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2016年9月10日 (土)

今週の読書はペースアップしてしまって何と8冊!

ここ2-3か月、やや読書が過剰な気がしていましたが、先週末のペースダウンの固い決意にもかかわらず、今週も8冊読んでしまいました。7月、8月と研究成果のペーパーを取りまとめ、特に、8月末に取りまとめたリサーチノートは90ページを超える大作でしたので、仕事が一段落した雰囲気もあり、臨時国会が始まる前の今の時点でせっせと読書に励んでしまいました。来週もこうなるかもしれませんが、出来る限り、徐々にペースダウンしたいとは予定しています。

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まず、リチャード・セイラー『行動経済学の逆襲』(早川書房) です。著者はここ数年以内にノーベル経済学賞を受賞してもおかしくないクラスの経済学者です。特に、専門分野は本のタイトル通り、行動経済学であり、時折、実験を行ったりするので実験経済学にもかかるかもしれません。本書はセイラー教授の研究に関する半生を自伝的に行動科学とともに取りまとめています。英語の原題は Misbehaving であり、まあ、合理的でない経済行動という意味だと理解していますが、不具合のあるプログラムとか子供のイタズラなどの意味もあります。ということで、行動経済学ですから、経済合理的な行動をとるエコンの世界と、そうでなく、例えば、サンクコストにこだわったり、自分の持ち物に特に愛着を感じる保有効果などをもつヒューマンを例えとし、伝統的なアダム・スミス以来の合理的な経済行動・思考を前提とするモデルに対して、実験も行いつつより現実の経済活動に近い経済学を構築しようとする学問分野からの視点が提供されています。特に、合理性を前提とする伝統学派との対立や対決なども読ませどころかもしれません。もちろん、本書でセイラー教授が指摘する通り、合理的な経済モデルが間違っているとか、不要だというのは正しくなく、現実に対する第1次接近としては大きな意味があるんですが、行動経済学的な理論やモデルの構築も現実の経済を解明する上で役に立つような気もします。ただし、行動経済学に対して大きな疑問をかねてから私が持っているのは、マーケティングや広告などがすでに実務的に行動経済学の理論的な解明を大きく超えて実績を上げているんではないか、という点です。本書でいう超合理的なエコンは、私が想像するに、消費行動というか、商品選択に際して広告には一切影響を受けないような気がするんですが、実際には広告業界は高給取りであふれていますし、買い物客はそれなりにマーケターや広告から商品選択に関して影響を受けていそうな気がします。学問的には私の専門外ですが、どのような広告が販売促進に効果的なのかも一定の蓄積がありそうな気もします。おそらく、私の直観ですが、行動経済学の理論とモデルは、実際の広告代理店勤務の一般的なサラリーマンの実務的な能力にかなり劣っている可能性すらあるんではないかと危惧しています。そんな学問領域に関する本を有り難がって読む私もどうかという気がしますが、もう少し学問として学生に教育するに足るようなレベルに達して欲しい気がします。

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次に、スティーヴン・ワインバーグ『科学の発見』(文藝春秋) です。著者は米国の物理学の研究者であり、1979年にノーベル物理学賞を受賞し、すでに80歳を超えています。本書は英語の原題が To Explain the World であり、副題は邦訳本タイトルそのままで、米国テキサス大学における教養学部生向けの科学史の講義を基に出版されています。大学に進学したばかりとはいえ、いわゆる理系の大学生相手の講義を基にしていますから、読み進むとすれば、それなりの水準の基礎的な知識を必要とする科学書であると考えるべきです。そして、本書の最大の特徴としては、いわゆる「ホイッグ史観」に立っていることです。ですから、その特徴のひとつとして、現在の水準で過去を評価するという方法論ですから、現在の正当な歴史学には受け入れられそうもありません。また、「進歩を担った殊勲者」対「進歩に抵抗した頑迷な人びと」に分け、両陣営の戦いと前者の勝利として歴史を物語的に記述する歴史観ですから、ニュートンに至るまでは、常識的に偉大な科学の発見とか、歴史上の科学者とかであっても、容赦なく切って捨てられます。そして、だれよりもニュートンが高く評価されています。決してアインシュタイン的な相対性理論でニュートン力学が否定されたわけではなく、相対性理論の近似としてのニュートン力学が評価されているといえます。なお、どうでもいいことながら、最後に、本書では著者の専門分野である物理学、特に天文学を中心に議論が展開されますが、どこまでハード・サイエンスなのかエコノミストの私ですら疑問を持っている経済学に対して、著者がどのような見方を持っているのか、興味深くもありますが怖い気もします。

