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2016年8月31日 (水)

前月から横ばいを示した鉱工業生産指数をどう見るか?

本日、経済産業省から7月の鉱工業生産指数(IIP)が公表されています。季節調整済みの系列で見て、生産は前月から変わらずの横ばいでした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、7月は横ばい 市場予想下回る 自動車は好調
経済産業省が31日発表した7月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月から横ばいの96.9だった。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(0.8%上昇)を下回った。自動車やスマートフォン向け電子部品などで生産が伸びた一方、洗顔クリームや数値制御ロボットなどが振るわなかった。
経産省は生産の基調判断は「一進一退だが、一部に持ち直し」に据え置いた。業種別では15業種のうち6業種が上昇し、9業種が低下した。輸送機械が1.2%上昇と3カ月連続で伸びたほか、電子部品・デバイスも1.5%上昇した。制御ロボットなどのはん用・生産用・業務用機械は0.7%低下した。
出荷指数は0.9%上昇の96.0と伸び、在庫指数は2.4%低下の111.2となった。在庫率指数は0.9%上昇の117.1だった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では8月の予測指数は4.1%上昇、9月は0.7%低下となった。ただ、8月分を押し上げているはん用・生産用・業務用機械や情報通信機械は予測から実績が大きく下振れする傾向にあり、経産省では8月の生産は0.1%程度の上昇にとどまると試算している。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。それにしても、統計をこれだけ引用すると長くなります。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

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日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは生産の前月比で+0.8%の増産でしたから、横ばいとの結果は少し下振れした気がしないでもありません。統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「生産は一進一退だが、一部に持ち直し」に据え置いています。また、製造工業生産予測調査では8月+4.1%の増産の後、9月は▲0.7%の減産を見込んでいます。もっとも、引用した記事の最後のパラにあるように、実績はこの製造工業生産予測調査を下回るケースが少なくないので、先行き評価にはそれなりの注意が必要です。ということで、7月の生産は出荷が増加したにもかかわらず横ばいにとどまり、少なくとも7月は在庫調整が進んだ、と私は認識しています。増産を記録した9業種は業種数としては減産の9業種を下回りますが、輸送機械工業+1.2%増、電子部品・デバイス工業+1.5%増、電気機械工業+1.6%増など、まさに我が国の主力業種が並んでいたりします。これらの産業が生産を下支えしており、財別では、耐久消費財と非耐久消費財が増加した一方で、生産財や資本財は減少を示しています。家計部門が好調というわけでもないんでしょうが、円高を受けて企業収益へのダメージがある企業部門がそれ以上に低空飛行ということなんだろうと私は受け止めています。

最後に、生産や輸出とも関連して、米国金利の引上げの影響については、必ずしも円安を通じた好影響だけではないと私は考えています。すなわち、米国金利引上げから円安に振れて、製造業の輸出が伸びて生産増、というルートはもちろん有力なんですが、他方、米国の利上げは新興国からの資金流出を促進する可能性もあり、金融市場を通じて不安定要素となる可能性も否定できません。内外経済について幅広く注視する必要があります。

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2016年8月30日 (火)

過熱感を示す雇用統計とそろそろ下げ止まりつつある商業販売統計!

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、経済産業省の商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも7月の統計です。失業率は先月から▲0.1%ポイント低下して3.0%を、また、有効求人倍率は先月と変わらず1.37倍を、それぞれ記録し、商業販売統計のうち小売業販売額は季節調整していない統計の前年同月比で▲0.2%減の12兆30億円を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

完全失業率、7月は3.0% 21年ぶり低水準 前月比0.1%低下
総務省が30日発表した7月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は3.0%と、前の月に比べて0.1ポイント低下した。1995年5月(3.0%)以来、21年2カ月ぶりの低水準となった。QUICKがまとめた市場予想は3.1%だった。人手不足を背景に労働需給が引き締まった状況が続いている。総務省は雇用動向について「引き続き改善傾向で推移している」と分析した。
完全失業率を男女別でみると、女性が2.7%と前月比0.3ポイント低下し、93年9月(2.7%)以来、22年10カ月ぶりの低水準となった。男性は前の月と同じ3.2%だった。
完全失業者(季節調整値)は、前の月に比べて7万人減の201万人。勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は1万人減、「自発的な離職」も1万人減った。
就業者数(同)は6476万人と前の月から20万人増加。雇用者数は11万人増の5727万人だった。
有効求人倍率、7月は1.37倍 前月比横ばい 新規求人倍率2.01倍
厚生労働省が30日発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)は前の月から横ばいの1.37倍だった。QUICKが事前にまとめた市場予想(1.37倍)と一致した。前の月に続いて1991年8月(1.40倍)以来の高水準となった。企業の求人が伸びる一方で求職者数も増えた。産業別では、訪日外国人の恩恵を受ける宿泊・飲食サービス業や教育・学習支援事業などの求人が伸びた。
雇用の先行指標とされる新規求人倍率は前月に比べて横ばいの2.01倍だった。正社員の有効求人倍率も0.88倍と前月と同水準だった。就業地別の有効求人倍率は4カ月連続で全都道府県で1倍を上回った。
7月の小売業販売、前年比0.2%減 家電好調で前月比は1.4%増
経済産業省が30日発表した7月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比0.2%減の12兆30億円だった。原油安の影響で5カ月連続で前年を下回ったが、季節調整した前月比では1.4%増加。経産省は前月比の伸びを受け、小売業の基調判断を「一部に弱さがみられるものの横ばい圏」と、「弱含み傾向」から引き上げた。
7月は洗濯機や冷蔵庫などの白物家電が伸びた。リオデジャネイロ五輪の開催を控えて薄型テレビなどの販売も好調だった。
大型小売店の販売額は百貨店とスーパーの合計で前年比0.9%増の1兆7210億円だった。スーパーは主力の飲食料品の販売が堅調で1.6%増加した。百貨店は訪日外国人による高額商品の購入が落ち込んで0.4%減少した。
コンビニエンスストアの販売額は3.8%増の1兆416億円だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。それにしても、統計をこれだけ引用すると長くなります。続いて、雇用統計については、下のグラフの通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、商業販売統計とも共通して影を付けた部分は景気後退期です。

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労働市場はかなり過熱に近い状態を示し始めています。就業者や雇用者が増加し、失業者は減少し、当然の帰結として失業率が低下しています。有効求人倍率は前月と同じでしたが、先行指標と見なされている新規求人はさらに増加していますので、先行きもしばらくは労働市場はタイトな状態が続くものを考えるべきです。引用した報道にもある通り、全都道府県で有効求人倍率は1倍を超え、産業別地域別で幅広い人手不足が見られるようです。おそらく、雇用はほぼ完全雇用の水準に張り付いており、今後は量的な改善から質的な雇用の改善に進む段階であろうと私は認識していますが、何度かこのブログでも指摘している通り、雇用の質的改善は賃金の上昇よりは正規雇用の増加に現れる可能性があります。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。消費にリンクする小売販売額は季節調整していない原系列では前年同月比▲0.2%減とマイナスをつけましたが、季節調整済みの系列の前月比では7月は+1.4%と増加しています。上のグラフでもほぼ最悪期を脱しつつあるのが読み取れると思います。最近時点でいくつか台風が関東から東北に上陸したりしましたが、先月7月は天候要因もよく、客足が伸びたともいわれています。引用した記事にもある通り、家電製品が伸びた結果が含まれており、統計作成官庁である経済産業省でも、基調判断を「弱含み」から「横ばい圏」に上方修正しています。所得とマインドの動向から、消費もそろそろ底を打つんではないかと私は期待しています。

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2016年8月29日 (月)

若年労働者の収入に影響するのか学歴か、それとも、雇用形態か?

やや旧聞に属する話題ですが、ちょうど1週間前の8月22日にニッセイ基礎研から「学歴別に見た若年労働者の雇用形態と年収」と題するリポートが明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まずは、ニッセイ基礎研のサイトからリポートの要旨を6点引用すると以下の通りです。

要旨
  • 本稿では、若年労働者の雇用形態や年収の状況について、学歴別に詳しく見る中で、特に、「大学卒」や「大学院修了」の非正規雇用者に注目する。
  • 1990年代より大学進学率が上昇し、現在、男女約半数が大学へ進学するが、同時期に非正規雇用者も増え、大学卒の2割、大学院修了の約1割が不本意な理由で非正規雇用者として働いている。
  • 平均年収は、性・年代・雇用形態が同じであれば高学歴ほど多い。また、同じ学歴であれば非正規雇用者より正規雇用者の方が年収は多い。年収300万円という区切りで見ると、非正規雇用者の男性は中学卒や高校卒の全ての年代、高専・短大卒の40-44歳まで、大学・大学院卒の25-29歳までは300万円を下回る。
  • 非正規雇用者の男性で大学・大学院卒では、30-34歳以上で年収300万円、40-44歳以上でおおむね400万円を上回るが、同年代の中学卒や高校卒の正規雇用者の男性の年収を下回る。非正規雇用者の男性で大学・大学院卒の30代以上では年収の平均値は300万円を超えるが、300万円未満層は約4割で、決して少なくない。
  • 現在の労働者の年収は、学歴よりも、正規雇用者か非正規雇用者かの影響の方が大きく、その状況は男性で顕著。近年の日本社会では、学校卒業時の就職環境に恵まれるか否かが、将来の経済状況や家族形成の可能性に大きな影響を与え、大学を卒業しても必ずしも安定した仕事に就ける時代ではない。
  • 将来を担う世代における学校卒業時の労働環境に起因する不公平感は是正されるべきであり、「同一労働同一賃金」の実現や「最低賃金の引き上げ」などの議論を通じて、若年非正規雇用者の待遇改善が進み、受けてきた教育を十分に活かせるような労働環境を望みたい。

そもそもリポートが数ページのボリュームで、その上、ここまで【要旨】が詳細に及べば、もはやこのブログで論じるのも残り少ない気がしますが、このリポートでは、上の要旨の4番目にある通り、若年層における経済的格差について、原因は学歴ではなく、雇用形態、すなわち、正規雇用か非正規雇用かにある、と結論しています。直観的にはそうなんだろうと私も同意します。ただ、出来れば、もう少しフォーマルな定量分析が欲しかった気がします。お忙しいシンクタンクのリサーチャーには、私がミンサー型の賃金関数でやったような統計の個票を用いた定量分析はムリそうな気もしますが、もう少し説得力ある議論を展開する必要があります。それから、本リポートでは短期ないし中期くらいの循環的な景気変動がある中で、景気がよくて正規職員採用の多い時期の卒業生と、そうでなく、景気が悪くて正規職員の採用の少ない時期の卒業生で不平等がある、という立論は、確かに正しい一方で、より長期に見て、本リポートのスコープを大きく超えそうな気もしますが、年金などの社会保障においては、また、雇用においても、生まれが早ければ早いほど得をするという意味で、大きな世代間不公平がある点は見逃すべきではありません。
下のグラフはニッセイ基礎研のリポートから (図表2) 若年労働者 (在学中を除く15-34歳) に占める正社員と正社員以外の割合 を引用しています。

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最後に、ニッセイ基礎研のリポートとは何の関係もなく、海外の話題を2つ。ひとつは、米国のいわゆるジャクソン・ホール会合でイエレン議長をはじめとして、米国連邦準備制度理事会(FED)幹部が利上げに対する強い意欲を示しています。なお、エコノミストの間でも時折誤解があるんですが、ジャクソン・ホールの「ホール」は Hall ではなく、Hole だったりします。米国利上げで円安が進んで、今日の東証株価指数は上げています。もうひとつは、TICAD です。通常は「アフリカ開発会議」と訳されているんですが、ナイロビで開催されていて昨日終了しました。かつて、私はこのブログの2008年5月27日付けの記事で、私自身は「タイキャッド」と読む一方で、その昔はハフィントン・ポストなどで「ティカッド」の表記も見かけたりしましたが、いずれにせよ、「アフリカ開発会議」の訳はピンときません。というのは、TICAD = Tokyo International Conference on African Development であり、最初の T は Tokyo ですから、日本の存在感を示すためにも「トーキョー」を含意する TICAD の方がいいような気がします。

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2016年8月28日 (日)

7回ウラ2点差でバントをさせる超変革野球でヤクルトに3タテ食らう!

  HE
ヤクルト000030000 391
阪  神100000000 172

まったく猛虎打線がつながらず、ヤクルトに3タテ食らうの巻でした。何度かノーアウトで出塁したんですが、塁を進めることすら出来ず、とうとう、7回には終盤で2点差にもかかわらず送りバントさせる超変革野球の頼もしさを実感させられました。この超変革野球ではAクラスは難しそうな気がします。それよりも、鳥谷選手をサードに起用するのは考えつかないんでしょうか。上本選手は多少は守備に目をつぶって起用しているんですから、エラーの責任は起用した監督が負うべきです。

中日戦は、
がんばれタイガース!

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In Case You Missed Us, New Century Jazz Quintet を聞く!

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とても久し振りにジャズを聞いたブログです。New Century Jazz Quintet のアルバム In Case You Missed Us を聞きました。ドラムスのユリシス・オーウェンズJrとピアノの大林武司を中心に結成されたコンボです。実は、このクインテットの最新アルバムは今年7月に出たばかりの Arise なんですが、まだ聞いていません。ということで、そのひとつ前の昨年6月リリースの本アルバムを取り上げておきます。まず、曲の構成は以下の通りです。

  • In Case You Missed It
  • Revolution
  • Swag Jazz
  • Upon Closer Look
  • Burden Hand
  • 風のとおり道
  • Uprising
  • View from Above
  • Naima
  • Light That Grew Amongst Us
  • Eleventh Hour
  • Love's in Need of Love Today

日米混成のグループですから、ジブリの曲を取り上げたりもしています。もちろん、4ビートで演奏しています。でも、私が感激したのはコルトレーンの名曲ナイーマです。ピアニストのハンク・ジョーンズなども取り上げているんですが、6/4拍子のアレンジもさることながら、ここまでアップテンポで演奏されたナイーマを私は知りません。ほかにも、高速、というか、軽快な曲が多くなかなかの仕上がりと見ました。

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2016年8月27日 (土)

石川投手の150勝に花を添えてヤクルトに連敗!

  HE
ヤクルト200003000 551
阪  神001000010 261

昨日今日と満塁ホームランやスリーランが重くのしかかり、石川投手の150勝に花を添えてヤクルトに連敗でした。打線が湿りがちで、ヤクルトを上回る6安打なんですが、ソロとスリーランの違いかもしれません。最終回の粘りが明日につながるか、どうか。

明日こそは、
がんばれタイガース!

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今週の読書はややペースダウンしつつそれでも計7冊プラスアルファ!

先週はとうとう9冊を読み飛ばしてしまい、少し反省していますが、今週も図書館の予約の巡りのよさか、悪さか、8冊借りてしまいました。以下の通りです。

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まず、トム・バージェス『喰い尽くされるアフリカ』(集英社) です。英語の原題は The Looting Machine であり、2015年の出版です。著者は日経新聞に買収された英国フィナンシャル・タイムズのアフリカ特派員をしているジャーナリストです。上の表紙を見ても中身は歴然というべきなんでしょうが、100年以上も前のいわゆる帝国主義の時代においては、英国のインド支配が典型で、植民地から原材料を安く買いたたいて、工業国である先進国が製品化して、植民地はその製品市場として二重に収奪される、という構図がありました。そして、本書ではアフリカがまだその帝国主義時代の植民地支配の名残りを引きずっており、加えて、中国がかつての先進国に代わってアフリカの資源を収奪している姿を、豊富な取材や資料のチェックを通じて明らかにしようと試みています。そして、旧宗主国に代わって、現在では民族を代表する独裁者が君臨し、文明国家とも、ましてや、法治国家とも思えないような極めてブルータルな方法で石油や鉱物資源をはじめとする国家の富を私物化している姿が描き出されています。そして、そういった資源開発のためにインフラ整備などで、倫理も人権もイデオロギーもお構いなしに腐敗した独裁元首に手を貸す中国のあり方に疑問を呈しています。どうしても、ムガベに支配されるジンバブエはこの種の腐敗した独裁国家で上位にヒットしますから、ターゲットとして本書にも入っていますが、主として、アンゴラとナイジェリアを題材に議論が進められています。開発経済を専門分野のひとつとするエコノミストとして、私は極めて強い怒りを覚えるんですが、同時に、ここまで腐敗が進んだ独裁国家には開発経済学も手の施しようがないような気がします。本書でも、ジャーナリストらしく、取材で明らかになった事実を次々と羅列するものの、何をどうすれば解決に至るのか、アフリカが民主的な経済開発を進めることが出来るのか、処方箋は明らかにされておらず、ジャーナリストも、エコノミストも、こういった強烈な事例にはお手上げなのかもしれません。

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次に、清水勝彦『あなたの会社が理不尽な理由』(日経BP社) です。著者は経営コンサルタント出身で、現在は慶応ビジネス・スクールのM&Aなどを専門とする研究者であり、本書は日経ビジネスオンラインで提供されていた記事を基に出版されています。中身は経営の視点から、8章から成る第1部で書籍を、12章から成る第2部で論文を取り上げ、12冊の本と16編の論文の解説から構成されています。ということで、確証はかなり独立していて相互に関係が内向性となっていますが、私はどちらかというと第2部の論文篇の方が面白かったような気がします。というのも、第1部の書籍編では必ずしも学術的でない本も数多く取り上げられており、それを経営学的にどう読むか、という視点で解説されていて、第2部の学術論文の解説よりも、作者がややムリをしているように感じたからです。特に、第2部の最初の3章は秀逸で、第2部第1章は本書のタイトルそのままであり、第2章では正しいかどうかではなく、興味を持てるかどうかの重要性について、第3章の戦略についてもなかなかのモノでした。経済学も帝国主義的に各方面に進出して、決定の方法や選択理論などで幅広い活用を目指していますが、実学である経営学も同じことであり、会社経営だけでなく幅広い組織運営に適用される可能性があります。特に、私はスポーツ、中でも野球の監督と選手の関係や試合運びに対して、会社の経営者と社員、あるいは、企業経営と類似した観点を持ち込んで読んだりしましたので、本書も大いに楽しめました。エコノミストであって経営学については専門外の私でも聞いたことのある著名論文もたくさん取り上げられています。

