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2017年6月17日 (土)

今週の読書はややペースアップしてしまって計8冊!

先週は関西出張後で少し体調が低下していたんですが、今週はかなり読書しました。でも、仕事がそれなりに忙しいので、本調子になればもっと読みそうな気もして少し怖いです。

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まず、ザカリー・カラベル『経済指標のウソ』(ダイヤモンド社) です。著者はコンサルタント、コメンテータ、ライターといったことになるんでしょうが、博士号を持ったエコノミストです。英語の原題は The Leading Indicators であり、2014年の出版です。国勢調査、GDP統計や国民経済計算、失業率、インフレ率など、政府が統計として作成・公表している経済指標について、主として米国を舞台に、その歴史や考案された意図、限界などを丁寧に解説しつつ、一定の疑問を集大成しています。すなわち、SNAのマニュアルの改定により研究開発(R&D)を投資に含めるようになり、米国や日本のGDPが一気にカサ上げされた事実、あるいは、失業の定義の曖昧さから失業率統計の意味に対する疑問、また、サービスを含まない海外取引のバランス収支がどこまで意味があるか、などなど、なんですが、これらの経済指標が個人や企業の意思決定にどこまで影響を与えるかとなると、それほど大きなものではないような気もします。ただ、本書では意図的にか、雰囲気でか、取り上げているようなマクロ経済指標とマイクロな個々人や各企業と行ったレベルでの経済的な状態や意思決定の問題を混同しているきらいがあります。例えば、マクロ経済のレベルでは失業率が大いに低下して低水準にある経済社会でも、どうしようもなく失業している人入る可能性があるわけですし、GDPの成長率が高くて好景気に沸く時期でも倒産する企業はあります。確かに本書が指摘する通り、GDPは1950年台の地図であって、時系列的な比較可能性を維持するために、古い基準で作成されているわけですが、途上国などではその国連やIMFやILOなどの基準が有り難い場合もあります。最後に、邦訳の疑問ですが、第10章の「自由財」は free goods で、ホントは「無料財」なんでしょうか?

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次に、エヤル・ヴィンター『愛と怒りの行動経済学』(早川書房) です。著者はイスラエルのエコノミストであり、本書はもともとヘブライ語で書かれていたようで、本書はその英訳本を底本として翻訳しているようです。英語のタイトルは Feeling Smart であり、2014年の出版です。ということで、実験経済学とゲーム理論を合体させたような、かなりありきたりな内容なんですが、本書のはしがきでも取り上げられている通り、アリエリー教授やセイラー教授らの行動経済学や実験経済学における限定合理性や非合理的行動は、私もやや極端な印象があり、どこかに何らかの正解がありそうな気がしていました。本書がその正解であるとは思いませんが、基本的なスタンスには共感します。同時に、従来から、怒りや悲しみ、妬みといった感情は理性とは両立しないとされてきた感情論も克服しようと試みています。共感や信頼とGDPの相関、チメドリも含めた他人を助けることによる自分自身の生存確率の向上、などなど、理論的なモデルをゲーム理論で数学的に構築した上で、実際にラボで実験経済学的な実証を行うという手法は、私のようなシロートの目から見てもとてもリーズナブルですし、統計的計量的な処理がどこまで正確になされているかは不明ですが、そこをキチンとクリアしていればOKだろうという気もします。ただ、生物学的な進化に結びつける理論建てはやや疑問が残ります。すなわち、単なる学習と進化を混同している恐れがあります。1度失敗したら、次は失敗しないようにうまくやる、というのは進化ではなく学習効果と一般にはいわれるような気がするからです。

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次に、ヤン=ヴェルナー・ミュラー『ポピュリズムとは何か』(岩波書店) です。著者はドイツ生まれで英国オックスフォード大学で博士号を取得し、現在は米国の大学の政治学の研究者です。ドイツ語のタイトルは Was ist Populismus? であり、2016年の出版です。かなりコンパクトなパンフレットのような体裁で、学術書っぽくはありません。しかし、それにしても、ポピュリズムの定義も曖昧なまま議論が進められており、やや精彩を欠きます。本書のひとつの特徴は、ポピュリズムとは単に反エリート、あるいは、本書の用語では反エスタブリッシュメントだけでなく、自己自身を唯一の人民の代表と考える、という視点なんですが、それがどうした、という気もします。私は大使館勤務の外交官として南米の雰囲気を知っていますし、ポピュリズムといえばアルゼンティンのペロンとその妻のエビータを思い浮かべてしまいますが、本書とはかなり異なる印象です。本書でも認めている通り、米国トランプ大統領が典型として、ポピュリズムの支持者は学歴の低い男性が多いんですが、中南米のポピュリズムはまったく異なります。本書のモチーフは英国のBREXITと米国のトランプ大統領でしょうから、その後の大陸欧州でのポピュリズムの後退、あるいは、ベネズエラのチャベス大統領の頃までくらいの中南米のポピュリズム、その典型はペロン大統領ですが、そういったアングロサクソン以外のポピュリズムに対する理解の低さが如実に見られる箇所がいくつかあります。極めて残念ですが、書き出しから反ポピュリズムの姿勢も戦闘的に、「ポピュリズムといかに戦うか」の処方箋は示されません。ポピュリズムの一つの特徴として反多元主義を上げていますが、そんな反多元主義なんて、全体主義をはじめとしていっぱいあります。ファシズムやナチズムは本書の著者の見方ではポピュリズムなんでしょうか、違うんでしょうか。特に、最近の動向を考え合わせても、さほど有益な読書だったとは思えません。誠に残念。

