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2017年4月30日 (日)

8回北条内野手のタイムリーで中日に逆転勝ち!

  RHE
中  日200000000 270
阪  神00200001x 361

またまた先発の能見投手に勝ち星がつかなかったんですが、終盤8回に北条選手のタイムリーで中日に逆転勝ちでした。初回にエラーもからんで能見投手が2失点しましたが、2回から6回まではゼロを重ね粘りのピッチングを見せてくれました。打つ方は序盤の3回に4番福留選手のタイムリーで早々に追いついた後、膠着状態で重い展開だったんですが、8回に勝ち越して最後はクローザーのドリス投手に代わってサウスポーの高橋投手が9回を締めました。経験値の高さを見せつけてくれました。

神宮のヤクルト戦も、
がんばれタイガース!

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2017年4月29日 (土)

最終回にクローザーが打ち込まれて中日に負ける!

  RHE
中  日210000003 6101
阪  神201000000 383

試合途中からしか見ていなんですが、9回にクローザーのドリス投手が打ち込まれて中日に負けました。最終回に打たれる投手陣も問題ですが、なかなか守り切れない守備陣もしっかり守って欲しい気がします。バルデス投手の出来がかなりよかったとはいえ、そもそも、打てない野手陣ももっとがんばって欲しいです。

明日は能見投手に勝ち星をつけるべく、
がんばれタイガース!

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今週の読書はやっぱり9冊!

今週の読書も経済書をはじめとして計9冊でした。3月後半の読書から、週に8~9冊というペースが多く、中には11冊読んだ週もありましたが、かなりオーバーペースです。来週のゴールデンウィークは時間的な余裕あるのでいいんですが、さ来週くらいから少しペースを落としたいと考えています。

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まず、ロバート D. パットナム『われらの子ども』(創元社) です。著者は米国ハーバード大学の研究者であり、前著の『孤独なボウリング』もベストセラーになっています。本書の英語の原題は Our Kids であり、邦訳のタイトルはほぼ直訳といえます。2015年の出版です。米国における子供の不平等や貧困をインタビューと統計分析によりクローズアップしています。1950-70年代くらいまでの米国における上昇志向のアメリカン・ドリームについて、パットナム教授の体験に即して描き出した後、第2章から家族、育児、学校教育、コミュニティ、のそれぞれについてインタビューに基づく実例の提示と統計分析を示し、最終章で解決方法を論じています。一方で、恵まれた家庭の出自を活かしてビジネス・スクールを出てウォール街の投資銀行で働いたり、あるいは、ロー・スクールを出て弁護士として成功したりして、いかにもアメリカン・ドリームの体現者のような人々がいたりするんですが、他方では、父親が強盗で収監されている時にも母親は不特定多数の男と付き合っていて、子供本人はドラッグの中毒で、生徒によって銃が持ち込まれるような高校に通っている、といったやや極端な例が示されたりもしますが、ひとつひとつの実例も、統計分析も、受け入れられるものだと感じました。パットナム教授が特に強調するのは、親が大学を出ているかどうかで、各章後半の統計分析では、これでもかこれでもかというほど、いろんなグラフについて大学卒業の親の場合とそうでない親の場合を比較しています。しかし、各種の統計分析は著者も認めるように強い相関関係は認められるものの、決して因果関係を明らかにしているわけではありません。米国における子供の機会格差の現状とその処方箋を明らかにしようと試みていますが、すでに、世代をまたいで機会格差が親から子に継承される段階に入った米国で、どこまで時間をかけて解決できるのかはまったく不明です。日本に応用するとすれば、第1に、米国に見られるように、親から子に継承されるほどの機会格差の拡大をまず防止する必要があります。そして第2に、「下流老人」や「老後破産」などの高齢者の不平等に目が行きがちな日本の現状を考えると、もっと子供の不平等や貧困についての関心を高める必要があります。私の持論ですが、高齢者に手を差し伸べても、10年後も高齢者は高齢者のままですが、子供を救うことができれば10年後15年後には立派に成人して納税者に転じている可能性が十分あります。シルバー・デモクラシーを超えて子供の格差や貧困の問題がもっとクローズアップされることを私は強く願っています。本書がそのきっかけになるんではないか、とも期待しないでもありません。

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次に、ホッド・リプソン&メルバ・カーマン『ドライバーレス革命』(日経BP社) です。著者はコロンビア大学機械工学教授でまさにドライバーレス・カーのテクノロジーの最先端を専門とする研究者とテクノロジー・ライターでありドライバーレス・カーや人工知能や3Dプリンティングといった革新的なテクノロジーに関する執筆・講演活動を行っている専門家です。英語の原題は であり、2015年の出版です。ということで、身近にある自動車が自律型のロボットとなり、AIを搭載してドライバー不要の輸送機関になる未来像に関して、工学的、というか、テクノロジーの観点から将来性や実現性や課題などを論じています。ですから、私の専門分野に近い経済社会的な視点からの議論ではありません。また、ドライバーレス・カーに特化した進歩を遂げたわけでもないんでしょうが、人工知能(AI)に関して一般的なディープ・ラーニングなどの解説も豊富です。特に、AIに関してはチェスやクイズ番組でのIBMのディープ・ブルーやワトソンの活躍が人口に膾炙していて、ロボトットに関しては自動車や電機などの生産現場でも多く見かけるなど、クローズな場での専門的な用途に特化したロボットやAIはそうでもないんでしょうが、自動運転というドライバーレスな自動車のロボット化やAI搭載については、オープンな場で、しかも、人命がかかわりかねないケースですので、それまでのテクノロジーと一律に論ずることはムリがあると私は考えていて、本書を読んだ段階でも、テクノロジー的な理解がはかどらないせいでもあるものの、まだ、どこまでドライバーレス・カーを社会が許容するか、という問題には結論を出せていません。本書では何らかの尺度での安全性が人間が運転する2倍になれば許容すべきという提案が示されていますが、例えば、薬のように専門家が判断する効果ではなく、事故や故障といった社会的な影響が広く及ぶ外部不経済については専門家が科学的な見地から判断すべきなのか、社会的な通念も含む許容度の問題なのかが、私の中では結論が出ていません。経済政策で例えれば、金融政策は専門家が政府から独立して判断・決定すべきであり、財政政策は主権の存する国民の代表である議会で決定すべきである、といった制度的な政策決定の方法論がかなりの程度に確立しているわけですが、革新的なテクノロジーであるドライバーレス・カーについては、そういった判断のポイントも含めた国民的な議論が必要なのかしれません。

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次に、カート・キャンベル『The Pivot アメリカのアジア・シフト』(日本経済新聞出版社) です。著者は民主党系の外交研究者であり、第1次オバマ政権の当時のヒラリー・クリントン長官の下で国務省の次官補を務めています。ですから、現在のトランプ米国政権の、特に、対アジアの外交政策とどこまで関連があるかははなはだ疑問なのですが、pivot 名づけられた旋回政策の考え方を軸に、アジアへの旋回政策の歴史的背景、外交・軍事・安全保障をはじめ、通商や経済開発などの各分野に渡り、米国が今後どのような考え方やアプローチで日本をはじめとするアジア諸国に関与していくのかを具体的に論じています。特に、歴史的背景は政権交代があっても不変ですから、それなりに参考にはなります。でも、古い歴史的事実かもしれませんが、アジア各国民に対する欧米からの偏見の歴史を持ち出しても、現状には参考にならない気もします。ただ、戦後のマッカシーズムの影響で対中国外交政策がかなり遅れたのは事実かもしれません。オバマ政権のころのリベラルでマルチラテラルな外交と違って、現在のトランプ政権はかなり内向きでユニラテラルな外交・安全保障政策を実行している印象が私にはあります。シリアのアサド政権に対する巡航ミサイルの発射などは、かつてのブッシュ政権下で多国籍軍を組織した方法論とはかなり隔たりがあるような気がします。ですから、本書の議論がどこまで現在のトランプ政権で共有されているかはまったく不明としかいいようがありません。その意味で、本書で展開されているのは「過去の議論」、あるいは、オバマ政権のころのレガシーなのかもしれません。最後に、私が理解できなかったのは、米国だけでなく欧州も含めてみんなで旋回する、という著者の主張です。すなわち、私の理解では、旋回するのは米国であって、旋回の元が欧州や中東で、旋回の先がアジア、というシフトだったんですが、「欧州も含めてみんなで旋回」といった趣旨が2度ばかり出て来たんですが、専門外で十分なリテラシーのない私の読み方が浅かったのかもしれません。

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次に、山田敏弘『ゼロデイ』(文藝春秋) です。著者はジャーナリスト、ノンフィクション作家と紹介されています。タイトルのゼロデイとはOSを含むソフトウェアのまだ発見されていない脆弱性を指す専門用語だそうで、本書にも登場しますが、ソフトウェアのゼロデイを発見することをビジネスにしている個人や集団もあったりします。ということで、本書の冒頭は、いかにもありそうなサイバー戦争のフィクションから始まり、2009年に世界で初めて実施されたサイバー攻撃、すなわち、イランの核燃料施設をマルウェアに感染させ、遠心分離機を破壊してしまった攻撃は、米国の発信だといわれていますが、これはゼロデイを用いたものであったことを明らかにしています。また、こういったサイバー攻撃の最大の特徴のひとつは、アトリビューション、つまり、攻撃者が誰かが極めて巧妙に隠蔽されている場合が多く、どこの誰に対して反撃すべきかが不明である点だと指摘しています。同時に、インターネットでさまざまなモノがつながるIoTについては、セキュリティ的にはばかげたシロモノであると喝破しています。そうかもしれません。また、私なんぞのシロートから見れば、いかにもサイバー空間でのスパイ合戦としか見えないんですが、いろんな情報に関するセキュリティとそのハッキングの現状が明らかにされます。例えば、スノーデンによって暴露されたNSA(米国家安全保障局)による世界規模での監視網、あるいは、不気味な動きを見せる北朝鮮やイラクなど、サイバー攻撃の歴史を紐解きながら今、世界で何が起こっているのかを解説しています。そして、最後には、昨年の米国大統領選挙では、いくつかの意味でのサイバー攻撃がトランプ大統領に有利に働いた可能性を指摘しています。すなわち、クリントン候補が国務省長官の際に私用メールを使った疑惑がありますし、ロシアによる民主党へのサイバー攻撃が仕かけられたことは事実らしいです。そして、日本もすでにサイバー戦争に巻き込まれている可能性も示唆されています。最後に、本書で指摘されている高度なサイバー戦ではなく、もっとローテクで原始的ななやり方ですが、ロシア発のフェイクニュースがフランス大統領選挙などにも一定の影響を及ぼしている可能性があり、以下のハフィントン・ポストでも報じられています。ご参考まで。

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次に、曽我謙悟『現代日本の官僚制』(東京大学出版会) です。著者は京都大学の行政学の研究者であり、出版社からも明らかな通り、かなり純粋に学術書であり、定量分析も行われていることから、本書を読み解くにはそれなりの水準の知性が必要そうな気もします。ということで、我が国の官僚制についての論考ですが、最も狭く官僚制を定義しています。すなわち、ウェーバー的な文書による業務の遂行やメリットシステムなどの特徴を備え、大企業などを含めて多くの組織に見られる官僚制ではなく、立法府などと並び称される三権のうちの行政府において業務を遂行する官僚の組織、しかも、地方政府ではなく中央政府の官僚組織による業務の遂行や組織形態などを本書では対象としています。その我が国の官僚制について、特徴や問題点、パフォーマンス、過去の歴史とともに将来の方向性などについて論じています。第4-5章では世界の他国の政府と比較した上で定量分析も試みていて、我が国の官僚制の特徴が明らかにされています。まず、一般的に行政については、いわゆるプリンシパルとエージェントの関係として捉えられるんですが、第1段階の立法府では、選挙民たる主権の存する国民がプリンシパルになって、国会議員がエージェントになる一方で、第2段階の行政府では、国会議員がプリンシパルになって、官僚がエージェントになるという形を取ります。そして、日本の官僚制については、従来から、当地の質は高いが代表制が低い、という特徴的な位置を占めると本書は指摘し、日本に限らず、アジアの主要国では官僚の能力が高くて、従って、政策の質が高く、経済発展に貢献している、とも指摘しています。その要因のひとつとして、一部ながら、我が国のような議院内閣・比例代表制の下では、議会と執政=内閣のある程度の距離が執政による官僚制への介入を抑制させつつ、官僚の技能投資を引き出すとの結果を第5章の定量分析から得ています。また、官僚人事に対する政治介入の不在については、特に財務省の例を引きつつ、事務次官人事の間隔を安定させて、それに局長級人事を連結させることにより、ほとんど制度化したためである、と分析しています。財務省では、主計局長から事務次官に昇進するのが通例となっており、次の次の次の事務次官まで決まっている、とも称されており、こういった制度的に決まりきった人事を行うことにより政治介入を防止している、という結論のようです。ただ、日本の官僚制の大きな弱点は代表制の欠如であるとし、他の事項とも併せて、今後の課題をいくつか提示しています。私の直感的な理解としては、本書で扱う狭義の官僚制については、おそらく、政策の企画立案や執行に関しては国民の信頼は厚いものの、かつては「でもしか教師」と同じレベルで「でもしか公務員」とも称されたにもかかわらず、「失われた20年」の中で、公務員の待遇が民間企業平均よりもとてつもなく優遇されたイメージを惹起し、質の高さと比較しても待遇が手厚過ぎる、との印象が広まったのが大きな蹉跌ではなかったかという気がしています。まあ、自分自身が本書でいう狭義の官僚の一員ですので、何とも客観的な見方は難しいような気がします。

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次に、 岡本隆司『清朝の興亡と中華のゆくえ』(講談社) です。本書は叢書「東アジアの近現代史」の第1巻として配本されています。著者は学部は神戸大学卒で、大学院が京都大学と記憶していますが、京都大学宮崎市定教授門下なんでしょうか、いずれにせよ、宮崎教授と系譜の近い東洋史研究者であり、本書はタイトル通り、清朝の興亡を取り上げています。副題が「朝鮮出兵から日露戦争へ」となっており、まさに、日本と関連付けて豊臣秀吉による朝鮮出兵から、20世紀初頭の日露戦争までの期間を対象としています。なお、日露戦争とはまさに日本とロシアが戦火を交えたわけですが、ほとんどが当時の清の領土内で戦闘が行われていることは周知の通りでしょう。本書で私が着目したのは2点あり、ひとつは蒙古人の元と同じであって同じでない点ですが、著者のいうところの「入り婿」として、満洲人が漢人を支配するという形ではじまった清朝なんですが、基本的に直前の王朝だった明と同じで皇帝独裁体制であった、ということです。本書でも指摘されている通り、乾隆帝の時代に清朝は最盛期を迎え、その後の皇帝が暗愚であったわけでもないのに、時代の流れとともに凋落を始めます。いわゆる「内憂外患」なわけで、典型的には、内憂では白蓮教徒の乱と太平天国の乱、外患ではアヘン戦争とアロー戦争が上げられ、特に内憂に関しては、人口の増加とともに移民も増えて、そのために、いかにも中国的な秘密結社が内乱を生ぜしめた、という点です。もうひとつ私が注目したのは、明朝から清朝にかけては皇帝独裁体制の下で、いわゆる封建的な重層的支配体制となっていない点です。すなわち、我が国の江戸期などがそうですが、封建体制下では国王、日本では天皇というよりは将軍が天下人として君臨して大名が幕閣に参画する一方で、その大名も国元に帰れば家老などに支えられた政権があり、その家老や有力武士にも用人がいて、等々と重層的な権力体制が組まれています。でも、明朝や清朝の中国では皇帝が唯一の天下人となっていて、ただし、日本や西欧のような中央集権体制とはなっておらず、地方に有力な郷紳が存在する、という体制になっている点です。ですから、日本鳥がって中国が多民族から成っていることもあり、国民国家の形成が難しそうな気がします。まあ、いずれにせよ、現在の東アジアにおける日中韓に北朝鮮を加えた現在の地政学ないし力学的な現状を把握する上で、それなりの歴史的な認識は必要なわけでしょうから、特に、現在のように北朝鮮がほぼ末期的な状態を示す中で、こういった歴史書をひも解く必要があるような気がします。最後になりましたが、本書は決して学術書ではなく、一般向けの教養書と私は考えています。

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次に、山内マリコ『あのこは貴族』(集英社) です。作者は注目の小説家です。今週の読書で唯一の小説です。東京出身で恵まれた家庭に育った「貴族」のような華子と、田舎から上京して苦労して東京生活に対応し男性との付き合いはそれなりにうまくこなす美紀の2人の女性を軸に、幼稚舎から慶應でイケメン弁護士で国会議員も出した家計の男性がからんだコメディ、というか、恋愛小説です。この作者の小説は、私は『ここは退屈迎えに来て』と『アズミ・ハルコは行方不明』くらいしか読んだことがないんですが、この2冊を今までのパターンとすれば、2点違った点を上げることが出来ます。ひとつは主人公が田舎の女性ではなく東京生まれで東京育ちであり、ひと昔前の言葉でいえば、上流階級の出身だということです。もうひとつはセックスがそれほど出てこないことです。何だか忘れましたが、猫に関する短編を集めたアンソロジーでも山内マリコはセックスを取り上げるんだと呆れた記憶があります。取りあえず、アラサー女子の結婚や男女間の交際に関するストーリーです。場所は東京で、学校は慶應義塾を中心とする行動半径なんですが、私の場合は京都でキャリアの国家公務員ですから、かなり大きな違いがあります。でも、私はその昔のタイプの公務員ですから、同僚や職場の友人の中に、この作品に出てくるいい方に従えば、有名な建設会社と同じ名の名字を持つ女性を娶った人や国会議員の家柄の女性と結婚した人は、割といたりします。たぶん、外交官は私のような単なるキャリアの国家公務員よりも、もっとそうなんではないかと想像しています。外交官はいうに及ばず、公務員や会計士や弁護士は試験に合格する必要があり、それに、東京ではないとしても、京都出身というのは少なくとも田舎ではないと見なされる場合が多いので、私はス超すこの小説の作者とは立ち位置が違うと感じていたんですが、田舎の女性を主人公にする小説から脱皮して、山内マリコの新境地なのかもしれません。

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次に、竹信三恵子『正社員消滅』(朝日新書) です。著者は主として朝日新聞をホームグラウンドとするジャーナリスト出身の研究者です。非正規雇用が4割に達した現在、非正規雇用だけでなく、正規雇用のいわゆる正社員においても労働条件は過酷なものとなっています。名ばかり管理職とか、ブラック企業などがメディアにしばしば登場し、最近では名ばかり正社員ともいえる待遇の悪化が見られます。こういった雇用の現場をジャーナリストらしく、ていねいに取材した結果が本書に収録されています。基本的に、私は非正規雇用の拡大は形態を変えた絶対的剰余価値の生産であろうと受け止めているんですが、雇用だけでなく、ビジネスの本質としても、ヒット・エンド・ランというか、「焼畑農法」的なビジネスが広がっている印象を私は持っており、それが消費の場において耐久消費財の購入を躊躇させる要因のひとつとなっている気がします。さらに、過酷な労働条件の下で生産された製品が、価格以外の品質面で消費者に魅力的なわけもなく、所得面の低さも合わさって、消費を低迷させている大きな要因のひとつとなっている可能性があります。不安定な雇用を起源とする需要サイドの低所得、供給サイドの品質の低さ、そして、企業活動としての「焼畑農法」的なビジネス慣行の3つが消費低迷の大きな要因となっています。加えて、長期的なマクロ経済を考えると、このブログでも何度か主張したように、低賃金で長期間の熟練不要な作業に重視していると、本来は几帳面で勤勉な日本人でもデスキリング=熟練崩壊が生じる可能性が高まります。本書では、こういった憂慮すべき労働の実態をリポートしています。

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最後に、深沢真太郎『数学的コミュニケーション入門』(幻冬舎新書) です。著者はビジネス数学の専門家・教育コンサルタントだそうです。幻冬舎のサイトで連載されていた「数学的コミュニケーション入門」のコラムを取りまとめて出版したもののようです。ですから、幻冬舎のサイトをたんねんに見れば、本書を読書する必要はないのかもしれません。先週の『文系のための理数センス養成講座』の続き、というカンジで軽く読んでみました。いかにも、コンサルらしく先週の読書結果と同じで、上から目線の「教えてやる」スタイルの本ですので、好き嫌いはあるかもしれませんが、こういったスタイルに有り難味を感じる人も少なくないような気がします。本書の最初の指摘ですが、いかにも日本的な正確性にこだわるよりも、大雑把に概数で把握して伝えた方が判りやすい点については私も大いに同意します。私の勤務する役所なんぞは典型的なんですが、河上肇のように「言うべくんば真実を語るべし、言うを得ざれば黙するにしかず」といったように、外に対して何らかの表明をするのであれば正確でなければならず、正確な回答が不可能ならゼロ回答にする、というのは、世界的には通用しない気がしますし、概算や概数でも何らかの情報がある方がないより大きくマシだという点は理解すべきです。また、本書で著者が指摘する第2の点は相関関係についてであり、これも、最近読んだ本で相関関係ではなく因果関係こそ重要との指摘はあるものの、特にビッグデータの世界では因果関係を確定するよりも相関関係を見出すことの方が重要だと私も同意します。ほかに、スキマ時間をうまく過ごして数学的センスを磨く、とか、絶対にやってはいけないグラフのNG行為などは受け取り手により感想は異なることと思います。ただ、いくつかの点でグラフをうまく使ったプレゼントいうのは印象的であることについては私も異論はありません。むしろ、グラフの色使いなのかもしれません。

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2017年4月28日 (金)

いっせいに公表された政府統計の経済指標をレビューする!

