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2017年9月30日 (土)

ジャイアンツを下してタイガースの2位確定おめでとう!

  RHE
阪  神110000120 590
読  売010000000 150

巨人に完勝して、阪神の2位と甲子園でのクライマックス・シリーズ開幕決定でした。いきなりの危険球で波乱の幕開けでしたが、終盤は阪神打線がマシソン投手を打ち込んで勝利を確かなものにしました。岩貞投手は何とか5回まで1失点でしのぎましたし、藤川投手は三振振り逃げとデッドボールで走者を出しましたが、7-9回の勝ちパターンのリリーフ陣は万全でした。

明日の巨人戦も、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書から京都本まで計6冊!

今週の読書は計6冊です。1週間単位で4-5冊で抑えたいところですが、今週は新書が2冊あり、冊数から判断されるほどのオーバーペースではありません。すなわち、私はついつい新書は読み飛ばしてしまう方なので、モノにもよりますが、2時間ほどで読み終える新書もめずらしくありません。今週読んだ新書のうちの1冊は京都本でしたので、特にスラスラ読んでしまった気がします。

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まず、ロバート・プリングル『マネー・トラップ』(一灯舎) です。著者は、私はよく知らないんですが、Central Banking という雑誌の創始者で、その発行会社の会長だそうです。同時に、金融評論家・経済記事編集者・企業家でもあるそうです。英語の原題は The Money Trap ですから、邦訳書のタイトルはそのまま直訳です。2011年にハードカバー版が、2014年にペーパーバック版が、それぞれ発行されています。ということで、いわゆるリーマン・ショック後に世界経済にあって、経済成長を回復し、金融危機が残した諸問題を解決することへ向けた各国の政府や中央銀行の努力が、極めて限定的な効果しかもたらさなかったのかについて、本書では、弾力的な信用供給・機能不全に陥っている銀行システムと未改革の国際通貨制度の相互作用に求め、これをマネー・トラップと呼んでいます。いずれも同じ経済や金融の解説書なんですが、本書でも、経済や金融の歴史をひも解き、リーマン・ショック後に行われた対応策、そして、いろいろと提案されている政策を広い範囲にわたって分析しています。要するに、アレが悪かった、コレが気に入らないと、いろいろと政府や中央銀行の失政を指摘し、銀行経営者などの行動を批判しているわけです。その意味で、極めてありきたりな経済・金融書といえます。加えて、2011年までの情報で執筆されていますから、サマーズ教授らの secular stagnation の議論は踏まえていません。しかし、とてもユニークなのはその解決策であり、ブキャナン的な意味で米ドルを憲法化することにより国際通貨制度を固定化させ、さらに、銀行をナロー・バンク化して、英国でいうところのユニット・トラスト、米国のミューチュアル・ファンドで運用する、逆にいえば、銀行の資産運用先を限定して勝手な資産運用を禁じる、というものです。国際通貨制度をカレンシー・ボード的に米ドルにペッグさせるというのは、東南アジアなどでもいくつも例がありますし、その昔は北欧の国の中には独マルクにペッグした金融政策運営をしていた国もありました。ようするに、トリフィンの国際金融のトリレンマのうち、固定為替相場と自由な資本移動を認めて、各国独立の金融政策を放棄する、ということです。しかしながら、本書では否定していますが、これは形を変えた金本位制にほかならず、おそらく失敗するものと私は予想していますし、何よりも、こういった金融政策の放棄に積極的に応ずる国は、ユーロ圏がかなりそれに近いとしても、そう多くはないものと認識しています。

