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2015年1月 2日 (金)

トマ・ピケティ『21世紀の資本』(みすず書房) を読む!

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トマ・ピケティ『21世紀の資本』(みすず書房) を読みました。昨年から話題になっていた経済的な格差に関する本です。邦訳は主として英語版から翻訳されているようです。600ページ余りの学術書であり、経済的な格差を長期にわたって分析していますので、比較的短期の経済現象を数量的に分析した学術論文とは異なり、フォーマルな定量分析よりもより規範的な分析が展開されており、ある意味で、数学的なモデルの提示などが少ないので一般読者にも取っ付きやすいかもしれませんが、かなり深い理解を求められる部分も少なくありません。今日のエントリーでは、邦訳版の図表一覧からいくつかグラフを引用しつつ、必ずしも定番から外れるかもしれませんが、私なりの読解の結果をお示ししたいと思います。

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上のグラフは、p.303 図8.5. 米国の所得格差1870-2010年 を邦訳版の図表のサイトから引用しています。米国における100年余りの間の所得格差の推移です。グラフのタイトルとグラフの横軸のタイムスパンがあっていないんですが、ご愛嬌です。経済的な格差に関する時系列的な分出来でよく知られたクズネッツの逆U字曲線は1950年そこそこに公表されており、この『21世紀の資本』でいうところの1914-45年の平等化が進んだ時期を見た分析といえます。言うまでもなく、20世紀前半で大きく平等化が進んだ要因は2度にわたる大規模な戦争です。ソヴィエト・ロシアにおけるレーニン的な戦時共産主義だけでなく、「すべてを戦線へ」が実行された結果、配給制が実施されたことに象徴されるように、著しく平等化が進みました。その後、フランス的なベル・エポックの30年間を経て、1980年ころから格差が大きく拡大しているのが見て取れます。

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通常、クルーグマン教授らのリベラルなエコノミストは、この1980年ころから始まる格差拡大について、同時期に米英で成立したレーガン政権のレーガノミクスやサッチャー政権のサッチャリズムによる新保守主義的な経済政策の帰結であると指摘しています。ひとつの傍証として、上のグラフは、p.521 図14.1 最高所得税率1900-2013年 を邦訳版の図表のサイトから引用しています。明らかに、高所得層の最高税率を引き下げて、所得税率をフラットにしたことが格差の拡大につながったと私も考えています。と言うのは、政府の財政活動のうち、支出面は失業手当などのごく一部を除いて格差を縮小する方向での所得再分配に寄与しておらず、1970年代までの格差の小さい経済社会では累進所得税による再分配こそが主役だったからです。

格差に関しては、本書ではあと2点ほど興味深い結論を引き出しています。第1に、サブプライム・バブルの発生と崩壊に伴う金融危機については、「米国における格差拡大が金融不安の一因となったのはほぼまちがいない」 (p.308) と結論しています。当然ながら、格差拡大のために中流ないし下層に属する家計における実質購買力が低下し、借入れに対する依存が高まったことを重視しています。第2に、米国の経営者のとんでもない高額報酬については、第9章で、限界生産性や教育と技術の競争といった理論では1980年以降の米国の格差拡大は説明できない (p.343) とし、「重役たちがレジに『手を突っ込んでいる』」(p.345) に近い印象を持っているような記述を見かけます。そして、「コーポレート・ガバナンスの失敗と、極端に高い重役報酬に対して生産性に基づくまともな説明などない」(p.348) とか、「ツキに対する報酬」といった表現がそれを示していると思います。

本書について、ラインハート-ロゴフの『国家は破綻する』ほどのインパクトをエコノミストの業界にもたらしたとは私は考えていませんが、サブプライム・バブルに伴う金融危機から一段落した現時点で、エコノミストや多くのビジネスパーソンの目を経済的格差に引き付けるという意味で、それなりの影響力をもった学術書だと受け止めています。話題の書であることは確かですから、機会があれば目を通すことも一案かもしれません。

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