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次に、東山彰良『罪の終わり』(新潮社) です。第11回中央公論文芸賞受賞作品であり、売れっ子作家の話題の小説です。私はこの作者の作品は、不勉強にして、直木賞受賞の『流』と『ブラック・ライダー』しか読んでおらず、しかもこの順番で読んだんですが、この『罪の終わり』は『ブラック・ライダー』の前日譚、ただし、100年ほどさかのぼる時代を舞台にした小説です。すなわち、2173年6月16日のいわゆる6.16のナイチンゲール小惑星の地球への衝突の少し前の次点であるナサニエル・ヘイレンが生まれる少し前から彼の生い立ち、そして、白聖書教会に抹殺されるまでを追っています。語り手はヘイレンを処置したネイサン・バラードです。と、ここまで書いただけで理解できるのは相当な東山ファンだという気もします。ナサニエル・ヘイデンの生涯を描き出した伝記、もちろん、黙示録的なSF超大作です。小惑星の地球衝突による近代的な生活や秩序や文明や崩壊という観点からは、核戦争と原因が異なるものの大友克洋の『AKIRA』と同じラインですし、人肉食という観点からは貴志祐介の『クリムゾンの迷宮』と通じる点があり、VB手術による身体能力の飛躍的な向上、極めて濃厚な宗教的色彩、などなど、とても大がかりな舞台装置を前にした壮大な小説です。ストーリーは壮大ですし、加えて、主人公のナサニエル・ヘイレン、語り手のネイサン・バラードは言うに及ばず、男性と女性の二重人格を併せ持つ怪人ダニー・レヴンワースをはじめ、右前足を欠いた三本肢犬のカールハインツまで、強烈な個性というかキャラが明確な登場人物で固めています。私はこの作品が出版される前に『ブラック・ライダー』を読んで感激し、『流』よりも高く評価したんですが、この作品が出版された今となっては、この『罪の終わり』と『ブラック・ライダー』をどの順で読むかに迷うかもしれません。出版順、というものアリでしょうし、作品の舞台の時代順、というのも、私はすでに不可能ですが、興味深そうな気もします。ただ1点だけ、『ブラック・ライダー』で大きくクローズ・アップされた存在で、「牛腹」の青年ジョアン・プスカドールがいましたが、このヒトとウシの遺伝子をかけ合わせた食用動物が、『罪の終わり』では最後の最後にお印ばかりに触れられただけというのは、私個人としては少し物足りないような気がしています。どうでもいいことながら、これくらいのスケールの小説であれば、舞台は日本ではなくて米国なんでしょうね、とついつい納得してしまいました。

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次に、近藤史恵『スーツケースの半分は』(祥伝社) です。私はこの作者の作品では、白石誓を主人公とする自転車レースの「サクリファイス」のシリーズが好きなんですが、『タルト・タタンの夢』で始まるビストロ・パ・マルのシリーズ、女性清掃作業員・キリコのシリーズなども愛読しており、ミステリではない本書のような作品はそれはそれで新鮮な気もします。ということで、青いスーツケースにまつわる連作短編9篇を収録しています。最初の4話は大学の同級生であるアラサーの女性4人を順繰りに主人公とし、フリマで青いスーツケースを買った女性がニューヨークに行き、彼女からスーツケースを借りた友人が香港、アブダビ、パリに旅行し、当然ながら、青いスーツケースが旅行のお供をします。そして、パリの旅先に留学生で滞在している女性を主人公にした第5話、スーツケースをフリマに出した母と子の家庭を舞台にした第6話、その家庭の子供が大学からドイツのシュトゥットガルトに交換留学に出る第7話、最初の大学時代の友人が南紀白浜に旅行に出る第8話、スーツケースの最初の持ち主の女性とその世話係を主人公にした第9話、の構成となります。基本的にいい人ばかりで、第3話アブダビ編で女性を置き去りにする男性とか、最終話でスーツケースの持ち主の恒例女性宅に盗みに入ろうとする男性とか、もちろん、けしからん人物が登場しないわけはないんですが、善意の人に囲まれたほのぼのとした心温まるストーリーが大きな部分を占めます。もちろん、スーツケースを持っての旅もテーマのひとつでしょうから、異国情緒をはじめとした知らない土地の紀行文もひとつの魅力かもしれません。本書の表紙の青いスーツケースがとても愛らしく描かれているんですが、まったくどうでもいいことながら、TSAロックは装着していない印象で、これではニューヨークには旅行できそうもない、と心配してしまいました。同じ作者のサクリファイス・シリーズ最新刊『スティグマータ』も図書館には予約を入れてあり、楽しみに待っています。

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次に、西垣通『ビッグデータと人工知能』(中公新書) です。著者は東大名誉教授であり、工学系の研究者から情報学などの分野も視野に修めた研究にも手を伸ばしているようです。本書では、カーツワイルの予言、すなわち、2045年に技術的特異点シンギュラリティが来るとか、このブログでも今年2016年1月7日付けの記事で取り上げた野村総研とオックスフォード大学の共同研究で多くの職が人工知能(AI)に奪われる、などの技術に関する将来予想について批判的に論じています。第1章と第2章のビッグデータやそれを扱うAIの進歩などの現状の紹介については、それなりに読ませる部分もあるんですが、第3章から方向性がおかしくなり始め、コミュニケーション論から、p.126で人間のコミュニケーションを指摘で柔軟な「共感作用」、人工知能の擬似コミュニケーションを司令的で定型的な「伝達作用」とするあたりまではともかく、日本と欧米でロボットの受容性に差がある点をユダヤ教-キリスト教的な一神教の宗教的な要素で論じたり、フランケンシュタインのような神の創りたもうたものではない生命を持ち出したりするあたりでも、おおよそビッグデータやAIとは関係のない観念論的な哲学に逃げ込んでいく姿勢が疑問です。加えて、日本では理系のIT専門家が技術屋として、文系の下請けに回って社会的地位が低い、などのp.165の分析などは、何を意図しているのか、私にはサッパリ判りません。そして、最終章では著者の従来からの主張である集団知に強引に結論を持って行き、ビッグデータと人工知能と集合知は三位一体(p.171)都の主張に落ち着き、さらに暗黙知にまで敷衍されます。まあ、前半1-2章だけをしっかり読むのも一案ですし、後半も眉に唾しつつ読み進むのも一案かもしれません。

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次に、岡本真一郎『悪意の心理学』(中公新書) です。著者はい社ではなく、人文科学系の心理学の研究者です。3年ほど前に同じ中公新書で『言語の社会心理学』と題する本を出版しています。ということで、本書はタイトル通りの中身を期待した私には少し肩透かしを食ったような気になりましたが、コミュニケーションの上で悪意の伝わり方を論じており、意識や意思として悪意がどのように生じるかを論じているわけではありません。ですから、嘘やヘイト・スピーチなどの方に関心がある向きにはいいような気がします。ただ、単純な嘘ではなく、いわゆるハッタリとか方便まで話題が広がっているわけではありません。ですから、悪意の伝わり方に着目し、いじめや差別、クレーマーやセクハラ、政治家の問題発言などにつながります。ただし、本書でもp.264などで認めているように、悪意がある発言と悪意がない発言をそれほど簡単に峻別できるわけではなく、ある種のコメディアンのギャグや最近では米国大統領選挙での特定の候補者の発言などを聞いている限り、ホントに真面目に考えて発言しているのか、単なるギャグで少しだけ不穏当な要素を加えているのか、私には理解できない場合もあります。また、本書ではp.113から京都人の「いけずな発言」というパートがありますが、その背後には明確な何らかの意図が隠されているのはいうまでもありません。そういったいわば「高等な悪意」のようなものをいかに真意を包み隠して発言すればいいのか、という思考様式や行動様式について、もう少し掘り下げた心理学的な分析が欲しかったような気がします。底流に悪意がありながら発言だけは身ぎれいにしておけばいい、と考えるのか、「臭いものにふた」ではなく、基から悪意を絶つ必要があるのか、本書は前者の立場で書かれていると解釈する読者もいそうな気がする一方で、ホントに社会的に意味あるのは後者ではないか、という気もしないでもありません。

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次に、ミステリー文学資料館[編]『電話ミステリー倶楽部』(光文社文庫) です。ありがちな電話に関するミステリを集めたアンソロジーです。トリックに電話が使われているというだけでなく、幅広く電話に関するミステリを集めています。しかも、最近のミステリ作品だけでなく、黒電話でダイヤルをジーコロと回していた時代から、プッシュホンになって短縮ダイヤルの設定が可能になった電話、さらに、私も初めて接した時には「画期的」と感激した留守電、もちろん、最後にはケータイ電話まで、長らくの時代を横断しての電話ミステリの集大成かもしれません。ただい、エラリー・クイーンの作品にあるような電話交換手を介しての通話は、さすがに出て来ません。冒頭には、江戸川乱歩と電話機のモノクロ写真も収録しています。題材としても、古典的ともいえる固定電話にかかってきた電話を受けるアリバイから、最近の世相を反映した携帯電話を使った振り込め詐欺にまつわる犯罪まで、これまた時代を横断して幅広く収録されています。また、収録されている短編作品は、鮎川哲也、泡坂妻夫、島田荘司、岡嶋二人、山村美紗などの定番というか、我が国の戦後ミステリを代表する作家たちです。400ページ余りとややボリュームがありますから、通勤電車での無聊を慰めるお相手にもピッタリかもしれません。もちろん、全部が全部そうではありませんが、本格に近いミステリも少なくなく、謎解きとしても十分に読み応えがあります。

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最後に、日本推理作家協会[編]『Question 謎解きの最高峰』(講談社文庫) です。短編ミステリ7篇を集めたアンソロジーです。しかしながら、何と、たった1編「現場の見取り図 大癋見警部の事件簿」を除いて、すべて既読でした。記憶力の悪さを反映して、結末までは覚えがなくて、それなりに楽しめたんですが、いい小説はアチコチに収録されているんだということを改めて実感しました。ちなみに、私が何度も読むはめになったタンペンミステリは何といっても鮎川哲也の「達也が嗤う」のような気がします。ということで、他に7冊もあるんですから、本書に関する読書感想文はパスします。

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2016年8月26日 (金)

ヤクルトに打ち負けて連勝ストップ!

  HE
ヤクルト004100000 5110
阪  神000030000 370

久し振りに甲子園に戻ったホームゲームでしたが、打ち負けてヤクルトに惜敗でした。試合を作ってきた岩崎投手が序盤に捕まり、特に、満塁ホームランが効果的でした。横浜球場で打ちまくった打線が、いつもながら、決定打が出ず、少し湿り気味かもしれません。それにしても、10時を過ぎる長時間の試合でした。

明日は、
がんばれタイガース!

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下落幅が拡大した消費者物価(CPI)から何を読み取るべきか?

本日、総務省統計局から7月の消費者物価指数(CPI)が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比は▲0.5%の下落を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7月の消費者物価指数、0.5%下落 下落幅3年4カ月ぶり大きさ
総務省が26日発表した7月の消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、値動きの大きな生鮮食品を除く総合が99.6と前年同月に比べて0.5%下落した。5カ月連続で前年実績を下回り、下落幅は2013年3月(0.5%下落)以来、3年4カ月ぶりの大きさ。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値は0.4%下落だった。原油価格の低迷を背景に電気代やガソリン代などが下落。新製品の端境期にあるスマートフォンの価格も落ち込んだ。
315の品目が上昇し、157が下落。横ばいは51品で、上昇品目の割合は60.2%だった。
生鮮食品を含む総合は99.6と前年同月比0.4%下落した。食料・エネルギーを除く「コアコア」の指数は100.3と0.3%上昇した。
東京都区部の8月のCPI(中旬速報値、15年=100)は、生鮮食品を除く総合が99.7と0.4%下落した。電気代やガソリン代の下落が影響した。
総務省は5年ごとにCPIの基準改定を実施している。今回の発表から、これまでの「2010年基準」から「2015年基準」に切り替わった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エベルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。なお、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。この丸めた指数の公表方法については、2010年基準から2015年基準に変更されても、総務省統計局発表の「利用上の注意」を見る限り、同じ方式で踏襲されているようです。

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先月6月のコアCPI上昇率が▲0.5%でしたから、またまたマイナス幅拡大した、と受け止められそうですが、本日の公表からCPIの基準年が2010年から2015年に改定されたため、ラスパイレス指数の上方バイアスが緩和されたことから、CPI上昇率はヘッドラインもコアもホンの少しだけ下振れています。もっとも、2015年の新基準でもコアCPI上昇率は6月▲0.4%から7月▲0.5%に下落幅が拡大しています。▲0.5%の下落に対する寄与は、上のグラフの4分類に従えば、エネルギーが大雑把に▲1%あり、これ以外はすべてプラスの寄与であり、食料が+0.3%、サービスが+0.2%で、コア財はほぼゼロです。5月にほぼ+0.2%の寄与があったコア財なんですが、6月には寄与を半減させて+0.1%、そして、とうとう、7月の寄与はほぼゼロとなりました。これを反映して、食料とエネルギーを除くコアコアCPI上昇率も、5月+0.6%、6月+0.5%が7月には+0.3%まで上昇幅を縮小させています。コアコアCPI喉とでは、食料価格が引き続き上昇を続けているものの、エネルギー価格下落は石油価格レベルではすでに底を打っているものの、いちぶにまだ波及過程を終えていない可能性もありますし、何といっても、物価押し下げの大きな要因は円高です。為替水準については私はまったく予想もつきませんが、来年早々にはプラスに転じると考えていたコアCPI上昇率についても、為替次第ではさらに長くマイナスが続く可能性もあります。

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最後に、上のグラフは新旧両基準、すなわち、2010年基準と2015年基準でのコアCPI上昇率の推移をプロットしています。赤が2015年の新基準ですが、ほぼ2010年基準と重なっており、ラスパイレス指数の特徴である基準改定に伴う下振れは大きくないと考えられます。控えめにいっても、2006年夏の基準改定の際の「CPIショック」のような差はないものと考えるべきです。

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2016年8月25日 (木)

上昇幅が拡大した企業向けサービス物価をどう見るか?

本日、日銀から7月の企業向けサービス価格指数(SPPI)が公表されています。ヘッドラインのい前年同月比上昇率は+0.4%と6月の+0.2%から上昇幅がわずかに拡大しています。なお、国際委運輸を除くコアSPPIの前年同月比上昇率も6月からやや拡大しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7月の企業向けサービス価格、0.4%上昇 広告が好調
日銀が25日発表した7月の企業向けサービス価格指数(2010年=100)は103.4と、前年同月比0.4%上昇した。伸び率は6月に比べ0.2ポイント拡大し、15年8月の0.6%以来の水準となった。内訳で見ると、テレビ広告は化粧品、清涼飲料、電気機器、軽自動車などの単価が上昇。大型スポーツ特別番組や新聞広告、インターネット広告への出稿も好調だった。
ソフトウエア開発は前年同期に金融関連の値上げがあった反動で下落したが「(あらゆる機器がネットにつながる) IoT 関連の受注環境は好調」(調査統計局)という。
宿泊サービスも下落した。「夏休みの値上げシーズンだが、首都圏のインバウンド需要がやや弱かった」(同)と説明。道路貨物輸送では前年に人件費の上昇した影響が一巡した。
全147品目のうち、上昇品目は57、下落品目は53で、上昇品目と下落品目の差は4で、3カ月ぶりにプラスに転じた。
企業向けサービス価格指数は運輸や通信、広告など企業間で取引されるサービスの価格水準を示す。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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繰り返しになりますが、企業向けサービス物価(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率が+0.4%、さらに、国際運輸を除くコアSPPI上昇率が+0.6%と、いずれも先月の統計から+0.2%ポイント上昇幅が拡大しています。引用した記事にもある通り、広告の寄与が大きくなっています。すなわち、前年同月比で見て、大類別の広告の上昇率は6月の+0.9%から7月は+3.2%に大きく上昇幅が拡大し、前月比でも+1.9%の上昇を示しています。引用した記事にはありませんが、私がエコノミスト仲間から漏れ聞くところによりますと、リオデジャネイロ・オリンピックの影響が大きいらしいです。そもそも、開会式が8月ですし、日本人選手団のメダル・ラッシュで湧いたのはオリンピック中盤以降だという気がしないでもないんですが、7月の段階から広告の単価が上がっていたことは理解できるところです。また、引用した記事にもある通り、大類別の情報通信の中で、インターネット付随サービスも6月の上昇率+2.9%に続いて7月も+5.4%と順調な上昇を示しています。IoT関連の需要が堅調な上に人手不足の影響も加わっているようです。いずれにせよ、基本的には、人手不足による人件費の影響がまだ続いている一方で、業界や地域によってはこれらが一巡した場合も見られます。また、インバウンド関連の需要も一服感があり、宿泊サービスなどへの影響は否定できません。従って、ひょっとしたら、リオデジャネイロ・オリンピックが開催されていた8月までは広告の単価が強含みのままで推移する可能性が高いんですが、オリンピックがいつまでも続くわけではありません。他方で、円高に伴う企業収益の低下は需給緩和を通じて全般的な企業間物価水準を引き下げる可能性が高いと考えるべきです。ですから、7月の上昇幅拡大は長続きするかどうか、私はやや疑問に感じています。

最後に、明日、総務省統計局から消費者物価指数(CPI)が公表されます。明日の公表からCPIの基準年が2015年に基準改定されます。多くのエコノミストは基準改定による物価上昇率の下振れ、かつて2006年の際に「CPIショック」と呼ばれたような想定外の下振れはないものと考えていますが、一応、私が来た範囲で、いくつかのシンクタンクのリポートへのリンクを以下に示しておきます。

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2016年8月24日 (水)

ピュー・リサーチによる米国大統領選挙の世論調査結果やいかに?