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次に、岡本健『ゾンビ学』(人文書院) です。著者は北海道大学出身で奈良県立大学の研究者です。専門分野は観光学らしいです。なお、出版社は人文系のとてもまじめな学術書を手がけているところで、京都に本部があったように記憶しています。ということで、タイトルそのままです、ハイチのブードゥー教に由来するゾンビについて考察していますが、地域的には欧米と日本に限定しています。中国にはもっとゾンビがいっぱいいると私は考えているんですが、映画や映像系のメディアを中心に考察を進めているので、中国はスコープに入っていないようです。キョンシーなんかはダメなんですかね。十分にゾンビだと私は思います。ということで、私がゾンビに興味を持ったのは、本書でも特筆大書されている「バイオハザード」がきっかけです。ただ、ゲームの方ではなく、ミラ・ジョボビッチ主演の映画の方です。本書では、「バイオハザード」のゾンビは、実は診断ではなくてウィルスに感染されているだけであるとし、ホントのゾンビではない可能性を指摘していますが、まあ、ゾンビでしょう。私は決してゾンビは好きではないんですが、すでに高校を卒業してしまった立派な大人なんですが、下の倅が小さいころからホラーやゾンビを好きだったもので、親としてさりげない視線を注いでいたわけです。ということで、とてもよく出来た学術書の体裁を取った本書ながら、それでも、本書で欠落している点を1点だけ上げると、ハイチのブードゥー教に由来するとはいえ、西欧社会のキリスト教信仰との接点が抜け落ちています。すなわち、第1に肉体と魂の分離です。仏教では、特に、私の信仰する浄土真宗では肉体ごと西方浄土に往生する、という感があるんですが、キリスト教では死とは魂が肉体から分離することのように捉えられています。ホントはどうか、私はよく知らないんですが、その魂の抜けた肉体がゾンビとなるわけで、ですから、動きが鈍かったり、うつろな表情だったりするのがデフォルトになっているわけです。そしてキリスト教との関係では第2に、キリスト教では最後の審判の際の復活がありますので、復活させるためには肉体を残しておく土葬にならざるを得ない、という点が重要です。我が国のように火葬にしてしまえばゾンビとしての復活はあり得ないんですが、土葬であればキリスト教的な最後の審判における復活でも、ゾンビとしての復活でも、復活はあり得るわけです。この点から、キリスト教徒ゾンビの関係をより明らかにする研究を私は強く求めます。

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次に、相場英雄『不発弾』(新潮社) です。著者はファンも多いエンタメ小説作家であり、本書では東芝の不適切会計の事案を巡って、バブル経済の後処理の時点までさかのぼって、警察と証券会社出身の金融ブローカーとの暗闘を描き出そうと試みています。もっとも、エンタメ小説ですので、私がノッケに「東芝の不適切会計事案」と書きましたが、すべては架空の企業名や個人名ですが、ちゃんと読めば、東芝やヤクルトやミノルタのことだと判るようになっています。もちろん、エンタメ小説ですから、ノンフィクションのルポルタージュと違って、歌舞伎の忠臣蔵と同じように小説らしく架空の脚色が数多くなされていることはいうまでもありません。もっとも、私はバブル経済期にはすでに官庁エコノミストでしたし、バブル経済には懐疑的な視点を向けていて、バブル経済末期には海外の大使館に飛ばされたような立場ですから、ホントにバブル経済やその崩壊後の混乱期に、その裏側で何が起こっていたのか、行われていたのかは、詳細については把握できる立場にはありません。でも、作者の筆力というか、腕がいいのか、こういった小説に取り上げられているような事実がいくつか、少なくともいくつかはあったんだろうと想像させるに足る内容だという気はします。バブル経済の時期に「財テク」と称される金融操作で大儲けをし、そのバブル経済の崩壊で発生した大損を外資系の投資銀行に単に短期間付け替えるだけで、実は中長期的にはさらなる損失を招いた事例は山ほどあるんだろうと私も想像しています。その昔に、黒木亮の『巨大投資銀行』について、リスクを引き受ける商業銀行・市中銀行とリスクをスルーする投資銀行なのに、前者を国内銀行、後者を外資系と意図的に混乱させる書き方であると指摘した記憶がありますが、本書はそういった混乱もなく、単に外資系投資銀行が我が国の投資銀行である証券会社はもとより、事業会社や年金運用機関などよりも、複雑怪奇なデリバティブなどの金融商品について各段に詳しかった、という点を強調している気がします。オマハの賢人バフェット氏が「金融版大量破壊兵器」と呼んでいたデリバティブなんですから、私の理解を超えていて、論評もここまでとします。

