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2017年3月12日 (日)

先週の読書は経済学の学術書をはじめとして計6冊!

先週の読書は経済の学術書をはじめとして以下の6冊でした。1日1冊に近いペースですが、半分の3冊は新書と文庫本ですから、それほどのボリュームではありません。これくらいのペースか、もう少し少ないのが理想のような気がします。週に10冊はあまりにも多すぎると思います。でも、昨日自転車で図書館を回ったところ、今週の読書は少し多くなりそうな予感です。

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まず、岩本康志ほか『健康政策の経済分析』(東京大学出版会) です。著者は医療経済学や健康政策に関するミクロ経済学に関する研究者であり、出版社から考えても本書が学術書であることは明らかです。その上、本書のもっとも大きな特徴のひとつは、福井県と東京大学高齢社会総合研究機構による共同研究の一環として、福井県国民健康保険団体連合会が共同電算処理で管理している調査客体について、医療保険レセプト、介護保険レセプト、特定健診・特定保健指導のデータを個人で接合した総合パネルデータを構築してさまざまな定量分析を行っている点です。しかも、データに即して最新の定量分析手法が採用されており、定量分析手法に関する補論も収録されています。ということで、いくつか分析結果を取り上げると、やはり、従来の既存研究で明らかにされるとろもに直観的にも理解されている通り、医療費の集中度は極めて高くなっています。すなわち、上位10%でほぼ半分近く、上位30%では全体の80%ほどの医療費を占めています。しかも平均への回帰は見られず、医療費に大きなウェイトを占めるグループはほぼ固定的です。財政制約が強まる中で、この医療費のかかるグループに対する何らかの処置が必要となる可能性が示唆されています。同様に、医療費抑制の観点から、死亡前1年間の終末期医療についても、医療と介護のトレードオフあるものの、何らかの抑制策の必要性が示唆されています。また、高齢者の社会的入院もまだ解消されていない事実が明らかにされていますし、短期入所療養介護については供給により需要が創出される実態が明らかにされています。福井県だけのデータであり、しかも、医療保険レセプトは国民健康保険に限っていて企業従業員が抜けているおそれが強いわけですから、何らかのバイアスがある可能性は排除されないものの、こういった定量分析に基づく政策評価はこれからも必要になるように私は感じています。ただし、別の観点から、財政制約の強まりという背景はあるものの、必ずしも政策評価が定量分析に基づくものに限られる怖さも感じるべきです。定量分析でムダと評価されても国民に支持される政策はあるわけで、そういった観点からの政策評価も忘れられるべきではありません。

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次に、植村修一『バブルと生きた男』(日本経済新聞出版社) です。著者は日銀OBでバブル前後の時期に当時の大蔵省銀行局総務課にも出向経験あるらしいです。1979年の日銀入行だそうですから、30歳前後でバブルを経験し、その後、バブル崩壊や後始末に追われた世代かもしれません。作なん一昨年あたりから、その昔のバブル経済を回顧する本が何冊か出版され、私も少し読んだりしたんですが、本書についてはパーソナル・ヒストリーですから、しかも、60歳を超えた日銀OBのパーソナル・ヒストリーですから、検証のしようのない一方的な自慢話も含めて、読み進む上で、それなりのバイアスはあるものと覚悟する必要があるかもしれません。何点か目についたところで、バブル経済を知らない世代に参考となるのが広末涼子主演の映画「バブルへGO!!!」だというのは私もそう思います。ちょうど2007年封切りで、その直後に私は地方大学に出向したため、そのころの大学生はバブル経済をまったく知らず、実は、今の大学生は私の倅と同年代なんですが、ここに至ってはリーマン・ショックすら知らなかったりするんですが、結末は別として、この映画はバブル経済をよく理解した人が作っている気がします。それから、日銀OBにしてはめずらしく2000年8月の速水総裁の下でのゼロ金利解除に批判的です。日銀の人は我々役人と同じで無謬主義だと勝手に思っていました。前に読んだ誰か日銀OBの本では、この2000年8月のゼロ金利解除について「間が悪かった」とだけ書いてあって、唖然とした記憶があります。最後に、私はこの著者から少し年下で、いずれにせよアラ還なんですが、私の結婚が大きく遅れたのはバブルで遊び回っていたためではなかろうかと反省しています。まあ、反省してももはやどうにもならないんですが…