私がよく参照している米国の世論調査機関ピュー・リサーチ・センターから先週8月18日付けで米国大統領選挙に関して Clinton, Trump Supporters Have Starkly Different Views of a Changing Nation と題する世論調査結果が明らかにされています。米国の来し方や行く末に関して、トランプ候補とクリントン候補のそれぞれの支持者の見方が大きく分かれているとの結果が示されています。ピュー・リサーチ・センターのサイトのサマリーを中心に図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、ピュー・リサーチ・センターのサイトから、クリントン候補とトランプ候補の支持者の年齢別などの特徴を明らかにした Demographic divides in candidate support のグラフを引用すると上の通りです。なお、グラフにはリバタリアン党のジョンソン元ニューメキシコ州知事と緑の党のステイン氏も含まれていますが、クリントン・トランプ両候補に絞っておきたいと思います。悪しからず。ということで、白人はトランプ候補支持者に多く、黒人はクリントン候補支持者に多くなっていて、ヒスパニックはどちらかといえばクリントン候補支持者、ということになりそうです。年齢別では極めて大雑把ながら、若い世代はクリントン候補支持、高齢層になるに従ってトランプ候補支持が、それぞれ増える、といったところですが、学歴別には明らかに高学歴ほどクリントン候補支持が多いのが見て取れます。

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続いて、ピュー・リサーチ・センターのサイトから、現在まで米国がよい方向/悪い方向に変化して来たか、あるいは、次の米国人世代がよい方向/悪い方向に進むか、に関して両候補の支持者に問うた結果 Voters diverge on how U.S. has changed and where it's headed のグラフを引用すると上の通りです。両候補の支持者の間で大きな隔たりが見られます。クリントン候補支持者はおおむね米国は今までいい方向に進んで来たし、これからもいい方向に進む、という楽観派が多いのに対して、トランプ候補の支持者はいずれも悪い方向と回答する悲観派の割合が高そうに見受けられます。ただし、有権者全体については、来し方・行く末の両方について「悪い方向」の方の割合が高くなっているのは気にかかるところです。

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続いて、ピュー・リサーチ・センターのサイトから、特に大きな諸問題に関して両候補支持者の間でのかい離 Perceptions of 'very big' problems vary widely by candidate support のグラフを引用すると上の通りです。25%ポイント超の開きがある問題としては、移民問題、テロ対策がトランプ候補支持者の間で重視されており、貧富の格差是正と環境問題についてはクリントン候補支持者の方が大きな問題と捉えている、との結果が示されています。

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最後に、ピュー・リサーチ・センターのサイトから、我が国でも注目されているところで、自由貿易協定やTPPに関する見方について "Voters split on impact of free trade agreements and the TPP on the U.S. のグラフを引用すると上の通りです。あくまで一般論かもしれませんが、有権者すべてについては自由貿易協定やTPPに対する見方は拮抗している一方で、クリントン候補支持者の間では自由貿易が肯定的に受け止められており、逆に、トランプ候補支持者は否定的に見ている、ということなのかもしれません。

一応、このブログのメイン・カテゴリーである経済評論のブログに分類しておきます。

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2016年8月23日 (火)

WIPO Global Innovation Index 2016 の日本16位のランクをどう評価すべきか?

先週8月15日付けで、世界知的所有権機関 World Intellectual Property Organization = WIPO から Global Innovation Index 2016 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。
スイスは昨年に続いてトップとなり、トップスリーはほかにスェーデンと英国です。我が国は昨年の19位から3つランクを上げて16位に入っていますが、アジアではシンガポール6位、韓国11位、香港14位の後塵を拝しています。なお、中国は昨年の29位からランクを上げて25位に浮上しています。国際機関のリポートを取り上げるのは、このブログのひとつの特徴なんですが、450ページに達するボリューム感のある英文リポートで、経済学部出身の私の専門外ですので、WIPOサイトにあるインフォグラフィックスのひとつを引用しておくにとどめたいと思います。悪しからず。

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2016年8月22日 (月)

ウェザー・ニューズ「傘調査2016」の結果やいかに?

今日の東京は台風9号ミンドゥル Mindulle の直撃に遭遇し、特に午後からの暴風雨では傘の手放せない1日でした。ということで、先週8月16日付けで、ウェザー・ニューズから「傘調査2016」の結果が明らかにされています。2万人を超える大規模調査です。図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、ウェザー・ニューズのサイトから、傘の所有本数の都道府県別ランキングほかは上のテーブルの通りです。東京都を筆頭に首都圏と関西でも京阪神圏が所有本数の多い上位を占めています。最も少なかったのが沖縄です。考えられる理由として、短時間強雨や強風の多い沖縄ではすぐに雨が止む、傘をさしても濡れる、雨に濡れてもすぐ乾くなど、そもそも雨に濡れることをあまり気にしない県民性で、傘の利用頻度が低いのではないか、とリポートされています。全国47都道府県の平均は3本でした。また、傘を購入する季節は、当然ながら、梅雨に集中しています。

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次に、ウェザー・ニューズのサイトから、ビニール傘に関するテーブルは上の通りです。ビニール傘の所有本数がもっとも多かったのが東京、次いで大阪でした。ビニール傘の割合が高い都道府県は大阪です。全国平均するとビニール傘の割合は53%となっています。逆に、最も少なかったのが、鹿児島と宮崎で、加えて、九州では7県中4県が41位以下に入り、ビニール傘所有率が少ないようです。また、全国47都道府県の平均は1.6本でした。

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最後に、ウェザー・ニューズのサイトから、傘の購入時のポイントに関するグラフは上の通りです。性別でかなり分かれており、男性は「丈夫さ」、女性は「デザイン」を重視している割合が高くなっています。また、年代別の特徴としては、年齢が高くなるほど「軽さ」を重視しているのが判ります。最後の最後に、グラフなどは引用しませんが、傘が壊れた最大の理由は「強風」が55%を占め、傘に欲しい機能や性能は「壊れないこと」が65%に上っています。今日のような台風の日にはよく理解できるところです。

台風はようやく関東をほぼ通過し、私が役所を出た際にはまだかなり強い風雨だったんですが、我が家の最寄りの地下鉄を降りた際には雨はかなり小止みになっていました。ただ、山手線は私は使わないものの、山手線のターミナル駅からの私鉄が止まっていて、少し遠い地下鉄で帰宅しました。まあ、テレビでニュースを見る限り、ダメージは小さい方だったのかもしれません。

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2016年8月21日 (日)

リオ・デジャネイロでの夏季オリンピック閉会式まもなく!

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まもなく、リオ・デジャネイロでオリンピック閉会式が始まります。日本時間では明日未明ということのようです。ということで、私が勝手に選んだ日本選手団活躍のベスト5は以下の通りです。

No.1
卓球男子団体銀メダル、女子団体銅メダル
No.2
バドミントン女子ダブルス高橋・松友ペア金メダル
No.3
陸上男子400メートルリレー銀メダル
No.4
水泳男子400メートルメドレー萩野金メダル、女子200メートル平泳ぎ金藤金メダル
No.5
テニス男子シングルス錦織銅メダル
次点
体操男子個人総合内村金メダル
番外
女子バレー決勝トーナメント準々決勝で米国に敗退

2020年の東京オリンピックでも、
がんばれニッポン!

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10回オモテの集中打で巨人に雪辱!

  HE
阪  神0000000103 491
巨  人0000001000 150

外出から帰宅すると9回ウラ巨人の攻撃中で、福留外野手のナイスキャッチで守り切って延長戦突入です。そして、北條選手の勝ち越し打をはじめとする猛攻で巨人に雪辱でした。今年はもう広島とか、巨人にはもう勝てないのかもしれないと諦めて、よく試合はフォローしておらず、10回上本選手を歩かせて北條選手と勝負なんて想像を超えていたんですが、その前の上本選手の同点ホームランはハイライトで拝見しました。

次の当面の敵である横浜戦も、
がんばれタイガース!

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2016年8月20日 (土)

格の違いを見せつけられて巨人にもボロ負け!

  HE
阪  神000000000 031
巨  人20000001x 340

手も足も出ず歯も立たずで巨人にボロ負けでした。スコアは3-0なんですが、得点差以上に一方的に負けた気がします。今シーズンの順位通りに、かなり実力の差を感じさせられた試合でした。もはや、今年は広島とか、巨人にはもう勝てないのかもしれません。

明日は3タテかなあと思いつつも、
がんばれタイガース!

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今週の読書は読み過ぎて経済書をはじめとして計9冊!

今週は、お盆休みで大規模な帰省ラッシュをニュースで見たりしていたんですが、我が家は下の倅が高校3年生の受験生ですので、私は特にどこかに出かけるということもなく、仕事も決して多忙というわけでもなく、ということで、小説や新書も含んでいるものの、経済書もあって、かなり大量に読み飛ばしてしまいました。ただ、実用書・教養書はなく、新書で代理させています。来週からはもっとペースダウンしたいと思います。

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まず、山田久『失業なき雇用流動化』(慶應義塾大学出版会) です。著者は住友系シンクタンクの日本総研のチーフエコノミストであり、雇用や労働市場を専門分野としています。なお、本書は出版社からしても学術書に近い印象なんですが、それほど難しげな計量分析が頻出するわけではなく、フツーのビジネスマンなどにも理解が進みやすいように配慮されています。ということで、雇用政策や労働市場改革と聞けば、少し前までは農業などとともに「岩盤規制」とレッテルを貼られて、正社員雇用に対する保護や解雇規制の緩和、あるいは、ホワイトカラー・エグゼンプションなど、ともかく労働力の雇用を低コストで済ませるための企業向けの方策ばかりが議論されてきましたが、本書はさすがの専門家のアプローチで、まったく異なる方向を示しています。タイトルに見える雇用流動化といえば、高度成長期に二重経済の下で農業から製造業に労働力がシフトしたように、本書でも低生産性部門から高生産性産業への雇用のシフトと考えるべきなんですが、実は、特に、いわゆるバブル崩壊後の「失われた20年」で見られた雇用シフトは、労働力人口の伸びが低下ないしマイナス化する中で、高生産性部門が雇用を減少させる、というものでした。本書で取り上げられている範囲ではエレクトロニクス産業、あるいは、電機産業が典型的と私は考えています。本書では、柔軟な事業構造転換が可能なシステムの下で、成長部門の付加価値創造プロセスに付随して生じるデマンド・プル型の労働移動や流動化をいかにして活用するか、逆に、停滞産業からコストカットを目指したコスト・プッシュ型の労働シフトをいかにミニマイズするか、という観点から雇用の流動化を論じています。単に、雇用や労働といった狭いマイクロなお話だけでなく、企業経営や付加価値生産といったマクロの経済に関する議論を展開しています。その上で、4章における日米独における賃金決定の違い、あるいは、フィリップス曲線の形状の差なども議論に取り込み、スウェーデン雇用政策も参考にしています。ただ、私は必ずしも詳しくないんですが、スウェーデンの好調な経済を支えているのは積極的労働市場政策だけでなく、物価目標を明示的に取り入れた金融政策ではないか、という気もします。

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次に、鈴木淑夫『試練と挑戦の戦後金融経済史』(岩波書店) です。著者は長らく日銀の調査統計局や金融研究所などのエコノミスト畑を進み、理事にまで上り詰めた後、民主党だったか、新進党だったか、衆議院選挙に打って出て代議士も務めています。ということで、タイトル通りの戦後史を経済や金融の切り口で分析しているんですが、カギカッコ付きで「岩波書店らしく」、という表現は適当ではないかもしれませんが、かなり現政権に批判的で、さらに、我が国の長期停滞は日銀ではなく政府の経済失政にある、という方向性を強く指し示す歴史書です。ある意味で、日銀無謬論かもしれません。私も官庁エコノミストですから、バブル崩壊後の長期停滞では日銀が悪役であったとのバイアスは持っているハズで、特に、今世紀に入ってからのデフレの主因は日銀の金融政策にあると考えていますが、本書の著者は正反対の意見のようです。すなわち、バブルは国際協調の制約の下で、当時の大蔵省出身の澄田総裁が当時の宮沢大蔵大臣と結託して低金利を続けた結果であり、その後、日銀プロパーの三重野総裁はよくやって1990年代前半はそこそこの経済パフォーマンスを見せたが、1997年4月からの消費増税が長期停滞を招いて、21世紀に入ってデフレに日本経済が沈んだ、という見立てです。1997年の消費増税は当時の経済企画庁が楽観的な経済見通しを、そして、大蔵省が実態とかけ離れた不良債権残高を、それぞれ橋本総理にリポートしたのが原因で、「官僚の情報操作に支配された政治」(p.131)による「政府の失政」(p.119)である一方で、速水総裁による2000年8月のゼロ金利解除と半年後のゼロ金利政策に戻ったのは「間の悪いこと」(p.144)で済まされています。そして、現在のアベノミクスに対する疑問を羅列し、最後は最新の「日銀理論」に基づいて人口動態論による景気低迷と結論します。人口動態が景気を決めるんであれば、それまでの本書の議論は何だったのかと不思議に思うんですが、当然の結論として、日本経済の活性化は移民受け入れ、ということで本書は終わります。まあ、出版社も含めた広い意味でのメディアについては、時の権力とそれなりの緊張関係にあるべきだと私は考えていますし、マスコミだけでなく、出版社の書籍も政府批判は大いにアリですし、野党の代議士が政府批判するのも当然だと思うものの、やや、あくまで私にとってはという意味ですが、図書館まで取りに行って読む時間が惜しかった気もします。

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次に、イタマール・サイモンソン/エマニュエル・ローゼン『ウソはバレる』(ダイヤモンド社) です。マーケティングの本であり、著者はスタンフォード大学のマーケティングの研究者と実際のマーケターの組合せです。Absolute Value というタイトルで2014年に出版されています。英語の原題に現れている通り、少し前までの相対的な位置づけを重視するマーケティングから、絶対的な価値を基にする消費者選択が主流になりつつある、という趣旨の本です。すなわち、選択肢の制約の大きい実店舗での販売から、その制約が大きく緩和され、その上、顧客のレビューまで紹介するインターネット通販、アマゾンなどのサイトが普及するにつれて、マーケティングの常識が大きく覆される、ということだそうです。ということで、すべては終わりかもしれませんが、それでは愛想なしですので、もう少し敷衍すると、カスタマー・レビューなどの大量の商品・サービスに関する情報がインターネット上にあふれる中で、ブランディング、ロイヤルティ、ポジショニングなどの相対的な要因の重要性が低下し、商品やサービスを実体験したカスタマー・レビューやソーシャル・メディア上での評価などの本質的な絶対価値を頼りに消費者選択が行われていることを説き、そして、実際の行動経済学的な実験によって実証しています。カスタマー・レビューではいわゆる「やらせ」の問題が発生する可能性がある一方で、巨大なチェーン展開の店舗でしかできなかった広告的な情報発信が、小規模の店舗やレストランでもコストゼロで実施できるようになったところに特徴があり、情報過多による消化不良や消費者の間での混乱は生じておらず、的確で合理的に見える消費者選択が行われていると本書は主張しています。ただ、パート1-2でこのような主張を展開した後、パート3では、それでは、マーケティングは不要になったのかというのではなく、自分(P)、他者(O)、マーケター(M)の3者の間で商品や時期による影響力の違いはあっても、Oが影響力を増して、Mの役割が低下しつつあったとしても、マーケティングの新しい法則は存在し、マーケターの役割はなくならないと結論しています。すなわち、このPとOとMの間でMがゼロになることはあり得ないとしたうえで、3者の影響力ミックスを考えて顧客にアピールする方法を提示しています。商品の売上げという経営学的な視点ばかりではなく、消費者の選択や意思決定といったよりエコノミストに近いラインから読むのも興味深いと感じました。

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次に、中村文則『私の消滅』(文藝春秋) です。ノワール小説の旗手として人気の作家の最新作です。「このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない」というメモの走り書きで始まり、私のような頭の回転の鈍い読者にはついて行けない場合すらあるほどの複雑なメタ構造を持った小説です。小説の語り手の地の文章なのか、誰か小説の登場人物のモノローグなのか、はたまた、登場人物ですらない誰かのメモなのか、なかなか読みこなすのに努力が必要です。別の表現をすれば、凝ったしかけの作品です。テーマは精神科医の復讐劇を題材にしつつ、マインド・コントロール、人格改造などのとてもアブナい領域を対象にしています。作者のあとがきで、直前2作品の『教団X』と『あなたが消えた夜に』への言及があり、基本的にはプロモーションの宣伝文句なんでしょうが、私は後者の作品は読んでいませんでした。話を本題に戻して、この作品では最後に参考文献が上げられている通り、作者なりに精神病理学を勉強したあとが見られます。宮崎勤事件の解釈は置くとしても、人間存在を考える場合、、肉体はあくまで入れものであって、精神構造の方はこの作品で頻出するETCの電気刺激、あるいは、薬物などでいかようにも作り変えることが出来て、異常と正常の境目が明確ではないような印象を作者は持っているような気がしてなりません。そして、異常なのかどうかはともかく、人間のグロテスクで反理性的な思考がむき出しにされた行為を、強い立場の人間が弱い人に実行すれば、壊れる場合もあり、逆に、行為者の方が壊れている場合もあるんだろうという気がします。何とも、暗い、怖い、恐ろしい、不気味、などの形容詞がいくつも付きそうな小説です。

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次に、小林泰三『クララ殺し』(東京創元社) です。同じ作者が同じ出版社から出した『アリス殺し』はほぼ2年前の2014年9月7日付けの読書感想文で取り上げており、その続編というか、完結編という位置づけのようです。ですから、前作の『アリス殺し』では地球と不思議の国がリンクしているだけだったんですが、この作品では、加えて、ホフマン宇宙が出て来ます。というか、本体であるホフマン宇宙からアーヴァタール(=アバター)のいる地球にリンクしていて、両者は夢を通じて記憶を共有しています。前作の読書感想文では私はファンタジーと書いてしまったんですが、実はSFなんだろうという気がしています。と、前置きが長くなりましたが、地球上に井森とくららと新藤礼都がいて、ホフマン宇宙に井森とシンクロする蜥蜴のビルとクララとマドモワゼル・ド・スキュデリがいて、両方にドロッセルマイアー教授/判事がいます。というか、そういう想定で物語が進みます。そして、くらら/クララの殺人事件に対する捜査ないし調査を行うというストーリーです。もちろん、ホフマン宇宙の蜥蜴のアーヴァタールが地球上では人間なんですから、生物と無生物を越えて、人形やオートマータ(=ロボット)も出て来たりします。加えて、ホフマン宇宙では人間と人形を入れ替えたり、記憶が改竄されたりするものですから、キチンと状況を把握して読み進むのはある程度の理解度を要求されます。その点では、前作の『アリス殺し』と同じです。そして、これも前作『アリス殺し』と同じように、論理的に殺人事件は解決されますが、前作とは違って、明確な探偵役がホフマン世界にいたりします。本格ミステリの常として動機はあいまいですが、論理は際立っていて、ホフマン宇宙の本体と地球上のアーヴァタールの正しい組合せが解明されるとともに、すべての真実は解明されます。それにしても、このシリーズは続くんでしょうか?