本日、経済産業省から3月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、さらに、総務省統計局から消費者物価指数(CPI)が、それぞれ公表されています。各統計の主要な結果を並べると、鉱工業生産は季節調整済みの系列で前月比▲2.1%の減産、小売業販売額は前年同月比+2.1%増の12兆5430億円、失業率は2.8%と前月と同水準で、有効求人倍率は前月からさらに低下してで1.45を記録し、生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率は+0.2%と3か月連続でプラスを続けています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、3月は2.1%低下 半導体関連の生産減で
経済産業省が28日発表した3月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比2.1%低下の99.6となった。2カ月ぶりの低下となり、QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(1.0%の低下)を下回った。半導体製造装置やメモリーなどの生産低下が指数の主な押し下げ要因となった。
経産省は生産の基調判断を「持ち直しの動き」で据え置いた。3月単月では低下に転じたものの、17年1~3月期では前期比0.1%上昇の99.9と4四半期連続のプラスとなった。
3月の生産指数は15業種のうち11業種が前月から低下し、4業種が上昇した。汎用・生産用・業務用機械工業が6.3%低下、電子部品・デバイス工業が4.8%低下した。一方で、パルプ・紙・紙加工品工業は1.7%上昇した。
出荷指数は前月比1.1%低下の98.1だった。在庫指数は1.6%上昇の109.8だった。在庫率指数は0.5%上昇の111.9となった。
4月の製造工業生産予測指数は前月比8.9%の上昇。汎用・生産用・業務用機械工業や輸送機械工業などが伸びる。経産省による補正済みの試算値では5.3%程度の上昇を見込むが、実現すれば消費増税前の駆け込み需要が発生した14年1月実績(103.2)を超え、リーマン・ショック後では最高となる見通し。5月の予測指数は3.7%の低下を見込んでいる。
3月の小売販売額、2.1%増 自動車販売で新型車効果続く
経済産業省が28日発表した3月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比2.1%増の12兆5430億円だった。5カ月連続で前年実績を上回った。経産省は小売業の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
業種別では、新型車効果の続く自動車小売業の寄与度が大きく、前年同月と比べ8.9%増えた。原油価格の回復に伴う石油製品の価格上昇で燃料小売業も14.8%増加した。ドラッグストアの新規出店効果や化粧品販売が引き続き好調な医薬品・化粧品小売業は3.3%増となった。
一方で、前年に比べ気温が低く推移したことから春物衣料の動きが鈍く、織物・衣服・身の回り品小売業が4.4%減少した。百貨店などの各種商品小売業も3.1%減となった。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計で0.9%減の1兆6311億円だった。既存店ベースでは0.8%減となった。両業態で衣料品が前年同月を5.2%下回った。飲食料品の販売も減少した。コンビニエンスストアの販売額は3.2%増の9698億円だった。
求人倍率 バブル期並み 3月1.45倍、26年ぶり
人手不足が一段と強まり、雇用に関する指標が改善している。厚生労働省が28日発表した3月の有効求人倍率(季節調整値)は前月より0.02ポイント高い1.45倍で、バブル期の1990年11月以来26年ぶりの水準。総務省発表の完全失業率(同)も前月と同じ2.8%と低水準だった。ただ家計の節約志向は根強く、消費はなお勢いを欠き、物価も低迷している。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。3月は3カ月ぶりに上昇した。正社員の有効求人倍率は0.94倍で2004年に統計を取り始めて以来最高だった。1倍を下回っており、今なお求人の方が求職より少ない状態。企業は長期の視点で人手を確保するため、正社員の求人を増やしている。
職業別に見ると、建設業は3.61倍、飲食などサービスは3.05倍だった。IT(情報技術)など「専門的・技術的職業」も2.04倍に達した。硬直的な労働市場で雇用のミスマッチを解消しにくく「人手不足が成長の制約になりかねない」との声もある。
3月の新規求人は前年同月比6.5%増えた。このうち、運輸・郵便業が12.2%増と大幅に伸びた。厚労省は「大手企業が求人を多く出している」と指摘。ヤマト運輸などを中心に労働環境の改善を進め、その分だけ求人を増やしているとみられる。20年の東京五輪需要が出ている建設業は11.7%、世界経済の回復で生産が持ち直す製造業も11.0%それぞれ増えた。
完全失業率は前月と横ばいだったが、3%台前半とされるミスマッチ失業率(求人があっても職種や年齢、勤務地などの条件で折り合わずに起きる失業率)を下回った。働く意思のある人なら誰でも働ける「完全雇用」状態にあるといえる。
男女別にみると、男性が2.8%、女性が2.7%だった。男性は失業者が減り、就業者が増えたことで、1995年5月以来21年10カ月ぶりに3%を割り込んだ。総務省は「求人の増加が男性の正社員としての就労に結びついている」とみている。男女合わせた雇用者(原数値)のうち正社員は前年同月より26万人増えた。非正規社員(17万人増)よりも伸びが大きかった。
失業者は188万人と前年同月に比べて28万人減った。自営業を含めた就業者は6433万人。パート賃金の上昇などを背景に、これまで職探しをしていなかった主婦層や高齢者が働き始めたことで、69万人増えた。
3月の全国消費者物価、0.2%上昇 16年度では4年ぶり下落
総務省が28日発表した3月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は値動きの大きな生鮮食品を除く総合指数が99.8と、前年同月比0.2%上昇した。プラスは3カ月連続。ガソリン、電気代などエネルギー価格の上昇が寄与した。QUICKがまとめた市場予想の中央値(0.3%上昇)は下回った。
生鮮食品を除く総合では全体の57.2%にあたる299品目が上昇し、165品目が下落した。横ばいは59品目だった。
生鮮食品を含む総合は99.9と0.2%上昇した。イカなど生鮮魚介の価格高騰が続き、指数を押し上げた。生鮮食品とエネルギーを除く総合は100.4と、0.1%下落した。2013年7月以来、44カ月ぶりの下落。携帯端末の価格下落が響いた。
2016年度のCPIは、生鮮食品を除く総合が99.7となり、15年度に比べ0.2%下落した。下落は4年ぶりとなる。
併せて発表した東京都区部の4月のCPI(中旬速報値、15年=100)は生鮮食品を除く総合が99.8と、前年同月比0.1%下落した。下落は14カ月連続。通信費や家賃、ガス代の下落が響いた。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、統計をいくつも取り上げたので、とても長くなってしまいました。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は、次の商業販売統計や雇用統計とも共通して、景気後退期です。

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繰り返しになりますが、3月の生産は季節調整済みの系列で前月から▲2.1%の減産となり、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲1.0%でしたので、かなり大きなマイナスと受け止めています。ただし、レンジは▲2.1%~+0.5%でしたので、レンジを突き抜けたというわけではありません。また、これも引用した記事にある通り、四半期でならして見ると、ほぼ横ばいながら、1~3月期では前期比+0.1%の増産となっています。さらにさらにで、製造工業生産予測指数では4月の生産計画について前月比+8.9%増と大幅な上昇を見込んでいます。アッパーバイアスを除いても、4月の増産は+5%を超える可能性もありますので、ジグザグした動きながらも、3月のマイナスは軽くクリアしてお釣りが来る勘定なのかもしれません。ただ、製造工業生産予測調査では5月は再び▲3.7%の大きな減産と見込まれており、そのあたりも総合的に勘案して、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「持ち直しの動き」に据え置いています。財別の出荷は3月に関しては冴えない結果に終わりました。ただ、先行きについては、生産・出荷は底堅く推移すると見込んでいます。即ち、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたインフラ需要に加え、耐久消費財については家電エコポイント導入時に購入された白物家電などが買い替えサイクルを迎えていますし、消費増税前の駆け込み需要の悪影響も剥落しつつあります。外需についても、米国向け輸出は増勢が一段落しているものの、欧州向けや中国をはじめとするアジア向けの輸出は好調を維持しています。他方、下振れリスクとしては、エコノミストにはわけが判らない北朝鮮に関する地政学的なリスクがあります。私のようなシロートの目から見ても、いよいよ末期症状に見えるんですが、何がどうなるかは私の予想を超えそうな気がします。知り合いの友人の表現ながら、北朝鮮は昔から瀬戸際外交を繰り広げているんですが、最近ではトランプ米国政権も瀬戸際外交に近いんではないか、と言っていたりしました。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた期間は景気後退期です。GDPベースの消費の代理変数となる小売業販売は季節調整していない原系列の前年同月比で+2.1%増、季節調整済みの系列の前月比でも+0.2%増と、昨年半ばあたりから堅調に推移しています。引用した記事にもある通り、新型車の投入による自動車売上げの増加の効果が大きく、逆に、天候条件から気温が上がらず、春もの衣料品の売り上げは伸びなかったようです。ドラッグストアの販売が伸びているのは、下火になったとはいえ、インバウンド消費の貢献も少なくないと私は受け止めています。小売売上の先行きについては、雇用がとても堅調な一方で、量的な完全雇用に質的な賃上げが伴っておらず、先行き不透明ながら、基本的には雇用の不安が低下し消費は増加する方向にあると考えています。繰り返しになりますが、家電エコポイント導入時に購入された白物家電などが買い替えサイクルを迎えていますし、消費増税前の駆け込み需要の悪影響も剥落しつつあり、緩やか小売り売上げは増加するものと見込んでいます。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影をつけた期間はいずれも景気後退期です。引用した記事にもある通り、失業率も有効求人倍率もいずれもバブル経済以降くらいの人手不足を示す水準にありますが、繰り返しこのブログで指摘している通り、まだ賃金が上昇する局面には入っておらず、賃金が上がらないという意味で、まだ完全雇用には達していない、と私は考えています。私自身の直観ながら、失業率が3%を下回ると賃金上昇が始まると予想していたんですが、一昨日の取り上げたリクルートジョブズの派遣スタッフの時給調査結果に表れているように、派遣労働者の時給は人手不足と言われつつもむしろ下がり始めています。労働需要サイドで、デフレ経済下で安価な労働力に依存していた低生産性企業が退出し非正規雇用への需要が低下したのかもしれませんし、あるいは、労働供給サイドで、デスキリングが広範に生じているのかもしれません。たぶん、どちらも違うんだろうという気がしますが、素直に人手不足で賃金が上昇する世界がとても遠く感じてしまいます。

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続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。なお、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。加えて、酒類の扱いがビミョーに私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。念のため。ということで、ようやく、国際商品市況の石油価格の底入れから上昇に従って我が国の物価も上昇に転ずる、との結果となっています。上のグラフでは積上げ棒グラフの黄色がエネルギー価格の寄与なんですが、2月CPIからプラス寄与に転じています。ただ、石油価格下落の影響はこの先もまだ物価に波及を続ける可能性があり、上のグラフでも食料とエネルギーを除くコアコアCPI上昇率が低下してマイナスに転じているのが見て取れます。従って、先行きのコアCPI上昇率がこのまま一直線でプラス幅を拡大するかどうかは楽観できないと受け止めています。特に、現在の物価上昇はエネルギー価格の上昇に支えられており、コアCPIの前年同月比上昇率+0.2%のうち、エネルギーの寄与度が+0.3%近くに達します。すなわち、エネルギーを除けば物価はまだ水面下にあるとさえいえます。しかも、東京都区部ではヘッドライン、コアともにいまだにマイナスを続けています。人手不足にもかかわらず賃金が上がりませんので、サービス物価の上昇は鈍いままであり、昨日「展望リポート」を公表した日銀の物価見通しも、公表されるたびごとに物価上昇率は下方修正し、2%のインフレ目標達成は先送りされています。私はリフレ派のエコノミストとして、まずはデフレ脱却と考えていて、ほぼデフレは終了しつつあると認識していますが、2%のインフレ目標はかなり遠そうな気もします。

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2017年4月27日 (木)

初回の先制パンチで横浜に完勝!

  RHE
横  浜001010000 270
阪  神31000010x 5101

横浜先発井納投手の立ち上がりを叩いた初回の先制パンチで横浜に快勝でした。インフルエンザから復帰した阪神先発の藤浪投手は、イマイチ、ピリッとしない投球でしたが、病み上がりですので次回に期待します。初先発でファーストを守ったキャンベル選手もダメ押し打で打点を上げるなど、なかなかいいカンジの甲子園デビューだったんではないでしょうか?

次の中日戦も、
がんばれタイガース!

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久々に景気拡大と表現した日銀「展望リポート」の経済見通しやいかに?

昨日から開催されていた日銀金融政策決定会合ですが、景気判断は9年振りに「拡大」の表現を用いたものの、金融政策は現状維持、というか、追加緩和なしで終了し、「展望リポート」が明らかにされています。下のテーブルは、「展望リポート」の基本的見解から2016-2018年度の政策委員の大勢見通しを引用しています。1月時点からはかなり上方修正されたんですが、インフレ目標である+2%の達成は、引き続き、「見通し期間の中盤(2018年度頃)になる可能性が高い」とされています。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で、引用元である日銀の「展望リポート」からお願いします。

  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
 
消費税率引き上げの
影響を除くケース
 2016年度+1.4~+1.4
<+1.4>
▲0.3
 1月時点の見通し+1.2~+1.5
<+1.4>
▲0.2~▲0.1
<▲0.2>
 2017年度+1.4~+1.6
<+1.6>
+0.6~+1.6
<+1.4>
 1月時点の見通し+1.3~+1.6
<+1.5>
+0.8~+1.6
<+1.5>
 2018年度+1.1~+1.3
<+1.3>
+0.8~+1.9
<+1.7>
 1月時点の見通し+1.0~+1.2
<+1.1>
+0.9~+1.9
<+1.7>
 2019年度+0.6~+0.7
<+0.7>
+1.4~+2.5
<+2.4>
+0.9~+2.0
<+1.9>

ざっと見て、GDP成長率が小幅に上方修正されている一方で、物価見通しは小幅に下方修正されています。最後に、日銀政策委員人事については、広く報じられている通り、政府から片岡剛士氏と鈴木人司氏を充てる人事案を国会に示しています。片岡氏はシンクタンク出身でリフレ派エコノミストとして金融緩和に積極的な一方で、鈴木氏は銀行出身ということもあり場合によっては金融緩和にどこまで積極的かには疑問が残ります。ただ、今日までの金融政策決定会合においても、後退する現在の木内委員と佐藤委員は議案に一貫して反対票を投じており、2人の委員が入れ替わったとしても、現在の黒田総裁以下の執行部による金融政策運営の方向性に大きな変更はないものと私は考えています。

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2017年4月26日 (水)

リクルートジョブズの派遣スタッフの募集時平均時給はまだ下がるのか?

明後日の今週金曜日に失業率や有効求人倍率などの雇用統計が、鉱工業生産指数(IIP)と消費者物価指数(CPI)などとともに公表される予定となっていますが、しばしば取り上げているリクルートジョブズの非正規雇用の時給調査、すなわち、アルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の3月の調査結果が明らかにされています。リンク先は以下の通りです。

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ということで、アルバイト・パート及び派遣スタッフそれぞれの募集時平均時給の推移は上のグラフの通りです。前者のアルバイト・パート順調に賃上げがなされているんですが、派遣スタッフについては3月統計ではとうとう前年同月比で▲2%を超えるマイナスを記録しました。金額としての絶対水準が高いとはいえ、首都圏では派遣スタッフ時給は3月に1,663円と前年同月から▲50円の低下となっています。三大都市圏のほか東海圏は前年比プラス、関西圏は首都圏と同じで前値比マイナスです。なお、リクルートジョブズ以外では、エン・ジャパンも同じように、「2017年3月度の派遣平均時給は1,535円、6ヶ月連続で前期比マイナス」と題して、前年同月比▲2.1%とリポートしています。ただ、エン・ジャパンはリクルートジョブズと違って、三大都市圏すべてで前年比マイナスとなっています。また、エン・ジャパンではリクルートジョブズと同じ三大都市圏以外での派遣スタッフの時給を明らかにしており、3月の派遣時給を全国的に見ても、北信越が前年比でプラスを記録しているだけで、ほかの北海道、東北、中国・四国、九州・沖縄はすべてマイナスとなっています。ですから、派遣時給の低下はほぼ全国的な広がりを持っていると見てよさそうです。
派遣の時給が下がり始めた昨年9-10月ころには、日経新聞の記事などに見られる通り、時給の高い職種の下落が影響しているんではないか、との見方が一般的でしたが、人手不足の中で派遣事業が拡大し過当競争に陥って派遣スタッフの時給にしわ寄せがきている可能性もなくはないんではないかと私は考えています。それとも、企業サイドで派遣募集を控えて正規職員募集に切り替える方向にあるほどは、労働者サイドで正規職員募集に対応しきれず、その分、派遣スタッフの需給が企業サイドの買い手市場に傾いているんでしょうか。私なんぞも貧弱なメディアながら、あれほど正規職員の増加を訴えて来たんですから、そんなことはないとは思うものの、いずれにしても、かなり不思議な現象です。

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2017年4月25日 (火)

横浜のルーキー濱口投手に打線が沈黙して秋山投手を見殺し!

  RHE
横  浜100000000 150
阪  神000000000 030

先発秋山投手のナイスピッチングも、横浜のルーキー濱口投手に打線が沈黙して競り負けました。見ごたえのある投手戦でしたが、初回の失点が最後まで響きました。打線は相変わらず初物に弱く、横浜投手陣の勝利の方程式の前に沈黙を強いられ、秋山投手を見殺しにしてしまいました。

明日の藤浪投手の復帰戦は、
がんばれタイガース!

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高い伸びを維持する企業向けサービス物価(SPPI)上昇率の先行きやいかに?

本日、日銀から3月の企業向けサービス物価指数(SPPI)が公表されています。前年同月比上昇率で見て、ヘッドラインSPPIは+0.8%、国際運輸を除くコアSPPIも+0.8%と、徐々に上昇幅が拡大しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

3月の企業向けサービス価格、前年比0.8%上昇 人手不足受け
日銀が25日発表した3月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は103.9で、前年同月比0.8%上昇し、45カ月連続で前年を上回った。前月比も0.6%上昇した。消費増税の影響を除いたベースでは前年同月比で0.9%上昇と、比較可能な01年度以降で最も大きい伸びとなった。
土木建築サービスが首都圏での再開発の進展に伴い上昇した。交通誘導警備が人手不足を受けた人件費上昇を背景に伸びたほか、道路貨物輸送もドライバーの確保が難しく需給が引き締まるなかで値上げが進んだ。インターネット広告は化粧品や日用品メーカーを中心に出稿意欲が旺盛で、価格の上昇につながった。日銀の調査統計局は「人手不足に伴うサービス価格の上昇がやや目立ち底堅いが、力強さに欠ける分野もある」と説明した。
対象の147品目のうち、価格が上昇したのは65、下落した品目は42で、上昇品目数は下落品目数より23品目多かった。
同時に発表した16年度の価格指数は103.2と、前年度比0.4%上昇した。上昇は4年連続。土木建築サービスや事務所賃貸が伸びた。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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2月統計から3月統計にかけてSPPIの動きが小さく、前年同月比上昇率も+0.8%で上昇幅も大きな変化ありませんでした。統計の大分類の7項目、すなわち、金融・保険、不動産、運輸・郵便、情報通信、リース・レンタル、広告、諸サービスのいずれも、2月から3月にかけての上昇率はそれほど大きな変化は見られず、広告が2月+3.0%上昇に続いて、3月も+2.5%上昇、さらに、諸サービスが2月+1.0%に続いて3月+1.1%上昇といったあたりが高い伸びを示しています。
SPPIの今後の見通しについては、人手不足に伴ってさらに上昇率が加速する可能性があると私は考えています。例えば、2月10日に公表された国土交通省のプレスリリース「平成29年3月から適用する公共工事設計労務単価について」によれば、今年の3月1日から適用される公共工事設計労務単価は全国全職種単純平均で対前年度比+3.4%の引き上げとなるとしていますし、私が見た本日付けの日経新聞朝刊の1面トップは「ヤマト、値上げ 5~20% 消費者向け27年ぶり」と題した記事で、働き方改革や人材の確保に充てるため宅配便で5割のシェアを握るヤマトが消費者向けの宅配便の基本運賃を5~20%引き上げる方針を固め、インターネット通販会社など割引を適用する大口顧客にはさらに大きい値上げ率を求める、と報じられています。さらに、一般的なうわさ話の域を出ないものの、景気回復・拡大が長期化する中で、特に東京のオフィス需給がひっ迫して賃貸料が上昇しているといいます。ヤマトの価格改定はまだ先かもしれませんが、4月は価格改定のシーズンでもあり、企業向けサービス物価(SPPI)の動向が、その川下の消費者物価(CPI)などとともに気にかかるところです。

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2017年4月24日 (月)

マクロミル・ホノテによる2017年ゴールデンウィーク休暇の理想と現実やいかに?

