに黒字になったが、対中国は32カ月連続の赤字だった。

いつもの通り、とてもよく取りまとめられている記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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季節調整していない原系列の統計で見て、引用した記事にもある通り、10月には貿易赤字が縮小しました。その寄与は我が国の内需の停滞に起因する輸入サイドの鈍化もなくはないものの、輸出が伸びた要因、特に輸出数量の伸びが寄与した貿易赤字縮小と受け止めています。ただし、季節要因もかなりあって、上のグラフのうちの下のパネルで見て、季節調整済みの統計では、まだまだ貿易赤字はほぼ▲1兆円に近いレベルの9775億円だったりします。季節調整済みの系列の貿易赤字はなかなか縮小を見せていないんですが、今年3月の消費税率引上げの前後から輸入額も輸出額も増加に転じているのが見て取れ、輸出額はほぼ1年間の横ばい状態から増加基調に転じた可能性が高いと考えるべきです。いずれにせよ、消費増税前の駆込み需要からの反動で輸入が減少した縮小均衡のような貿易赤字縮小ではなく、10月の統計では輸出入とも前年同月比で増加した中で輸出の伸びの方が大きい結果として貿易赤字が縮小していますので、決して悪い姿ではないと私は見ています。

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上のグラフは輸出の動向をフォローしています。上のパネルは季節調整していない輸出額の前年同月比の伸び率を数量と価格で要因分解しており、下のパネルは輸出数量とOECD先行指数のそれぞれの前年同月比をプロットしています。ただし、OECD先行指数は1か月だけリードを取っています。輸出数量の伸びが足元で高まっているのが見て取れます。ただし、まだまだ価格要因による輸出額の押上げの寄与も大きくなっています。円安が進んでいるので当然です。下のパネルを見ると、OECD加盟の先進国の景気がそれほどの回復を示していないにもかかわらず、10月の輸出が伸びているのが見て取れます。引用した記事にもある通り、地域別に見ても10月の輸出は米国・欧州・アジアともに伸びており、特にアジアや新興国がけん引したという姿にはなっていません。ですから、1変数の univariate でトレンドだけを追うと輸出数量が回復したように見えるんですが、説明変数として海外経済の動向から輸出を予測すると、必ずしも、このまま増勢が続くかどうかは疑わしいとも見えます。1年ほどの長きに渡って低迷を続けてきた輸出数量ですから、価格効果を見た場合、そろそろJカーブ効果も終わって回復する時期に差しかかった、と言われればそうかもしれないと思う一方で、輸出数量の需要効果の要因を見た場合、海外経済、特に欧州経済低迷のリスクがまだ残るのは確かだと考えるべきです。私は先行きについて楽観主義者なんですが、現時点では、輸出の先行きに関して楽観的になるのはまだ早い可能性を指摘しておきたいと思います。

メディアの報道によれば、明日、衆議院が解散され12月に総選挙が予定されているようです。国家公務員の末席に名を連ねる身として、選挙の行方は直接に上司を決定しかねませんから大いに注目しております。

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2014年11月19日 (水)

今年の年末ボーナスの予想やいかに?

先週11月11日にみずほ総研が最後にリポートを発表して、いつものシンクタンク4社から年末ボーナス予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因ですので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほ総研以外は国家公務員となっています。なお、いつものお断りですが、みずほ総研の公務員ボーナスだけはなぜか全職員ベースなのに対して、ほかは組合員ベースの予想ですので、数字が大きく違っています。注意が必要です。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研37.7万円
(+2.8%)
63.1万円
(+10.3%)
収益が改善するもとで人件費が抑制されてきたため、労働分配率は、既に過去に人件費が増加に転じた水準を下回るまで低下。さらに、人手不足感の強まりが賃金上昇圧力に。デフレ脱却に向けた政府による賃上げのムード作りもあり、2014年度入り後、賞与額のベースとなる所定内給与がプラス転化。このため、今冬賞与の伸びは、2014年度夏季並みとなる見込み。
第一生命経済研37.4万円
(+1.9%)
n.a.
(+20.4%)
前年比+1.9%という伸びは、冬のボーナスとしては2004年以来の高い伸びであり、ボーナス増が明確化している事実は変わらない。また、一人当たりのボーナス支給額増加に加え、雇用情勢の改善を受けてボーナスの支給対象労働者数も前年比+2.8%と高い伸びが見込まれる(2014年夏: +2.6%)。結果として、支給総額は前年比+4.7%と大幅に増加するだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング37.7万円
(+2.8%)
66.6万円
(+16.5%)
2014年冬のボーナスの支給総額(= 一人あたり平均支給額×支給労働者数)は、一人あたり平均支給額と支給労働者数がともに増加するとみられることから、15.2 兆円(前年比+5.4%)と大きく増加する見込みである。
みずほ総研37.5万円
(+2.2%)
76.8万円
(+11.3%)
民間企業と公務員を合わせた冬のボーナスの支給総額は2年連続で増加し、前年比+5.5%と非常に高い伸びが見込まれる。冬のボーナスの増加は、物価上昇に伴う実質所得の減少などを背景に回復が遅れている個人消費を押し上げる原動力になると期待される。

ということで、今年のボーナスは夏季も年末もそれぞれに増加が見込まれています。しかしながら、企業収益から見てボーナスが渋いと見えるのは事実で、吉川教授の『デフレーション』の指摘のように、日本では賃金が上昇しない構造になってしまったのかと疑いたくもなりますが、おそらくは、まだまだデフレ期待が根強く残っているためと私は見ています。それから、公務員ボーナスの伸びが著しく高いのは、震災復興財源捻出の一環として、例えば、国家公務員賞与では9.77%もの削減が実施されていたが、この特例措置が2014年3月に終了しているためです。いずれにせよ、民間ボーナスはわずかな伸び率とはいえ、消費税率の引上げに起因する物価上昇にほぼ匹敵しますし、さらに、支給対象者も拡大して、マクロの消費を活性化させる可能性が十分あると受け止めています。来月のボーナス支給を楽しみに待ちたいと思います。

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上のグラフは三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートから 図表3. 冬のボーナス予測: 平均支給額(前年比)と支給月数 を引用しています。企業収益に比較したボーナスの伸び率が低いと書きましたが、時系列で見て最近ではかなり高い伸びだというのが実感されます。

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2014年11月18日 (火)

片岡剛士『日本経済はなぜ浮上しないのか』を読む!

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ご著者よりちょうだいした片岡剛士『日本経済はなぜ浮上しないのか』(幻冬舎) を読みました。副題は『アベノミクス第2ステージへの論点』となっていて、第1ステージの解説とともに、この先の経済政策のあり方などについて展望しています。

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まず、アベノミクスの3本の矢の関係については、p.25 図1-1で上のように整理しています。上の画像は著者がご勤務の会社で運営しているサイトにアップしてある「安倍政権の経済政策と2013年・2014年の日本経済」と題するリポートから引用しています。私もほぼ同じ考え方をしていて、第3の矢の成長戦略というのは中長期的な潜在成長率を引き上げる、すなわち、上の図では潜在成長経路を上方シフトさせる、あるいは、傾きを大きくする、または、その両方と考えていて、短期ではおそらく全体の8割くらいは金融政策によるデフレ脱却、成長加速、そして、マクロ経済の安定化を目指しており、ただし、金融政策はラグが長いため、時間を買う政策として財政出動に頼る、という形になっていると認識しています。本書では、アベノミクスは成長に特化した経済政策パッケージであると喝破しています(p.22)。他方、逆から見れば、所得再分配政策は抜け落ちていて、本書ではこの点は指摘されていますが、さらに突っ込んでいえば、格差是正は当面の間なりとも無視されているといっても差し支えありません。ですから、本書でも家計調査を引いて、現在の消費の盛り上がりは上位20%の富裕層によるものであると分析しています(p.39)。
さらに、本書第2章と第3章では経常収支や貿易収支にも焦点を当てるとともに、付録で国際収支統計について解説を加えていますが、要するに、長く続いた日銀の失政に起因する円高のために、製造業を中心に空洞化が生じて、円安に振れても現地生産主体の製造業の輸出が伸びずに、貿易収支が円安で黒字化しない、と結論しているようです。なお、貿易収支の動向に関しては、下にリファレンス先をお示しした清水・佐藤論文がかなり標準的な見方を提供していると考えていて、このペーパーでも、やっぱり、特にリーマン・ショック以降の円高に伴う現地生産・産業空洞化の進展により、足元の円安でも輸出が伸びにくい産業構造に変化している点を指摘するとともに、pricing-to-market 行動が支配的になり円安で価格を引き下げた「集中豪雨的な輸出」がなされなくなったために貿易収支の改善に結びついていないながらも、為替効果で我が国の主要産業は着実に国際競争力を高めていることを実証しています。ということで、貿易収支はその通りなんですが、ついでながら、経常収支についても高齢化の進展とともにマクロの貯蓄率が低下して、遠くない将来に赤字化する可能性も示唆しておきたいとおもいます。

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そして、2014年前半の日本経済失速の最大の原因は、何といっても、2014年4月からの消費増税ショックであることは、多くのエコノミストの意見が一致しています。本書 p.132 図4-3 でも引用している「日本経済ウォッチ (2012年7月号)」から 消費税引き上げが個人消費に及ぼす影響 の概念図を引用すると上の通りです。ただし、本書第4章では、賃金の動向やメディアの報道などの資料を分析していますが、その原因について、何の責任もなく貧弱なメディアで勝手な意見を表明しているだけの私から見れば、やや突込み不足の感が否めません。私自身の直感としては、昨夜の7-9月期GDP速報1次QEを取り上げた記事でも書いた通り、来年2015年10月からの消費税率再引上げに備えた家計の生活防衛に伴う貯蓄率の上昇、あるいは同じことですが、消費性向の低下が現在の景気の足踏みの原因のひとつではないかと考えており、別の表現をすれば、ルーカス批判がピッタリと当てはまるケースであろうと受け止めています。もっとも、現時点で利用可能な家計調査などのデータを見ても、それらしい動きはなく実証できませんから、あくまで暫定的な仮説の域を出ないんですが、逆に、消費税率の10%への再引上げが延期されて消費が持ち直した後、消費増税のスケジュールの1年くらい前から再び消費が弱含むようなことになれば、あるいは、有力な仮説のひとつとみなされる可能性があります。そして、本書では第5章を「増税を延期し、アベノミクスを再起動せよ」と題して、メディアや政界で来年10月からの消費税率再引上げの延期の情報が広まる前に、まさに的確な方向性を打ち出していた点を強調しておきたいと思います。
ほかに、誠についでながら、私が本書に大いに賛同できる点を、単なる羅列で申し訳ありませんが、3点だけピックアップすると以下の通りです。

  • 「すでに景気後退局面に入っている可能性が非常に高い」(p.141)
  • 「消費増税の影響緩和策として法人税減税や投資減税を行うのはナンセンス」(p.181)
  • 「景気回復の恩恵がすべての人々に行き渡っていないという指摘は正しい」(p.201)

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士主任研究員からご著書『日本経済はなぜ浮上しないのか』をちょうだいしましたので、誠に貧弱なメディアながら、我がブログで取り上げました。なお、何らかの影響をケインズ経済学から受けたマクロエコノミストとして、長期の議論を "In the long run, we are all dead." として、当面避けるのは理解します。しかし、アベノミクスを考える場合、消費増税を先送りする場合、財政のサステイナビリティの間にあり得べきトレードオフの議論は避けて通れませんし、格差是正についても中長期的な経済政策の課題と考えられることから、これも含めたさらなるご活躍を祈念しております。なお、エコノミストに限らず、多くの方々からのご著書の寄付は随時受け入れております。

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2014年11月17日 (月)

7-9月期GDP速報1次QEは2四半期連続のマイナス成長を記録!