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次に、真梨幸子『6月31日の同窓会』(実業之日本社) です。作者は湊かなえなどとともに「イヤミスの女王」的な存在の作家です。そして、本書は神奈川県の湘南あたりにありそうな伝統ある女子校・蘭聖学園の同学年のOGが卒業後10年ほどして連続して不審な死を遂げる、というストーリーです。しかも、高校1年のころの文化祭の劇の台本に見立てて事件が起こったりします。また、背景として知っておく必要のあるのが3点あり、第1に、この女子高は小学校から短大まで、いわゆるエスカレータ式の私学で、原則として、小学校と短大でのみ生徒・学生の募集を行い、中学校と高校では例外的な少人数だけを募集する、という入学システムがあって、この例外的な外部入試者の制度が謎解きに大きく関係します。第2に、本書のタイトルを見て明らかに不審を持つのは、「6月31日」というのが存在しない日付けである点ですが、これも都市伝説的に、存在しない6月31日に開催される旨の同窓会の案内状を受け取ると、何らかのお仕置きが待っている、という意味があります。第3に、文系の私にはサッパリ理解できない「フッ化水素酸」なる劇物というか、毒物による殺人も起こったりして、この物質もひとつのキーワードを構成します。ということで、外部生かつ特待生で入学し、東大を期待されながら少し格下の国立大学に入学して、現在は弁護士になりテレビのコメンテータとしても活躍する松川凛子というOGが探偵役として解決に当たりますが、彼女自身も複雑怪奇な女子高の人間関係に巻き込まれます。極めてご都合主義的に、この女子高のOGがいつの間にか狭い世界でひしめき合って、同じ職場に何人かいたりして、やや不自然な人間構成・人間関係であることは承知の上なんですが、一応、本格推理小説並みとはいきませんが、謎解きは完結します。そして、ここがイヤミスのイヤミスたるところですが、とても読後感悪く物語はしこりを残したまま、その後も継続します。私は決してフェミニストではありませんが、さりとて男女差別主義者でもないものの、やっぱり、腹黒さという点では女性にはとてもかなわないと実感させられました。

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次に、滝田洋一『世界経済大乱』(日経プレミアシリーズ) です。著者は私の知る限りかなりできのいいジャーナリストで、為替関係の著書を私も読んだことがあります。日経新聞の出身、というか、現在も在籍かもしれません。ということで、本書はここ1年余くらいを主たるスコープとして、中国をはじめとする新興国の経済停滞、石油をはじめとする国際商品市況の低迷、それらに対応する日欧のマイナス金利などの先進国の財政金融政策動向について、ジャーナリストらしく理論的ではなくインタビューなどに基づく情報収集により解明しようと試みています。特に、中国の景気悪化については市場における商品・サービスの需要供給ではなく、資金の海外流出を抑える必要について論じ、同様にサウジアラビアについても石油価格低迷とともに経常収支が赤字化して軍事冒険主義的な動きが見られる、など、経済に基づきつつも地政学的な動向についても追跡しており、米国主導のTPPと中国によるAIIBの対決の間で動揺する欧州諸国とあくまで疑問の余地なく米国に追随する日本、という構図をあぶり出しています。決してエコノミストの一部にあるように、いたずらに危機を煽るような本ではありませんが、それなりの危機意識は私のような楽天的なエコノミストですら読み取ることが出来ますし、おそらく、国内の経済情勢だけを見ているのではなく、イスラム国を含めた地政学リスクも合わせて見ると、世界経済の先行きは決して平坦ではないという事実があるのだろうと思います。ただ、それに対する処方箋に大きな制約、というか、限界があり、どこまで対応可能なのかはジャーナリストではなく、エコノミストの責任かもしれません。本書はBREXITに関する英国の国民投票以前の段階の情報を基にしていますが、11月の米国大統領選挙も含めて、年内に大きなイベントがあるだけに、エコノミストとしてはジャーナリストとともに、世界経済の行く方に目が離せません。

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次に、松田馨『残念な政治家を選ばない技術』(光文社新書) です。国政選挙でかなり投票率が低下している一方で、今年から18歳選挙権も導入された中で選挙に着目した新書です。ただ、注目を浴びる国政選挙だけでなく、地方公共団体の首長や議員の選挙も本書では同時に取り上げています。副題は選挙リテラシーの入門をうたっているんですが、著者ご本人は選挙プランナーを称していて、本書の中では「選挙のプロ」とか、「選挙コンサルタント」という表現も見えます。要するに、私の目から見れば選挙をビジネスにしているわけで、人によっては、やや怪しい職業と見えなくもないのかもしれません。もうひとつ、「怪しい」かもしれないと私が思ってしまったのは、「民主主義」の言葉がほとんど出てこない点です。ちゃんとチェックしたわけではないので、ゼロとまで言い切る自信もありませんが、少なくとも政治に比べて民主主義という言葉は本書では圧倒的に見かけず、選挙を民主主義の観点から捉えるのではなく、ビジネスの観点から政治の一部として考える人の書いた本、というのは少し気にかかる読者がいるかもしれません。ただ、中身は、その昔の「選挙ゴロ」、本書でもp.207に出てくるようなやり方とは違って、キチンと選挙について考えている中身であると私は受け止めています。ですから、p.137からは、シルバー・デモクラシーについて不十分ながらも触れています。ただ、p.154にあるように、人に投票をお願いするに当たって、もっとも有効な手段は頼み込むことである、なんて書かれてしまうと、ついついポジション・トークの恐れを気にしてしまったりもします。株価については証券会社の営業マンが詳しいんでしょうし、自動車については自動車ディーラーの営業マンの説明に納得したりしますし、家電製品も家電量販店などの営業マンがよく知っている、ということで、一般論として当然ながら、当該の商品やサービスをビジネスにしている人が詳しくなるんだろうと思います。ただ、当然に我々情報の受け手としては、どこまで情報が正確で、どこからポジション・トークが入るのか、それなりに見分けるリテラシーも必要なのかもしれません。

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最後に、大森望ほか[編]『アステロイド・ツリーの彼方へ』(創元SF文庫) です。編者による2015年年間ベストSF小説のアンソロジーです。タイトルは最後の方に収録されている上田早夕里の短編のタイトルを取っています。私は決してSF小説は詳しくないんですが、このブログでも取り上げているような作者の作品も何点か収録されています。すなわち、上田早夕里のほか、高野史緒、宮内悠介、円城塔などです。ということで、2015年に発表された日本SF短篇から選ばれた傑作、および第7回創元SF短編賞受賞作「吉田同名」とその選評を収録しています。今年6月に発行された恒例の年刊日本SF傑作選です。文庫版で600ページ余りあります。最後に、昨年2015年のSF界を振り返った論評があり、私がこのブログの読書感想文でも取り上げた作品も何点かあり、すなわち、円城塔『プロローグ』と『エピローグ』、上田早夕里『薫香のカナピウム』、そして、筒井康隆『モナドの領域』をはじめとして、たくさんのSF作品が取り上げられていました。ただ、第7回創元SF短編賞受賞作の「吉田同名」とか、SFのSは「科学的」という scientific だと思っていたんですが、決して科学的ではなく非科学的なファンタジーも含まれているような気がします。「ハリー・ポッター」のシリーズがSFでないのは魔法により諸事を処理していて、科学ではないからだと私は理解しており、その意味で、逆に、ドラえもんはSFだと受け止めていますので、やや認識にズレがあるのかもしれません。私はやっぱり、SFよりはミステリの方が親しみがあるような気がします。

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2016年8月19日 (金)

帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査」やいかに?

今週月曜日の8月15日付けで、帝国データバンクから「女性登用に対する企業の意識調査」と題するリポートが明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、かなり長いんですが、帝国データバンクのサイトから調査結果を4点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 女性管理職がいない企業は50.0%と半数にのぼる一方、「10%以上20%未満」「20%以上30%未満」の割合が増加しており、女性管理職の割合は平均6.6%と0.2ポイント上昇。また、従業員全体の女性割合は平均24.2%で前年と同水準、役員は平均8.7%で0.3ポイント上昇
  2. 今後、自社の女性管理職割合が増えると見込んでいる企業は23.5%
  3. 女性の活用や登用について「社内人材の活用・登用を進めている」企業は42.5%で4割を超えている一方、「社外からの活用・登用を進めている」企業も11.1%。その効果は「男女にかかわらず有能な人材を生かすことができた」が7割超で突出
  4. 女性活躍推進に向けた行動計画の策定が義務付けられている従業員数301人以上の企業は81.7%が策定済みで、具体的な取り組みでは、「女性の積極採用に関する取り組み」が43.1%で最多。努力義務となっている従業員数300人以下の企業でも、約半数となる49.1%が策定

なお、タイトルは意識調査となっていますが、企業のマインドではなく女性登用の現状に着目して、グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから、女性の割合-従業員・管理職・役員- を引用しています。従業員ベースでは30%以上の企業も決してめずらしくないんですが、まだまだ、管理職の女性ゼロは50%、役員の女性ゼロも60%に上っています。ただ、2015年から2016年にかけて、わずか1年の期間ではありますが、管理職や役員に女性ゼロの企業の割合が少し減少していることも確かです。また、グラフの右の欄外に平均が記されており、管理職は2015年6.4%から2016年6.6%に、また、役員も2015年8.4%から2016年8.7%に、それぞれアップしているのが見て取れます。なお、女性の管理職や役員の割合が上昇しているのは、1万社超の調査対象ですから決して調査の計測誤差ではなく、かなり統計的には有意な結果ではなかろうかと私は受け止めています。

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まず、上のグラフはリポートから、女性管理職の平均割合 を引用しています。見れば明らかな通り、企業規模別、産業別の女性管理職の割合です。なお、企業規模については産業ごとにビミョーに定義が異なります。リポート最終ページの調査対象企業の属性に詳細が示されています。ということで、役員もそうなんですが、管理職についても、2015年から2016年にかけてジワリと女性の比率が高まっています。見ての通りで、企業規模が小さいほど女性管理職の割合が高いとの結果となっています。産業別では、小売、不動産、サービス、金融、などで高く、運輸・倉庫、建設、製造などで低いとの結果が示されています。特に、金融では昨年から+1.7%ポイントも上昇していたりします。もちろん、昨年から今年にかけて女性管理職比率を低下させている業界もあります。

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2016年8月18日 (木)

輸出の減少が続く貿易統計をどう考えるべきか?

本日、財務省から7月の貿易統計が公表されています。ヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比▲14.0%減の5兆7284億円、輸入額は▲24.7%減の5兆2149億円、差引き貿易収支は+5135億円の黒字でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7月の輸出14%減、6年9カ月ぶり減少幅
貿易収支は黒字

財務省が18日発表した7月の貿易統計速報によると、輸出額は5兆7284億円と前年同月に比べ14.0%減少した。落ち込み幅は2009年10月(23.2%減)以来、6年9カ月ぶりの大きさとなった。英国の欧州連合(EU)離脱決定に伴う円高の進行で、米国向けの自動車などが減少した。原油安で輸入額も大きく減り、差し引きで貿易収支は2カ月連続の黒字を確保した。
輸出額が前年同月を下回るのは10カ月連続。7月の通関ベースの為替レートは1ドル=103円14銭で、前年同月と比べ16.2%の円高だった。輸出数量は2.5%減となっており、円高が輸出額を大きく押し下げた。
地域別に見ると北米や欧州、アジアなど主要地域全てで輸出額が減少した。北米は11.8%減、アジアは13.9%減(うち中国は12.7%減)だった。品目別では特に北米向けが落ち込んだ自動車(11.5%減)や、船舶(52.9%減)の減少が目立った。
輸入額は24.7%減で、09年10月(35.5%減)以来の落ち込み幅だった。7月の原粗油の単価(通関ベース)は前年同月と比べ37.3%下落と、原油安が押し下げ要因となった。品目別では原粗油が42.6%減、液化天然ガス(LNG)が43.2%減だった。
輸入の減少額が輸出の落ち込みより大きかったことで、貿易収支は5135億円の黒字となった。財務省は「英国のEU離脱決定に伴う英国向け輸出への影響は特に表れていない」としているが、世界経済の減速傾向が続くなか、輸出が伸びにくい状況が続くとの見方が多い。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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上の貿易統計の推移のグラフ、特に下のパネルの季節調整済みの系列のグラフを見れば明らかですが、輸出も輸入も減少傾向にあって、縮小均衡となる中で輸入の減少の傾きの方が大きくて、結局、貿易収支としては黒字化している、というのが正しい見方ではないかと思います。引用した記事では、輸出の減少幅が大きいことに着目していますが、輸出額の前年同月比▲14.0%の落ち込みのうち、数量は▲2.5%にとどまっており、ほとんどが価格効果であるといえます。ただ、同じことが、さらに強調される形で輸入についても、輸入額や輸入価格については、為替の影響だけでなく国際商品市況の石油価格の下落も効いてきますので、より大きな減少の傾き、すなわち、グラフのスロープが急峻=スティープになっているわけです。その結果が貿易黒字ですから、大昔にあった「よいデフレ、悪いデフレ」ではないですが、シンクタンクや証券会社などから私が受け取っているニューズレターの中には、「よい貿易黒字」とはいえない、との論評や報道もあったりしました。

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輸出のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、下のパネルはよく似たグラフなんですが、同じく原系列の輸出額の前年同月比の伸び率をアジア、北米、EUその他の4地域別の寄与度分解しています。そもそも、輸出の過半はアジア向けですから、このところの輸出の減少の寄与度も過半はアジアに起因しています。例えば、6月の輸出額の前年同月比▲7.4%のうちアジアの寄与は▲5.7%、直近の7月も▲14.0%のうちアジアが▲7.4%の寄与となっています。ただし、輸出額の大きな落ち込みの直接の原因は円高であり、すなわち、円高になっても短期的にドル・ペッグ諸国との競争圧力などから、外貨建て価格の引上げが出来ず、結局、円建ての受取りが減少している企業の価格行動が現れているのかもしれません。

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最後に、初めてプロットしてみましたが、上のグラフは通関における輸入原油価格指数の推移です。季節調整値は公表されていませんし、直近の統計も6月までしか明らかではありませんが、とてもユニバリエイトな分析ながら、そろそろ輸入原油価格も底を打って上昇に転じつつあるような気がします。

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2016年8月17日 (水)

訪日外国人数はまだまだこれからも伸びるのか?

本日、政府観光局(JNTO)から訪日外客統計が公表されています。7月の訪日外国人数は前年同月比+19.7%増の2297千人と、引き続き堅調に増加しており、7月は夏休みシーズンにも少し入りつつあり、過去最高の人数を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

訪日外国人、7月2割増の229万人 単月で最高
日本政府観光局(JNTO)が17日発表した7月の訪日外国人客数(推計値)は、前年同月比19.7%増の229万7000人だった。今年4月の208万2000人を大きく上回り、単月として過去最高となった。夏休みシーズンを迎えるなか、クルーズ船の寄港数の大幅な増加などを受けて、中国からの観光客が増えた。
国・地域別では中国が26.8%増の73万1400人となり、単月として初めて70万人を超えた。次いで韓国が30%増の44万7000人となった。韓国からの旅行者については熊本地震の影響も懸念されたが、航空便の新規就航やセール価格での旅行商品の販売などにより好調だった。台湾は9.8%増の39万7000人だった。

ということで、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、訪日外国人数のグラフは以下の通りです。季節調整していない原系列の統計をプロットしています。

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引用した記事にもある通り、単月で過去最高の訪日外国人数を記録しましたし、上のグラフを見ても引き続き伸びているように見えるんですが、ここ何か月かの前年同月比伸び率を見ると、4月+18.0%増、5月+15.3%増、6月+23.9%増に続いて7月+19.7%増ですから、かつてのように、毎月+40-50%の増加を見せていたころからはやや伸び率が低下して来ているのも確かです。昨夜取り上げたばかりの三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポート「2016/17年インバウンド見通し」に示されているように、中国経済の低迷や円高の進行などを背景に、訪日外国人の伸びもプラスを維持しつつも減速する方向にありそうな気がします。

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2016年8月16日 (火)

格の違いを見せつけられて広島にボロ負け!

  HE
広  島011012000 590
阪  神000000000 041

手も足も出ず歯が立たずで広島にボロ負けでした。打つ方は散発の4安打、投手陣も新井選手に打たれるなど小刻みに加点されて、まったく、能見投手の先発にもかかわらず、競り合いにすらなりませんでした。新井(弟)選手が典型なんですが、ストライクを見逃しては、ボール球を振り回していては、打てそうな気配もありませんでした。今季の順位通りに、かなり実力の差を感じさせられた試合でした。

明日は藤浪投手の勝ち星目指して、
がんばれタイガース!

