今日公表の鉱工業生産指数から見て日本経済は踊り場を脱したか?
本日、経済産業省から7月の鉱工業生産指数 (IIP)が公表されています。ヘッドラインの鉱工業生産は季節調整済みの前月比で▲0.6%減の減産となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
7月の鉱工業生産、0.6%低下 スマホ部品落ち込む
基調判断「一進一退」に据え置き
経済産業省が31日発表した7月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比0.6%低下の97.7だった。低下は2カ月ぶり。QUICKがまとめた民間予測の中央値は0.0%で、市場予想を下回った。スマートフォン向けの電子部品や企業向けのパソコンなどの落ち込みが響いた。経産省は生産の基調判断を「一進一退で推移している」に据え置いた。
7月の生産指数は15業種のうち10業種が前月から低下し、5業種が上昇した。アジアでスマートフォンの生産が一服していることを受け、電子部品・デバイス工業が3.7%低下した。前月まで好調だったパソコンなどの情報通信機械工業も8.4%低下した。化粧水などの化学工業や橋梁等の金属製品工業は前月から上昇した。
出荷指数は前月比0.3%低下の96.3だった。在庫指数は0.8%低下の113.7、在庫率指数は1.1%低下の112.2だった。
同時に発表した製造工業生産予測調査によると、8月は前月比2.8%上昇、9月は1.7%の低下を見込む。経産省は最終需要材に持ち直しの兆しが出てきたものの、依然として在庫調整圧力が強いとみている。
短いながら網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。もっとも上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、まん中は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷、一番下は製造工業全体とそのうちの電子部品・デバイスの在庫率です。下のパネルでは左右でスケールが異なっており注意が必要です。なお、いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

私がいつも参照している日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、7月の生産は6月からほぼ横ばいというものでしたので、これだけのマイナスは少しサプライズではないかと受け止めています。先月6月の速報段階で+0.8%(その後、確報で+1.1%に上方改定)の増産が公表された際、このブログでは7月30日付けのエントリーで「生産の停滞はまだ続いており、6月統計をもって抜け出したとは考えられない」と指摘しましたが、引用した記事にもある通り、製造工業生産予測調査で8月が+2.8%の増産が見込まれているとしても、9月は再び▲1.7%の減産ですから、引き続き、日本経済の踊り場的な状況が確認されており、まだ本格回復には時間がかかる可能性が示唆されている、と私を含めた多くのエコノミストが感じているんではないかと受け止めています。
上のグラフについて見ると、一番上のパネルの生産は統計作成官庁の経済産業省の基調判断の通り、まさに一進一退であり、今年1月の指数を別にすればほぼ横ばい基調に見えます。まん中の資本財と耐久消費財の出荷についても従来のトレンドの継続、すなわち、資本財は緩やかな増加、耐久消費財は消費増税ショックの時期あたりから下落に転換、といったところでしょうか。今月だけ従来になく付け加えた在庫のグラフについては、世間一般では生産と出荷が一進一退の中で在庫調整は着実に進展しており、特に今月は在庫率が▲1.1%減と2か月連続で在庫圧縮が進んだ、との受け止めが少なくないようですが、私はこの在庫については少し注意が必要だと考えています。というのも、上のグラフの中の一番下のパネルに見るように、青いラインの製造工業の在庫率は確かに低下して在庫調整が進んでいるように見えるんですが、それなりに若い産業で在庫変動が明確な電子部品・デバイスの赤いラインを見ると、まだまだ在庫が積み上がっているのも事実です。電子部品・デバイスも含めた製造工業全体で見るのが正しい統計の見方かもしれませんし、世界的なシリコン・サイクルの影響も十分に考えられますが、今月の鉱工業生産指数を見る上での第1のポイントはこの在庫率の見方だろうと私は考えています。すなわち、私は世間一般よりも在庫調整の進展には懐疑的です。そして、第2のポイントは製造工業生産予測調査です。この調査は経験的に上振れする、というか、実績がこの調査結果を下回る傾向があり、8月に大きなプラスが示されていて、おそらく、プラスの増産であることは間違いなさそうな気もしますが、ここまでの大きさかどうかは疑問です。ややバイアスをもって見ておく必要がありそうな気もします。
年央くらいで我が国経済の踊り場は終了するとの、やや楽観的な見方が否定されつつあり、本格回復・拡大に向かうにはもう少し時間がかかる、との見方がされるようになっています。国内要因としては生活実感に基づく物価の上昇に追いつかない所得、海外要因としては新興国経済の低迷と中国を震源地とする金融市場の動揺が上げられます。来月9月から米国の利上げは始まるんでしょうか?
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