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次に、宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』(角川書店) です。作者は新進気鋭のSF作家で、私も大いに注目して、出来るだけフォローするようにしています。この作品は、中央アジアのアラルスタンなる沙漠の小国を舞台にしたSF小説です。スターリン時代に塩湖を干拓してできたアラルスタンでは、ソ連崩壊後に独立した際の初代大統領が、その昔には側室を囲っていた後宮=ハレムを将来有望な国内外の女性たちの高等教育の場に変え、様々な理由で居場所のない少女たちが、政治家や外交官を目指して日夜勉学に励んでいたんですが、主人公である大和撫子の日本人少女ナツキは両親を紛争で失い、ここに身を寄せていました。後宮にも若い世代とその昔からの世代の「お局さま」がいるんですがその中の若い衆のリーダーであるアイシャ、また、姉と慕う面倒見のいいジャミラとともに気楽な日々を送っていたんですが、現職の人望あふれる大統領が暗殺され、イスラム武装勢力が蜂起したことから、国家の中枢にいた男たちが我先にと国外へ逃げ出す中、後宮にいた日本人のナツキら若い女性たちがアイシャをリーダーに国を運営すべく立ち上がるという、荒唐無稽なストーリーです。なお、繰り返しになりますが、ナツキはJICA専門家として派遣されていた父親と母親を15年前の5歳のころに亡くした日本人で臨時政権の国防相となりますし、臨時大統領を務めるアイシャはチェチェンからの難民だったりします。前作の中編「カブールの園」も、この中央アジアのあたりを舞台にしていましたし、何らかの作者の思い入れがあるのかもしれません。武装蜂起したテロリスト・グループを蹴散らしたり、唐突ながら、預言者生誕祭の夜に国民広場で演じられる恒例の閣僚総出演の歌劇でのドタバタ、最後は、臨時政権の力量により平穏を取り戻した国内に国会議員が戻り、国会にて象限を求められる臨時政権の幹部が、弾劾っぽい雰囲気から徐々に臨時政権の承認へと向かうあたりが読ませどころだという気がします。私はこの作者の作品はほぼすべて読んでいるつもりですが、現時点では最高傑作かもしれません。

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最後に、佐伯泰英『声なき蝉』上下(双葉文庫) です。ご存じ、昨年51巻をもって終了した居眠り磐音の江戸草紙シリーズの後継です。主人公は坂崎磐根の嫡子である空也です。父子ともに武士らしくない名前だと思います。ということで、磐根の豊後関前への里帰りから、空也だけ両親と妹と分かれて武者修行に出るわけですが、とても無謀にも薩摩を目指します。その顛末がこの2冊に収録されています。当時の薩摩は他国者を入国させることにかけては、本書の表現を借りれば、「鎖国の中の鎖国」といった状況であり、特に公儀隠密と一行門徒の入国には気を使っていました。坂崎空也は年齢を別にすれば幕府お声がかりで再興なった尚武館道場の道場主の嫡子ですから、そうでなくても幕府とのつながりは強いわけで、公儀隠密と見なされる可能性もあります。どうでもいいことながら、薩摩が一向宗の布教を禁じ弾圧していたのは有名な話で、石山本願寺に立てこもって織田信長と武力闘争に及んだわけですから、当然かもしれません。しかしながら、明治期になって与謝野鉄幹が一向宗の布教のために薩摩に入ったのは余り知られていません。話が逸れましたが、この2冊については、私としても大いに悩んだ末に買い求めました。でも読んでみて、坂崎磐根の物語と違って、公儀幕府の動きとは何の関係もなく、若侍の武者修行の様子が延々と続くわけですので、やや失敗したかもしれないと思い始めました。もうすぐ出版されるようですが、次からは図書館から借りるような気がします。

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