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2015年12月31日 (木)

よいお年をお迎え下さい!

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いよいよ、今年2015年も残すところわずかとなり、間もなく新年2016年が明けようとしています。Financial Times で来年を占った Forecasting the world in 2016 で今年の我がブログを閉じたいと思います。画像は上の通りで、左右に日米が配されています。しかし、向かって右のヒラリー・クリントン上院議員については、"Will Hillary Clinton win the US presidential election?" という問いが立てられているのに対し、我が日本の安倍総理には "Will Abenomics fail in 2016?" だったりします。

Forecasting the world in 2016

  • Will Hillary Clinton win the US presidential election?
  • Will Britain leave the EU in the referendum expected in 2016?
  • Will Bashar al-Assad still be in power 12 months from now?
  • Will the Bank of England finally raise interest rates next year?
  • Will at least one member of the group of 20 leading economies request an IMF assistance programme in 2016?
  • Will Brazil's Dilma Rousseff be impeached before the Olympic Games begin in Rio?
  • Will Angela Merkel still be German chancellor at the end of the year?
  • Who will win the Euro 2016 football tournament?
  • Will China devalue the Renminbi significantly next year?
  • Will Jeremy Corbyn still lead Britain's Labour party a year from now?
  • Will Abenomics fail in 2016?
  • Will Russian athletes compete in the 2016 Olympics?
  • Will sales of cars with diesel engines fall in Europe in 2016?
  • Will Brent crude end the year over $50?
  • Will George Osborne scrap tax relief for pensions in his March Budget?
  • Will 2016 be the year virtual reality finally takes off?

みなさま、
よいお年をお迎え下さい!

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2015年12月30日 (水)

映画「007 スペクター」を見に行く!

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昨日から冬休みに入り、超久し振りに007シリーズの最新作映画「007 スペクター」を見に行きました。この年末年始休みの映画は、どうも邦画に適当なものがない気がして、この「007 スペクター」とトム・ハンクス主演でアカデミー賞の呼び声も高い「ブリッジ・オブ・スパイ」と決めたのはよかったんですが、「ブリッジ・オブ・スパイ」の方はよく確かめると1月8日封切りだそうで、冬休みに見る映画はこの「007 スペクター」だけになる予定です。
相変わらずド派手なアクション映画です。メキシコ・シティでは街中の建物を1ブロック崩壊させ、ローマでは息詰まるようなカーチェイスを川べりまで使って展開し、サハラ砂漠に乗り込んで悪の組織「スペクター」を壊滅させます。「スペクター」は私の見るところ、エシュロンをイメージしているような気がします。違うかもしれません。たぶん、本物のスパイはこういった破壊活動ではなく、ル・カレの小説にあるような地道な情報収集活動に勤しんでいるんだとうと思うんですが、小説と違って映画ではこういうド派手なアクションは決して私も嫌いではありません。というよりも、カッコいいとすら思ってしまいます。ダニエル・クレイグの007ジェームズ・ボンドもすっかり板につき、私のような年代ではどうしてもショーン・コネリーのイメージが強いんですが、ショーン・コネリー以外ではダニエル・クレイグはもっとも007のイメージが似合っているような気がします。クレイグもこの映画で007役は最後とウワサされていますし、今回の映画では、マネーペニーだけでなく新しいMと007とのコラボも見ものです。また、特殊装備担当のQはその昔は人物名ではなくセクション名のQ課だったような気がするんですが、少し前から人物になっています。最後に、私はテレビでサワリだけしか見ていませんが、前作の「007 スカイフォール」を見ておけば、この最新作がもっと楽しめること請け合いです。

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2015年12月29日 (火)

この冬のファッションを考える!

お役所は昨日がご用納めでしたので、私は今日から冬休みに入ります。
この冬は暖冬ということで、昨日こそ寒かったものの、今週後半も気温は上がるらしく、私なりにアウターを考えています。すなわち、ここ何年か世間でダウンコートが流行っていたので、みなさんが着ているようなウルトラライトのダウンコートではなく、高校生のころに親に買ってもらった40年も昔の古い古いモコモコのダウンコートを取り出して、一昨年から昨年にかけて2年間着ていましたが、今年はお休みさせて、裏ボアでヒザ下くらいの丈の長いベンチ・コートを引っ張り出してきました。そして、スーツの折には毎年同じキャメルのダッフルコートです。これも20年選手か25年選手か、袖口が擦り切れていますので、天寿をまっとうさせるべく、いよいよダメになるまで着続けるつもりです。ここ数年ほど世間で流行っているショートコートも適当なのがあれば、と考えないでもありません。

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それから、基本的に、世間の流行には疎いというか、まったく無視しているに近い私ながら、ここ数年のダウンコートの流行に乗ったように、あるいは、ショートコートもそうですが、今年はタグ付きのニット帽が流行しているようなので、ひとつ買い込みました。上の画像のように US NAVAL NO. のナンチャラ番かが付いています。問題はタグの位置です。私が観察している範囲では、左側という人が多いような気がするんですが、今日の電車では額のど真ん中に置いている女性もいました。真後ろの人も見かけたことがあります。私はまったく自信がないんですが、これも個性でしょうから、左目の上に来るようかぶっています。というのは、その昔、我が家の下の倅がボーイスカウトでカブ隊からボーイ隊に上進して、制帽がベースボールキャップからベレー帽に変わった時、「エンブレムの位置は左目の上」とカブ隊かボーイ隊かの隊長さんが倅に指導していたような記憶があるからです。

私は東京や京都くらいの気候であれば、今まではベースボールキャップで1年中通して来たんですが、今年は流行を求めて慣れない帽子の着こなしに苦労していたりします。

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2015年12月28日 (月)

かなり減速した鉱工業生産指数と商業販売統計をどう見るか?

本日、経済産業省から11月の鉱工業生産指数商業販売統計が公表されています。鉱工業生産は季節調整済みの系列で前月比▲1.0%減と3か月振りのマイナスを示し、商業販売統計のうちの小売業販売も季節調整していない原系列の前年同月比で同じく▲1.0%減を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産3カ月ぶり低下 11月、基調判断は据え置き
前月比1.0%マイナス

経済産業省が28日発表した11月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は97.8と、前月から1.0%下がった。低下は3カ月ぶりで事前の市場予測(QUICKまとめ、0.5%低下)を下回った。生産用機械、自動車、電子部品など前月好調だった業種で反動が出て、輸出向け・国内向けともに減った。
経産省は生産の基調を前月と同じ「一進一退」とした。15業種中10業種で指数が前月より低かった。汎用・生産用・業務用機械は半導体製造装置や蒸気タービンなどで前月好調だった反動が出て、2.5%低下。自動車など輸送機械が0.6%低下、電子部品・デバイスが1.1%低下など、前月好調だった主要業種は軒並み減産となった。
出荷指数は前月から2.5%低い96.3と3カ月ぶりのマイナスだった。在庫は0.4%高い111.8と3カ月ぶりに上昇した。ただ前年同月比では0.5%低下と、1年7カ月ぶりに前年水準を下回った。
ただ12月上旬時点の生産見通しは12月が0.9%上昇、16年1月が6.0%上昇と2カ月連続のプラスとしている。11月は自動車やスマートフォン(スマホ)関連の一部部品が増産となったためだ。経産省は「翌月以降の生産のために部品や原材料を作りだめした」とみている。
11月の小売販売額、前年比1.0%減
経済産業省が28日発表した11月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比1.0%減の11兆5260億円だった。10月(確報)は1.8%増だった。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計で0.8%減の1兆6501億円。既存店ベースの販売額は1.5%減だった。既存店のうち百貨店は2.6%減、スーパーは0.9%減だった。
コンビニエンスストアの販売額は4.2%増の8992億円。

いつもながら、網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は商業販売統計とも共通して景気後退期です。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比▲0.4%減でしたから、実績はこれをやや下振れしましたし、出荷指数の落ち込みは生産指数以上で▲2.5%に達してかなり大きく、統計のヘッドラインはかなりペシミスティックに受け止める向きが多そうな気もします。さらに、生産については何ともいえないジグザグ変動なんですが、11月統計では前月からの反動により、はん用・生産用・業務用機械工業、電気機械工業、輸送機械工業の主力3業種が軒並み前月比マイナスとなり、逆に、これまた11月統計のマイナスの反動で、製造工業生産予測調査による先行きの見込みは、はん用・生産用・業務用機械工業では12月、1月とも前月比プラス、電気機械工業と輸送機械工業では12月は小幅マイナスとなるものの、1月は大幅なプラス、という結果を示しています。据え置かれた基調判断の「一進一退」そのものという気もしないでもありません。先行きの製造工業生産予測調査は12月、1月ともプラスの結果を示しましたが、基本的には、年末ボーナスや労働市場における人手不足などから家計の所得環境は改善の方向にあり、また、12月調査の日銀短観に示された通り、企業部門における設備投資の増加意欲は堅持されているように見られます。ですから、ジグザグの「一進一退」の動きながら、先行きの生産・出荷は回復に向かうと私は期待しています。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は同じく景気後退期です。ということで、このブログでも軽く触れた通り、先週金曜日に発表された総務省統計局による11月の家計調査では、季節調整していない原系列の前年同月比で実質▲2.9%の減少を示したわけですが、商業販売統計でも家計調査ほどのマイナス幅ではありませんが、マイナスはマイナスということで、11月は暖冬による冬物衣類や暖房器具などの売上げ不振から、消費は低迷していることが裏付けられています。もちろん、11月だけでなく、今冬はおしなべて暖冬傾向が続くようですし、その意味では消費支出には悪影響が出るおそれが高いんですが、12月の年末ボーナスや所得環境の改善から、消費についても先行きは決して悲観する必要はないと私は考えています。

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最後に、日銀から調査論文「2020年東京オリンピックの経済効果」が公表されています。上のグラフはそのイメージであり、リポートの p.13 【図表 16】東京オリンピック開催の経済効果 (イメージ) を引用しています。オリンピック開催に伴う訪日観光需要については「訪日観光客数」が2020年に3,300万人に達するペースでの増加が続くなどの仮定を置けば、2015-18年における我が国の実質GDP成長率を毎年+0.2から+0.3%ポイント程度押し上げ、また、2018年時点ではGDP水準の約1%(約5-6兆円)に達する、と試算しています。ただ、同時に、建設需要のGDP押し上げ効果は2018年でピークアウトしてしまうことから、各種の成長力強化に向けた取り組みを通じて、建設投資に代わる新規需要を掘り起こしていく必要がある、とも指摘しています。

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2015年12月27日 (日)

JJ ジョンソン「ダイアル JJ5」を聞く!

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トロンボーンの名手である JJ ジョンソンの代表作である「ダイアル JJ5」を聞きました。パーソネルはトロボーンの JJ ジョンソンをリーダーに、ボビー・ジャスパーのテナーサックス、リズムセクションはピアノのトミー・フラナガン、ベースのウイルバー・リトルとドラムスはエルヴィン・ジョーンズとなっています。1957年の録音です。なお、JJ ジョンソンは2001年に77歳で亡くなっています。まず、曲の構成は以下の通りです。

  1. Tea Pot
  2. Barbados
  3. In a Little Provincial Town
  4. Cette Chose
  5. Blue Haze
  6. Love Is Here to Stay
  7. So Sorry Please
  8. It Could Happen to You
  9. Bird Song
  10. Old Devil Moon

私ごときがいうまでもありませんが、トロンボーンという楽器はスイング・ジャズの時代にはハーモニー楽器としてビッグバンドのアンサンブルを支える役割だったんですが、ビバップからハード・バップの時代を代表するプレイヤーが JJ ジョンソンであり、「ブルー・スエット」のカーティス・フラーだったりするわけです。ただ、トロンボーンの楽器としての特徴というか、欠点として、トランペットのようにバルブで切り替えるのではなく、スライドを伸ばしたり縮めたりすることにより音階を切り替えますので、素早いフレーズ展開がやや苦手な楽器ともいえます。ですから、トランペットたサックスのプレイヤーがいっぱいいるのに対して、トロンボーンはとても少なかったりします。楽器としてジャズにおいてはいくばくかのハンディがあるともいえます。そういった中で、このアルバムは単に JJ ジョンソンだけではなく、トロンボーンの代表作ともいえます。ただ、モダン・ジャズのベスト・アルバム、というか、トップテンに入るかどうかはビミューなところかもしれません。ただ、私自身は入ってもおかしくないと考えていますし、少なくとも、トップテンでないと仮定しても、トップ50には楽勝で入るといえます。さらに、JJ ジョンソンのアルバムでは、私はワンホーン・カルテットの「ブルー・トロンボーン」も大好きです。

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2015年12月26日 (土)

今週の読書は『ルポ コールセンター』ほか5冊!

今週の読書は、評価の難しい仲村和代『ルポ コールセンター』ほか、エンタメ小説や新書も含めて、以下の通りの5冊です。

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まず、手島直樹『ROEが奪う競争力』(日本経済新聞出版社) です。著者は事業会社の財務部などに勤務した経験の後、留学してコンサルとなり、現在は旧高商系の大学で研究者をしているようです。財務やIRの業務の基礎となるファイナンス理論に対して、極めて真っ当な考え方が示されていて、何度も松下幸之助の「いい製品をつくって、それを適正な利益を取って販売し、集金を厳格にやる。」が引用されています。事業会社の経営はこれに尽きるわけで、いい製品を作って、あるいは、適正なサービスを提供して、適正な価格で販売し、適正な会計を行うわけです。デフレが大きくこれを蝕んでおり、適正な価格で販売できないがために、あるいは、もちろん、他の要因も加わって、米国などのファイナンス理論がゆがんで我が国に適用されたような気がしてなりません。本書では、外部取締役などの方法ではなく、上場企業においては株価こそが会社を外部から見るカメラとなるべきであるとか、また、短期的な視点よりも長期的な視点で経営がなされるべきとか、従来からの日本的経営を重視する立場を明らかにしており、それにも私は同意します。いってみれば、投資家に媚びたファイナンス理論の活用ではなく、王道の経営に励むべき、というのが本書の結論だと受け止めました。ファイナンス理論に詳しくない私なんぞのシロートからすれば、ROEとは野球のバッティングのホームランのようなもので、狙って打つのもさることながら、コンパクトにミートすればヒットの延長としてホームランが出る、のと同じようなカンジで、真っ当な経営をしていれば後からROEがついてくる、というようなものなのかもしれません。

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次に、仲村和代『ルポ コールセンター』(朝日新聞出版) です。著者は朝日新聞のジャーナリストです。沖縄のコールセンターを軸にして、取材結果をルポに取りまとめています。その意味で、タイトルはともかく、副題の方が少し誤解を招きそうな気がしないでもありません。「過剰サービス労働の現場から」ということなんですが、私は見た瞬間に「サービズ残業」を想像してしまい、コールセンターには残業はないだろうと思って、少し違和感がありました。よく見れば「過剰サービス」ですから、サービスだけでなく、製品の方も併せて、いわゆるオーバー・スペックを問題視しているんだろうと考えられ、まさにその通りの内容でした。ただ、中身は少し歯切れが悪いというか、著者自身の勉強不足もありそうな気がします。コールセンター業務はクレーム対応の後ろ向きの業務なのか、顧客ニーズの把握につながる前向きの業務なのか、場所としてのコールセンターだけでなく経営の問題として、より深い取材と的確な分析が必要です。逆にいって、本書にはどちらも欠けていますので、コールセンターという場所とそこにおける労働、特に非正規雇用だけがクローズアップされて、今後のあるべき方向は単にオーバー・スペックからしか解き明かせない、という物足りなさにつながった気がします。さらに、勤労モラルの点でやや沖縄を低く見ている「上から目線」も気になります。もしも、ジャーナリストとしてコールセンターの働き方が問題であると考えるのであれば、現場の非正規雇用の労働者とともに経営者への取材が欠かせません。著者にはもう少し研鑽を重ねていただきたい気がします。

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次に、小川隆夫『証言で綴る日本のジャズ』(駒草出版) です。著者は本業は医者らしいんですが、ジャズ評論家として著名らしく、本書はInterFMで著者が担当している2時間番組の中でのインタビューが第1部を構成し、それ以外のインタビューが第2部となっています。カギカッコ付きの「ジャズ有識者」とか、ジャズのプレイヤーなどをインタビューしていますが、ほとんどが80歳超くらいの年配の方ではないかと想像され、私はそれなりにモダン・ジャズのファンなんですが、それでも馴染みのない日本におけるジャズ黎明期のお話が中心となっています。古い表現かもしれませんが、「楽屋落ち」という言葉を思い出してしまいました。終戦直後のインフォーマルな働き方として米軍相手にジャズを演奏して、当時では考えられないような大金を手にしたり、外貨制約が厳しい中でかなり無理をして米国留学でジャズを勉強に行ったりと、今では考えられないようなお話のオンパレードです。戦後の我が国は経済はいうに及ばず、ジャズはもっと米国から遅れていたわけで、逆にいえば、キャッチアップの余地がものすごく大きかったわけです。ですから、随所に、大きなウッドベースの横に突っ立っているだけで、特に音を出さなくてもアルバイト代がもらえたりした時代だったのかもしれません。まあ、それなりの世代のジャズ・ファンには懐かしいエピソードなのかもしれませんが、私くらいの、すなわち、団塊の世代から10年余り遅れて生まれて、ジャズを聞き始めたころにはすでにコルトレーンはこの世の人ではなかった世代のジャズ・ファンには、失礼ながら、それほど心に響く歴史ではなさそうな気もします。期待が大きかっただけに、少しがっかりしました。

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次に、中山七里『総理にされた男』(NHK出版) です。著者は人気のエンタメ作家であり、『さよならドビュッシー』でデビューし、その後もこの岬洋介シリーズで人気ですし、最近作では『アポロンの嘲笑』を昨年2014年11月15日付けのこのブログの読書感想文で取り上げています。ということで、この作品は政治エンタメ小説です。片方に、二世議員ながら極めてカリスマ性が高くて、内閣支持率も高い人気総理がいて、他方に、しがない劇団員の男性が、見た目がその総理大臣に似ているというだけで、芸のひとつとしてしゃべり方や動作も役者として研究し、それなりに舞台で受けていたところ、何と、総理が病に倒れたために女房役の官房長官により替え玉として白羽の矢が立った、というところから始まります。官房長官に加えて、替え玉劇団員の同級生だった若手政治学者も官邸に呼んで、3人のトロイカ体制で与党内の有力政治家や閣僚、野党議員との質疑応答、官僚との対立、などなどに対処して行きます。最初に政治エンタメ小説と書きましたが、何といってもよく出来ているのが、ここ数年の政権交代がほぼ日本のリアルな政治に沿って構成されていることです。すなわち、数十年続いた与党体制が年金問題で政権交代したものの、野党の未成熟な政治のために3年で国民からソッポを向かれてしまった、というところで、まだ現与党も政権基盤が盤石ではなく、それだけにカリスマ性の高い総理を失うわけにはいかない、というリアル・ポリティクスが背景にあります。そして想定外の問題発生です。閣僚や野党や官僚とは何とか替え玉総理が渡り合ったものの、海外で日本人が人質に取られるというテロ事件が発生します。ここでの替え玉総理の決断がとても興味深く、作者のセンスのよさをカンジさせます。それはそうと、NHK出版から出ているんですが、そのうちにドラマ化されたりするんでしょうか?

