« 企業向けサービス物価は上昇率が鈍化しつつもプラス圏内で推移を続ける! | トップページ | 週末のジャズは桑原あい「the Window」を聞く! »

2015年4月25日 (土)

今週の読書は角川インターネット講座第10巻の山形浩生[監修]『第三の産業革命』ほか

今週の読書は角川インターネット講座第10巻の山形浩生[監修]『第三の産業革命』ほか、以下の5冊です。今週は先週までと違って小説をかなり読みました。

photo

まず、山形浩生[監修]『第三の産業革命』(角川書店) です。クルーグマンやピケティ『21世紀の資本』の翻訳者としても著名な監修者による角川インターネット講座第10巻です。第1部 インターネット経済の原理、第2部 産業の変化、第3部 産業をとりまく環境の3部構成となっており、カール・シャピロ、ハル・ヴァリアン、ポール・クルーグマンなど、名の知れたエコノミストも含む執筆陣が、情報技術の高度化とインターネットの普及が一変させた経済、産業、そして個々の働き方や暮らしについて、また、そのインパクトはどこまで及ぶのか、などなど、現状の見取り図を示すとともに、進行中の「第三の産業革命」を展望しています。やや取りとめがないというか、一貫性に欠けるのはこのシリーズの特徴のひとつかもしれませんが、書下ろしだけでなく、やや古い論文も含めて、経済や国民生活へのインターネットの影響力が概括され、今後の展望も試みられています。今後の展望については大いにコケる可能性があると私は危ぶんでいます。

photo

次に、松田武『対米依存の起源』(岩波現代全書) です。政治=軍事ないし安全保障と経済と文化の3つのテーマにおける対米依存をあざなえる縄に例えて、戦後日本の対米依存を解き明かそうと試みています。しかし、この著者の専門分野からして、最後の文化に大きな重点が置かれている印象があります。また、文化というよりも教育や研究と言い換えたほうが適当かもしれません。特に、日本アメリカ学会の創設や東大と京大の間でのアメリカ研究セミナーの開催に関する確執などは読ませどころなのかもしれません。でも、米国の日本占領方針が、象徴的な言葉を使えば、「東洋のスイス」から「反共の防波堤」に変化したことによる対米従属の強化だったのであれば、逆の方向からの、すなわち、マルクス主義の陣営からの経済社会の戦後再建策も触れて欲しかった気がします。また、繰返しになりますが、教育・研究でなく文化と主張するのであれば、ハリウッドの映画や米国製のテレビ・ドラマ、消費文化としてのコーラやジーンズなどもそれなりの重要性を持って取り上げて欲しかった気がします。

photo

次に、伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』(光文社) です。平和警察なる戦前の特高警察を思い起こさせるムチャで強権的な警察組織が創設され、国民が相互に監視し合って密告し合った上で、平和警察で過酷な尋問が繰り返され、最後は公開処刑でギロチンにかけられる、という世界で、東北大学で開発された強力な磁石を用いた武器を手に入れた「正義の味方」が無実の市民の解放に立ち上がる、というストーリーなんですが、この作者の『ゴールデンスランバー』を思い出した読者も少なくないと思います。『ゴールデンスランバー』では結局主人公が個人的に逃げ切ることに成功する、というストーリーだったんですが、本作では組織的に平和警察を壊滅させるところまで視野に収めます。もっとも、その組織的な成果は目論んだものではなく、往々にして「瓢箪から駒」的な結果であることは言い添えておきます。5部構成なんですが、最後の第5部で、現実にはありえないような、というか、いかにも小説的な展開ですべてが解決されるのはこの作者らしい小説だと受け止めています。私のように、この作者のこういった展開が好きな人は読んでおくべき作品ではないかと思っています。

photo

次に、万城目学『悟浄出立』(新潮社) です。中国の古典に題材を取った短編集です。『西遊記』の沙悟浄、『三国志演義』の趙雲、項羽の愛人だった虞姫、秦の始皇帝暗殺を志した荊軻というか、同音異字の京科という名の小役人、司馬遷に見向きもされなかった娘の栄、の5人の脇役を主人公に据えています。なぜか、すべて題材の舞台は中国です。こういった古典の現代小説へのカギカッコ付き「改作」による短編は芥川龍之介があまりにも有名ですが、芥川の場合は「蜘蛛の糸」以外の、「羅生門」、「鼻」、「芋粥」などは軒並み日本が舞台と記憶していますし、もちろん、この作品のように脇役を主人公に据え直しているわけではありませんから、趣きはかなり異なっています。でも、私はこの作者の作品はジュブナイル小説まで含めてすべて読んでいると自負していますが、新しい試みであることについては異論なく、成功しているかどうかは読者による判断なんでしょうが、私は控えめに言っても「イイ線行っている」と受け止めています。ただし、この作者の文学作品の幅は確実に広がったとはいえ、この作品のバリエーションが次々と出版されるとは予想していません。

photo

最後に、池井戸潤『ようこそ、わが家へ』(小学館文庫) です。身近に潜む恐怖ということで、池井戸作品の通常の構成の通り、主人公は銀行員なんですが、仕事上の不正やトラブルだけでなく、家庭生活におけるトラブルにもスポットが当てられています。仕事と家庭の中間的な企業スポーツについては『ルーズヴェルト・ゲーム』があったんですが、モロに家庭生活を扱う池井戸作品は私は初めて読みました。通勤電車での割込みを注意したことから、自宅の花壇が踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれ、さらに、自家用車はひっかき傷をつけられ、部屋からは複数の盗聴器まで見つかります。また、仕事上でも、主人公が銀行から出向している中小企業の営業部長に不正の疑惑を抱いて、逆に窮地に陥ったりします。なお、本作品を原作としてフジテレビで同じタイトルのドラマが放映されていますが、タウン誌の記者の沢尻エリカの役どころは原作にはありません。ご参考まで。

|

« 企業向けサービス物価は上昇率が鈍化しつつもプラス圏内で推移を続ける! | トップページ | 週末のジャズは桑原あい「the Window」を聞く! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/20840/59762171

この記事へのトラックバック一覧です: 今週の読書は角川インターネット講座第10巻の山形浩生[監修]『第三の産業革命』ほか:

« 企業向けサービス物価は上昇率が鈍化しつつもプラス圏内で推移を続ける! | トップページ | 週末のジャズは桑原あい「the Window」を聞く! »