もうすぐ今週末からゴールデンウィークが楽しみですが、4月4日公表とやや旧聞に属する話題ながら、マクロミル・ホノテのサイトで2017年ゴールデンウィーク 理想と現実と題して、連休日数などを調査しています。我が家は受験生がいますので、大っぴらに遊び回ることは出来かねますが、世間さまの動向には着目していますので、グラフをいくつか引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。まず、マクロミル・ホノテのサイトから調査結果の TOPICS を3点引用すると以下の通りです。

TOPICS
  1. 2017年ゴールデンウィーク、働く男女の理想は「9連休」が断トツ! でも現実は「5連休」
  2. 気になる他人のお財布事情、ゴールデンウィークの平均予算は、ひとり当たり36,058円、男性は30代、女性は他世代を大きく引き離し20代がそれぞれトップに
  3. ゴールデンウィークの"お出かけ率"は83%、引きこもり派の3大理由、「混雑が苦手」「疲れた身体を休めたい」「金欠」

なかなかよく取りまとめられた印象です。我が家は受験生がいますので、大っぴらに遊び回ることは出来かねますが、世間さまの動向には着目していますので、グラフをいくつか引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはマクロミル・ホノテのサイトから 2017年ゴールデンウィークの連休日数 を引用しています。見れば明らかで、5連休が過半を占めています。今年のゴールデンウィークは5月1日(月)と2日(火)の2日間を休めば最大で9連休が可能なカレンダーなんですが、実際は5月3日から7日までのカレンダー通りの5連休、という人が多そうな雰囲気です。私もそうかもしれません。

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次に、上のグラフはマクロミル・ホノテのサイトから 2017年ゴールデンウィークの理想の連休日数 を引用しています。理想は9連休という人が過半を占めていますが、カレンダー通りの5連休でもいいや、というカンジの人も少なくなく、平均ではその中間の7日、との結果が出ています。まあ、そうなのかもしれません。

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最後に、上のグラフはマクロミル・ホノテのサイトから 2017年ゴールデンウィークの消費予想 を引用しています。あくまで予想なんですが、1万円未満と1万円から3万円未満がそれぞれ1/3を占めていて、やや渋い結果となっています。ただ、大胆に使う人がいるようで、平均は3万円を超えています。エコノミストとしては消費がどこまで盛り上がるかは気にかかるところです。

私は年度末と年度は縞が忙しい公務員ですので、今年に入ってから有給休暇はまだ1月に1日取っただけとなっていて、かなり年齢的な体力低下もあって疲労がたまっているような気がしますが、ゴールデンウィークはもうすぐです。何とか今週を乗り切りたいと思います。

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2017年4月23日 (日)

横山投手今季初勝利を巨人から上げる!

  RHE
阪  神101000000 250
読  売001000000 1100

インフルエンザの藤浪投手に代わって先発の横山投手の今季初勝利でした。打つ方は相変わらず湿りがちで、4番福留選手の2打点に終わったんですが、投手陣、特に、セットアッパーのマテオ投手とクローザーのドリス投手は完璧でした。巨人には何とか勝ち越したものの、今週は打線の奮起を期待します。

今週の甲子園6連戦も、
がんばれタイガース!

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2017年4月22日 (土)

スミ1の4安打に打線が抑え込まれて巨人に逆転負け!

  RHE
阪  神100000000 141
読  売00200011x 460

小雨が降ったので自転車で図書館を回るのを諦め、室内競技の野球観戦に切り替えたんですが、スミ1の4安打に打線が抑え込まれて巨人に逆転負けでした。糸井外野手を獲得したとはいえ、外国人選手抜きの打線はこんなもんなんですかね。投げる方では、能見投手は6回までナイス・ピッチングだったんですが、打線の援護なくリリーフ陣も失点して、今シーズンの初勝利が遠くなっています。インフルエンザですから仕方ないのかもしれませんが、今日に続いて明日も先発投手はサウスポー対決です。右打者はいうまでもなく、打線の奮起を期待します。大いに期待します。

明日こそ横山投手を盛り立てて、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書や専門書に加えて話題の小説など計9冊!

今週は経済書や専門書・教養書に加えて、直木賞受賞の小説や本屋大賞1位2位、というか、直木賞と本屋大賞1位は同じなんですが、そういった話題の小説も含めて計9冊でした。これから夕方にかけて図書館を自転車で周る予定ですが、ゴールデンウィーク直前の来週の読書やいかに?

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まず、橘木俊詔『家計の経済学』(岩波書店) です。著者は著名なエコノミストであり、私の母校である京都大学経済学部をホームグラウンドにしていました。本書は3部構成となっており、家計の歴史的変遷、家族の変化、格差・貧困をそれぞれで取り上げています。GDPのやく3分の2を占めるのは家計による消費であり、成長や景気を論じる際、マクロ経済学的に重要であるだけでなく、本書の第3部で着目している格差や貧困などのマイクロな経済学の観点からも、かつての1億総中流時代を終えて、最近時点で重要性が増しています。本書は日本の人口変動、家族形態の変遷から説き起こし、働き方や所得分配や消費・貯蓄動向を分析することによって、明治から現代まで日本人がどのような家計行動をしてきたかを示そうと試みています。家計に関する経済学限りませんが、戦前と戦後では大きな断絶があり、明治から戦前の日本経済においては女性の労働力率のM字カーブは見られず、終身雇用や年功賃金なども戦後の高度成長期の人手不足に整備された雇用慣行といえます。また、家計の経済学とは直接の関係がないことから本書では取り上げていませんが、企業の資金調達なども戦後のメインバンク制による間接金融ではなく、戦前は社債の発行などによる直接金融でした。戦前は格差が大きかった一方で、戦後は単騎に終わったとはいえ財産税の徴税もあって、格差縮小が一気に進んだという点は見逃されるべきではありません。ただ、最近時点では非正規雇用の拡大による格差の拡大が観察されるのは本書でも指摘する通りです。また、女性の就業についてもダグラス=有澤の法則が支配的になった時期もありましたが、最近では少し崩れつつあるようです。最後に、本書では、第12章で貧困について分析を加えており、貧困拡大の主因としてバブル経済崩壊後の深刻な不況による失業の増加と賃金の低下、また、そういった状況下での企業のリストラ策の一環としての非正規雇用の増加を、著者は第1と第2の原因として上げていますが、そのわりには、成長に対して消極的な考えを本書でも散りばめているのが私には理解できません。低成長下ですべての貧困対策を政府が担うべき、という意見なんでしょうか。それにしても、税込みなら5,000円を超えるお値段は買い求めるには、かなり高い気がします。

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次に、沢井実・谷本雅之『日本経済史』(有斐閣) です。著者2人はいずれも日本経済史の研究者であり、本書は16世紀終わりの織豊政権期から1970年代初頭くらいまでの高度成長期をカバーした日本経済史のテキストです。私は大学時代は西洋経済史のゼミでしたので、それなりに経済史は馴染みがあります。江戸期では小農経営主体の農村経済と大消費地たる京・大坂・江戸の都市経済を対比させつつ、明治維新期から戦間期、そして太平洋戦争前後の混乱期とそれに続く高度成長期を跡付けており、具体的な章別構成は、第1章 「近世社会」の成立と展開(1600~1800年)、第2章 移行期の日本経済(1800~1885年)、第3章 「産業革命」と「在来的経済発展」(1885~1914年)、第4章 戦間期の日本経済(1914~1936年)、第5章 日本経済の連続と断絶(1937~1954年)、第6章 高度経済成長(1955~1972年)、となっています。直観的な構造変化と統計、というほどのものではないにしても、何らかの定量的な史料で裏付けられた数量の分析を基に、我が国近世から近代・現代の経済史を解き明かしています。ただ、戦後の占領軍による改革が少し弱い気がします。特に、農地改革がスッポリと抜け落ちているのは不思議です。私の従来からの主張の通り、歴史の流れは基本的に微分方程式の系に沿って進んでおり、従って、初期値が決まればアカシックレコードのように未来永劫に渡る歴史が決まってしまうと考えていて、別の味方をすれば、量子物理学以前のニュートン的な決定論かもしれませんが、ラプラスの悪魔の見方とも言えます。しかし、実際には、アカシックレコードではなく、確率的にジャンプするシンギュラリティがあり、本書のスコープとなっている期間の日本経済史では明治維新と太平洋戦争がその特異点に当たると私は考えています。西洋経済史では産業革命です。そこをいかに説明できるかが経済史のテキストの値打ちを決めると私は考えていますが、本書は何とか合格点だという気がします。

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次に、ピーター・ナヴァロ『米中もし戦わば』(文藝春秋) です。著者は米国のカリフォルニア大学アーバイン校のビジネス・スクールの経済学の研究者であり、外交や安全保障の専門家ではないようです。ただし、トランプ米国大統領の政権移行チームで政策顧問を務め、経済、貿易、そしてアジア政策を担当していたらしいです。英語の原題は Crouching Tiger であり、まさに陸上競技のクラウチング・スタートのように伏せをした虎、という意味です。2015年の出版となっています。私はまったくの専門外ながら、本書では70%という具体的な確率を上げて米中の開戦の可能性が高いと指摘しつつ、どうすれば開戦を回避できるかを考察しています。9.11テロの後の当時の米国のブッシュ政権では国連決議を待たずに同盟国と組んだ多国籍軍という形での軍事行動を中東やアフガニスタンで行いましたが、現在のトランプ米国大統領は同盟国すら説得することなしの単独軍事行動を志向する可能性があります。現実にシリアのアサド政権の軍事基地に向けて巡航ミサイルを打ち込んだりしているわけです。北朝鮮に対しても中国の出方次第では日韓の頭越しに単独の軍事行動を取る可能性もゼロではありません。そのトランプ政権の懐刀として、本書の著者は米中開戦の確率をかなり高めに見積もり、しかも、「弱さは常に侵略への招待状」(p.354)として、同盟国を守りつつ米国が軍事的に中国の脅威に対処する重要性を強調しています。従って、というか、何というか、本書は中国の軍事力や戦略に関するバランスのとれた分析では決してないと私は思うんですが、現在のトランプ政権の下でのあり得る軍事的なシナリオを提示していることは間違いなく、その意味で、米中開戦はホントにあれば我が国経済なんかはぶっ飛ぶお話しですので、エコノミストととしても気にかかるところです。

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次に、竹中治堅[編]『二つの政権交代』(勁草書房) です。政治学の研究者による2009年と2012年の2回の政権交代に関する研究所です。具体的な政策テーマとしては、農業、電力、コーポレート・ガバナンス、子育て支援、消費増税、外交、防衛大綱の改定、集団的自衛権の8分野について、4つの分類、すなわち、政権交代に際して政策が大きく変更されたもの、2回の政権交代にもかかわらず政策の継続性が高いもの、2009年の政権交代で政策変更されたものの2012年の政権交代では継続性が高かったもの、逆に、200年の政権交代では継続的だったが2012年の政権交代では大きな変更を見たもの、の4カテゴリーを見出しています。最初のカテゴリーには農業や子育て支援が当てはまり、アジアを中心とする外交政策は2度の政権交代に渡って変更の少なかったものであり、第3のカテゴリーがもっとも多くて、電力、コーポレート・ガバナンス、消費増税、防衛大綱が含まれるとしています。しかし、私は外交については民主党政権下で米国一辺倒からの脱却と中国寄りの姿勢が見られ、それがために当時の米国オバマ政権から鳩山内閣が見放されたんではないかと見ていますので、少し疑問に感じます。でも、2009年の民主党政権による政策変更を2012年の安倍内閣が引き継いだケースが割合と多い、というのは実感としてもそうだという気がします。ただ、本書の視点そのものが私には疑問です。すなわち、政権交代があったから政策変更がなされたわけではなく、何らかの条件の変化、例えば、米国の地位の低下と中国の台頭とか、我が国の高齢化や少子化の進行とか、そういった条件の変化が政策の変更を要求し、それが結果として政権交代の必要を高めた、と私は逆の因果関係を見出すべきではないかと考えています。まあ、それにしても、まずまず興味深い政策動向の分析だっっという気がしますし、単に政策の内容だけでなく、ついつい結果を重視するエコノミストの視点からは抜けがちな政策の決定システムやプロセスがキチンと分析されており、勉強になった気がします。

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次に、畑中三応子『カリスマフード』(春秋社) です。著者は編集者、というか、ジャーナリストと考えてよさそうで、もちろん、専門分野は食品なんだろうと思います。前著が『ファッションフード、あります。』というタイトルらしく、私は読んでいませんが、要するに、流行りの食品という意味で「ファッションフード」と称していますから、本書のタイトルの「カリスマフード」はその比較級なしい最上級なんだろうと私は受け止めています。ということで、本書では上の表紙画像に見られる通り、肉・乳・米を取り上げて、明治期からの日本人の食生活を論じていますが、最初の2つの肉・乳と米では位置づけが異なり、肉と乳についてはまさに明治期から日本の食生活にファッションフード、カリスマフードとして導入された一方で、米についてはダイエットからお話が始まっています。明治維新とその直前の会告で外国人と接するようになって、日本人との体格差を歴然と認めざるを得ないようになり、また、帝国主義の時代背景から植民地化を回避するというより、むしろ積極的に植民地を求める富国強兵政策の下で、軍の将兵の体格差を食傷すべく食生活の改革が始まったのは歴史的にそうなんだろうと思います。それにしても、肉食はまだしも、牛乳の飲用については我が国の歴史開闢以来初めて大々的に開始されたわけであり、本書でも衛生観念の欠如から様々な事故があったことが取り上げられています。これを悪意を持って受け止めれば、ミルク排斥論にもつながるわけなんだろうと思います。私は実はミルクがいまだに好きで、ならして見れば、1週間で2.5ないし3リットルくらいの牛乳を飲んでいるような気がします。コーヒーも好きですが、明らかに、もっとも大量に飲用している液体は牛乳だろうと思います。私は世代的に小学校入学時はアノ脱脂粉乳を給食で飲まされて、途中でビン牛乳に変わった世代なので、いまだにミルクを嫌悪する人も少なくありませんが、決して牛乳は嫌いではありません。でも、身長は同世代の中で、それなりに高いは高かったんですが、びっくりするほど高かったわけではありません。最後に、明治期の米にまつわる脚気論争は何となく知ってはいましたし、森鴎外が軍医として誤った見解に固執したのは歴史的事実なんですが、海軍と陸軍を分けて見るなど、なかなか興味深い取り上げ方だったような気がします。最後に、鶏卵についても牛乳とともにいわゆるその昔の表現でいえば「完全食品」なわけで、コチラは江戸期から食用に供されていた点に違いはありますが、もう少しスポットを当ててもいいような気がしました。私のような食いしん坊には読んでいて楽しい本でした。

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次に、恩田陸『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎) です。直木賞受賞作品にして、本屋大賞1位に輝いています。ピアノコンクールの物語です。架空のコンクールとして、3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクールを設定し、このコンクールを制した者は世界最高峰の国際ピアノコンクールで優勝するとのジンクスがあり、近年注目を集めていたりするという設定です。このコンクールに挑戦するのが、ハッキリいって、やや異様な顔ぶれで、これだけで少し私は読み進む興味をなくしたりしてしまいました。すなわち、養蜂家の父とともにフランス各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵15歳、かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳、音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳、完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・カルロス・レヴィ-アナトール19歳、の4人が主要なコンテスタントなんですが、ここまで極端にキャラを立てないと小説が進まないのは、やや失望感を味わってしまいました。実は、私もピアノレッスンを受けていた経験がないわけでもないんですが、何せ、それなりのレベルのピアノのコンクールですから、通常なら5歳より前にピアノを習い始め、音楽高校や音大に進んだミドルティーンから20歳前後までの、おそらく、良家の子女が参加するものであり、天才であったとしても練習の努力なしにオーディションを通過してコンクールに参加できるものではありません。逆に、そういった練習しない天才が残れるコンクールは底が浅い気もします。ですから、そういった細かな差しかないコンテスタントをていねいに書き分ける筆力が要求されるんですが、その書き分けをせずに、かなりムチャなキャラの設定でごまかそうとしているような気がします。たしかに、本書でも参照されている越境型のピアニストとしてグルダがいて、元々はベートーベンの曲を得意にしていたところ、ジャズの即興演奏に手を出したりした事実は私も知っていますが、まあ、この作者の筆力・表現力でもって音楽を文字で表そうとした時点で限界があったような気がします。本屋大賞や直木賞を受賞したにしては失望した作品でした。昨日金曜日の夜遅くの段階で、アマゾンのレビューで、5ツ星が94人に対して、1ツ星も15人いることが、何となくこの作品をよく評価しているような気がします。ただ、「ギフト」という言葉の本来の意味を正しく使っている点は評価します。ここでは、贈答という行為とか贈答品という意味に加えて、神から与えられた特別な才能、という意味でも使われています。

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次に、森絵都『みかづき』(集英社) です。コチラは本屋大賞の2位作品です。昭和から平成にかけての激動の学習塾業界を舞台に、千葉を舞台に3代にわたる50年余りの長期に渡る家族の奮闘を描いています。実は、『蜜蜂と遠雷』もそうだったんですが、本書も特定の主人公、というかストーリーテラーはいません。3人称で視点を変えながら書き綴っています。ただ、本書というか、この作品の作者のひとつの特徴として、個人や家族といった小さな物語だけでなく、天下国家の大きな物語をうまく組み合わせる点を忘れることが出来ません。実は、私はこの作者の作品は直木賞を受賞した短編集の『風に舞いあがるビニールシート』くらいしか読んだことがなくて、恩田陸の作品の方が『夜のピクニック』などたくさん読んでいるような気がするんですが、直木賞受賞作に収録されていた表題作の「風に舞いあがるビニールシート」は難民についても考えさせられる作品でした。ということで、本書は大きな物語として学習塾産業と文部省のせめぎあいも取り上げています。いわゆる学校、文部省が監督する公教育と称される小学校から中学校、高校、大学が太陽であるのに対して、学習塾や、本書では明示的に登場しませんが、予備校などは月という位置づけです。かつて、南海ホークスの野村が巨人のONをひまわりに、自分を月見草に、それぞれなぞらえたようなカンジでしょうか。かなり壮大な小説です。大きな物語に対する家族の中での小さな物語も見逃せません。狂気と紙一重の情熱を秘めた女性、それに対する男性の実務的でありながら、教育に対する熱意を感じさせる言動や行動、などなど、教育について考えさせられるとともに、家族についても考えさせられる作品でした。まあ、そんなに近い将来というわけではありませんが、NHKの大河ドラマになってもおかしくない傑作です。ただ、私も直木賞を受賞した『風に舞いあがるビニールシート』を読んで感じた点ですが、やや不自然であざとい展開が見られなくもありません。よくいえば作り込まれたストーリーなのかもしれませんが、不自然で作為的な印象を持つ読者もいるかもしれません。最後に、これまた、アマゾンのレビューなんですが、5ツ星が31人しかいませんが、1ツ星と2ツ星がいないのもめずらしい気がします。

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次に、 竹内薫『文系のための理数センス養成講座』(新潮新書) です。著者は科学ライターと称しているようですが、ちゃんと博士の学位もお持ちのようですし、それなりにサイエンスの見識があるんだろうと思います。ただし、タイトルに沿った展開をしているのはせいぜい前半だけで、後半は科学にまつわる四方山話に陥っています。前半では、文系よりも理系を上に置くという前提に立って、ダメな文系サラリーマンに対して理系の素晴らしい思考方法や考え方を教えてやる、という上から目線を遺憾なく発揮しています。ただ、プログラミングができる能力を重視する姿勢は私もかなり同意します。エコノミストも数量分析のためのプログラミングは必須の能力となっています。ちなみに、私もいくつかの計量ソフトを操りますし、汎用言語のBASICでもプログラムを組むことができます。ただ、本書の前半の前提となっている文系はダメで理系がいいんだというのは、どこにも理論立てていたり実証されていたりしませんから、本書の著者の勝手な思い込みかもしれません。一般的な傾向として、文系のほうが理系よりも英語ができる国際派が多いような気がするのは私だけでしょうか。また、これまた一般的に、理系学部の卒業生よりも文系学部である経済学部や法学部の卒業生の方が生涯賃金が高いのはどうしてか、もちゃんと頭においておく必要がありそうに思います。でも、こうった根拠なく理系の人が文系よりも理系のほうが優れていると考えがちで、やや視野が狭い傾向も一般論として理解できる点ではあります。

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最後に、原田國男『裁判の非情と人情』(岩波新書) です。著者は刑事畑の裁判官を長らく勤めて定年退官し、現在は法科大学院の教員と弁護士をしています。本書は岩波書店の月刊誌『世界』に掲載されていたコラムを取りまとめたものです。藤沢周平の『玄鳥』や池波正太郎の『鬼平犯科帳』などをこよなく愛し、こういった人情あふれる裁きを目指していたとの述懐があります。私もこれらの作品は大好きなんですが、同様に、エリス・ピータースの修道士カドフェルのシリーズも、必ずしも、報の定めに杓子定規に従うばかりではなく、人情味あふれる解決を探る姿勢は同じような気がします。また、刑事裁判官として、刑法の定めの精神は有罪か無罪かの判決とは白黒をハッキリさせるのではなく、明らかに有罪であるか、あるいは、明らかに有罪とはいえないか、を判決で明らかにすることであり、黒か黒でないかを判断し、疑わしきは被告の利益に、というのが本来のあるべき姿、というのには、なるほどと感心しました。また、私のような公務員もそうではないかと思いますが、裁判官のような実務家は時間に正確であるべきだが、学者などの研究者は時間にルーズである、といった観察結果も明らかにしていて、私は公務員でありながら研究職であり、実務家と研究者の中間的な存在ではなかろうか、と思わずにはいられませんでした。現在の日本では、裁判の判決、入学試験、あるいは、選挙結果などについては概ね公平性や中立性が担保されていて、国民からの信頼も篤いと私は受け止めていますが、こういったキチンと判断できる裁判官、あるいは、常識的な判断が可能な公務員や教員などが実務家としてこういった制度を支えていることを忘れるべきではないと感じました。

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2017年4月21日 (金)

4番の先制スリーランと先発投手の熱投で巨人に先勝!