本日、内閣府から7-9月期のGDP統計速報1次QEが発表されています。季節調整済みの前期比成長率が▲0.4%、年率で▲1.6%のマイナス成長を記録しました。4-6月期に続いて2四半期連続のマイナス成長であり、テクニカルなリセッションと目される成長率水準といえます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP年率1.6%減 7-9月、消費回復に遅れ
内閣府が17日発表した2014年7-9月期の実質国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.4%減、年率換算で1.6%減と2四半期連続のマイナスとなった。QUICKが集計した14日時点の民間予測のレンジ(0.8%増-3.5%増)の下限を大きく下回るマイナス成長となった。消費増税後の反動減からの回復が見込まれていた内需の不振が鮮明になっている。民間設備投資の減少が続いたうえ、天候不順によって個人消費の回復も遅れている。在庫の取り崩しが進んだことも見かけ上の成長率を押し下げた。
生活実感に近い名目成長率は0.8%減、年率で3.0%減となった。安倍晋三首相は今回の結果などを踏まえ、2015年10月からの消費税率10%引き上げの是非を最終判断する。
実質成長率への寄与度で見ると、国内需要が0.5ポイント押し下げた半面、輸出から輸入を差し引いた外需は0.1ポイントの押し上げ要因となった。
内需のうち個人消費は0.4%増と2四半期ぶりプラス。4月の消費増税の駆け込み需要の反動減は薄れつつあるものの、夏場の天候不順や物価上昇などが重荷となった。設備投資は0.2%減と2四半期連続のマイナス。生産回復の遅れによる稼働率の低下が響いた。
住宅投資は6.7%減と2半期連続で減ったが、減少幅は4-6月期の10.0%減から縮小した。住宅着工数の減少が続いている。公共投資は13年度補正予算や14年度予算の前倒し執行が進み、2.2%増と2四半期連続のプラスとなった。
外需は輸出が1.3%増。スマートフォン向け電子部品などが伸びた。一方、輸入は0.8%増だった。その結果、成長率に対する外需寄与度は2四半期ぶりにプラスとなった。
総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比でプラス2.1%となり、2四半期連続でプラスだった。国内の物価動向を表す国内需要デフレーターはプラス2.4%と3四半期連続のプラスだった。
実質季節調整系列の金額ベースで見ると522兆8301億円で、13年1-3月期(521兆3016億円)以来の低い水準だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。ですから、4-6月期だけでなく7-9月期も消費税率引き上げの影響が残っています。当然ながら、来年2015年1-3月期まで残るハズです。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2013/7-92013/10-122014/1-32014/4-62014/7-9
国内総生産GDP+0.6▲0.4+1.6▲1.9▲0.4
民間消費+0.3▲0.0+2.2▲5.0+0.4
民間住宅+4.3+2.2+2.3▲10.0▲6.7
民間設備+0.7+0.8+7.5▲4.8▲0.2
民間在庫 *(+0.3)(▲0.1)(▲0.5)(+1.2)(▲0.6)
公的需要+1.1+0.5▲0.6+0.1+0.7
内需寄与度 *(+1.0)(+0.2)(+1.8)(▲2.9)(▲0.5)
外需寄与度 *(▲0.4)(▲0.6)(▲0.2)(+1.0)(+0.1)
輸出▲0.6+0.2+6.4▲0.5+1.3
輸入+1.8+3.7+6.2▲5.4+0.8
国内総所得 (GDI)+0.4▲0.4+1.2▲1.6▲0.8
国民総所得 (GNI)+0.0▲0.4+0.9▲1.3▲0.4
名目GDP+0.4+0.1+1.5▲0.1▲0.8
雇用者報酬 (実質)▲0.5▲0.1+0.2▲1.4+0.7
GDPデフレータ▲0.4▲0.4▲0.1+2.0+2.1
内需デフレータ+0.4+0.5+0.7+2.4+2.4

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7-9月期の最新データでは、前期比成長率が4-6月期に続いてマイナスであり、赤の民間消費と黄色の公的需要が小幅のプラス寄与を示す一方で、グレーの民間在庫のマイナス寄与が大きく、緑の民間住宅も小幅ながらマイナス寄与を示しているのが見て取れます。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは前期比成長率で+0.5%、前期比年率で+2.0%成長でしたので、マイナス成長は予想外で大きなネガティブ・サプライズでした。このブログで先週金曜日にお示しした1次QE予測でもマイナス成長を予測したシンクタンクはありませんでしたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでもレンジの最低値は前期比で+0.2%成長でした。同時に、今日発表された統計では4-6月期の前期比成長率も▲1.9%に下方改訂されており、2四半期連続のマイナス成長ですから、テクニカルに景気後退入りしたと受け止める向きもありそうです。基本的には、消費増税前の駆込み需要に対する反動減と物価上昇に伴う実質所得の減少が4-6月期にとどまらず、年央以降の消費を冷え込ませた結果と考えられますが、もうひとつの要因として、来年10月からの消費税率の再引上げに備えた家計の生活防衛、すなわち、消費性向の低下ないし貯蓄率の上昇が上げられると私は考えています。さらに、統計的には予想以上に在庫調整が進んだために、在庫の寄与度のマイナスが大きかったことも上げられます。事前の予想ではGDP前期比成長率への寄与度で見て▲0.1-0.2%程度のマイナス寄与と見込まれていた在庫調整の進展が▲0.6%でしたので、これだけでマイナス成長を説明できてしまいます。でも、在庫調整の予想外の進展を除いても、ほぼゼロ近傍の成長だったんですから、これはこれでかなりの低成長と考えるべきです。

先行きに関しては、大和総研のリポートで指摘されているように、実質雇用者報酬が前期比で改善したことをもって、「家計を取り巻く雇用・所得環境は底堅い」とまで結論するのは、夏季賞与を考慮すれば疑問が残るとしても、在庫調整のテンポが想定外にスピーディーだったという側面もあるわけですから、ニッセイ基礎研のリポートで分析されている通り、「景気の実勢はヘッドラインの数字が示すほどは悪くない」というのは事実であり、みずほ総研のリポートでも「在庫投資のマイナス寄与がはく落する」とされている10-12月期にはプラス成長が見込まれていることから、過度に悲観する必要はないものの、景気回復・拡大が大きく停滞しているのも事実と受け止めなければなりません。

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2014年11月16日 (日)

今週のジャズは山中千尋「サムシン・ブルー」

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我が国を代表する女性ジャズ・ピアニストの1人である山中千尋のアルバム「サムシン・ブルー」を聞きました。初回限定盤のCDとか、DVD付きとか、何と、アナログのLPまで、いくつかアルバムのバージョンがあるようですし、それに従ってジャケットが違うみたいなんですが、私が聞いたのは上のジャケットのアルバムです。このアルバムは、従来のピアノ・トリオの演奏ではなく、ホーンを加えたセクステットやクインテット編成に初挑戦するなど新境地に向かおうとする意気込みが感じられます。まず、曲目の構成は以下の通りです。山中千尋のオリジナル曲を中心に、ブルーノートで演じられてきたジャズのスタンダード曲を何曲かミックスしています。

  1. Somethin' Blue
  2. Orleans
  3. I Have a Dream
  4. Un Poco Loco
  5. Funiculi Funicula
  6. A Secret Code
  7. Pinhole Camera
  8. For Real
  9. On the Shore
  10. You're a Fool, Aren't You
  11. Go Go Go

アルバムのタイトルにもなっている「Somethin' Blue」は山中千尋のオリジナル曲なんですが、女性が結婚式で身につけると幸運をもたらすといわれる4つのアイテム、すなわち、something blue, something old, something new, something borrowed のひとつだと私は直感してしまいました。もしそうだとすれば、この先4部作のアルバムが出来上がるのかもしれません。もちろん、違うのかもしれません。山中千尋もビートルズやポピュラー・ソングを取り上げたり、このアルバムではホーンを入れたコンボを組んでみたりと、いろいろと試行錯誤しているようですが、誠に残念がら、私はそれほど評価していません。迷いなく前進を続ける上原ひろみとの差は歴然たるものになった気がします。今でも、山中千尋の最高傑作と私が考えているアルバムは、マイナーの澤野工房最後のアルバム「Madrigal」か、メジャ・デビューしたヴァーヴの最初のアルバム「Outside by the Swing」だと考えており、これらを凌ぐアルバムはまだ接していません。

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2014年11月15日 (土)

今週の読書6冊のうちの経済書3冊はややハズレかも?

今週の読書は経済書・専門書が3冊と小説も3冊で、以下の通り、『英エコノミスト誌のいまどき経済学』のほか、合計6冊です。アチコチの図書館から借りまくっていて、これが本でなくて借金なら首が回らなくなっているかもしれません。ややオーバーフロー気味です。だからというわけでもないんでしょうが、今週読んだ経済書・専門書はやや疑問符の多い本ばかりでした。残念ながら、経済書3冊ともオススメしません。

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まず、サウガト・ダッタ編『英エコノミスト誌のいまどき経済学』(日本経済新聞出版社) です。上の画像に示された表紙やタイトルなどから、いかにも読書欲をそそられる人も多そうな気がしますが、誠に残念ながら、実際に読んだ私は決してオススメしません。まず、内容が新たに書き下ろされたものではなく、今までに「エコノミスト誌」に掲載された記事をそのまま寄せ集めただけです。私のような記憶の不確かな人間でも見たような気がする記事が収録されていたりしました。そして、内容的にも決して最新ではありません。2010年くらいまでの記事を集めて2011年に出版されていますので、少し違和感ある内容の記事もいくつか散見されます。ですから、最後の「訳者あとがき」に正直に書かれている通り、本来は3部構成の原書をコンテンポラリーな内容を持つ第2部を割愛して邦訳として出版されています。私の目から見ても、いくつか専門外の分野の文献や論文を新たに発見したのは事実ですが、一般読者にとってどこまで有益な本であるかは疑問が残ります。英国の「エコノミスト誌」は経済誌というよりは、むしろ、日本語で表現するのは少し難しいんですが、英語でいうところの quality paper に近い存在であって、経済関係にとどまらず、それなりに固定的なファンも少なくないでしょうから、「英エコノミスト誌」が好きな人は読むのがいいような気がしないでもありません。私の場合は割合とニュートラルでしたので図書館で借りました。もちろん、もっと好きな人は買うべきかもしれません。

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次に、タイラー・コーエン『大格差』(NTT出版) です。コーエン教授の前著『大停滞』の同じ出版社から出版され、それなりの反響があったと記憶していますが、誠に申し訳ないながら、私の記憶には残っていません。ひょっとしたら、読んでいないのかもしれません。なお、前著の原題は The Great Stagnation ということで、邦訳もそのままなんですが、本書は Average Is Over であり、少し趣向を凝らしていたりして、その分、疑問符が多くなったりします。本書の趣旨は、要するに、新たな技術革新のおかげで、機械を使いこなせる労働者と引き続き単純な未熟練労働にとどまる労働者の間で格差が広がり、前者が10-15%を占めるようになる、という議論です。このような議論は昔からあり、新たな技術革新が生ずるに当たって繰り返されてきた議論です。今回はどう違うのかについて何らかのエビデンスが欲しかった気がします。その一方で、本書では、単なるコンピュータではなく人工知能 AI に近いコンピュータを念頭に置いており、著者の得意分野であるチェスを例にした議論が延々と続きます。一定の基準を満たせない労働者が弾き出される、という意味でグーグル的な働き方を是認しているのはいいんですが、事後的な格差の是正についての議論はありません。市場経済では資源配分が効率的になされる一方で、所得分配の平等性が確保されないことから、そこは政府の役割と私のような官庁エコノミストは考えていますが、そのあたりは無視されています。しかも、今度の技術革新はコンピュータのワープロとか、表計算ソフトを使いこなすかどうかではなく、いきなり AI ですから、かなり大胆、というか、大雑把な議論に終始しています。また、通常の議論で「格差拡大」を論じる場合、所得の分布の平均となる山が低くなって両端が厚くなる(fat tail)分布を思い浮かべるんですが、本書の場合はツイン・ピークスを前提にしているのかもしれません。明確な言及はありません。本書の結論の中で私が合意する数少ない点が教育に関する第10章にあります。すなわち、「重要性が高まるのは、落ち着いて机の前に座り、学習に取り組める性質の持ち主かどうかだ。そこで、教育のかなりの部分は、真面目さをはぐくむことを目的とするものになる。」(p.242)という部分です。