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三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「2016/17年インバウンド見通し」やいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングから8月5日付けで「2016/17年インバウンド見通し」と題するリポートが明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。リポートでは、2015年のインバウンド消費を分析するとともに、2016/17年の見通しを立てています。昨日の4-6月期1次QEを取り上げたブログで、インバウンド消費がそろそろ一段落しつつある統計的な根拠が出始めたようにも受け止めていますので、シンクタンクの予想はそれなりに興味あるところですから、図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポート p.2/10 から 図表1. 増加が続く訪日外国人 を引用しています。2015年の訪日外国人数は1974万人(前年比+47.1%増)と4年連続で増加し、過去最高を記録しており、グラフは引用しませんが、訪日外国人のうちアジアからの旅行者が全体の約8割を占め、中国(25.3%)、韓国20.3%、台湾(18.6%)がトップスリーを占めています。

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次に、上のグラフはリポート p.3/10 から 図表4. 主要な輸出品との比較(2015年) を引用しています。さすがに、自動車にはかなわないものの、2015年には3兆4771億円に達して、インバウンド消費は金額として半導体電子部品や鉄鋼、自動車部品の輸出金額に肉薄するところまで増加していることが読み取れます。

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次に、上のグラフはリポート p.4/10 図表9. 訪日外国人の推移 を引用していますが、さすがに、今年2016年上半期は大きく減速しました。要因としてリポートでは、2015年1月に実施された中国人へのビザ緩和による押し上げ効果が一巡したほか、中国経済の減速、円高の進行、さらに、熊本地震などを上げています。

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最後に、上のグラフはリポート p.7/10 図表15. 訪日外国人の見通し(全国) を引用しています。リポートでは、訪日外国人数は2015年の1974万人から、2016年には2428万人(前年比+23.0%)、2017年には2594万人(+6.8%)へ増加するものの、増加テンポは急速に鈍化する見込んでいます。加えて、消費単価も円高や中国の行郵税見直しの影響を受けて減少傾向が続く見通しで、2015年の17 万6167円から、2016年には15万7196円(前年比▲10.8%)、2017年には14万9621円(▲4.8%)へ減少することも予想しています。ただ、2016-17年には訪日外国人の増加テンポが消費単価の減少テンポを上回るため、インバウンド消費額は2015年の3兆4771億円から、2016年3兆8149億円(前年比+9.7%)、2017年3兆8810億円(+1.7%)へ、それぞれ増加するものと予測しています。また、関東でのインバウンド消費が2017年には減少に転じる一方で、関西や中部では2016-17年にかけて順調に増加が見込まれることから、インバウンド消費の恩恵が関東から徐々に全国に広がる動きを見せる、と結論しています。

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2016年8月15日 (月)

2四半期連続でプラスの成長率を示した4-6月期1次QEをどう見るか?

本日、内閣府から4-6月期のGDP統計、1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.2%を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

4-6月GDP、年率0.2%増 住宅・公共投資が寄与
内閣府が15日発表した2016年4-6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.0%増、年率換算では0.2%増だった。プラスは2四半期連続。うるう年効果があった1-3月期(年率換算で2.0%増)から成長の勢いが鈍った。個人消費が底堅く推移したことでプラスを確保した。ただ企業の設備投資や輸出が鈍った。
QUICKが12日時点で集計した民間予測の中央値は前期比0.2%増で、年率では0.7%増だった。
生活実感に近い名目GDP成長率は前期比0.2%増、年率では0.9%増だった。名目も2四半期連続でプラスになった。
実質GDPの内訳は、内需が0.3%分の押し上げ効果、外需の寄与度は0.3%分のマイナスだった。項目別にみると、個人消費が0.2%増と、2四半期連続でプラスだった。前期(0.7%増)から伸び率が縮小した。
輸出は1.5%減、輸入は0.1%減だった。国内需要の低迷で輸入量が減少。円高・ドル安や海外経済の減速が響き、輸出は力強さを欠いた。
設備投資は0.4%減と、2四半期連続でマイナスだった。生産活動の回復が鈍く、設備投資意欲は高まらなかった。住宅投資は5.0%増。公共投資は2.3%増。民間在庫の寄与度は0.0%のマイナスだった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてプラス0.8%だった。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.6%のマイナスだった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2015/4-62015/7-92015/10-122016/1-32016/4-6
国内総生産GDP▲0.4+0.5▲0.4+0.5+0.0
民間消費▲0.2+0.4▲0.6+0.2+0.2
民間住宅+1.7+1.1▲0.5▲0.1+5.0
民間設備▲0.9+0.7+1.2▲0.7▲0.4
民間在庫 *(+0.3)(▲0.1)(▲0.2)(▲0.1)(▲0.0)
公的需要+0.5▲0.1+0.0+0.8+0.6
内需寄与度 *(▲0.0)(+0.3)(▲0.5)(+0.4)(+0.3)
外需寄与度 *(▲0.4)(+0.2)(+0.1)(+0.1)(▲0.3)
輸出▲4.2+2.6▲0.9+0.1▲1.5
輸入▲1.8+1.2▲1.1▲0.5▲0.1
国内総所得 (GDI)+0.0+0.5▲0.3+1.2+0.5
国民総所得 (GNI)+0.4+0.4+0.0+0.6+0.3
名目GDP+0.0+0.6▲0.3+0.8+0.2
雇用者報酬 (実質)+0.2+0.8+0.5+1.1+0.3
GDPデフレータ+1.4+1.8+1.5+0.9+0.8
内需デフレータ+0.0▲0.1▲0.2▲0.5▲0.6

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2016年4-6月期の最新データでは、前期比成長率がプラスを示し、特に、赤い消費と緑色の住宅と黄色の公的需要がそれぞれ小幅にマイナス寄与している一方で、水色の設備投資と特に黒い外需が大きなマイナス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは前期比+0.2%、年率+0.7%でしたから、やや下振れしたとはいうものの、まずまず堅調な推移を示しており、緩やかな回復過程にあることが確認された、と私は受け止めています。特に、今年の1-3月期はうるう年効果で消費などが大きくプラスを示し、この4-6月期はその反動が予想されたものの、消費は1-3月期に引き続いて4-6月期もプラスでしたし、住宅や公共投資も景気を下支えしています。内需の寄与度が+0.3%に対して、外需が▲0.3%で合わせてほぼゼロ成長なわけですから、マイナスで残った項目としては設備投資と輸出ということになります。この両者の低迷の背景には、明らかに、円高の進展があり見逃すべきではありません。円高による企業マインドの停滞ないし改善の遅れについては株価にも反映されているところですし、為替については円安と円高で私の直観としては非対称に動くようで、円高になれば輸出がダメージを受ける一方で、円安になっても輸出数量は伸びずに価格面で企業収益を増加させるにとどまるような印象を持ちます。もちろん、キチンとしたフォーマルな定量分析が必要な分野ですが、取りあえずの直観はそういうことになるような気がします。もう1点指摘しておきたいのは、在庫の動きです。ややビミョーなところで、4四半期連続のマイナスで在庫調整が進んでいると評価すべきなのか、それとも、マイナス幅が小さく在庫調整の遅れと捉えるべきなのか、やや迷うところです。

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次に、年率の実質実額で見た非居住者家計の購入額のグラフは上の通りです。いわゆる「爆買い」を表すデータなんですが、4-6月期には減少に転じました。2012年10-12月期以来ほぼ4年振りの減少を示した背景は、中国の景気低迷と円高であることは衆目の一致するところですが、これも私の直感からすれば、円高の影響が大きそうな気がします。定量的な分析をしたわけではないので、確たる根拠はありません。いずれにせよ、何にせよ永遠に高率の伸びを続けるのはサステイナブルとは思えませんので、インバウンド消費についてもそろそろ一段落しそうな気配がしないでもありません。

最後に、先行きについて考えると、基本は、この緩やかなペースでの回復が続く一方で、場合によっては、28兆円経済対策による公共投資などの財政政策のバックアップで一時的に成長が加速するケースも考えられるし、もちろん、下振れリスクも決して少なくない、ということだろうと思います。今日の1次QE公表に際して、私がいくつか受け取ったニューズレターのうちには、消費と住宅がプラスなので、設備と輸出がプラスに転じれば、いわゆる「全員参加型の景気回復」が実現可能、と分析した結果が示されているものがありましたが、私はそこまで楽観的にはなれません。ただ、設備の回復よりは輸出増が先行する可能性が高いと考えています。

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2016年8月14日 (日)

お家騒動に乗じて中日に大勝して3タテ達成!

  HE
中  日000000100 180
阪  神20033000x 880

監督休養でガタガタするお家事情の中日を相手に、岩崎投手と松田投手が大量点をバックに3タテ達成でした。打つ方も序盤から活発な打棒で、特に、ホームランは効果的だということを実感する試合でした。
元祖物干し竿の初代ミスター・タイガース藤村富美男さん生誕100年記念のゲームを見事な白星でした。

次の広島戦も、
がんばれタイガース!

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ほぼほぼ11年かけて5000記事到達!

あまり明確には気づかなかったんですが、昨日の読書感想文のブログで5000記事に到達したようです。2005年8月から始めたブログですので、ほぼほぼ11年で毎年平均450記事くらいの数をアップし続けてきたことになります。ブログを始めたころは可愛い小学生だった倅2人の写真を撮ってはアップすることが楽しみだったんですが、すっかり倅達もおおきくなり、父親の相手はしてくれなくなりました。今では、自分で勝手に経済を評論したり、読書感想文を書いたり、阪神タイガースを応援したりと、心ゆくまで勝手な意見の表明を楽しんでいます。でも、いつまで続くかは判りません。

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2016年8月13日 (土)

青柳投手のナイスピッチングと北條選手の打棒で中日に連勝!

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中  日000000020 241
阪  神20001011x 581

先発青柳投手のナイスピッチングと北條選手の長打で中日に連勝しました。青柳投手はもう少し長い回を投げて欲しい気がしないでもないんですが、適当に球が散って中日打線に的を絞らせませんでした。リリーフ陣は藤川投手が失点しましたが、まずまずの出来だった気がします。打つ方は何といっても北條内野手の打棒が光りました。鳥谷選手の出番が遠のいて、私はやや不安に感じています。

明日も、
がんばれタイガース!

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今週の読書はややペースダウンして計7冊!

今週は、さすがに先週の8冊からペースダウンして、経済書や専門書とともに、小説や新書も含めて、以下の通り7冊です。もう少しペースダウンしたいと考えていますが、なかなか減りません。

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まず、柴田悠『子育て支援が日本を救う』(勁草書房) です。著者は我が母校の京都大学の社会学分野の研究者です。タイトルや問題意識からして、とてもいい本です。私の従来からの主張である行き過ぎた高齢者優遇をヤメにして、子供や家族に対する支援を充実させ、世代間不公平を平準化させる観点からの指摘が満載されています。結論は第11章p.252にあるんですが、保育サービスの充実、児童手当の増額、企業支援などを政府予算で手当てし、その財源は所得税の累進強化、相続税の拡大、資産税の累進化などの小規模な増税をミックスして当てる、というものです。基本的に私は本書の結論に賛成なんですが、いくつか本書の議論で気にかかる点もあります。ひとつは、いわゆる「どマクロ」の議論であって、最適化行動に基づくことなく、出生率や成長率などのマクロの変数を別のマクロの変数でパネルデータに基づいた回帰分析で算出している点です。ただ、私はこの点は許容されるべきであると考えます。例えば、エコノミストとしてGDPとマネーサプライの関係は、少なくとも多くのエコノミストはそれなりに頑健だと考えています。ただ、著者が社会学の分野ですので、エコノミスト相手の議論と違って、延々とダイナミックパネル分析について解説しているのは冗長な気がします。エコノミストの世界ならば、パネルデータを1階階差GMM推計した、なんていわずに、アレジャーノ・ボンドのパネルデータ回帰、と一言で本書の80ペーくらいまでの延々と解説が続く部分は不要な気がします。ただ、パネルデータ分析ですから、固定効果と変量効果についてはキチンと理由を示して、どちらを取ったのかは説明しなければならない気はします。それから、パネル・モデルというのは、パネル・データを分析する回帰モデルのことなんでしょうが、異様な響きを持っています。「政策効果の統計分析」という副題も、「統計分析」ではなく「計量分析」の方がいいような気がします。もっとも、その昔の20年近く前に、私が人事院に併任されて国家公務員試験委員をしていたころ、私が作った問題を統計に分類するか計量に分類するかで、人事院の担当官が悩んでいた記憶があり、そう大きな違いはないのかもしれません。

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次に、ラス・ロバーツ『スミス先生の道徳の授業』(日本経済新聞出版社) です。著者はスタンフォード大学の研究者であり、本書の英語の原題は How Adam Smith Can Change Your Life であり、2014年の出版です。特徴的なサングラスをかけたアダム・スミスの表紙は、英語版と共通です。というか、英語版はこのサングラスをかけた黄色いアダム・スミスのイラストが全面に押し出されています。ということで、本書では『国富論』で著名な経済学の開祖アダム・スミスのもうひとつの名著である『道徳感情論』から、最近の流行でいえば幸福論的な道徳論を展開しています。私の目から見て、アリストテレス的なエウダイモニアが中心となっている気がしますが、本書ではこの用語は使われていません。もっと平易に、「自分が一番の法則」を克服しつつ、自分の中の「中立な観察者」から見て立派で道徳的な思考と行動を勧めています。中心は第6章から第7章にかけてであり、幸福になるためには愛される人間になることであり、それは、愛されるに値する人間になることを意味し、そのためには、徳を身につける必要を説いています。具体的には、prudence 思慮、justice 正義、beneficence 善行の3点の実践となります。人間性悪説や性善説という言葉も出て来ませんが、基本は後者の立場に立ち、特に、思慮・正義・善行を実践すれば、社会の人々もそれを評価し、他の人々に広まって行く、という「見えざる手」の働きを支持しています。マイクロな分野を専門とするエコノミストで、「ヒトはインセンティブに反応する」というのをやや過剰に支持する場合がありますが、決してそれだけではない、ということがよく判ります。実験経済学の知見とともに見直したいポイントです。

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次に、子安宣邦『「大正」を読み直す』(藤原書店) です。著者は近代日本思想史の重鎮であり、大阪大学名誉教授です。本書は、よく「大正デモクラシー」の表現で、経済的には恐慌、また、政治外交的には戦争の時期の印象ある戦前昭和に先立つ自由でやや華やかな雰囲気ある大正の時期について、日本思想史界の名著を読み直す、というか、私なんぞの不勉強な人間については、大正の時期を代表する名著を紹介する教養書です。大逆事件の幸徳秋水から始まって、大杉栄、河上肇などの左翼系を先に取り上げ、上代神話を批判した津田左右吉、あるいは、和辻哲郎から右翼思想家の大川周明まで、多様な思想家の著作を取り上げ、大正時代の思想を浮き彫りにします。特に、我が国の大正時代は、世界史的には第1次世界大戦やロシア革命があり、現代世界の方向を規定したグローバル化の始まりの時代ともいえ、もちろん、その後の第2次世界対戦とそれに続く冷戦で大きく方向転換するとはいえ、それなりに世界史的にも重要な時期といえます。特に、私の目を引いたのは河上肇です。本書では代表作のひとつである『貧乏物語』を取り上げていますが、河上はいうまでもなく、我が母校である京都大学経済学部を代表する経済学者であり、後にはマルクス主義経済学に傾倒し日本共産党にも入党することとなります。この『貧乏物語』について、本書の著者は欧州の貧困ばかりに着目し、日本国内には目が及んでいないと批判しています。私は本書で取り上げられている大正期の名著は『貧乏物語』しか読んでいないんですが、確かにそうかもしれません。なお、どうでもいいことながら、本書の出版社は経済学などの分野の出版物に対して「河上肇賞」を認定しています。昨年度は該当なしだったと記憶しています。

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次に、石渡正佳『産廃Gメンが見た食品廃棄の裏側』(日経BP社) です。著者は千葉県庁で産業廃棄物処理行政を担当していたことがあり、タイトルに見えるように、本書でも自らを「産廃Gメン」と称しています。その関連の著書も何冊かあるようです。ということで、事件は今年2016年1月に発覚しており、愛知県一宮市に本社を置く壱番屋が展開するカレー専門店チェーン最大手の「カレーハウスCoCo壱番屋」が廃棄した冷凍カツが、何と、スーパーの店頭などで売られ消費者の口に入っていたものです。愛知県警の調べによると、みのりフーズの倉庫からダイコーが処理を受託した21社35品目60製品の廃棄食品が発見されたそうです。とてもショッキングな事件でした。しかし、本書ではこの事件は、食品廃棄物は年間2800万トンと、年間国内農業生産量2650万トンを上回る我が国の食料自給率の低さの下では、食品廃棄が追い付かないと指摘しています。しかも、廃棄物処理業は処理対象たるモノと料金を同時にもらって、通常取引のように、モノと料金が反対方向に動くわけではないため、処理対象たるモノをそのまま積み上げておくだけで売り上げになることから、不法廃棄やゴマカシの温床になる可能性も指摘しています。さらに、環境省と農林水産省が錯綜する食品廃棄の規制システムも、私なんぞの専門外の人間にはサッパリ判らず、抜け穴がありそうに見えなくもありません。特に第4章では、そもそも「廃棄物」の定義すらあいまいな法制度の実態を取り上げています。最後の第5章では、かつて不法廃棄の悪玉呼ばわりされていた建設廃棄物が、例えば、木くずなどをはじめとして、選別・再利用するシステムを開発して不法投棄が激減した実績にならって、食品廃棄物もランク分けして部分最適化を排した上で全体を最適化する制度設計を提案しています。まったくの専門外ですので、よく理解できない部分も少なくありませんでしたが、食品廃棄は食品ロスや食料自給とともに重要な問題ですし、それなりの意識を高めておきたいと実感しました。