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最後に、萱野稔人『成長なき時代のナショナリズム』(角川新書) です。著者は若手の哲学者です。政治学者ではありません。ですから、政治学の視点からではなく、哲学の視点からナショナリズムを考えています。背景は、現在の日本のネトウヨなどのナショナリスティックな動向に加え、フランス国民戦線のル・ペン党首が大統領選の決選投票に残った出来事、さらに、時期的な制約からか本書では明示的に取り上げられていませんが、米国での共和党のトランプ候補の大統領予備選での高支持率など、日米欧の先進各国で右派の動きがとても活発になっていることです。これを著者は、成長が大きく鈍化し分配すべきパイが拡大しなくなた先進各国において、その財政リソースの分配に際して外国人を排除しようとする動きであると分析を加えています。私もそれはそうなのだろうという気がします。ただ、申し訳ないながら、本書はそこで終わっています。ワイマール憲法下で1930年代の世界恐慌に際して、ドイツが大きく右傾化し、ヒトラーの登場につながり、最終的には第2次世界大戦まで行き着いてしまったのは歴史的事実ですし、不況やその他の何らかの経済的な困難が排外主義を招きかねないことは誰でも知っています。ですから、本書の指摘や著者の見方は至極ごもっともで、とても正しいんですが、正しい診断を下せるのであれば、20世紀前半のような悲惨な戦争を回避する処方箋も提示して欲しかった気がします。第5章のタイトルは「ナショナリズムを否定するのではなく、つくりかえること」となっています。もう少し何とかならないもんでしょうか? それから、ナショナリズムと全体主義を少し私自身が混同しているのかもしれませんが、本書でもナショナリズムの定義を離れた議論が混乱をもたらしている部分が散見されました。

年末年始の読書は、私自身の専門領域で、少し戦後日本の経済発展の歴史、特に経済計画や産業政策に関して、途上国における開発経済学の観点から勉強しようと、かなり古い本も含めて借りて来ています。じっくりと時間をかけて読みたいと思います。

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2015年12月25日 (金)

本年最後の政府統計の発表から何を読み取るか?

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局の消費者物価(CPI)が、さらに、日銀の企業向けサービス物価(SPPI)が、それぞれ公表されています。いずれも11月の統計です。失業率が全月から0.2%ポイント悪化して3.3%を記録した一方で、有効求人倍率は前月から+0.01ポイント改善して1.25倍となりました。消費者物価の前年同月比上昇率は生鮮食品を除くコア指数で見て5か月振りにプラスに転じて+0.1%を、企業向けサービス物価上昇率は逆にプラス幅を縮小させて+0.2%を、それぞれ示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

完全失業率、11月は3.3%に上昇 自己都合の退職や新規求職増える
総務省が25日発表した11月の完全失業率(季節調整値)は3.3%で、前月比0.2ポイント上昇した。悪化は3カ月ぶり。QUICKがまとめた民間予測の中央値は3.2%だった。雇用情勢の改善を受け、よりよい職を求めて自己都合で退職する人や新たに職探しをする人が失業者として加わった要因が大きい。総務省は雇用情勢について「引き続き改善傾向で推移している」と分析した。
完全失業者数は217万人で11万人増加した。うち勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は3万人減ったものの、「自発的な離職」は6万人、「新たに求職」している人は5万人それぞれ増えた。特に25-34歳の完全失業率の上昇が目立っており、若年層がよりよい職を求め退職している傾向があるという。
主な産業別の就業者数(原数値)は卸売・小売業や農業・林業で前年同月から減少した。一方で高齢化を背景に、医療・福祉は22カ月連続で増加した。製造業は女性の正社員雇用が進み、9カ月ぶりに増加した。
就業者数(季節調整値)は6358万人で、前月比38万人減少した。仕事を探していない「非労働力人口」は4492万人と23万人増えた。完全失業率を男女別にみると、男性が0.1ポイント上昇の3.5%、女性は0.4ポイント上昇の3.1%だった。
有効求人倍率、11月は1.25倍に上昇 23年10カ月ぶり高水準
厚生労働省が25日発表した11月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.01ポイント上昇の1.25倍と、1992年1月以来23年10カ月ぶりの高水準だった。改善は2カ月ぶり。QUICKがまとめた民間予測の中央値(1.24倍)を上回った。厚労省は「景気の回復傾向に伴って、求人の増加が続いている」としている。
雇用の先行指標となる新規求人倍率は0.10ポイント上昇の1.93倍と、大幅に改善した。1991年11月(1.94倍)以来24年ぶりの高水準。前年同月と比べた新規求人数(原数値)が9.3%と大幅に増えた。業種別では医療・福祉業が9.9%増、卸売・小売業が11.5%増、宿泊・飲食サービス業が19.6%増、製造業が9.7%増など、主要業種で求人が増えた。高齢化に伴って医療関係の求人も引き続き増えているほか、訪日外国人客の急増などを背景に小売業や宿泊業でも求人が出ている。
有効求人倍率はハローワークで仕事を探す人1人に対する求人件数を示す。倍率が高いほど求職者は仕事を見つけやすいが、企業は採用しづらくなる。11月は有効求職者数(季節調整値)は0.2%増えたものの、有効求人数も増えたことが倍率を押し上げた。正社員の有効求人倍率は0.79倍と、前月比0.02ポイント改善し、調査を開始した2004年11月以来で最高を更新した。都道府県別で最も有効求人倍率が高かったのは東京都の1.85倍、最も低かったのは鹿児島県の0.90倍だった。
全国消費者物価、5カ月ぶり上昇 11月はプラス0.1%
総務省が25日発表した11月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きの大きい生鮮食品を除く総合が103.4と前年同月比0.1%上昇した。QUICKがまとめた市場予想(横ばい)を上回り、5カ月ぶりに上昇した。10月までは3カ月連続で0.1%下落していた。食料(生鮮食品除く)の上昇基調が続き、原油安によるエネルギー品目の価格下落を補った。
食料価格は2.3%上昇し、10月(2.2%)から伸び率が拡大。焼き肉やチョコレートといった品目のほか、新米への切り替えが進んだコメ類の価格なども上昇したという。テレビをはじめ教養娯楽用耐久財も値上がりした。エネルギー関連では灯油やガソリンなど石油製品の価格下落が目立った。品目別では上昇が347、下落は132、横ばいは45だった。
食料・エネルギーを除く「コアコアCPI」は101.7と0.9%上昇し、10月(0.7%上昇)から強含んだ。総務省は物価動向について「エネルギー関連を除けば上昇基調」との見方を変えなかった。
先行指標となる12月の東京都区部のCPI(中旬速報値、10年=100)は、生鮮食品除く総合が101.9と0.1%上昇した。上昇は6カ月ぶり。横ばいだった11月から上振れし、6月(0.1%上昇)以来の水準だった。外食などの食料価格の上昇が目立った。コアコアCPIは0.6%上がり、伸び率は11月と同じだった。
11月の企業向けサービス価格、0.2%上昇 円安一服で伸び鈍化
日銀が25日発表した11月の企業向けサービス価格指数(2010年=100)は103.0と、前年同月に比べ0.2%上昇した。前年比で上昇するのは29カ月連続だが、伸び率は10月確報値の0.4%から0.2ポイント縮小、13年10月以来2年1カ月ぶりの小ささとなった。円安・ドル高の一服が影響した。前月比では0.2%上昇した。
品目別では広告価格が上昇した。単価の高いたばこ広告など新聞広告のマイナス幅が縮小。通信やトイレタリー関連のテレビ広告の上昇幅拡大が寄与した。事務所賃貸の上昇幅が拡大した不動産も全体を押し上げた。
一方、前年比の円安幅が縮小したことで外貨貨物輸送のマイナス幅が拡大した。中国の景気減速による鉄鉱石輸送の減少やドル高による競争力低下で米国からの穀物輸送が減少し、大型の不定期船の価格が下落した。
宿泊サービスも全体を押し下げた。パリの同時多発テロで欧州からの旅行客によるキャンセルがあったほか、韓国の中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)の終息で中国からの旅行客が韓国に向かったことが響き、伸び率は7.9%と5カ月ぶりに一桁台にとどまった。
上昇品目は57、下落は53。上昇品目と下落品目の差は4と、前月の12から縮小した。日銀は「プラス幅の縮小は国際運輸の市況などが主因で契約更改が集中する4月までは大きな動きは見込みにくい」(調査統計局)と説明している。
企業向けサービス価格指数は運輸や通信、広告など企業間で取引されるサービスの価格水準を示す。

いずれも網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、4つもの統計の記事を一気に並べるとそれなりのボリュームになります。これだけでお腹いっぱいかもしれません。続いて、雇用については、以下のグラフの通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

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有効求人倍率がさらに上昇して、基本的には人手不足が続いていることは明らかですが、11月単月の統計ながら、総務省統計局の労働力調査からは少しよからぬ傾向のデータが出始めていると私は受け止めています。すなわち、あくまで11月単月の統計ながら、供給サイドの労働力人口が前月から▲26万人減少し、需要サイドの雇用者数も▲38万人減少しています。労働市場において需要と供給ともに減少している点を重視して、極めて悲観的に見れば、人手不足から縮小均衡に陥る可能性があると見ることも出来ます。もちろん、重ねて主張しておくと、有効求人倍率はまだ改善を示していますし、先行指標である新規求人倍率も上昇しています。ですから、労働力調査における統計数値の綾だという気はしますが、あくまで超悲観論者の見方をすればそういう捉え方も出来なくはない、という程度のことであり、昨夜のブログでも指摘した通り、基本的には、労働需給は人手不足で推移しており、雇用の量的な拡大・増加から賃金上昇や正規雇用の増加などの質的な改善も見込める局面に差しかかっていると私は考えています。

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次に、いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが11月中旬値です。これまた、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。ということで、引用した記事にもある通り、コアCPI上昇率は5か月振りのプラスを記録しています。ただ、国際商品市況における原油価格の下落などのエネルギー価格次第の物価展開ともいえます。ですから、今年8月に+0.8%を記録してから、エネルギー・食料を除くコアコアCPIの上昇率は+1%に近い数字が続いており、11月には+0.9%に達しています。基本的には、物価はデフレを脱する方向にあると私は考えていますが、政府も力こぶを入れて民間企業に圧力をかけている賃金上昇との関係で、春闘が冴えない結果に終わるようであれば、日銀も本格的な追加緩和を模索する可能性が残されているような気がしています。

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最後に、企業向けサービス物価上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしています。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。人手不足による賃金上昇などを背景に、企業向けサービス物価(SPPI)も基本的にはプラスを維持しており、変動の激しい国際運輸を除くコアSPPI上昇率は11月も先月や先々月と同じ+0.5%を示しています。寄与度で見て、運輸・郵便のほかに宿泊サービスもマイナスですが、広告や不動産のうちの事務所賃貸はプラスとなっています。大きな変動は見られないと受け止めています。

我が家で購読している朝日新聞の今日の夕刊1面では、このブログで取り上げたような指標ではなく、家計調査の落ち込みを報じていました。11月の家計調査は前年同月比で▲2.9%の落ち込みを記録しています。私のこのブログでは消費の動向は総務省統計局の家計調査ではなく、経済産業省の商業販売統計から追いかけています。来週月曜日に鉱工業生産とともに公表される予定となっていますので注目です。

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2015年12月24日 (木)

リクルートの民間企業データに見る賃金動向やいかに?

今年の役所の営業日も明日と来週月曜日を残すのみとなり、明日は雇用統計と消費者物価(CPI)が公表され、月曜日には鉱工業生産指数と商業販売統計が公表されます。明日の雇用統計に先立って、民間統計のリクルートジョブズによる「アルバイト・パート募集時平均時給調査」「派遣スタッフ募集時平均時給調査」のそれぞれ11月統計をチェックしてみました。以下のグラフの通りです。

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見た通りで、上のパネルがアルバイト・パートの、下が派遣スタッフの、それぞれ募集時平均時給の推移です。グラフから明らかな通り、アベノミクスが始まった2013年初頭からいずれも上昇トレンドが始まっています。派遣スタッフ時給の前年同月比の方はほぼ4%近辺で高止まった印象がありますが、アルバイト・パートの方はまだ現在進行形で上昇しているように見え、最近時点でほぼ前年同月比+2%を示しています。これらの統計にはありませんが、雇用については量的な拡大の局面から賃金上昇や正規雇用の増加などの質的な改善の局面に入りつつあると私は考えています。労働市場は調整速度が極めて緩やかなので、なかなか変化が実感できませんし、政府統計に表れている部分はまだ小さいんですが、この先、緩やかながら雇用の量的な拡大・増加とともに質的な改善も実感できる局面に進むことを私は期待しています。

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2015年12月23日 (水)

年賀状の準備を終える!

年賀状の準備を終了しました。
ただし、私はプライベートとビジネスの両方の年賀状を合わせて30枚ほどしか準備しないにもかかわらず、ビジネス年賀状の宛先が不明な人がいたりしました。明日、オフィスで名刺を確認したいと思います。結局、3パターン用意したうち、最初のを選びました。今年の年賀状は、「いろどり年賀状」と称して、薄いピンクのインクジェット紙を買い求めましたので、何となく赤っぽい方が下地に映えるかと思った次第です。明日の朝のうちに投函できるものは投函し、オフィスで確認の上、午前中のうちにでも2度目の投函をしたいと思います。
なお、どうでもいいことなので、よく知られていないことかもしれませんが、官庁の敷地内にはほぼ確実に郵便ポストがあります。ある意味で当然なんですが、総理大臣官邸内にも郵便ポストがあります。通常、簡単にはアクセス出来ないんでしょう。つまらない豆知識でした。

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年賀状を準備する!

せっせと年賀状の準備を進めています。
以下の3パターンからひとつを選ぶか、ランダムに送り付けるか、これから考えたいと思います。今日中には年賀状の準備を終え、明朝には投函することを目指しています。

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2015年12月22日 (火)

我が国の生産性は高まっているのか?

先週12月18日付けで生産性本部から「日本の生産性の動向」2015年版が公表されています。2014年度の実質労働生産性上昇率は▲1.6%と2009年度以来5年ぶりのマイナスを記録しています。まず、生産性本部のサイトからリポートのポイントを3点引用すると以下の通りです。

内 容
  1. 2014年度(年度ベース)の日本の名目労働生産性は770万円。実質労働生産性上昇率は-1.6%と、2009年度以来5年ぶりのマイナス。
  2. 2014年(暦年ベース)の日本の労働生産性(1人当たり)は72,994ドル、OECD加盟34カ国の中では第21位。就業1時間当たり(41.3ドル)でも順位は第21位となっている。
  3. 2010年代の日本の全要素生産性(TFP)上昇率は+0.8%。2000年代後半(-0.4%)から大きく改善した。

ということで、生産性本部のリポートの主として第Ⅱ部日本の労働生産性の動向と第Ⅲ部労働生産性の国際比較から図表を引用しつつ、簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポート p.9 から 図2-1 日本の名目労働生産性の推移 と 図2-2 日本の実質労働生産性上昇率の推移 を引用しています。日本の名目労働生産性は、2011年度の755.1万円から緩やかながら改善が続いており、2014年度には769.9万円に達しています。ただ、2014年4月からの消費税率の引き上げに伴う物価上昇により、2014年度については実質労働生産性上昇率は▲1.6%と2009年度以来のマイナスに転じています。また、グラフの引用はしませんが、p.13 に 図2-8 時間当たり名目労働生産性の推移 が示されており、2014年度のマン・アワー・ベースの名目労働生産性は4,417円と米国のサブプライム・バブル崩壊前の2007年度の4,416円を超えて、最近では最も高くなっています。これで賃上げが生じないんですから、極めて不思議な現象といえます。

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次に、その時間当たり、というか、マン・アワー当たりの労働生産性を国際比較したグラフですが、リポート p.34 から 図3-8 OECD加盟諸国の時間当たり労働生産性 を引用しています。為替は市場レートではなく、購買力平価ベースの比較です。2014年の日本の就業1時間当たり労働生産性は、41.3ドル(4,349円)となっており、OECD加盟34か国の中でみると21番目となっています。これは、OECD平均の44.8ドルををやや下回る水準となっています。日本の順位は1990年代から20番目前後で大きく変わらない状況が続いています。

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加えて、マン・アワー当たりの実質労働生産性の上昇率の国際比較について、リポート p.36 から 図3-11 OECD加盟諸国の時間当たり実質労働生産性上昇率 のグラフを引用すると上の通りです。前に引用した労働生産性の水準のグラフと比べると、生産性が収斂するかどうかはエコノミストの間でも議論は分かれそうな気がしますが、これを見る限り収斂の方向にあるといってよく、チリやポーランドといった低生産性国の生産性の伸びが高くなっています。しかし、このグラフでも日本はOECD平均の伸び率+0.8%を下回り、+0.6%を示しています。

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労働生産性のグラフを並べてしまいましたが、最後に、全要素生産性(TFP)の上昇率の国際比較について、リポート p.52 から OECD主要国のTFP上昇率 のグラフを引用すると上の通りです。2010年代に入ってから、2010-13年における年率平均の日本の全要素生産性(TFP)上昇率は+0.8%に上っており、OECD主要19カ国の中では、韓国の+1.6%、オーストラリアの+1.0%、ドイツの+0.9%に次いで4番目となっており、米国の+0.3%やフランスの+0.5%を上回っています。しかも、我が国の直近の実績である2000年代後半の2005-09年の▲0.4%から大きく改善しています。景気循環要因という気もしますが、我が国の労働生産性については、人口の高齢化も進んで伸び悩んでいる可能性が高いものの、全要素生産性(TFP)については他の先進国と比べても、過去の我が国の実績と比べても、かなり高いと計測されており、我が国の成長見込みも期待が持てそうです。

一度、何かの読書感想文で書いたように記憶していますが、生産物を労使で分配する場合、ゼロサム的というか、階級闘争的に考えて、資本家階級の取り分を減らして労働者階級に手厚く分配するという見方も場合によっては必要ですが、労働生産性を引き上げることにより、双方の取り分をともに増加させる解決策も魅力的です。そのカギは生産性の上昇にあり、その生産性の上昇のためには設備投資に体化された技術革新がもっとも手っ取り早いことを主張しておきたいと思います。

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2015年12月21日 (月)

2017年度までの我が国の短期経済見通しやいかに?

先々週火曜日の12月8日に7-9月期に2次QEが発表され、シンクタンクや金融機関などから今年度と来年度の経済見通しがいっせいに発表されています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ウェブ上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。それから、これもいつもの通り、ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。出来る限り、2017年4月からの消費増税に関する見方をとるべく努力しましたつもりです。でも、2016年度までの見通しの場合は仕方ありません。なお、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名201520162017ヘッドライン
日本総研+1.2+1.0+0.02017年度は、年度入り後、駆け込み需要の反動減から大幅なマイナス成長に。その後は、自律拡大メカニズムが引き続き作用するもとで、景気は再び回復トレンドへの回帰をたどるとみられるものの、物価上昇による実質購買力の押し下げなどから緩慢なペースにとどまる見込み。
ニッセイ基礎研+1.1+1.6+0.0当研究所では2014年4月の消費税率引き上げ前後の駆け込み需要とその反動の規模を実質GDP比で0.6%程度と試算しているが、2017年4月の税率引き上げ時の駆け込み需要とその反動は実質GDP比で0.3%程度と前回よりも小さくなることを想定している。
大和総研+1.0+1.5n.a.足下の日本経済は「景気後退」局面入りの可能性があるが、当社のメインシナリオでは、①アベノミクスによる好循環が継続すること、②米国向けを中心に輸出が徐々に持ち直すことなどから、2016年にかけて緩やかな回復軌道に復する見通しだ。
みずほ総研+1.0+1.5n.a.足元の景気は踊り場。今後については、依然不透明感が高いものの、企業業績や雇用情勢に支えられ、緩やかな回復軌道に復する見通し
第一生命経済研+1.0+1.3▲0.2消費税率引き上げを前にした駆け込み需要により17年1-3月期は高成長が予想される。しかし、17年度の景気には、駆け込み需要の反動減と消費税率引き上げに伴う実質可処分所得の減少の影響により、大きな下押し圧力がかかる。消費低迷を主因として17年度の成長率は▲0.2%とマイナス転化が予想され、景気停滞感の強い状況になるだろう。
伊藤忠経済研+0.7+1.9+0.12017年度は、駆け込み需要の反動に消費増税による下押しが加わり、個人消費や住宅投資は減少、設備投資も先行き不透明感から一旦調整局面に入り減少に転じ、実質GDP成長率は+0.1%まで落ち込むと予想する。なお、マイナス成長を回避するのは、輸出の拡大が続くためであり、海外景気や為替相場といった外部環境次第ではマイナス成長の可能性もあろう。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+1.3+2.1+1.07-9月期のGDP2次速報値を踏まえて、15年度の実質GDP成長率見通しを1.0%から1.3%へと上方修正した。16年度と17年度については、それぞれ2.1%、1.0%の実質成長率見通しである。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+1.0+1.3▲0.5前回引き上げ時と比べて税率の引き上げ幅が小幅にとどまるため、駆け込み需要と反動減の大きさも小規模になるが、それでも家計に対しての影響は大きく、年度前半はマイナス成長が続く。ただし、年度後半は東京オリンピック開催に向けた需要の増加などから景気は持ち直しに転じ、ペースも高まってこよう。
三菱総研+1.0+1.4n.a.雇用・所得環境の緩やかな改善や企業収益の回復を背景に、16年度にかけて内需中心に回復の動きを続けるとの見通しに変化はない。
農林中金総研+1.0+1.5+0.016年入り後は徐々に回復傾向を強めていき、同年度末にかけては次回消費税増税を控えた駆け込み需要が強まることで、高めの成長率となる、との景気シナリオを提示した。基本的に、その見方は修正する必要はないだろう。

いかがでしょうか?
基本的に、やや踊り場的な現状の景気も年明けから本格回復に向かい始め、2016年度は消費増税直前の駆け込み需要も含めて2015年度から成長率を高めるんですが、2017年4月からの消費増税で大きく落ちる、という見込みとなっています。ただ、2017年4月からの消費増税は税率の上げ幅が2014年度よりも小さいことから、駆け込み需要とその反動も小規模に見込まれています。しかし、2017年度の成長率はほぼゼロ近傍まで落ちるとの予測が多いようです。ということで、そろそろ公表される政府経済見通しやいかに?
下のグラフはいつもお世話になっているニッセイ基礎研のリポートから引用しています。

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2015年12月20日 (日)

週末ジャズはキャノンボール・アダレイの「サムシン・エルス」を聞く!