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次に、ウリ・ニーズィー/ジョン A. リスト『その問題、経済学で解決できます。』(東洋経済) です。タイトルから分かりにくいんですが、サブプライム・バブルが始める前にはやったような経済学礼賛本、すなわち、人間はインセンティブに反応するので、経済学によってインセンティブ構造を明らかにすれば、マイクロな人間行動は経済活動に限らずすべて解明できる、とするタイプの少し恥ずかしい本ではありません。さすがに現在ではそんな本は出版されない気がします。そうではなく、実験経済学の本です。フツーの男性優位な社会と母系社会では、競争についての性差はどのように現れるか、といった興味深いテーマもありますが、先週の読書感想文のブログで取り上げた『リターン・トゥ・ケインズ』にあったようなマクロ経済学のミクロ的な基礎づけなんて、もはや間違いだらけの経済学のひとつですから、インセンティブに反応するマイクロな経済学がどこまで経済政策に有用かも疑問が残ります。当然ながら、お金をインセンティブとしてバラまけば多くの有益な結果がもたらされることも事実ですが、マクロな費用対効果の考えというのは実験経済学にはないのでしょうか。1万ドルの便益を得るために10万ドルのインセンティブを必要とするのであれば、経済学者はどのように考えるか、一般市民や納税者はどのように考えるか、もう少し常識的な目線を持ちたい気がします。例えば、p.127 にある通り、100万ドルのインセンティブをチラつかせても、2階の線形偏微分方程式を解けない人は解けないという事実は明らかです。インセンティブがあっても出来ないことは出来ないわけです。今日のエントリーで最初に取り上げた『英エコノミスト誌のいまどき経済学』の p.218 では「経済関係のあらゆるバブルの中でも、経済学そのものの評判ほど華々しく弾けたものはめずらしい」との指摘があります。この本の著者にはよく噛みしめて欲しい気がします。

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経済書を終えてフィクションの小説に入って、次に、下村敦史『闇に香る嘘』(講談社) です。今年の第60回江戸川乱歩賞受賞作です。とても重いテーマばかりなんですが、戦前の満州開拓団と終戦直後の日本への引揚げ、それに関して残留日本人孤児とその帰国、さらにさらにで、生体腎移植まで絡む上に、主人公のストーリ・テラーが全盲と来ています。物語としては、全盲の主人公の孫娘への生体腎移植を主人公が兄に依頼するところから始まり、兄が頑なに拒否するところから血のつながりに疑問を持った主人公が、兄が偽装孤児ではないかと満州開拓団当時の日本人を訪ね歩いたり、帰国の際の話を聞いて回ったりするところから、意外な真実が明らかにされるというものです。ほとんどネタバレに近いんですが、最後に取りまとめられている選評で桐野夏生が「すべての疑いが反転して、自分の身に跳ね返ってくる終章には息をのむ迫力があった」と書いています。私から見ても、満州開拓団についてはどれくらいの取材をしたのか知りませんが、それなりに私のような歴史観についてのシロートには納得のいくストーリーですし、満州開拓団や日本への引揚げ、さらには中国残留日本人孤児の問題などの「大きな物語」と孫娘の生体腎移植のドナー探しという家族に関する「しいさな物語」がうまくつながっている気がしました。また、母親が信じていた迷信めいた古くからの言い伝えが、妙に妊婦に関するものが多く、その昔のNHK朝ドラ「カーネーション」で主人公が妊娠していた時に火事を見て、「火事を見た妊婦はあざのある子を産む」といっていたのを思い出してしまいました。どうでもいいことですが、妊娠中はいわゆる「大事な体」ですので、それなりに体調を崩しそうなタブーが少なくなかったんだろう、という気がして読んでいました。こういった伏線が最後にはきれいに回収されます。重いテーマに挑みながらも、構成はなかなか見事です。でも、主人公が自ら事実を解明するのもいいんですが、何分、目の不自由な人の視点からの事実解明ですし、その主人公が自分自身でもかなり性格が悪かったと自覚している上に、孫娘の生体腎移植のドナー探しのためにかなりバイアスのかかった見方を提供しているのですから、出来れば晴眼者である誰かの客観的な解説も欲しかった気がしています。

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次に、湊かなえ『山女日記』(幻冬舎) です。「山ガール」という言葉が少し前に流行りましたが、この小説は山に登る女性を主人公にし、幻冬舎の文芸誌「GINGER L.」に連載されていた7編の短編を6篇に編み直した連作短編集です。ただし、1篇だけ十数年の時間の開きがあります。なお、主人公たちの女性の中でも中心になるのが何人かの丸福百貨店の女性達です。新宿にあるという設定だったような気がします。中央線や小田急線などを使って山へのアクセスがいいのかもしれません。広く知られている通り、この作品の作者はモノローグの手法を用いたミステリ、というか、やや読後感の悪いイヤミスの女王的な存在の1人なんですが、この作品はミステリではありませんし、決して読後感も悪くありません。結婚や離婚や仕事の行詰りや何やかやで、何らかの人生の分岐点において、山に登り頂上を目指し、風景や高山植物を楽しみ、日本百名山のひとつである妙高山の登山から始まって、最後はニュージーランドのトンガリロのトレッキングまで、女性のグループで、あるいは男女のカップルで、山に登る女性達のさわやかな物語です。私自身は誠に不調法ながら登山の趣味はなく、ほとんど経験もないんですが、そんな私にも分かりそうな登山の雰囲気を持った小説です。デビュー作の『告白』から始まったモノローグのイヤミスから新たな一歩を踏み出した作者の転機になる小説かもしれません。その意味で、先月発売された同じ作者の『物語のおわり』も短編集として大きな話題をさらい、著者の転機となる作品と目されていますので、私も機会を見つけて読みたいと考えています。

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最後に、中山七里『アポロンの嘲笑』(集英社) です。小説の最初に取り上げた『闇に香る嘘』が最後に一気に解決するタイプのミステリであるのに対して、この作品はタマネギの皮をむくようにストーリーが進むに従って徐々に真実が明らかにされるタイプのミステリです。私はこのタイプのミステリも大好きです。しかも、この作品はかっけーです。舞台は2011年3月11日の大津波で大損害を受けた直後1週間経過時点くらいの福島第1原発です。ともに神戸で1995年1月の震災で被災した20代の若者の原発作業員の間で何らかのいさかいがあり、一方が他方を殺害します。しかし、犯人は警察に護送される途中で逃走し、なぜか、福島第1原発に向かいます。警察の中でも刑事事件の解明に当たる刑事と左翼やテロの情報収集に当たる公安と、さらに加えて、陸上自衛隊、北朝鮮を強烈に示唆するアジア近隣国の独裁国家のテロリスト、等々が入り混じって、単純な殺人事件に見えた出来事があらぬ方向に展開し、最後は福島県警所轄警察署の刑事が真相にたどり着きます。逃亡殺人犯と見なされていた原発作業員が実はスーパーヒーローだったことが明らかになり、信号が停電のために交通整理に当たっていた警官の敬礼を受けて警察の刑事のバイクで福島第1原発に乗り込み、陸上自衛隊から借り受けた工具でもって無事にミッションをコンプリートし、実際に起こった原発事故をはるかに超える可能性のあった大事故というか、独裁国家のテロを未然に防止するという非常に「大きな物語」です。最初に書いた通り、私のようなカンの悪い読者にも無理なく理解できるように、ストーリーの進展とともに徐々に真実が明らかにされ、最後は一気にサスペンスフルな結末を迎える、とよく考えられたプロットです。今週読んだ本の中ではこの作品が一番でした。

実は、先週、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士主任研究員から、発売されたばかりのご著書『日本経済はなぜ浮上しないのか - アベノミクス第2ステージへの論点』(幻冬舎) をちょうだいしました。小説も取り混ぜた読書感想文のブログで紹介するのは失礼かと思い、というか、実はまだ読んでいないので、来週にでも単独で取り上げたいと考えています。

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2014年11月14日 (金)

来週月曜日11月17日発表の7-9月期1次QE予想やいかに?

来週月曜日の11月17日に7-9月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。4-6月期のGDP統計では前期比年率▲7.1%のマイナス成長を記録し、消費増税ショックの大きさが改めて実感されましたが、7-9月期にはどの程度のリバウンドが見られるのか、来年10月に予定されている消費税率の再引上げや、ひょっとしたたら、衆議院の解散までも含めて大きな注目を集めているところ、必要な経済指標がほぼ発表され尽くして、シンクタンクや金融機関などから1次QE予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、来年の消費税率再引上げの可否に関する論評を取りたかったんですが、ハイライトしたように、伊藤忠経済研のリポートがチラリと触れている以外は何ひとつありませんでした。どうしようもないので、伊藤忠経済研以外は7-9月期よりもさらに先行きの10-12月期を重視して拾っているつもりです。なお、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.5%
(+2.2%)
わが国景気は底堅さを維持。景気は緩やかなペースにとどまるとみられるものの、回復傾向が続く見込み。
大和総研+0.7%
(+2.8%)
先行きは、民需が底堅く推移することで、日本経済は着実に回復する見込みである。
みずほ総研+0.6%
(+2.3%)
10-12月期は個人消費や設備投資などの民需を中心に回復が続くと予想している。
ニッセイ基礎研+0.6%
(+2.4%)
景気の実勢は物価上昇に伴う実質所得低下の影響を主因として消費増税前よりも弱まっている。ただし、駆け込み需要の反動減を主因とした急速な落ち込みからの回復過程にあることが引き続き前期比ベースの成長率を押し上げるため、10-12月期も7-9月期と同様に個人消費、設備投資を中心に明確なプラス成長となる可能性が高い。
第一生命経済研+0.2%
(+0.8%)
現時点でのエコノミストのコンセンサスは前期比年率+2.0%である。筆者の見通しはそれよりはっきり低く、7-9月期のGDPはコンセンサス対比下振れのネガティブサプライズになる可能性が高いと予想している。
伊藤忠経済研+0.5%
(+1.9%)
1年後の消費税率引き上げの是非よりも、まずは当面の景気への配慮が必要な状況にあると言えよう。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+0.5%
(+2.1%)
消費増税に伴う駆け込み需要の反動減が一巡し、乗用車などの売れ行きが好調さを取り戻したことなどを背景に、個人消費が2四半期ぶりの増加となった可能性が高い。設備投資も、小幅ながら増加に転じたとみられる。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.4%
(+1.6%)
駆け込み需要の反動減の動きが落ち着いた後も、景気の持ち直しペースが鈍いことが示されることになりそうだ。
三菱総研+0.5%
(+2.0%)
消費税増税後の大幅なマイナスからは成長から持ち直すが、その回復ペースは鈍いとみられる。

ということで、第一生命経済研のコメントに取り上げたように、また、日経新聞のサイトにある記事も参考にすれば、大雑把に年率+2%、あるいは、+2%を少し超えたあたりがコンセンサスになっているように見受けられます。ただし、第一生命経済研の予想はハッキリとこれより低く、ネガティブなサプライズとなる可能性を示唆しています。また、伊藤忠経済研もコメントをハイライトしてありますが、「当面の景気への配慮が必要な状況」との見方が示されています。しかし、いずれにせよ、大方のコンセンサスである年率+2%成長でも、潜在成長率を超えるとはいえ、4-6月期に▲7%超のマイナス成長を記録した消費増税ショックからのリバウンドとしては低成長といわざるを得ません。従って、我が国景気の減速、というか、景気回復のテンポが極めて緩やかであることは明らかですから、来年10月からの消費増税に対して疑問を感じるエコノミストが少なくないのも事実です。この疑問に対して、メディアで報じられているように、衆議院の解散による民意の確認というのも、あるいは、ひとつの政策対応なのかもしれないと思ったりしますが、私のようなエコノミストの専門外であると考えています。

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最後に、上のグラフはいつもお世話になっているニッセイ基礎研のリポートから引用したGDP成長率の推移です。私はほぼこんなものかという気がしています。

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2014年11月13日 (木)

今日発表の機械受注と企業物価は相反する方向を示しているのか?