  HE
阪  神300010000 4101
巨  人001000000 150

実はほとんど試合は見ていないんですが、4番福留外野手の先制スリーランと先発メッセンジャー投手の熱投で巨人に先勝でした。クローザーのドリス投手も完璧だったようです。

明日も能見投手を盛り立てて、
がんばれタイガース!

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発足から3か月近くを経た米国トランプ政権に対する米国民の評価やいかに?

米国での政権交代から3か月近くが経過し、私がよく参照しているピュー・リサーチ・センターから Public Dissatisfaction With Washington Weighs on the GOP と題して、米国の政権、政党、議会に対する世論調査結果が今週月曜日の4月17日に明らかにされています。取りあえず、トランプ政権に対する評価について、歴代の政権と比較しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Early job approval ratings for recent presidents と題するグラフを引用しています。1981年に就任したレーガン元米国大統領から最近6人の米国大統領の就任直後の2月時点での支持率(Approve)と、その2-3か月後の4月ないし5月時点での評価を並べたグラフです。見れば明らかなんですが、現在のトランプ米国大統領は最近の歴代米国大統領に比較して就任直後の2月時点でもともとの評価が低かった上に、4月時点でもわずかに不支持(Disapprove)が減少しただけで、それほどの支持の拡大が見られません。しかも、不支持が支持を上回っており極めて異例な状態となっています。

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次に、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Demographic differences in views of Trump's job performance と題するグラフを引用しています。性別、人種別、年齢別、学歴別などのトランプ米国政権の支持と不支持をプロットしています。これも見れば明らかで、従来からの傾向と変わらず、女性より男性の支持が高く、白人の支持が高く、大雑把に、年齢が高いほど、また、学歴が低いほど支持が高い、という結果が示されています。

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最後に、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Partisan gap in Trump approval ratings much wider than for recent presidents と題するグラフを引用しています。現在のトランプ政権の特徴は2点あり、ひとつは支持率が39%と歴代米国政権よりかなり低いことです。もうひとつは与党共和党と野党民主党の間の支持の差が極めて大きく、米国が党派別に分断されかねない状況にある点です。他方、強力なリーダーシップが発揮しにくい状況ともいえますが、逆に、強力なリーダーシップを発揮して欲しくないと考える米国民も少なくなさそうだったりします。何ともビミョーなところです。

いうまでもなく、米国は我が日本の同盟国であるだけでなく、世界の政治経済に大きな影響を及ぼすわけですから、引き続き、現在のトランプ政権の動向が注目されます。

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2017年4月20日 (木)

貿易統計に見る輸出はいよいよ拡大局面に入ったか?

本日、財務省から3月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+12.0%増の7兆2290億円、輸入額は+15.8%増の6兆6143億円、差引き貿易収支は+6147億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易黒字、6年ぶり 16年度4兆円、震災後で初 3月輸出は12%増
財務省が20日発表した3月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出は前年同月比12.0%増の7兆2291億円で、リーマン・ショックのあった2008年9月以来の水準となった。中国向けの液晶デバイスなどがけん引し、アジア向けの輸出額が過去最高を記録した。2016年度の貿易収支は4兆69億円の黒字で、東日本大震災の前年にあたる2010年度以来、6年ぶりに黒字を確保した。
足元の輸出は好調だ。中国向けは、前年同月比16.4%増の1兆2995億円で、5カ月連続の増加。2月に春節(旧正月)休暇後の反動増があった分、減るだろうとの事前予想を覆し、過去2番目の水準になった。自動車部品や電気回路の機器などは4割増えた。中国向けに加えて、タイ向けの鉄鋼なども好調で、アジア全体では日本からの輸出額が過去最大となった。
輸出は米国・EU向けでも好調が続く。米国向けの輸出額は1兆3531億円と3.5%伸び、2カ月連続で増加した。日系企業の現地生産向け自動車部品や、原動機で2桁伸びた。EU向けはイタリアへの自動車輸出の伸びが寄与した。世界経済の追い風を受けて輸出に勢いがある。
一方、3月の輸入額は前年同月比15.8%増の6兆6144億円だった。原油市況が底入れし、サウジアラビアからの原油輸入額が増えた。オーストラリアからの石炭の輸入額が増えたことも影響した。輸出額から輸入額を引いた貿易収支は17.5%減の6147億円だった。2カ月連続の貿易黒字だが、好調な輸出を上回る輸入の伸びで、黒字額は縮小した。
財務省が同日発表した2016年度の貿易収支は4兆69億円の黒字で、東日本大震災以来、6年ぶりに黒字を確保した。東日本大震災以降は原子力発電所の停止で火力発電所向けの燃料輸入が増えていたが、原油相場の低迷と、16年度は対ドルで前年度比10%の円高になった影響で輸入額が減った。
16年度の輸出は3.5%減の71兆5247億円。米国やサウジアラビア向けの自動車、欧州向けの鉄鋼が減少した。輸入は10.2%減の67兆5179億円だった。マレーシアやカタールからの液化天然ガス(LNG)輸入額が減ったほか、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)からの原油輸入が減った。
16年度の対米の貿易黒字は6兆6294億円で、5年ぶりに減少した。大型車や鉄鋼などの輸出が減少した。トランプ政権は日本を多額の貿易赤字相手国の一つとみなす。日本から米国向けは、16年度通期で見ると自動車輸出が減り、足元ではトランプ大統領の意に沿う形で、現地生産向けの部品が伸びる構図だ。

3月のデータが利用可能になったため、どうしても年度計数に目が行きがちで長めの記事となっているものの、3月の貿易統計に関しても最近の足元での輸出の堅調ぶりを報じた内容となっており、いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、メディアで注目の年度計数ですが、震災前の2010年度から数えて6年振りに年度で貿易収支が黒字を記録しています。震災後のここ数年は原子力発電所の停止で火力発電所向けの燃料輸入が増えていたわけですが、すでに底を打ったとはいえ原油相場が低迷を続けるとともに、2016年度は対ドルで前年度比10%の円高になった影響で輸入額が減った影響が大きいと私は受け止めています。他方、輸出は足元で中国や先進国も含めて世界経済の回復ないし拡大から回復基調を続けています。ただし、引用した記事にもある通り、なぜか、対米国の貿易黒字は6兆円余りと水準は高いものの、2016年度は黒字幅が縮小しているようです。自動車輸出の減少に伴う黒字縮小であり、シェールガスやオイルの影響ではないと考えられています。3月については、引用した記事の見方とは異なり、中華圏の春節の影響で大幅な黒字となった2月の反動は、少なくとも季節調整済みの系列には着実に出ており、上のグラフの下のパネルに見られるように、季節調整済みの系列では3月の輸出額は2月から減少しています。このため、季節調整済みの系列では、2月の貿易黒字+6090億円に比較して、3月は+1722億円と急減を示しています。春節効果で大きな変動の見られる原系列ではなく、季節調整済みの系列では輸出の減少と貿易黒字の縮小が3月に観察されることは忘れるべきではありません。ですから、2016年度の貿易黒字は、ある意味では、世界経済の回復ないし拡大と我が国経済の足踏みを需要面のバックグラウンドにしていたわけですが、季節調整済み系列で見た3月統計ではそうなっていない、という点はエコノミストとしては確認しておいていいと私は考えています。我が国経済も回復ないし拡大の方向にある可能性が高いと考えるべきです。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。輸出額はハッキリと回復ないし拡大を示しており、その背景はOECD先行指数に見られる海外経済の回復による我が国輸出への需要拡大です。

なお、まだ1月ほど先のお話ですが、5月18日には1-3月期のGDP統計1次QEが内閣府から公表される予定となっており、貿易統計の結果から考え合わせると外需寄与度は輸出拡大により1次QEにはプラス寄与になることが見込まれるんではないかと私は考えています。

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2017年4月19日 (水)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」World Economic Outlook 第1章見通し編やいかに?

IMF世銀の4月総会を前に、日本時間の昨夜、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook の第1章見通し編が公表されています。

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まず、IMFのサイトから世界経済の成長率見通しの総括表を引用すると上の通りです。クリックすると、リポート第1章の Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Projections のページ2ページだけを抽出したpdfファイルが別タブで開くようになっています。
世界経済の成長率見通しは、2017年+3.5%、2018年+3.6%と、2016年の実績である+3.1%からやや船長が加速し、また、昨年10月の「世界経済見通し」からもわずかに上方修正されています。日本の成長率見通しは、今年2017年が+1.2%と、昨年10月時点の+0.6%成長から大きく上方修正されていますが、これは過去にさかのぼった統計の見直し (a comprehensive revision of the national accounts) によるものであると明記されています。その後、2018年は+0.6%(昨年10月時点での見通しは+0.5%)成長と鈍化しますが、力強さを増すと予想される外需や東京オリンピック関連の民間投資の効果が考えられる一方で、財政面での下支えの剥落や輸入の回復により相殺されるためであると指摘しています。中長期的には労働の縮小が成長の重しとなるものの、1人当たり所得の伸び率は過去数年と同程度と見込んでいます。物価については、エネルギー価格の上昇、最近の円安、緩やかに高まる賃金圧力などによりインフレ率は高まると予想されるものの、インフレ期待が緩やかにしか高まらない中、2022年までの予測期間中の物価上昇率は日銀のインフレ目標を相当に下回って推移すると見込んでいます。

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最後に、リポートから Figure 1.20. Recession and Deflation Risks を引用すると上の通りです。先進国の中では、米国や欧州ユーロ圏よりも日本の景気後退確率とデフレ確率がグンと高い、との結果が示されています。アジア新興国がいずれもやたらと低い確率を叩き出しているのが印象的です。

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2017年4月18日 (火)

東洋経済オンラインによる「就職人気ランキング」やいかに?

昨日4月17日付けで、東洋経済オンラインにおいて、文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所が行った「企業ブランド調査」を基に「就職人気ランキング」が明らかにされています。2018年3月卒業の大学生が対象ですから、我が家の上の倅より学年でひとつ上ということになりますので、私もそれなりに注目してしまいました。東洋経済オンラインのサイトから就職人気ランキングの1-50位を引用すると下の画像の通りです。働き方改革にあわせて、あれほどバッシングされた電通もランクインしています。

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従来から人気の銀行・証券・保険などの金融機関に加えて、1位となった全日空などの旅行・輸送会社、食品会社などが目立つ気がします。私が学生のころに憧れた商社もいくつか入っています。なお、文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所の「企業ブランド調査」では、さらに詳細な情報が公開されています。ご参考まで。

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2017年4月17日 (月)

今夏のボーナスは増えるのか減るのか?

先週までに、例年のシンクタンク4社から夏季ボーナスの予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因ですので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほ総研の公務員ボーナスだけは地方と国家の両方の公務員の、しかも、全職員ベースなのに対して、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員の組合員ベースの予想ですので、ベースがかなり違っています。注意が必要です。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研36.6万円
(+0.4%)
64.7万円
(+2.6%)
今夏の賞与を展望すると、民間企業の一人当たり支給額は前年比+0.4%と、夏季賞与としては2年連続のプラスとなる見込み。
背景には、2016年度下期の企業収益の底堅さ。製造業では、2016年11月以降の円安の進展、輸出の持ち直しにより、2016年度下期の収益が上振れ。非製造業でも、情報通信業などの増益を中心に、企業収益は高水準を維持する見込み。
第一生命経済研36.7万円
(+0.5%)
n.a.増加が予想されるとはいえ、伸び率自体は小幅なものにとどまる見込みである。加えて、春闘でのベースアップが昨年をやや下回る上昇率にとどまったとみられることからみて、所定内給与も伸びが鈍化する可能性がある。このように17年度も賃金の伸びが緩やかなものにとどまるなか、物価上昇率が今後高まっていくことで、実質賃金は減少する可能性があるだろう。個人消費は先行きも力強さに欠ける展開が予想される。17年度の景気は好調に推移する可能性が高いが、それはあくまで輸出の増加を背景とした企業部門主導の回復になるだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング36.8万円
(+0.9%)
64.2万円
(+1.9%)
2017年夏の民間企業(調査産業計・事業所規模5人以上)のボーナスは2年連続で増加すると予測する。労働需給が引き締まる中、ボーナスを算定する上で基準とされることの多い基本給(所定内給与)が前年比で増加を続けていることに加え、足元で企業業績が改善していることもあり、一人あたり平均支給額は36万8,272円(前年比+0.9%)と増加しよう。特に製造業では、円安や内外需要の回復を背景に業績が改善しており、堅調に増加するだろう。
みずほ総研36.9万円
(+1.1%)
71.1万円
(+2.5%)
今夏の民間企業一人当たりボーナス支給額は前年比+1.1%と、前年から鈍化する見込みだ。他方で、人手不足対策としての正社員化や非正社員の待遇改善を背景に、ボーナスの支給対象者数は増加するだろう。正社員化の動きについては、2017年入り後にパートタイム比率が低下するなどの進展が見られる。非正社員についても、今春闘で処遇改善に取り組む企業が大幅に増加している。その結果、新たにボーナスが支給される対象者が増加し、民間の支給総額は前年比+4.5%と高めの伸びになると予想する。

ということで、今夏のボーナスは昨夏の伸び率は下回るものの緩やかに増加し、さらに、政府の働き方改革の後押しもあって、待遇改善が進んでボーナス支給体対象が拡大することなどから、1人当りの伸び以上にマクロの支給増額が増加すると見込まれています。国民生活の向上と安定のため、企業が内部留保をもっと上手に使うよう、私は願って止みません。
下のグラフは日本総研のリポートから、ボーナスの支給総額の推移を引用しています。

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2017年4月16日 (日)

わずかに4安打ながら原口選手のタイムリーで広島に逆転勝ち!

  HE
広  島100000000 160
阪  神00100001x 240

首位広島との3連戦3戦目は、勝負強い原口選手のタイムリーで広島に逆転勝ちでした。能見投手は5回で降板しましたが、ランナーを出しつつも、要所を締めて1失点でした。勝利の方程式の勝ちパターンの継投で広島をゼロに抑え、8回に原口選手のタイムリーが出て僅差で広島を振り切りました。クローザーのドリス投手は完璧に9回を抑え切りました。

次のナゴヤドームも、
がんばれタイガース!

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今年のゴールデンウィークのお天気傾向やいかに?

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今日はとても気温が上がり、私は半袖でした。でも、街行く人の中にはまだダウンを着用に及んでいる人もいたりしました。季節の変わり目です。
といことで、先週4月10日にウェザーニューズから今年2017年ゴールデンウィークの天気傾向が明らかにされています。上の画像の通り、気温は平年よりやや高めの地域が多く、お天気は周期的な変化を見せるようです。今年は割合とカレンダーがいいので、連続休暇が取りやすそうなんですが、我が家は昨年に続いて受験生がいますので、おおっぴらに遊びに行くことは差し控えようと考えています。

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2017年4月15日 (土)

今週の読書は途上国の開発に関する石油のネガティブな役割に関する専門書など計9冊!