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今週末のジャズはキャノンボール・アダレイの「サムシン・エルス」です。1958年にブルーノートからリリースされたアルバムです。ボーナス・トラックを除いたオリジナルのLPに収録されていた曲の構成は以下の通りです。

  1. Autumn Leaves
  2. Love for Sale
  3. Somethin' Else
  4. One for Daddy-O
  5. Dancing in the Dark

キャノンボール・アダレイのリーダー・アルバムとされていますが、実態はCBSと契約していたマイルス・デイビスがリーダーだったともいわれています。ですから、アルバムと同名の3曲目の作曲はマイルス自身だったりします。1曲目と2曲目と最後の6曲目はスタンダード、4曲目はキャノンボールの弟のナット・アダレイの曲です。なお、演奏メンバーはアルト・サックスのキャノンボール・アダレイ、トランペットのマイルス・デイビスのほか、リズム・セクションは、ピアノがハンク・ジョーンズ、ベースがサム・ジョーンズ、ドラムスがアート・ブレイキーの豪華陣です。また、キャノンボールとマイスルがコラボしたアルバムには、かの1959年の「カインド・オブ・ブルー」があります。モード・ジャズの劈頭を飾った名盤であり、コルトレーンも参加しています。おそらく、今年2015年7月12日付けのカーティス・フラー「ブルースエット」、8月2日付けのソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」と、この「サムシン・エルス」の3枚は、ジャズの名盤トップテンに何を差し置いても入るんだろうと私は考えています。シンプルなジャケットも秀逸です。

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2015年12月19日 (土)

今週の読書はエーコ『異世界の書』など8冊!

今週の読書は、図書館の予約の巡り合せのためか、経済書・経営書がなく、教養書や専門書をはじめとして小説や新書も含めて以下の8冊です。エーコ『異世界の書』、ブライソン『アメリカを変えた夏 1927年』、ブロトン『世界地図が語る12の歴史物語』など、かなりボリュームのある本が目白押しでした。

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まず、上村達男『NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか』(東洋経済) です。NHKの経営委員を務めた経験から、早稲田大学法学部の教授であり、企業ガバナンスの専門家である著者から、NHKにおける業務執行の最高責任者である籾井会長を反知性主義の観点から批判する本です。籾井会長については放送内容に政府介入を許容する発言を繰り返し、不偏不党の放送法の基本理念から反していることは明らかですから、私は本書にとても期待していました。でも、少し期待外れの点もあったりします。まず、大前提として、上村教授の籾井会長批判は、ほぼすべての点において私の見方と一致し、当然ながら、至極まっとうな批判であることを認めつつ、いくつかの点で筆が滑ったというか、本論から関係ない点まで記述が及んで、やや私から見て疑問が残るないし不適当という点について、少しだけ書き残したいと思います。第1に、本書には国民の視点というものはまったくありません。すべてが専門家たる上村教授の視点で貫かれています。NHK経営委員として活動しているときも、一部たりとも国民を代表するとのお考えはなかったようで、あくまで法制審議会や金融審議会に参画し、10年間もCOEプログラムを主導した専門家としての上村教授の上から目線で書かれています。籾井会長の業務執行は受信料を支払って放送を受信する国民の観点から、とても不適当であったと私は考えていますが、そういった視点、あるいは、少なくとも国民を忖度する視点を上村教授はまったく持ち合わせておらず、この国民がNHKから放送を受信するという視点の欠落はかなり残念と言わざるを得ません。第2に、同じことかもしれませんが、国民の民意と専門家の意見では上村教授からすれば、後者の専門家の意見が国民の民意に優越するかの議論を展開してしまっています。籾井会長の不適切性の原因を安倍内閣の反知性主義に求めるとすれば、安倍内閣を選挙で選んだ国民の民意をどう考えるべきか、この点に関する上村教授の見方が示されていないのは疑問が残ります。立憲主義に対する国民の無理解について p.177 に記述がありますが、表現の自由の下で明らかにされた専門家の意見を汲み取りつつ、もちろん、NHKをはじめとするメディアで報道されるさまざまな事実を勘案しつつ、選挙などで明らかにされた国民の民意は、専門家の意見に優越すると私は考えています。NHKについても、日銀についても私の考えは同じです。ですから、専門性が高いとか、公共性が高いからといって、主権在民の民主主義下において、国民の民意を無視した公共的な組織の運営はあり得ません。そして、ある程度の期間が必要な場合も少なからずあるかもしれないものの、究極的には国民は正しい選択をするものと期待しています。この点は蛇足かもしれませんが、公務員としての私の信念です。第3に、NHK経営委員としてのご自分の責任について、やや見苦しい言い訳が散見されるような気がします。この点は著者自身も認識しているようなところがありますので、簡単に触れるにとどめます。最後に、繰返しになりますが、籾井会長に対する本書の批判が極めて正当なものであり、私も大賛成であるにもかかわらず、第2章までで筆が止まらず、第3章が長々とNHK会長問題とは関係の薄い著者の持論の展開に終わってしまったのが極めて残念です。実は著者の眼目は第3章にあるのかもしれませんが、もしそうでないならば、第2章までの本論が極めて的確だけに、第3章があることで、いくぶんなりとも、民主党政権下で任命されたNHK経営委員が、その後の政権交代した現内閣を全否定しただけの書、と見なされる確率が高まってしまうことを危惧します。

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次に、渡辺靖『沈まぬアメリカ』(新潮社) です。著者は慶応大学湘南キャンパスの研究者で、文化人類学やアメリカ研究を専門としています。本書では、明示的ではありませんが、軍事や経済などのハード・パワーの面からは衰退論も現れた米国ながら、文化などのソフト・パワーではまだ比較優位が揺らぐほどではない、という観点からの米国文化論を展開しています。ということで、リベラル。アーツに重点を置くハーバード大学などの高等教育機関、小売店舗を展開するウォルマート、キリスト教のメガチャーチ、テレビ番組のセサミストリート、政治コンサルタント、ロータリークラブ、ヒップホップ音楽などを取り上げています。米国のソフト・パワーというのは、まあ正直なところ、ありがちな観点なんですが、通常は、コカコーラとマクドナルドの食文化から始まって、リーバイスのジーンズなどの衣料品文化、ハリウッド映画やディズニーランドなどの娯楽文化、アマゾンや各種SNSなどのインターネット文化などが上げられるんですが、コカコーラとマクドナルドの食文化は肥満激増の観点から否定されるのはやむを得ないとしても、娯楽文化については米国というよりもカリブの流れを強く引いたヒップホップ音楽というのは、やや奇をてらった印象があります。ウォルマートの安売り文化も逆から見れば雇用者の犠牲、極言すればブラック企業と見なされかねないような雇用者の労働条件を基本にしているわけですから、やや疑問が残ります。チャリティの精神は見習うべきものがあるとしても、ロビイストが重要な枠割りを果たす政治の進み方は、弁護士が強い影響力を保持する訴訟社会とともに、反面教師にしかならないような気もします。それから、いつも私が考える疑問点に、どうしても文化論のカテゴリーに入らないので仕方ないんですが、米国のソフト・パワーの大きな源泉のひとつは英語ではないか、というのがあります。もちろん、英語は米国の前に世界の覇権国だった大英帝国の成果ではないか、という見方もできますが、外交上の言語はおそらく19世紀半ばくらいまではフランス語であったわけで、例えば、シャーロック・ホームズの小説にもフランス語で書かれた条約が紛失する、というのがあったりするほどですから、大英帝国もさることながら、米国の国力の興隆がそれなりに役割を果たしているんではないか、と私は常々考えていたりします。そして、最後の最後に、ハード・パワーとソフト・パワーの関係についてももう少し考えておく必要がありそうです。すなわち、軍事力や経済力で世界展開しているからこそ、その職分から衣料品や娯楽などが世界に広まった可能性が高いんではないかと私は考えており、例えば、日本でパン食が広まったのもいわゆる進駐軍の影響だろうと考えられますし、そういった例は他にもあろうかと思います。逆に、ソフト・パワーに基礎を置いてハード・パワーの優位に立つ、という場合もなくはないんでしょうが、このソフトとハードの両方のパワーの関係は、少なくとも独立ではあり得ません。

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次に、ウンベルト・エーコ『異世界の書』(東洋書林) です。著者は私が紹介するまでもなく、イタリアを代表する文化人であり、記号論や中世研究を専門とするボローニャ大学教授です。私が読んだ小説だけでも『薔薇の名前』、『フーコーの振り子』、『前日島』、『バウドリーノ』と並びます。『薔薇の名前』はショーン・コネリー主演の映画も私は見ました。また、『バウドリーノ』はこのブログでもほぼ5年前の2010年12月23日付けで読書感想文をアップしています。原書は2013年に出版されています。と、前置きが長くなりましたが、本書は科学的には存在が疑わしい、もしくは、完全なフィクションの「異世界」について取り上げています。文章部分は著者の書いた部分と引用したテクストからなり、文章部分だけではなく、モノクロだけでなくフルカラーの画像が満載です。ギリシア・ローマの古典古代から地球が球形であったことは知られており、すなわち、対蹠地について「異世界」と捉えたり、バビロンの空中庭園やエペソスのアルテミス像などの世界の7不思議、などの古代から本書は始まって、おおむね時代を下ります。中世くらいまでは宗教的な「異世界」が中心になりますが、近代に入ってユートピアなどにも焦点が当てられています。税抜きで9500円は高価に見えますが、これだけの構成と図版をもってすれば、決して高過ぎるわけではないと受け止める読者も多そうな気がします。また、私は通して読みましたが、本棚に置いて時折パラパラとページをめくるのもいいかもしれません。最後に、私はパスしましたが、同じ出版社から出ている『美の歴史』、『醜の歴史』、『芸術の蒐集』の最近のエーコ教授の3部作を先に読んでおけば、あるいは、もっと有益な読書になるかもしれません。

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次に、ビル・ブライソン『アメリカを変えた夏 1927年』(白水社) です。著者は人気のエッセイ作家、あるいは、ノンフィクション作家であろうかと思います。というのは、私の頭の中ではエッセイとノンフィクションの差は大きくなく、例えば、日本人女性である酒井順子さんがアングロ・サクソン系の男性であれば、こういった下調べの行き届いたエッセイというか、ノンフィクションを書きそうな気もします。本書ではタイトルの通り、1927年夏の米国にスポットを当てています。夏ですから、5月から9月が対象です。その時期に何があったかは、本書の最後の方の p.536 にまとめてありますが、リンドバーグが大西洋横断飛行を成し遂げ、ベーブ・ルースが長らく破られなかった大記録のシーズン60ホーマーをかっ飛ばし、アル・カポネが著名人としては最後の夏を過ごし、サッコとヴァンゼッティが処刑されています。また、ピンポイントで1927年夏ではないかもしれませんが、ジャズが流行し、ラジオが全盛期を迎え、フォード社のT型フォードが製造を中止したりしています。最初の5月の部の第4章冒頭にありますが、1927年の米国というのは世界でも突出して経済的な繁栄を享受していた国です。もちろん、よく知られている通り、禁酒法という人類史でもまれな悪法の下で闇酒でギャングがのさばった時代でもありますし、何よりも、直後の1929年10月にはウォール街の株価が暴落してバブルが弾け、長い長い大不況に突入するわけですが、そのバブル崩壊前の米国の繁栄の頂点ともいえます。特に大きなスポットが当てられているリンドバーグとベーブ・ルースの偉業は改めてその偉大さが実感させられます。ただ、最後に、ひとつだけ難点をいえば、邦題に見るように、1927年夏で米国が何かを「変えた」あるいは「変わった」とは私は考えていません。ピークを越えたのた確かですが、原題は ONE SUMMER: America 1927 ですから、「アメリカを変えた」という趣旨は含んでいないだけに、何か、もっといいタイトルがあったような気もします。それから蛇足で、サッコとヴァンゼッティの事件を歌ったジョーン・バエズの曲を紹介して欲しかった気がします。

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次に、ジェリー・ブロトン『世界地図が語る12の歴史物語』(バジリコ) です。著者は英国の研究者でロンドン大学教授を務めており、専門は地図製作学や時期としてはルネッサンス期に重点があるようです。英語の原題もほぼ邦題と同じであり、原初の出版は2012年です。本書も最初にオールカラーの地図の図版が置かれているほか、タイトル通りの12章構成の各章にもモノクロの地図が配されています。古代から現代に向かって歴史を下る自然な形で構成されており、ただ、時代ごとに地域というかスポットを当てる国に工夫が凝らされています。というのも、古代はギリシアからローマ中心で、場合によってはエジプトやメソポタミアから始まって、どうしても欧州中心になりがちな傾向は致し方ないんでしょうが、アジアの代表は中国でも日本でもなく、1402年ころの韓国が取り上げられています。中国や日本を差し置いて韓国を取り上げるのは、テーマが何であれ、それほど見かけたことがないような気がしないでもありません。もっとも、北を上にして地図を書くのは中国の影響とも指摘されていますから、本書でも中国の存在が無視されているわけでは決してありません。テーマは単なる地図ではなく、世界地図ですから、ある意味で、世界観を反映します。ですから、最初は、科学的というよりも信仰に基づく宗教的な色彩の強かった世界地図が、時代とともに正確性という科学的な要素をより強め、加えて、狭かった古典古代の時代の世界から、新大陸の発見を典型とした世界の広がりを受けて、世界地図も大きく変化してきた歴史があります。科学性に基づきつつ、大航海時代などには実用性も加味されるようになり、世界地図の進化が見られます。世界地図製作の上で大きな貢献をなしたメルカトル図法が数学的に当時では利用不可能な対数や積分法の理解が必要だったことは、なかなか興味あるエピソードと私は受け止めました。ただ、第8章のマネーと題する章では、世界地図を活用した思いがけないビジネスを期待して読み進んだところ、世界地図そのものを売り出すビジネスだったので、少し肩透かしを食らった気がしないでもありませんでしたが、最後を Google Earth で締めくくるのは秀逸な構成と感じました。11月28日付けの読書感想文で『地図から読む江戸時代』を取り上げましたが、時代の世界観や国家意志を如実に表現するのは地図とともに暦だと私は考えています。その意味で、『天地明察』はすぐれた小説だと思ったんですが、暦のノンフィクションも機会があれば読みたいと考えています。

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次に、門井慶喜『東京帝大叡古教授』(小学館) です。誠に申し訳ないながら、私はこの著者を知らなかったんですが、この作品は今年上半期の第153回直木賞の候補作のひとつでした。ご存じの通り、東山彰良が『流』で受賞した回の直木賞です。まあ、私は不勉強にして読んでいませんが、『流』にはかなわないと選考委員から判断されたんでしょう。それはともかく、タイトル通りに、日露戦争前後の明治期の東京帝国大学を舞台にした基本的にミステリしたてのエンタメ小説なんですが、主人公ではないものの、謎解き役が東京帝国大学法科大学の政治学教授という文系の学者となっています。ミステリの謎解き役は、今まで東野圭吾のガリレオこと湯川准教授のように、理系の典型的には数学を専攻する学者が多かったような気がします。テレビ・ドラマのレベルではありますが、ガリレオ湯川准教授も正解にたどり着く直前にはやおら数式を解き始めていたように記憶しています。しかし、この作品の謎解き役は政治学教授、『日本政治史之研究』全3巻で名を馳せた役どころ、というのはかなり変わり種と言えます。しかし、命名が宇野辺叡古(うのべえーこ)なんですから、上でも取り上げた『異世界の書』や『薔薇の名前』の作者であるウンベルト・エーコ教授に似せていることが明白であり、ややセンスを疑われかねない蛮勇の命名だという気もします。日露戦争のころのいわゆる七博士意見書を題材に、東京帝国大学教授やジャーナリストも関係して、七博士が連続殺人に巻き込まれるというストーリーです。何と、夏目金之助まで登場します。謎解きは穴だらけで、最後もウヤムヤに終わりますが、それなりに楽しめる小説です。あるいは、七博士連続殺人の犯人ではなく、叡古教授に阿蘇藤太と名づけられた主人公を解明するほうが謎解きとして面白かったりするのかもしれません。

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次に、日本文藝家協会[編]『ベスト・エッセイ 2015』(光村書店) です。ちゃんと数えていないんですが、70人余りのエッセイ、ざっと3-5ページくらいの短めのエッセイを収録しています。かなり多数の作品が収録されていますから、いくつかは大好きになり、ほかには好ましさが感じられないエッセイもあったりするんではないかと思います。当然ながら、作家やエッセイストなどのもともと文章を書く仕事をしている人が多いような気がしますが、ジャズ・ミュージシャンの綾戸智恵さんも書いていたりします。子供のころの体験やご近所のウワサなどの身近な題材を取り上げていたり、あるいは、逆に日常を離れた旅行した紀行文だったり、いろいろなんですが、天下国家の大きな話題のエッセイは少ないような印象を持ちました。私の目から見て、まったく脈絡なく並べてあり、どういった順で収録されているのかの法則性は発見できませんでしたが、あるいは、何かあるのかもしれません。収録作のタイトルと著者の一覧は出版社のサイトにあります。大きさは文庫本のようにコンパクトでなく普通のサイズでそれなりにぶ厚い本ですから、ポケットに入るわけではなく必ずしも持ち運びがラクとはいえませんが、時間潰しのための軽い読み物として重宝するかもしれません。

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最後に、井上たかひこ『水中考古学』(中公新書) です。著者はよく知りませんが、タイトルから明らかなように、水中に没した考古学的資料を解明する学問領域についての本です。ですから、対象はほぼ沈船といえそうです。沈船以外ではアレキサンドリアのクレオパトラの謎に迫ったりもします。実は、私はクライブ・カッスラーによるNUMAのダーク・ピットを主人公とするシリーズが好きで読んでいたことがあり、本書でも言及のあるトレジャー・ハンターのマイケル・ハッチャーのような活躍物語を想像していたんですが、むしろ、水中の遺物の保存などが本書の中心となっている気がします。よりアカデミックなのかもしれません。p.132 から近代の海難事故として、タイタニック号とともにコラム3で取り上げられているトルコ船エルトゥールル号遭難事件は、日本とトルコの友好の物語として「海難1890」と題して映画化され、ちょうど封切られているんではないでしょうか。