本日、内閣府から9月の機械受注が、また、日銀から10月の企業物価が、それぞれ発表されています。機械受注はヘッドラインとなる船舶と電力を除く民需が前月比+2.9%増の8316億円となり、企業物価は国内物価が前年同月比+2.9%の上昇、ただし、消費税の影響を除くと+0.1%を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月機械受注2.9%増 4カ月連続プラス、基調判断据え置き
内閣府が13日発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の受注額(季節調整値)は前月比2.9%増の8316億円だった。石油・石炭製品や運輸・郵便業向けの大型案件が発生し、4カ月連続のプラスだった。
QUICKが12日時点でまとめた民間予測の中央値(1.2%減)を大幅に上回った。内閣府は機械受注の判断を前月の「緩やかな持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
主な機械メーカー280社が製造業から受注した金額は12.0%増の3637億円と2カ月ぶりに増加に転じた。石油製品・石炭製品向けのボイラーやタービン、電気機械向けの半導体製造装置などが伸びた。
船舶・電力を除いた非製造業から受注した金額も1.7%増の4783億円と2カ月連続のプラスだった。通信業や情報サービス業からコンピューター、運輸・郵便業からボイラーやタービンの受注が増えた。
同時に発表した7-9月期の実績は前期比5.6%増の2兆4110億円だった。製造業からの受注増が寄与して2四半期ぶりのプラスに転じた。10-12月期は0.3%減と再びマイナスになる見通し。船舶・電力を除いた非製造業が回復する一方で、製造業は2四半期ぶりに減少すると見込まれている。
10月の企業物価指数、前年比2.9%上昇 原油下落で伸び率大幅鈍化
日銀が13日発表した10月の国内企業物価指数(2010年平均=100)は105.5で、前年同月比で2.9%上昇した。上昇幅は前月に比べて0.7ポイント縮小した。前月比では0.8%低下した。原油価格の下落による石油製品の下落や、夏期の電力料金割り増し終了などが影響し、伸び率は大幅に鈍化した。
消費税率引き上げの影響を除いたベースでは前年同月比0.1%の上昇。伸び率は4カ月連続で縮小した。伸び率は2013年4月(0.1%上昇)以来の低さとなった。日銀は11月についても原油価格の下落による物価押し下げ圧力は続くと見ている。
企業物価指数は出荷や卸売りなど企業間で取引する製品の価格動向を示す。公表している全814品目のうち、消費税の影響を除くベースで前年同月で上昇したのは396品目、下落は337品目だった。上昇した品目が下落した品目を上回るのは14カ月連続だった。

2つの統計の記事を並べるとやや長いながら、いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。影をつけた部分は、この次の企業物価のグラフとも共通して、景気後退期を示しています。

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船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注のベースで見て、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比で▲1.2%の減少だったわけですから、+2.9%の増加はやや上振れのサプライズでした。7-9月期の四半期で見ても前期比+5.6%増を記録し、10-12月期の見通しは▲0.3%減とマイナスながらほぼ横ばい圏内の動きと見込まれていますから、楽観的に見ると設備投資がそろそろ調整局面を終え、来年早々から年央には反転上昇の局面を迎える可能性が高まったようにも見えます。ただし、内需も外需もそれほどの伸びを見せていない段階で、どこまで設備投資が増加するかは需要面からは疑問が残ります。逆に、供給面からの理由であればいくつか思い浮かべることができます。すなわち、第1に人手不足から労働に代替する設備需要が生じてもおかしくない段階に来ています。第2に長らく設備投資が低迷していた間に資本ストックの更新投資レベルまで落ちていた、もしくは、更新レベルすら割り込んでいた設備投資が増加する可能性もあります。さらに、第3に企業部門が増益を記録する中で設備設備に対する資金不足が解消、もしくは、資金余剰が生じた可能性が上げられます。日銀短観に示された設備投資計画もそれを裏付けているように私には見えます。今後は、鉱工業生産指数(IIP)の資本財出荷などの動きをウォッチするとさらに設備投資動向が明らかになるんではないかと受け止めています。

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続いて、機械受注の四半期データが利用可能になりましたので、達成率のグラフを書くと上の通りです。これも船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注のベースです。4-6月期にはちょうど90%まで落ちましたが、7-9月期には100.7%まで上がりました。エコノミストの経験則である90%ラインを割ることなく、再び上昇に転じています。7-9月期の達成率が100%を超えていますので、現時点での10-12月期見通しの前期比▲0.3%減も達成率が100%を超えれば、ひょっとしたら、前期比プラスになる可能性もあるんではないかと考えています。

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次に、企業物価上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内と輸出入別の前年同月比上昇率を、下のパネルは需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。国内企業物価の前年同月比上昇率で見て、6月の+4.5%、7月の+4.4%から8月+3.9%、9月+3.6%、そして、10月+2.9%と急激に上昇幅が鈍化しました。消費税の影響を除くベースでは10月はとうとう+0.1%とほぼゼロ近傍に達しました。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスで+3.3%だった国内物価上昇率が+2.9%だったんですから、これはかなり下振れしたサプライズでした。基本的には、国際商品市況の下落に伴う石油の値下がりとこれを反映した国内の電力などのエネルギー価格の低下に起因する供給サイドの要因で下げていると考えられるんですが、需要サイドも消費増税ショックの後の回復が遅れている点も考慮すべきであると受け止めています。供給サイドについて数字を確認すると、10月の国内物価の前月比▲0.8%の下落のうち、電力・都市ガス・水道の寄与度が▲0.28%、石油・石炭製品が同じく▲0.27%とほぼ2/3を説明できますから、サプライ・サイドからのエネルギー価格の下落が企業物価上昇率縮小の最大の要因と考えるべきです。

本日発表された企業活動に関する指標は、一見しただけでは相反する方向を指し示しているように見えます。すなわち、機械受注は年内くらいの設備投資の調整局面の終了と来年早々から年央くらいに反転上昇する可能性を示唆し、企業物価上昇率の鈍化は消費増税ショックからの需要の回復の遅れを反映しているように見えます。しかし、設備ストックの更新レベルに近づいた設備投資がようやく増加に転じる兆しを示した一方で、エネルギー価格の下落に伴う供給サイドからの物価上昇の鈍化ですから、機械受注が示すほど企業活動は強くなく、同時に、企業物価上昇率の鈍化に表れているほど需要が弱いわけでもない、というのが結論であろうと私は考えています。

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2014年11月12日 (水)

社会保障費用統計に見る我が国の高齢者優遇やいかに?

昨日11月11日、国立社会保障・人口問題研究所から2012年度の「社会保障費用統計」が発表されています。2012年度の「社会保障給付費」総額は108兆5,568億円と過去最高を記録し、対前年度増加額は1兆507億円、伸び率は+1.0%となっています。まず、いつもの日経新聞のサイトからこの統計を報じた記事を引用すると以下の通りです。

社会保障給付、最高の108.5兆円 12年度1%増
国立社会保障・人口問題研究所は11日、年金や医療、介護など社会保障の給付が2012年度は108兆5568億円になったと発表した。前の年度から1%増え、過去最高を更新した。高齢者の増加で給付が膨らみ続けており、給付の抑制が急務だ。
社会保障給付費は、社会保障にかかる費用のうち、税金や保険料でまかなった分を示し、自己負担は除く。国民1人当たりに直すと85万円で前年より1.2%増えた。年金が5割、医療が3割、介護などが2割を占める。
社会保障のために国などが集めた費用は127兆555億円と9.9%増えた。株高と円安で年金積立金の運用収益が大幅に増え、資産収入が15兆9968億円と4.4倍に増えたため。厚生年金保険料など社会保険料も61兆4156億円と2.2%増えた。

いつもの通り、とてもよく取りまとめられた記事だという気がします。特に最初のパラの最後のセンテンスの結論が重要ですのでハイライトしてあります。

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上のグラフは1990年度から直近2012年度までの社会支出の推移を政策分野別に積み上げ棒グラフでプロットしています。政策分野が「他の政策分野」まで含めれば9アイテムありますのでゴチャゴチャしていますが、最初の5アイテム、すなわち、「高齢」、「遺族」、「障害、業務、災害、傷病」、「保健」、「家族」を押さえておけばいいんではないかと考えています。中でも「高齢」区分が大きなシェアを占めているのが見て取れます。特に、2012年度の社会保障給付費のほぼ半分が年金に消えています。詳細な金額を記せば、108兆5,568億円のうちの53兆9,861億円ですから49.7%に上ります。グラフを見た直感で、小泉政権下の2001年度から2004年度くらいまでは社会支出がかなり抑制されていたんですが、2008年の総選挙で民主党政権が成立した直後の2009年度はかなり大きく伸びているようにも見えます。なお、極めてお役所的な些事ながら、「社会支出」はOECD基準、「社会保障給付費」はILO基準で、ビミョーに違っているんですが、このブログでは気にせず論を進めます。

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常々からのこのブログでの主張で、我が国の高齢者優遇による世代間不公平のひとつの統計として上のグラフをアップデートしておきます。社会保障支出の政策分野別のシェアなんですが、高齢者向けのグレーと家族向けの赤で示してあります。上のパネルは社会保障給付費の政策分野別をシェア示しており、下はGDP比です。主要先進国であるG5と北欧の高福祉国と目されているスウェーデンを取り上げてあります。従来からのこのブログの主張なんですが、こうして世界の先進国と並べて見ると、高齢化比率が高いとはいえ、我が国の高齢向けの社会保障給付費は突出しています。高齢者の優遇と世代間不公平がとても大きいというわけです。ですから、極めて大雑把な計算ながら、我が国の社会支出や社会保障給付費がほぼ100兆円、GDP比で20%くらいですから、せめて5兆円、GDP比で1%、出来れば、10兆円、GDP比で2%くらいを高齢向けから家族向けに振り替えると、GDP比という身の丈に合わせた基準でほぼスウェーデンと同じになります。現状の我が国社会保障給付費は北欧の高福祉国スウェーデンもびっくりの高齢者優遇になっている点を忘れるべきではありません。

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2014年11月11日 (火)

景気ウォッチャーと消費者態度指数と国際収支やいかに?

本日、内閣府から景気ウォッチャー消費者態度指数が、また、財務省から経常収支が、それぞれ発表されています。景気ウォッチャーと消費者態度指数は10月が、経常収支は9月が、それぞれ、最新データとなっています。まず、長くなりますが、関連する記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

