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2015年2月28日 (土)

今週の読書はウィリアム・パウンドストーン『科学で勝負の先を読む』ほか

今週の読書は、先週末にいっぱい借りに走り回ったので、そこそこ読みました。ウィリアム・パウンドストーン『科学で勝負の先を読む』ほか、翻訳書の教養書を中心に小説も含めて6冊、以下の通りです。今週の読書感想文はやや短めに論評しておきたいと思います。

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まず、ウィリアム・パウンドストーン『科学で勝負の先を読む』(青土社) です。著者はサイエンス・ライターで、これまでの著書を見ている限り、サイエンスの中でも数学に造詣が深いようです。この本はタイトルの通りなんですが、決してランダム・ウォークや偶然の確率に挑むわけではありません。機械的な確率を当てようとするのではなくて、何らかの人間的なバイアスを読み切ろうとするものです。私は詳しくないんですが、ロトのように購入者自身が数字を選ぶ宝くじの場合、当選番号はランダムとしても、投票番号で少ない数字を選ぶことは出来るわけで、ソチラの方面を極めようとしています。ベンフォードの法則から外れた数字の現れ方をする会計操作なども取り上げ、また、バスケットボールなどの「ホットハンド」という絶好調の波に乗って成功しまくる状態に疑問を投げたりしています。ただし、エコノメにも理解あるエコノミストたる私から言わせれば、例えば、米国の株式市場の場合はモメンタムが優勢で、順張りが必勝戦略である一方で、日本では逆にリターン・リバーサルが優勢で、逆張りが必勝戦略となっています。これはエコノメで実証的に広く確認されている事実です。繰返しになりますが、本書はランダムや偶然に挑戦するものではなく、人間が選択するバイアスを読もうとする試みです。なお、最後にいつもの宣伝ですが、私は大学に出向していた時にランダム・ウォークの性質や検定方法について "An Essay on Random Walk Process: Features and Testing" と題する学術論文を書いています。ご参考まで。

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次に、ホッド・リプソン/メルバ・カーマン『2040年の新世界』(東洋経済新報) です。上の表紙の画像に見られる通り、副題は「3Dプリンタの衝撃」とされています。要するに、2040年において3Dプリンタが製造現場や国民生活の場などで大いに活用されていて、経済社会が大きく変化している可能性があることを明らかにしています。私なんぞの門外漢が知る限り、3Dプリンタというのはインクの代わりに黄色いポリマーを原料に整形して立体的な造形を作る機械なんですが、本書では、フードプリンタとしてパンやクッキーやチョコレートを作ったりもします。季節はバレンタインデーを終えたところでしたから、チョコを材料にハート形を造形するなんてのは理解しやすいんではないでしょうか。でも、生体インクを材料にバイオプリンティングして移植用の臓器をプリントする、となれば大いに次元の異なるお話だという気がします。本書では、単に3Dプリンタで何かをプリントする、というか、作り出すだけでなく、デザイン・ファイルに関する著作権のあり方や、武器や薬物などのご禁制品まで出来てしまう3Dプリンタに関する規制のあり方など、幅広く3Dプリンタのトピックを網羅しています。私はその昔の25-30年くらい前に、当時の主流だったメインフレームのコンピュータからパーソナルな「1人1台」のPCの時代になるとか、インターネットの黎明期に情報化を考える書物とかで、もっぱら家庭における生活の変化ばかりを取り上げていたため、工場やオフィスなどの生産の場における製造工程の変化や仕事の流れの革新について、余りに無視されていると感じたことがありましたが、本書では家庭の生活だけでなく、学校における教育や工場における製造過程など、幅広く目配りがなされており、とても安心感があります。専門外の私でもそれなりに興味深く読めたのも事実です。

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次に、ロバート D. カプラン『地政学の逆襲』(朝日新聞出版社) です。輸送手段の高速化や情報の高度化により地理的な位置関係は重要ではなくなったかのように主張されることがありますが、本書では地理の重要性について大いに強調しています。ただし、ややタイトルには疑問を感じざるを得ません。すなわち、上の表紙の画像に見られる通り、原題は The Revenge of Geography であって、Geopolitics ではなく Geography ですから、直訳すると「地理学の逆襲」です。やや誤解を生じかねないタイトルとしているような気がします。どうあっても動きようのない地理的な位置関係というのが重要であることは、ある意味で私も当然と受け止めていますが、私の直感としては地理は地理でも位置関係というよりも、むしろ気候や気象条件の違いに起因する結果もあるんではないかと考えています。ジャカルタに3年間暮らして政府開発援助に関わったエコノミストとして、「緯度の経済学」はそれなりに実在すると考えますが、それは気候に起因する南北の差ではないかとも見えます。本書でも世界的な覇権の移り変わりが注目されていますが、地理的な位置関係が移り変わりしない一方で、覇権はその昔のローマから近代の英国を経て今では米国に移っているわけですから、地理的な位置関係だけではない何らかの要因を考慮しないと覇権の移り変わりは理解できないことになります。でも、地理学に基づくハートランドとか、リムランドとかいうのは、専門外の私ですら耳にしたことのあるキーワードですから、それなりの基礎的な教養となるような気もします。