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2015年12月18日 (金)

中国人から見た日本のイメージに関する調査結果やいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、ちょうど1週間前の12月11日にGMOリサーチから「日本のイメージ、観光嗜好に関する日中比較調査」の結果が公表されています。総論として、「今回の調査で、日本に対するイメージや、日本の観光資源に対する観光嗜好は、日中間だけでなく訪日経験の有無によって大きな差が生じることが分かりました。」との結果が示されています。今夜は帰宅が遅くなりましたので、図表を引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上の画像はGMOリサーチのサイトから 日本人の日本のイメージ を引用しています。いくつか囲まれているパートがありますが、富士山を含む右下の囲みに典型的な日本人が日本に対して持っているイメージが集約されています。もちろん、自分で自分の国を見ていますので、ポジティブなイメージが前面に押し出されています。

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日本人の日本のイメージに対して、訪日経験や訪日予定のない中国人の日本のイメージは、画像は引用しませんが、ネガティブなものも含まれます。南京大虐殺や尖閣諸島といったノードが大きめに現れるとともに、靖国神社、慰安婦なども出現します。この訪日経験や訪日予定のない中国人に対して、上の画像はGMOリサーチのサイトから 訪日経験のある中国人の日本のイメージ を引用しています。富士山やサクラといった典型的な日本のイメージのノードが大きくなり、清潔感や環境などを強調し日本をポジティブに見るイメージが数多く現れます。お土産関係のノードについてはご愛嬌かもしれません。

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最後に、GMOリサーチのサイトから 日本の観光資源に対する認知度 の画像を引用すると上の通りです。右上の青い楕円は日本人にも中国人にも認知度の高い富士山やディズニーランドが入り、右下の緑色の楕円には日本人には認知度低いものの訪日経験ある中国人の認知度が高い場所や施設であり、京都国際マンガミュージアム、川村記念美術館、大阪の天神橋筋商店街、などの知らない人にはクロートないしオタクの世界ではないかと思わせかねない施設がリストアップされています。インバウンドの中国人観光客に対する宣伝が行き届いているんではないかという気がします。最後に右に展開する赤っぽい楕円は日本人には馴染みがあるものの中国人は知らない場所や施設であり、この先のマーケティング努力が求められているのかもしれません。

このブログでも、今週水曜日に政府観光庁のデータを取り上げました。銀座の中国人観光客を見ている限り、私個人としてはお行儀の悪さが目に余る気もしますが、インバウンド観光客の消費は都市部のみならず、地方の活性化にも活用できるリソースではないかと期待する向きも少なくないような気がします。

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2015年12月17日 (木)

貿易統計は米国の利上げからどのような影響を受けるのか?

本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない現系列のデータで前年同月比▲3.3%減の5兆9814億円、輸入額は▲10.2%減の6兆3611億円、差し引き貿易赤字は▲3797億円となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易収支、11月は2カ月ぶり赤字 市場予想より少なく
財務省が17日発表した11月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支が3797億円の赤字となった。中国の景気減速でアジア向け輸出が振るわず、輸出額がマイナスとなった。原油安に伴う輸入減は続いたが補えず、2カ月ぶりの貿易赤字に転じた。昨年の同時期はスマートフォンの「iPhone(アイフォーン)」向けの部品輸出が活発だった反動も出たという。
ただ赤字幅はQUICKが事前にまとめた市場予想(4800億円の赤字)より小さく、前年同月(8898億円の赤字)からも縮小した。
輸出額は3.3%減の5兆9814億円で、2カ月連続のマイナスだった。減少率は2012年12月(5.8%減)以来の大きさ。11月の対世界の輸出数量指数は3.1%下がった。供給過剰が続く鉄鋼市況の低迷などでアジア向けの価格が下がり、対世界の輸出価格は0.3%低下した。台湾向けの鉄鋼半製品や、プラスチック原料となる中国向けの有機化合物などの輸出が低調だった。米国向けは自動車などの伸びで増勢が続いたが、伸び率は2.0%と、14年4月(1.9%)以来の低水準だった。一方、前月比の季節調整値でみると世界向けの輸出額は0.5%増えた。
輸入額は前年同月比10.2%減の6兆3611億円と、11カ月連続のマイナス。原粗油の輸入額は4割超減った。原油安の影響で、サウジアラビアからの原粗油や、マレーシアの液化天然ガス(LNG)などの輸入額が減少。中国からの携帯電話の輸入も減った。一方、欧州連合(EU)地域からは輸入は単月で過去最大となった。C型肝炎向けの医薬品を中心に輸入額が増えた。

なかなかコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、全体として、我が国の輸出に対する所得要因たる海外需要については、ほぼ最悪期を脱した印象があります。上のグラフのうちの季節調整済みの系列をプロットした下のパネルを見ても、直近の輸出は9月がボトムとなっており、10-11月と2か月連続で増加を示しており、これも季節調整済みの系列では、貿易収支はまだ赤字ながらも▲33億円とほぼゼロにまで戻っています。これには輸入の減少も寄与しており、季節調整していない原系列の輸入は11か月連続で前年同月比でマイナスを続けています。もちろん、国際商品市況における石油価格の下落の効果が大きく、引用した記事にもある通り、石油だけでなく液化天然ガス(LNG)などのエネルギー価格全般が低下しています。加えて、やや「不都合な事実」かもしれませんが、春先ないし年央くらいからの我が国の景気の踊り場的な減速も輸入の減少をもたらしている一因といえます。いずれにせよ、11月における貿易赤字の▲3797億円は日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスである▲4800億円よりもやや赤字幅が縮小していることは事実ですし、前月の貿易統計公表時の11月19日付けのブログで書いたように、引き続き、当面の貿易収支はゼロ近傍の横ばい圏内で推移する可能性が高いと私は考えています。

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上のグラフはいつもの輸出の推移をプロットしています。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同期比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、輸出数量は相変わらず伸び悩んでいるんですが、この輸出の停滞もほぼ最終ステージに入ったんではないかと私は考えています。さらに、米国連邦準備制度理事会(FED)がFF金利引上げをとうとう開始し、来年からさ来年にかけてさらに毎年1%ポイントの幅で利上げが実施されるとの観測がもっぱらとなっています。私は従来からこのブログでも主張している通り、決してISバランスだけで対外均衡が決まると考えているわけではありませんが、為替が円安に振れても貿易収支が黒字に振れる動きを示すとは限らないという意味で、いわゆる弾力性ペシミズムの立場に近いんですが、輸出の数量はともかく、輸出額を円ベースで引き上げるのは事実だろうと考えています。その意味で、日銀が追加緩和に踏み切らなくても、米国金利が引き上げられ、日米で金利差が拡大することに基づく為替の減価は、いくぶんなりとも輸出には追い風だと考えています。

最後に、先週公表された7-9月期の2次QEでは外需寄与度がプラスを記録し、1-3月期と4-6月期の2四半期続いたマイナス寄与を脱しています。GDPへの寄与は貿易収支ではなく経常収支なんですが、単純に考えて、10-12月期がこのまま推移すると外需寄与度のプラス幅は拡大しそうです。

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2015年12月16日 (水)

訪日外国人数はどこまで増えるのか?

本日、政府観光庁(JNTO)から最新の訪日外客数統計が公表されています。JNTOが独自に算出している推計値は11月統計まで、法務省データを基にした暫定値は9月まで利用可能です。訪日外国人全体では前年同月比で+41.0%増の164万7600人、中国人に限れば+75.0%増の36万3000人と、引き続き、大きく増加しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

訪日外国人、11月は前年比41%増の164万人 中国からは75%増
日本政府観光局(JNTO)が16日発表した11月の訪日外国人客数(推計値)は、前年同月比41.0%増の164万7600人だった。11月としての最高を更新した。円安によって日本での買い物が割安になっている。原油安や査証(ビザ)の発行要件緩和、航空路線の拡大などの好条件が重なり、客数の増加が続いている。
地域別で見ると中国からの旅行者が全体の22%と一番多く、韓国をわずかながら上回った。訪日中国人客数は前年同月比75.0%増の36万3000人。10月は99.6%増で、伸び率はやや鈍化した。韓国で中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)の流行が終息したことで、韓国に旅行する中国人が増えているとJNTOは分析している。中国からのクルーズ船は30隻(前年同月は9隻)が寄港した。船が満席だったと仮定すると8万人(同1万8000人)が訪れたことになる。
その他の地域では、韓国が50.5%増の35万9800人、台湾は25.4%増の29万6500人だった。主要20市場では19市場が11月としての過去最高を更新し、マレーシアは単月でも過去最高だった。減少したのはロシアのみだった。11月13日にフランスの首都パリ市で同時テロが発生したが、訪日需要への影響は限定的だったという。
全ての国・地域の2015年累計(1-11月)では前年同期比47.5%増の1796万4400人だった。過去最高だった昨年1年間(1341万人)を既に大きく上回っている。政府は2020年に訪日客数を2000万人にする目標を立てていたが、年度内には目標数値を上積みする。

まずまずコンパクトに取りまとめられているという気がします。次に、訪日外国人数の前年同月比増減率は以下のグラフの通りです。赤い折れ線の総数のほか、韓国、中国、台湾の増加率をプロットしています。色分けは凡例の通りです。

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黄色い折れ線グラフの中国からの訪日客の伸び率がこの数か月でやや低下して来ていますが、それでも+50%増くらいの伸びを示し、韓国や台湾からの訪日客もしっかり増加しています。1-11月の累計でも昨年から+50%近い伸びを示していて、すでに1800万人近くに達しています。ビザなどの各種手続きが簡素化されたのも増加要因に上げられるんですが、やっぱり、為替による価格要因が大きいんではないかと私は考えています。もちろん、中国をはじめとする近隣諸国の所得が増加しているという所得要因もありますが、訪日外国人の増加は近隣諸国の平均値というよりも富裕層の行動ではないか、と私は受け止めています。
すでに10月21日に同じくJNTOから公表されている今年7-9月期の訪日外国人消費動向調査では、訪日外国人1人当たりの旅行支出は187,165円に上り、前年同期(158,254円)に比べて+18.3%の増加を示しており、旅行消費額では1兆0,009億円と前年同期(5,505億円)に比べて+81.8%もの増加となり、7四半期連続で過去最高値を記録するとともに、四半期ベースで初めて1兆円を突破しています。現在の我が国の名目GDPは2014年度で500兆円をやや下回っていますので、四半期ごとに1兆円を超える外国人観光客の旅行消費があれば、大雑把にGDP比で1%に近い額ということになります。「爆買い」という言葉も一定の認知度を得ましたが、私なんぞが言うまでもなく、この外国人観光客の消費が持つ経済的なインパクトは決して小さくないと考えるべきです。

最後に、フランスでのテロの影響ですが、海外旅行を手控える縮小の効果と海外旅行先をフランスやあるいは欧州などから日本に振り替える代替の効果の影響で、どちらが大きいかに依存します。何の根拠もなく直感的に、前者の海外旅行自体を手控える効果の方が大きそうな気がします。ただ、影響は極めて限定的なものと私は予想しています。

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2015年12月15日 (火)

今年の漢字は「安」!

本日、漢字能力検定協会から今年の漢字は「安」と発表されています。なお、得票の第2位は「爆」、第3位は「戦」だったそうです。例年のように、清水寺で森清範貫主が揮毫しています。下の写真の通りです。

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漢字能力検定協会のプレス・リリースによれば、「安」全保障関連法案、テロ事件や異常気象などの不「安」、人々が「安」心を求めた年、などの理由だそうです。「安心」と「不安」が入り混じっている気がします。

今年の漢字とは関係なく、私の場合、今夜から忘年会がスタートしました。従って、帰宅が遅くなったため簡単に済ませておきたいと思います。

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2015年12月14日 (月)

9月調査からほぼ横ばいを示した日銀短観から何が読み取れるか?

本日、日銀から12月調査の日銀短観が公表されています。主要な結果はほぼ横ばいとなりました。まず、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月の+12から横ばいの+12を、大企業非製造業も9月から横ばいの+25を、それぞれ記録しました。また、本年度2015年度の大企業全産業の設備投資計画は9月調査の+10.9%増からわずかに下方修正されたものの、やっぱりほぼ横ばいの10.8+%増と集計されています。ただ、先行き景況判断は大企業製造業で▲5低下して+7を、また、大企業非製造業でも▲7低下して+18を、それぞれ見込んでいます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業の景況感、横ばい 12月の日銀短観
日銀が14日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス12だった。前回の9月調査(プラス12)から横ばいだった。化学や造船・重機などが改善した半面、中国景気減速の影響で非鉄金属や機械が悪化し全体の重荷になった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。12月の大企業製造業DIは、QUICKがまとめた市場予想の中央値のプラス11を上回った。回答期間は11月11日-12月11日で、今回の回答基準日は11月27日だった。
3カ月先については、大企業製造業がプラス7になる見通し。新興国経済の先行き不透明感などから石油・石炭製品や繊維、電気機械などを除く多くの業種で景況感の悪化を見込む。
2015年度の事業計画の前提となる想定為替レートは大企業製造業で1ドル=119円40銭と、前回の117円39銭よりも円安・ドル高方向に修正された。
大企業非製造業のDIもプラス25と、前回から横ばいだった。マンションのくい打ちデータ偽装問題や人件費の上昇を背景に、不動産業や物品賃貸業の景況感が悪化した。一方、通信や情報サービスの改善が全体を下支えした。訪日外国人観光客の増加を背景とした宿泊・飲食サービスの景況感も引き続き良好だった。
3カ月先のDIは7ポイント悪化し、プラス18を見込む。通信料金の値下げ圧力を背景に通信が大幅な悪化を見込むほか、新興国経済の先行き不透明感などを背景に観光関連の業種も大幅な悪化を見込んでいる。
中小企業は製造業が横ばいの0、非製造業は2ポイント改善のプラス5だった。先行きはいずれも悪化を見込んでいる。
15年度の設備投資計画は大企業全産業が前年度比10.8%増だった。9月調査の10.9%増から小幅ながら下方修正されたが、QUICKがまとめた市場予想の中央値(10.2%増)は上回った。世界的な景気の先行き不透明感は根強いが、過去最高水準の企業収益などを背景に修正幅は小幅にとどまった。大企業のうち製造業は15.5%増、非製造業は8.5%増を計画している。
全規模全産業の設備投資計画は前年度比7.8%増で、9月調査の6.4%増から上方修正された。中小や中堅企業は軒並み上方修正し、市場予想の中央値(6.8%増)を上回った。
大企業製造業の輸出売上高は前年度比3.4%増と、9月調査から上方修正された。円安基調が続いていることで輸出企業が先行きについて強めの計画を設定したとみられる。
大企業製造業の販売価格判断DIはマイナス11と、9月調査(マイナス7)から4ポイント下落した。DIは販売価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」と答えた企業の割合を差し引いたもの。個人消費の低迷が長期化しており、企業がコストを販売価格に転嫁する姿勢が一段と弱まった。

やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。

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まず、日銀短観のヘッドラインと見なされている大企業製造業の業況判断DIは9月調査から横ばいでかつ、大企業非製造業も横ばいでした。引用した記事にもある通り、業況判断DIも設備投資計画も市場の事前コンセンサスでは、今日公表された実績よりももう少し下方修正ではないかと予想されていただけに、逆から見て実績は予想以上の企業マインドの強さを見せつけたことになります。私の目から見て、企業マインドが9月から弱含む要因は、海外の中国をはじめとする新興国経済の減速と国内では消費の回復の遅れなんですが、これらの要因が企業マインドには足元ではそれほど反映されなかった、ということなります。逆に、先行きの業況判断は製造業も非製造業もしっかりと下がっています。従って、エコノミストにより評価が分かれる可能性が高そうな結果です。すなわち、足元で市場の事前コンセンサスほどには業況判断DIが下がらなかった点をもって堅調と判断するか、逆に、先行きの業況判断をもって不透明とするか、もともとエコノミストがどのように経済を見ているかによって評価が分かれそうな気がします。そして、おそらく、あくまでおそらくなんですが、足元が堅調で先行きが不透明というのは、決して、相反するわけではありませんから、どちらも正しいんだろうと私自身は受け止めています。

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続いて、いつもお示ししている設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。なお、3枚目、一番下のグラフは設備と雇用の過不足感から、設備3割の雇用7割で加重平均して作成してみた全体の需給ギャップです。設備については、後で取り上げる設備投資計画とも併せて見て、設備の過剰感は完全に払拭されたと考えるべきですし、雇用人員についても不足感が広がっています。特に、採用に苦労している中堅・中小企業では大企業よりも不足感が強まっています。といいつつ、それにしては、毎月勤労統計などで見る賃金が上がらないのが不思議なんですが、少なくとも、時間はかかる可能性はあるものの、雇用の量的な拡大から、賃金の上昇や正規雇用の増加などの雇用の質的な改善に向かうルートに乗っていることは事実であろうと私は受け止めています。

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続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。今年2015年度の計画は黄色いラインと四角い大きな黄色いマーカで示されていますが、見ての通りで、大企業製造業の景況感とは逆に、9月調査からやや下方修正されたものの、大企業全産業で前年度比+10.8%増と計画されています。下方修正されたとはいえ、まだかなり高い増加率だと考えるべきです。加えて、中堅・中小企業では9月調査から上方修正となっており、全規模全産業で前年度比+%7.8%増で、9月調査の6.4%増から上方修正の設備投資計画となっています。直近の10月統計の機械受注を除いて、ソフトデータの設備投資計画とハードデータの資本財出荷や機械受注との間にギャップが存在するんですが、ひょっとしたら、このまま設備投資はいずれかの時点で「爆発」するのかもしれません。

従来からの設備投資計画におけるハードデータとソフトデータのギャップに加えて、業況判断マインドの足元と先行きの乖離も、今日発表の日銀短観では明らかになりました。後者は両立し得るのでまだしも、設備投資については私はこの先の年度内で「爆発」する可能性は決して高くないと考えており、どのような着地点が実現されるのか、期待しつつもやや不安を感じています。

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2015年12月13日 (日)

週末ジャズは寺村容子「Blue」を聞く!

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今年7月にリリースされた寺村容子の最新アルバム「Blue」を聞きました。このピアニストをリーダーとするトリオのアルバムとしては、「TERAMURA YOKO MOODS」と「The Song」に続いて第3作目です。もっとも、ドラムスの松尾明をリーダーとするピアノ・トリオのアルバムにも寺村容子は参加していて、「Blue」に先立つこれら3枚を私はすべて聞いているんですが、今までウォークマンに入れていたのは、実は、松尾明トリオの「Besame Mucho」だけでした。でも、この最新アルバムを聞いて、新たにこの「Blue」もウォークマンに入れました。まず、曲目構成は以下の通りです。

  1. The Isle Of Celia
  2. Blueberry Hill
  3. Coda
  4. Kiss of Spain
  5. Energy
  6. I Burn for You
  7. Pas des Trois
  8. Hide Away
  9. Vivid Color
  10. Soldier's Hymn
  11. Johnny Boy
  12. Maelstrom
  13. Kiss of Spain (alt. take)

とても個性的なピアニストです。まさか、シングルカットされることもないと思いますが、1曲だけを取り出して聞くんではなく、アルバムを通して何曲か聞くと、寺村容子のピアノだと判るんではないでしょうか。とてもメリハリが効いていて、音階と強弱とテンポと、さまざまな表現方法を持ってピアノを弾きこなしていていることがよく分かります。13曲収録されていて、最後の13曲目は別テイクがボーナス的に入っていますのでネットで12曲として、寺村容子のオリジナルが3曲目、5曲目、9曲目と3ナンバー入っていて、ほかに、ジャズのスタンダードをはじめ、スティングの曲なども取りそろえています。4曲目と13曲目は同じ曲ですがテンポが違います。13曲目の方が通常のジャズらしいテンポだという気がします。

なお、アルバム最初の曲の入りはラテン調で、ライナー・ノートにはこのピアニストにしては従来あまりないように書いていますが、私がウォークマンに入れている松尾明トリオの「Besame Mucho」なんかは、タイトルからしてモロにラテン・ナンバーを含むアルバムですし、ライナー・ノートを書いている、かの寺島さんにしては少し寺村容子を聞き足りないのか、という印象を持ってしまいました。

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2015年12月12日 (土)

上の倅の誕生祝い!

