貿易黒字は定着するか?
本日、財務省から2月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない現系列のデータで前年同月比▲4.0%減の5兆7034億円、輸入額は▲14.2%減の5兆4606億円、差し引き貿易収支は+2428億円の黒字を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
2月の貿易収支、2カ月ぶり黒字 2428億円 輸出5カ月連続減
財務省が17日発表した2月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2428億円の黒字(前年同月は4260億円の赤字)だった。円安効果がなくなり、輸出額の減少が続いた一方、原油安の影響で輸入額も減った。貿易黒字は2カ月ぶり。QUICKがまとめた市場予想(3871億円の黒字)より黒字幅は少なかった。
輸出額は前年同月比4.0%減の5兆7034億円と、5カ月連続で減った台湾向けの鉄鋼半製品や、中国向けの液晶デバイスなどの輸出額が減少した。円相場が2月平均で1ドル=117.36円と、前年同月比で3年7カ月ぶりの円高に転じたことも重荷となった。財務省は為替相場が貿易収支に与える影響について「輸入の方が外貨建ての比率が高く、為替変動時は輸入額の変化が大きくなりやすい」と説明している。
対中輸出額は7カ月ぶりに増加した。今年は春節(旧正月)が昨年より早かった影響で、アジア向けの輸出を手控える動きが1月からあった。中国の景気減速の影響が薄れたかは「季節的な要因もあり、一概には言えない」(財務省)という。中国向けの輸出数量指数は15.6%上昇。低下傾向にあった対世界の同指数も0.2%上がった。
輸入額は14.2%減の5兆4606億円だった。減少は14カ月連続。原油安の影響が続き、カタールの液化天然ガス(LNG)やサウジアラビアの原粗油などの輸入額が減った。一方、医薬品は輸入額の増勢が続き、欧州連合(EU)からの輸入額は2月として過去最大だった。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
上のグラフを見れば明らかな通り、最近数か月では輸出も輸入も減少傾向にあって、その差額として貿易赤字が解消しつつある、というか、少なくとも季節調整済みの系列では昨年2015年11月に黒字転換してから、4か月連続の貿易黒字を記録し、徐々に黒字幅が拡大している印象です。しかし、現状では国際商品市況における石油価格の下落に伴って、いわば、カッコ付きの貿易の「縮小均衡」が生じている段階であり、この先、輸入サイドに影響を及ぼす国際商品市況の動きは見通しがたいものの、輸出サイドでは輸出先の景気回復が見込める段階に達しつつあるように感じています。
その輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同期比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、輸出先での景気回復の動きについては、米国経済は連邦準備制度理事会(FED)が量的緩和を終えて利上げを開始する段階まで回復していますし、特に、米国の家計部門は雇用統計に表れているように底堅い動きとなっています。欧州についても緩和的な金融政策の下で持ち直しの動きも出始めています。また、中国でも預金準備率引き下げや利下げなどによる実体経済の底上げが確認され始めていますし、我が国から中国への輸出に関しては、1-2月は春節によるややイレギュラーな動きを示しているものの、上のグラフのうちの一番下のパネルに見られる通り、OECD先行指数でもそろそろ底を打った気配が感じられます。ただし、、年明け以降の金融市場を見れば明らかな通り、為替動向や株安などから一直線に輸出の増加や、ましてや、景気回復が望める段階にはなく、相応の時間を要する可能性が高いのではないかと受け止めています。
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