10月の街角景気、現状判断2カ月ぶり悪化
4月以来の基調判断下げ

内閣府が11日発表した10月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は前月比3.4ポイント低下の44.0だった。悪化は2カ月ぶり。好不調の分かれ目となる50を3カ月連続で下回った。内閣府は街角景気の基調判断について「このところ弱さがみられる」との表現を新たに加え、今年4月以来、下方修正した。
10月の基調判断は「このところ弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている」。前月の判断は「緩やかな回復基調が続いており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減の影響も薄れつつある」としていた。内閣府は「家計の消費に慎重さがみられる」と指摘する。
現状判断では「消費税増税から半年になるが、消費を控えたり、より安い店を探す客が増え続けている」(中国・乗用車販売店)との見方や「この2-3カ月は消費税増税後の低迷から回復の兆しが見えてきたかと思われたが、足元では大きく後退している」(東海・百貨店)との声が聞かれた。
一方、2-3カ月後の景気を占う先行き判断指数は前月比2.1ポイント低下の46.6と、5カ月連続の悪化となった。円安に伴う輸入品の価格上昇や消費再増税への懸念などが背景にあり、「消費税率10%への引き上げに伴う心理的不安、生活必需品の価格の引き上げなどのため、買い控えが進行する」(東北・スーパー)などの見方のほか、企業経営でも「価格改定ができない一方、原材料価格の上昇はさらに加速しており、このままでは減益になる。価格改定ができなければより一層厳しい状況が続く」(中国・食料品製造業)などのコメントがあった。
内閣府は基調判断で、先行きについて「エネルギー価格の上昇などによる物価上昇への懸念などがみられる」と指摘している。
調査は景気に敏感な小売業など2050人が対象で、有効回答率は91.5%。3カ月前と比べた現状や2-3カ月後の予想を「良い」から「悪い」まで5段階で評価して指数化する。
10月の消費者態度指数1.0ポイント低下の38.9 3カ月連続で判断下げ
内閣府が11日発表した10月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は38.9と、前月比1.0ポイント低下した。悪化は3カ月連続。内閣府は基調判断を「足踏みがみられる」から「弱含んでいる」に下方修正した。判断の引き下げは3カ月連続で、2009年10月から12月にかけて実施して以来となる。
指数を構成する意識指標のうち、「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4項目がいずれも前月比で低下した。4項目ともに指数が低下したのは9月に続いて2カ月連続。消費者心理の判断に「弱含んでいる」の表現を使ったのは、今年2月以来となる。1年後の物価見通しについては「上昇する」と答えた割合(原数値)は前月比0.5ポイント増の87.5と、4カ月連続で増加した。
調査は全国8400世帯が対象。調査基準日は10月15日で、有効回答数は5601世帯(回答率66.7%)だった。
4-9月の経常黒字2兆239億円 上期で過去最小
財務省が11日発表した2014年度上期(4=9月期)の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は2兆239億円の黒字だった。黒字額は前年同期の3兆810億円を下回り、年度上期としては現行基準で統計を比較できる1985年度以降で最小だった。海外投資などによる第1次所得収支の黒字は、下期を含む年度半期で過去最大となったものの、燃料や電子部品などの輸入増加で貿易赤字が大幅に膨らんだ。
上期の貿易収支は、輸送の保険料や運賃を含まない国際収支ベースで4兆3974億円の赤字。赤字額は前年同期の3兆7517億円を上回り、年度上期では現行基準で統計を遡ることができる1996年度以降で最大となった。輸出額は36兆1668億円で、金属加工機械や自動車を中心に前年同期比5.5%増加した。輸入額は6.7%増の40兆5641億円で、液化天然ガス(LNG)や半導体等電子部品の輸入増加が目立った。
サービス収支は1兆8152億円の赤字。旅行収支が訪日外国人観光客数の増加を背景に大幅に改善したものの、サービス収支全体での赤字額は前年同期に比べ1142億円増加した。一方、日本企業が海外投資などで得る配当や利子を反映した第1次所得収支は9兆1487億円の黒字だった。黒字額は前年同期の9兆183億円を上回り、下期を含む年度半期での比較でも1985年度以降で最大となった。
同時に発表した9月の経常収支は9630億円の黒字で、黒字額は前年同月比61.9%増加した。貿易収支は7145億円の赤字(前年同月は7135億円の赤字)で、第1次所得収支は2兆352億円の黒字。第1次所得収支の黒字額は9月としては過去最大だった。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。ただ、3つの記事を一気に並べるとかなり長く感じられるのも事実です。次に、景気ウォッチャーと新旧の系列の消費者態度指数のグラフは以下の通りです。いつもの通り、影をつけた部分は景気後退期を示しています。消費者態度指数のグラフについては凡例の通り、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。

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景気ウォッチャーの9月の直近値の現状判断DIは前月のから▲3.4ポイント低下して44.0に、同じく先行き判断DIも前月から▲2.1ポイント低下して46.6になりました。引用した記事にもありますが、基調判断をより詳しく見ると、前月の「緩やかな回復基調が続いており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減の影響も薄れつつある」から今月は「景気は、このところ弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている」と下方修正しています。景気ウォッチャーの構成コンポーネントである家計動向関連、企業動向関連、雇用関連のすべてのDIが低下を示しており、水準としても50を3か月連続で下回っています。
供給サイドのマインドを示す景気ウォッチャーに対して、需要サイドのマインドである消費者態度指数も前月から▲1.0ポイント低下して38.9を記録しました。8月から10月にかけて3か月連続で累計▲2.6ポイント低下しており、引用した記事にもある通り、基調判断は「足踏み」から「弱含んでいる」に下方修正されています。需要サイドと供給サイドのいずれのマインドのソフト・データとも実体経済を反映して低下を示しています。

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経常収支のグラフは上の通りです。季節調整済みの系列をプロットしていますので、季節調整していない原系列に基づく引用記事とは少し印象が異なるかもしれません。青い折れ線グラフが経常収支を示しており、積上げ棒グラフがそれに対する寄与となっています。色分けは凡例の通りです。経常収支については第1次所得収支にけん引されて黒字を続けています。もっとも、貿易収支は赤字を続けており、大雑把に、消費増税前の駆込み需要に起因する1-3月期の大きな貿易赤字から、4-6月期はその反動により赤字幅を縮小させましたが、7-9月期には従来の貿易赤字の水準に戻っているように見えます。足元の現状をそのまま伸ばしただけの先行き見通しなんですが、毎月▲1兆円をやや下回り、▲8000億円前後の貿易赤字とゼロ近傍の小幅な黒字の経常収支が来年年央まで2-3四半期くらい続くのかもしれません。

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今日は我が家の結婚記念日!

今日は我が家の結婚記念日です。
忘れないように、朝のうちから記念日のブログをアップしておきます。
下はこのブログ恒例のジャンボくす玉です。

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2014年11月10日 (月)

OECD「世界経済見通し」(G20向け事前公表版) やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週木曜日11月6日に経済協力開発機構(OECD)から豪州ブリスベンで開催されるG20サミットに向けて、「世界経済見通し」(G20向け事前公表版) Advance G-20 Release: OECD Economic Outlook が公表されています。5月時点の見通しからやや下方修正されており、事前公表版ではない正式公表版(?)は11月25日にリリースされる予定となっています。

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まず、上の画像は事前公表版のリポートから p.2 の成長率見通しの総括表とグラフのページを画像化しています。クリックすると、別タブか別ウィンドウでこのページ1枚だけのpdfファイルが開く設定となっています。上半分の表を見れば分かりますが、世界経済の成長率は2014年+3.3%の後、2015年+3.7%、2016年+3.9%に徐々に加速すると見込まれています。しかし、日本の成長率は、引き続き消費税増税からの影響を受け、2014年+0.9%の後、2015年には+1.1%とやや高まるものの、2016年には+0.8%に落ちると予測されています。特に懸念が強いのは欧州であり、ユーロ圏欧州の成長率の回復が遅れることが予測されており、2014年+0.8%の後、2015年+1.1%、2016年+1.7%と見込まれています。
先行き世界経済のダウンサイド・リスクとしても、特にユーロ圏の需要回復が遅れている点が最初に指摘されており、さらに、米国の金融引締め、というか、量的緩和の終了も上げられています。特に欧州については、経済停滞や低インフレの長期化リスクが指摘されています。また、政策提言もいくつか示されていますが、日本については "In Japan, the Bank of Japan's "quantitative and qualitative monetary easing", which was expanded last week, should continue until the inflation target has been sustainably achieved." と、インフレ目標達成まで異次元緩和を継続することが重要と指摘されています (リポート p.9)。

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最後に、上の画像はフランスの経済紙 Les Echo のサイトから引用した OECD 経済見通しを地図に割りつけた画像です。当然ながら欧州がハイライトされています。

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2014年11月 9日 (日)

先週の読書は『リターン・トゥ・ケインズ』ほか

先週の読書は、東大出版会から出た経済学の学術書『リターン・トゥ・ケインズ』や村上春樹『セロニアス・モンクのいた風景』のほか、以下の通りです。

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まず、B.W.ベイトマン/平井俊顕/M.C.マルクッツォ(編)『リターン・トゥ・ケインズ』(東京大学出版会) です。9か国16人の経済学者が、理論と政策のみならず、もちろん、国内問題だけでなく国際問題も視野に入れて、著作における形成過程や再発見までをも含めた視点からケインズ及びケインズ経済学の今日性を問う学術書です。学術書ですから、部数が出ない分価格が高めに設定してあり、5,600円プラス税となっています。私は薄給の公務員ですので新宿区立図書館で借りました。貸出し表の裏には区長選挙の投票の広報があったりしました。それはともかく、編者であり監訳者である平井先生は我が国で創設されたばかりのケインズ学会の会長ですので、文句なく、この道の専門家であるといえます。先月10月25日の読書感想文のブログでも取り上げた通り、最近、私も何冊かケインズに関する学術書・専門書を読んだんですが、その総集編といえるかもしれません。同じ指摘ですが、18世紀にスミスの『国富論』で成立した古典派経済学に対して、19世紀ないし20世紀に修正を試みた大きな動きは、いうまでもなく、マルクスとケインズです。私の理解によれば、いずれも資本制生産における過剰生産恐慌という不況を和らげることを目標とし、マルクスは生産手段の国有化と計画経済を導入して市場による資源分配を停止して景気循環を抑止する提案をしたのに対し、ケインズは市場による資源分配という効率性を維持したままで、価格と賃金の硬直性、特に下方への硬直性により市場の調整能力が不十分な短期において財政政策と金融政策による景気循環の平準化を目指しているのが大きな特徴です。マルクス経済学に基づく社会主義経済が20世紀末に破綻しましたが、すでに1970年代初頭の石油危機時にケインズ経済学も不況下のインフレというスタグフレーションで疑問視されながら、結局、今世紀初頭のリーマン・ショックで見直されたりしています。経済危機に応じて新しい経済学が生まれた経験がいくつかある一方で、リーマン・ショック後のグレート・リセッションでは新しい経済学は生まれずに、多くのエコノミストや経済政策当局者はケインズ経済学に回帰しました。その観点からも本書はケインズ経済学を今一度理解するために大いに有効です。時期的に、原書が出版されたのが2010年であるため、2009-10年に取りまとめられた論文が多く収録されているのと最初に書いた高価格が難点ですが、エコノミストや経済政策当局者は何らかの機会に目を通しておくべき学術書と私は考えています。最後に、吉川教授の序文や論文にある通り、ルーカスから始まり、リアル・ビジネス・サイクルなどでピークを迎えた「マクロ経済学のミクロ的基礎づけ」はまったくの謬見であるとの見方は私もまったく同感で、さらに吉川教授の主張するケインズ経済学のミクロ的基礎となる確率的マクロ均衡 Stochastic Macro-Equilibrium に関する詳しい最近の論文を以紹介すると下の通りです。ご参考まで。

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次に、森田果『実証分析入門』(日本評論社) です。著者は東北大学法学部の法学者です。私の大学時代には考えられもしなかったんですが、計量法学なる分野があるらしく、かなり計量経済学と近い手法により分析をしているようです。ただ、時系列データの分析には経済学の方が一歩先んじているような印象を受けました。本書は『法学セミナー』に連載されていたシリーズを単行本化したものであり、基本的には、入門書ながら学術書であると受け止めています。月刊誌の連載が基になっていますので章立てが細かく、何と27章に及んでいますが、それなりに読みやすくは工夫されているような気がします。章立ては出版社のサイトに譲るとして、OLSから始まって、最尤法や因果関係の推定、パネル分析、構造推計やベイズ統計まで、時系列データを除いて、かなり包括的な入門書となっています。なお、因果関係の推定について、経済学では時系列分析に基づくグレンジャー因果なんて方法もあったりするんですが、そこまではスコープに入っていません。経済学をホームグラウンドとする私の印象では、単なる学術的な入門書というよりも、論文を書いたりする研究者に向けた実用的な専門書を目指している印象があります。単なる統計的な有意性の検定だけではなく、実際のパラメータの大きさから経済的、というか、現実的な影響度の大きさを重視したり、推定結果についての「相場観」を大切にし、そのための文献のサーベイを勧めるなど、それなりの工夫が見られます。ただし、プログラムのコーディングに関してはデータとサンプルを「法律家のための実証分析入門」なるサイトに置いているにとどまり、そこには「この連載・本は、あくまで副読本として位置づけられるべきものであり、教科書ではありません。このため、ソースコード自体の解説はしませんので、詳しく知りたい方・実際に使ってみたい方は、それぞれの統計ソフトウエアのマニュアルや解説を参照してください。」との断り書きがあるだけで、もちろん、本書にもデータやプログラムの解説などがなく、やや不親切な気がしないでもありません。経済学の論文では筆者のホームページなどにデータとプログラムをアップして再現性を明らかにするエコノミストもいるんですが、まあ、実際のプログラムのコーディングは大学院教育のひとつの肝であって、私のように学部しか出ておらずOJTで身につけたエコノミストは少ないでしょうし、大学教員の企業秘密的な部分はあるのかもしれませんから一定の理解はします。