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今日は上の倅の誕生祝いをしました。下の写真は誕生日を祝うごちそうを前にした上の倅です。ホントは今週半ばの誕生日だったんですが、下の倅が期末試験中でしたし、いつもの通り、週末にお祝いです。4月に大学生になったばかりで19歳ですが、最近の法改正により来夏の参議院議員選挙には投票できる年齢にすでに達しています。どうでもいいことながら、私は大学を卒業するまで京都府民だったんですが、19歳の時点で京都府知事選挙があり、以来、現在まで京都府知事選挙には1回も投票したことがありません。
いつものジャンボくす玉です。

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今週の読書は経済書と専門書・教養書と伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』ほか全部で7冊!

今週の読書感想文は、経済書と専門書・教養書と、いつものエンタメ小説は伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』で、さらに、新書も2冊読んで、以下の7冊です。

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まず、根井雅弘『経済を読む』(日本経済評論社) です。著者は我が母校である京都大学経済学部の研究者です。菱山先生のお弟子さんと書いてありますが、私も菱山先生の講義は取りました。単位をいただいたかどうか、どのような評価だったのかなどはハッキリしません。本書でも取り上げられているケンブリッジ学派のスラッファの教科書だったように記憶しています。ということで、話題を戻すと、本書は3部構成であり、第1部が古典を、第2部が時事問題を、それぞれ取り上げ、第3部が書評となっています。いきなり本書冒頭の p.4 で「学問を功利主義的に利用しようとする見解には賛成できない」と古典に入る前にあり、経済学とは政策科学の面もあるものの、私もそれなりに賛成です。その昔に読んだサイモン・シンの何かか誰かを取り上げた科学ノンフィクションだったと思うんですが、「学問に王道なし」でも有名なユークリッドの教室のエピソードが紹介されていて、無謀にも学問をすることによってどんな利益があるか、と質問した生徒がいたそうで、ユークリッドはその生徒にいくばくかの小銭を与えて放校にしたそうです。それはともかく、第1部の古典では冒頭のケインズに次いでマルクスが取り上げられていたりして、さすがは我が母校の京都大学の先生であると感心したりしています。ただ、ジョーン・ロビンソンの解説では不確実性だけでなく、ケインズ的なアニマル・スピリットも解説して欲しかった気がします。さらに、第2部の時事問題の冒頭で、アルヴィン・ロスの言を引いて、エコノミストがすべての社会・経済問題に対して回答を持っているわけではない、というのはその通りだと思うんですが、そう思っていない経済学帝国主義者がまだいて、その経済学万能バブルが2008年に見事に弾けたことも理解していないエコノミストもまだ存在するのは私には極めて不可解です。

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次に、奥村宏『資本主義という病』(東洋経済) です。著者は産経新聞のジャーナリストからシンクタンクの研究員となり、以前から何冊かの本を出版しているらしいんですが、誠に申し訳ないながら、私はよく知りませんでした。決して大部な本ではないんですが、何が主張のポイントなのかは、私程度の読解力ではハッキリしません。でも著者の意図を忖度すると、要するに、最後の結論で明らかにされているように、法人企業たる株式会社が巨大化し過ぎて無責任体制となったことから、これらの株式会社を分割して適度なサイズにすることが必要、という結論のようです。スミスのころのような完全競争市場を取り戻すという主張なのかと思いましたが、そうでもないように見えますし、ホントによく判りません。いずれにせよ、私はエコノミストというよりもヒストリアンとして、時計を逆回転させて昔の経済状態に戻すのはムリがあるような気がします。そうではなく、このブログでも何度か主張したように、その昔の株式会社が適度なサイズであった時代ではなく、現在は株式会社のサイズも大きくなりましたし、その根底には規模の経済が働いているわけで、収穫逓増や外部経済や公共財供給、あるいは独占・寡占などの進んだ現代経済においては、初期資本主義の「見えざる手」が経済社会全体の調和をもたらした時代とは異なり、何らかの政府の市場への規制や介入が必要です。それが講座派的な2段階革命論の最初の段階なのか、社会民主主義ないし社会改良主義なのか、あるいは、社会主義やマルクス主義とは関係ない別の見方なのかは私には不明ですが、政治献金の仕組みとも相まって、今のままで資本や企業の論理だけがまかり通るような現状を何とかしなければならないという点だけは重ねて主張しておきたいと思います。

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次に、エヴァン・オズノス『ネオ・チャイナ』(白水社) です。著者は英国出身でハーバード大学を卒業し、シカゴ・トリビューン紙やニューヨーカー誌でジャーナリストを務めています。本書の原題は Age of Ambition であり、2014年の出版です。本書は、第1部に富、第2部に真実、第3部に心のよりどころ、とそれぞれタイトルを付し、細かく24章構成として、「『情熱』と『独裁体制』という2つの勢力が衝突するさまを描いた」と本書を位置づけた上で、大きな変革の波に翻弄されながらも中国人らしくしたたかに生きる人びとや、戦う姿勢を崩さない反体制派の人権活動家、あるいは、若き愛国主義者たちの姿を通して等身大の中国の本質に迫ったノンフィクションのルポに仕上げています。著者がジャーナリストとして取材した範囲だけでなく、個人と国家の関係にも大いに着目し、例えば、世銀のチーフ・エコノミストを務めた林毅夫が台湾の軍人という地位を捨てて海峡を泳いで大陸中国に亡命したほどの中国に対する思い入れなども明らかにしています。400ページ余りで上下2段組みのボリュームですが、ピュリツァー賞最終候補作に残った意欲作です。とても実践的な中国人が法輪功などの当局から弾圧されかねない宗教に傾倒したり、あるいは、メンツを重視するということは実は不公正を拒否することであると喝破したり、それが故にエリート官僚の不正や癒着に厳しい目を向けたり、また、広く法や制度による統治や統制ではなく、人脈に頼った人生を切り開こうとするのはなぜなのか、ある程度のところは理解できた気がします。もちろん、これで現代中国の経済社会がすべて解き明かされるわけではありませんが、メディアなどでは取り上げにくい生の中国を疑似体験できる書物となっています。

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次に、牧野愛博『戦争前夜』(文藝春秋) です。著者は朝日新聞のジャーナリストであり、ワシントン勤務の経験あるソウル支局長という朝鮮半島の専門家らしく、北朝鮮や朝鮮半島にフォーカスを当てつつ、朝鮮半島の有事のほかにも、台湾海峡や尖閣諸島の有事も取り上げ、無条件の平和を享受するがごとくの日本国民に冷水を浴びせるかのように、突発的な有事の可能性が高まっている現状に警鐘を鳴らさんとしています。もちろん、朝日新聞のジャーナリストですから、正面切って集団的自衛権をはじめとする安倍内閣の有事法制を支持する立場を明らかにしているわけではありませんが、決して有事法制無用論に陥っているわけではないことは当然です。特に、本書で重視しているように私が感じたのは北朝鮮の核問題です。しかも、北朝鮮の金正恩体制の下で個人崇拝と個人独裁が強化され、逆から見て体制が非常に不安定化し、独裁者の暴走に歯止めが利かなくなる中で、中国からのコントロールが弱体化して、しかも、前の韓国大統領から始まり、ここ数年で日韓両国の関係が改善されない中で、日韓の同盟国たる米国の不安が高まっている現状がワシントン取材などから明らかにされています。我が国やアジア一般では中国の海洋進出が耳目を集め、日中関係では尖閣諸島にスポットが当てられる場合が多いんですが、我が国独自の拉致被害という観点だけでなく、北朝鮮の核問題の重要性にフォーカスした本書の主張も、米国をはじめとする国際社会の視点も意識して、重要な論点と考えるべきと、私も専門外のトピックながら感じたりしました。

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次に、伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』(祥伝社) です。陽気なギャングのシリーズ第3作ですが、第2作から10年近くも間が空いています。ギャング4人は久し振りに銀行強盗もしたりして、サザエさんスタイルにより年齢は変わりないような印象ですが、理由は不明ながら主人公たちの子供は着実に成長している様子です。主人公というのは銀行強盗の実行犯である4人で、リーダー格の地方公務員で人間ウソ発見器の成瀬、天才スリで虫や動物に詳しい久遠、しゃべり出したら止まらない演説名人の響野、極めて正確な体内時計とそれに見合った自動車運転技術を兼ね持つ雪子の4人です。シリーズ第3作の本作品では週刊誌記者の火尻を相手に、アイドル宝島沙耶や違法賭博場の連中も巻き込みつつ、悪徳週刊誌記者の成敗に立ち回りを見せます。もちろん、最後にはヒール役の火尻を懲らしめるわけですが、いつもの通り、小説らしく極めて都合よくストーリーが進みます。一応、主人公4人は銀行強盗をするんですが、それは現金を入手するためというよりも、火尻との何らかのきっかけを結びつけるため作者に必要不可欠な場面だったといえます。また、おもちゃ箱のように次々にいろんな出来事や登場人物を並べておきながら、敵役の火尻をやっつける最後にはすべての伏線が収束するという意味で、いかにも伊坂作品らしく仕上がっています。私や我が家の上の倅のように、この作者のファンであれば、読んでおくべき作品といえるかもしれません。

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次に、森岡孝二『雇用身分社会』(岩波新書) です。著者は関西大学経済学部教授を務めていた経済学者であり、おそらく、マルクス主義経済学に基づく社会政策論が専門ではないかと思います。過労死などにも詳しいように見受けられます。ということで、タイトルにあるような狭義の雇用身分だけでなく、幅広く雇用や労働について、特に、タイトル通りの貧困や不平等についても考察した新書です。現在の雇用や労働に関する政府規制はいわゆる「岩盤規制」として、資本の側からかなりむき出しの攻撃対象となっていますが、それに対抗するには、本書のアプローチは少し疑問が残るような気もします。ひとつには、低賃金の克服には本書が示唆するようにスト権を構えて労使で対決するのも一案かもしれませんが、労働者の側から生産性を高めるという視点は考えられないものなのでしょうか。あるいは、デフレを脱却して物価と賃金が好循環をなせるような金融政策の取り組みもアベノミクスにより実施されているところであることは言を待ちません。資本の側からの攻撃に対して、デモやストで階級闘争的に対抗するのもひとつの手段かもしれませんが、労働者の側で再生産不可能な雇用条件や賃金であれば、社会的に現在の生産体制がもたないわけですから、自ずと限界があることから、グローバルな競争の中で日本企業が崖っぷちに立たされているのも事実です。ただ、私としては圧倒的に本書の立場も理解できます。日本の経済社会を考えると非正規雇用の拡大はそろそろ限界に達しつつあります。日本の場合は生産性向上の大きな手段のひとつがいわゆるOJTがとなっており、長期に及ぶ正規職員でないと職場での生産性向上のためのトレーニングが十分でなくなり、非正規雇用の未熟練労働が今以上に広がると、賃金は抑えられるとしても生産性との見合いで、労働のコスト・パフォーマンスが悪化しかねない、むしろ資本の利潤率が低下する可能性すらある瀬戸際に立っているような気もします。消費との関係も考慮しつつ、政府においても賃上げへの協力を民間企業に要請したりしているところですが、最低賃金は政府が決められるとしても、もっとシステマティックに賃上げが進むような税制とかを考える必要があるのではないでしょうか。私はエコノミストとしてはマルクス主義に理解ある方だと自負しているんですが、単に、労使の力関係で階級闘争的にゼロサムの仮定を置いて労働者が資本からぶん取るんではなく、労使双方にメリットのあるようなウィン・ウィンの解決策があるんではないかと期待しています。

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最後に、堀裕嗣『スクールカーストの正体』(小学館新書) です。著者は何冊か教育に関する著書があり、本職は中学校の国語の教師だそうです。タイトル通り、本書ではスクールカーストについて解明を試みており、結論として、コミュニケーション能力、すなわち、自己主張力、共感力、同調力の3つのコンポーネントから成る総合力としてのコミュニケーション能力によってスクールカーストは決定される、と主張しています。そして、これら3つを併せ持つスーパーリーダーは今となってはほとんど存在しない一方で、3つのうち自己主張力と共感力は高いものの同調力が低い孤高派タイプ、共感力と同調力は高いものの自己主張力が弱い人望あるサブリーダー、のほか、共感力は低いが自己主張力と同調力が高い残虐なリーダーがクラスの中心となる場合、最後の残虐なリーダーがいじめの首謀者になる可能性が高いと分析しています。さらに、教師にもスクールカーストがあり、例えば、生徒を引っ張る父性型教師、生徒に寄り添う母性型教師、生徒と親しくなろうとする友人型教師などが混在していると結論し、様々な組み合わせで問題が生じたり、無事に学校生活を乗り切ったり、いろんなケースや事例を紹介しています。本書でも指摘していますが、初等中等教育の児童や生徒の場合、1年間ずっと同じクラスのメンバーで学校生活を送らねばならず、人間関係を円滑に処理する必要がとても高いわけで、しかも、中学校や高校となれば性的な要素も入る場合があり、いわゆる思春期の感じやすい成長期を学校で送らねばならず、さらにさらにで、その昔には身近なグループ内の他愛ない小規模ないざこざで済んでいたことでも、最近ではネットでアッという間に広範囲に情報が飛び交いかねないリスクもあります。私も教員の経験がありますが、18歳以上の学生の通う大学でしたし、クラス担任を引き受けたわけでもなく、学生諸君というのはほぼ成人に匹敵するような独立した個人として遇すべき対象でした。もしも、小学校高学年ないし中学生くらいのお子さんについて、それなりの心配あるなら、本書第1章の図1から図2、図3を立ち読みするだけでも参考になりそうな気がします。

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2015年12月11日 (金)

日銀短観12月調査の予想やいかに?

来週月曜日12月14日の発表を前に、シンクタンクや金融機関などから12月調査の日銀短観予想が出そろっています。7-9月期の2次QEで企業の設備投資が前期比プラスに修正され、企業マインドとともに設備投資計画にも注目が集まっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業と非製造業の業況判断DIと大企業の設備投資計画を取りまとめると下の表の通りです。設備投資計画は今年度2015年度です。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、今回の日銀短観予想については、設備投資計画に着目しています。従って、とても長くなってしまいました。いつもの通り、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、html の富士通総研以外は、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
9月調査 (最近)+12
+25
<+10.9%>
n.a.
日本総研+10
+23
<+10.1%>
大企業・製造業で前年度比+15.9%と、前回調査対比▲2.3%の下方修正を予想。外需環境の不透明感が高まるなか、設備投資が一部先送りされたことなどを受け、これまでの強気の設備投資計画からやや慎重化する見込み。もっとも、低金利や良好な収益環境の持続、維持・更新や省力化・合理化などに向けた投資の必要性の高まりから、高水準での推移が持続。一方、大企業・非製造業では、底堅いインバウンド需要を受け、宿泊・飲食サービスなどを中心に堅調な設備投資計画が維持される見通し。中堅、中小企業では、景況感が過去と比べて比較的高水準で推移するなか、設備投資の腰折れは回避され、例年の足取りに沿った上方修正となる公算。
大和総研+10
+22
<+10.0%>
2015年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比+6.7%となり、9月短観(同+6.4%)から小幅に上方修正されると予想する。12月短観では、中小企業を中心に設備投資計画が上方修正されるという「統計上のクセ」があるが、今回は通常の修正パターンよりやや弱い結果になると想定している。これは、海外経済の減速などに伴う輸出と生産の停滞などを受け、輸出関連製造業の一部が設備投資に対して慎重姿勢を示すと考えているためである。
みずほ総研+11
+24
<+10.5%>
2015年度の設備投資計画(全規模・全産業)は前年比+6.2%と、9月調査(同+6.4%)からやや下方修正されると予測する。新興国経済の減速を受けた投資様子見姿勢の強まりなどから、設備投資は下方修正となるだろう。しかし、下方修正幅は小幅にとどまるとみている。各種企業アンケート調査において、今年度の設備投資スタンスとして維持更新投資の割合の高さが示されており、企業業績が堅調ななかで大幅な投資縮小の可能性は低いためだ。
ニッセイ基礎研+9
+23
<+9.7%>
15年度設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比で6.5%増と、前回調査時点の6.4%増からほぼ横ばいに留まると予想する。例年、12月調査では計画が固まってくることに伴って、中小企業で上方修正される傾向が極めて強いが、大企業の下方修正がその効果をほぼ相殺する。大企業では前回まで非常に強気の計画であったが、今回は冴えない内外経済情勢を受けて、製造業を中心に一部計画の先送りや棚上げの動きが出ると予想している。政府は企業に対する設備投資増額要請を強めているが、効果は見られないだろう。
第一生命経済研+10
+21
<+10.6%>
大企業とは違って、中小企業の設備投資計画は、毎回、上方修正されるパターンを描く。今回はいよいよ、中小企業の製造業・非製造業がともにマイナスの計画からプラス転化しそうである。大企業は下方修正される一方、それを穴埋めするほどに中小企業の投資上積みが進むことが、明るい材料にもなる。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+11
+24
<+11.1%>
15年度の設備投資計画は、大企業・中小企業とも、前回9月調査から小幅上方修正される見通し。夏場の株安・円高などを背景に、多くの企業で設備投資の先延ばし傾向が見受けられたが、金融市場が落ち着きを取り戻す中、15年度の下期にかけては、生産・販売用設備の能力増強投資が活発化する見込みである。なお、訪日観光客の急増も、引き続き非製造業を中心とした設備投資の押し上げ要因となろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+11
+26
<+9.5%>
将来的に需要の伸びが期待できない国内から需要の拡大が見込まれる新興国など海外へ投資先を移す流れに大きな変化はないが、国内でも需要の掘り起こしや人手不足に対応する必要性が高まっていることから、設備の維持・更新など競争力を保つために必要最低限の投資だけでなく、生産(販売)能力の拡大や効率化を進めるための前向きな投資もあると考えられる。ただし、8月の中国株価下落以降、内外景気の先行き不透明感が強まったことで、足元では設備投資を先送りする企業も現れている。このため、今回12月調査では計画の下方修正が予想される。
三菱総研+10
+23
<n.a.>
n.a.
富士通総研+11
+21
<+9.7%>
2015年度の設備投資計画(全規模・全産業)は前年度比6.6%と、9月調査の前年度比6.4%からわずかに上方修正されると見込まれる。企業収益は高水準を維持しており、維持更新投資や省力化投資に対する企業の意欲は引き続き強い。また、アベノミクス以来の円安の定着により、投資の国内回帰の動きが強まったことも、設備投資の追い風になっている。

景況判断DIについては、9月調査の大企業製造業+12、大企業非製造業+25から大きな変化はないものの、ほぼ全機関の予想で企業マインドが小幅悪化すると見込んでいるようです。その悪化幅も産業別の製造業と非製造業で、やや製造業の悪化の方が大きい印象がなくもないものの、大きな差はないように見受けられます。中国などの新興国経済の減速と国内消費の盛り上がりの欠如などが現在の日本経済の踊り場の要因ですから、製造業と非製造業で大きな差がないのも当然かもしれません。設備投資計画についても、日銀短観などの設備投資計画を調査する統計のクセとして、この時期には大企業で下方修正される一方で、中小企業では上方修正される場合が多く、どちらの修正幅が大きいかに依存します。大企業の下方修正幅の方が大きいと見る場合はマイナス修正でしょうし、その逆ならプラス修正と結論されます。しかし、年度の半分以上を終えたこの時期ですから、いずれにせよ、設備投資計画についても大きな修正はないものと私は予想しています。むしろ、注目は来年度の設備投資計画といえるかもしれません。
下のグラフは、いつもお世話になっているニッセイ基礎研のリポートから日銀短観予想のうち、設備投資計画、それも全規模全産業の設備投資計画の推移のグラフを引用しています。

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2015年12月10日 (木)

プラスが続く法人企業景気予測調査BSIとマイナス幅が縮小する企業物価上昇率!

