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2014年12月18日 (木)

日本企業のキャッシュ保有はいかに解明されるか!

総選挙が終わって、総理大臣指名の特別国会に先立って火曜日12月16日に政労使会議が開催され、政府から来年の賃上げを要請する運びとなり、法人減税と引き換えるつもりなのかもしれませんが、経済界もそれなりに前向きに対応したような印象でした。貧弱なメディアながら、私がこのブログで従来から主張しているのが、企業が溜め込んだキャッシュを賃上げや設備投資の形で我が国の国民経済に還元するという視点が重要、という点でしたが、いくつか学術論文を当たっていると、国際通貨基金(IMF)のワーキングペーパーで私の視点にやや近い分析を発見しています。参照先は以下の通りです。

今日は帰宅が遅くなりましたので、簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、日本の非金融機関のいわゆる事業会社のキャッシュ保有と設備投資について上のグラフの通り、キャッシュ保有が非常に大きくなっている姿を示しています。IMFのサイトにpdfファイルでアップされているペーパーの Figure 1. Nonfinancial firms' real holdings of cash assets and real aggregate investment in Japan を引用しています。世界的に、最近20年間で事業会社のキャッシュ保有は増加しているものの、日本の場合は特にそれが著しいと指摘しています。すなわち、事業会社のキャッシュ保有は約250兆円に上り、名目GDPの約半分、あるいは、設備投資の2.5倍に達している事実を明らかにしています。その上で、いくつかフォーマルな定量分析を試みているんですが、私から見て興味深かったのが企業経営者であるCEOの二面性、すなわち、CEO dualityをダミーとして推計式に導入している点です。そして、CEO dualityはcash-to-assets比率に対してプラスの符号を持って有意に効いており、CEO duality、すなわち、CEOが取締役会議の議長を兼任している会長である場合、統計的に有意にキャッシュを溜め込むとの推計結果を得ています。もちろん、銀行セクターがパワフルであって、金融市場へのアクセスが十分でない点なども強調されていますので、結論として、企業の保有するキャッシュを成長資金として有効に活用するための政策としては、"Policy options for encouraging the use of these cash holdings include improving firms' access to market-based financing and discouraging CEO duality." ということになります。
CEO dualityとは、繰返しになりますが、経営トップが取締役会議の議長である会長を兼任していることであり、取締役会議の議長は株主の代表として経営陣を監視する役割を負っていることから命名されています。いくつか、CEO dualityと企業パフォーマンスとの関係に関する論文もあるようですが、私の専門外ですので詳しくありません。ただし、こういった二面性、三面性は企業の経営トップだけでなく、一般の国民や消費者でも見られるところで、例えば、米国クリントン政権下で労働長官の任にあったロバート・ライシュ教授の『暴走する資本主義』では、国民は消費者としては安価な製品を選好するが、雇用者としては高い賃金を選好し、この両者はトレード・オフの関係にある可能性があり、さらに、ある企業の株主であれば製品価格は高く、賃金は低く、といった選好もあり得ることから、こういった二面性・三面性が併存する場合が明らかにされています。複雑な関係かもしれませんが、現在の日本においては企業の保有するキャッシュを賃上げや設備投資で国民経済に還元する政策が重要な課題のひとつであるとの私の考えが国際的にも共有されているような気になっています。その意味でも、消費増税と法人減税の組合せには疑問を感じざるを得ません。

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