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次に、樫原辰郎『帝都公園物語』(幻戯書房) です。著者は大阪ご出身の脚本家、映画監督、フリーライターだそうですが、少なくとも本書に関してはしっかり下調べが行き届いている気がします。冒頭の有栖川宮記念公園などから始まって、上野公園はそれほどではないとしても、本書の中心は日比谷公園と新宿御苑と明治神宮、というか、明治神宮を含む代々木公園となっています。明治期になって放棄されたお江戸の武家屋敷を新政府が接収して、その中から、霞が関の官庁街を設計し、銀座の煉瓦街を作り出し、練兵場や弾薬庫などの軍事施設を置き、それらとともに公園が計画されていった歴史的な経緯もなかなか興味深く読ませます。本書が指摘する通り、公園は建造物とは異なり、造園や園芸に時間がかかります。先々を見通して、小さな苗木を植えれば、開園当初は物足りなく感じる人々もいますし、当時の技術的水準では大きな樹木を移植するのは難しかったかもしれません。大きな樹木の移植ということでいえば、日比谷公園の首かけ銀杏の由来も明らかにされています。また、本書や類書で見強調されている通り、明治期は欧風文化を摂取したわけで、その中心はお雇い外国人と留学帰りの人々だったわけですが、当然に、我が国と欧米とでは違いがあるわけで、特に、公園作りの植生に関しては差が大きかったのかもしれません。東京都のシンボルになっている銀杏については、本書ではアジアでしか見られず、欧州では氷河期に絶滅したとされていますし、逆に、欧米では適した樹木でも我が国ではうまく根付かない、といった場合も少なくないような気がします。また、本書では公園を舞台にした社会現象や風俗などにも目配りされており、日露戦争の終結に反対して集会参加者が暴徒化した日比谷焼打ち事件が特に大きく取り上げられています。私のような公務員のホームグラウンドである霞が関からの地理的な距離の近さから、また、吉田修一の芥川賞受賞作である「パークライフ」を思い出しつつ、ついつい、日比谷公園に興味を持って読み進みましたが、新宿御苑も農業試験場として始まった歴史なども知りませんでしたし、なかなかオフィスやご近所の井戸端会議でお話しできるトピック満載、という気がします。

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次に、京樂真帆子『牛車で行こう!』(吉川弘文館) です。著者は滋賀県立大学教授であり、平安時代を中心とする中世史の研究者です。ということで、タイトル通りに、牛車についての解説書です。次の『荷車と立ちん坊』が幕末から明治期の東京を中心とする物流を取り上げているのに対して、本書は牛車ですから平安時代を中心とする中世の貴族などの人の乗り物にスポットを当てています。現在の自動車になぞらえれば、輸入高級車から大衆車まで、牛車のランクは当然にあり、上級貴族にしか許されなかった種類の牛車と、買い貴族が用いだ牛車は違います。女性が乗る牛車と男性向けも違うらしいです。私はまったく知らなかったんですが、牛車は後ろ乗りの前降りだそうで、それを間違えて都の物笑いになった田舎での木曽義仲がいたりします。ただ、当時から乗馬の習慣はあったわけで、スピードを必要とし、また、手軽に乗れる馬に対して、牛車は乗り手が一定以上の身分であることを示し、いわば、社会的なステータスを表現するひとつの手段でもあったと解説されています。ですから、より上位者の乗ったと思しき牛車とすれ違ったら、下位の牛車は道の脇に止めて、牛を車から離すことにより車全体で前傾姿勢を取って、お辞儀のような姿勢を示す必要があったとされています。ただ、畳が敷いてあるとはいえ、木製の車輪でサスペンションもあったとは思えず、乗り心地がさほどよかったとは考えられないと指摘されています。また、室町期にはすっかりすたれたものの、歴史上、著者が確認できた範囲で、最後の牛車は江戸時代終盤に降嫁された和宮ではなかろうか、とひも解かれています。本書はこういった牛車に関する歴史的な基礎知識を読者に示すだけでなく、それを基に、幅広く古典文学や資料に加えて、絵巻物なども動員しつつ、失敗談などのエピソード、ただし、『源氏物語』などのフィクションありなんですが、かなり実態に近いと見なせるエピソードをはじめ、牛車をめぐる悲喜劇をかなり大量に引用している点も魅力ではないでしょうか。