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次に、会田弘継『トランプ現象とアメリカ保守思想』(左右社) です。著者は共同通信のジャーナリストで、本書は、米国共和党の大統領候補に選出されたトランプ候補について、かなり批判的にその人物像や来歴などを解き明かしています。ただ、誠に申し訳ないんですが、本として中身が薄い気がします。第2章のトランプの生い立ちなんぞは、ビジネスマンとしての立身出世伝をほめたたえる内容になっていて、大統領候補としての思想信条の背景として何が重要なのかを大いにぼかしてしまう効果しかありません。むしろ、トランプとは関係薄そうな米国の思想史を取り上げた第3章で、ラッセル・カーク、ノーマン・ポドレッツらから始まり、ネオコン第2世代にいたる複雑な近代的なアメリカ保守思想の潮流を追った記述の方に筆の冴えが見られます。結論としては、単なるポピュリズムではなく、ワイマール化とその先にあるヒトラー的な独裁者の登場やファシズムの台頭などに対して警鐘を鳴らすのが本書の役割なんだろうという気がします。ただし、そこまで話を持って行くには本書はかなり力不足です。むしろ、トランプ現象が伝統的・正統的な米国保守勢力からどのように見られているのかについて、もう少し取材して事実を明らかにした方がいいような気がします。本書はジャーナリストらしいインタビューの結果ではなく、筆者の読書の結果に依存する部分の方が大きくなっており、「ジャーナリストの本」という前提で読むと物足りない可能性が高いと思います。それも含めて、私自身は余り大きな興味を持っていないので、何となくスルーしているんですが、世の中には多くの「トランプ本」が出回っているような気がしますので、本書がその中の1冊としてオススメできるかどうかは自信がありません。私が読んでいない中にもっとオススメ度の高い「トランプ本」がありそうな気がします。強くします。

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次に、今野敏『真贋』(双葉社) です。著者は売れっ子の警察小説作家であり、わが家でも上の倅と私なんぞはこの作者の「隠蔽捜査シリーズ」のファンだったりします。この作品も長編の警察小説であり、盗犯を担当する警視庁捜査3課第5係のベテラン刑事である萩尾秀一と、その部下の女性刑事の武田秋穂を主人公としているシリーズ2作目です。1作目の長編は『確証』で、2012年の出版となっており、私は読んだ記憶はありますが、中身はそれほど覚えていません。警視庁の中でも素人を相手にする捜査1課とプロの窃盗犯を相手にする捜査3課があり、このシリーズの主人公の刑事は捜査3課に所属しています。そして、前作『確証』ではこの捜査1課と捜査3課の確執を背景にストーリーが進められましたが、この作品では知能犯を担当する捜査2課の捜査官が、タイトルからほの見えるように、贋作を追って捜査3課と捜査を進めます。国宝の陶磁器、世界でも3作しか残されていない曜変天目のひとつをめぐって、所蔵美術館から百貨店の催事に貸し出された際に、ホンモノとレプリカが目まぐるしく入れ替わり、プロの窃盗犯、贋作つくり、故買屋に警備会社と警察がからんで、スピーディーな展開が楽しめます。前作の『確証』と同じで、とても想像できないような人的なつながりが明らかにされ、プロの犯罪テクニックの一端にも触れることが出来ます。細部のディテールを気にせずに、萩尾の見立てが不自然なくらい見事に当たっている点についても不問とし、流れるようなストーリーを楽しむべき作品です。あまり、本格推理っぽく論理を追い求めるべき作品ではありません。その意味も含めて、みごとなエンタメ小説です。

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次に、佐藤究『QJKJQ』(講談社) です。今年の江戸川乱歩賞受賞作です。西東京市の西武新宿線沿線の東伏見駅から連なる家に住む17歳の女子高校生が主人公で、ストーリー・テラーを務めます。両親も兄も、そして彼女自身も殺人鬼という猟奇殺人一家で育ち、彼女自身もナイフで人を刺し殺す場面から始まります。読み進むうちに、明らかに整合性に欠ける部分が現れ、その昔の『クラインの壺』のように、現実と虚構が入り交じる構成になり、しかも、それがメタ構造を形成していますので、かなり読み手にも読解能力を要求します。ただし、その割には、登場人物のキャラがかなり平凡、というか、ありきたりな気もしますし、エピローグ直前のバウンダリーキラーのパートで、主人公とその父を含む何人かがバトル・ロワイヤルよろしく殺し合いをしまくるのが、私には何がなんだかよく判りませんでした。控えめにいっても、ストーリー上は殺し合いに発展する必然性はないように私は受け止めました。加えて、登場人物がやたらと少なく、これだけ人が死ぬのに警察はまったく登場せず、少し常識から外れた視点を提供しているのも、読み進むうちに気にならなくなるようです。それから、この作品を離れて、最後の数ページで江戸川乱歩賞選考委員の選評が一挙掲載されています。有栖川有栖は本書を「平成の『ドグラ・マグラ』」とかなりの高評価を下していますし、辻村深月なんかは他の候補作には目もくれずに、本作だけを延々と論評していたりします。この選評も併せて読むと、この作品の面白さがさらに増すような気がします。加えて、『QJKJQ』というタイトルも凝っています。これは本書を読んで解き明かしていただくほかありません。

