毎月勤労統計に見る賃金はどのように上昇するか?
本日、厚生労働省から4月の毎月勤労統計が公表されています。景気動向に敏感な製造業の所定外労働時間指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.8%g減を、また、現金給与指数のうちのきまって支給する給与は季節調整していない原系列の前年同月比で+0.4%増を、それぞれ記録しています。ただし、消費者物価が上昇を示していますので、消費者物価でデフレートした実質賃金は前年同月と横ばいとなり、マイナスを脱しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
実質賃金2カ月ぶりマイナス脱する 4月、正社員増が下支え
厚生労働省が6日発表した4月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、物価上昇分を差し引いた実質賃金は前年同月と比べて横ばいだった。2カ月ぶりにマイナスから持ち直した。1人当たりの名目賃金にあたる現金給与総額は27万5321円で前年同月比で0.5%増えた。正社員の増加が賃金を下支えしている。
名目賃金の内訳をみると、基本給を示す所定内給与が前年同月に比べて0.4%増加した。通勤手当や賞与を示す特別に支払われた給与は5.6%の大幅増だった。残業代を示す所定外給与は0.2%減だった。
正規社員を含むフルタイム労働者の増加が賃金増に寄与した。パートタイム労働者の比率は30.06%と前年同月に比べて0.23ポイント低下し、2005年12月以来11年4カ月ぶりの低下幅になった。雇用形態別の賃金は、フルタイム労働者が前年同月比0.2%増だった。企業は人手不足に対応するために正社員などの雇用を増やしている。
消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は前年同月比で0.5%上昇した。電気やガソリンの値段の上昇で物価全体が上がり、実質賃金を名目賃金より押し下げた。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額ときまって支給する給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、3番目のパネルはこれらの季節調整済み指数をそのまま、そして、1番下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。

まず、一番上の製造業における所定外労働時間については、季節調整済みの系列で見た前月比は、3月の▲1.4%減に続いて、4月も▲0.8%減の結果となっています。4月の鉱工業生産指数(IIP)はかなり大きな前月比プラスを記録していますので、必ずしも整合性ないんですが、年度の変わり目で季節調整に何かが生じたのかもしれません。4月についてはIIPの増加の方が私の実感に合致している気がします。生産の今後の推移に従って、派生需要となる労働についても緩やかな増加の方向にあるものと私は予想しています。ただ、所定外労働時間については生産が増産になるとともに、短期的には労働時間も増加することが予想されるんですが、政府の働き方改革の効果もあって残業時間への圧縮圧力は相当なものがあります。生産性が向上した上で残業時間が減少する可能性もあり得ることから、必ずしも今後とも生産や景気に敏感かどうか疑問は残ります。
賃金については、先月までは季節調整していない原系列の前年同月比だけを示していましたが、今月からは季節調整済みの系列の指数そのもののグラフも書いてみました。2番目と3番目のパネルです。先週公表の法人企業統計にも見られるように、昨年年央あたりから企業活動も底を打って、ジワジワとお給料も上昇をしているのが読み取れると思います。特に4月統計については年度の変わり目でもあり、加えて、次の最後のパネルであるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の雇用の伸び率のグラフにも見られる通り、フルタイム雇用者が増加してパートタイムの伸びを上回っていますのでフルタイム比率が上昇し、いわゆる合成のシンプソン効果もあって4月賃金は名目ながらプラスの伸びを示しています。消費者物価(CPI)でデフレートすると実質賃金は横ばいのゼロになりますが、生活実感に近い名目ではプラスですので、それなりに消費への効果はあるように感じます。いずれにせよ、4月に特有の現象かもしれませんが、新卒一括採用という我が国独特の雇用慣行もあって、この4月にはパートタイムからフルタイムへマクロでシフト、すなわち、マイクロな個々人でパートタイムからフルタイムにシフロした実例は決して多くないんでしょうが、パートタイムよりもフルタイムの伸び率が大きく、引用した記事にもある通り、フルタイム比率が上昇したことが、結果的に、賃金上昇に寄与したように私は受け止めています。人手不足の中で、このような雇用の質的な改善が続けば、個々人のマイクロな賃上げ以上にマクロでの賃金上昇≅所得増に帰結する可能性が高いと考えるべきです。その意味で、消費への効果もあると受け止めています。
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