2か月連続の増産を示す鉱工業生産指数と増加を示した商業販売統計から何が読み取れるか?
本日、経済産業省から鉱工業生産指数と商業販売統計が公表されています。いすれも10月の統計です。生産指数は季節調整済みの前月比で+1.4%の増産を示し、商業販売統計のうちヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の前年同月比で+1.8%の増の11兆5710億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
10月鉱工業生産、1.4%上昇 基調判断は据え置き
経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比1.4%上昇の98.8だった。2カ月連続で上昇した。自動車や半導体製造装置などが好調だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.9%上昇だった。
もっとも前年同月比では3カ月連続でマイナスとなり、経産省は生産の基調判断を「一進一退で推移している」に据え置いた。11月の予測指数は0.2%の上昇、12月は0.9%の低下となった。
10月の生産指数は15業種のうち7業種が前月から上昇し、7業種が低下、1業種が横ばいだった。はん用・生産用・業務用機械が5.8%上昇したほか、輸送機械も4.0%上昇した。
出荷指数は前月比2.1%上昇の98.8だった。在庫指数は1.9%低下の111.4、在庫率指数は3.0%低下の112.0だった。国内向けなどで出荷が伸び、在庫水準が低下した。
10月小売販売額、前年比1.8%増 2カ月ぶりプラス
経済産業省が30日発表した10月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比1.8%増の11兆5710億円だった。プラスは2カ月ぶり。織物・衣服・身の回り品や飲食料品など幅広い業種で販売が上向いた。
例年より気温の低い日が多く、秋冬物衣料の販売が好調。織物・衣服・身の回り品は8.1%増と、伸び率が最大だった。小売業販売額は季節調整済みの指数で前月比1.1%上昇。経産省は小売業の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」とし、前月の「一部に弱さがみられるものの横ばい圏」から引き上げた。
百貨店とスーパーを含む大型小売店の販売額は4.0%増の1兆6072億円だった。既存店ベースでは2.9%増。既存店のうち、百貨店は4.2%増、スーパーは2.3%増だった。
コンビニエンスストアの販売額は6.1%増の9484億円となった。
いつもながら、網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は商業販売統計とも共通して景気後退期です。
鉱工業生産については2か月連続の増産となりました。伸び率が日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスをやや下回ったものの、9-10月の生産の伸びが+1.1%と+1.4%であった一方で、出荷の伸びは+1.4%と+2.1%を記録して生産を上回り、結果的に在庫の調整につながっている点は見落とせません。引用した記事にもある通り、製造工業生産予測調査によれば11月は+0.2%の増産、12月は逆に▲0.9%の減産と、基調判断通りの「一進一退」の動きながら、先行きトレンドの予想としては基本的に回復基調に戻る可能性が高いんではないかと期待しています。家計部門については次の商業販売統計に示されているように、実質所得改善の効果が現れつつありますし、企業部門についても設備投資意欲はまだ強いものと見られます。この点については、来々週公表予定の日銀短観の設備投資計画も注目です。ただ、輸出については目先で好転する兆しがなくはないものの、米国経済だけが好調を維持する一方で、欧州中央銀行(ECB)による量的緩和の効果が欧州経済の浮揚につながるにはまだ時間を要し、中国経済についても預金準備率や金利による金融緩和策が実体経済に改善をもたらすまでラグがあるものと考えられます。輸出の本格回復にはもう少し時間が必要かもしれません。
続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は同じく景気後退期です。ということで、このブログでは取り上げませんでしたが、先週金曜日に発表された総務省統計局による10月の家計調査では、季節調整していない原系列の前年同月比で実質▲2.4%の減少を示した一方で、今日発表の経済産業省の商業販売統計では小売業は+1.8%を記録しています。もちろん、家計調査に比べて商業販売統計は観光客によるインバインド消費を含んでいる可能性が高いんですが、この差を見れば、いずれかの調査が外しているわけで、そうなると家計調査のサンプリングにやや疑問が残るという見方もエコノミストの間では根強くあります。また、商業販売統計の小売販売額は季節調整済みの系列の前月比も+1.1%増を示し、これまた統計としての信頼性にやや不安の残る毎月勤労統計でも給与総額は徐々にプラスを示すようになっていることから、所得環境は着実に改善を示していると見られます。実態上で所得は改善しつつも、ただ、家計調査などの統計で消費の改善が確認されていないという形でしたが、この小売販売額の増加は逆から見て所得環境の改善を裏付けているともいえます。季節なりに進んだ衣料品の販売や自動車の売行きも順調なようですし、実質所得に見合った消費の伸びが確認される可能性が高くなったと考えるべきです。
最後に、GDPベースの消費支出の外数になりますが、インバウンド消費に対するパリでのテロ事件の影響については、誠に残念ながら、私にはまったく分かりません。世界中で海外旅行全般が下火になるとすればマイナスの影響でしょうし、逆に、欧州を避けて日本に来る観光客も少なくないような気がしないでもありません。いずれにせよ、中国をはじめとする東アジアからの観光客の日本におけるインバウンド消費へは限定的な影響しかなさそうな気がします。常識的な見方ですが、特に根拠はありません。
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