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次に、ブルース・シュナイアー『超監視社会』(草思社) です。著者は世界的な暗号研究者、コンピュータ・セキュリティの権威と紹介されています。英語の原題は Data and Goliath であり、2015年の出版です。著者が本書の中で明記しているように、テクノロジーの進歩の影の部分をかなり意図的に拡大して取り上げています。すなわち、特にインターネットの検索履歴、GPS位置情報、メール、チャットやフェイスブックなどのSNSへの書き込み、オンライン決済、オンラインバンキングなどなど、あるいは、単にインターネットの何らかのホームページを見ているだけでも、スマホやパソコンから日々大量の個人データが生成しており、個人が特定されるリスクが大きいと本書は指摘しています。私の知る限りでも、その昔はインターネットの世界は匿名の世界であるといわれていましたが、今では何のプライバシーもありません。何かコトが起これば個人が特定され、その人本人の顔写真、あるいは、家や通っている学校か会社あたりの写真が、おそらく、12時間以内くらいにどこかにアップされかねません。ただ、本書はそのテクノロジーの影の部分を故意に誇張しており、光の部分を小さく見せていることは確かで、個人を特定できなければ利便性が大きく低下する可能性も忘れるべきではありません。そして、本書の著者の巧妙なところなんですが、第1部では企業の個人情報収集を取り上げつつ、第2部では国家、というか政府の個人情報収集、特にインテリジェンス機関のテロ防止のための対応に話をすり替えて、恐怖心をあおっていたりもします。私の考えるに、プライバシーについて著者は意図的に混同してゴッチャにしているんではないかと思います。私の基本的な考えとして、市場参加者としてのプライバシーはもはやないと考えるべきです。何をいくらでいつどこで買ったか、はもはやプライバシーではありません。他方で、夫婦間の寝室での行為や真剣な男女間のお付き合い、シャワールームやトイレでの下半身の画像などはかなり古典的なプライバシーです。ただ、グレーゾーンがかなり広く、真剣なお付き合いの男女が結婚式場を予約した後、キャンセルした、とかはグレーゾーンです。また、個人で完結せずに社会的に波及効果があり、経済学でいうところの外部性の大きな行為や事実もグレーゾーンに入るかもしれません。例えば、伝染性高い疾病はプライバシーではないと考えられますし、性犯罪者の犯罪歴がどこまでプライバシーなのか、どうかは議論あるかもしれません。おそらく、著者はプライバシーを広く考えて情報監視を嫌うでしょうし、逆に、情報を監視しているインテリジェンス機関は狭く考えるバイアスがあることは言うまでもありません。それから、本書では国民の参加による民主主義で決定する理想が高く掲げられていますが、他方で、これも経済学的に考えれば、金融政策のように政府から独立して専門家が司る分野もあり得ます。情報処理、特に情報の監視がどちらなのかも議論すべき課題かもしれません。プライバシーの境目と民主主義か専門家か、この2点が本書ではスッポリと抜け落ちています。