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次に、伊東光晴『アベノミクス批判』(岩波書店) です。一橋大学、というか、当時の東京商科大学のご出身ながら、教員としては我が母校の京都大学経済学部を代表する大先生です。もっとも、京都大学の教授ご着任は1985年であり、私はすれ違いで卒業した後でしたから、講義を受講した記憶はありません。いわゆる高商系の近代経済学の研究者ながら、マルクス経済学を無視したり、無闇と批判したり、ましてや敵視したりすることなく、あたかも市民活動のような視点からの経済評論は、ある程度のマルクス主義との親和性も見せていたように受け止められているんではないでしょうか。ということで、出版元の岩波書店のブランド・イメージもそうなんですが、やや保守派経済学の印象のあるアベノミクス批判を展開した本です。副題が『四本の矢を折る』となっていて、一般的な理解であるアベノミクスの3本の矢に加えて、隠された4本目の矢として「戦後レジームからの脱却」を想定し、これを大いに批判しています。私も大いに賛成ですし、第2と第3の矢についても、第2の矢である財政政策は予算計上されないとか、第3の矢の成長戦略に対する疑義も私は共有しますし、3本の矢以外の原発政策や労働政策についてもほぼ共感するところばかりなんですが、どうしても第1の矢である金融緩和に対する伊東先生の反論は受け入れられません。同時に、人口減少下の経済をハロッド的なナイフエッジ均衡で解釈しようとする姿勢にも疑問を持ちます。金融政策の有効性について、1930年代のオックスフォード調査で金利と投資の関係に疑問を呈するのはまだしも、円安と株高が現在の黒田総裁による異次元緩和の前から生じていたことを指して「安倍・黒田氏は何もしていない」と断言した上に、為替介入が円安の原因と指摘したりするに及んでは、私も言葉を失いそうになりました。現在の異次元緩和については財源調達のためのマネタイゼーションとしてレッテルを貼ってお仕舞い、という議論の仕方は京都大学時代には伊東先生は決して許さなかったんではないかと私は考えています。少し前までのデフレの悲惨な状況からマネタイゼーションこそが必要とまじめに考えるエコノミストも私は知っていますし、異次元緩和に対してマネタイゼーションのレッテルを貼って議論を終える態度はエコノミストとしてはいかがなものかと私は考えます。特に、私の目から見て疑問の多い第2章と第4章は口述筆記に頼られたそうですが、著者たる伊東先生とエディタの間で何らかの意思疎通の不都合があったとは考えたくありません。

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次に、村上春樹『セロニアス・モンクのいた風景』(新潮社) です。今さらながらですが、知らない人のために、セロニアス・モンクとはモダン・ジャズの黎明期であるビバップとかハード・バップのころから活躍したジャズ・ピアニストであり、何曲か有名なジャズのスタンダード曲の作曲者でもあります。ほぼ同じ時期の1950年前後に活躍したピアニストには、かの有名なバド・パウエルがいます。モンクの方がやや年長かと思います。演奏も言動や行動もとても独特で、村上春樹は distinctive という表現を使っています。かのマイルス・デイビスがモンクに対して自分のバックではピアノを弾かないように求めたというのは伝説になっていますし、モンクはソロで聞けという格言もジャズ・ファンの間では有名です。なお、上の表紙の画像を見ても明らかな通り、和田誠・安西水丸のコンビによる装画・装幀です。ただ、本文中にはいくつかアルバムのジャケットの写真は見えますが、挿し絵のたぐいはありません。内容はこの本のためにエッセイが書かれたわけではなく、モンク自身やジョン・コルトレーンなどのジャズ・ミュージシャンの伝記、あるいは、ジャズ・ミュージシャンのパトロネスとして有名なパノニカ・ド・ケーニヒスウォーター男爵夫人の伝記、あるいは、ジャズ雑誌などからモンクに関する記述を編集しています。この本のために書かれたパートは村上春樹自身が書いた部分だけではないかと思います。ですから、有名なモンクの逮捕シーンでパノニカ・ド・ケーニヒスウォーター男爵夫人がピアニストであるモンクの手を傷つけないように警官に頼むシーン(p.82とp.198)とか、人口に膾炙したエピソードも盛りだくさんです。また、エッセイの著者によっては、セロニアス・モンクについて単なる変人・奇人ではなく、統合失調症ではないかと示唆しているものもあります(p.248)。なお、パノニカ・ド・ケーニヒスウォーター男爵夫人とジャズ・ミュージシャンの関係は、いわば、ガートルード・スタインとロスト・ジェネレーション作家との関係と同じで、公民権運動前の公然と差別されていた黒人ジャズ・ミュージシャン、特にセロニアス・モンクやチャーリ・パーカーのパトロネスです。英国ロスチャイルド家出身でフランスの貴族に嫁しています。というように、読み進むにはジャズやジャズ・ミュージシャンに関する基礎知識が必要とされそうです。それから、いつも私が主張するように、ジャズはリラックスする目的で聞く場合もありますが、私のように緊張感を求める場合もあります。モンクの音楽の緊張感については「テンションを支配する」と表現されていました。これから私もこのブログなどで使わせてもらおうと考えています。

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最後に、柳広司『ナイト & シャドウ』(講談社) です。先週の読書の中ではフィクションの小説と呼べる新刊はこれ1冊だったような気もします。私はこの作者の作品は結城少佐のD機関シリーズ、すなわち、『ジョーカー・ゲーム』や『ダブル・ジョーカー』、『パラダイス・ロスト』などの戦間期のスパイ小説の短編集を評価しているんですが、この作品『ナイト & シャドウ』は今世紀初頭の米国首都ワシントンDCを舞台に、警護官を主人公として展開します。フィクションですし明示されませんが、2001年に就任したブッシュ大統領を警護するシークレット・サービスとテロリストを軸に物語が進みます。やや恣意的な設定ながら、警視庁から米国のシークレット・サービスに首藤というSPが研修で来ていて主人公を張っています。映画でいうところの主演女優は、これも日本人のフォトグラファーです。研修でシークレット・サービスに来ている日本人の警視庁SPがスーパーマンで大活躍し、ラストのテロの舞台裏の推理で大きなどんでん返しがあります。単なる自慢ですが、私は25年ほど前の我が国のバブル期に米国の中央銀行である連邦準備制度理事会にリサーチ・アシスタントとして、この小説の主人公のように2か月だけの短期の研修に来ていたことがあり、それなりにワシントンDCの土地勘もあれば、米国人や米国政府要人の思考や行動のパターンなども分からないわけではないので、かなり楽しめました。テロを含めて、何らかのイベントにおける善悪の裏側に潜む陰謀論的な動機を嗅ぎつけようとする人向けかもしれません。ただ、フィクションの小説とはいえ2点だけ不自然な点があります。すなわち、第1に米国の同盟国の中でもそれなりに重要な日独の首脳が同時に訪米している点、第2に警視庁SPの首藤が日本の首相が訪米するにもかかわらず、何らワシントンDCの現地大使館と連絡を取り合っていない点です。前者は無視してもいいんですが、後者は在ワシントンDCの日本大使館に駐在する頭の堅い外交官を風刺的に登場させる手もあったんではないかという気もしないでもありません。さいごにどうでもいいことながら、上の表紙の画像を見れば明らかなように、タイトルの「ナイト」は日本語の「夜」ではなく、"k" が語頭につく「騎士」の方であり、「秘密結社などの団員・会員」とか、「主義や信念の熱心な擁護者」といった意味もあります。何らご参考まで。

冬が近づいて読書の秋を終える季節になったからなのか、なぜなのか、図書館から一気に予約してあった本が回ってきたりして、少しオーバーフロー気味です。せっせと読書に励みたいと思います。

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2014年11月 8日 (土)

米国雇用統計は堅調に推移し米国経済の拡大を示す!

日本時間の昨夜、米国労働省から米国雇用統計が発表されています。いずれも季節調整済みの系列で見て、ヘッドラインとなる失業率は前月からさらに0.1%ポイント低下して5.8%を記録し、非農業部門雇用者数も前月から+214千人の増加を示しました。このデータが示されていれば、中間選挙の結果は少し違っていたかもしれません。まず、New York Times のサイトから記事を最初の4パラだけ引用すると以下の通りです。

Jobs Data Show Steady Gains Even as Voters Signal Anxiety
Only days after many voters complained that the economy was getting worse, the latest government report on jobs, released Friday, provided fresh evidence that it was getting better. Employers added an estimated 214,000 jobs in October, the Labor Department found, and the official jobless rate, bolstered by a big rise in the number of people finding jobs, dropped to 5.8 percent, down sharply from 7.2 percent last October.
The increase, combined with a revision that showed 31,000 jobs were added to the numbers previously reported for August and September, puts the average monthly employment gain for the past six months at 235,000 - an indication, analysts said, that the economy's progress was gaining momentum.
A range of other job measures all improved. More than 683,000 people reported that they found a job last month, according to a separate survey by the Labor Department. And the number of people walking away from the labor market has halted, while the average number of hours worked ticked up.
The primary disappointment was the lack of wage growth. Hourly average earnings have remained stuck, rising only 0.1 percent in October, on the heels of no gain in September. For the year, wage gains are up just 2 percent, barely ahead of the pace of inflation. That lack of progress is likely to cause the Federal Reserve to move cautiously before raising interest rates from their near-zero level.

まずまずよく取りまとめられている印象があります。この後に、労働参加率などの失業率と雇用者数以外の指標を含めてエコノミストへのインタビューなどが取り上げられていますが、長くなりますので割愛します。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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ヘッドラインとなる火農業部門雇用者の前月差伸びが、市場の事前コンセンサスでは235千人くらいでしたので、これは下回ったものの、さかのぼって改定された8-9月の前月差増加数がそれぞれ203千人、256千人と以前の公表値から上方修正され、8-10月の3か月の非農業部門における雇用者数の平均伸びは毎月224千人ですし、失業率も2か月連続で6%を下回って、10月はとうとう5.8%に達しましたから、米国の雇用は堅調に推移していると受け止めています。この先のクリスマス商戦もにらみつつなんでしょうが、米国連邦準備制度理事会(FED)は量的緩和のテイパリングを進める可能性が一段と高まったと考えるべきです。産業別の雇用者数を見ても、10月は製造業が15千人増加したほか、建築業も12千人増え、民間サービス部門での雇用者数は181千人増、教育や医療関連が41千人増、クリスマス商戦を控えた小売りでも27千人増と、軒並み雇用者数を増加させています。

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特に目立つのが新規の求人増です。最新データでも8月までしか情報がアップデートされておらず、失業率や雇用者数の統計のような10月の足元の数字はまだ入手できないんですが、マンキュー教授のブログでも注目しており、上のグラフはそのマネをしています。新規求人数がリーマン・ショック前の水準に到達したのが見て取れます。

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また、日本の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。逆に言えば、サブプライム危機前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、同時に、底割れして日本のようにゼロやマイナスをつけて、デフレに陥る可能性は小さそうに見えます。

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2014年11月 7日 (金)

マクロミル「働く男女1,000人ストレス実態調査」やいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、ネット調査大手のマクロミルから先週10月30日に「働く男女1,000人ストレス実態調査」結果が公表されています。2015年中に従業員数50人以上のすべての事業場にストレスチェックの実施を義務付ける「労働安全衛生法の一部を改正する法」(ストレスチェック義務化法)が施行されますので、それに伴う調査だそうです。まず、マクロミルのサイトから調査結果のトピックスを3点引用すると以下の通りです。

トピックス
  • 働く男女の84%がストレスを感じている。原因は「仕事内容」「職場の人間関係」が多数。45%がストレスを「ほぼ毎日」感じる
  • 94%が「ストレスチェック義務化法案」の2015年施行を "知らない"
  • 勤務先にリラクゼーションサービスの導入「望まない」7割。「会社では癒されない」「そんな暇はない」声多数。現在、導入している企業はわずか5%

