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2015年4月18日 (土)

今週の読書は玄田有史『危機と雇用』ほか

今週の読書は、久し振りに深く感動した表記の玄田有史『危機と雇用』ほか、以下の通りです。

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まず、何はともあれ、玄田有史『危機と雇用』(岩波書店) です。著者は希望学で著名なエコノミストですが、希望学を始める前は労働経済学者であり、第5章を別にして労働経済学の観点から論じています。なお、タイトルの「危機」はリーマン・ショック以降の金融危機ではなく、2011年3月の震災を指しています。前半3章では震災直後の2012年に実施された総務省統計局の就業構造基本調査の結果や政府の雇用対策などを取り上げ、統計的に離休職期間が短いのは、業種では製造業、就業形態では正社員、とのファクト・ファインディングを提供しています。もっとも、正社員の離休職期間が短いのは、新自由主義的な解雇規制の観点からではなく、リベラルに人的資本の蓄積から論じています。後半の第4章と第5章では、それぞれ、企業と個人を対象とした独自のアンケート調査から重要な論点をいくつか提供しています。すなわち、特に中小企業における危機時のリーダーシップの重要性や震災を境にして個人の希望が仕事から家族にシフトしつつある点などです。読書感想を書き出せば切りがありませんが、震災と雇用についてとてもよく取りまとめられた労働経済学ないし希望学の本です。まだ今年は半分も来ていませんが、私の読んだうちでは今年前半のベストの経済書と受け止めています。

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次に、マリオ・リヴィオ『偉大なる失敗』(早川書房) です。著者は宇宙物理学者ですが、いくつかポピュラー・サイエンスの著作を出版しています。『神は数学者か?』、『なぜこの方程式は解けないか?』などで、いくつかは同じ早川書房から出版されているようです。本書では、チャールズ・ダーウィン、ケルヴィン卿ウィリアム・トムソン、ライナス・ポーリング、フレッド・ホイル、アルベルト・アインシュタインといったそうそうたる科学者の業績を振り返るとともに、これら天才科学者の失敗について論じています。11章構成ですが、第2章以降は2-3章、4-5章と2章ずつが対になっていて、これらの科学者5人が取り上げられており、対になっている最初の章で理論の概要などの業績が紹介された後、次の章で失敗が論じられ、場合によっては共同研究者へのインタビューも含めた原因究明がなされています。やや、この原因究明の姿勢はやり過ぎのような気もします。それはともかく、ポーリングのDNA3重らせん構造やアインシュタインの宇宙定数など、よく知られた謬論が紹介されているんですが、やはり、それなりの科学に関する素養がなければ読みこなせず、私のような凡人にはとても難しく感じられました。アインシュタインの宇宙定数がダークマターやダークエネルギーになって蘇りつつあるのはよく言われますが、私のようなシロートからすれば、いずれもかなり胡散臭いと見ています。もっと、オッカム法則に則した単純な解釈が一般受けしそうな気もします。難しいところです。いずれにせよ、天才科学者たちの失敗は私のような凡人にとって参考になる部分が大いにあるわけでもなく、それなりの難解な科学理論を背景にした読み物、という以上の位置づけは出来ませんでした。

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次に、デイヴィッド・ビアリング『植物が出現し、気候を変えた』(みすず書房) です。マクロの宇宙論や進化論については、エコノミストの私でも大いに興味を持っており、化学などと違って、とは言わないものの、それなりに経済学との関係もなくはないんですが、本書は進化論で通常取り上げられる動物ではなく、植物を対象としており、かなり難しく感じられました。著者の専門分野は古生物学の中でも植物学であり、その基本に加えて、進化生物学、地球科学を統合する新しいアプローチの若き旗手と見なされているそうです。ですから、化石から読み取れる情報を基にシミュレーションによる解析結果などを示して、地球の環境変化、特に大気中の酸素濃度などについて分析結果を示しています。特に、何度かに及ぶ大絶滅期については、恐竜だけでなく、とても興味深く感じられました。繰返しになりますが、難しい内容です。下の『私たちは今でも進化しているのか?』にも共通して、人間を含む動物にせよ、植物にせよ、遺伝子レベルでの「進化」とまでは言えないのかもしれませんが、かなり素早い「適応」を見せるという事実には驚きました。本書では産業革命期における二酸化炭素濃度の上昇に応じた植物の適応が取り上げられていたりします。いずれにせよ、本書では正と負のフィードバックが打ち消しあって均衡に達する場合だけではなく、一方向のフィードバックループにより均衡から離れて行く実例や可能性がいくつか示されており、人間も含めた自然の奥深さというものを感じることが出来ました。