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次に、武田尚子『荷車と立ちん坊』(吉川弘文館) です。著者は早大教授であり、専門分野は歴史ではなく、社会学のようですから、出版社の特色として歴史書が多いものの、著者の専門分野の社会学の視点からの歴史書と考えておいた方がよさそうです。明治維新後の近代日本において、まだ荷車は人力で動かしており、それを助けるべく、上り坂などでたむろする立ちん坊と呼ばれるアシスト要員がいたりしたわけです。典型的には、「車夫馬丁」と蔑みの目で見られるなど、けしからぬ風潮がありますが、本書ではそれに疑問を呈しつつ、近代日本で激増した物流を支える人々の仕事と生活を明らかにします。とはいえ、こういった車引きの生活は苦しく、社会の下層をなしていたことも事実です。私は高校のころからしばらく読んでいた『ビッグコミックオリジナル』に連載されている「浮浪雲」を思い出してしまいました。「浮浪雲」は幕末期の品川の物流を支配する夢屋の頭を主人公にしたマンガであり、勝海舟、清水次郎長、坂本龍馬など歴史上実在する著名な人物も多数登場して、主人公と親交を持ったりしています。主人公は東海道の物流を支配し、その意味で、絶大な権力を持ちながら、ひょうひょうと遊び歩き、女性を見れば老若美醜を問わず、「おねえちゃん、あちきと遊ばない?」と決め台詞を向ける好人物です。このマンガの主人公である雲が絶大な権力を握るのは、要するに、私の考える物流、本書でスポットを当てている分野が、とてもネットワーク的な分野であり、いわゆる歯車的なパーツがびっしりと詰まっているからです。すなわち、世界はもとより、日本全国すべての物流をカバーしきれる組織はそれほどなく、何らかの意味でいわゆる荷物をリレーしなければなりませんから、どこかの歯車がうまく回らないと、すぐに物流全体がダメになりかねません。しかし、他方で、日本、というか、日本人の得意な分野でもあり、例えば、コンビニの品揃えなどは物流のバックアップがなければ、どうにもなりません。明治期の物流は移動手段が機械化される前の段階では人力に頼る部分が大きく、それなのに、決して実入りはよくなく社会的な地位も高くない、といった階層により支えられてきていました。本書では、そういった社会階層の仕事と生活を明らかにしつつ、私のような専門外のシロートにも判りやすく解説してくれています。

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次に、矢部宏治『知ってはいけない』(講談社現代新書) です。著者は、よく判らないんですが、博報堂勤務を経て、現在は著述業、といったところなんでしょうか。本書では、我が国の対米従属の基礎と実態を明らかにしようと試みています。どこまで評価されるかは読者にもよりますが、最近では、日本が米国のポチである事実はかなりの程度に理解が浸透しており、特に、本書でも指摘されている通り、2012年の孫埼享『戦後史の正体』からは、日本がホントの意味での独立国かどうかすら疑問視する向きも出始めたりしています。本書では、著者は、対米従属の対象は米国政府ではなく米軍であり、日米合同委員会が我が国権力構造の中心に据えられて、米軍が我が国の高級官僚に直接指示を下す体制になっている、と主張しています。私は公務員ながら高級官僚とされるエリートに出世できなかったわけで、どこまで本書の主張が真実かは請け負いかねますが、かなりの程度に否定できない部分が含まれているような気がすることも確かです。例えば、本書の主張にひとつに、自衛隊は米軍指揮下で軍事行動を行う、というのがありますが、これはかなり真実に近い、と私は考えています。ですから、その昔の『沈黙の艦隊』のように、米軍が自衛隊を攻撃することはあっても、その逆なないんだろうと考えています。p.94 にあるように、アメリカへの従属ではなく米軍への従属であり、精神的な従属ではなく、法的にガッチリ抑え込まれている、というのはかなりの程度に正しい可能性があると受け止めています。その意味で、本書が矛盾する主張、すなわち、日本は法治国家ではない、と主張しているのは間違っていますが、明確に間違っているのはこの1点だけかもしれません。最後に、9章構成の9点の主張の各章の扉に4コマ漫画を配しています。これもなかなかよく出来ています。

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最後に、大野裕之『京都のおねだん』(講談社現代新書) です。年に1-2冊読む京都本です。本書の著者はチャプリン研究科にして、脚本家、映画・演劇プロデューサーです。大阪出身で、京都大学入学とともに京都に引っ越し、現在でも京都在住だそうです。ということで、私の専門分野なんですが、タイトル通り、京都のおねだんについて調べています。第3章では絶滅危惧種のひとつとして京都大学が取り上げられています。それから、京都大阪の夏の風物詩として地蔵盆にスポットを当てています。地蔵盆が京都と大阪くらいしかないのは、何となく知っていましたが、お地蔵さんを貸し出すサービスがあるのは知りませんでした。それから、季節の風物詩ということで、団扇や扇子について論じられていますが、私の子供のころには、子供だったので詳細は知りませんが、毎年、福田平八郎先生の野菜や花の絵を団扇にして配っているお店がありました。我が家にはナスや朝顔を描いた福田平八郎先生の絵の団扇があった記憶があります。もちろん、コピーなんですが、それなりの値打ちモノだったように感じないでもありませんでした。また、名曲喫茶柳月堂のことが取り上げられていますが、私はクラシックではなくジャズをもっぱらに聞いていましたので、荒神口のしあんくれーるの方が記憶に残っています。どちらも会話を交わすことは出来ません。本書にもある通り、柳月堂はそもそも会話が禁止されており、しあんくれーるでは余りの大音響でジャズがかかっていて、人間の出す大声の限界を超えているような気がしました。それから、花街のお話がありますが、京都の西の方にある島原は忘れられているようです。私のが大学のころに属していたサークルではイベントの招待状の発送準備を島原の歌舞練場で作業する伝統がありました。冒頭で作者は本書が京都本であることを否定していますが、それなりに立派な京都本だという気がします。