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次に、呉座勇一『応仁の乱』(中公新書) です。とても渋い新書ながら、2016年に注目されたトップ10に入る新書ではないでしょうか。タイトルそのままに、応仁の乱を気鋭の中世史の研究家が解明を試みています。その史料として活用されたのが、奈良の興福寺の別当=寺務が書き残した日記や覚書です。著者自身が冒頭に書き記しているように、応仁の乱はとても有名であって、教養ある日本人であればほとんど全員がその名を知っているんでしょうが、戦乱の中身についてはもちろん、どうして10年余の長きにわたって終結しなかったのか、などなど、それなりに我々の不勉強なところを著者はうまくついているような気がします。私も東軍の細川が西軍の山名に勝って、その結果として、室町幕府の将軍が決まったとか、山名の陣地が今では西陣と呼ばれているとか、よういった表面的な事実は知らないでもないんですが、本書でかなり勉強になりました。私は京都南部の出身で奈良にある中学高校に通いましたから、それなりに奈良の興福寺には通じており、例えば、近鉄奈良駅前に東向き商店街という荷があったんですが、中世から近世初頭にかけて絶大な勢力を誇った興福寺に玄関を向けて建てられたので、そういった名称になったとか、いろいろとあります。でも、京都の特に洛中の京都人が「先の大戦では、このあたりは丸焼けで」という際の「大戦」は応仁の乱であるというのは、決して趣味のよくないジョークだと考えています。

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次に、東野圭吾『雪煙チェイス』(実業之日本社文庫) です。強盗殺人の容疑をかけられた大学生が、アリバイを証明してくれる「女神」を探して、根津が監視員を務めるスキー場にやって来ます。そして、警察の方でも所轄と警視庁の確執があり、それぞれの刑事がスキー場に時間差をもってやって来ます。スキー場では、ゲレンデ・ウェディングの準備が進められる中、監視員の根津や旅館の女将、あるいは、観光に関係するツアー・コンダクターなどなど、スキー場周辺の関係者も容疑をかけられた大学生に加担したり、警察官を助けたりと、いろいろと色分けされる中で、当然ながら、最後は強盗殺人事件が解決されます。当然、容疑をかけられた大学生は犯人ではありません。やや趣向は違いますが、『ゴールデンスランバー』に少し似たところのある逃亡劇です。ただ、『ゴールデンスランバー』と違って、最後の最後にホンの2-3ページの推理で終りますが、強盗殺人事件の犯人は明らかにされ事件は解決します。同じ出版社の『白銀ジャック』と『疾風ロンド』に続く根津シリーズの第3弾なんですが、前作をいくつか読んでいないと、キャラの作りが少し薄いというか、それほど強烈なキャラではないので、スキー場の人の区別がつきにくい気がします。ただ、2-3日の間の出来事で、しかも若い大学生などが、アラ還の私なんぞから見れば、かなりなムチャをしますので、その限りでは、なかなかのスピード感です。スピーディな展開にハラハラドキドキしつつ、サスペンスとともにコミカルな要素も申し分なく、楽しいミステリに仕上がっています。でも、本格的な謎解きに期待すべき作品ではありません。

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最後に、吉川英治ほか『七つの忠臣蔵』(新潮文庫) です。赤穂浪士の討ち入り、仇討など、いろいろな呼ばれ方をしますが、本書は「忠臣蔵」に込められた人間模様を描いた短編7編を集めた短編集です。上の表紙画像に見られる通り、豪華執筆陣ですが、ほとんど故人ではないかという気もしますし、もちろん、最新作ではあり得ません。収録された短編は以下の通りです。すなわち、仇討ち劇の陰に咲く悲恋を描いた吉川英治「べんがら炬燵」、知られざる浅野内匠頭の狂態に注目した池波正太郎「火消しの殿」、剣の達人堀部安兵衛の峻厳たる男気に感動を覚える柴田錬三郎「実説「安兵衛」」、脱盟の汚名を呑んだ槍の名手高田郡兵衛の煩悶を取り上げた海音寺潮五郎「脱盟の槍 高田郡兵衛」、大石の志を試した商人天野屋の大阪商人としての生きざまに着目した佐江衆一「命をはった賭け 大坂商人天野屋利兵衛」、敵役である吉良の何とも表現しがたい精神構造に焦点を当てた菊池寛「吉良上野の立場」、涙腺の緩い読者の滂沱の涙を誘う若き浪士の姿を感動的に表現した山本一力「永代橋帰帆」となっています。私のような時代小説ファンには必読かもしれません。

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