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2016年12月24日 (土)

今週の読書はグッと落ち着いて経済書と専門書ばかりで5冊だけ!

先週末あたりから年末年始休暇も見据えて、周辺の図書館から大量に本を借りまくっています。一時、在住区の図書館からは限度の20点に近い19点まで借りてしまいました。そのうち、今週の読書は以下の5冊にペースダウンしました。最後に取り上げているワシントン・ポスト取材班による『トランプ』にものすごく時間をかけてしまった結果だという気がします。

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まず、伊藤宣広『投機は経済を安定させるのか?』(現代書館) です。著者は京都大学大学院で博士号を取得した高崎経済大学の研究者です。副題は「ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』を読み直す」となっており、ケインズ的な観点から投機と経済的安定を議論しています。というのも、もともと、ケインズ的な理論で国民所得水準を決める重要な変数のひとつである利子率は流動性選好と貨幣供給から決まり、後者は中央銀行がコントロールするとしても、前者の流動性選好のバックグラウンドには投機の問題があると考えられるからです。本書では議論の前提として、いわゆるケインズ経済学の戦後経済社会における隆盛と衰退、特に、1970年代のインフレやスタグフレーションに伴ってケインズ的なマクロ経済政策の有効性に疑問が持たれ、1980年前後から英国のサッチャリズムや米国のレーガノミクスによる新自由主義的な経済政策の試みはもちろん、ケインズ個人の投資実績まで明らかにして、当期と経済的安定性の問題について解明を試みますが、結局、結論は竜頭蛇尾に終わり、p.198 にある通り、当期が逆張りか順張りか、すなわち、上がっている銘柄をさらに上がると考えて買い求めるか、それとも、上がったら下がると考えて売りに出すか、それ次第であると結論しています。ただし、私は市場それ自体の動きも考慮に入れる必要があると指摘しておきたいと思います。すなわち、例えば、日米の株式市場においては、米国ではモメンタム相場であって、上がっている株をさらに買い上げるという順張り戦略のリターンが高く、逆に、日本はリターンリバーサル相場で逆張りのリターンが大きいとされていて、少なくとも計量経済学の分野では実証的に決着がついています。すなわち、本書の結論に従えば、米国では投機は不安定要因であり、日本では経済安定要因である可能性があります。しかし、そこまで単純かといえば、私にはそうも思えません。もちろん、本書でも紹介されているように、右派的な経済学において、例えばフリードマン教授が投機を安定化要因と指摘し、変動為替相場制を推奨したわけですが、これまた、それほど単純でもないような気がします。まあ、極めて複雑怪奇な問題にこの程度のボリュームの書籍における検証で決着がつくと考えられないわけですから、このあたりの結論が妥当なのかもしれません。

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次に、久保亨・加島潤・木越義則『統計でみる中国近現代経済史』(東京大学出版会) です。著者3人は中国経済史の研究者であり、出版社から明らかな通り、本書は学術書と考えるべきです。ということで、本書は19世紀半ば過ぎくらいから、大雑把に150年に渡る近現代中国の経済史を経済活動と政策動向の両面から跡付けています。すでに、21世紀に入り、GDPで測った経済規模では我が国を追い越して米国に次ぐ経済大国となった中国を、それなりの長いタイムスパンで歴史的に分析し直し、歴史から中国経済の先行きを考える際の指針とすべく、来し方行く末を考えるのもいいような気がします。ただ、本書は経済史のいくつかの方法論の中でも、かなり淡々と経済発展を数量的に、というか、もっと端的に表現すると量的にのみ把握しようと試みており、逆にいえば、1920年の辛亥革命による封建制の清朝打倒と1949年の共産中国の成立など、政体的に極めて大規模な質的変化があったにもかかわらず、というか、それよりも経済活動の継続性をより重視した研究を取りまとめています。ですから、王朝ごとに取りまとめられた歴史と違って、本書では具体的に工業、農業、商業・金融業、エネルギーといった分野ごとに分析、というか、記述を進めています。確かに、製造業に目を向けた大Ⅱ章の近代工業の発展についても、いわゆる西欧的な産業革命やロストウ的なテイクオフといった質的な転換点に関する議論よりも、生産量の推移などの定量的な把握が中心になっていたりします。それはそれで、OKという読者と、私のように少し物足りない読者もいそうな気がします。特に、近代的な組織だった生産ラインを持つ工業はともかく、小規模な農業などは生産意欲、というか、いわゆるインセンティブに如実に反応する場合も少なくなく、第Ⅴ章の農業を取り上げた章で、生産互助会から合作社、さらに、人民公社に生産形態が集約され、そして、現在はどうなっているのか、といった生産高のバックグラウンドになっている生産組織や生産様式についても、もっとしっかりした分析が欲しかった気がします。ただ、研究者の書いた学術書ですから、分析目的についてはそれなりの背景があり、例えば、テキストにするとか、あったりするんでしょうから、読者によってはOKかもしれません。質的変化の分析や記述がほとんど欠けている分、統計的なテーブルは充実しています。ソチラの目的で読めばOKなのかもしれません。