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次に、吉川洋『人口と日本経済』(中公新書) です。マクロ経済学の第一人者による人口と経済成長に関するエッセイです。200ページ足らずの新書ですから、通常の学術論文よりはボリュームあるものの、どうしても物足りなく感じてしまいますが、要するに、学術論文チックなメモにすれば5ページほどで終わりそうな気もします。すなわち、吉川教授の主張は経済成長と人口は関係なく、その根拠は第2章p.74の図表2-6で見る人口と実質GDPの乖離である、ということになります。根拠薄弱、という意見も出そうです。逆に、吉川教授は成長の源泉はイノベーション、特に新しい商品・サービスを生み出すプロダクト・イノベーションであると指摘します。量的な拡大である人口の増加と、質的なイノベーションを対比させようとしているんですが、そのように明記すればもっと判りやすいのに、と思わずにいられません。そして、幕間で人口減少について考察を加え、豊かになるに従って消費の選択肢は増えて、子育ての機会費用が高まる、という議論です。私が記憶するに、私の勤務する役所で官庁エコノミストの3条件、というのがその昔にありました。官庁エコノミストになるには、マージャンをしない、ゴルフをしない、子供を作らない、という3条件です。そして、誰から聞いたかは忘れましたが、マージャン、ゴルフ、子育ては極めて労働集約的で時間がかかることから、この3条件に時間を使うのではなく、ひたすら勉強しないとエコノミストにはなれない、という趣旨だと私は心得ています。私自身についていえば、さすがに今はマージャンやゴルフはせず、少なくとも人とするマージャンはしなかったんですが、30代から40代にかけて、海外勤務が多かったこともあり、せっせとマージャンやゴルフに励んだ時期があり、子供は2人もいたりしますので、3条件すべてに反していたりします。ということで、本書の読書感想に戻ると、 最後の第4章では消費の飽和やいわゆる定常状態について詳しく触れて、いかにもゼロ成長論を擁護するような雰囲気もあったりしますが、我が国では進歩史観が決して主流ではなく、円環史観というか、循環史観というか、グルッと回って元に戻る、といった史観が決して無視できないことから、本書のように、進歩史観が志向する成長を前面に押し出したエッセイはとても貴重な気がします。1点だけ、p.184において「長期停滞」をわざわざ "long stagnation" と英語で示しているところ、サマーズ教授らの用語の "secular stagnation" を避けたのは、後者の言い回しに人口や技術の停滞に伴う自然利子率の低下があるので、これを嫌った、と私は想像しているんですが、ほかにも何か意味があるんでしょうか?

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次に、宇野重規『保守主義とは何か』(中公新書) です。著者は東大社研の研究者です。本書では、フランス革命に対峙したエドマンド・バークを保守主義の嚆矢と位置づけ、ロシアで革命に成功した社会主義に反対する保守主義としてT.S.エリオットや経済学者のハイエクなどを上げ、さらに、リベラル派の「大きな政府」に反対する保守主義として、ついつい、歴史上の偉大なエコノミストに目が行くんですが、ミルトン・フリードマンらの思想が、それぞれ取り上げられ、日本の保守主義の歴史や現状を概観した後、終章につながるという構成となっています。保守主義とは何かという本書のタイトルなんですが、本書の中でハイエクが自分自身を保守主義者でないとし、保守主義にはブレーキしかなくてアクセルがない、という趣旨のハイエクの発言を引いています。私はまったく同感です。保守主義の対立概念は進歩主義であり、さらにそれが強烈になると急進主義ということになろうかと私は考えています。ですから、本書の構成もそうなっていますが、王政の時代に民主主義的な方向を志向するフランス革命に反対し、民主主義の時代に社会主義に反対し、レッセ・フェールの政府の市場介入ない時代に政府の市場への介入に反対するのが保守主義です。ただし、それは歴史が進歩するという意味での進歩史観、その典型はマルクス主義ですが、進歩史観に立つ場合の見方であって、必ずしも進歩史観が主流ではない日本などでは保守主義というのが、本書でも取り上げられている戦後の吉田ドクトリンの系譜、ということになるんだろうという気がします。なお、進歩主義の強烈なのが急進主義としましたが、逆に、保守主義の強烈なのは懐古主義ということになり、社会主義に反対して民主主義を守ろうという方向をさらに強烈に逆回転させ、民主主義から王政に戻そうとするのが懐古主義といえます。そんな主張はホントにあるのか、と質問されれば、霞が関から永田町あたりを通って行く街宣車を見れば判ります。ということで、最後に、本書では右翼思想と保守主義を、左翼思想と進歩主義を結び付ける考えは希薄なような気がしますが、私はそのラインはアリではないかと考えています。どうしても、新書ですからボリューム的にも物足りない気がして、俗にいう「突っ込み不足」に感じてしまいました。

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最後に、本格ミステリ作家クラブ[編]『ベスト本格ミステリ 2016』(講談社ノベルス) です。本格ミステリ作家クラブ選・編の年刊アンソロジーであり、その名の通りの本格ミステリの短編9話と評論1編から成っています。今週もたくさん読み過ぎましたので、本書についての読書感想文は軽く済ませたいと思いますが、高井忍「新陰流"水月"」とか、松尾由美「不透明なロックグラスの問題」などのように読み慣れたシリーズものから再録された作品もある一方で、一田和樹「サイバー空間はミステリを殺す」がなかなか興味深く読ませてくれました。

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