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次に、天野節子『午後二時の証言者たち』(幻冬舎) です。この作品の著者は60歳を迎えて『氷の華』を自費出版してから著名になったミステリ作家で、私はデビュー作『氷の華』のほか、『目線』、『烙印』、『彷徨い人』と、この作者の作品は、知り得る限り、すべて読んでいると思います。ついでながら、『目線』を原作とし仲間由紀恵が主演したテレビ・ドラマも見た記憶があります。主人公が車いすというのがポイントで、小説の最後の方までそれを感じさせずに話を進めるのがミスダイレクションの醍醐味だったんですが、テレビ・ドラマの映像では最初から主人公が車いすというのがバレバレで、小説ほどの面白みはなかった気がします。私は見ていませんが、前田敦子主演の『イニシエーション・ラブ』の映画化も同じような問題があったような気もします。と、前置きが長くなりましたが、まず、本作品はほぼ倒叙ミステリに近い展開です。スーパー経営者一族のドラ息子が小学生の女の子を交通事故で死なせ、その母親であるシングル・マザーによる復讐劇です。個所を起こした本人をはじめ、交通事故のケガ人の受け入れを拒んだ病院の外科医、さらに、疑問が残る目撃証言をした主婦、などがターゲットとなり、どのように復讐がなされるか、に主眼が置かれています。被害者の少女にまつわる広い意味での人間のあり方がテーマになるんでしょうが、登場人物がステレオ・タイプというか、かなり人為的・作為的なキャラの立て方であり、現実味に薄いことから、感情移入が難しいんではないかという気もします。もう少し悩める一般人に近い人物キャラを立てるわけにはいかなかったのでしょうか。プロットはそれなりに出来ているだけに、登場人物のキャラがあまりにありきたりで平板な点が惜しまれます。特に、ラストが「やっぱり、こうなるんだろうな」という締めくくりで、もう少しひねりがあってもいいような気がします。

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次に、小川糸『ツバキ文具店』(幻冬舎) です。まずまず売れっ子の小説家の最新作です。私はこの作者の作品は『食堂かたつむり』しか読んだことがないような気がします。ひょっとしたら、短編集の『あつあつを召し上がれ』も読んだような気がしないでもないんですが、中身はまったく記憶にありません。ということで、この作品は鎌倉を舞台に20代後半の独身女性が「先代」の祖母から引き継いだタイトルのツバキ文具店を運営していくストーリーです。夏から始まって、四季それぞれの鎌倉を4章に渡って描き出しています。ただ、文具店といいつつも、実際の活動としては代書が中心になります。もっとも、「代書屋さん」といえば、運転免許証更新の際になどに申請書類を書いてくれるところというイメージなんですが、本書では主として手紙、あるいは、メッセージカードの中身も含めて書いてくれる職業らしいです。相変わらず生活感は皆無なんですが、なかなか、ほのぼのとした小説です。最後の方では不自然なくらいにカップルが誕生します。ただ、気になるのが2点あり、最初に登場する代書の作品はペットの猿の死に際した不祝儀のお悔やみ状なんですが、「ご冥福」とあります。我が家は浄土真宗の一行門徒で、私くらいに温厚であれば苦笑するくらいで済ませるものの、浄土真宗の信者であれば激しい気性の人も少なくなく、「冥福」と「霊前」には怒り出す可能性があります。また、本書とは関係ありませんが、この季節で、浄土真宗ではお盆にも特別なお飾りとか迎え火や送り火はしません。もうひとつは、文具四宝に関するウンチクはとてもいいと私は思うんですが、CAの汚文字さんが義母煮だすカードは別にして、手紙はほとんど罫の入った用紙を使っている気がします。私の記憶が正しければ、夏目漱石だったと思うんですが、罫の入った用紙の手紙は失礼に当たる、という旨の覚書があったような気がします。ベルギー製の紙や羊皮紙もいいんですが、罫の入った紙とそうでない場合などのウンチクも欲しかった気がします。

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最後に、八代尚宏『シルバー民主主義』(中公新書) です。著者は私のような官庁エコノミストの先輩に当たり、最近では規制改革の分野でご活躍と記憶しています。作者のあとがきにもありますが、本書は、米国ブルッキングス研究所のセミナーに著者が参加したことが出発点となっているようです。その2014年12月に開催されたセミナーと著者のプレゼン資料へのリンクを最後に置いておきます。ということで、私が従来から主張している世代間不平等とバランスを失した引退世代の高齢者優遇について、本書では論じています。人口動態と時間の機会費用に裏付けられた投票率の動向などから、現行の民主主義的な投票制度の下では、圧倒的に高齢者に有利なシルバー民主主義が支配的となっており、本書では「高齢者ポピュリズム」とも呼んでいますが、高齢者に有利な制度の導入や不利な制度への拒否権発動などが明確に現れています。特に、本書は「全日本年金者組合」が年金引下げを違憲として提訴した研から話を始めており、高齢者優遇策、特に、年金と医療の社会保障の高齢者優遇について、財政バランスも含めて、早期に是正すべきとの論を展開しています。本書がすぐれているのは、高齢者が投票行動を通じて自らの優遇策を改めるとは考えられないとして、孫の待遇悪化などの高齢者の利他的な心情に訴える戦略も取り上げている点です。私はこの点は代議制の間接民主主義の下で、国民に選ばれた選良が民意を歪める可能性を考えていましたが、それなりに有意義な観点かもしれません。ただ、本書は介護や医療のシルバー市場の展開を見据えていますが、私には少し疑問が残ります。情報の非対称性の下で、市場システムが効率的かどうかが不明だからです。さらに、私としては、高齢者の資産に着目した税制、あるいは、とても極端にいえば、年金はともかく、介護においてはミーンズ・テストの必要性がそのうちに論じられる可能性もあるんではないか、とまで考えており、高齢者の資産蓄積に着目した負担のあり方を議論すべきと考えます。さらに、高齢者の中でも、我が国の大きなコーホートである団塊の世代の行動様式にも、もう少し着目して欲しかった気がします。

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2016年8月12日 (金)

完封逃すもメッセンジャー投手のナイスピッチングで中日を撃破!

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中  日000000002 250
阪  神00010111x 470

最終回に打たれて完封を逃しはしたものの、先発メッセンジャー投手のナイスピッチングで中日を撃破しました。打つ方も3番と4番のソロホームランをはじめとして、小刻みに加点しました。でも、谷繁監督休養の中日相手ですから、もっとスンナリと勝って欲しい気もします。

明日も、
がんばれタイガース!

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来週月曜日に公表予定の4-6月期1次QE予想やいかに?

直近までにほぼ必要な統計が出そろい、来週月曜日の8月15日に4-6月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定です。シンクタンクや金融機関などから1次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の今年7-9月期以降を重視して拾おうとしています。明示的に取り上げているシンクタンクは、日本総研、大和総研、みずほ総研だけでした。なお、大和総研とみずほ総研については、テーブルのヘッドラインには引用しませんでしたが、GDPの需要項目別に先行き見通しをリポートしています。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.2%
(+0.7%)
7-9月期を展望すると、在庫調整圧力が引き続き企業の生産活動の重石となるほか、円高の進行を受けた企業収益の下振れも、景気下押しに作用する見込み。もっとも、人手不足などを背景とした雇用所得環境の改善が景気を下支えするとみられるほか、2015年度補正予算や2016年度予算の前倒し執行を受けた公共投資の増加も、引き続きプラスに作用することで、景気の持ち直しが持続する公算。
大和総研▲0.0%
(▲0.1%)
先行きの日本経済は、基調として緩やかな拡大傾向へと復する公算であるが、引き続き内需に力強さが欠けているほか、外需については英国のEUからの離脱が決定し、世界経済の先行き不透明感が強まるなど、下振れリスクが浮上している点に警戒が必要だ。
みずほ総研+0.1%
(+0.4%)
7-9月期以降の日本経済について展望すると、公的需要の支えもあって、景気は緩やかながらも持ち直していくと予想される。
ニッセイ基礎研+0.1%
(+0.6%)
景気が足踏み状態から完全に脱したとはいえないが、実態としては緩やかに持ち直しに向かっている。円高の進行、英国のEU離脱などに伴う下振れリスクはあるものの、少なくとも現時点では大型の経済対策が必要な経済情勢とは思われない。
第一生命経済研▲0.2%
(▲0.6%)
実態としてはプラス成長という予想だが、その成長率は小さい。景気が悪化しているというほどではないが、回復しているというほどでもない。日本経済は良くも悪くも踊り場状態が続いていると判断される。
伊藤忠経済研+0.2%
(+0.9%)
4-6月期の実質GDP成長率は前期比+0.2%(年率+0.9%)と2四半期連続の前期比プラス成長になった模様。ただし、公的需要が成長の中心であり、民間需要は総じて低調、日本経済は停滞局面から脱したとは言えない。デフレ脱却への道のりは遠い。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+0.1%
(+0.3%)
1-3月期の1.9%成長に比べ、4-6月期の成長率は小幅にとどまる見通しだが、各種政策効果が奏功して、2四半期連続のプラス成長が示される見込みである。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.2%
(+0.9%)
個人消費は、雇用・所得情勢が緩やかに持ち直していることに加え、物価下落による押し上げ効果もあって、前期比で増加が続いた模様である。設備投資は、企業業績が悪化に転じる中にあっても、維持・更新需要を中心に底堅さは維持されていると考えられ、前期比でプラスに転じたと予想される。一方、輸出が減少する中で、輸入は小幅ながら増加に転じたため、外需寄与度は-0.2%と4四半期ぶりにマイナスになったと見込まれる。
三菱総研▲0.1%
(▲0.3%)
GDP成長率の押し下げに寄与したのは、消費と輸出である。消費は、1-3月期の閏年要因の剥落により、食料品や交通費、医療費などへの支出が減少し、前期比▲0.2%と2四半期ぶりの減少を見込む。輸出は、新興国経済の減速やインバウンド需要の鈍化を背景に、同▲1.0%と2四半期ぶりの減少を予測する。

ということで、ほぼゼロ成長近傍であり、プラス成長とマイナス成長が入り混じっています。注意すべきポイント2点上げると、まず第1に、今年2016年の1-3月期がうるう年効果で通常の年寄りは消費を中心にやや上振れている可能性があり、逆から見て、4-6月期には1-3月期のうるう年効果の反動が観察される可能性が高い、ということです。第一生命経済研の予想では数字としてはマイナス成長を予想しつつ、ヘッドラインにも取ったように、「実態としてはプラス成長」と考えられています。第2に、各機関ともゼロ近傍でわずかなプラス成長くらいでは「物足りない感」が残るようなコメントを残していますが、私にいわせれば、この+0.5%くらいが現時点の日本経済の潜在成長率、すなわち、日本経済の実力相当ではなかろうか、ということです。ですから、ニッセイ基礎研のヘッドラインにあるように、「大型の経済対策が必要な経済情勢とは思われない」との見方はエコノミストの間で少なくないと私も感じています。例えば、週刊「東洋経済」8月13-20日号の冒頭のコラムp.9で法政大学小峰教授が「経済対策への3つの疑問」と題して、「これほどの経済対策を必要とするような経済情勢だとは思えない。」などと指摘しています。まあ、決して28兆円の経済対策で日本経済がオーバーヒートして、制御不能なインフレ、あるいは、大きな経常赤字、はたまた、金利の急上昇などを引き起こすことはないと思いますが、どこまで財政にストレスをかけるかは、今後とも考慮すべき点かもしれません。
最後に、下のグラフは、いつもお世話になっているニッセイ基礎研のリポートから引用しています。

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2016年8月11日 (木)

つまらない守備のミスを連発して広島に逆転負け!

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阪  神000111000 372
広  島01000040x 550

守備のミスを連発して広島に逆転負けでした。藤浪投手の先発なんですから、中盤まで3-1のリードを守って、そのまま押し切らないと勝てない試合だった気がします。広島は阪神を下回る5安打ながら、5点を取ったソツのない攻撃が光りました。このまま広島が優勝すると、MVPは金本監督かも?

次の中日戦は、
がんばれタイガース!

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我が国経営者のお給料は少ないのか?

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上のグラフは、最新号2016年8月6日号の英国エコノミスト誌で、Bosses' salaries in Japan: Pay check と題する記事で取り上げられた画像を引用しています。
例のソフトバンク副社長だったアローラ氏のお給料や退職金などとも併せて、特に、一般労働者との格差や比率の観点から、我が国のCEOや経営者の給与水準を国際比較も通じて論じる記事です。まあ、「一億総中流」時代には、社長と平社員のお給料の格差が小さいのが日本のいいところ、みたいにいわれていたんですが、今では企業経営はすべて欧米にならうのが主流になってきた気がしないでもありません。

本邦最初の「山の日」の休日を楽しんでいます。でも、諸般の事情から、明日は出勤する予定です。

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2016年8月10日 (水)

前月比プラスに転じた機械受注とマイナス続く企業物価から何が読み取れるか?

本日、内閣府から6月の機械受注が、また、日銀から7月の企業物価(PPI)が、それぞれ公表されています。電力と船舶を除く民需で定義されたコア機械受注の季節調整済みの系列は前月比+8.3%増の8498億円を記録し、企業物価のうちのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は▲3.9%の下落と引き続き大きなマイナスを記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、6月は8.3%増 航空機や工作機械伸びる
内閣府が10日発表した6月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整値)は前月比8.3%増の8498億円だった。増加は3カ月ぶりで、伸び率は2016年1月以来5カ月ぶりの水準。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(3.5%増)を大幅に上回った。ただ内閣府は大幅に悪化した4-6月期実績を取り戻すほどではないとして、機械受注の判断を「足踏みがみられる」に据え置いた。
製造業からの受注額は17.7%増の3666億円と3カ月ぶりに伸びた。航空機で大型案件があったことが寄与したほか、前月の落ち込みの反動が出た。業種別では航空機や工作機械が伸びた。その他輸送用機械、はん用・生産用機械などが好調だった。非製造業では鉄道車両で大型案件受注があり、2.1%増の4838億円と4カ月ぶりに改善した。
前年同月比での「船舶、電力を除く民需」受注額(原数値)は0.9%減だった。
併せて発表した4-6月期の船舶・電力を除いた民需の受注額は2兆4312億円と前期比9.2%減にとどまった。4、5月の大幅悪化が響き、内閣府が5月に公表していた4-6月期見通し(3.5%減)を大幅に下回った。
7-9月期見通しは5.2%増を見込む。産業機械や工作機械の増加が見込まれるほか、4-6月期の反動増が見込まれる製造業が14.2%増と伸びる。非製造業は1.5%減にとどまる見通しだ。
7月の企業物価指数、前年比3.9%下落、原油安が影響
日銀が10日に発表した7月の企業物価指数(2010年=100)は前年同月比3.9%下落の99.2となり、16カ月連続で前年同月を下回った。下落率は市場予想の中央値(4.0%)より小幅にとどまった。原油安を背景に「石油・石炭製品」が下がった。「スクラップ類」も下落。「(スクラップと競合する)鉄鋼半製品の中国からの供給がアジアで増え、アジア市況が悪化したのが響いた」(調査統計局)という。
前月比では横ばいだった。毎年7-9月に適用される夏季割増料金の影響で、電力価格が上昇した。夏季電力割増料金の影響を除くと国内企業物価は前月比0.3%の下落だった。7月の原油価格の下落を反映し、「石油・石炭製品」が値下がりした。「電気機器」も下落した。需要期がすぎ、ルームエアコンが値下がりした。
円ベースの輸出物価は前月比で0.9%下落した。前年同月比では14.0%下がった。前年同月比での下落は15年8月以来、11カ月連続。円高の影響が響いた。「化学製品」はナフサの国際価格の下落でエチレンなどが値下がりした影響も出た。輸入物価は前月比で0.3%上昇し、前年同月比では21.7%下落した。
企業物価指数は企業間で売買するモノの価格動向を示す。公表している814品目のうち、前年同月比で上昇したのは230品目、下落は508品目となった。下落品目と上昇品目の差は278品目で、6月の260品目から拡大した。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。でも、2つの統計を並べるとどうしても長くなってしまいます。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は次の企業物価上昇率とも共通して景気後退期を示しています。

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まず、機械受注の動向ですが、上のグラフのうちの上のパネルを見ても明らかな通り、ほぼ下げ止まったんではないかという気はします。でも、コア機械受注の前月比で見て、4月▲11.0%減、5月▲1.4%減の後の6月+8.3%増ですから、ここ2-3か月の反動増の域を出るものではなく、引き続き、それほどの力強い回復ではないと私は受け止めています。海外需要は少なくとも先進国では反転し回復に向かっていますが、中国などの新興国ではまだ目立った反転回復の気配はなく、さらに、ここ数か月の円高が投資の回復にブレーキをかけているように見受けられます。四半期データでならして見ても、4-6月期のコア機械受注は前期比▲9.2%減と見通しの▲3.5%減を下回り、さらに、先行きの7-9月期+5.2%増と、増加に転じるものの力強さに欠け反動増の域を出ません。政策効果がどのように企業マインドや設備投資に現れるかを注目したいと思います。なお、6月のデータが利用可能となり、達成率も出ましたが、経験則である90%のラインは越えて95.1%を示しています。いつものグラフは省略です。

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次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の、下のパネルは需要段階別の、それぞれの上昇率をプロットしています。いずれも前年同月比上昇率です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。企業物価(PPI)はようやく下げ止まって来たと受け止めています。ただ、まだ▲4%近い下落ですので国際商品市況における石油価格次第とはいえ、ゼロ近傍ないしプラスに戻るのには少し時間がかかる可能性があります。この企業物価(PPI)から消費者物価(CPI)に波及して、最終的にCPIがマイナスを脱するのは今年暮れから来年初めと考えていたんですが、物価はさすがに persistent なものですから、現状の平均的な水準で、原油価格がバレル50ドル、為替がドル105円の水準を維持するとして、PPIからの波及を受けてコアCPIがゼロに戻るのが年末から来年初との予想をしているエコノミストが多そうな気がします。

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2016年8月 9日 (火)

日銀ワーキングペーパー「税務データを用いた分配側GDPの試算」やいかに?