今週の読書は、私の専門である途上国の開発関係、でも、開発経済学ではなく、何と、開発政治学関係の本をはじめ、量子物理学や生物学、小説も含めて、大いに飛ばし読みに励み、以下の9冊です。

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まず、マイケル L. ロス『石油の呪い』(吉田書店) です。著者は米国カリフォルニア大学UCLAの政治学の研究者です。本書の英語の原題は The Oil Curse であり、2012年の出版です。邦訳タイトルはほぼほぼ直訳だったりします。もともと、サックス教授らの論文もあって、私の専門分野である開発経済学には天然資源の呪い、というのがあります。天然資源があるために人的・物的資本の蓄積の必要性が低く、結局、工業化に失敗したり、オランダ病によって為替が増価して輸出が伸び悩んだりする現象です。本書では、天然資源の圧倒的な部分を占める石油に着目し、特に、計量分析手法を駆使して石油と民主化の遅れや権威主義国家の存続に石油が果たした役割などを分析しています。ひとつの観点は女性のエンパワーメントです。石油の産出と女性の地位の低さは確実に相関しているとの結果が示されています。私のような開発経済学の研究者が計量分析をする場合は、左辺の非説明変数に1人当りのGDPなどの豊かさの指標を置いて、右辺の説明変数に民主主義の成熟度や貿易の開放度、教育水準などを置いて回帰分析するんですが、開発政治学の場合は左辺の非説明変数が民主主義の成熟度、あるいは、民主主義か権威主義かのダミーで、逆に、右辺の説明変数に1人当りGDPを置いたりしているようです。どちらがどちらを説明し、原因と結果の方向性が経済的な豊かさなのか、民主主義に成熟度なのか、議論があるところですが、本書のような方法論もとても参考になりました。ただ、申し訳ないながら、開発経済学のほうが計量分析手法としては開発政治学よりは進んでいるんではないかと自負できたりもしました。

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次に、野口悠紀雄『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞出版社) です。著者は財務省出身のエコノミストであり、本書の前の2014年には関連書として『仮想通貨革命』を出版しています。なお、類書として同じ出版社からタプスコット著の『ブロックチェーン・レボリューション』というのがあり、私は図書館に予約を入れていますがまだ読んでいません。ということで、サトシ・ナカモトの理論に基づき、話題のビットコインの技術的な基礎を支えている技術のひとつであるブロックチェーンに関する本です。このブロックチェーンに支えられたデジタル通貨・仮想通貨については、本書にもある通り、国際決済銀行(BIS)や国際通貨基金(IMF)などがリポートを出しており、決まり文句のように、現状での問題点を指摘するとともに、将来の可能性を評価しています。本書ではデジタル通貨とブロックチェーンをやや混同しているんではないかと見受けられる部分もあるものの、基本的に、両者に関する評価を下しています。すなわち、仮想通貨には3種類あるとし、リバタリアン的に管理者なしに流通するビットコインのような仮想通貨、三菱東京UFJ銀行のような大銀行が発行する仮想通貨、そして、中央銀行が発行・流通させる仮想通貨です。それぞれの特徴と問題点を明らかにしつつ、同時に、仮想通貨により、マイクロペイメントの小口送金と特に新興国などへの国際送金に利便性が大きい、と評価しています。何といっても、仮想通貨による決済は料金コストと時間のいずれも節約的です。また、ブロックチェーン技術の基づく新たなビジネス、すなわち、土地投機や予測市場の成立などを論じています。ただ、本書では将来的な雇用や労働のあり方、経営の方向性などについては、それほど詳しくは展開されていません。そこは少し残念な点かもしれません。私は技術的なブロックチェーンの構造や機能などについてはサッパリ理解できませんが、経済分野で大きな波及のある技術ですので、可能な範囲でフォローしておきたいと思います。

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次に、吉村慎吾『日本流イノベーション』(ダイヤモンド社) です。著者は公認会計士から経営コンサルタントをしているそうです。まず、本書の冒頭ではUberやAirBnBなど、いわゆるシェアリング・エコノミーの進展とか、あるいは、人工知能(AI)やロボットの利用可能性などの一般的なイノベーションの現状を、いかにもコンサルらしい上から目線で得々と取り上げ、さらに、モノ消費からコト消費へと消費のサービス化が進み、草食化した青年が自動車を欲しがらなくなった現時点の国民生活や消費の実態に関して議論を展開します。ハッキリいって、特に新味もなく、ありきたりな内容です。このあたりで勉強になるような読者は、ほとんど何も勉強していないのかもしれないと思うくらいです。第3章で日本企業でイノベーションを起こす実際の考え方がようやく展開され始めますが、いかんせん、公認会計士出身の財務から企業を見るコンサルタントですから、技術に関する知識が殆どないのではないか、と疑われて、ひたすら自慢話に終止しています。自慢話があるだけご同慶の至りなんですが、「強い使命感」に「イノベーティブなビジネスモデル」が備わると、イノベーションが進む、と言われてしまえば、トートロジー以外の何物でもなく、書籍として出版する値打ちがあるかどうかも疑わしくなります。完全な失敗読書であり、まったくの時間のムダでしかありませんでした。

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次に、ウィリアム・パウンドストーン『クラウド時代の思考術』(青土社) です。著者は物理学や情報工学を専門分野とするサイエンス・ライターであり、2015年2月には『科学で勝負の先を読む』の読書感想文をこのブログにアップしています。本書の英語の原題は Head in the Cloud であり、2015年の出版です。本書のキーワードはダニング=クルーガー効果であり、能力の低い人ほど自分を過大評価するという現象で、米国の心理学者が前世紀末に発見しているそうです。もうひとつがグーグル効果であり、コチラはオンラインでお手軽に検索できる知識は忘れられやすい、というものです。本書では大量のトリビア的なクイズのような質問に対する回答結果をもって、一般大衆がかなり無知である点を明らかにしていますが、これは情報というか、知識として持っていない、ということであって、例えば、ジェームズ・スロウィッキー『「みんなの意見」は案外正しい』にあるように、牛の体重とかのような平均的にカウントするタイプの質問には当てはまらないような気もします。私にとって興味深かったのは、米国の右派メディアを代表するFOXニュースの視聴者に無知のレベルが高い、というか、情報量が少ない、と本書の著者が指摘している点です。本書では、確証バイアスの可能性を指摘し、要するに、右派的な心情の持ち主がFOXニュースを見て安心する、という仮説を提示しています。そうかもしれません。我が国では朝日新聞と左派的な心情がそうなのかもしれないと感じてしまいました。なお、我が家では朝日新聞を購読しています。最後に、ダニング=クルーガー効果に関する原著論文へのリンクは以下の通りです。

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次に、ロバート P. クリース/アルフレッド・シャーフ・ゴールドハーバー『世界でもっとも美しい量子物理の物語』(日経BP社) です。著者は米国の研究者なんですが、科学哲学と物理学の専門家だそうです。英語の原題は The Quantum Moment であり、2015年の出版です。タイトルは量子物理学なんですが、やっぱり、近代物理学といえばニュートンから始まります。近代生物学、というか、進化論がダーウィンから始まるのと同じであり、経済学の場合はアダム・スミスということになるんだろうと思います。ということで、大雑把に物理学者で章立てしているんですが、プランク、ボーア、アインシュタイン、パウリ、シュレディンガーとハイゼンベルク、等々と並びます。私の理解する限り、ですから、不完全かつ間違っている可能性もあるんですが、量子物理学とはニュートン的な決定論ではなく、確率論的な世界を相手にしています。シュレディンガーのネコが半分死んでいて半分生きている、といったカンジです。これは経済学でも同じことで、政府統計こそ決定論的な成長率などの数字が示されますが、実は、データ生成過程(DGP)はすぐれて確率的です。ただ、量子物理学については、観察者も運動系の中から観察しているために、ハイゼンベルク的に運動量か位置かのどちらかしか決まらないことが決定しているのに対して、経済学ではエコノミストは神の目を持って見ていることが前提されていて、そのために観察バイアスが考慮されず、予測はことごとく間違います。まあ、経済学が量子物理学の域に近づくことはまだ先の話なんだろうという気がしました。

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次に、久坂部羊『テロリストの処方』(集英社) です。作者は医師の資格があるようで、医療にまつわる小説を何冊か出版しており、『無痛』と『第五番』の続き物の小説は私も読んだ記憶があります。他にも読んでいるかもしれません。この作品は、現在の国民皆保険の下でのフリー・アクセスの医療制度がほぼ崩壊して、医療の勝ち組と負け組が患者だけでなく医師にも及んだ近未来の日本を舞台にしています。医療負け組の患者は治療や投薬を受けられないわけですが、医師についても高額な医療で破格の収入を得る勝ち組と、経営難に陥る負け組とに二極化していきます。そんな中、勝ち組医師を狙ったテロが連続して発生し、現場には「豚ニ死ヲ」の言葉が残されていた一方で、若くして全日本医師機構の総裁となった可能の大学時代の同級生である医師かつ医療評論家の主人公がノンフィクション作家の女性とともにテロの実態解明に乗り出します。この作家の小説のひとつの特徴は、キャラはそれなりに作れているんですが、とても登場人物が少ない点で、ストーリーを追うのは向いているのかもしれませんが、小説に深みがありません。結末も特に意外性なく、「やっぱり」というカンジです。ですからミステリとしては面白みもないんですが、ただ、小説ですから当然にフィクションなんですが、近未来の日本でホントに起こりそうな状況を再現しているのが売りかもしれません。しかもトピックが医療ですから、教育とともにかなり関心高いかもしれません。

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次に、柴田悠『子育て支援と経済成長』(朝日新書) です。著者は京都大学の社会学の研究者であり、本書は昨年2016年8月13日の読書感想文のブログで取り上げた同じ著者の『子育て支援が日本を救う』の内容を少し一般向けに分かりやすくした新書版です。前半の1-3章は前著の数量分析で構成されています。この部分は、本格的な計量経済学を専門とすエコノミストの目から見れば、ひょっとしたら、やや強引で、特に、因果関係の推論に難がありそうな気がします。後半の3-6章はトピック的に、社会保障の歴史、子育て支援の経済効果、そして、子育て支援の財源について論じています。論旨は明快過ぎるくらいに明快で、子育て支援が女性の労働参加率を高めて経済成長率を引き上げる、というものです。逆に、数量分析からの結論として、高齢化が進むと労働生産性が低下する、労働力の女性比率が上昇すると生産性も向上する、労働時間が短縮されると生産性は向上する、といった、かなり自明に近い事実を定量的に結論しています。我が国における社会保障の高齢層への偏りをシルバー・デモクラシーによる結果と結論しつつも、シルバー・デモクラシーを乗り越える方策についてはさすがに論じられていません。私もこの点は不明です。それから、国際比較も豊富で、フランスの出生率上昇は認定保育ママ制度に追う部分が大きいと結論しています。数量分析からいくつかのそれらしい結果を導いていますが、フェルミ推定に近い方法論もあって、新書的な判りやすさで読むべき書であり、学術書と考えるのは少し難がありそうです。

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次に、本川達雄『ウニはすごい バッタもすごい』(中公新書) です。著者はその昔に『ゾウの時間 ネズミの時間』が、やっぱり中公新書でベストセラーになった動物生理学の研究者で、すでに東京工業大学の一線は退いた名誉教授です。なかなか注目の書で、図書館でも待ち行列が長くなっているようですし、私が見た範囲でも読売新聞と日経新聞で書評や著者インタビューなどが掲載されていました。ということで、本書は広く動物に関する進化を題材に生存戦略について論じています。特に、なぜこういう身体デザインを選んだか、という点を重視し、例えば、ヒトデがどうして五角形なのか、を論じたりしています。もちろん、ヒトデが五角形に進化した決定的な証拠はないものの、サクラ、ウメ、バラといった五弁の花を持つ植物との関連を指摘したりしています。私はまったくの専門外なのですが、サンゴ、昆虫、軟体動物などにテーマが次々と展開されて飽きが来ませんし、図版も豊富で読み進んでいても楽しく感じます。残念ながら、小中学生にはやや難解な内容と思いますが、決して読みにくいと感じさせることなく、生物の多様性についての目が開かれる思いです。

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最後に、西崎伸彦『巨人軍「闇」の深層』(文春新書) です。昨夏に出版されて、一度は借りた覚えがあるんですが、その後忘れていました。今回近くの区立図書館で見かけて借りて読みました。「センテンス・スプリング」こと、週刊文春の取材を基に、2015年クライマックス・シリーズに発覚した野球賭博事件、清原の覚醒剤事件、原監督の1億円恐喝事件、などなど、ジャイアンツの黒い闇の部分を暴いています。このジャイアンツの闇の体質は例の1978年の空白の1日を利用した江川事件から巨人軍の悪しき伝統となり、その背後には渡邉恒雄の存在があると本書の著者は指摘しています。プロ野球が興行である限り、反社会的組織との腐れ縁は巨人に限らず昔からあったのだろうという気がしますが、その後の対応や意識改革などで反社会的組織との絶縁を図った球団と、そうでない巨人のような球団があったのではなかろうかという気もします。高校野球の聖地たる甲子園をホームグラウンドにする阪神と、その昔は競輪が開催された後楽園、しかもその周辺には場外馬券売り場もあった後楽園を本拠地とした巨人との違いもあるように感じました。

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2017年4月14日 (金)

2016年度上場企業の倒産はバブル期以来のゼロに!

いうまでもないことですが、3月末で2016年度が終了しており、この2016年度は上場企業の倒産が発生しなかったらしいです。東京商工リサーチと帝国データバンクの両社が以下のリポートで明らかにしています。

次に、年度別の上場企業の倒産件数と負債額のグラフを東京商工リサーチのサイトから引用すると以下の通りです。

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見れば明らかですが、バブル経済末期の1990年度以来26年振りに上場企業の倒産が発生していません。直近で最後の上場企業の倒産を振り返ると、商船三井の持分法適用関連会社であった第一中央汽船が、2015年9月29日に東京地方裁判所に民事再生法適用を申請しています。2008年のリーマン・ショックの年には45社の上場企業が倒産しているわけですし、景気後退期における何らかの意味での不採算企業の整理は次なる景気拡大期の健全性を保証するといった清算主義的な考え方も過去にはないでもなかったんですが、まずは企業倒産は避けることが出来れば避けた方がいいというのは、多くの見方と一致するわけであり、エコノミストとしてもご同慶の至りといえます。

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2017年4月13日 (木)

東洋経済オンラインによる研究開発費の大きい企業ランキングやいかに?

今週は少しイノベーションに関する読書をしたりしているんですが、イノベーションとの関係で注目される研究開発(R&D)費について、4月7日に東洋経済オンラインにて研究開発費の大きい「トップ300社」のランキングが明らかにされています。

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東洋経済オンラインのサイトから研究開発費が大きい会社 (1-50位) を引用すると上の通りです。桁違いの1兆円を超える研究開発費を支出するトヨタ自動車をトップに、我が国製造業を代表する名だたる企業がランクインしています。ただし、50位までを見る限り、12位の日本電信電話(NTT)を別にすれば、自動車、電機・重機、化学・薬品がほとんどで、JR東海が45位、新日鐵住金が48位に入っているだけです。ただ、画像の引用はしませんが、51位以下を見ると、51位に食品のキリンホールディングスが、56位におもちゃやゲームソフトなどのバンダイナムコホールディングスが、入っていたりします。また、私の知らない企業もあるので判然とはしませんが、非製造業の代表、というわけでもないものの、楽天が215位に入っています。
もちろん、研究開発費が多ければいいというものでもなく、中には資金負担にあえいでいる企業も含まれているのかもしれませんが、なかなか興味深いランキングです。

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2017年4月12日 (水)

やや足踏み続く機械受注と順調に上昇率が加速する企業物価!

本日、内閣府から2月の機械受注が、また、日銀から3月の企業物価 (PPI)が、それぞれ公表されています。変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注の季節調整済みの系列で見て、前月比+1.5%増の8505億円を、企業物価(PPI)のうちのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+1.4%を、それぞれ記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の機械受注1.5%増 製造業で大型案件、2カ月ぶり増加
内閣府が12日発表した2月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶、電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比1.5%増の8505億円だった。増加は2カ月ぶり。QUICKが事前にまとめた民間予想の中央値(3.7%増)は下回った。製造業で大型案件が増えた。非製造業でもその他非製造業などで大型案件が寄与した。ただ基調には大きな変化がないとして、判断は「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に据え置いた。現状の判断は2016年9月から続いている。
製造業の受注額は6.0%増の3508億円と2カ月ぶりに伸びた。需要者の業種別では、パルプ・紙・紙加工品が前月比6.3倍だった。紙パルプ事業者の自家発電向けに、大型の火水力原動機を受注した。食品製造業も生産などの設備需要で76.6%伸びた。
非製造業の受注額は1.8%増の5166億円と3カ月連続で増えた。需要者の業種別では、原子力原動機の大型受注があったその他非製造業が69.0%増と大きく伸びた。卸売業・小売業が25.7%増となったほか、運輸業・郵便業は船舶受注の寄与で22.9%増えた。金融業・保険業の回復基調は続いたが、伸び率は11.8%と前月(57.3%)から鈍化した。
前年同月比での「船舶、電力を除く民需」受注額(原数値)は5.6%増だった。
3月の企業物価指数、前年比1.4%上昇 前月比0.2%上昇
日銀が12日に発表した3月の国内企業物価指数(2015年平均=100)は98.2で、前年同月比で1.4%上昇した。前年比での上昇は3カ月連続で、上昇率は前月(1.1%)から拡大した。消費増税の影響を除くと14年7月(1.5%)以来2年8カ月ぶりの大きさだ。前月比では0.2%の上昇だった。プラントの定期修理で供給が減った石油製品の上昇が目立ったほか、燃料費の増加で電力価格も上がった。
円ベースの輸出物価は前年比で3.7%上昇し、前月比では0.3%上げた。中国の需要増加を受けてパラキシレンなどの化学製品の価格が上がった。半導体需要の増加を背景にシリコンウエハも値上がりした。
輸入物価は前年比で12.5%上昇し、14年1月(12.7%)以来3年2カ月ぶりの大きさだった。前月比は1.0%上昇。国際市況の回復で原油やナフサの価格が上昇した。中国で電気自動車(EV)の生産が旺盛でリチウムイオン電池に使われるコバルト地金なども値上がりした。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの価格動向を示す。公表している746品目のうち前年比で上昇したのは286品目、下落は386品目だった。上昇と下落の品目差は100品目で、2月の確報値(132品目)から縮小した。
日銀の調査統計局は「人材不足が人件費の上昇につながるなかで、価格の転嫁が進むか注目している」との見方を示した。

とても長くなったものの、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は、その次の企業物価とも共通して、景気後退期を示しています。

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引用した記事にも見られる通り、統計からだけでは読み取れないんですが、記者発表などの場でイレギュラーな大型受注が見られた旨の事実が明らかにされているようです。もしそうであれば、機械受注の2月統計での前月比プラスはサステイナブルではない可能性があり、統計作成官庁の内閣府で基調判断を「、持ち直しの動きに足踏み」で据え置いたのも理解できるところです。パルプ・紙・紙加工品の前月比+533.9%増、食品製造業の+76.6%増などが目立っています。コア機械受注の1-3月期見通しは前期比で+1.5%増だったんですが、3月統計で+10%が必要らしく、エコノミストの間では、この見通し達成は必ずしも可能性が高いとは考えられていません。ただ、先日取り上げた3月調査の日銀短観では、設備の不足感が強まっているとともに、設備投資計画が従来の日銀短観に比べて強気に出ていた点を考慮すれば、機械受注は設備投資の先行指標として先行き緩やかなに伸びるんではないかと期待しています。加えて、世界経済の回復とともに輸出が拡大する可能性が高い点も設備投資の増加をサポートするものと私は考えています。

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続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネから順に、国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率、需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。ということで、1月の国内物価前年同月比上昇率が久し振りにプラスに転じて+0.5%を記録したと思ったら、2月は早くも+1.1%、さらに、3月は+1.4%に達しています。何とも、エネルギー価格の大きな影響力の前に、旧来派の日銀理論家とは違う観点から、金融政策の無力さを感じてしまうのは私だけでしょうか。国内物価の品目別に見ると、石油・石炭製品をはじめ、非鉄金属、鉄鋼などの素材も大きな上昇率を示しています。しかし、電気機器や情報通信機器や輸送用機器といった我が国の主要輸出産業の製品群はまだ前年比で下落を続けており、国際商品市況における石油価格の上昇の波及はこの先も続くんだろうと私は考えています。ただし、上のグラフのうちの上のパネルでも、スロープは輸入物価、輸出物価、国内物価の順でスティープになっていますが、この傾きでこのまま長らくに渡って物価上昇が加速するわけもなく、国際商品市況における石油価格動向次第とはいえ、今年半ばくらいまでには傾きがフラットになる可能性が高いと理解しています。

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2017年4月11日 (火)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」分析編やいかに?