本日、財務省から10-12月期の法人企業景気予測調査が、また、日銀から11月の企業物価 (PPI)が、それぞれ公表されています。法人企業景気予測調査大企業全産業の景況判断指数は+4.6と2四半期連続でプラスを示し、企業物価のうちの国内物価上昇率は前年同月比で見て▲3.6%の下落と、大きな下落が続いていますが、先月や先々月からは下落幅が縮小して来ています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10-12月の大企業景況判断、プラス4.6 食品やサービス業が改善
財務省と内閣府が10日発表した法人企業景気予測調査によると、10-12月期の大企業全産業の景況判断指数はプラス4.6だった。値上げが浸透した食品メーカーやサービス業などの景況感が改善し、2四半期連続でプラスとなった。7-9月期はプラス9.6だった。
10-12月期は大企業のうち、製造業はプラス3.8だった。値上げで収益が改善した食品や化粧品などの販売が堅調な化学が上昇に寄与した。もっとも電子部品などの輸出関連の企業からは中国など海外経済の減速を指摘する声が出て、プラス幅は7-9月期から縮小した。非製造業はプラス5.0だった。宿泊業や飲食業で客数の増加や客単価の上昇がみられた。
先行きは2016年1-3月期がプラス5.6、4-6月期はプラス1.3を見込む。
2015年度の全産業の設備投資見通しは前年度と比べ7.5%増となり、前回9月調査時点は6.1%増から伸びた。自動車関連や運輸業などで投資に前向きな動きがみられた。
調査は資本金1000万円以上の1万6032社を対象に実施し、回収率は81.1%だった。同調査は日銀の企業短期経済観測調査(短観)の内容を予測する手掛かりとしても注目されている。
国内企業物価3.6%下落 11月、2カ月連続で下げ幅縮小
日銀が10日に発表した11月の国内企業物価指数(速報値)は前年同月比で3.6%下落した。前年を下回るのは8カ月連続だが、下げ幅は2カ月連続で縮小した。10月は3.8%の下落だった。日銀は「中国景気の鈍化などを背景にした国際商品価格の下落が響いた」(調査統計局)と分析している。ただ昨年夏以降の原油安による企業物価の押し下げ圧力は若干和らいでいる。
企業物価指数は出荷や卸売り段階で取引される製品の価格水準を指す。項目別では、石油・石炭製品が24.9%下落したが、下げ幅は10月の27.1%から縮小した。
全814品目のうち、298品目が前年同月比で上昇し、400品目が下落した。11カ月連続で下落した品目数が上昇数を上回った。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIをプロットしています。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と青の折れ線の色分けは凡例の通りです。色が濃いのが実績で、薄いのが先行き予測です。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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法人企業景気予測調査のうち、ヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断BSIは今年2015年4-6月期に▲1.2をつけた後、7-9月期には+9.6とプラスに転じ、この10-12月期も2四半期連続でプラスとなり+4.6を示しています。先行きについても来年2016年1-3月期は+5.6とさらに上昇した後、4-6月期にも+1.3とプラス幅を縮小させつつも、何とかプラスを維持するとの見通しとなっています。今年春先からの中国をはじめとする新興国経済の減速の影響が製造業に少し現れているようですが、非製造業では引き続き景況感は高くなっています。先行きも年明けくらいまでは低下しないとの見込みであり、好調な企業業績をバックに企業マインドは先行きも高く維持されそうです。報道されている通り、私は必ずしも賛同できませんが、法人税率が20%台まで引き下げられることとなれば、さらに企業活動にプラスの影響を及ぼすわけであり、企業マインドも高止まる可能性が高いと考えるべきです。同様に、グラフは示しませんが、引用した記事にある通り、全規模全産業で今年度2015年度の設備投資計画が上方修正されています。通常、日銀短観と同じく、年末に近い時点での設備投資計画の調査には一定のクセがあり、大企業では残り少ない期間を考えて下方修正される一方で、中小企業では特に好況期には資金的な余裕から設備投資計画を上方修正する可能性が高いと考えられています。今回の調査でも、大企業と中堅企業が小幅に下方修正したものの、中小企業の上方修正が上回って、全規模全産業で上方修正の結果となりました。産業別では、製造業で下方修正されたものの、引き続き2ケタ増の計画となっている一方で、非製造業では上方改定されたものの、伸び率としては製造業を下回る結果となっています。

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次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の、下のパネルは需要段階別の、それぞれの上昇率をプロットしています。いずれも前年同月比上昇率です。ヘッドラインの国内物価上昇率は、今年4月統計で昨年の消費増税の影響が一巡して▲2.1%を記録してから、月を追うごとに下落幅を拡大して、5月▲2.2%、6月▲2.4%、7月▲3.1%、8月▲3.6%、9月▲4.0%から、10月にようやく下落幅が縮小に転じて▲3.8%を記録し、今日発表の11月統計では▲3.6%とマイナス幅を縮小させています。ただし、まだまだ大きなマイナスを記録していることに変わりなく、また、縮小テンポは物足りないと考える向きがあるかもしれません。もちろん、国際商品市況における石油や金属などの価格下落に伴う物価低迷であり、さらに国際商品市況の下落の背景には中国をはじめとする新興国の景気減速があるわけですが、そろそろ、国際商品市況に伴う企業物価の下落もほぼ一巡しつつあり、前年同月比のマイナス幅は先行き縮小する可能性が高いと私は見込んでいます。

今日、国家公務員にボーナスが支給されています。ボーナスに換気された消費の行方やいかに?

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2015年12月 9日 (水)

大きく増加した機械受注は設備投資の爆発を示唆するのか?

本日、内閣府から10月の機械受注が公表されています。電力と船舶を除く民需で定義されるコア機械受注は季節調整済みの系列で前月比+10.7%増の9038億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月機械受注、10.7%増 基調判断を上方修正
内閣府が9日発表した10月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の受注額(季節調整値)は、前月と比べ10.7%増の9038億円だった。増加は2カ月連続。QUICKが事前にまとめた市場予想(1.2%減)に反し、大幅なプラスとなった。伸び率は9月(7.5%増)から一段と拡大し、2014年3月(12.3%増)以来、1年7カ月ぶりの大きさだった。
内閣府は機械受注の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」とし、前月までの「足踏みがみられる」から上方修正した。判断の引き上げは4月以来6カ月ぶりとなる。受注額(船舶・電力除く民需)の原数値は前年同月比で10.3%増。同受注に100億円以上の大型案件はなかった。
主な機械メーカー280社の製造業から受注した金額は前月比14.5%増の3765億円と、5カ月ぶりに増加した。製造業で化学機械や火水力原動機、内燃機関や風水力機械といった機種の受注が増えた。非製造業は10.7%増の5341億円で、プラスは2カ月連続。運輸業・郵便業からの鉄道車両や、農林漁業から農林用機械などの受注が伸びた。
内閣府は10-12月期の受注額(船舶・電力除く民需)について、前期比2.9%増になるとの見通しを示している。11、12月がともに前月比9.9%減でもこの見通しは達成できる。両月が横ばいなら、10-12月期は13.9%増になるという。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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前月9月統計が季節調整済みのコア機械受注で見て前月比+7.5%の大幅増を受けて、今月10月の統計では反動減が見込まれ、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは中心値では▲1.5%減、レンジでも▲3.7%減から+3.1%増とされていたところ、これを大幅に上回る2ケタ増には私も少しびっくりさせられました。漏れ聞くところによれば、鉄道車両などの大型受注が入った特殊要因もあるとかで、どこまでがいわゆる「実力」なのかは不明ながら、今年に入ってから春以降くらいの不透明な経済状況の中で、設備投資が先送りされ、同時に、機械受注が伸び悩んでいたところ、ある程度は設備投資の先送りにも限界が来ている可能性が示唆されていると受け止めています。すなわち、ソフトデータに近い印象の各種の設備投資計画が昨年度からの前年比で大幅増を示す中で、ハードデータである機械受注や資本財出荷などに計画された増加傾向が現れないと感じていましたが、ここに来て、機械受注にも設備投資計画と整合的な動きが出始めた可能性があります。まだ単月の統計ですから、一挙に機械受注も増加に向かうとまで結論することはできないものの、企業収益から見ても、キャッシュフローから見ても、そろそろ設備投資は単純な更新投資すら追いつかないレベルまで低下して来ていましたので、さすがに反転増加するタイミングなのではないかという気もします。それに、ほぼ完全雇用に達した労働市場における人手不足に起因して、労働から資本ストックへの代替も進む可能性が高いという要因も見逃せません。なお、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府は基調判断を「足踏み」から「持ち直しの動き」に明確に1ノッチ上げましたが、単月の大幅増を反映してではなく、こういったバックグラウンドの要因を合わせて考慮して、基調判断が上方改定されたんではないか、と私は勝手に想像しています。

他方、9月+7.5%増に続く、10月10.7%増ながら、この2ケタ増やそれに近いペースでの増加がこの先も続くと予想するエコノミストは少なく、足元での2ケタ増はややイレギュラーな要因も含めた結果とも考えられます。そのうちに反動減もあるかもしれません。ということで、今夜のタイトルの「設備投資の爆発」ではなく、年度後半にかけて設備投資は緩やかな回復軌道に戻る可能性が高いと私は予想しています。来週公表予定の日銀短観の設備投資計画にも注目したいと思います。

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2015年12月 8日 (火)

大きく上方改定された2次QEから何が読み取れるか?

本日、内閣府から7-9月期のGDP統計2次速報、いわゆる2次QEが公表されています。1次QEでは季節調整済みの前期比成長率が▲0.2%と推計されていたところ、2次QEでは+0.3%、前期比年率では+1.0%に大きく上方改定されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7-9月期の実質GDP改定値、年率1.0%増に上方修正
内閣府が8日発表した2015年7-9月期の国内総生産(GD)改定値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.3%増、年率換算では1.0%増だった。設備投資の上振れにより、11月16日に公表した速報値(前期比0.2%減、年率0.8%減)から上方修正した。
設備投資は7-9月期の法人企業統計を反映した結果、前期比0.6%増(速報値は1.3%減)に上方修正した。新規出店や改築などで卸・小売業が好調だったほか、建設業なども伸びた。
もっとも個人消費の動きは鈍く、0.4%増(速報値は0.5%増)と小幅に下振れた。自動車販売が減少したことが響いた。公共投資は1.5%減(同0.3%減)だった。
民間の在庫寄与度はマイナス0.2ポイントとなり、速報値(マイナス0.5ポイント)から上方修正となった。流通在庫や原材料在庫が速報段階から上振れた。
生活実感に近い名目GDPは前期比0.4%増(同0.0%増)、年率では1.6%増(同0.1%増)だった。総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは、前年同期と比べてプラス1.8%(同プラス2.0%)だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2014/7-92014/10-122015/1-32015/4-62015/7-9
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)▲0.7+0.5+1.1▲0.1▲0.2+0.3
民間消費▲1.2+0.1+1.5▲0.1+0.5+0.4
民間住宅▲6.9▲0.7+2.0+2.5+1.9+2.0
民間設備▲0.4+0.2+2.7▲1.3▲1.3+0.6
民間在庫 *(▲0.6)(▲0.1)(+0.5)(+0.3)(▲0.5)(▲0.2)
公的需要+0.6+0.1▲0.2+0.9+0.2▲0.1
内需寄与度 *(▲0.7)(+0.1)(+1.1)(+0.1)(▲0.3)(+0.1)
外需寄与度 *(+0.1)(+0.3)(▲0.0)(▲0.2)(+0.1)(+0.1)
輸出+1.6+2.9+1.9▲4.3+2.6+2.7
輸入+1.1+0.8+1.7▲2.6+1.7+1.7
国内総所得 (GDI)▲1.0+0.6+2.1+0.3▲0.3+0.2
国民総所得 (GNI)▲0.4+1.6+1.2+0.8▲0.4+0.0
名目GDP▲0.9+0.8+2.0+0.2+0.0+0.4
雇用者報酬+0.2+0.1+0.8▲0.0+0.8+0.7
GDPデフレータ+2.1+2.3+3.3+1.5+2.0+1.8
内需デフレータ+2.3+2.1+1.4+0.0+0.2+0.0

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2015年7-9月期の最新データでは、前期比成長率が前プラスに転じ、灰色の在庫がマイナスの他は、赤の消費や水色の設備投資などがプラス寄与を示しています。

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仕上がりのGDP成長率が大きく上方改定されましたが、その中身は法人企業統計に従ったものであり、設備投資の上方改定と在庫投資の上方改定です。成長率で1次QEの▲0.2%から2次QEで+0.3%に+0.5%ポイントの上方改定があったうち、寄与度ベースで見て設備投資で+0.3%、在庫投資でも+0.3%、合わせて+0.6%の寄与度のスウィングがあります。これを消費の寄与度が▲0.1%落ちたことと合わせて成長率の上方改定につながったわけですが、評価はやや難しく感じています。というのは、設備投資についてはとても前向きに評価すべきなんでしょうが、在庫投資については逆に在庫調整が進んでいない可能性が示唆されていることから、先行きのマイナス材料となりかねないと考えるべきです。従って、年率+1%の成長率をそのまま高成長と評価するべきかどうかは疑問が残り、今年春先くらいからの踊り場を脱したとまで言い切るのは、私は自信がありません。ただし、先行きの本格回復軌道への復帰の兆しはあります。消費が緩やかながら回復を始めているのは所得の増加に裏付けられており、年末ボーナス次第で消費が増加する素地が大いにあると考えられますし、好調な米国経済をはじめとして海外経済の回復とともに輸出の増加も期待できます。そして、何よりも堅調な企業活動に支えられ、設備投資の回復の動きも始まっており、メディアなどで報じられているように、法人税率を来年度から引き下げることにより、設備投資もさらに増加する可能性もあります。ただ、消費税率を引き上げての法人税率の引き下げには、私自身はエコノミストとして疑問を捨て切れません。
最後に、繰り返しになりますが、2次QEの成長率そのものは過大に評価すべきではありませんが、先行きの日本経済は本格回復の軌道に戻りつつあると期待してもよさそうな感触を得たということが出来るのではないでしょうか。

なお、本日は、GDP統計の他に、内閣府から11月の景気ウォッチャーが、また、財務省から10月の経常収支が、それぞれ公表されています。いつものグラフだけ下の示しておきます。上のパネルの景気ウォッチャーは、現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。色分けは凡例の通りです。また、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。下の経常収支は、青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは同じく凡例の通りです。

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2015年12月 7日 (月)

上昇を示す景気動向指数は日本経済の踊り場脱却を示唆するのか?

本日、内閣府から10月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインとなるCI一致指数は前月から+2.0ポイント上昇して114.3となり、CI先行指数も+1.3ポイント上昇して102.9を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気一致指数、2カ月連続プラス 基調判断は据え置き
内閣府が7日発表した10月の景気動向指数(2010年=100、速報値)によると、景気の現状を示す一致指数が114.3と、前月比2.0ポイント上がった。9月(0.1ポイント上昇、改定値)から、2カ月連続でプラスとなった。直近数カ月の平均値などから機械的に判断する景気の基調判断は、5月以降と同じ「足踏みを示している」に据え置いた。
前月とデータが比較可能な構成8指標のうち、有効求人倍率を除く7指標が一致指数のプラスに寄与した。寄与度が最大だったのは耐久消費財出荷指数で、乗用車や二輪車の出荷が上向いた。電子部品の生産・出荷が持ち直し、製造業の中小企業出荷指数や鉱工業生産指数も改善した。
数カ月先の景気を示す先行指数は1.3ポイント上昇の102.9で、4カ月ぶりのプラスだった。新規求人数(学卒除く)のほか、最終需要財の在庫率指数、東証株価指数などが押し上げ要因となった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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グラフを見ても明らかですが、CI一致指数・先行指数ともかなりの上昇幅を記録しています。特に、先行指数についてはここ数か月下落が続いており、まだ後方3か月移動平均はマイナスのままなんですが、少なくとも10月については反発を示しています。一致指数も先行指数の上昇が続くのであれば、先行きもプラスで推移する可能性が高いと解釈されます。ただし、それほど単純な運びになるかどうかは確固たる自信はありません。年内から年明けの景気については、私自身は横ばい圏内での推移となる可能性が高いと受け止めています。もっとも、年末ボーナスの増加と在庫調整が早期の終了と中国経済の回復などが景気を刺激する可能性は否定できません。補正予算よりも、そのあたりに期待したいという気がします。
CI一致指数の個別系列でもプラス寄与を示す系列が多く、引用した記事にもある通り、8系列のうち7系列がプラスを示しています。特に、耐久消費財出荷指数、中小企業出荷指数(製造業)、投資財出荷指数(除輸送機械)、生産指数(鉱工業)、商業販売額(小売業)(前年同月比)、鉱工業用生産財出荷指数の6系列がこの順で寄与が大きく、しかも、+0.20以上の寄与度を示しています。マイナス寄与は有効求人倍率(除学卒)くらいのものです。CI先行指数では逆に新規求人数(除学卒)のプラス寄与が最も大きく、次いで、最終需要財在庫率指数や鉱工業用生産財在庫率指数といった系列が上げられます。もっとも、在庫調整が進むという意味ですので逆サイクル系列です。一致指数と先行指数の両方を併せて見ると、出荷が伸びて在庫が低下し、在庫調整が進んでいることが示されています。

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2015年12月 6日 (日)

先週の読書は経済書とエンタメ小説で東野圭吾『人魚の眠る家』や池井戸潤『下町ロケット2 ガウディ計画』など計9冊!

