賃金の伸びが大きく鈍化した毎月勤労統計をどう見るか?
本日、厚生労働省から3月の毎月勤労統計が公表されています。景気動向に敏感な製造業の所定外労働時間指数は季節調整済みの系列で前月から▲1.4%増を、また、現金給与指数のうちの所定内給与は季節調整していない原系列の前年同月比で▲0.1%の減少を、それぞれ記録しています。これに加えて、消費者物価が上昇を示していますので、消費者物価でデフレートした実質賃金はさらに大きなマイナスとなります。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
名目賃金、10カ月ぶりマイナス 3月の毎月勤労統計
厚生労働省が9日発表した3月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月と比べて0.8%減少した。減少は2カ月ぶり。名目賃金にあたる現金給与総額は27万7512円で前年同月比で0.4%減少した。正社員の基本給が減っている。大企業は賃金のベースアップを進めているが、産業界全体で見ると賃上げの動きが滞っている可能性がある。
名目賃金が前年同月を下回ったのは10カ月ぶり。内訳をみると、基本給を示す所定内給与は前年同月比0.1%減。残業代を示す所定外給与は1.7%減、通勤手当や賞与を示す特別に支払われた給与は3.6%減った。
基本給を雇用形態別にみると、ほぼ正社員に相当する「フルタイム労働者」が0.1%減と、14年4月以来およそ3年ぶりにマイナスに転じた。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「フルタイムの基本給が弱いのは大企業のベア以外に賃金を押し上げる動きが乏しいため」と分析する。
足元の労働市場では人手不足が進む。完全失業率は3月で2.8%と完全雇用に近い状態だ。企業はパートタイム労働者については賃上げに動いており、パートの時間あたり賃金は2.1%増だった。
厚労省は実質賃金の落ち込みについて、昨年3月の実績が高いため、前年同月比はその反動でマイナスになった可能性もあると説明している。今年3月に政府がまとめた働き方改革の実行計画の会議で安倍晋三首相が労使に賃上げを要請するなど、賃金上昇への期待は高い。
先行きは春季労使交渉で大手企業が表明したベアがどこまで広がっているかが焦点になる。大和総研の長内智シニアエコノミストは「企業には稼ぐ力があり、4年連続の賃上げ2%達成は可能だ」と見る。
実質賃金は名目賃金から物価上昇分を除いた指標で、消費動向を左右する。3月は消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が前年同月比0.3%上昇し、実質賃金を名目より押し下げた。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、3番目の1番下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。

景気に敏感に対応する製造業の所定外労働時間が鉱工業生産指数(IIP)と歩調を合わせて低下したことは当然としても、本日公表の3月の毎月勤労統計の最大の謎は賃金であろうと私は考えていますが、この賃金の落ち込みはかなりの程度に労働時間で説明できるのではないかと私は理解しています。すなわち、働き方改革の推進などにより、所定内労働時間を中心に労働時間が短縮されて来ている可能性があります。所定内労働時間は2014年通年で▲0.6%減、2015年▲0.3%減、2016年▲0.5%減と緩やかに低下を示してきましたが、2017年に入って、季節調整していない原系列の労働時間指数の前年同月比で見て、1月▲1.2%減、2月▲0.7%減、3月▲2.0%減と急激に減少を始めています。総実労働時間でも、2017年1月▲1.1%減、2月▲0.5%減、3月▲1.9%減と大きな減少が続いており、2月は昨年がうるう年であった点を考慮すると、実質的にはもっと大きなマイナスと考えるべきですから、労働時間の減少が大きくなっており、賃金の低下幅はこれより小さく、時間当たり賃金は上昇していると受け止めています。ひとつの傍証として、パートタイム労働者の時間当たり賃金も昨年10月ころからほぼコンスタントに前年比で+2%前後を記録しています。
労働時間の長短と所得の多寡はトレードオフの関係にあり、当然ながら、短い労働時間と高額の所得は両立しません。もちろん、働きづめに働いて所得を稼いでも、支出するヒマがないようではマクロの消費は増加しません。逆に、支出する余暇が十分でも、労働時間が短すぎて所得が十分でなければ同じことです。現時点では、政府の働き方改革の中で労働時間の短縮が先行しているようで、典型的には2月から実施されているプレミアム・フライデーなのかもしれませんが、それだけ所得が減少しがちになる可能性があるのかもしれません。
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