かねて予告されていた通り、国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」World Economic Outlook の分析編が公表されています。まず、その章別タイトルは以下の通りです。

Chapter 2
Roads Less Traveled: Growth in Emerging Market and Developing Economies in a Complicated External Environment
Chapter 3
Understanding the Downward Trend in Labor Income Shares

ということで、第2章で新興国・途上国の経済発展の開発や経済発展について、第3章で労働分配率の低下と不平等の拡大について、それぞれ議論を展開しています。このブログのひとつの特徴はこういった国際機関のリポートを取り上げることですので、グラフを引用しつつ簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、上のグラフはIMFのブログ・サイトから Outside forces と題するグラフを引用しています。グローバル化に伴う貿易の拡大や資本の流入は新興国・途上国の成長に大きくプラスの寄与を示してきましたが、それが反転する可能性を示しています。左から、輸出を牽引する需要、資本流入、商品の交易条件が示されており、それぞれ、成長の持続的加速を指示していた要因だったのが反転する可能性が示されています。左右の対称性は明示されていませんが、次のグラフと同じと仮定すれば、左側のセットが2003-16年の期間で、右側のセットが2017-22年だろうと思います。

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次に、上のグラフはIMFのブログ・サイトから Under pressure と題するグラフを引用しています。このグラフの左右のセットの期間は明示されており、左側のセットが2003-16年の期間で、右側のセットが2017-22年となっています。貿易相手国の成長率と資本フローと輸出国と非輸出国の商品の交易条件がプロットされており、外部からの需要、潤沢な資本流入、資源商品価格の上昇といった良好な外部環境がより複雑化する可能性が示されています。
以上、これら2つのグラフは第2章の関連であり、次のグラフからは第3章の議論に基づいています。

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続いて、上のグラフはIMFのブログ・サイトから Labor is losing out 題するグラフを引用しています。先進国と新興国・途上国に分けて労働分配率がプロットされています。賃金上昇率が生産性の伸びを下回る中で、労働分配率が低下を続けているのが見て取れます。そして、この労働分配率の低下が不平等をもたらしているとIMFでは分析しています。

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次に、上のグラフはIMFのブログ・サイトから Inequality rising と題するグラフを引用しています。縦軸にジニ係数、横軸に労働分配率を取った散布図で相関関係を見たところ、決定係数は極めて低いものの、負の相関がみられます。経済学では、通常、関数形が y=f(x) であることから、横軸の変数が原因となってが縦軸の変数の結果を決める、ということが暗黙の裡に前提されており、我が国でも観察される事実ですが、低調な賃上げが労働分配率を低下させ、さらに不平等の拡大につながった、という議論を展開しています。


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最後に、上のグラフはIMFのブログ・サイトから Driving forces を引用しています。ここでは、根源的な原因とされた労働分配率の低下の要因を探っています。すなわち、積上げ棒グラフで示されている通り、先進国ではブルーの技術動向が労働分配率低下の半分を説明する最大の要因となっており、他方、新興国・途上国では臙脂色の金融統合が大きな割合を占めています。ただし、新興国と途上国では黄色のグローバル・バリュー・チェーン(GVC)への組込みは逆方向に作用しているのが見て取れます。これらの結果、先進国ではルーティーンに基づく (routine-biased) 中程度の熟練労働 (middle-skilled labor) が新興国・途上国に流出し空洞化 (hollowing out) する可能性を強調しています。

また、IMFと世銀とWTOの3機関共同で、Making Trade an Engine of Growth for All と題するリポートが明らかにされています。私はまだ Executive Summary しか読んでいませんが、"The role of trade in the global economy is at a critical juncture." で書き始められ、昨年2016年9月の米国大統領選挙前に開催された杭州でのG20会合において、広く通商や交易の利益に関する支持が表明されたことをリマインドし、米国トランプ政権などの内向きで貿易制限的な通商政策を強く牽制する内容となっています。このリポートも注目かもしれません。加えて、4月17日からの週は米国の首都ワシントンにてIMF世銀の各種の会議が開催され、おそらく、来週には「世界経済見通し」の第1章見通し編が明らかにされることと私は予想しています。また、公表次第、日を改めて取り上げたいと思います。

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2017年4月10日 (月)

下げ続ける景気ウォッチャーと大きな黒字となった経常収支と日銀「さくらリポート」

本日、内閣府から3月の景気ウォッチャーが、また、財務省から昨年2月の経常収支が、それぞれ公表されています。、景気ウォッチャーは季節調整済みの系列で見て、現状判断DIは前月比▲1.2ポイント低下の47.4を、また、先行き判断DIは前月比▲2.5ポイント低下の48.1を、それぞれ記録し、経常収支は季節調整していない原系列の統計で2兆8136億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

3月の街角景気、現状判断指数は3カ月連続悪化 人手不足で懸念
内閣府が10日発表した3月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は前の月に比べ1.2ポイント低下の47.4だった。悪化は3カ月連続。飲食関連を中心に、家計動向が悪化した。人手不足で人材確保の困難さや機会損失への懸念が強まったという。
部門別にみると、家計動向、企業動向、雇用がいずれも低下した。このうち、家計動向は1.1ポイント悪化し、飲食関連の3.2ポイント低下や、住宅関連の4.8ポイント低下が目立った。企業動向は非製造業の悪化が響き、1.7ポイント低下した。雇用は0.5ポイント低下の53.4と小幅な悪化にとどまり、好不況の節目となる50を上回って底堅く推移した。
街角では家計動向のうち、飲食関連で「給与を高めに提示しても全く面接に来ない」(沖縄の居酒屋)との声があり、人手不足が機会損失を招いているとの見方が強まった。住宅関連では「購入に要する時間が長くなっている」(北海道の住宅販売会社)という。企業動向では、燃料価格の上昇に加え「大手運送会社も値上げしており、今後物流経費は増える」(九州の運送業)との指摘があった。
2-3カ月後を占う先行き判断指数は、前の月から2.5ポイント低下の48.1だった。低下は2カ月ぶり。企業動向など3部門すべてが低下した。家計動向では飲食を中心に、労働需給の逼迫を理由とする懸念が続く見通し。雇用は「求職者が集まらない状況が続いており、企業へのマッチングに苦労している」(沖縄の人材派遣会社)との声が聞かれた。
内閣府は現状の基調判断は「持ち直しが続いているものの、引き続き一服感がみられる」との慎重な表現を維持した。先行きについては「受注等への期待」が続いているとした一方で「人手不足やコストの上昇に対する懸念もある」との判断を付け加えた。海外情勢への懸念は特に目立たなかったという。
2月の経常収支、過去最大の黒字 対アジア輸出増加
財務省が10日発表した2月の国際収支統計(速報)によると、海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す経常収支は2兆8136億円の黒字となり、前年同月から18.2%増えた。黒字額は2月として過去最大となった。中国の春節(旧正月)後の中国・アジア向けの輸出が増加し、貿易収支の黒字幅が拡大したことが影響した。
経常黒字は32カ月連続。これまで2月として最大だった2007年(2兆5003億円)を上回った。
貿易収支は1兆768億円の黒字で、前年同月の2.7倍。旧正月期間はアジア向けの輸出が落ち込む傾向がある。17年は1月に旧正月の影響が出たため2月は反動増となり、輸出額が12.2%増の6兆3339億円となった。輸入額は0.3%増の5兆2570億円だった。
サービス収支は639億円の赤字(前年同月は1630億円の黒字)となった。企業の研究開発やマーケティングなどで支払いが増えたほか、旅行収支の黒字幅が縮小した。アジアや欧州方面への出国者が増えた一方、訪日外国人観光客数の伸びが限定的だった。
企業の海外子会社から受け取った配当金などを含む第1次所得収支の黒字額は1.9%減の1兆9751億円となった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、2つの統計を並べるとどうしても長くなってしまいがちです。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りです。また、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。

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景気ウォッチャーは大きく分けて家計関連、企業関連、雇用関連の3つのコンポーネントがあり、さらに、家計と企業にはもっと細かいコンポーネントもあリます。その内訳の中で、3月の現状判断DIに関しては家計の方が企業よりも落ち込みの幅が大きく、逆に、先行き判断DIは家計の方が大きくなっています。現状判断DIに着目すると、家計関連の中では住宅関連が前月差でもっとも大きな低下を見せ、続いて飲食関連でした。企業関連では製造業よりも非製造業の低下の方が大きい結果を示しています。また、先行き判断DIに着目すると、家計関連のうちで飲食関連がもっとも大きく落ちています。家計部門からの需要とともに、供給サイドではエネルギーや食品価格の上昇と人手不足のダブルパンチが効いている可能性があると私は受け止めています。ただ、判断の理由集では客足や販売数量の伸び悩みが多く見られた印象です。なお、上のグラフを単体で見ると、かなり下げて来ているように見えますが、この統計としてはまだまだ水準がかなり高く、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府の基調判断はただし書き付きながら、「持ち直しが続いているものの、引き続き一服感がみられる」に据え置いています。

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次に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。2月の経常収支が大きな黒字となったのは、1にも2にも中華圏の春節の影響です。通常、春節期間中は我が国からの輸出にマイナスの影響が出て、春節が終わるとその反動が見られるんですが、今年の場合は春節が1月で経常黒字が落ち込み、その反動増が2月に見られた、ということのようです。ですから、1-2月をならして見れば、それほど大きな経常黒字という感じでもありません。同時に、中国経済がかなりの程度に回復を示しつつあるのも、我が国の経常収支、中でも輸出の伸びからインプリシットに観察される事実だと考えています。

 2017年1月判断前回との比較2017年4月判断
北海道緩やかに回復している緩やかに回復している
東北緩やかな回復基調を続けている緩やかな回復基調を続けている
北陸回復を続けている緩やかに拡大している
関東甲信越緩やかな回復基調を続けている緩やかな回復基調を続けている
東海緩やかに拡大している緩やかに拡大している
近畿緩やかに回復している緩やかに回復している
中国緩やかに回復している緩やかに回復している
四国緩やかな回復を続けている緩やかな回復を続けている
九州・沖縄緩やかに回復している緩やかに回復している

次に、本日、日銀から「さくらリポート」が公表されています。上のテーブルの通りですが、前回と比較すると北陸で総括判断を引き上げています。背景として、生産が海外向けの電子部品・デバイスや半導体製造装置を中心に増加していることや、個人消費が着実に持ち直していることなどが上げられています。残りの8地域では総括判断に変更はありません。

最後の最後に、本日の厚生労働省の社会保障審議会人口部会において、国立社会保障・人口問題研究所から「将来推計人口」が公表されています。推計の前提となる合計特殊出生率は最近の出生率実績上昇等を踏まえて、前回推計の1.35(2060年)から1.44(2065年)に上昇修正したことから、人口減少のペースが緩やかになる見通しとなっています。もっとも、総人口は2015年国勢調査の1億2709万人から2065年には8,808万人へ減少すると推計され、従って、老年人口割合=高齢化率も2015年の26.6%から2065年には38.4%へと上昇し、ペースが鈍化するとはいえ、少子高齢化の傾向は変わりありません。

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2017年4月 9日 (日)

二遊間の3ホーマーでジャイアンツに逆転勝ち!

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読  売000000300 380
阪  神01000021x 460

甲子園第2戦は、二遊間の3ホーマー4打点でジャイアンツに逆転勝ちでした。能見投手は7回で降板しましたが、先発投手として6回までゼロを重ねました。しかし、何といっても、北条遊撃手の2ホーマー3打点が光ります。でも、最後は上本二塁手の決勝ソロが美味しいところを持て行ったような気がします。去年は、アレほどなかなか勝てなかったジャイアンツに4月の最初の3連戦で早々に勝てたのは大きいんではないでしょうか?

次に横浜戦も、
がんばれタイガース!

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先週の読書は大量に読んでとうとう11冊に!

いろいろあって、昨日の土曜日に米国雇用統計が割って入ったために、読書日が通常より1日多く、先週の読書はとうとう11冊に達してしまいました。以下の通りです。今週はさすがに11冊よりは減ると思いますが、それでも一定のボリュームには達しそうで怖いです。

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まず、デービッド・アトキンソン『新・所得倍増論』(東洋経済) です。英国人アナリストの日本経済シリーズ5部作の完結編だそうです。まず、著者が指摘するのは、日本経済のボリューム感ではなく、1人あたりの質感の重視です。ですから、我が国は欧州の先進国に比べて人口規模が大きいことから、例えば、GDP規模では米国と中国に次いで世界第3位といいつつも、国民1人当りのGDP、本書ではこれを生産性と呼んでいますが、1人当りの生産性では世界でも27位に沈む、といった指摘があります。もうひとつの指摘は、1990年のバブル経済の崩壊の時点で日本的経済システムは終焉したという点です。実は、これは戦後の秘\日本経済システムの終焉ということなんだろうと思います。すなわち、終身雇用、年功賃金などです。その上で、本書ではアベノミクスの政策方向を全面的に肯定し、問題は経営者にあると指摘します。国家財政の大赤字も、人口減少も、社会保障や特に年金のサステイナビリティも、企業経営には関係ないとうそぶき、生産性を上げるのは経営者の責任と指摘し、かつての外圧に代わって、政府や国家が企業経営者にどんどんプレッシャーをかけることを推奨します。ここまで来ると私にはやや疑問なんですが、言わんとするポイントは理解します。私がこのブログで、かねてより指摘している点と同じですが、我が国では企業家のアニマル・スピリットが不足しているんだろうという気がします。逆にいえば、そこまで貪欲に企業経営をしなくても、ホンワカとした経営で十分だった時代が終わったということだと思います。

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次に、リチャード・ドッブス/ジェームズ・マニーカ/ジョナサン・ウーツェル『マッキンゼーが予測する未来』(ダイヤモンド社) です。著者はそれぞれ在住地の異なるマッキンゼー研究所の研究者であり、英語の原題は No Ordinary Disruption となっていて、2015年の出版です。現在、世界で起きている大きなトレンドの変化を4つ指摘し、すなわち、都市化の進展に伴う経済活動の重心=中心地の移動、シンギュラリティも考えられ得る技術の発展がもたらす大きなインパクト、高齢化の進展という人口動態の変化、グローバル化の進展に伴い世界が相互に結合する度合いの深化です。これらを4つの破壊的な力と指摘し、近未来のビジネスを支配しつつあると結論しています。ですから、過去の経験に基づく直観をリセットしなければならないとの主張です。ということで、マッキンゼーの主張ですので、なかなかに説得力ありそうな気もするんですが、実は、事実認識といい、これらの4つの破壊的な力への対策、とういうか、対応などの提言といい、かなりの部分が、今まで見たことがあるものがほとんどで、決して新味はありません。少なくとも現在の世界のビジネスの展開についての第Ⅰ部の事実認識についてはほとんど新しい見解は見られません。第Ⅱ部の直観力をリセットするための戦略的思考に関しても、ハッキリいって、新味はありません。まあ、従来からの世間一般の主張を後追いしただけのような気もしますが、マッキンゼーが取りまとめた、というところにポイントがあるのかもしれません。かなりのボリュームの本ですが、邦訳がいいのかスラスラと読めて負担は大きくありません。

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まず、松島聡『UXの時代』(英治出版) です。作者は企業家であり、ロジスティック関係の企業の経営者です。「UX」というのがなにか不明だったんですが、User Experience なんだそうです。モノ・空間・仕事・輸送の4大リソースに関して、新しいビジネス・モデルを提案しようとチャレンジしているんですが、でも、中身はシェアリング・エコノミーとか、IoT、人工知能、ビッグデータ、センサー、ロボティクスなどなど、もはや言い古された感のある手垢の付いたビジネスについて、相も変わらない見方を示しているだけであり、特に新味はありません。ひとつの謳い文句として、「垂直統制から水平協働へ」というのが本書の特徴のひとつして打ち出そうとしているようですが、これに限らず、概念の曖昧な語句をさも斬新そうにいくつか内容なく並べているだけの感があります。でも、それだけにスラスラと淀みなく短時間で読み切ることができます。出張で2-3時間ほど新幹線に揺られる際の片道の読書量にピッタリの気がします。でも、ほとんど何も身につかなさそうな恐れもあります。すくなくとも、ユーザ・エクスペリエンスというのは、太古の昔から人間が協業に基づく分業を展開する上で必要だった概念であり、特に今になって気づく人も鈍いというか、少しどうかという気もします。

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次に、ジェイン・メイヤー『ダーク・マネー』(東洋経済) です。著者は「ニューヨーカー」誌のジャーナリストで、英語の原題はそのまま Dark Money であり、2015年の出版です。主としてコーク兄弟を中心に、右派リバタリアンの超大金持ちが金にあかせて民主主義を歪めるさまをルポしたノンフィクションです。1月28日に『大統領を操るバンカーたち』の読書感想文をあっぷしましたが、政府の権力者に直接的に影響力を行使するのもありなんでしょうが、本書では選挙民への影響力により民主主義を歪める、という方向で議論が進められています。私が読んだ範囲では、直接のインタビューを別にして、もっとも主要なソースはコーク一家の歴史を編纂したジョージ・メイソン大学のコピン准教授ではないかと想像しています。そして、以前なにかの本のレビューでオバマ政権を取り上げた際に、リベラルでとてもいい政策の方向だったが、米国大統領当選のすぐ後の2010年の中間選挙で、議会が共和党多数のねじれ状態になったため、大きな妥協を余儀なくされて政策の実行が不十分だった、という裏側には、本書のような事情があったんだろうと、これも想像しています。コーク兄弟などの右派リバタリアンがいかに悪辣な方法で利潤を上げ民主主義を歪めているかを、これでもかこれでもかと米国ジャーナリストらしく実例を上げています。また、いくつか気づきの点を上げると、米国のティーパーティー運動は指揮官ばかりだった米国の右派リバタリアンに実働部隊の人員を供給したと本書では分析しています。また、p.585 でホンの少ししか触れていませんが、2016年の米国大統領選前に出版された制約がありながら、現在のトランプ米国大統領は「コーク兄弟にたてついた」とし、めったにいないコーク兄弟を無視できる共和党候補者のひとりであると評価しています。なかなか、鋭い分析かもしれません。

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次に、佐藤愛子『九十歳。何がめでたい』(小学館) です。著者はご存じの通りの直木賞作家ですが、エッセイでも切れ味鋭いところを見せています。本書のもととなる連載エッセイが「女性セブン」に掲載され始めた2015年には90歳を超えていて、このタイトルに決まったらしいです。通常、日本に限らず、世界中で観察される事実なんですが、中年くらいでボトムを記録した後、年齢が上がるとともに幸福度がU字型に上昇すると言われていて、私なんかも定年まで指折り数えてあと何年、という段階で幸福度が上がったのを実感している一方で、本書の著者はタイトルの通り、また、本書の色んな所で怒ったり、あるいは、「憤怒」という普段では使わないような名詞が出て来たりして、怒りを爆発させています。その昔のTVドラマで「意地悪ばあさん」というのがありましたが、女性は年齢が上がって「憤怒」がわき起こりやすくなったりするんでしょうか。謎です。ただ、男女ともに、年齢を加えるに従って、進歩とか、成長とか、発展とか、前進とかに熱意を示さなくなるのは本書でも実証されているような気がします。私はまだまだ成長が必要と考えるエコノミストなんですが、定年に達し、もっと年齢が行くと、ゼロ成長でもいいんじゃないか、と考え出すようになるのかもしれません。これも謎です。ともかく、著者が隋書に怒りを爆発させるエッセイなんですが、イヤミはありませんし、決して上から目線ばかりでもありません。なかなか楽しくスラスラと読めます。

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次に、東野圭吾『素敵な日本人』(光文社) です。作者はいわずと知れた売れっ子のミステリ作家です。本書は必ずしも日本人に大きく関するというわけでもなく、また、いわゆる連作短編集ではなく、通常のミステリ短編集です。「正月の決意」、「十年目のバレンタインデー」、「今夜は一人で雛祭り」、「君の瞳に乾杯」、「レンタルベビー」、「壊れた時計」、「サファイアの奇跡」、「クリスマスミステリ」、「水晶の数珠」の9編の短編を収録しています。冒頭に収録されている「正月の決意」については、私は他のアンソロジーか何かで読んだ記憶があります。町長や教育長などのエラい人の醜態が面白く、主人公夫婦のリアクションが絶妙です。また、最後に収録されているからなのか、最後の「水晶の数珠」も印象的でした。一族に代々伝わる水晶の数珠の持つ不思議な力、でも、一生で1度しか使えないこの力の使いどころに作者の加賀恭一郎シリーズなどの人情話への傾倒が出ているような気がします。また、どの短編というわけでもなく、かなりどす黒いユーモア、まあ、ブラック・ユーモアに近いきわどさも満ちています。家族をテーマにした「レンタルベビー」や「今夜は一人で雛祭り」も面白かったですし、特に後者は格差問題も視野に入れているのか、と思わせる部分もあります。なお、先週の読書の中で本書だけは買い求めました。あとは図書館で借りています。

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次に、綾辻行人『人間じゃない』(講談社) です。作者はご存じ新本格派の旗手のひとりであるミステリ作家です。表紙画像に見られる通り、未収録作品集であり、短編から中編くらいのボリュームの作品を5編収録しています。収録されているのは「赤いマント」、「崩壊の前日」、「洗礼」、「蒼白い女」、「人間じゃない」です。最初の「赤いマント」は館シリーズの『人形館の殺人』の後日譚となっていて、扉にもある通り、もっともストレートな短編ミステリです。また、「崩壊の前日」は『眼球綺譚』に収められている「バースデー・プレゼント」の姉妹編、「洗礼」も『どんどん橋、落ちた』の番外編であり、ギターの5弦と6弦だけをつかんだダイイング・メッセージが示されており、犯人当てミステリの趣向で、読者への挑戦も挿入されています。「蒼白い女」は『深泥丘奇談・続々』に収録されている「減らない謎」の前に位置するエピソードであり、最後に、本書のタイトルをなす短編「人間じゃない」も精神病棟を舞台にした『フリークス』の番外編となっています。それにしても、私はこの作者の本はほとんど読んだつもりですが、記憶に残っている部分は少なく、改めて新鮮な気持ちで読むことが出来ました。記憶容量が少ないのは一般に人生を送るうえで不利になる場合が少なくありませんが、ミステイル小説を読む場合に限ってはそうではないことを実感します。まあ、ミステリばかりではなく、ややおどろおどろしいホラー作品も含めて、特に脈絡なく収録されているのは致し方ないところかもしれません。でも、私のような綾辻ファン、新本格ファンはちゃんと読んでおくべき作品であろうと受け止めています。さらに、この機会に元の作品も読んでおくべきなのかもしれませんが、そこまでは手が回りませんでした。