かなり旧聞に属する話題かもしれませんが、日銀調査統計局からワーキングペーパーとして「税務データを用いた分配側GDPの試算」と題する研究成果が公表されています。もちろん、pdfの全文ぺーパーもアップされています。まず、長くなりますが、ペーパーの要旨を日銀のサイトから引用すると以下の通りです。

要旨
我が国の経済の実態を把握するうえで最も重要な統計であるGDP統計を、税務データを用いて分配側から推計するとどうなるのだろうか。現行GDP統計では、「GDPにおける三面等価の原則」に従い、分配側GDPは、支出側、生産側GDPに等しくなるように、営業余剰・混合所得を調整している。本稿では、米国の例も参考にしながら、税務データ等を利用し、営業余剰・混合所得の直接推計を試みる。また、その際、現行GDP統計では毎月勤労統計、労働力統計等から推計している雇用者報酬についても、税務データから推計した。得られた結果からは、支出側、生産側GDPと、本稿で試算された分配側GDPとは大きなかい離がみられた。こうしたかい離がなぜ生じているのかについてはさらに詳細な分析が必要であり、本稿で試みた直接推計の手法についてもなお改善の余地があろうが、ここでの試算値は、日本経済をみるうえで、ひとつの視座を与えるものと思われる。

上の要旨には支出側・生産側GDPと本ペーパーで試算された分配側GDPがかい離している、としか書かれていませんが、実は、日銀試算の分配側GDPは政府の算出している支出側GDPより上方にかい離しています。すなわち、政府の公式統計になるGDPは過小推計の可能性があるのではないか、と日銀は主張したいのであろうと、私は想像しています。ということで、いくつかグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。ただし、このペーパーでは、税務統計から分配側のGDPを試算していますので、上の要旨にもある通り、法人と個人の両方あって、法人税から営業余剰などを、また、個人所得税から雇用者報酬を、それぞれ試算しているところ、今夜のブログでは個人所得の雇用者報酬について着目したいと思います。

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まず、上のグラフはぺーパーから 図表10 賃金・俸給の試算値と現行値の比較 の (1) 水準 を引用しています。見れば明らかな通り、最近時点で賃金・俸給の試算値は現行GDP統計を10兆円を上回ってかい離しています。個人所得だけをとってもこれくらいのかい離があると、日銀は主張しているわけです。もっとも、我々が所得に比べて税金を取られ過ぎているのかもしれません。

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次に、法人も合わせたかい離幅を示すグラフとして、上のグラフはぺーパーから 図表21 試算値(分配側GDP)と現行値(支出側GDP) を引用しています。これもグラフを見れば明らかな通り、直近の2014年度では30兆円近いかい離が指摘されています。ひょっとしたら、法人も税金を納め過ぎているのかもしれません。まあ、そんなことはなさそうな気もします。むしろ、安倍内閣の目標である名目GDP600兆円達成の現実性が高まったのかもしれません

私は統計局勤務の経験こそあれ、GDP統計の経験はなく、国連のSNAマニュアルに基づくコモディティ・フロー推計などにも詳しくないんですが、おそらく、政府統計である限りは現行のGDP統計は国連マニュアルに従って作成されているハズで、日銀試算はあくまでひとつの研究成果と受け止めています。

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2016年8月 8日 (月)

大きく改善した景気ウォッチャーと黒字が定着しつつある経常収支!

本日、内閣府から7月の景気ウォッチャーが、また、財務省から6月の経常収支が、それぞれ公表されています。景気ウォッチャーの現状判断DIは前月から+3.9ポイント上昇して45.1を記録した一方で、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+7636億円の黒字を計上しています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

街角景気、4カ月ぶり改善 7月3.9ポイント上昇
内閣府が8日発表した7月の景気ウオッチャー調査の現状判断指数は、前月より3.9ポイント上昇し、45.1だった。上昇は4カ月ぶり。英国の欧州連合(EU)離脱問題などで乱高下した金融市場が落ちつきを取り戻し、景況感が改善した。これまで「引き続き弱さがみられる」としていた基調判断を1年4カ月ぶりに上方修正し「持ち直しの兆しがみられる」とした。
タクシー運転手や百貨店の販売員ら約2千人に景況感を聞いた。家計、企業、雇用の3分野全てで上昇した。調査期間は7月25日から月末。景況感の節目となる50は1年連続で下回った。
家計動向は小売りやサービスでの改善が目立った。特に百貨店では夏の一斉セール開始で「婦人服に回復の兆しがみえる」(東北の百貨店)。新車販売も「ボーナス商戦で新車購入の動きが活発」(東海の乗用車販売店)との声もあった。
企業関連では「自動車メーカーの北米輸出が増加」(北関東の輸送用機械器具製造業)。雇用関連では「建設部門の日雇い求人数が増加に転じ始めた」(近畿の民間職業紹介機関)など人材確保の動きが活発になっている。
2-3カ月後の景気を聞いた先行き判断指数は5.6ポイント上昇の47.1となった。上昇は2カ月ぶり。
6月の経常収支、9744億円の黒字 原油安で貿易黒字拡大
財務省が8日発表した6月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は9744億円の黒字だった。黒字は24カ月連続。原油安で貿易収支の黒字幅が拡大した。
貿易収支は7636億円の黒字と、黒字幅は前年同月から6409億円拡大した。原油や液化天然ガス(LNG)など燃料価格が下落し、輸入額が5兆705億円と20.2%減少。自動車や鉄鋼などの低迷で輸出額も5兆8341億円と9.9%減少したが、輸入額減少による影響が上回った。
サービス収支は1676億円の赤字だった。ただ、訪日外国人の増加を背景に旅行収支が1996年以降の6月として過去最大の黒字となり、赤字幅は前年同月に比べて293億円縮小した。
第1次所得収支は4175億円の黒字と、黒字幅は前年同月に比べて2251億円縮小した。円高が進み、企業が海外子会社から受け取る配当金収入や証券投資からの収益が目減りした。
同時に発表した1-6月期の経常収支は10兆6256億円の黒字だった。1-6月としては、リーマン・ショック前の07年(12兆6993億円の黒字)以来、9年ぶりの高水準だった。貿易収支は2兆3540億円の黒字と、東日本大震災が発生した11年の1-6月期(1668億円の黒字)以来、5年ぶりに黒字へ転換した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。色分けは凡例の通りです。また、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは前月から+3.9ポイント、先行き判断DIにいたっては+5.6ポイントの大幅な上昇を示し、私も少しびっくりしました。上のグラフでも7月のDI跳ね上がっているのが見て取れます。小売関連とサービス関連を中心に家計動向関連が前月から+4.3ポイント上昇したほか、企業動向関連でも製造業・非製造業とも+3ポイントを超える上昇を示しています。雇用関連も+3.2ポイントの上昇です。前月6月のDIが英国のEU離脱に過剰に反応した反動とは、少なくとも私は考えていないんですが、これだけ大きく改善しましたので、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「弱さがみられる」から「持ち直しの兆しがみられる」に上方修正しています。景気ウォッチャーが供給サイドのマインドの代表格であるのに対して、先週8月2日に同じ内閣府から公表された7月の消費者態度指数は需要サイドのマインド指標なんですが、消費者態度指数は7月に低下しており、供給サイドの景気ウォッチャーが改善したわけですから、弱気一辺倒だった消費者マインドは転換期に差しかかっているのかもしれません。

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次に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれませんが、経常収支についてもかなり震災前の水準に戻りつつある、と私は受け止めています。ただし、引用した記事にもある通り、経常黒字の背景は国際商品市況における石油価格低下であり、場合によっては、石油価格の動向という不透明な要因支えられていることは忘れるべきではありません。特に、先週8月5日に公表された米国貿易統計では6月の米国貿易赤字が▲445億ドルと、5月の▲410億ドルから拡大しており、その大きな要因は石油価格の上昇であるとされています。我が国の貿易収支や経常収支でも石油価格の上昇は赤字の方に振れる要因となることはいうまでもありません。また、円高による所得収支の減少も企業活動にどのような影響を及ぼすかも懸念されます。

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2016年8月 7日 (日)

先週の読書は経済書や教養書に小説と新書まで含めて計8冊!

少し多めに読んでしまって、先週は8冊です。先週の6冊よりも新書をパラパラと手速く読んだ分、それと、昨日に米国雇用統計が割り込んで営業日ならぬ読書日が1日多かったのが寄与して、2冊多いのかもしれません。読書感想文は手短かに済ませておきたいと思います。

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まず、坂井豊貴『「決め方」の経済学』(ダイヤモンド社) です。著者は慶応大学の経済学の研究者で同じような著作が何冊かあり、私も読んだことがあります。ということで、民主主義の下で、例えば、選挙で東京都知事を選ぶということになれば、当然のように多数決ということになり、先日その民意が示されたところです。しかし、本書の著者は、過去何冊か私が読んだ同じ著者の解説書や入門書と同じで、ボルダ・ルールやウェイト付きの投票などを持ち出して、現在の選挙の投票制度のような単純多数決に対置しています。著者は、決して、単純多数決を批判しているわけではないんですが、ほかのオルタナティブを示しているわけです。ただ、この著者の本を読んでいて残念に思うのは、第1に、「決め方」が羅列されていて、いくつかの異なる選択対象や目的に対して、いくつかの選択手段がある、というだけで、私の表現に従えば、「決め方の決め方」、すなわち、「決め方」の評価関数があいまいです。どういった選択対象あるいは選択目的に対して、どういった選択方法がいいのか、また、そのセカンドベストな選択方法はなにか、さらにさらにで、その選択方法のコスト、経済的なコストや社会的なコストがどうなるのか、これらが明らかではありません。繰り返しになりますが、この著者の本どれを読んでも、「決め方の決め方」まで掘り下げられていません。ただ、この本については、一見多数決で決めているように見えて、実は暴力的に決定されているケースに話が及んでいるのは進歩かもしれません。ということで、第2に、この著者の本は何冊か読みましたし、本書の裏表紙の見返しにも何冊か著作リストがありますが、どれも同工異曲で同じことを何度も聞かされたような気がします。ボルダ・ルールやスコアリングの方法論などは何度も同じ内容を読んだ気がしますし、時局に合わせて憲法改正や大阪都構想の府民投票結果などを盛り込んで、著者なりに工夫しているんですが、どれか1冊を読めばそれでいいような気もします。できれば、その1冊には「決め方」に関する評価関数、くだけていえば、「決め方の決め方」が書かれているともっといいような気がします。

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次に、中島隆信『高校野球の経済学』(東洋経済) です。著者は慶応大学商学部教授であり、お子さんも高校の野球部員だそうですが、これまでにも『大相撲の経済学』や『お寺の経済学』などの著書もあります。これらのご著書を私は読んだことはありませんが、ちょうど我がタイガースも高校野球に甲子園を明け渡したところですし、季節感にもピッタリなので本書は借りてみました。著者は高校野球の本質について、というか、高校野球連盟(高野連)の考える高校野球の本質について、勝つことを目的としたスポーツとしての競技性、教育の一環としての教育性、郷土愛を燃え上がらせるような文化性、そして、かつてのオリンピックのようなアマチュアリズムの権化としての非商業性の4要件を上げ、p.202に図示しています。高野連が甲子園球場に球場使用料金を支払っていないとか、逆に、NHKから放映権を受け取っていない、などの非商業性は私も薄々聞いてはいたんですが、フェアプレーがここまで徹底されているのも、やや不気味な気がしましたし、過酷な投手起用についても教育としての役割を超えて競技性に偏りすぎているとの本書の指摘はもっともと受け止めました。ただ、野球がスポーツとして非効率なのはいいとしても、教育のひとつの手段として適当なのか、あるいは、2020年東京オリンピックも見据えて国際性についても高校野球の視点から論じて欲しかった気はします。確か、最近号で週刊「東洋経済」は高校野球の特集を組んでいた記憶があり、繰り返しになりますが、季節柄、戦争と高校野球についてはメディアでも注目されているような気がします。

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次に、町田祐一『近代日本の就職難物語』(吉川弘文館) です。明治末期日露戦争機の不況の時期から昭和初期までの本書のタイトルと通りの内容です。大学を出ても、修めた学問にふさわしいホワイトカラーの職がなく、就職せずにアルバイトや仕送りなどで暮らしている「高等遊民」について、簡単な歴史をひも解いています。それなりに学問を修めた「高等遊民」は適当な就職ができないと、いわゆる「危険思想」に取り込まれて、「不穏分子」となる恐れがあって、政府をはじめとして産業界や大学も対応に苦慮します。政府からは、思い切った大学入学者半減案も持ち出されたりしていたようです。大卒生の希少性を維持するために、いつぞやの大臣が新設大学の許可を取り消す、なんぞといった騒動もありましたが、その昔はもっとえげつないことを考えていたようです。しかし、もう少し現在に近い時点まで視点を移動させて、戦後の人手不足の中で新卒一括採用に至る経緯までカバーしておけば、ほぼほぼ完璧だったという気もします。それにしても、就職からあぶれた就職難民を「自己責任」とか「高望み」と批判する既得権益者の世代が、いつの時代でも存在するのだということが実感できました。私のようなエコノミストとしては、新卒一括採用とともに、就職のバックグラウンドとなる景気についてももう少し掘り下げて欲しかった気もします。

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次に、山村博美『化粧の日本史』(吉川弘文館) です。現在の女性のお化粧という狭義の意味だけでなく、髪型や刺青なんかも含めた概念としての化粧の日本史です。さすがに、実感があるのは徳川期以降であり、特に、明治維新からの文明開化の時期には西洋風の服装とともに、髪型や狭義の化粧も西洋化したのは当然ですし、第2次大戦期に「贅沢は敵だ」とばかりにパーマや華美な化粧も排斥されましたが、戦後になって米国一辺倒の世の中で、米国流の化粧や衛生面からの洗顔や入浴などの習慣も導入された様子がイキイキと描き出されています。時代や地域の化粧の中心地として、日本ではかつての京の公家から江戸の歌舞伎などの芝居や吉原に移った経緯、さらに、価値観の相違として、諸外国や現在の日本のようにパッチリと大きな目が好まれるのではなく、我が国の古典古代や平安時代から徳川期くらいまでは浮世絵に描かれたような細くて切れ長の目が好まれていたなど、忘れられた過去の事実にも目が向いてしまいます。その昔の日本独自のお歯黒と眉剃りはすでに現在ではほとんど見られなくなり、西洋にならった化粧になびくようになったとはいうものの、まだまだ日本の独自性を発揮する化粧や服装の文化もあります。例えば、化粧ではなく服装が中心かもしれませんが、現在の日本を代表する「カワイイ文化」の化粧にも触れて欲しかった気がします。ただ、映画「テルマエロマエ」では、日本人は「平たい顔の一族」と呼ばれていて、彫の深い立体的な顔になるためには、美容整形を別にすれば化粧しかないわけで、そのあたりの苦労は、特に女性の苦労かもしれませんが、よく理解できたような気がします。

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次に、石原慎太郎『天才』(幻冬舎) です。今年上半期の大ベストセラーです。私が見たトーハンのサイトでは2016年上半期ベストセラー第1位であり、4位の『羊と鋼の森』や5位の『君の膵臓をたべたい』や6位の『火花』などの小説の上位を占めていました。作者の「長い後書き」にこの小説を書いたきっかけが明らかにされていますが、政権与党の自民党の中では金権腐敗批判の急先鋒だった政治家としての著者が、その批判の先となる田中角栄を1人称で書き下ろした小説です。著者ご本人もp.123に1回だけ登場します。p.148をはじめとして、田中角栄の転落を売国の陰謀のように描き出していますが、何せ日本のような経済大国の総理大臣を務めた人物ですから、政治を離れた生い立ちなどの私生活も含めて読ませどころがいっぱいあります。巻末に参考文献を30冊ほど上げてあるのも評価できます。田中角栄が亡くなったのは1993年ですが、江戸所大の武士が主人公の小説が大好きな私としては、もはやこの作品は時代小説に近いのかもしれません。

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次に、湊かなえ『ポイズンドーター・ホーリーマザー』(光文社) です。タイトルから明らかな通り、母娘の確執をモチーフにしており、この作者独特のモノローグの手法も駆使して、読後感の悪い「イヤミス」に仕上がっています。私は男親ですし、我が家は倅2人で娘はおらず、こういった母娘関係には疎いんですが、男親と息子の関係についてはオイディプス・コンプレックスで説明する場合があり、母娘関係は同様にエレクトラ・コンプレックスを持ち出す場合もありますが、本書はかなり違った見方を提供しているように思います。基本は、「マイディアレスト」、「ベストフレンド」、「罪深き女」、「優しい人」、「ポイズンドーター」、「ホーリーマザー」の5話を収録した短編集なんですが、短編集のタイトルとなっていることからも理解できるように、最後の2編は連作になっています。アチコチの書評でも見かける通り、この著者のデビュー作で、私の考えるに、いまだに代表作の筆頭に上げられる『告白』の原点に回帰した作品です。『告白』は娘の死に直面した母親が教師としての顔を持って生徒に迫る内容でしたが、この作品では、母と娘の関係についてどちらからも自分自身が被害者であり、「被害者はコッチで加害者はアッチ」、という、いかにもジコチューな女性たちを小説で取り上げています。ミステリとしての謎解きの部分はいろんな評価があるものと思いますが、ドロドロした人間関係やいかにも毒のある言動と行動、などなど、ある意味では、この作者の力量をいかんなく発揮した作品ではないでしょうか。私はこの作者の作品としては、『告白』に次ぐ代表作ではないかと受け止め、高く評価しています。

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次に、岩瀬昇『原油暴落の謎を解く』(文春新書) です。著者は三井物産で長らく石油のブジネスに従事してきた実務家です。タイトルから明らかな通り、2015年夏場からの国際商品市況での石油価格暴落について焦点を当てています。本書の分析も基本的に同じなんですが、私は今回の石油価格暴落は過去の、例えば、1980年代や本書でも注目している1997年末のジャカルタの悲劇の後の逆オイル・ショックとは要因が違うと考えています。すなわち、過去の石油価格暴落の時には、少なくとも、世界経済全体としては順調な拡大期にあり、1980年台はドル高が、1997-98年はアジア通貨危機が問題点となっていましたが、このところの石油価格低落はハッキリと世界経済、特に石油大量消費で成り立っている中国などの新興国経済の低迷に起因します。もちろん、米国のシェール革命による供給サイドの要因も無視できませんが、過去の、特に1970年代の2度に渡る石油危機、これは石油価格を上方シフトさせるショックでしたが、下方シフトさせるショックも含めて、かなり多くの石油価格ショックは供給サイドに起因していましたが、今回は需要サイドにもっとも大きな原因があるように私は感じています。また、本書でも作者が嘆いているように、アラブの王様とロックフェラーの取引で石油価格が決まっているわけではなく、市場における需給で価格が決まるという経済学の基本をしみじみと感じました。

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最後に、井上寿一『昭和の戦争』(講談社現代新書) です。著者は学習院大学の学長を務める政治外交史の研究者であり、同じ出版社の講談社選書メチエ『終戦後史 1945-1955』も私は読んだ記憶があります。昨年2015年9月12日付けで読書感想文をアップしてあります。ということで、本書は副題が「日記で読む戦前日本」とされており、昭和3年の張作霖爆殺事件から始まって、いわゆる満州事変・日中戦争、さらに、欧州で始まった第2次世界大戦、太平洋戦争からその終戦=敗戦までをスコープとしています。もちろん、日記に当たったからといって、特に何か新しい発見があるわけではありませんが、基本的には軍人や政治家などの木戸日記、あるいは、天皇陛下側近の侍従武官長だった奈良日記などが主たる日記のソースになりがちなところ、財界人や学者、さらに、永井荷風や山田風太郎などの作家、さらに、コメディアンの古川ロッパなどのやや庶民的な視点を取り入れて、かなり一般ピープルの感触に近い戦争観を描き出そうと試みています。何となく、私の勉強不足や認識不足なのかもしれませんが、国際連盟脱退に至る過程などで、脱退回避を強力に模索した時期があったことなどを勉強させられましたし、日米開戦前から一定の知的水準に達した階層では日米間の広い意味での国力の違いには十分な認識が浸透しており、開戦前の昭和15年の段階ですでに米国からの爆撃機の空襲に関する恐怖が存在した一方で、真珠湾攻撃に成功したために、一気に対米強気論に転じた人も少なくなかった印象を本書では醸し出そうとしているような気がします。さらに、日中戦争では戦意を煽るような記事を書けば新聞の部数が伸びる、などの一般国民の認識の一端を伺わせる記述もあります。最後に、もう少し、新聞記者などのジャーナリストの日記を取り上げて欲しかった気もします。

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2016年8月 6日 (土)

メッセンジャー投手が序盤にKOされてヤクルトにボロ負け!