先週の読書は経済書と小説、それもエンタメの小説ばかりで、東野圭吾『人魚の眠る家』や池井戸潤『下町ロケット2 ガウディ計画』など計9冊でした。昨日のブログに米国雇用統計が割り込んだため、読書日のベースで1日多かったのと経済書とエンタメ小説という得意分野(?)の本ばかりでしたので読書がはかどった気がします。感想文は以下の通りです。

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まず、齊藤誠『震災復興の政治経済学』(日本評論社) です。著者は一橋大学教授であり、マクロ経済学や経済動学を専門としています。また、震災後に学術会議のチームに加わって震災の影響などについて政治学者とともに研究を続けているようです。ということで、本書のスコープは基本的に「政治経済学」がターゲットなんだとタイトルから推測していたんですが、ページ数でもっともボリュームの大きな第7章は原発事故であり、私の目から見て『政治経済学」ではなくて「原子力工学」になっています。例の朝日新聞の誤報なんかもこの第7章で取り上げられていますが、私は専門外であって感想文ではパスします。本書の主張は、原発事故は風評被害もあることから政府としてはできる限り小さめに見込むとともに、津波を含む震災被害については特にストックの損害はかなり過大に見積もられてしまった、という点にあリます。逆から考えて、原発への危機対応は不足であった一方で、公共投資による復興事業は過大であった、といえます。本書でも説得的かつ実証的な議論が展開されており、毀損ストックの過大推計と復旧事業の必要以上の拡大については私もまったく同意します。私だけでなく、多くのエコノミストも同じであろうと思いますが、一例として、このブログでも2012年7月18日付けで読書感想文を書き、本書の参考文献にも上げられている原田泰『震災復興欺瞞の構図』でも同様の主張がすでになされています。しかも、本書の著者の齊藤教授と日銀政策委員に就任した原田氏とは、これまた、このブログで2014年11月22日付けで感想文をアップした『徹底分析 アベノミクス』でアベノミクスに対して正反対の論陣を張っていたわけですから、震災により毀損したストックの推計が過大であり、それを基にした災害復旧予算も根拠の乏しい大盤振る舞いであった、という点については、少なくともエコノミストの間では、かなり広範な合意がありそうな気がします。さらに、阪神淡路大震災からの復興予算9.5兆円は、国が5.0兆円を負担する一方で、地方自治体が合わせて4.5兆円を負担していますが、東日本大震災ではすべて国の負担、というのも本書で疑問が呈されています。もっともだと私も受け止めています。さらに、p.121 の概念図で極めて分かりやすく説明されているように、停滞か成長かのトレンドといずれのリファレンス・ポイントを取るかの問題も本書の主張は正しいような気がします。経済的に私が疑問に受け止めたのはただ1点で、本書では震災が我が国のデフレを悪化させたという主張に対して反論していますが、この反論は第6章 p.164 以降を読む限り、日本はデフレに陥ったことがない、と日銀理論そのままに主著しているに等しいように私には感じられました。最後に、私も官庁エコノミストとしていくつかの政策の策定を見てきた中で、ケインズ的なハーヴェイ・ロードの前提なんてものはまったく成り立たないわけですし、それでも、財政政策をはじめとする経済政策は、政府から独立した中央銀行の専管事項である金融政策を含めて、主権者たる国民の総意に基づいて決定されるべきであると私は考えています。専門家たるエコノミストは、ある意味では、選択肢を示す役割に徹する必要がある場面すらあり得ます。その点で、本書の著者が専門家たるエコノミストが合理的な政策選択を行うべきであると考えているような雰囲気を感じないでもありませんでした。でも、長らく公務員として政府機関に勤務していて、専門家たるエコノミストの合理的な政策選択と国民の総意は長期的に一致すると私は期待しています。そうでなければ公務員はやってられません。もっとも、長期にはみんな死んでいるかもしれません。

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次に、宮本みち子[編]『すべての若者が生きられる未来を』(岩波書店) です。編者は千葉大学名誉教授の社会学者であり、編者以外の著者もアカデミックな世界で活躍する人が多いんですが、NPO活動や行政に携わっている人も含まれています。何を取り上げている本かといえば、学校教育期から勤労期へ移行する世代の若者のうち、学校や職場、あるいは広く社会からは除されてしまった若者について、社会的な包摂を試みる論考です。一般的に、ニートとか引きこもりと呼ばれている若者、あるいは、学校教育からドロップアウトしてしまった若者、などなど、についていかにして社会的な包摂を達成するかという論点です。経済書というよりも教養書とか経済学以外の専門書なのかもしれませんが、後述の理由で経済書に含めておきます。著者がまちまちですので、第6庄や第7章のようにかなり立派な学術論文に仕上がっている章もあれば、行政やNPO法人の活動紹介に終始している章もあり、精粗まちまちといえますが、考えさせられる部分も少なくありません。このブログでも一貫して主張している通り、シルバー・デモクラシーによる圧力の下で、我が国の社会保障制度では圧倒的に恒例の引退世代に手厚い保障がなされていて、若年層や家族に対する保障が極めて手薄なんですが、その手薄な若年層に目を向けた貴重な論考です。少し前の9月19日付けの読書感想文のブログで、『老後破産』と『下流老人』を取り上げた際にも書きましたが、高齢の引退世代については生活保護へのアクセスが何よりも重要なんですが、人生80年時代の前半にいる30代までの若者については、年齢にもよるものの、直接的な所得補償や生活支援ではなく、学校教育とは異なるオルタナティブな教育あるいは職業訓練、また、「絆」という言葉の通り社会的に連帯して、あるいは、個人バラバラでなく集団で解決するスキルやセンスを身につけ、最終的な出口は就労ということになります。ですから、本書は社会学系の研究者が参加していますが、著名なところでは東大の玄田教授など、エコノミストの知見が活用できる問題も少なくありません。勝手ながら、私のこのブログでは本書も経済書の扱いにした由縁です。なお、関連するトピックとして、先週の報道で日本財団と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究「『子どもの貧困』に関する経済的影響を推計」によれば子供の貧困を放置すれば、現在の15歳世代だけで日本社会の経済損失が約2.9兆円に及び、国の財政負担は約1.1兆円増えるため、合計で4兆円の社会的損失を生じる可能性がある、との結果が示されており、広く報じられているところです。リポートの全文は2015年12月半ばをめどに日本財団の公式ウェブサイトで公開よていとのことであり、私はまだリポートを入手していませんが、順不同でメディアの報道へのリンクを以下の通り示しておきます。ご参考まで。

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次に、アラン・グリーンスパン『リスク、人間の本性、経済予測の未来』(日本経済新聞出版社) です。上の表紙画像に見られる通り、英語の原題は The Map and the Territory 2.0 であり、私にはよく意味が分かりません。副題を日本語タイトルとしており、副々題が UPDATED and EXPANDED となっていて、2013年出版で2014年に改訂版が出版されたような印象です。詳細は私も知りません。著者はいわずと知れた米国連邦準備制度理事会(FED)の議長を長らく務め、「マエストロ」とまで称されたエコノミストです。2007年出版の『波乱の時代』も私は読んでいるんですが、とても新刊書とはいえない数年遅れのタイミングで読みましたので、このブログの読書感想文では取り上げませんでした。なお、私は1989年2月から4月まで役所からの長期出張でFEDのリサーチ・アシスタントとして数量分析課に席を置いていたんですが、何度かFEDの職員食堂で当時のグリースパン議長を見かけたことがあります。もちろん、会話を交わす光栄に浴したことはありません。かなりの年齢だと感じたんですが、本書を見ると1926年生まれの来年90歳ですから、私が実物を見かけた折りですでに60歳を越えてたようです。ということで、前置きが長くなりましたが、前著の『波乱の時代』でも回顧録的なクロノロジカルな部分が半分で、残りの半分は金融政策のみならず経済に関する理論的な解明を試みていたんですが、本書では後半の経済解説の部分を長くしている気がします。前著がサブプライム・バブルが弾ける直前の2007年の刊行でしたから、当然ながら、本書ではバブル崩壊から後の回顧と理論的整理が中心になります。相変わらず、アイン・ランドへの尊敬の念は書き漏らしがなく、市場重視の右派的な経済観を余すところなく披露しています。ただし、原理主義とまでいわなくても、市場重視という見方は政府の官庁エコノミストよりも中央銀行のセントラル・バンカーの方により色濃く現れる哲学であると私は考えています。どうしてかというと、政府は経済活動に関してかなりの強権を有しており、財政政策や税制により、無理やりに市民のポケットに補助金を突っ込んだり、逆に、市民の家庭から税金を徴収したりする政策が実行でき、これらの政策は市場とも合理的な経済活動とも関係ないんですが、中央銀行の金融政策は市場参加者が市場において合理的な経済活動を行うという前提で策定されます。ですから、市場が出来る限り自由で合理的な方が中央銀行には望ましいわけです。というわけで、私はそれなりに本書のスタンスに対しても理解を示しておきたいと思います。最後に、付章でアニマル・スピリットの計測について、株価から長期的かつ合理的な変動を取り除けば計測可能としている見方は、現実に把握できるかどうかは別にして、とても興味深いものがありました。

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次に、ガブリエル・ズックマン『失われた国家の富』(NTT出版) です。著者はフランス出身で、『21世紀の資本』で有名になったピケティ教授の下で学位を取得し、現在はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の准教授を務めているエコノミストです。本書の原題は、La richesse cachés desnations となっています。日本語タイトルはそのまま訳されたようですが、英語にすれば、The missing wealth of nations であり、"missing" を抜けば著名なアダム・スミスの著書のタイトルになります。なお、最後に一橋大学渡辺教授の解説が十分なボリュームで収録されています。ということで、タイトルからだけでは分かりにくいのかもしれませんが、タックス・ヘイブンを利用した脱税もどきの方法により、先進各国は納税が不十分になっていて、主としてフランスに眼目があるわけですが、納税によって得られるべき国家の富が失われている、という趣旨のようです。オフショア金融の実態を明らかにするとともに、その課税逃れの金融資産が著者の試算では5.8兆ユーロに上り、世界の家計資産の8%を占め、これらの課税逃れがなければフランスの公的債務は約5000億ユーロ少ない可能性があることから、課税逃れ資産は外部不経済をなしていると主張します。こういった課税逃れを防止するために、著者は第1に世界規模で金融資産を網羅した台帳、すなわち、データベースを整備し、第2にタックスヘイブンに対して威嚇と制裁をもって規制に当たり、第3に国際機関による世界規模での資本所得に対する累進課税と法人税制の整備を提案しています。なお、最後の国際機関は国際通貨基金(IMF)を想定しています。決済という観点からは国際決済銀行(BIS)も1枚かませておくべきかもしれません。本書の政策的な実現可能性はともかく、先週11月28日付けの読書感想文のブログで私自身の論を展開したように、スミス的な初期資本主義の「見えざる手」が経済社会全体の調和をもたらした時代とは異なり、本書でも論じられているような外部経済や公共財供給や独占の発生など、古典的な資本主義からは離れた現代的な問題が発生している現段階の市場には政府による民主的な関与が必要だと私は考えており、その実現可能性をタックス・ヘイブンを利用した課税逃れという点から議論した本書にも大いに同意する部分があります。なお、本書の著者は同じ英文タイトルの学術論文を刊行しています。ピア・レビューによる査読を通って、かなり高度な学術雑誌に収録された論文ですが、以下にリンク先だけ示しておきます。ご参考まで。

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次に、ダニエル・コーエン『経済は、人類を幸せにできるのか?』(作品社) です。著者はフランスのマルクス主義経済学者であり、『21世紀の資本』で一躍有名になったピケティ教授の師匠筋に当たるエコノミストです。現在のフランスはオランド大統領の社会党政権ですから、本書の著者も政権に近い存在となっているのであろうと私は想像しています。なお、前著で世界的なベストセラーになった『経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える』も同じ作品社から出版されており、私のこのブログでは2013年7月27日付けのエントリーで取り上げています。また、本書の原題は、Homo economicus: Prophète (égaré) des temps nouveaux となっています。ということで、私の目から見て前著と「同工異曲」といった印象を拭えません。基本的に現在のアングロ・サクソン的な市場を重視した右派的資本主義経済が人類の幸福に寄与するかどうかを疑問視しているわけですが、それはそれとして正しい認識なんだと思う一方で、例えば、本書冒頭ではアリストテレス的なエウダイモニアを持ち出しており、翻訳者さんも「あんまりだ」と感じたのか、非常に上手にエウダイモニアを明示せずに訳出しています。そして、本書のテーマは、誤解を恐れずに極めて単純化していえば、ホモ・エコノミクスは物質的な富の追求を主眼としており、エウダイモニア的な幸福と整合性がない、ということなんだろうと思います。そして、これまた、それはその通りなんでしょう。ただし、21世紀のポスト近代社会的な幸福観の提示に成功しているとは私は考えていません。準備不足で書き上げたのか、物足りない気がします。

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次に、東野圭吾『人魚の眠る家』(幻冬舎) です。著者の作家デビュー30周年記念作品だそうですが、今年2015年5月30日付けの読書感想分で取り上げた前作の『ラプラスの魔女』もそのように銘打って売り出されていたような気もしますし、情報によっては、作家デビュー30周年記念作第2弾と称している向きもあったりします。よくわかりません。また、同じ作者の作品で、このブログでも8月23日付けのエントリーで取り上げましたが、9月に映画公開された『天空の蜂』も話題になりました。ということで、本作品はミステリでもSFやファンタジーでもなく、脳死や臓器移植を正面から取り扱っています。人間の肉体に対する魂というものにほとんどこだわることなく、また、宗教的な観点はまったく含まず、ガリレオ・シリーズの作者らしく、あくまで科学的というか医学的に人間の死を捉え、しかも、この作者らしくキチンとした倫理観に支えられた小説です。ある意味で、愛する我が子の死を受け入れられない母親の狂気とも見えますが、それなりに理性的な対応でもあります。最後は大向こうをうならせるエンディングともいえます。私のように経済学や社会科学が専門でも唯物論者はそうでしょうし、この作者のような理系の科学者やエンジニアもそうなんでしょうが、自然の摂理の中で人間が生きて行く限り、何らかの死を受け入れる必要はあるわけで、それが脳死なのか、心臓停止なのかは、我が国ではまだ議論が未成熟とはいうものの、何らかの生と死の境は存在すると考えるべきです。私の生死観は、この作品の主人公夫婦の夫の方の父親、先代社長に近いと考えています。すなわち、主人公夫婦の母親の方のやり方は、電気刺激だか磁気刺激だかで死体を操っている、に近い印象です。さらに、こんなことを言い出すのは私だけかもしれませんが、この作品の大きな問題は、大金持ちが金にあかせて我が子の生死を自由に操っているような印象を持たれかねない点です。そう簡単ではないかもしれませんが、何とかプロットの上で解決できなかったものかと懸念しています。

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次に、池井戸潤『下町ロケット2 ガウディ計画』(小学館) です。同じ作者の『下町ロケット』は2011年8月25日付けの読書感想文で取り上げています。ということで、すでに前書は直木賞を受賞していますし、本作品とともにドラマ化もされており、著者も売れっ子作家ですから、私なんぞからは何も前置きの紹介は必要ないと思います。本作品も大田区にある佃製作所なる中小企業を舞台にし、前と同じ大企業の帝国重工に加えて、NASA出身の社長が率いるライバル中小企業のサヤマ製作所や前作の最後に去り行く元従業員がチラリと漏らした医療機器分野の大企業である日本や福井の中小ベンチャーであるサクラダが、また、医療機器開発ですのでアジア医大とかが登場します。日本テックはアジア医大と連携して人工心臓を開発し、帝国重工はロケット開発です。いずれも佃製作所とサヤマ製作所をバルブ製造の下請けとしています。本作は前作よりもさらに白黒がはっきりと分かれ、同じ著者の半沢直樹シリーズよりももっと真っ黒で、警察に逮捕される人物まで登場します。本書の最初に組織と人物の相関図が示されています。出版物やドラマなどの web サイトではよく見かけるものですが、とても分かりやすいです。前作のあらすじなんかもあれば、もっといいかもしれません。なお、例えが突飛に感じられるかもしれませんが、私の直感からすれば、昭和30年代のプロレスを支えた力道山の美学に近い文学作品です。すなわち、タッグマッチの3本勝負で、外国人選レスラーの卑劣な凶器攻撃や反則技に苦しみながら1本目を取られた力道山チームなんですが、キチンとレフェリーが判定することにより力の差に応じた結果が出て、力道山の空手チョップ炸裂により、2-3本目を日本人チームが取って勝つ、という結果です。外国人レスラーはアジア医大の教授だったり、サヤマ製作所の開発者だったりする一方で、レフェリーは帝国重工の重役であったり、医療機器認証のPMDAだったりすます。もちろん、力道山は社長をはじめとする佃製作所の面々です。ジャーナリストの登場も見逃せません。こういった昭和の力道山美学をどこまで現代の読者が、あるいは、ドラマ視聴者が理解するか、私は興味を持って見ていたりします。

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最後に、湊かなえ『リバース』(講談社)と『ユートピア』(集英社) です。私はこの作者の小説はすべて読んでいるつもりなんですが、少し前までこの作者の代表作はいまだにデビュー作である『告白』かもしれないと考えていたりしたものの、2冊読んだうちの最初の『リバース』は面白かったです。ひょっとしたら、この作者の作品の中ではマイ・ベストかもしれません。大学4年生の同じゼミの友人5人が最終学年の夏休みに山の別荘に旅行した際に自動車事故で1人が死亡したところ、3年ほどを経て残された4人が20代半ばになってすでに社会人として働き始めていたタイミングで、この4人を名指しで「xxは人殺しだ」という手紙を親しい人とか会社の総務部などに送り付けられて、主人公がその解明に乗り出す、というミステリ仕立ての小説です。この手紙の送り主の解明はそれほど難しい謎ではないんですが、最後の最後の数パラで大どんでん返し、というか、とても意外な事実の解明があります。最後の最後で読者が「エッ」となるのは、乾くるみの『イニシエーション・ラブ』みたいなカンジです。主人公をはじめとして、主要な登場人物が大学生の20歳過ぎから社会人3年目くらいまでの20代半ばですから、私の好きな青春小説の要素もあります。『ユートピア』はこの作者本来のややドロドロした人間関係の要素が色濃くなりますが、以前の作品ほどではありません。太平洋に突き出た岬や灯台のある鼻崎町というのどかな港町を舞台に、その名もユートピア商店街などの地元民、大企業の本社から工場に転勤して来たエリート社員、その工場に現地採用されている社員、そして、かなり異質なのが最近移住して来た芸術家集団、といった異なるバックグラウンドを持った人々からなるコミュニティの中で、車椅子の小学生の女の子とその友人で上級生、さらにその親を巻き込んで、5年前の殺人事件と同時期に商店街の仏具店から失踪した女性、などなど、それだけでも非日常性をたっぷりと備えた複雑怪奇なミステリに仕上がっています。「善意は悪意より恐ろしい」というテーマに基づく小説らしいんですが、私はやっぱり悪意の方が恐ろしいと感じざるを得ませんでした。p.295 以降の最後の謎解きは少し中途半端で物足りなく感じられ、新本格派のミステリのように論理的にすべてが解明されることを期待すべきではないのかもしれません。同じ作者の作品を2本並べて、私個人としては『リバース』の方をより高く評価しますが、もともとのこの作者のファンであれば『ユートピア』の方にこの作者らしい雰囲気をより濃厚に感じるかもしれません。

今日の読書感想文のブログは取り上げた数も多くて、それぞれの感想文も長くなり、とてもボリュームがかさんでしまいました。ということは、タイプミスも多いわけですから、今後は気を付けたいと思います。

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2015年12月 5日 (土)

堅調な米国雇用統計から米国の利上げを考える!

日本時間の昨夜、米国の労働省から11月の米国雇用統計が公表されています。ヘッドラインとなる非農業部門雇用者数は前月から+211千人増加し、失業率は前月と同じ5.0%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから記事を最初の4パラだけ引用すると以下の通りです。

Robust Jobs Report All but Guarantees Fed Will Raise Rates
Consider it a done deal.
American employers expanded their payrolls at a robust pace in November, the government reported Friday, all but guaranteeing policy makers at the Federal Reserve will raise interest rates for the first time in nearly a decade when they meet later this month.
In addition to 211,000 new hires last month — a bit more than Wall Street had expected — the Labor Department also revised upward its earlier estimate of job creation in September and October by a total of 26,000. The unemployment rate was unchanged at 5 percent.
The labor market strength evident in the November data removes the last major uncertainty before the Fed decision.

この後にエコノミストなどへのインタビューが続きます。包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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非農業部門雇用者数の増加について、市場の事前コンセンサスはほぼ200千人でしたから、統計の実績はこれを上回りましたし、前月10月と前々月9月の雇用者の増加も上方改定されています。最近3か月の雇用者増は平均で218千人、今年に入って11月までの雇用増は月平均で21万人、11か月合計では軽く2百万人を超えています。さすがに失業率は5%でほぼ完全雇用水準に達したようで、ここからさらに低下するには時間がかかる可能性が高いと私は考えていますが、誰がどう見ても米国雇用は実に堅調であり、米国連邦準備制度理事会(FED)が今月15-16日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げに踏み切るのは間違いないと私は受け止めています。12月2日のイエレン議長の講演と昨日発表されたこの米国雇用統計とを合わせて見る限り、多くのエコノミストも同じように考えていると私は理解しています。

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また、日本やユーロ圏欧州の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。サブプライム・バブル崩壊前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、まずまず、コンスタントに+2%のラインを上回って安定して推移していると受け止めており、少なくとも、底割れしてかつての日本や欧州ユーロ圏諸国のようにゼロやマイナスをつけてデフレに陥る可能性は小さそうに見えます。

今月に入って、友人であるシンクタンクのエコノミストととても非公式に意見を交わす機会がありました。12月中の米国の利上げはほぼ市場でも織り込まれつつある一方で、日本経済への影響は限定的と見ているエコノミストが多いものの、私もそれなりに注目しています。

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2015年12月 4日 (金)

いずれも改善を示す消費者態度指数と毎月勤労統計から何が読み取れるか?