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次に、安生正『Tの衝撃』(実業之日本社) です。『生存者ゼロ』でデビューした作家の最新作です。実は、直前の『ゼロの激震』を昨年読んだんですが、要するに、地下深く掘って、ほぼ無尽蔵と考えられる地熱発電のプラントを作ったところ、マグマが北関東から首都圏に南下して来てとってもタイヘン、というプロットだったことは理解したものの、ほとんど技術的なテクノロジーも小説の筋立てのプロットも理解できずに、結局、読書感想文に取り上げるのを諦めた記憶があります。それに比べればかなりマシですが、それでも、判りにくい小説です。要するに、自衛隊の護衛がついて搬送されていたプルトニウムが、何者か、明らかに自衛隊と同程度か上回るくらいの戦闘能力を持つという意味で、ほぼほぼ軍隊により強奪され、その後、自衛隊と米軍と北朝鮮に加え、自衛隊内の別行動をする一派が加わり、わけの判らない入り乱れての戦闘行為やテロまがいの要人暗殺や拉致もありで、ハッキリいって、何のリアリティもありません。ドラえもんの4次元ポケット並みの荒唐無稽さだと思いますが、ただ、手に汗握るサスペンスだけは満載です。

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次に、齋藤純一『不平等を考える』(ちくま新書) です。著者は政治学の研究者であり、本書においては、不平等について経済学的な側面ではなく政治学から解き明かそうと試みています。その際の基本概念は包摂性と対等性であり、加えて、対等平等な個人としての連帯です。例えば、ロールズ的なアンダークラス、我が国の戦前の古い表現でいえば「二級市民」のような存在を認めるのは包摂ではなく排除を意味し、もちろん、対等ではないことから、個々人の間での連帯が成立しない、ということになります。とくに、本書で指摘している通り、政治的な側面を考えるとしても、最近の「失われた20年」で徐々に実質賃金が低下し、あるいは不安定な非正規雇用が広がり、かつてのような安定した国民生活を送ることが困難となった階層が存在することから、市民社会に不安と分断がもたらされているわけですから、平等とともに貧困の問題も併せて解決すべきであると私は考えています。特に、本書では著者が「包摂性」を引き合いに出す場合、雇用されている、もしくは、労働している点をかなり重視しているように私は考えており、高齢化が進み年金生活者の比率が高まる中で、少し疑問に思わないでもないんですが、著者も非正規雇用という語りで法殺されつつも分断ないし不平等な状態に置かれている現状に関する理解も示しています。ただ、労働と包摂の関係をここまで強く規定すると、繰り返しになりますが、非労働力化した高齢者の包摂をどう進めるのかが私は疑問です。ですから、p.161 以下でベーシック・インカムについて著者の考えが展開されていますが、労働を重視する立場から、ベーシック・インカムについてはかなり否定的な印象を持ちました。年金生活者も同様なのかもしれません。高齢化の進む我が国に適用する場合に、疑問が残ります。

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最後に、綾辻行人ほか『自薦 THE どんでん返し』乾くるみほか『自薦 THE どんでん返し 2』(双葉文庫) です。上の表紙画像を見ても明らかなんですが、なかなか豪華な執筆陣によるアンソロジーです。まず、収録作品は綾辻行人「再生」、有栖川有栖「書く機械」、西澤保彦「アリバイ・ジ・アンビバレンス」、貫井徳郎「蝶番の問題」、法月綸太郎「カニバリズム小論」、東川篤哉「藤枝邸の完全なる密室」、乾くるみ「同級生」、大崎梢「絵本の神様」、加納朋子「掌の中の小鳥」、近藤史恵「降霊会」、坂木司「勝負」、若竹七海「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」の各6篇計12編です。いくつか、ほかのアンソロジーで読んだ記憶のある作品も含まれています。しかし、少なくとも私も考えるどんでん返しになっている作品は少なかった気がします。私が考えるどんでん返しとは、典型はジェフリー・ディーヴァーの作品なんですが、ラスト近くでほぼ解決された事件が、角度を変えてみるとまったく違う犯行や犯人が浮かび上がる、というのはどんでん返しのミステリであり、本書の多くの作品は単なる意外な結末、と称するべきなのではないかと思います。例えば、乾くるみの『イニシエーション・ラブ』をどんでん返しと考える読者は少なく、単なる意外な結末、と考える読者が多そうな気がします。すなわち、読者はそれなりにミスリードされるわけですが、ほぼ決まりと考えられていたひとつの解決を廃して、別の謎解きがホントの解決だった、というわけではありません。でもでもで、このアンソロジー2冊は、ジェフリー・ディーヴァー的な本格的「どんでん返し」を期待する読者には物足りないかもしれませんが、とても意外な結末で面白いミステリを求める向きには大いにオススメできると思います。

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2017年4月 8日 (土)

雇用者の伸びが大きく縮小した米国雇用統計をどう見るか?

日本時間の昨夜、米国労働省から3月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の増加幅はわずかに+98千人増と、2月までのペースから増加幅が大きく縮小しました。ただ、失業率はさらに前月から0.2%ポイント下がって4.5%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、Los Angeles Times のサイトから最初の8パラだけ記事を引用すると以下の通りです。

Job growth slows, but unemployment falls to 4.5% as wages climb
After boosting the labor market the first two months of 2017, Mother Nature exacted some payback in helping push March job growth to the lowest level in nearly a year.
A snowstorm in the Northeast probably chilled hiring, particularly among construction companies that had been able to get an earlier start on projects because of unseasonably warm weather in much of the country in January and February, economists said.
That contributed to the surprisingly lackluster addition of just 98,000 net new jobs last month, including another significant decline in retailers' payrolls, the Labor Department said Friday.
But there also was some good news in what analysts called a mixed jobs report.
The unemployment rate fell to 4.5% from 4.7% in February, its lowest level in nearly a decade. And wages continued to show solid growth. Employers are finding that they need to boost pay to attract workers in a tightening jobs market.
"We're approaching full employment, where most people who want a job have a job, and that's a sign of the progress we've made in the labor market," said Gus Faucher, chief economist for PNC Financial Services Group.
Still, overall job growth in March was a little more than half of what economists had expected and well off the 219,000 figure from the previous month.
On top of that, the totals from January and February were revised down by a combined 38,000 jobs.

この後、カリフォルニア州のローカルな雇用の話題などが続きますが、長くなりますので割愛しました。包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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さて、非農業雇用者数の伸びが前月から僅かに98千人にとどまったのは、私にはまったく理由が判りません。ひとつには小売業における雇用が前月から▲29.7千人減少し、実は、2月も▲30.9千人減少していたことから、個人消費に陰りが見られ、景気拡大に急ブレーキがかかっている可能性があります。これは米国雇用統計が正しく計測されているという前提でのひとつの仮説です。もうひとつは、まったく逆に、統計の誤計測という仮説です。すなわち、民間の給与計算会社であるADPの雇用者統計では、今年の1月+268千人、2月+245千人に続いて、3月も+263千人と順調に雇用増が続いているとの結果が示されているわけで、米国労働省の統計と大きく異なっています。加えて、米国労働省統計でも失業率は着実に低下を示しています。しかも、米国労働省の失業率統計は家計を対象とする調査であるのに対して、米国労働省とADPの雇用者統計はいずれも事業所を対象とする調査ですから、事業所対象の統計と家計対象の統計の間での乖離というわけでもなさそうです。私が考え得る最後の仮説は、とうとう米国労働市場が完全雇用に達した、というものです。従って、失業者のスラックはもはや存在せず、供給サイドの制約から雇用が増加しなくなった、という見方です。ただ、そんなことが急に生じるわけもなさそうな気がします。労働供給のサイドでスラックが尽きて、完全雇用の壁にぶち当たったのであれば利上げを急ぐ必要がありますが、労働需要のサイドで景気拡大にブレーキがかかったのであれば利上げを一度停止する可能性すら考慮されるべきです。3月末には米国連邦準備制度理事会(FED)のフィッシャー副議長が「年内はあと2回の利上げが適当」と発言した旨の報道を私は見かけましたが、金融政策の舵取りが難しげな指標に出くわしたもんだという気がします。

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ということで、時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、底ばい状態を脱して少し上向きに転じた印象で、一時の日本や欧州のように底割れしてデフレに陥ることはほぼなくなり、逆に、トランプ政権の経済政策次第では上昇率が加速する可能性もなしとしません。

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2017年4月 7日 (金)

戦後3番目の景気拡大を示す景気動向指数と実質賃金横ばいの毎月勤労統計をどう見るか?

本日、内閣府から2月の景気動向指数が、また、厚生労働省から1月の毎月勤労統計が、それぞれ公表されています。景気動向指数のうち、CI一致指数は前月比+0.4ポイント上昇の115.5を、CI先行指数は▲0.5ポイント下降の104.4を、それぞれ示し、他方、毎月勤労統計では、景気動向に敏感な製造業の所定外労働時間指数は季節調整済みの系列で前月から+1.3%増を、また、現金給与指数のうちの所定内給与は季節調整していない原系列の前年同月比で+0.2%の伸びを、それぞれ記録しています。ただし、消費者物価が上昇局面に入っていますので、消費者物価でデフレートした実質賃金は横ばいとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の景気一致指数0.4ポイント上昇 3カ月ぶりプラス
内閣府が7日発表した2月の景気動向指数(CI、2010年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比0.4ポイント上昇の115.5と3カ月ぶりにプラスに転じた。生産指数(鉱工業)や耐久消費財出荷指数などが改善した。内閣府は一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「改善を示している」で据え置いた。
前月から比較可能な7指標のうち、生産指数(鉱工業)、耐久消費財出荷指数、鉱工業用生産財出荷指数の3つがプラスに寄与した。生産指数(鉱工業)では北米向けの乗用車や国内電力向けの蒸気タービンなどが好調だった。投資財出荷指数(輸送機械を除く)や有効求人倍率(学卒を除く)など4つはマイナスに働いた。
数カ月先の景気を示す先行指数は0.5ポイント低下の104.4だった。下降は5カ月ぶり。新設住宅着工床面積などが悪化した。
景気循環について、内閣府は景気の拡大や後退を判断する景気動向指数研究会の開催は決めておらず「今のところ景気の山を判断するような状況ではない」との認識を示している。第2次安倍晋三政権発足の12年12月以降から17年3月まで景気回復局面が続いているとの判断になれば、バブル経済期を抜き戦後3番目の長さとなる見通しだ。
実質賃金、2月は前年同月比横ばい 毎月勤労統計
厚生労働省が7日発表した2月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月に比べて横ばいだった。名目賃金は増加したものの、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が上昇したことで実質的な賃金は変わらなかった。厚労省は賃金動向について「基調としては緩やかに増加している」との見方を示している。
基本給や残業代など名目賃金にあたる現金給与総額は0.4%増の26万2869円だった。内訳をみると、基本給にあたる所定内給与は0.2%増の23万9313円、残業代など所定外給与は0.6%増の1万9620円だった。ボーナスなど特別に支払われた給与は5.5%増と伸びた。
パートタイム労働者の時間当たり給与は2.1%増の1101円だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は、次の毎月勤労統計のグラフと同様、景気後退期を示しています。

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景気動向指数のうちのCI一致指数は3か月振りの上昇とはいえ、昨年2016年10月に「足踏み」から「改善」に基調判断が1ノッチ上方改定されてから、2月指数まで据え置かれており、引用した記事にもある通り、現時点では景気の山を判定する必要はないことから、逆から見て、現在の安倍内閣発足から4年余り景気拡大が継続していることになり、戦後3番目の長期に渡る景気拡大局面ということになります。まあ、官庁エコノミストとしてはめでたいことではないかと受け止めています。少し詳しくCI一致指数を見ると、生産指数(鉱工業)、耐久消費財出荷指数、鉱工業用生産財出荷指数がこの順でプラスに寄与しており、逆に、投資財出荷指数(除輸送機械)、有効求人倍率(除学卒)、商業販売額(小売業)(前年同月比)がマイナスに寄与しています。企業部門が堅調な一方で、家計部門では、耐久消費財出荷がプラス寄与で、商業販売統計のうちの高地販売がマイナス寄与ですから、まだら模様というべき状態です。後で少し詳しく見る毎月勤労統計でも、必ずしも賃金が増加しておらず、家計部門は一時の弱さは脱したものの、企業部門ほどの好調さではないと考えるべきです。また、CI先行指数が下降した点は、これも引用した記事にある通り、新設住宅着工床面積のマイナス寄与が大きく、1月統計で+0.54のプラス寄与があった反動で、2月統計では▲0.50のマイナス寄与となった影響が強く出ている気がします。それほど大きな懸念材料ではないと私は受け止めています。

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次に、毎月勤労統計のグラフは上の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、1番下の3番目のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。ということで、製造業の所定外労働時間は生産の堅調な増産に伴って、緩やかに伸びているのがグラフから見て取れます。賃金は名目上昇率をプロットしていますが、実質賃金は昨年2016年10月からほぼ横ばい状態となっており、消費者物価上昇率が今年2017年に入ってプラスに転じていますので、さらに大きな名目賃金の伸びがなければ消費を活性化させるには力不足の可能性があります。ただ、上のグラフのうちでも一番下のパネルに示された通り、フルタイムの一般労働者の増加率がパート労働者の伸びを上回り始めました。現在、かなり完全雇用に近いものの、決して完全雇用に到達していない労働市場の状況を考えると、賃金よりも先に正規雇用の増加という形で雇用の質の向上がもたらされるのかもしれません。完全雇用に伴う賃金上昇はさらに時間がかかるのかもしれませんが、少なくともフルタイムの一般職員の方が給与水準が高いですから、パートタイム雇用よりもフルタイム職員が増加するのはそれだけでマクロの所得増につながると期待できます。

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最後に、今月の統計発表では月次統計とともに昨年2016年冬季賞与の結果が特別集計されています。上のグラフの通りであり、調査産業の平均で2016年冬季賞与の平均は370,163円となり、前年比▲0.1%減を記録しています。昨年から毎月勤労統計の賞与の統計結果については、多くのエコノミストから疑問が表明されたんですが、トピックを見る範囲では増加だったんではないか、と私は直観的に感じており、小幅ながらマイナスの統計にはやや疑問です。なお、上のグラフの3枚目の一番下のパネルの産業別の前年比なんですが、実は、「鉱業,採石業等」では見ての通り、グラフを突き抜けて+57.9%増を記録していますので付け加えておきます。

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2017年4月 6日 (木)

アジア開発銀行による「アジア開発見通し」Asian Development Outlook やいかに?

本日、アジア開発銀行(ADB)から「アジア開発見通し 2017」Asian Development Outlook 2017 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。日本、韓国、豪州、ニュージーランドといった域内先進国を除くアジア太平洋地域の新興国・途上国の成長率は、2016年実績の+5.8%に続いて、2017年+5.7%、さらに2018年も+5.7%と見通しています。以下のADBのサイトから引用したINFOGRAPHICの通りです。

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ヘッドラインの成長率はここ2-3年で大きく変化するわけではないんですが、国別の成長率を見ると少し変化が見えてきます。すなわち、中国が2016年+6.0%成長の後、2017年+6.5%、2018年+6.2%と、引き続き高い成長率ながらゆるやかにに成長が鈍化していく一方で、インドは2016年+7.1%から、2018年+7.4%、2018年+7.6%と中国を上回る高成長で、しかも、成長率も加速すると見込まれています。インドの存在感がアジアで一段と高まる可能性が大きくなっています。また、東南アジア地域も2016年+4.7%の後、2017年+4.8%、2018年+5.0%と中国やインドよりは低成長ながら、徐々に成長率が加速します。ただし、堅調な成長に伴ってインフレもやや加速し、アジア新興国・途上国全体で2016年+2.5%のインフレから、2017年+3.0%、2018年+3.2%とややインフレ率が高まると見込まれています。大雑把に、アジア新興国・途上国の先行きは堅調と考えられているようです。この要因として、外需や国際的な1次産品価格の回復、さらに、各国の国内改革を上げており、アジア地域が世界の経済成長の60%を占め、最大の牽引力となっていると主張しています。
他方、アジア経済へのリスクとして、リポートでは追加的な米国の金利引上げ "sharper US interest rate hikes" に加え、資本流出と金融上のリスク "capital flows and financial risks" を上げ、特に後者の金融的なリスクの中でも家計債務 household debt が上昇している点に着目しています。ただし、アジア地域では流動性がまだまだ潤沢にあり、資本流出のリスクはある程度軽減されるとともに、米国の金融引き締めの影響が顕在化するには恐らく時間がかかることから、各国の政府や中央銀行が対策を整える時間は十分あると指摘しています。また、家計債務のリスクについても、慎重なマクロ・プルーデンス政策により回避が可能としています。その上で、サブタイトルが Transcending the middle-income challenge となっているように、中所得を確実に達成しつつ、中所得の罠に陥ることなく、さらに人的資本の向上やインフラ整備などにより所得の上昇を目指すべき、と結論しています。なお、キチンと隅から隅まで精査したわけでもないんですが、米国トランプ政権の通商政策に関するリスクについては取り上げていなかったような気がします。もっとも、私が見逃しているのかもしれません。

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目を国内に転じると、本日、内閣府から3月の消費者態度指数が公表されています。前月比+0.7ポイント上昇の43.9を記録し、統計作成官庁の内閣府では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直している」に上方修正しています。消費者態度指数のグラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。なお、耐久消費財の普及に関する興味深いデータも公表されているんですが、省略します。

最後に、同じく国際機関の経済見通しということで、国際通貨基金(IMF)から4月の「世界経済見通し」分析編第2章と第3章が4月10日に公表される旨のアナウンスがなされています。各章のタイトルは以下の通りです。

Chapter 2
Roads Less Traveled: Growth in Emerging Market and Developing Economies in a Complicated External Environment
Chapter 3
Understanding the Downward Trend in Labor Income Shares

ご参考まで。

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2017年4月 5日 (水)

先発秋山投手の好投と糸井外野手のスリーランでヤクルトに完勝!

  HE
ヤクルト001000000 170
阪  神10000030x 490

本拠地でのホームゲーム第2戦は、先発秋山投手の好投と糸井外野手のスリーランでヤクルトに完勝でした。秋山投手は7回途中までと、今季5人の先発投手の中では最長イニングを投げ切り、しっかりと試合を作ってくれました。糸井選手はものの見事な当たりで、打った瞬間のホームランでした。終盤の勝利の方程式の継投も盤石でした。

明日も、
がんばれタイガース!

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2月の総務省統計局「家計調査」の外食費からプレミアム・フライデーの効果が見えるか?

先週金曜日は2回目のプレミアム・フライデーでした。誠に残念ながら、2月に続いて、私は早帰りは出来ませんでしたが、同じ3月31日に総務省統計局から公表された2月の家計調査からデータを取って、果たして、2月24日の最初のプレミアム・フライデーの効果がどこまであったかどうかについて、極めて簡単なグラフを書いてみました。

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ということで、上のグラフは1月と2月の家計調査から、日付別の外食費支出をプロットしています。2月は赤い棒グラフで、2月24日のプレミアム・フライデーの外食費支出額は黄緑の矢印の部分です。土日の週末には及ばないものの、同じ2月の金曜日である10日や17日よりはやや外食費の支出額が多いような気もします。もちろん、フォーマルな定量分析とはほど遠く、少なくともまだデータの蓄積も進んでいませんが、まあ、天候やお給料日との関係など複雑な要因があるものの、現時点での直観的な評価では、少しだけプレミアム・フライデーの効果が見られた、といってもいいような気もします。

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2017年4月 4日 (火)

みずほ総研リポートに見る働き方改革の経済効果やいかに?

昨日、4月3日付けでみずほ総研から「働き方改革は日本の成長率を0.5~1.1%Pt押し上げ」と題するリポートが明らかにされています。タイトルから明らかな通り、働き方改革で大きく成長率が押し上げられるという内容となっています。まず、リポートから効果試算のテーブルを引用すると以下の通りです。

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上のテーブルを見ても明らかな通り、成長率押し上げの経済効果は労働投入量と生産性に分かれて試算されています。労働投入量については、もちろん、労働投入を増加させるというよりは減少を抑制するということなんですが、働き手の多様化や柔軟化による担い手の確保が進み、特に、(1) 女性の労働参加の促進、(2) 高齢者の就業促進、(3) 不本意非正規雇用の正規化に伴う労働時間の増加、の3点を見込んでいます。これによる成長率押し上げ効果が+0.4~+0.8%ポイントとなっています。他方、生産性改善効果としては、(1) 過度な長時間労働の解消による効率化、(2) 非正規雇用の正規化に伴うスキルアップ、などにより、+0.1~+0.3%ポイントの成長率押し上げ効果が見込める、としています。この両者を合わせて、+0.5~+1.1%ポイントになるわけです。
おそらく、労働者側、というか、実体としては労働組合ということになるんですが、こういった働き方改革を進めるの政府の姿勢に対してかなりの賛意を持っていて、受け入れに問題は少なかろうと、私は想像しています。ただ、労働サイドについて、疑問はデスキリングがどこまで進んでいるか、です。デスキリングとは、deskilling であり、skill の接頭辞として否定の意味を持つ de をつけ、さらに、ing を接尾辞として付加しています。日本語では「熟練崩壊」と訳されます。個々人というよりはマクロで見て、非正規雇用とか低賃金の未熟練労働としてスキルアップの機会なく過ごしてきた労働力集団が、熟練を積み重ねる可能性や能力を喪失していくプロセスを論じています。我が国でこのデスキリングのプロセスがまだ進んでいないことを願っています。しかし、より大きな問題は使用者の企業サイドです。果たして、デフレ期に染み付いてしまった安価な非正規雇用による企業活動の拡大や業績アップの方法を見直して、デスキリングに至る前に、多様な雇用者を受け入れ、また、非正規雇用を正規職員化してスキルアップなどを進めるなどの企業経営が出来るかどうか、がポイントになりそうな気がします。

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2017年4月 3日 (月)

2四半期連続の改善を示した3月調査の日銀短観をどう見るか?