  HE
阪  神000100000 161
ヤクルト00500001x 6110

先発メセンジャー投手が3回にOKされてヤクルトにボロ負けでした。打線も福留選手のホームランの1点に抑えこまれ、山中投手に完投を許してしまいました。いいところなく試合が終わってしまいましたが、このカードにしては早く終わりましたので、私はリオ五輪の女子バレーを見たいと思います。

明日は、
がんばれタイガース!

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リオ・デジャネイロでオリンピック開幕!

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日本時間の本日、リオ・デジャネイロでオリンピックが開幕しました。早くもサッカーは負けたりしていますが、これから熱戦が繰り広げられます。4年後は東京です。

がんばれニッポン!

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大幅な増加示した米国雇用統計の雇用者増から米国金利の再引上げを考える!

日本時間の昨夜、米国労働省から7月の米国雇用統計が公表されています。金融政策動向と合わせて注目されていたところ、非農業雇用者数の増加幅は+255千人と前月から大きく伸び、失業率は前月と同じ4.9%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから最初の3パラだけ記事を引用すると以下の通りです。

Strong Job Gains, for Second Month, Reframe Economic Outlook
After months of conflicting signals and economic uncertainty, it became clear on Friday that the American jobs machine has moved back into high gear.
A report from the Labor Department that said employers added 255,000 jobs in July had been eagerly anticipated on Wall Street, in Washington and on the campaign trail, and the much-better-than-expected showing immediately rippled through all three arenas.
Stocks surged, experts expressed more confidence that the Federal Reserve was likely to raise interest rates at least once this year, and it was evident that long-stagnant wages for ordinary workers were advancing at a more robust pace.

この後、さらにエコノミストなどへのインタビューや米国大統領選へのインプリケーションの分析が続きます。包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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米国雇用統計でもっとも注目される非農業部門雇用者数の伸びは、5月に大きく減速して+24千人増を記録した後、6月には急回復して+292千人増、そして、この7月も+255千人増の伸びを示し、+200千人に達しないとの市場の事前コンセンサスを上回りました。5月も含めた3か月の単純平均の伸びが+190千人増ですから、ひとつの目安とされる+200千人増には及びませんが、かなり近いラインであることも確かです。業種別ではヘルスケアなどのサービス業が大きく伸びたほか、長期的に減少傾向にある製造業でも先月に続いて2か月連続で雇用者が増えています。
金融市場的には、もっとも不確実性が高いのが英国のEU離脱、すなわち、BREXITなんですが、8月のバカンスの季節は欧州では動きはありません。米国連邦公開市場委員会(FOMC)はほぼ6週間に1回開催され、前回7月26-27日の次の開催は9月20-12日が予定されていますから、もう1回、すなわち、8月の雇用統計についても考慮することとなります。もちろん、雇用統計以外にも各種経済指標が参照されることは明らかですが、取りあえずは、8月25-26日に予定されているジャクソン・ホールでのシンポジウムを私は注目しています。カンザス・シティ連銀がホストするジャクソン・ホール会合のサイトは以下の通りです。

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また、日本やユーロ圏欧州の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。サブプライム・バブル崩壊前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、まずまず、コンスタントに+2%のラインを上回って安定して推移していると受け止めており、少なくとも、底割れしてかつての日本や欧州ユーロ圏諸国のようにゼロやマイナスをつけてデフレに陥る可能性は小さそうに見えます。

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2016年8月 5日 (金)

藤浪投手7回2安打無失点さらに1打点でそろそろ復活か?

  HE
阪  神020010023 8131
ヤクルト000000000 020

先発藤浪投手が7回を2安打無失点に抑えヤクルトに快勝でした。打線も序盤から活発に打ち、特に、高山外野手の3打点、ゴメス選手と伊藤隼太外野手の4安打が目立ちました。投げる方でも、藤浪投手をリリーフした安藤投手と松田投手が大量得点差をバックに余裕のピッチングで、ヤクルト打線を完封リレーしました。福留選手のお休みにもかかわらず、打棒と投手陣の好投がかみ合った快勝でした。

明日もこの調子で、
がんばれタイガース!

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本日公表の毎月勤労統計と景気動向指数から景気の先行きについて考える!

本日、厚生労働省から6月の毎月勤労統計が、また、内閣府から同じく6月の景気動向指数が、それぞれ公表されています。注目の賃金は季節調整していない原系列の前年同月比で+1.3%の上昇を示し、また、CI一致指数は前月から+1.3ポイント上昇して110.5を記録しています。2か月振りの上昇です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

名目賃金、6月1.3%増 ボーナス増加
厚生労働省が5日発表した6月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、名目にあたる従業員1人当たりの現金給与総額は43万797円と、前年同月比1.3%の増加となった。増加は3カ月ぶり。ボーナスが前年とくらべて増加したため。物価変動の影響を除く実質でみた賃金指数は前年同月比1.8%増で、5カ月連続で増加した。
名目の給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は0.1%増の24万1746円。前年同月の水準とほぼ横ばいだった。
ボーナスや通勤費にあたる「特別に支払われた給与」は3.3%増の17万20円。正社員のボーナスは6月に予定通り支払われたとみられ、しかも幅広い業種で増額している。とりわけ不動産・物品賃貸業(36.1%増)、飲食サービス業(23.8%増)の増加が目立った。
実質賃金の増加は給与の伸びが物価の伸びを上回っていることを示す。6月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比0.5%下落し、実質賃金の伸び幅が名目より大きくなった。厚労省は「賃金は緩やかな上昇傾向にある」としている。
景気一致指数、1.3ポイント上昇 6月、判断「足踏み」で据え置き
内閣府が5日発表した6月の景気動向指数(2010年=100、速報値)で、景気の現状を示す一致指数は前月比1.3ポイント上昇の110.5だった。上昇は2カ月ぶり。内閣府は一致指数の基調判断を「足踏みを示している」に据え置いた。
前月と比較可能な8指標のうち6指標が一致指数のプラスに寄与した。なかでも電子デバイス関連や輸送用機器の出荷が伸びたことで、鉱工業用生産財の出荷指数が改善した。耐久消費財の出荷指数も上昇した。商業販売額(卸売業)は指数全体を上昇を抑える要因になった。
数カ月先の景気を示す先行指数は横ばいの98.4だった。鉱工業用生産財在庫率指数や消費者態度指数がプラスに寄与した。新規求人数や東証株価指数はマイナスに働いた。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、毎月勤労統計のグラフは下の通りです。順に、上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、まん中のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与の季節調整していない原系列の前年同月比を、下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用指数の推移を、それぞれプロットしています。影をつけた期間は、次の景気動向指数のグラフとも共通して、景気後退期です。

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注目の現金給与総額指数は原系列の前年同月比で+1.3%増と、賞与などの特別給与が増加しています。ただし、所定内給与は前年同月比で+0.1%増となっており、消費拡大に結びつきやすい恒常所得部分はまだまだです。ただし、上のグラフで見られる通り、一番下のパネルのフルタイムの一般労働者の伸びが高まっており、給与よりも正社員としての待遇が改善している可能性があります。もしもそうだと仮定すれば、将来の渡って安定的な所得を得られる可能性が高まり、「経済財政白書」で分析されていたような子育て期の不安が解消される方向にあるのかもしれません。なお、シンクタンクや金融機関などから入手したニューズレターの中に、最低賃金が3%引き上げられると、最低賃金近傍の時給で働く労働者が約340万人で6%程度いることから、全体のマクロの賃金総額で+0.2%くらいの増加に当たる、とのラフな試算が示されていたりしました。コチラはご参考です。

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続いて、上のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。何といっても、景気と相関の高い鉱工業生産指数の生産や出荷が6月は増加していますので、鉱工業生産指数にシンクロしてCI一致指数も上昇しているのだと私は理解しています。それはそれで結構なことなんですが、CI先行指数は前月と同じ水準であり、先行き景気が緩やかな回復・拡大にあることは明らかとしても、それほどテンポアップするようにも見えません。

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2016年8月 4日 (木)

国勢調査に見る我が国の少子高齢化やいかに?

とても旧聞に属する話題で、しかも、今さらながらなんですが、7月20日付けで総務省統計局から、昨年実施された国勢調査の速報結果を引用して、「平成27年国勢調査 - 抽出速報集計結果からみる高齢化社会」と題するトピック資料が公表されています。諸般の事情から、グラフを引用して簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは総務省統計局のサイトから年齢(3区分)別人口の割合の推移のグラフを引用しています。今さらなんですが、総人口を上のグラフにある通りの年齢3区分別に見ると、15歳未満人口は1586万4千人、15-64歳人口は7591万8千人、65歳以上人口は3342万2千人となっており、グラフに見る通り、総人口に占める割合は、15歳未満人口は12.7%、15-64歳人口は60.6%、65歳以上人口は26.7%に上り、65歳以上人口が初めて総人口の4人に1人を超えました。同時に、15歳未満人口の割合は調査開始以来最低となり、少子高齢化が進んでいることが分かります。

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次に、前回と今回の国勢調査で比較した都道府県別65歳以上人口の割合のグラフを総務省統計局のサイトから引用すると上の通りです。左から、昨年調査における比率の高さでソートしてあります。秋田県が33.5%と最も高く、沖縄県が19.7%と最も低くなっています。同時に、沖縄県の65歳以上人口の割合が、15歳未満人口の割合(17.2%)を上回ったことで、全都道府県で65歳以上人口の割合が15歳未満人口の割合を初めて超えてしまいました。今さらながら、何とも仕方のないことかもしれません。

最後に、人口減少とも高齢化とも少子化とも関係ないんですが、国勢調査における「不詳」が増加しています。例えば、総務省統計局のサイトで見て、年齢不詳者は1995年131千人から、2000年229千人、2005年482千人、2010年976千人、2015年1,906千人とほぼ倍々ゲームのような増え方をしていたりします。私は統計局に在勤した経験から、決して統計局の調査のやり方に、いわば「手ぬるさ」みたいなものがあるわけではないと認識しており、やや常識を逸脱したカギカッコ付きの「プライバシー意識の高まり」に起因している部分が大きいのではないかという気もします。基礎的な統計調査に対する協力は、決して、国民としての義務ではないかもしれませんが、それなりの良識をもって対応したいと思わないでもありません。

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2016年8月 3日 (水)

都知事選に関するソーシャル・メディア分析の結果やいかに?

日曜日に投開票の終った東京都知事選挙ですが、直前の7月29日付けでデータセクションから「ソーシャルメディア分析から見る2016年東京都知事選」と題する分析結果が公表されています。まず、データセクションのサイトから調査結果サマリーを3点引用すると以下の通りです。

調査結果サマリー
  1. 小池百合子氏に対する若年層の支持が徐々に増加
  2. 出馬当初の鳥越俊太郎氏への関心が高いが、週刊誌報道以降は下降傾向
  3. 増田寛也氏に対する関心は、他の候補者二人と比べてかなり低い

選挙結果はすでに明らかな通りで、小池候補が都知事に当選したわけですが、ソーシャル・メディアから投票直前の時点でどのように分析されていたかは興味ありますので、グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは男女別・年齢別で見た候補者に関する投稿の割合です。性別では男女とも小池候補がトップなんですが、特に女性からの投稿が多く、年齢別では小池候補が若い世代からの投稿の割合が高いのに対して、鳥越候補と増田候補は年齢層が上がるにつれて投稿の割合が増加しているように見えます。特に、シルバー。デモクラシーとの関係で、私が勝手に注目している65歳以上の高齢者層では、鳥越候補が小池候補を投稿の割合で逆転しています。

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次に、上のグラフは候補者に関するニュース記事数とツイート数です。日を追ってプロットしてあります。ニュース記事数もツイート数も、いずれも支持と不支持を区別できませんから、例えば、ニュース記事数について、全体的に鳥越候補に関するニュースが多い一方で、特に記事が急激に増えたタイミングは「出馬表明時」と「週刊誌によるスキャンダル疑惑の報道」であるものの、週刊誌報道以降はネガティブな記事が増加していると分析されています。また、データセクション社の過去の分析経験から、ポジ/ネガに関係なくツイート数の多さと支持の大きさは連動する傾向にあるとの分析結果を示した上で、選挙の最終週に小池候補が鳥越候補をツイート数で逆転したグラフが示されています。

どこまでソーシャル・メディアと選挙結果の相関があるのか、因果関係を示しているのか、などの疑問は私の中では解消されませんが、いずれにせよ、なかなか興味ある分析結果だという気はします。

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2016年8月 2日 (火)

今年の「経済財政白書」の分析結果やいかに?

本日、内閣府から今年の「経済財政白書」が公表されています。副題は「リスクを越えて好循環の確立へ」とされており、さまざまな分析がなされています。大部なリポートであって、私もまだ全文を読み通したわけではありませんが、グラフとともに2点ほど私が注目したポイントを取り上げておきたいと思います。取りあえず、公表当日中にブログにアップしておくのも意味あることではないかと自負しています。

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まず、上のグラフは白書 p.11 第1-1-2図 為替市場の動向と株価の推移、我が国と英国及びEUとの経済関係 を引用しています。すなわち、白書冒頭の 第1章 景気動向と好循環の確立に向けた課題 の中でもそのまた冒頭の 第1節 景気の現状と好循環の確立に向けた課題 において、景気の現状に続いて我が国経済が抱えるリスク要因が分析されており、最初の p.10 で英国のEU離脱、いわゆるBREXITが我が国経済が抱えるリスク要因の筆頭に取り上げられています。すなわち、「国際金融資本市場は大きく変動し、我が国においても、ドル円レートは一時1ドル=100円を割り込むなど円高方向に推移し、株価も1万5,000円台を割り込む局面もあった」として、その背景資料となっています。その上で、BREXITから我が国経済への波及として以下の3つのルートを提示しています。

  1. 金融資本市場の変動による影響
  2. 不確実性の高まりによる影響
  3. 今後の英国とEUの関係の変化が貿易や投資に直接的に及ぼす影響

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次に、上のグラフは白書 p.32 第1-2-3図 若年子育て期世帯の将来不安 を引用しています。すなわち、第1章 第2節 個人消費の伸び悩みとその要因 では、力強さを欠く個人消費の構造的要因として、家電エコポイント制度などの各種施策等による需要の先食いが耐久財の消費に影響していることを指摘しつつ、世代別に分析すると、世帯主が39歳以下である若年子育て期世帯に着目し、可処分所得の増加に比して消費支出が抑制されていることから、子供に対する保育料や教育資金、社会保険料などの負担が発生する中で、将来も安定的に収入を確保できるのか、老後の生活設計は大丈夫なのかといった将来不安に基づいて若年子育て期世帯で消費抑制が生じている可能性を指摘しています。世代間不平等のしわ寄せを受けている世代で消費抑制が生じている可能性があり、私の従来からの主張にも合致しており、さすがに白書の着眼点の確かさを確認した思いです。

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なお、今日、同じく内閣府から7月の消費者態度指数も公表されています。いつものグラフは上の通りです。前月から▲0.5ポイント低下し41.3を記録しています。消費者マインドは相変わらず低調であると受け止めています。

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2016年8月 1日 (月)

ポケモンGOに関するビッグデータ分析やいかに?

NTTデータのデータサイエンティストの分析に基づくニュースを届けてくれるイマツイから、先週木曜日の7月28日付けで、「データサイエンティストがポケモンGOに関する話題を分析!」と題して、2016年7月22日の配信開始からの3日間のポケモンGOに関する話題量を分析した結果が明らかにされています。それによれば、天空の城ラピュタの名シーン「バルス!」の瞬間にツイッター民が一斉につぶやくバルス祭りの今年の1日の総ツイート量が180万ツイートだったのに対して、ポケモンGOについては配信日当日の話題量は600万ツイート、翌日300万、翌々日250万と、何と3日間合計で1200万ツイートに及んだそうです。

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時間別の3日間の話題量推移は上のグラフの通りです。配信開始当日は海の日を含む3連休直前の金曜日に当たりますが、社会人定時の18時に第2の山が来ており、ビジネスパーソンにも大きな話題となっていたことが指摘されています。

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