ということで、pdfの全文リポートも含めて、いくつかグラフを引用しつつ、簡単に調査結果を紹介したいと思います。

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上のグラフの前に、グラフの引用は省略していますが、どの程度ストレスを感じるかという問いがあり、「強く感じる」28.1%と「やや感じる」55.9%を合わせて84%の会社員がストレスを感じ、そのストレスを感じる原因が上のグラフの通りです。複数選択の回答ながら、「仕事内容」と「職場の人間関係」が過半を占めています。また、これもグラフの引用は省略しますが、ストレスを感じる84%を対象にその頻度を問うたところ、「ほぼ毎日」が44.7%と半数近くを占めています。現代社会はストレスに満ちているといえそうです。

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そして、そのストレス解消、とは微妙に異なるんですが、癒されるシーンを問うた結果が上のグラフの通りです。「寝るとき」と「入浴中」が過半を占めており、「家族や恋人、友人とふれあうとき」がこれらに続いています。ただし、ストレスの発散や解消のために「癒される」というキーワードでリラックスを想定しているんですが、別の種類の緊張感に身を置くという方法もあると思います。その意味で、私なんぞはストレスを感じた折には週末や平日でも夜になってプールに泳ぎに行くことがあり、スポーツによるストレス発散の選択肢が欠けている印象があります。スポーツでなくても、例えば、我が家の上の倅の趣味はプラモなんですが、これも異なる種類の緊張感といえるかもしれません。私は従来から主張している通り、音楽もリラックスばかりではなく、特にジャズなんぞはそれなりの緊張感に身を置くことを主眼として聞く人もいそうな気がします。ストレス解消の方法も様々です。

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最後に、来年からのストレスチェック義務化法の施行に伴って、社内にリラクゼーション設備を求めるかどうかの質問に対する回答が上の通りです。現在リラクゼーションサービスを導入している企業はわずか5%にとどまり、社員の声としても、社内で癒されたいとは思わないのか、あるいは、「オンとオフを区別したい」といった意見も紹介されています。分かる気がします。

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2014年11月 6日 (木)

景気動向指数の基調判断は「悪化」ではなく「局面変化」で据え置かれ景気後退局面入りは避けられたか?

本日、内閣府から9月の景気動向指数が発表されています。CI一致指数は前月比+1.4ポイント上昇して109.7を、また、CI先行指数も+1.2ポイント上昇の105.6を、それぞれ記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気一致指数、9月1.4ポイント上昇 基調判断据え置き
内閣府が6日発表した9月の景気動向指数(CI、2010年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比1.4ポイント上昇の109.7と2カ月ぶりのプラスだった。自動車やテレビといった耐久消費財の出荷が好調だったほか、自動車用エンジンやスマートフォン(スマホ)部品の生産が伸びた。
内閣府は一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を前月までの「下方への局面変化を示している」で据え置いた。
数カ月後の先行きを示す先行指数は1.2ポイント上昇の105.6と2カ月ぶりのプラスだった。鉄鋼業や電子部品・デバイス工業で在庫が減ったことや、新設住宅着工床面積が伸びたことが寄与した。
景気に数カ月遅れる遅行指数は1.9ポイント低下の115.8だった。完全失業率や家計消費支出の悪化が響いた。
指数を構成する経済指標のうち、3カ月前と比べて改善した指標が占める割合を示すDIは一致指数は55.6、先行指数が33.3だった。

いつもながら、簡潔によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。そろそろ、このブログのローカル・ルールにより、今年1月をピークとし8月をトラフとする景気後退期をブログの管理者権限で勝手に暫定設定しようかと考えないでもないんですが、取りあえず、さ来週の1次QEまで待ちたいと思います。たぶん、その次の来月の景気動向指数まで待つような気もします。

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ということで、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「下方への局面変化」に据え置きました。ひとまず、というか、何というか、「悪化」への機械的な下方修正はなされていません。ところで、内閣府の発表する概要リポートには、なぜか、先月の8月指数の発表時から「『CIによる景気の基調判断』の基準」と題するメモが2枚目につけられているんですが、これに従えば、「悪化」の基準は「原則として3か月以上連続して、3か月後方移動平均が下降した場合。」と示されています。9月のCI一致指数は3か月後方移動平均が0.13 ポイント上昇し、6か月ぶりの上昇となった一方で、7か月後方移動平均は0.47 ポイント下降し、4か月連続の下降を記録しています。CI一致指数を構成するコンポーネントのうち耐久消費財出荷指数、鉱工業生産財出荷指数、生産指数(鉱工業)、前年同月比で見た商業販売額(卸売業)がプラスの寄与が大きく、逆に、大口電力使用量と有効求人倍率のマイナス寄与が大きくなっています。

繰返しになりますが、このブログだけのローカル・ルールとはいえ、今年1月をピークとして8月をトラフとする景気後退期の設定はもう少し様子を見たいと思います。上のグラフでもCI先行指数がほぼ下げ止まって、CI一致指数とともに反転上昇の兆しもあり、日銀の追加緩和もラグを伴いつつ効果を示す可能性があります。ギリギリ景気後退は避けられたかもしれません。

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2014年11月 5日 (水)

毎月勤労統計からみてホントに今夏のボーナスは増えたのか?

本日、厚生労働省から毎月勤労統計が発表されました。月次の直近は9月の統計ですが、今夏のボーナスについても集計されています。夏季ボーナスは調査産業の平均で前年比3.1%増の37万550円と昨年よりも増えました。業績見合いの分が増加しているにしてはやや渋い結果だと受け止めています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

14年夏の賞与、23年ぶり高い伸び 業績改善で前年比3.1%
厚生労働省が5日発表した毎月勤労統計調査(従業員5人以上)によると、6~8月に支払われた2014年夏の賞与は前年同期比3.1%増の37万550円と、夏の賞与としては1991年(6.3%増)以来23年ぶりの高い伸び率を記録した。プラスは2年連続。円安を背景とした景気回復に加え、消費増税に伴う駆け込み需要で生産活動が活発化し、企業業績が改善した。
業種別では、製造業が52万1785円と10.5%伸びた。建設業は10.0%増の39万3283円、不動産・物品賃貸業は11.8%増の44万9279円、卸売・小売業は5.6%増の32万4321円となるなど、幅広い業種が恩恵を受けた。
同時に発表した9月調査(速報、従業員5人以上)によると、従業員1人当たり平均の現金給与総額は前年同月比0.8%増の26万6595円だった。プラスは7カ月連続。基本給や残業代などが増加したため。
基本給や家族手当などの所定内給与は0.5%増の24万2211円だった。増加は4カ月連続。今年の春季労使交渉で大手企業を中心に広がった基本給を底上げするベースアップ(ベア)の結果を映した。
ボーナスにあたる特別給与は11.5%増の5506円だった。残業代などの所定外給与は1.6%増の1万8878円。所定外労働時間は2.9%増の10.8時間。このうち製造業の所定外労働時間は2.6%増の15.9時間だった。
一方、現金給与総額から物価上昇分を除いた実質賃金は前年同月比2.9%減と15カ月連続で減少した。

いつもの通り、とてもよくまとまった記事だという気がします。次に、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、真ん中は製造業に限らず調査産業計の賃金の季節調整していない原系列の前年同月比を、そして、本邦初登場かもしれない下のパネルは就業形態別雇用の推移を前年同月比で、それぞれプロットしています。賃金は凡例の通り現金給与総額と所定内給与であり、就業形態は一般労働者=フルタイムとパートタイム労働者です。影をつけた期間は景気後退期です。

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ボーナスに先立って、まず、月次統計を見ると、景気に敏感な所定外労働時間指数は生産が増産になったことと整合的に9月は増加しました。極めて短期的に見れば、景気は1月をピークに、8月をトラフにして景気後退局面があったのかもしれないと思わないでもないんですが、深さと期間が足りない可能性もありますし、公式の景気局面の判定にはヒストリカルDIを主たる指標として用いますので、専門家によるキチンとした景気局面の同定が必要です。また、真ん中と下のパネルは質的な雇用の改善を示していると私は受け止めています。すなわち、まだまだ物価上昇には追いつかないものの賃金が上昇を示すようになり、これまた、まだまだパートタイム労働者の伸びの方が高いもののフルタイムの一般労働者の伸びも高まっています。現状では、雇用の改善はやや足踏みを示していますが、人手不足感は強まりつつあり、量的な雇用の拡大から質的な雇用の改善に向かう局面を迎えつつあると考えるべきです。

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続いて、夏季と年末のボーナスの前年比をプロットしたのが上のグラフです。私の手元にあるExcelのデータでは1998年までしかさかのぼれないんですが、引用した記事に従えば、夏季賞与としては1991年の6.3%増以来23年振りの高い伸び率を記録したようです。リーマン・ショック直後の2009年の夏季ボーナスは▲9.8%減と大きなマイナスを記録したわけですから、業績見合いで今年のボーナスはもっと増えてもよさそうに思うんですが、やや渋い結果となったと私は考えています。それにしても、どこまでが消費への影響が大きい恒常所得なのかは議論が残るものの、ボーナスが増えれば消費、特に大型消費に影響が及ぶのは当然です。そろそろ、いくつかのシンクタンクから年末ボーナスの予想も出始める時期ですので、近く年末ボーナス予想を取り上げたいと考えています。

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さらに、産業別の今年の夏季ボーナスの詳細は上のグラフの通りです。上のパネルが額、下が昨年からの伸び率です。鉱業,採石業等がやや飛び抜けた伸び率を示していて、下のパネルが少し見づらいんですが、調査産業計で+3.1%の増加ですから物価上昇率を上回っています。特に、建設業、製造業、卸売業・小売業、不動産業などで高い伸びを記録しています。ただし、注意すべきは夏季賞与が物価上昇を上回ってかなり伸びたにもかかわらず夏場の消費は盛上がりに欠けていた点です。賃金との累積的な効果で考えてボーナスの伸びがまだ不足しているのか、それとも、ボーナスは消費を押し上げる恒常所得に入らないのか、おそらく後者なんではないかと思うんですが、今後の先行きは労働市場のひっ迫とともにボーナスだけでなく毎月のお給料も増加を示すにつれ、消費への拡大効果が徐々に現れ始めると私は楽観視しています。

労働市場のひっ迫とそれに伴う賃金の上昇は雇用者からすれば所得の増加につながり、マクロの消費を拡大すると考えられますが、企業部門から見ればコストの増加となります。現状では家計部門よりも圧倒的に企業部門に有利な分配がなされており、消費増税とともに企業への法人減税が政策的に実行されようとしていますから、この程度の賃上げは実行されてしかるべきと私は考えていますが、個別のマイクロな視点からの企業行動では労働に代替する設備投資の増加が見られる可能性もあると考えています。

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2014年11月 4日 (火)

東洋経済による「最新版! 『生涯給料』トップ500社」やいかに?

11月1日付けで、東洋経済オンラインにおいて標記の「最新版! 『生涯給料』トップ500社」が公表されています。副題が「トップ『6.1億円』から500位『2.5億円』まで総まくり」となっており、トップは以下の通りキーエンスで6億1561万円、500位は穴吹興産の2億5709万円です。いうまでもありませんが、トップ500でも立派な大企業であり、2.5億円の生涯賃金も立派な額だと私は受け止めています。まず、東洋経済オンラインのサイトからトップ50社のランキングを引用すると以下の通りです。

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もちろん、民間企業の給与水準について私からは何のコメントもありませんが、念のため、公務員の生涯給与を比較してみようとネットで検索をかけたところ、以下のサイトのほか、いくつかヒットしました。最新データではないながら、公務員の平均的な生涯賃金は3億円弱といったところでしょうか?

