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2015年9月29日 (火)

IMF「世界経済見通し」分析編第2章と第3章を読む、ほかノーベル経済学賞やいかに?

日本時間の昨夜、来週末10月9日からのIMF世銀総会に向けて、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」IMF World Economic Outlook (WEO) の分析編 Analytical Chapters が公表されています。章別のタイトルは以下の通りです。なお、どうでもいいことながら、その昔は、第1章が見通し総括、第2章が国別地域別見通しで、第3章と第4章が分析編だったんですが、今回は、おそらく、第1章が地域編も含めた見通しで、第2章と第3章が分析編として構成されているようです。

Chapter 2:
Where Are Commodity Exporters Headed?
Chapter 3:
Exchange Rates and Trade Flows: Disconnected?

見れば分かると思いますが、第2章は資源国経済の分析、第3章は為替レートと貿易の分析となっています。なお、IMF Survey の以下のページも同じ趣旨ですので参考になろうかと思います。

ということで、私のこのブログでは国際機関のリポートを取り上げるのがひとつの特徴になっていますので、今夜のエントリーではリポートからいくつか図表を引用しつつ、簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、第2章の一次産品輸出国経済に関する分析です。上のグラフはリポート第2章から Figure 2.8. Event Studies: Average Annual Growth Rates of Key Macroeconomic Variables during Commodity Terms-of-Trade Upswings and Downswings を引用しています。イベント・スタディなんですが、GDPをはじめとして、一次産品の交易条件が改善した時と悪化した時のそれぞれのトレンドを示しています。当然ながら、一次産品が高値をつける交易条件改善時に成長率が高まったり、直接投資などの資本流入が増加したり、あるいは、TFPで測った生産性まで上昇したりしています。他方、CPIで測ったインフレは高進したりするものの、大雑把にいって、余りにも当然ですが、一次産品輸出国においては交易条件が改善する時に経済の全般的なパフォーマンスもよくなる、ということになります。結論として、第2章で分析したところ、一次産品価格の下落の予想により、一次産品輸出国の2015-17年の経済成長率は、一次産品が高値をつけていた2012-14年と比べ年約1%ポイント低下する可能があり、特に、エネルギー輸出国の成長率の下げ幅は、過去1年間の原油価格の急落を反映し、平均で約2.25%ポイントに達するとの推計結果を示しています。

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次に、上のグラフはリポート第2章から Figure 2.9. Variation in Average Output Growth between Upswings and Downswings: The Role of Policy Frameworks and Financial Depth を引用しています。このグラフは一次産品輸出国におけるマクロ政策対応と交易条件との関係を示したものであり、変動為替の方が固定為替よりも成長率の変動に対するダメージが少なく、同様に、財政の景気循環への対応や債務のGDP比なども成長率の変動幅を縮小させるのに有効であると結論しています。

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続いて、第3章の為替レートと貿易に関する分析です。上のグラフはリポート第3章から Figure 3.3. Effect of a 10 Percent Real Effective Depreciation on Real Net Exports を引用しています。過去30年間のデータに基づいて、実質為替レートが10%減価した際の純輸出の長期的な増加幅を試算しています。すなわち、最近時点で、主要通貨の相場が実質実効ベースで10-30%とこれまでになく大幅に変動しているにもかかわらず、為替相場の動きはかつてほど貿易に影響を及ぼしていないとする意見もあるところ、このリポートでは為替相場の動向が依然として貿易に大きな影響を及ぼしていることを主張しているわけです。もっとも、私なんぞは1985年のプラザ合意から円高が進んだにもかかわらず、一向に我が国の貿易黒字・経常黒字の削減が進まず、いわゆる弾力性ペシミズムの時代に経済分析に携わってきたエコノミストでしたから、為替の貿易に及ぼす影響はゼロとまではいわないにしても、決して大きくないような実感を持っていることも確かです。

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上の地図の画像はリポート第3章から Figure 3.11. Illustrative Effect of Real Effective Exchange Rate Movements since January 2013 on Real Net Exports を引用しています。もちろん、為替レートは貿易に影響を及ぼすとはいえ、国別に違いがあるわけで、地図に示した青い色付けをされた国は為替の動きと純輸出が通常理解される方向、すなわち、為替が減価すれば純輸出が増加する方向に動く国々であり、色が濃いほどその程度が大きいということを示していて、赤はその逆です。日本をはじめとして多くの西欧諸国やカナダ、さらに新興国ではメキシコ、ブラジルなどは青なんですが、何と、米英と中国、さらに、多くの東南アジアやインドをはじめとする南アジア諸国では赤くなっていたりします。中国などのアジアの新興国・途上国では、為替の動きが通常考えられる純輸出の逆の動きをもたらしている、というよりも、因果関係が逆であって、純輸出が低迷すると為替を減価の方向に操作する、ということなんではないか、と私は思うんですが、いかがなもんでしょうか。もっとも、米英についてはやや不明です。

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それから、IMFの「世界経済見通し」を離れて、やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週9月24日にトムソン・ロイターから今年のノーベル賞の科学部門の予想が Thomson Reuters Forecasts Nobel Prize Winners と題して公表されています。当然ながら、トムソン・ロイターの日本語サイトにもアップされています。ただし、ほとんど英語そのままですので、私なんぞにはかえって判りにくかったりします。なお、科学部門ですから、平和賞と文学賞は除かれています。ノーベル賞各賞の発表予定は10月5日の医学・生理学賞から始まり、6日に物理学賞、7日に化学賞、9日に平和賞、がそれぞれ発表され、エコノミストとして気にかかる経済学賞はその次の週の10月12日に予定されています。文学賞は未発表ですが、通例通り、空いている8日ではないかと考えられます。トムソン・ロイターによる経済学賞の予想は以下の通りです。

氏名所属功績
Sir Richard Blundell, CBE FBARicardo Professor of Economics, Department of Economics, University College London and Research Director at Institute for Fiscal Studies, London UKFor microeconometric research on labor markets and consumer behavior
John A. ListHomer J. Livingston Professor of Economics, University of Chicago, Chicago, IL USAFor advancing field experiments in economics
Charles F. ManskiBoard of Trustees Professor in Economics, Northwestern University, Evanston, IL USAFor his description of partial identification and economic analysis of social interactions

誠に不勉強にして、私のよく知らない先生方ばかりなんですが、真ん中のリスト教授については、昨年2014年11月15日付けのエントリーで紹介した『その問題、経済学で解決できます。』(東洋経済) の共著者です。読書感想文では「タイトルから分かりにくいんですが、サブプライム・バブルが始まる前に流行ったような経済学礼賛本、すなわち、人間はインセンティブに反応するので、経済学によってインセンティブ構造を明らかにすれば、マイクロな人間行動は経済活動に限らずすべて解明できる、とするタイプの少し恥ずかしい本ではありません。さすがに現在ではそんな本は出版されない気がします。そうではなく、実験経済学の本です。」と紹介しています。ですから、実験経済学がご専門分野ではないかと想像しています。私の予想は今年は2組出しておいて、成長論・技術革新論などの専門家であるジョルゲンソン教授とアセモグル教授、さらに、ややトムソン・ロイターにおもねって実験経済学でセイラー教授とリスト教授、をそれぞれ上げておきたい気がします。

また、トムソン・ロイターの予想では、京都大学の森和俊教授と大阪大学の坂口志文教授がともに医学・生理学分野で候補に上げられ、メディアなどでも話題になっています。功績については、私はサッパリ理解できません。ノーベル賞については、今年こそ村上春樹さんの文学賞やいかに?

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