今週の読書は社会学の学術書ほか
今週の読書も経済書はなしで、社会学の専門書、というか、学術書と小説と新書だけでした。以下の通りです。
まず、ジョン・アーリ『モビリティーズ』(作品社) です。著者であるこの社会学者は『観光のまなざし』で有名になったような気がするんですが、私は同じ系列の『場所を消費する』を読んだ記憶があるものの、ジャカルタから帰国した直後の10年以上も前のことですので、本の内容はすっかり忘れました。そのころの観光の社会学から、本書ではその発展形だと思うんですが、移動の社会学を展開しています。本書でも明らかにされている通り、移動手段の高速化や多様化によって、移動時間が短くなったという意味で地球が狭くなった一方で、従来では不可能だった地点まで到達できるという意味で地球が広くなりました。本書では私の問題意識と同じで、パーソナルな自動車や自転車についてライン系の移動手段と規定し、いわゆる公共交通機関としてネットワーク系の鉄道や飛行機を移動手段と考えています。また、移動に代わるテレビ会議の手段などについても論じており、代替できる部分とできない部分を把握すべく努めています。また、ダンカン・ワッツ流の「スモール・ワールド」における6次のつながりと移動の関係についても議論しており、決して突飛ではないものの、かといってありきたりでもなく、とても興味深い結論に達しています。最後にご注意ですが、本書はあくまで学術書です。一般の読者を対象にしたいわゆる教養書ではなく、大学や大学院の専門教育の場でテキストとして用いるにふさわしい本ですので、それなりの覚悟と準備を持って読み始めることをオススメします。
次に、宮部みゆき『過ぎ去りし王国の城』(角川書店) です。この作者の作品に時折あるSF的なファンタジーです。『蒲生亭事件』のようなモロのSFだけの作品ではなく、同時に『ブレイブ・ストーリー』のようなファンタジー色の濃い作品でもなく、ちょうどその中間のような両方の要素を兼ね備えています。しかし、主人公が卒業直前の中学3年生の男女ですから、どちらかといえばファンタジー色が濃いと考えるべきかもしれません。中世ヨーロッパ古城のデッサン画にアバターを描きこむことで入れることを知って、その古城にいる少女を助けに行き、それまでの現実世界とは異なるパラレルワールドを実現してしまう物語です。最後の終わり方に温かいものを感じます。私はこの作者の作品のファンですから、同じファンの方は読んでおくべき作品と考えています。今週の読書の中では唯一買い求めた本です。
次に、桐野夏生『夜また夜の深い夜』(幻冬舎) です。ハタチ少し前の女性を主人公にする小説です。舞台はほぼイタリアのナポリです。主人公の女性がテロリストである母親を持ち、そのために日本に帰国できない同世代の女性に手紙を出すという形式となっている第1部、それに、手紙とともに通常の語り口で展開される第2部とに分かれています。最後の方で明かされる理由から、日本に帰国できず海外を転々と流浪してナポリにたどり着いた親子の物語で、主人公の母親は時折1か月くらい家を空けて整形手術に行き、少しずつ他人の顔になっていきます。ナポリに来てマンガ喫茶を開く日本人やカメラマンの中年日本人男性が登場し、主人公がいろいろと日本に関する情報を得るとともに、主人公の女性と同じくらいの世代の2人の難民、アフリカからの難民と東欧からの難民の2人一緒にナポリの裏社会で生き延びようとする場面など、最後の驚愕の事実、この主人公母娘が日本に帰れない理由が明らかにされます。
最後に、松谷明彦『東京劣化』(PHP新書) です。日本の国とその首都である東京の都市としての劣化を論じています。特に、高齢化の観点から、現時点で若年層ないし中年層がそれなりに東京に集まった結果として、現時点では地方の方で高齢化が進んでいるものの、この先30-35年くらいの期間、東京において猛烈なスピードで高齢化が進むことを論じています。そして、財政からの対応についても論じており、増税ではなく歳出削減で対応すべき理由を上げ、さらに、少子化対策は実行的ではないと結論しています。かなりの部分に私は同意しますが、移民についてはまったく取り上げられていません。その意味で少し物足りない印象があります。海を挟んだ隣国に人口大国が控えて、場合によっては、100万人どころか億単位の移民が可能な国が尖閣諸島に迫っているんですから、私は移民による人口増には明確な疑問を持っています。この本の著者はどうなんでしょうか?
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