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次に、多田井喜生『昭和の迷走』(筑摩選書) です。著者は大学などのアカデミックな世界ではなく、ビジネスの世界に身を置いた歴史家です。多くの軍人が後悔した「満州で止めておけば」とか、「長城を越えなければ」など、満州事変から「満州国の建国」で止まらずに中国全体と泥沼の戦争に陥って、さらに、米国や英国と戦線が果てしなく拡大した原因について解明しようと試みています。その題材になるのは大蔵大臣も務めた勝田主計の残した長期に渡る「ポケット・ダイアリ」です。また、昭和の大陸経営について、例えば満州においては金券の朝鮮銀行券か銀券の台湾銀行券か、といった視点も目新しく、今までにない切り口で昭和の暗黒史の解明を試みています。最初の方で戦争とは外交と軍事と財政が重要、と指摘されていながら、ほとんど外交が本書では現れず、財政の視点が目新しいとはいうものの、やっぱり、軍事の視点がかなりクローズアップされているような印象を私は受けました。それも、ほぼ陸軍一辺倒で、海軍についてはほとんど何の言及もありません。新たな史料に基づき新たな視点も提供されているとはいえ、少し物足りない気がします。

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次に、飯田洋介『ビスマルク』(中公新書) です。著者はビスマルク研究を専門とし、早稲田大学出身で現在は岡山大学に在籍する研究者です。ビスマルクといえば、1815年生まれで、今年で生誕200年となります。ナポレオン後の欧州において、ドイツ宰相として外交と内政に辣腕を振るった、という大雑把な印象は誰でも持っているんではないでしょうか。内政では社会保険制度や年金などがビスマルクの功績として思い浮かびますが、本書では外交における圧倒的な役割を重視しています。鉄血宰相と称される軍事と外交でハプスブルク家を外してプロイセンを中心とするドイツの国家としての統一を成し遂げた政治家であるとの位置づけです。ただ、私の歴史観とも関係するんですが、本書の視点のように、ビスマルクの功績によりドイツがプロイセン中心に統一された、ということになるんではなく、何らかの歴史的な流れの中でプロイセン中心のドイツ統一が客観的な条件として高まったがゆえに、その舞台回しとしての役割を引き受ける人物が必要で、それがビスマルクだった、と私は考えています。すなわち、何らかの強烈なパーソナリティが大いなるリーダーシップをもって歴史を形作るんではなく、歴史が何らかの必然の流れの中で進むうちに、その流れの必要な人物を舞台に上げる、という考えを私は持っています。かなり、マルクス的・唯物論的な歴史観に近いと思いますが、ビスマルクも何らかの歴史の要請によりドイツ宰相として腕を揮ったんではないかと私は考えています。ちょっと、本書の著者のようなビスマルク研究者とは視点が違うと思いますが、ご参考まで。

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ここまで教養書や専門書が並びましたが、最後だけ小説で、月村了衛『土漠の花』(幻冬舎) です。アフリカで活動していた自衛隊にソマリアのスルタンの娘が難を逃れて来て、敵対氏族やテロ集団からの攻撃にさらされて多数の死傷者を出しつつ、自衛隊の本部まで国境を越えて命からがら逃げ帰る、というストーリーです。私には何も訴えかけるものがありませんでした。どうして本書が売れているのか、サッパリ私には理解できません。出先の自衛隊員がどのような判断に基づいて戦闘行動を取るべきなのかは大いに考えさせられる要素のひとつではありますが、内戦状態のアフリカにおいて、どの氏族を味方と考え、どの氏族と戦闘行為を行うのか、勝手に武官が判断すべきかどうか疑問の残るストーリーであり、戦闘行為の描写も私は何の感慨も湧きませんでした。何の美点も見出せない小説ですし、誰にもオススメする自信がありません。

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