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次に、 デロイト・トーマツ・コンサルティング『モビリティー革命2030』(日経BP社) です。著者はコンサルティング・ファームのリサーチチームであり、企業名からして会計士さんが多かったりするんでしょうか。私はこの業界はよく知りません。本書では、自動車産業が大きなティッピング・ポイントを迎えているとして、その要因を環境対応としてのパワートレーンの多様化、自動運転などのインテリジェント化、そして、Uberなどのシェアリングサービスの3点があると指摘し、産業としての方向性を議論しています。まず、パワートレーンの多様性とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、要するに、従来のように、トラックやバスなどのごく一部のディーゼルを別にすれば、自家用車はほとんどガソリンで動くレシプロ・エンジン一本槍、というわけではなく、ハイブリッド車や、プラグイン・ハイブリッド、電気自動車など動力源が多様化したという意味です。これに、自動運転などのインテリジェント化とシェアリング化を加えると、まず、自動車がドライバーにとっても運転する楽しさではなく、運転手付きの社用車で通勤する重役のごとく、単なる移動の手段となるわけですから、例えば、自動車の動力性能などは重視されなくなる可能性が高くなります。シェアリング社会で自動車を保有するのではなく、単なる利用者になれば、自動車そのものの稼働率は高まり、効率的な運用が可能となりますから、人々の移動に必要とされる自動車の数量=台数は少なくて済みます。有り体にいえば、自動車が売れなくなるわけです。我が国経済は私の実感でもかなり自動車産業のモノカルチャーに近く、自動車が効率的に組織されて公共交通機関に近くなり、多くの台数を必要としなくなれば、我が国経済は大いに傾く可能性すらあります。関連産業としても、米国の保険業の業界団体の試算によれば、自動ブレーキ搭載車の保険金請求件数は▲14%減少したといいますので、自動運転によって安全性が高まれば保険業の収入も減少する可能性が高くなります。その中で本書最終章の提言は迫力不足としかいいようがありません。まあ、本書後半の商用車のあたりから、米国の先進的なメーカー幹部へのインタビューでもって方向性を探ったりしていますので、それほど自信がないのも判りますが、やや迫力不足で、しかも、タイトル通りに2030年というかなり近い将来のお話であって、いわゆるシンギュラリティの2045年よりずっと前の段階の将来像を探っているにも関わらず、現状の方向性を先延ばししただけの内容だという気がします。もう少し深い内容を望んだ私の期待が過剰だったのかもしれませんが、やや迫力不足で物足りない気がします。