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次に、マーリーン・ズック『私たちは今でも進化しているのか?』(文藝春秋) です。著者は生物学教授であり、本書冒頭に記述されているコオロギの研究で有名だそうです。すなわち、カウアイ島のコオロギは寄生バエの攻撃を避けるために、わずか20世代5年で鳴かないように急速に進化を遂げた、という発見です。ただい、この著者の業績から、本書のタイトルを最終章と同じにしたのは、分からなくもないんですが、実際に手に取って読めば、原題である Paleofantasy の方が適切な気もしないでもありません。ここで「パレオ」とは石器時代や原始生活を指し、たとえば、最近、日本でも流行の兆しを見せている「糖質ダイエット」など、農耕生活に入る前の狩猟採取生活のカギカッコ付きの「石器時代」や「原始時代」にさかのぼったライフスタイルに魅力を感じるのが「パレオファンタジー」であり、炭水化物の摂取を避けて肉ばかり食べたり、負荷の高い運動を短時間行う、といったことが推奨されているらしく、この「パレオファンタジー」に対して反論しているのが本書であるわけです。この「石器時代」への憧れのひとつの要素として上げられているのが、農耕生活に入ってわずか1万年しか経過しておらず、その間、人類は進化しているわけではない、というのがあり、本書の著者は反論の材料として、1万年もあれば大いに人類は進化している、今でも人類は進化している、ということに尽きると思います。1万年に満たない数千年の人類進化の例として、人類だけがミルクのラクトースを分解できるようになった事実とか、高地に住むチベット陣が呼吸数を増やした例などを引いているわけです。ですから、本書の主要な目的として「パレオファンタジー」に対する反論の一環として。進化とはあまり関係のない石器時代の恋愛やセックス事情とか、石器時代の家族や社会生活にも重点が置かれて解説されています。純粋な進化論のポピュラー・サイエンスではないという事実を知った上で読むかどうかを判断すべきではないかという気がします。でも、今週読んだサイエンス書3冊のうちでは一番面白かったです。

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次に、沢村浩輔『夜の床屋』(創元推理文庫) です。先週の読書ではとうとう小説がナシだったんですが、今週の読書でもフィクションの小説はこれ1冊だったりします。この著者はよく知らなかったんですが、我が家で購読している朝日新聞の書評で見かけて借りてみました。大学生の佐倉を主人公、というか、ストーリ・テラー兼謎解き役としつつ、相棒の高瀬らとともに活躍を収録した連作短編集ですが、佐倉周辺のこまごまとした事件から、世界を股にかける大がかりな謎まで、とてもスケールの大きなミステリです。本のタイトルにも採用されている最初の短編「夜の床屋」に、最後の短編「エピローグ」で戻って来て、壮大なるどんでん返しの可能性が示唆されています。しかし、いわゆる本格ミステリと違って、キチンとした完全な謎解きが提示されているわけではなく、謎に対する極めて有力な仮説が示されているにとどまり、その点でやや物足りない印象を持つ読者もいるかもしれません。綾辻行人の「館シリーズ」でも触れられる、人魚の肉を食べると不死になる、という伝説がこの作品でも登場します。その意味で、綾辻作品の影響を受けている可能性はあるんではないかと想像しています。

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番外編扱いはやや失礼かとも思わないでもないんですが、最後に、田野瀬良太郎『田舎の無名高校から東大、京大にバンバン合格した話 西大和学園の奇跡』(主婦の友社) です。基本は、創設者であり長らく理事長を務めた政治家の自慢話と受け取る人も多そうな気もしますが、京都府南部出身で奈良県トップの進学校を卒業した私としては、とても気にかかる学校です。でも、創設が1986年だそうですから、私はとっくに大学も卒業して東京の役所で仕事していたわけで、男女共学ということすら知らないのも当然かもしれません。私は中学・高校のころ、夏休みとかは別にして、日常的には塾や予備校にはまったく通わず、学校の勉強だけに集中していましたので、この西大和学園の教育方針も分かる気がします。少子化の流れの中で、私学が経営的に生き残るためには進学校を目指すという確固たる方針が貫徹されたのが現在のトップ校に次ぐ位置を占めるまで躍進した要因のひとつなのかもしれません。

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