これも、2012年のデータで最新ではないんですが、同じ東洋経済オンラインにて「公務員給与ランキング トップ1000」が検索でヒットしました。生涯給与ではなく年収なんですが、都道府県トップの東京都が755.7万円、政令指定市トップの仙台市が763.2万円ですから、年収750万円強で40年弱の勤務として掛け算すれば、やっぱり、3億円くらい、というのが平均的な公務員の生涯賃金なのかもしれません。もし仮に3億円とすれば、この東洋経済オンラインのランキングでは150-60位くらいに相当するんですから、今さらながら、公務員はかなりの高給与といえます。加えて、勤務先の倒産やリストラの確率が極めて低く、逆に、定年まで同じ条件で勤務できる可能性がほぼ100パーセント、という安定性が別途の要素としてカウントすべきとすれば、ますますいい職業と見なされそうな気がします。

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2014年11月 3日 (月)

今週のジャズは fox capture plan 「WALL」

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fox capture plan の最新アルバム WALL を聞きました。 trinityBRIDGE に続く3枚目のアルバムで、収録曲は以下の通りです。

  1. into the wall
  2. 疾走する閃光
  3. Elementary Stream
  4. Paranoid Android
  5. Helios
  6. unsolved
  7. tong poo
  8. a,s,a
  9. this wall
  10. the begining of the myth ep.II

相変わらずカッコいいです。すっ飛ばしている印象があります。下の動画は YouTube にアップされているアルバム2曲目の「疾走する閃光」です。

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2014年11月 2日 (日)

映画「まほろ駅前狂騒曲」を見に行く!

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昨日の夕方なんですが、雨だったこともあり、三浦しをん原作の映画「まほろ駅前狂騒曲」を見に行きました。どうでもいいことながら、我が家の近くのシネコンではこの3連休は3日連続で「1,100円デー」をやっていたりしました。ということで、原作は映画と同じタイトルで「まほろ駅前」シリーズの第3作であり、直木賞受賞のシリーズ第1作『まほろ駅前多田便利軒』との間にはスピンアウト短篇集『まほろ駅前番外地』があります。映画化にあたっては、スピンアウト短篇集『まほろ駅前番外地』はテレビのドラマになったこともあってパスし、結局、三浦しをん作品の原作第3作が取り上げられたようです。妥当な判断だという気がします。映画の前作と同じ大森立嗣監督作品で、主演の多田と行天には、当然ながら、前作と同じ瑛太と松田龍平がキャスティングされています。いうまでもありませんが、三浦しをんファンの私は原作の『まほろ駅前多田便利軒』と『まほろ駅前番外地』と『まほろ駅前狂騒曲』をすべて読んでおり、映画の前作「まほろ駅前狂騒曲」も見ています。とはいいつつ、私も映画の「舟を編む」を見逃したりしているんですが、これも松田龍平の主演だったと記憶しています。三浦しをん作品の映画化に際してやや変人の役には相性がいいのかもしれません。

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ストーリーは上の通りです。この画像は、映画の公式サイトから引用しています。行天の娘を預かるところから始まって、怪しげな宗教団体崩れの自然食グループにまほろの裏組織が絡んで、さらに、バス運行の間引き疑惑で何度か多田便利軒にチェックの仕事を依頼している老人がバスジャックを実行したりと、次々に騒動が持ち上がります。私もかなり前に読んだ作品なので記憶が不確かな部分もありますが、ほぼ原作に忠実な映画化であると受け止めています。でも、原作では子供を預かるのは夏休みだったように記憶していなくもないんですが、私の記憶は極めて不確かです。まあ、この季節の封切りですから世間ではそれほど評価が高くなく、「蜩ノ記」よりも席は埋まっていませんでした。むしろ、「小野寺の弟・小野寺の姉」の方が評判がいいのかもしれません。しかしながら、何といっても、私のような三浦しをんファンであれば見ておくべき映画だという気がしないでもありません。
下は予告編の動画です。

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2014年11月 1日 (土)

今週の読書は伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』と今野敏の隠蔽操作シリーズ『自覚』ほか

今週の読書は、経済書を含む専門書・教養書3冊と、いろいろと取り混ぜて、伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』と今野敏の隠蔽操作シリーズ『自覚』ほかの小説が3冊で、要するに以下の通りの6冊です。

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まず、フランクリン・アレン/グレン・ヤーゴ『金融は人類に何をもたらしたか』(東洋経済) です。著者はペmシルバニア大学ウォートン校のファイナンス講座教授とミルケン研究所の研究者で、本書はミルケン研究所の研究成果として取りまとめられています。古代メソポタミアやエジプトからギリシアとアレクサンダー大王までさかのぼりつつ、近代的な金融の起源は大航海時代に求め、金融イノベーションに対して肯定的、というか、性善説的な評価を与えつつ、2007-08年に始まる金融危機の原因が金融イノベーションであることを否定しています。すなわち、金融イノベーションは不安定性の解決策であって、不安定性の原因ではないと著者たちの信念を明らかにしています。その上で、現実の金融の動向に関して、企業金融、住宅金融、環境金融、開発金融、医薬品金融の5分野を取り上げています。もちろん、開発金融ではグラミン銀行のようなマイクロ・クレジットやマイクロ・ファイナンスも取り上げられています。そして、最後に、真の金融イノベーションの教訓として、「複雑さはイノベーションではない」とか、「資本の民主化は経済成長を促進する」などの6点が上げられています。かなり、真っ当な金融イノベーションに関する見方が提供されています。逆に、意外感に満ちた面白みはありません。

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次に、仲正昌樹『マックス・ウェーバーを読む』(講談社現代新書) です。著者は金沢大学教授としてアカデミズムの世界の方です。ウェーバーといえば『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』や官僚制に関する研究などが有名ですが、キリスト教的な利潤追求の否定に対してカルヴィニズムにおける職業観や勤労観を強調し、プロテスタンティズムの倫理感が資本主義的な利潤追求の精神にマッチすることを明らかにしたなど、ウェーバーの入門書となっています。いわゆる「理念型」に基づく分析や、官僚制についても価値判断を下すことなく、文書に基づく効率的な事務遂行などを強調したウェーバーの官僚制に関する考え方を明らかにし、決して役所的でムダの多いカギカッコ付きの「官僚制」観ではなく、効率的に事務を処理し、役所や公的部門だけでなく、利潤追求を行う企業組織などにも存在する官僚制に関して正しく伝えています。ただ、歴史観については私故人の感触ではマルクス的な唯物史観に近い印象も持っていたんですが、ウェーバー的な世界観は唯物論に基づいているわけではないと、キッパリと否定しています。世界的にはともかく、現時点ですら我が国の社会科学の方法論に対して強い影響を及ぼしているウェーバーのとてもよい入門書だろうと思います。そして、出来ることであれば、エコノミストを含めて社会科学に携わる人間としてウェーバーの『プロテスタンティズムの精神と資本主義の精神』くらいは読んでおきたいものだという気がします。私も京都大学のゼミで読んで以来、長らくウェーバーの著作を手にしていないことを恥じるばかりです。

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次に、毎日新聞経済部『日本発! 世界のヒット商品』(毎日新聞社) です。表題につられて借りて、もっと歴史的に壮大なタイムスパンで取材しているのかと思いましたが、実は、ここ数年の範囲のヒット商品だと知って、少しがっかりしましたが、それはそれなりに面白かったです。生活家電、娯楽家電・精密機器、食品・飲料・調味料・酒類、生活雑貨・化粧品・衣料、玩具・乗り物・その他に分けて、欧米も対象としていますが、基本的にアジアをメインのターゲットとして日本発のヒット商品を取材した結果であり、2013年4月から2014年8月まで毎日新聞に連載された記事を取りまとめた単行本です。私は独身で中南米に3年、小さい子供連れでジャカルタに3年と海外生活を経験していますので、それなりに面白かったです。p.97 で取り上げられているカルピコですが、我が家の子供達は帰国後もしばらく「カルピス」とはいわずに、ジャカルタ仕様で「カルピコ」と呼んでいたのを思い出しました。また、p.154 でご飯にかける甘いソースを取材していますが、中南米で思い出すのは白いコメだけの日本的なご飯はやや「貧相」であると現地で見なされていたことです。ですから、チリ人のメイドさんはユカリを入れたりして、戦後「銀シャリ」と呼ばれた真っ白なご飯を避けようと苦心していたのを思い出します。なぜか、「貧相」に見えるようです。金やプラチナなどの貴金属だけの指輪よりもダイヤモンドなどの宝石がついていた方がいい、と私が雇っていたメイドに説明されて、何となく納得したのを記憶しています。

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次に、伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎) です。この著者の得意とする連作短編集です。羅列してもしょうがないような気もしますが、短編のタイトルは「アイネクライネ」、「ライトヘビー」、「ドクメンタ」、「ルックスライク」、「メイクアップ」、「ナハトムジーク」となっています。本のタイトルの「アイネクライネナハトムジーク」はモーツァルトの作曲になる曲から取っています。ただし、従来の作品と違ってタイムスパンが長いです。19年の期間を現在と19年前と9年前で区切って、3時点の出来事から切り取った風景を作品に詰め込んでいます。伊坂作品ならではの伏線に満ちた、かつ、軽妙な語り口で物語が進みます。もちろん、日本人のヘビー級チャンピオン誕生といった意外性にも満ちています。バブル期の小説家の作品ように生活感はまったくありません。いくつかの例外を除いて、登場人物がどうやって生活の糧を稼いでいるのかは不明です。ミステリではないと私は考えているので、ネタバレを書いてもいいように思わないでもないんですが、わが国有数の売れっ子作家の新刊本ですから、あまり雑なこともしたくありません。でも、『オー! ファーザー』くらいまでの第1期作品に戻ったような軽快な作品で大いにオススメです。

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次に、今野敏『自覚』(新潮社) です。警視庁大森署の竜崎署長を主人公とし、警視庁刑事部の伊丹部長をからませる「隠蔽捜査」シリーズの5.5版です。小数点がつくのは短編集だからです。3.5の『初陣』と同じコンセプトです。ということで、「漏洩」、「訓練」、「人事」、「自覚」、「実地」、「検挙」、「送検」の7篇の短編が収録されています。盟友伊丹は最後の短編「送検」以外はほとんど登場しません。その代わりといってはナンですが、女性のキャリア警察官畠山美奈子が登場する短編「訓練」が含まれています。随所にいつものメンバー、というか、第2方面本部の野間崎管理官、大森署の戸高刑事が登場し、安心感のある展開です。でも、冴子などの竜崎の家族の出番はありません。登場人物はともかくとして、いつも通りの合理性一本やりのブレない竜崎の魅力が満載で楽しめます。また、「検挙」では戸高が検挙数と検挙率のアップのためとんでもないことをやらかしますが、署長である竜崎からとても合理的な裁定を引き出します。ミステリとしての謎解きにも興味深い展開があり、人情ではなく合理性に基づいて部下を信頼するとはどういうことか示唆に富む短編もあり、私も役所の管理職として見習いたいものだという気がしないでもありません。

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最後に、乾緑郎『鷹野鍼灸院の事件簿』(宝島社文庫) です。私は知らなかったんですが、この作者は「このミス大賞」受賞作家としての顔だけでなく、現役の鍼灸師さんらしいです。この著者の作品は『完全なる首長竜の日』と先日読書感想文をアップしたばかりの『機巧のイヴ』しか読んだことがなく、この作品『鷹野鍼灸院の事件簿』が3冊目です。いきなり文庫本で出版されています。ということで、かの探偵シャーロック・ホームズのモデルとなった作者コナン・ドイル卿のエディンバラ大学のジョセフ・ベル教授のごとく、ちょっとした特徴から患者の状況や経歴をいい当ててしまう芸当が医者や鍼灸師などには可能なのかもしれず、その特徴を生かしたミステリです。もっとも、殺人事件で人が死ぬようなことはありません。探偵役の鷹野鍼灸院長に雇われている女性の若い鍼灸師を主人公にして、日常生活のちょっとした不思議な出来事の謎を解いていきます。また、鍼灸業界(?)のいろんな旧弊なども暴き出していたりします。幻肢痛など、私のようなシロートにはちょっと考え付かないような解決があるため、一部の読者には「反則」っぽく映る可能性はありますが、東野圭吾のガリレオのシリーズのような物理ミステリは極端としても、専門知識をペダンティックに用いるケースも少なくない海堂尊や仙川環の医療ミステリなども流行っているんですから、鍼灸業界に根差したこういったミステリもいいんではないかと思います。私はわずか3冊しか読んでいませんが、この作者のミステリは外れがなくて当たりが多いような気がします。

この3連休はお天気がやや不安定なようなんですが、自転車でいくつか図書館を回って予約してあった本を引き取りに行きたいと考えています。

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