本日、日銀から3月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月調査から+4ポイント改善して+10を記録し、本年度2017年度の設備投資計画は全規模全産業が前年度比▲4.0%減と集計されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業、2期連続改善 輸出けん引、雇用不足強まる 3月の日銀短観
日銀が3日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス12だった。前回の2016年12月調査(プラス10)から2ポイント改善した。改善は2四半期連続。米国など海外経済の回復を背景に、自動車やはん用機械、電気機械など輸出企業の景況感が改善した。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。3月の大企業製造業DIは、QUICKがまとめた市場予想の中央値であるプラス14を下回った。回答期間は2月27日~3月31日で、回収基準日は3月13日だった。
3カ月先の業況判断DIは大企業製造業がプラス11だった。トランプ米政権の通商政策に対する不安や欧州の政治情勢の不透明感などから、先行きはやや低下した。17年度の事業計画の前提となる想定為替レートは大企業製造業で1ドル=108円43銭と、実勢レートより円高・ドル安だった。
大企業非製造業の現状の業況判断DIはプラス20と前回を2ポイント上回った。国内消費の持ち直しが支えとなった。情報サービスや対個人サービスなどの改善が目立った。3カ月先のDIは4ポイント悪化しプラス16を見込む。
中小企業は製造業が4ポイント改善のプラス5、非製造業は2ポイント改善のプラス4だった。先行きはいずれも悪化した。
大企業全産業の雇用人員判断DIはマイナス15となり、前回(マイナス13)から低下した。DIは人員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いたもので、1992年2月以来のマイナス幅となった。
17年度の設備投資計画は大企業全産業が前年度比0.6%増だった。昨年の同時期(0.9%減)を上回った。大企業のうち製造業は5.3%増、非製造業は2.0%減を計画している。17年度の全規模全産業の設備投資計画は前年度比1.3%減で、市場予想の中央値(4.1%減)を上回った。大企業製造業の17年度の輸出売上高の計画は前年度比0.6%増だった。
大企業製造業の販売価格判断DIはマイナス3と、前回(マイナス7)から4ポイント改善した。DIは販売価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」と答えた企業の割合を差し引いたもの。金融機関の貸出態度判断DIは全規模・全産業でプラス24と、前回の調査と同じだった。

やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。

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ということで、おおむね規模と産業を押しなべて、昨四半期に続いて2期連続で今期も景況感が改善しつつ、しかし、先行きの来期はやや落ちる、という典型的な短観の統計としての「クセ」が出ています。グラフは引用しませんが、価格動向なんぞでも、「当社製品の値上げは出来ないが、当社に納入する他社製品は値上がりする」という、クセもあります。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の景況感は3月調査が+12と前期から+2ポイント上昇して、来期は+11に少し悪化すると見込まれていますが、我が国製造業の中でも比較優位があると考えられている自動車とはん用機械こそ3月調査の足元で改善を示した後、来期は悪化すると見込まれているものの、生産用機械と電気機械は今期の改善に続いて来期もさらに改善すると見込んでいます。また、前回の12月調査でも、全規模の製造業・非製造業で先行きは景況感が落ちると見込まれていましたので、4月以降の景気動向では上方下方のどちらの修正もあり得ることはいうまでもありません。従って、企業部門の景況感はかなり堅調と考えてよさそうです。特に見逃がせないのは、非製造業のうちでも小売がジワジワと業況判断を改善している点で、大企業小売業では12月調査+3に続いて、3月調査では+5、先行きは+11となっています。基本的に国内消費の伸びを表していると私は考えていますが、個人消費もそろそろ底を打って改善に向かうのかもしれません。また、事業計画の前提としている米ドル当たりの想定為替レートが、12月調査時点で2016年度104.90円だったのが、3月調査では2017年度108.43円と円安水準に振れていますので、製造業、特に規模の大きな製造業に景況感の改善をもたらしている可能性が高いと考えるべきです。

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続いて、いつもお示ししている設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。設備については、後で取り上げる設備投資計画とも併せて見て、設備の過剰感はほぼほぼ払拭されたと考えるべきですし、雇用人員についても不足感が広がっています。設備については、来期見通しでは中堅企業と中小企業でとうとう不足超のマイナスを記録し、大企業に比べて採用がやや難しい規模の小さな企業で、人員の省力化を進めるための設備投資が進む可能性を示唆していると私は受け止めています。同時に、雇用人員の不足超のマイナス幅も規模の小さい企業ほど大きくなっています。ただ、先週の雇用統計を取り上げた際にも書いた通り、この人員不足は「低賃金非正規労働者の不足」を意味しており、正規雇用を増加する方向に進みつつはあるものの、本格的に賃金が上昇する局面に入ったかどうかは私はまだ確信が持てません。ただ、巷間で「人手不足」がクローズアップされる中で、雇用や設備といった要素需要が増加する方向にあるのは当然です。特に、グラフは示しませんが、経常利益の計画が大企業全産業で2016-17年度は連続でマイナスの減益となっていますので、業績からではなく人員省力化の必要から設備投資が進む可能性があります。

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最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。今年度2017年度の全規模全産業の設備投資計画は、先週の日銀短観予想では例年通りの前年度比▲4%減くらいで始まる、との予想を取り上げたんですが、異例の高さで▲1.3%減で始まりました。ピンク色のラインの2012年度と似た気がしないでもないんですが、黄緑色のライン2016年度計画が大きく下方修正されたのも、見た目で、2017年度計画をかさ上げした可能性があります。もちろん、方向性としては雇用人員と設備は人手不足の中で要素需要は拡大すると見込まれますので、このペースで設備投資が増加する可能性も十分あります。規模別では、大企業よりもむしろ中堅企業の設備投資意欲が高いような結果となっています。

円安と海外経済の回復に支えられた輸出が我が国経済を牽引し、景況感もゆっくりと改善する可能性が十分ある一方で、リスクもやっぱり海外要因にあり、トランプ米国大統領の通商政策に加え、すでに終わったオランダも含めて、大陸欧州各国で今年は大きな選挙があります。

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2017年4月 2日 (日)

本日の野球中継はアホらしくもパスする!

  HE
阪  神00100000? 161
広  島2020005?? 9101

広島との第3戦は諸事情あって途中で観戦放棄でした。まあ、8回表のタイガースの攻撃まで見ましたが、敗色濃厚というカンジです。

次のヤクルト戦は、
がんばれタイガース!

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チリからのワイン輸出の大半は我が国へ!

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金曜日の3月31日付けのチリの首都サンティアゴで発行されている高級日刊紙 El Mercurio で、今年1-2月のスパークリング・ワイン輸出の記事が出ていました。上のグラフは El Mercurio のサイトから引用しています。"vinos spumantes" ですから、いわゆるスパークリング・ワインです。そして、記事では今年のスパークリング・ワイン輸出は+30%増が見込める、という気に早い予想で、上のグラフはスパークリング・ワインだけですが、スパークリングでないものも含めて、チリからのワイン輸出の大きな部分は日本向けです。私が在チリ日本大使館に勤務していたのは、25年ほど前の1990年代の前半ですが、そのころはチリ・ワインの日本向け輸出がようやく始まったばかりでした。今年は日本の景気も回復基調にあり、チリからのワイン輸入も増加するのかもしれません。私は50代後半の最近になって少し酒を飲むようになり、チリ・ワインも楽しんでいます。

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2017年4月 1日 (土)

ザルの内野守備で広島との開幕第2戦を落とす!

  HE
阪 神4200020000 8114
広 島3000221001x 9101

広島との開幕第2戦はザルのような守備で延長戦の上サヨナラ負けでした。まあ、開幕前から軽く想像されていたんですが、内野守備だけでなく外野でもエラーがありました。でも、これくらいの攻撃的な野球はとても楽しめます。1985年に日本一になった時も、いくら点を取っても投手が打たれて点を取られる、でも、失点したら打線で取り返す、という野球だった記憶があります。

明日は、
がんばれタイガース!

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鉱工業生産指数(IIP)と雇用統計と消費者物価指数(CPI)の今後の動向やいかに?

今週の読書は、以下の通り、経済書や話題のアナン前国連事務総長の回顧録『介入のとき』など計8冊です。単なる印象論ですが、岩波書店の本が多かったような気がします。8冊というのはややオーバーペースなんですが、今日の朝から自転車でいくつか図書館を回ったところ、来週はもっと読みそうな予感もありますし、今週の8冊については新書が3冊含まれていて、実際のボリュームとしてはそれほどでもなかった気がします。

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まず、中室牧子・津川友介『「原因と結果」の経済学』(ダイヤモンド社) です。著者は教育経済学と医療政策学のそれぞれの研究者です。本書では著者が位置付けている通り、教育と医療のそれぞれの政策効果を分析すべく因果推論に関する入門の入門となる議論を展開しています。なお、私の方でさらに付け加えると、因果推論とは相関関係と因果関係を見分けて区別する学問分野です。とても平易な語り口で判りやすく議論を展開しつつ、ランダム化比較試験、自然実験、差の差分析、操作変数法、回帰不連続デザイン、プロペンシティ・スコアなどのマッチング法、最後に、回帰分析、と、ひと通りの方法論を概観しています。確かに、経済学などでは因果推論が不十分な場合も少なくなく、そこは割り切って、グランジャー因果で時系列的な先行性でもって判断する場合すらあります。すなわち、時間的に先行していれば原因であり、後に起これば結果である、という単純な推論です。しかし、天気予報が実際の天気の原因ではあり得ないように、時間的な推移だけでは原因と結果を特定することはムリです。ただ、私も開発経済学などでランダム化比較実験などの論文を見たりもしますが、因果推論も万能ではないことは知っておくべきです。少なくとも、経済学的な用語でいえば、マイクロな部分均衡論ですから、マクロの一般均衡を単純化しており、回り回って因果関係が不定に終わる、あるいは、逆転する場合もあり得ることは忘れるべきではありません。また、本書の著者の専門分野は教育と医療という典型的に情報の非対称性により市場による資源配分が失敗する分野ですが、電力やガスなどの公益事業や交通についても自然独占という形で市場が失敗する場合もあり、いずれも政策的な介入が必要なケースであり、でも、果たして、「マネーボール」的な経済合理性、というか、採算性だけで政策を判断すべきかどうかという根本問題も考慮すべきです。採算は赤字だが必要な政策である可能性があり、赤字で採算が悪いことを理由に政策を切り捨てるべきかどうかは議論がある得るかもしれません。まあ、これだけ財政リソースが不足しているんですから、少なくとも優先順位付けには何らかの情報は必要である点は認めますが、採算性が政策評価の中心かどうか、私には疑問が残ります。最後に、直観的なみんなの意見は案外と正しい場合も少なくないことは、専門家を称していても謙虚に受け止めるべきです。

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次に、キャス・サンスティーン『選択しないという選択』(勁草書房) です。著者は米国ハーバード大学の法学研究者ですが、セイラー教授らと行動経済学・実験経済学の研究もしているようです。本書の英語の原題は Choosing Not to Choose であり、邦訳タイトルはほぼそのままです。2015年の出版です。ということで、セイラー教授らの提唱するナッジを中心とするリバタリアン・パターナリズムの行動経済学・実験経済学に関する本であり、特にデフォルト・ルールの重要性、その固着性を中心とした議論を展開しています。デフォルトの設定はもちろん重要であり、すべてを自由選択に任せるよりも、何らかの意味で道徳的というか、規範的な選択が可能になると私も同意します。しかし、批判的な見方も忘れるべきではありません。本書でも、冬季の暖房の設定温度を1度下げるだけだとそのデフォルトが受入れられる場合が多く、エネルギー消費を減少させることができるが、2度下げるとデフォルト設定から変更する場合が多くなって効果が大きく減ずる、との実験結果が示されている通り、デフォルト・ルールの設定そのものが重要となります。特に、臓器提供の意思の表明、貯蓄額の決定などはそうです。それから、タイトルの反証である選択の要求ですが、ここは法学者であってエコノミストではないのでいくつかの視点が抜けています。すなわち、逆選択により選択しないことを許さないという場合がありえます。我が国の国民皆保険・皆年金はまさにそういった思想で設計されています。まあ、それほどうまく運営されているとはいい難いんですが、そういった逆選択の考えから選択しないことが許されない場合があることは理解すべきです。ただ、著者がインプリシットに表明している通り、もはやニュートラルな選択というのはあり得ないのかもしれません。その点は私の頭にはなかったので勉強になりました。また、どこにあったのかはチェックしませんでしたが、プライバシーは個人レベルでは重要かもしれませんが、政府や国家のレベルでは有害無益である、といった趣旨の断定的な判断が記されていました。目から鱗が落ちた気がします。

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次に、山口敬之『総理』(幻冬舎) です。著者は本書の出版直前までTBSの報道記者をしていたジャーナリストです。同じ著者と同じ出版社で、本書の続編ともいえる『暗闘』もすでに出版されています。私はまだ読んでいません。本書は安倍総理についての取材結果を取りまとめたノンフィクションです。一部に、「政権の提灯持ち」とも受け止められているようですが、国家公務員である私の見方は差し控えますので、各個人が実際に読んで判断いただきたいと思います。ということで、本書は5章構成であり、最初で著者がTBS記者として第1次安倍内閣の総理辞任をスクープした自慢話から始まり、自民党の野党時代の総裁選への安倍現総理の出馬、総理大臣就任後の消費税率引き上げに関する財務省との確執、対米関係を中心とする外交への取組み、野田聖子議員の挑戦を受けそうになった自民党総裁選を振り返っての宰相論から成っています。まず、メディアの常として時の権力に対する距離感について、やや私の実感としては近い気もします。ただ、著者なりに権力に近いリスクと遠いリスクを勘案してのことなんでしょう。結果的に、権力に近いので提灯持ちになったり、権力から遠いところで批判を繰り返したりといった距離感と権力に対する態度の相関関係については、私も必ずしも関係ないという気はします。たっだ、最後の章で安倍総理に対して総裁選への立候補を目指した野田聖子議員や、彼女をバックアップしていた古賀議員に対する著者の見方がかなり偏っている印象は受けました。本書はあくまで政治記者のルポであり、私のような専門外のエコノミストには評価は難しいんですが、現在の安倍政権に対する支持の傾向はハッキリしていると受け止めました。私のようなランクの低い国家公務員からはうかがい知れないような政権トップの動向について、よく取りまとめられているような気がします。ただ、すべてがリポートされているわけではない、すなわち、書かれていないこともありそうな気がするのは私だけではないと思います。

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次に、コフィ・アナン『介入のとき』上下(岩波書店) です。ご存じの通り、著者は2007年から2期10年に渡って国連事務総長を務めています。初めて国連スタッフから登用された事務総長であり、アフリカ人の黒人としても最初の国連事務総長であり、2011年に国連がノーベル平和賞を授賞された際の事務総長でもあります。本書の英語の原題は Interventions であり、邦訳タイトルはほぼ直訳といえます。2012年の出版であり、邦訳まで5年のギャップがありますが、中身はそれほど賞味期限を過ぎている感じはありません。ということで、軽く自分自身の生い立ちや父親のパーソナル・ヒストリーから始めて、事務総長就任の直前の国連でのポストであったPKO局長としての活動から事務総長としての紛争解決や武力を持っての介入などについての回顧録です。上巻のソマリア、ルワンダ、旧ユーゴ、東ティモール(インドネシア)、ダルフール(南スーダン)などは専門外の私でも手に汗握る迫力を感じました。なお、下巻冒頭の国連ミレニアム開発目標(MDGs)がもっとも私の専門に近いんですが、人権尊重とともに温かみのある国連活動を感じることが出来ました。解説にもある通り、国連とは独立した意思を持たない集合的な政治体であり、一定の哲学的ともいえる理念に基づいた団体です。事務総長とはその極めてビミョーなバランスの上に成立した国連の舵取りを行う高度に政治的かつ軍事的な存在であると私は想像しています。本書を読んでいても、実力行使のできる暴力装置である軍隊とはキチンとした民主政にのもとで国民に支持された文民の統制に従わなければ厄災以外の何物でもないという事実を実感しました。その軍隊が暴走するのがもっとも懸念される自体であり、組織されていない民兵の暴走というのが私のジャカルタにいた経験から見た東チモールの悲劇だった気がします。最後に、本書の最大の魅力のひとつは、著者が極めて率直に書いている点です。「あけすけ」という言葉がありますが、本書のためにあるような気もします。ブッシュ政権下で米国の国連大使を務めたボルトン大使なんかはボロクソです。

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次に、菅野俊輔『江戸の長者番付』(青春新書インテリジェンス) です。著者は江戸研究家だそうです。いろんな史料や関連書籍を当たって、江戸の、すなわち、江戸時代ではなく、あくまで江戸の長者番付やそれに派生する情報を取りまとめています。もちろん、超大金持ちだけでなく、江戸庶民の生活も浮き彫りになるようになっています。ただ、繰り返しになりますが、あくまで対象は地理的に江戸であって、京・大坂の大金持は対象外となっているのが残念です。幕府の八代将軍徳川吉宗の年間収入が1294億円だったというのは驚くべき水準ですが、他方で支出もかなりの額に上った気もします。また、第4章の江戸っ子の生活については同もぬけていて不十分なところがあり、すなわち、商家などの奉公人=勤め人については、給金が少なかったのは事実としても、大番頭などのごく高位の奉公人を別に知れば、ほとんどが住み込みで食費がかからず、衣類もいわゆるお仕着せが支給されていた点はキチンと書くべきだという気がします。下級官僚たる武士の生活がもっとも苦しかった、という点については身につまされる部分があります。なお、本書冒頭の「新板大江戸持◯長者鑑」については、以下の都立図書館のサイトで弘化3年(1846)刊の加賀文庫版を見ることが出来ます。ご参考まで。

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次に、寺島実郎『シルバー・デモクラシー』(岩波新書) です。著者は三井物産の研究所の出身で、現在は多摩大学の学長のほか、コメンテータとしてテレビなどでも活躍しています。また、本書のひとつのテーマである団塊の世代の出身、1947年生まれです。しかし、なんだかとても物足りなかったのは、その昔々に著者が書いたらしい古い文章を使いまわしているだけでなく、とっても驚くくらいの上から目線の文章です。私自身はタイトルとなっているシルバー・デモクラシーによる民主主義的な決定のゆがみについて期待していたんですが、ほとんど何も触れられていません。そうではなく、団塊の世代が戦後史の中でどのような役割を果たして来たのかについて、著者のエラそうなお説が並んでいます。まあ、岩波新書から出版されるくらいですので、それなりの中身と考えるべきかもしれませんが、古い古い文章を引っ張り出してきているくらいですので、どこまで期待できるかは私には不明です。少し期待外れでした。

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最後に、井田茂『系外惑星と太陽系』(岩波新書) です。著者は京都大学出身で、現在は東京工業大学の研究者です。分野は古い表現なら天文学、ということになるのかもしれません。かつての天文学の「私の視線」から見た宇宙の見方、それは、「地球中心主義」や「太陽系中心主義」とも本書では称されていますが、を排して、「天空の視点」から見たより普遍的な宇宙の見方を提唱しています。本書ではほとんど触れられていませんが、NASAの地球外知的生命体探査プロジェクトもあり、いわゆるハビタブル・ゾーンに存在する地球に似た惑星が宇宙の星の中に20%くらいはあり、中には生命体が存在している可能性もある、という普遍的な宇宙観を展開しています。特に、太陽系の中ですら、水星、金星、火星と地球以外にもサイズの似たハビタブル・ゾーンにある惑星が3つもあるわけですから、広い宇宙の中には地球や地球より少し大きいスーパー・アースに生命体がいる可能性はあります。ただし、本書では生命体探査ではなく、あくまで、太陽系外に存在する地球と似た系外惑星について論じています。誠に残念ながら、私にはそれ以上の理解ははかどりませんでした。悪しからず。

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