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次に、中野佳裕/ジャン=ルイ・ラヴィル/ホセ・ルイス・コラッジオほか『21世紀の豊かさ』(コモンズ) です。著者は掲げた他にも何人かいて、名前から判別できる日本人は別として、フランスなどの大陸欧州と中南米出身の社会科学系統の研究者が中心かと思います。邦訳者が序章の冒頭に記している通り、「「本書は、フランスの社会学者ラヴィルとアルゼンチンの経済学者コラッジオの共同編集による『21世紀の左派 - 北と南の対話に向けて』の日本語特別編集版だ。」ということのようであり、スペイン語版は2014年に、フランス語版は2016年に、それぞれ出版されています。ちなみに、私はスペイン語を理解するんですが、早く出版された方のスぺイン語版のタイトルは Reinventar la isquierda en el XXI siglo となっています。そして、邦訳する段階でなぜか「左派」が「豊かさ」に置き換えられています。理由は不明です。私はタイトルが「左派」であっても読んだかもしれませんが、パスする人もいるかもしれません。ということで、本書では経済的な成長至上主義を批判しつつ、本書のキーワードとなっている「オルタナティブ」を提示しようと試みています。その試みは成功しているかどうかは、私には判然としませんが、ひとつには「公」でも「私」でもなく、「共」の分野の拡大を目指す点などが上げられます。単なる言葉遊びではなく、もちろん、精神論だけでもなく、コモンズとしての適用可能な範囲の拡大が上げられます。そうすると、右派的な所有権の問題がありますので、一気に社会主義とまではいかないとしても、本書では何度か社会民主主義に言及されますが、何らかの左派的な所有権構造の社会を変革することもひとつの視点となるかもしれません。ただ、本書でも指摘している通り、ソ連の崩壊や現在の中国を見ている限り、マルクス主義的な共産主義や社会主義が国民の理解を得られるとは到底思えませんし、本書でも、マルクス主義的な一直線の生産力の拡大は否定されています。他方で、マルクス主義的な革命路線までの大きな変革ではないとしても、ポスト資本主義やポスト民主主義に向けての何らかのパラダイム・シフトや変革=トランジションの必要性も本書では追求しています。また、ラクラウの議論に立脚して、マルクス主義的な観点から、単なる階級闘争にすべてを流し込むのではなく、フェミニズムや教育・医療をはじめとする広い意味での社会福祉の増進、労働者保護などの視点も導入されています。社会民主主義的というか、社会改良主義的な視点かもしれません。最後に、そうはいっても、本書はフランス的な構造主義・ポスト構造主義などの影響を強く受けており、しかも、邦訳の質がそれほど高くなく、例えば、「デアル」調と「です・ます」調の文章が混在するなど、決して読みやすい内容ではありません。出版社も聞きなれないところですし、編集の質にも疑問があります。どこかで少しくらいは立ち読みしつつ、読むかどうかを決めた方がいいかもしれません。

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最後に、ワシントン・ポスト取材班『トランプ』(文藝春秋) です。今年の海外からの大きなサプライズとして上げられるのは、英国のEU離脱、いわゆるBREXITと、米国大統領選挙でのトランプ候補の当選だったのではないでしょうか。しかし、世界の困惑をよそに、少なくとも我が国経済はトランプ次期米国大統領を好感し、円安と株高が進んでいるのも事実です。ということで、本書はワシントン・ポスト取材班が今年半ばに3か月間20人のジャーナリストを動員して、米国共和党の予備選挙と党大会までのトランプ次期大統領に関するパーソナル・ヒストリーや言動・行動を取りまとめたものです。上の表紙画像に見る通り、英語の原題は Trump Revealed ですから、直訳すれば、「暴かれたトランプ」といったカンジでしょうか。圧倒的なボリュームです。引用文献を含めて500ページをはるかに超え、トランプ次期米国大統領の人となりを余すところなく明らかにしています。11月の米国大統領選挙前までの情報ですから、かなりトランプ次期大統領に対して否定的な内容と読めますが、不動産経営者、カジノ経営者、テレビのエンタテイナー、などの公的、というか、人々の目に触れる面の顔を中心に取材したり文献に当たったりしており、家族構成やましてや祖先の出身地などは、かなり粗略な扱いとなっています。私はこれが正しい報道だと受け止めています。ともかく、情報量としては圧倒的です。これほど私が時間をかけて読んだ本も、最近ではめずらしい気がします。そういった意味で、典型的な米国ジャーナリズムの成果といえます。同じような情報量の多さで、例えば、ナオミ・キャンベルの著作などは、左派ベラルとして私の傾向にマッチしているのがわかっていながらも読了を諦めたりしたことがあるんですが、本書は何とか読み通すことができました。とても興味あるテーマと題材ながら、覚悟して読み始めるべきです。

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