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2014年11月18日 (火)

片岡剛士『日本経済はなぜ浮上しないのか』を読む!

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ご著者よりちょうだいした片岡剛士『日本経済はなぜ浮上しないのか』(幻冬舎) を読みました。副題は『アベノミクス第2ステージへの論点』となっていて、第1ステージの解説とともに、この先の経済政策のあり方などについて展望しています。

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まず、アベノミクスの3本の矢の関係については、p.25 図1-1で上のように整理しています。上の画像は著者がご勤務の会社で運営しているサイトにアップしてある「安倍政権の経済政策と2013年・2014年の日本経済」と題するリポートから引用しています。私もほぼ同じ考え方をしていて、第3の矢の成長戦略というのは中長期的な潜在成長率を引き上げる、すなわち、上の図では潜在成長経路を上方シフトさせる、あるいは、傾きを大きくする、または、その両方と考えていて、短期ではおそらく全体の8割くらいは金融政策によるデフレ脱却、成長加速、そして、マクロ経済の安定化を目指しており、ただし、金融政策はラグが長いため、時間を買う政策として財政出動に頼る、という形になっていると認識しています。本書では、アベノミクスは成長に特化した経済政策パッケージであると喝破しています(p.22)。他方、逆から見れば、所得再分配政策は抜け落ちていて、本書ではこの点は指摘されていますが、さらに突っ込んでいえば、格差是正は当面の間なりとも無視されているといっても差し支えありません。ですから、本書でも家計調査を引いて、現在の消費の盛り上がりは上位20%の富裕層によるものであると分析しています(p.39)。
さらに、本書第2章と第3章では経常収支や貿易収支にも焦点を当てるとともに、付録で国際収支統計について解説を加えていますが、要するに、長く続いた日銀の失政に起因する円高のために、製造業を中心に空洞化が生じて、円安に振れても現地生産主体の製造業の輸出が伸びずに、貿易収支が円安で黒字化しない、と結論しているようです。なお、貿易収支の動向に関しては、下にリファレンス先をお示しした清水・佐藤論文がかなり標準的な見方を提供していると考えていて、このペーパーでも、やっぱり、特にリーマン・ショック以降の円高に伴う現地生産・産業空洞化の進展により、足元の円安でも輸出が伸びにくい産業構造に変化している点を指摘するとともに、pricing-to-market 行動が支配的になり円安で価格を引き下げた「集中豪雨的な輸出」がなされなくなったために貿易収支の改善に結びついていないながらも、為替効果で我が国の主要産業は着実に国際競争力を高めていることを実証しています。ということで、貿易収支はその通りなんですが、ついでながら、経常収支についても高齢化の進展とともにマクロの貯蓄率が低下して、遠くない将来に赤字化する可能性も示唆しておきたいとおもいます。

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そして、2014年前半の日本経済失速の最大の原因は、何といっても、2014年4月からの消費増税ショックであることは、多くのエコノミストの意見が一致しています。本書 p.132 図4-3 でも引用している「日本経済ウォッチ (2012年7月号)」から 消費税引き上げが個人消費に及ぼす影響 の概念図を引用すると上の通りです。ただし、本書第4章では、賃金の動向やメディアの報道などの資料を分析していますが、その原因について、何の責任もなく貧弱なメディアで勝手な意見を表明しているだけの私から見れば、やや突込み不足の感が否めません。私自身の直感としては、昨夜の7-9月期GDP速報1次QEを取り上げた記事でも書いた通り、来年2015年10月からの消費税率再引上げに備えた家計の生活防衛に伴う貯蓄率の上昇、あるいは同じことですが、消費性向の低下が現在の景気の足踏みの原因のひとつではないかと考えており、別の表現をすれば、ルーカス批判がピッタリと当てはまるケースであろうと受け止めています。もっとも、現時点で利用可能な家計調査などのデータを見ても、それらしい動きはなく実証できませんから、あくまで暫定的な仮説の域を出ないんですが、逆に、消費税率の10%への再引上げが延期されて消費が持ち直した後、消費増税のスケジュールの1年くらい前から再び消費が弱含むようなことになれば、あるいは、有力な仮説のひとつとみなされる可能性があります。そして、本書では第5章を「増税を延期し、アベノミクスを再起動せよ」と題して、メディアや政界で来年10月からの消費税率再引上げの延期の情報が広まる前に、まさに的確な方向性を打ち出していた点を強調しておきたいと思います。
ほかに、誠についでながら、私が本書に大いに賛同できる点を、単なる羅列で申し訳ありませんが、3点だけピックアップすると以下の通りです。

  • 「すでに景気後退局面に入っている可能性が非常に高い」(p.141)
  • 「消費増税の影響緩和策として法人税減税や投資減税を行うのはナンセンス」(p.181)
  • 「景気回復の恩恵がすべての人々に行き渡っていないという指摘は正しい」(p.201)

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士主任研究員からご著書『日本経済はなぜ浮上しないのか』をちょうだいしましたので、誠に貧弱なメディアながら、我がブログで取り上げました。なお、何らかの影響をケインズ経済学から受けたマクロエコノミストとして、長期の議論を "In the long run, we are all dead." として、当面避けるのは理解します。しかし、アベノミクスを考える場合、消費増税を先送りする場合、財政のサステイナビリティの間にあり得べきトレードオフの議論は避けて通れませんし、格差是正についても中長期的な経済政策の課題と考えられることから、これも含めたさらなるご活躍を祈念しております。なお、エコノミストに限らず、多くの方々からのご著書の寄付は随時受け入れております。

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