本日、内閣府から11月の消費者態度指数が、また、厚生労働省から10月の毎月勤労統計が、それぞれ公表されています。消費者態度指数は前月から+1.1ポイント上昇して42.6を示し、毎月勤労統計の現金給与総額は季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比+0.7%増、うち所定内給与も+0.1%増となり、また、景気に敏感に反応する製造業の所定外労働時間は季節調整済みの系列で前月比+0.4%増を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の消費者態度指数、1.1ポイント上昇 基調判断上げ
内閣府が4日発表した11月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比1.1ポイント上昇の42.6だった。株式相場が上昇したほか、ガソリンや生鮮野菜などの値下がりが寄与した。内閣府は消費者心理の基調判断を「足踏みがみられる」から「持ち直しの動きがみられる」に引き上げた。
「暮らし向き」や「収入の増え方」など4つの意識指標が2カ月連続で全て上昇した。基調判断の上方修正は3月以来、8カ月ぶり。
意識指標では「暮らし向き」と「耐久消費財の買い時判断」がそれぞれ1.3ポイント上昇した。「収入の増え方」も1.1ポイント上昇した。
1年後の物価見通しについて「上昇する」と答えた割合(原数値)は前月から1.1ポイント上昇し、82.1だった。
調査基準日は11月15日。全国8400世帯が対象で、有効回答数は5572世帯(回答率は66.3%)だった。
10月実質賃金、0.4%増 4カ月連続増 毎勤統計 残業代など伸びる
厚生労働省が4日発表した10月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、現金給与総額から物価変動の影響を除いた実質賃金指数は0.4%増だった。残業代などの各項目が伸び、4カ月連続で増加した。
従業員1人当たり平均の現金給与総額(名目賃金)は前年同月比0.7%増の26万6309円だった。増加は4カ月連続。
基本給や家族手当にあたる所定内給与は0.1%増の23万9640円だった。ベースアップ(ベア)により8カ月連続で増えているが、伸び率は緩やかだ。厚労省は平日が昨年より1日少なかったことで、時給制で働くパートタイム労働者の所定内給与が0.4%減となったことが響いたとしている。パートでない一般の労働者は0.1%増だった。
一方、ボーナスにあたる特別給与は23.9%増の6810円。残業代など所定外給与は1.2%増の1万9859円だった。比較的規模の大きい企業で労働時間が増えたことが要因。厚労省は「賃金は名目、実質ともに伸びており、各項目でも増えている」とし「賃金は緩やかに増加している」という。

いつもながら、簡潔によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、消費者態度指数のグラフは以下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、次の毎月勤労統計とも共通して、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。

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今年春先の3-4月くらいから消費者態度指数はややジグザグな動きを示しつつ、ほぼ横ばいの圏内で推移していたように私は見ていましたが、11月指数では少し上向き基調が読み取れる水準まで達したような気がします。もっとも、マインドを調査したソフトデータですので、何かの拍子に大きくスイングする可能性もあり、ハードデータに裏付けられた足元の景気も回復しているように見えても、その動向は極めて緩やかな回復ですから、消費者マインドの先行きに関しては何とも見通しがたいところです。なお、11月の消費者態度指数を詳しくコンポーネントごとに前月差で見ると、「暮らし向き」が+1.3ポイント上昇し40.9、「耐久消費財の買い時判断」が+1.3ポイント上昇し41.6、「収入の増え方」が+1.1ポイント上昇し41.1、「雇用環境」が+0.8ポイント上昇し46.7をそれぞれ記録し、すべての消費者態度指数の構成項目がそれなりの幅で前月からプラスを示しています。しかも2か月連続です。従って、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では消費者心理の基調判断を従来の「足踏み」から「持ち直しの動き」に上方修正しています。ただし、繰り返しになりますが、このまま1本調子で消費者心理が上向くかどうかについては、現時点では私は確信は持てません。いくぶんなりとも12月のボーナスにも影響されそうな気もします。しかも、次に取り上げる毎月勤労統計のボーナス統計が信頼性低くみなされているので、多くのエコノミストは戸惑っていたりします。

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次に、毎月勤労統計のグラフは上の通りです。順に、上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、まん中のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与の季節調整していない原系列の前年同月比を、下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の前年同月比伸び率である就業形態別の雇用の推移を、それぞれプロットしています。いずれも影をつけた期間は景気後退期です。まず、上の所定外労働時間の動きについて、月曜日に公表された鉱工業生産指数の季節調整済みの前月比は+1.4%増でしたから、所定外労働時間が前月比でプラスを記録したのと整合的なんですが、+0.4%増はやや幅が小さい気もしないでもありません。下のパネルの賃金の動向については、特に、太線の所定内賃金の前年同月比は緩やかながら徐々に上昇幅を拡大しており、6月の現金給与総額が所定外給与の変動によって一時大きく落ち込んだ要因はいまだに不明ながら、いわゆる恒常所得部分である所定内賃金は着実に増加を示しています。人手不足から労働力確保のためにベアの実施をはじめとする雇用条件の改善が進む方向にあるといえます。ただし、7-9月期がほぼゼロ成長と見込まれ、足元の10-12月期の景気も回復がかなり緩やかになっている中で、量的及び質的に急激な雇用の改善が進行するとは私は考えていませんが、少なくとも、量的にはほぼ完全雇用となっている中で雇用の増加の足取りは落ち着きを見せる可能性が高い一方で、下のパネルに見えるように、まだパートタイム労働者の伸びの方が高いものの、フルタイムも伸びを高めつつあり、質的には賃金上昇や正規雇用の増加などが徐々に進む方向にあるものと期待しています。

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2015年12月 3日 (木)

来週火曜日12月8日に公表されるGDP統計2次QEの予想やいかに?

来週火曜日の12月8日に今年2015年7-9月期GDP速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。一昨日の法人企業統計をはじめとして、必要な経済指標がほぼ明らかにされ、シンクタンクや金融機関などから2次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、先行きの今年10-12月期以降を重視して拾おうとしています。しかしながら、明示的に取り上げているシンクタンクはみずほ総研だけでした。長めに引用してあります。何分、2次QEですので法人企業統計のリポートの「オマケ」で取り上げられている場合もあり、数字を示すだけでアッサリと終っているものも少なくありません。なお、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE▲0.2%
(▲0.8%)
n.a.
日本総研▲0.1%
(▲0.4%)
2015年7-9月期の実質GDP(2次QE)は、在庫投資、公共投資がそれぞれ小幅下方修正される一方、設備投資は上方修正に。その結果、成長率は前期比年率▲0.4%(前期比▲0.1%)と1次QE(前期比年率▲0.8%、前期比▲0.2%)から上方修正される見込み。
大和総研▲0.0%
(▲0.2%)
一次速報から上方修正されるとみている。公共投資、在庫投資が下方修正される一方、設備投資の上方修正が全体を押し上げる公算だ。一次QE 段階と比較し、在庫調整の一層の進展が示されるだけでなく、設備投資が持ち直しの動きに向かった姿が確認できることから、ヘッドライン以上に内容の改善が期待できる。
みずほ総研+0.1%
(+0.2%)
今後の景気については、依然不透明感は高いものの、緩やかな回復基調に復するとみている。人手不足の高まりなどを背景に雇用者所得が堅調に推移していることから、個人消費は緩やかな持ち直しが続くと予想している。欧米を中心に海外経済の回復基調が維持される中で、輸出の回復も続くだろう。設備投資は、先行指標である機械受注がこのところ弱含んでいることから、一旦減速する可能性があるものの、堅調な企業業績に支えられて、徐々に更新投資などが増加していく見込みである。ただし、在庫については、7-9月期に削減の動きがみられたが、まだ水準自体は高いため、引き続き景気回復の重石となる可能性が高い。
ニッセイ基礎研▲0.0%
(▲0.1%)
12/8公表予定の15年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲0.0%(前期比年率▲0.1%)となり、1次速報の前期比▲0.2%(前期比年率▲0.8%)から上方修正されると予測する。
第一生命経済研▲0.0%
(▲0.1%)
1次速報では、設備投資の減少がもっともネガティブに評価されていたが、2次速報でプラスに上方修正されることで、懸念がやや和らぐ形になる。前向きに受け止めて良い結果だろう。もっとも、GDPは4-6月期のマイナス成長の後にもかかわらず、7-9月期もほぼゼロ成長にとどまるわけで、15年度前半の景気が停滞していたという評価が変わるわけではないことに注意が必要である。
伊藤忠経済研+0.0%
(+0.1%)
2四半期連続のマイナス成長は回避されたが、需要の回復力は総じて弱く景気は停滞感の残る状況。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+0.0%
(+0.1%)
実質GDP成長率が、1次速報の前期比マイナス0.8%から同プラス0.1%へと上方修正されると予想する。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.1%
(+0.5%)
2015年7-9月期の実質GDP成長率(2次速報値)は前期比+0.1%と予想され、1次速報値の同-0.2%から上方修正される見込みである(年率換算値では-0.8%から+0.5%に上方修正)。プラス成長に転じたとしても小幅であり、引き続き景気がと横ばい圏内にとどまっているとの評価に変更はない。
三菱総研+0.1%
(+0.4%)
2015年7-9月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.1%(年率+0.4%)と、1次速報値(同▲0.2%(年率▲0.8%))から上方修正を予測する。

見れば明らかなんですが、2次QEは1次QEの前期比▲0.2%のマイナス成長から上方修正されて、ほぼゼロ近傍の成長率を示すんではないかと予想されています。私はマイナス成長は1次QEから変わりないと見込んでおり、仕上がりベースとして、大和総研、ニッセイ基礎研、第一生命経済研などの予想に親近感を覚えています。この2次QEの評価はやや難しいと私は考えており、1次QEでは前期比マイナスだった設備投資が上方修正されてプラスに転じるとか、在庫調整が進むとかは前向きに評価すべきとは思いますが、他方、2四半期連続のマイナス成長を記録してテクニカルな景気後退と判定される可能性も決して小さくはありませんし、たとえプラス成長でもゼロ近傍に変わりなく、成長率の仕上がりとしては冴えない数字であることも確かです。しかも、足元の10-12月期も力強くV字回復しているようにはとても見えません。引き続き、景気は回復しているとしてもそのテンポは緩やかであり、ほぼ横ばい圏内の動きと考えたほうがよさそうです。
下のグラフはみずほ総研のリポートから引用しています。

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2015年12月 2日 (水)

ピュー・リサーチによる表現の自由に関する国際世論調査の結果やいかに?

とても旧聞に属する話題かもしれませんが、私がよく参照している世論調査機関ピュー・リサーチ・センターから2週間ほど前の11月18日に Global Support for Principle of Free Expression, but Opposition to Some Forms of Speech と題して言論の自由に関する世論調査結果が公表されています。もちろん、pdfによる全文リポートもアップされています。特に何かがあるというわけでもないんでしょうが、それなりに重要な内容にかかわるリポートですので、図表を引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、ピュー・リサーチのサイトから Americans, Europeans and Latin Americans Most Supportive of Free Expression と題する色分け地図を引用すると上の通りです。この世論調査から作成された(0,8)スケールのインデックスによる表現の自由に対する支持の傾向を表しており、緑色の色が濃いほど表現の自由を支持しており、逆に、オレンジ色が濃いほど支持していない、ということになります。なお、白地のまま、というか、無色で壁紙の格子が透けている国は調査の対象外です。タイトル通り、中南米を含む欧米では表現の自由に対して支持に傾きがあり、アジアなどでは豪州などの例外を除いてそれほど強く支持していない、という結果になっています。日本もインデックス中央の4より低い値となっているのが見て取れます。なお、引用はしませんが、インターネットにおけるひょうげの自由についても日本はそれほど支持していない、という結果が示されています。

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続いて、上のテーブルはピュー・リサーチのサイトから Broad Support for Fundamental Democratic Principles を引用しています。宗教実践の自由、男女同権、複数政党による自由な選挙、事前検閲なしに国民が自由に意見を表明し、また、報道機関がニュースを報じ、国民がインターネットを利用できる、といった基本的な民主的原則に対する重要性について問うた結果です。日本で気になる結果は宗教実践の自由の重要性が極めて低い点です。逆に、宗教実践の自由は重要ではなく、制限されるべきである、という風にも解釈できますが、私から見て、どうも、「実践」practice に引っかかっているような気がして、20年前のオウム真理教の影響が現れているのかもしれません。「実践」practice がなく、単なる信教の自由であれば、もっと高いスコアだった可能性を指摘しておきたいと思います。ただ、その他の点についても、日本は必ずしもここに上がられている自由を重視していない、と国民が感じている可能性は十分あります。

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最後に、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Support for Media Coverage of Political Protests と Support for Media Coverage of Economically Destabilizing Issues と Opposition to Media Coverage of Sensitive National Security Issues の3つのグラフを縦につなげてあります。上から順に、メディアは、政治的抗議活動を報道する自由があるか、経済的不安定を引き起こす問題を報じる自由があるか、機微に触れる国家安全保障の問題を報じる自由があるか、の3点であり、国別に結果を示してあります。世界全体での合計はこの順でメディアの報道の自由に対する支持が高くなります。これらの観点からも、大雑把な傾向は変わらず、中南米を含む欧米ではメディアの報道の自由を高く支持し、アジアでは豪州を例外としてメディアの報道の自由への支持はそれほど高くなく、アフリカではアジアと同等もしくは少し支持が高い、といった結果となっています。我が国はメディアの報道に関してもアジアのほぼ中位に位置しているように見受けられます。

最初の地図でインプリシットにお示しした通り、また、軽く想像される通り、中国はこの調査の対象外となっています。あくまで私の勝手な想像ですが、おそらく、中国が調査対象となっていたとい仮定すれば、アジアの表現の自由への支持はさらに低下していたんではないかと考えられます。そうなれば、我が国はアジアの中位から少し欧米並みに近づいていた可能性もあったりします。特に根拠なく、経済評論の日記に分類しておきます。

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2015年12月 1日 (火)

今年の新語流行語大賞は「爆買い」と「トリプルスリー」

本日、今年の新語流行語大賞の大賞とトップテンが発表されています。
新語流行語大賞は「爆買い」と「トリプルスリー」で、トップテンは以下の通りでした。私ごときから解説の必要はないと思います。

アベ政治を許さない / 安心して下さい、穿いてますよ。 / 一億総活躍社会 / エンブレム / 五郎丸 (ポーズ) / SEALDs / ドローン / まいにち、修造!

どうでもいいことですが、さ来週に国際会議でプレゼンをする関係で少し調べたところ、「一億総活躍社会」というのは英語で、"Dynamic Engagement of All Citizens" というようです。何らご参考まで。

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法人企業統計の設備投資は先行きの増加を示しているか?

本日、財務省から7-9月期の法人企業統計が公表されています。季節調整していない原系列のベースで統計のヘッドラインを見ると、売上高は前年同期比+0.1%増の328兆2391億円、経常利益は製造業は減益ながら非製造業で大きく増加し+9.0%増の15兆2172億円、設備投資は+11.2%増の10兆4937億円を、それぞれ記録しており、収益をはじめとする堅調な企業活動がうかがえます。また、設備投資は季節調整済みの系列で前期4-6月期から+5.4%の増加を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

設備投資、前年比11.2%増 7-9月法人企業統計
財務省が1日発表した2015年7-9月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比11.2%増の10兆4937億円と、10四半期連続で増えた。自動車の増産投資などで伸び率は4-6月期(5.6%増)を上回り、設備投資の勢いが加速。7-9月期の設備投資額としてはリーマン・ショック後の最高となり、前年比の伸び率は07年1-3月期以来の高水準だった。
産業別の設備投資の動向は、製造業が12.6%増と5四半期連続で伸びた。非製造業は10.4%増で10四半期連続のプラス。新型車や自動車向け電子部品の増産投資、スマートフォン(スマホ)関連の投資などがけん引した。
国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となる「ソフトウエアを除く全産業」の設備投資額は、季節調整済みの前期比で5.4%増えた。4-6月期(前期比2.7%減)から2四半期ぶりのプラスに転じた。
経常利益は前年同期と比べ9.0%増の15兆2172億円だった。北米中心に自動車販売が好調で、円安効果も寄与。小売業では訪日客の需要増も利益を押し上げ、7-9月期としては過去最高だった。一方、季節調整済みの前期比では6.3%減り、消費増税後の14年4-6月期(6.6%減)以来のマイナス幅だった。原油安による製品価格の低下などで石油・石炭業が不調だった。供給過剰の影響が続く鉄鋼業も振るわなかった。
全産業の売上高は前年同期比0.1%増の328兆2391億円だった。製造業は微減だったが、非製造業(0.1%増)は10四半期連続で伸びた。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や投資動向を集計。今回の15年7-9月期の結果は、内閣府が8日発表する同期間のGDP改定値に反映される。

かなり長いんですが、よくまとまった記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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法人企業統計のヘッドラインを示すいくつかの指標のうち、季節調整済みの系列の経常利益こそ前期比でマイナスをつけましたが、売上げ、利益、設備投資などの中心となる指標はいずれも堅調な企業活動を示しているものと受け止めています。季節調整済みの系列の経常収支も前期比で減少したとはいうものの、水準で見ると前期の4-6月期に次いで過去2番目の大きさです。また、季節調整済みの系列が公表されていないのでグラフにはしていませんが、季節調整していない原系列の在庫投資については、製造業と非製造業を合わせて4-6月期に3兆4305億円積み上がったのに対し、7-9月期には▲3815億円の在庫取り崩しがあって、積み上がりに比べて取り崩しのペースが緩やかながら、ある程度は在庫調整が進んでいることが伺えます。
特に下のパネルの設備投資について企業の資本金規模別に詳しく見ると、季節調整済みの系列は公表されていないながら、今年に入って原系列の設備投資額の前年同期比を資本金規模別で比べと、いずれもプラスで伸びているところ、すべての四半期において資本金1000万円から1億円の企業の伸びがもっとも高く、次いで1億円から10億円、そして、資本金10億円以上の企業の設備投資の伸びがもっとも小さくなっています。人手不足に対応した設備投資が進んでいるのではないかと想像させるに十分な結果ではないかと思います。ただし、今後の設備投資がこのまま増加に向かうかというと少し疑問が残ります。というのは、先月公表された機械受注で7-9月期が前期比▲10%減を記録しており、先行指標の機械受注と設備投資と投資計画の3つに整合性がないからです。機械受注に何らかの漏れがあるとすれば、投資計画と設備投資の増加は整合的ですが、ソフトデータに近い投資計画がこの先で下方修正されるとすれば、そして、それをハードデータで機械受注が裏付けているのであれば、設備投資は増加しないシナリオもあり得ます。法人企業統計の統計としての信頼性の問題とも併せて、現時点で確たる方向性は見出せません。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出しています。このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。いずれも、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下しました。また、最初にお示ししたグラフでは季節調整済みの設備投資はこの7-9月期にやや増加したものの、キャッシュフローとの比率で見れば設備投資は50%台後半で停滞が続いています。これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。雇用の量的な増加や質的な改善のひとつである賃上げ、もちろん、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないかと私は期待しています。

最後に、これらの法人企業統計を大雑把に見て、来週11月8日公表予定の7-9月期GDP統計の2次QEでは設備投資が素直に上方修正されるものと予想しています。近く、2次QE予想がシンクタンクなどから出そろったら、日を改めて取り上げたいと思います。

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