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2017年9月29日 (金)

横浜に負けてファースト・ステージ甲子園開幕はおあずけ!

  RHE
阪  神000000110 2110
D e N A000303000 6110

先発メンドーサ投手が打たれて当面の敵である横浜に負け、甲子園でのクライマックス・シリーズ幕開けはおあずけでした。横浜とは甲子園で連敗した後、横浜球場に移って1勝1敗1引き分けです。ファースト・ステージで対戦する可能性もあるんですが、まあ、どうなりますことやら。それよりも、明日からの東京ドームではジャイアンツをギタギタにやっつけて欲しいです。打線と岩貞投手の奮起を期待します。

明日の巨人戦は、
がんばれタイガース!

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いっせいに公表された政府統計から日本経済の先行きを考える!

今日は、月末の閣議日であり、いっせいに主要な政府経済統計が公表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数 (IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、さらに、総務省統計局から消費者物価指数 (CPI)が、それぞれ公表されています。いずれも8月の統計です。>鉱工業生産指数 (IIP)は季節調整済みの系列で前月比+2.1%の増産を示し、商業販売統計のうちの小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.7%増の11兆4850億円と増加し、雇用統計は失業率が2.8%、有効求人倍率が1.52倍といずれも前月と同じ水準で、生鮮食品を除く総合で定義されるコア消費者物価(コアCPI)の前年同月比上昇率は+0.7%と前月統計より上昇幅を拡大して8か月連続のプラスを記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、8月は2.1%上昇 半導体関連に伸び、出荷も高水準
経済産業省が29日発表した8月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比2.1%上昇の103.6となった。上昇は2カ月ぶり。半導体製造装置などを中心とした汎用・生産用・業務用機械工業や輸送機械工業など、7月に生産が減少していた業種が持ち直した。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(1.9%の上昇)も上回った。
8月の出荷指数は前月比1.8%上昇だった。指数値は101.8となり、14年4月に実施された消費増税以降の最高水準まで回復した。在庫指数が0.6%低下の107.2、在庫率指数が4.3%低下の108.4となったことも踏まえ、経産省は生産の基調判断を「持ち直しの動き」で据え置いた。
8月の生産指数は15業種のうち11業種が前月から上昇し、4業種が低下した。汎用・生産用・業務用機械工業が3.7%上昇したほか、乗用車と自動車部品が内外需ともに好調な輸送機械工業が2.4%の上昇となった。電子部品・デバイス工業も1.8%上昇した。半面、医薬品を除く化学工業は0.7%低下となり2カ月連続で減少した。
製造工業生産予測調査によると、9月は前月比1.9%の低下、10月は3.5%の上昇を見込む。経産省では9月について「決算前の調整で最終的に当初計画より多めに作る」傾向があるとして、補正済みの試算値では1.4%程度の低下になるとみている。低下幅が試算値程度に収まれば、7~9月期も前四半期比でプラスを維持できる可能性が高いとの見通しも示した。
8月の小売販売額、1.7%増 自動車販売がけん引
経済産業省が29日発表した8月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比1.7%増の11兆4850億円だった。10カ月連続で前年実績を上回った。経産省は小売業の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
業種別でみると、最も増加寄与度が高かったのは自動車小売業で、前年同月と比べて8.3%増加した。新型車効果が続いている。次に高かった医薬品・化粧品小売業は引き続きインバウンド(訪日外国人)需要も寄与し、5.4%増となった。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計で0.7%増の1兆5655億円だった。既存店ベースでは0.6%増となった。百貨店は全店ベースで0.5%増加した。化粧品や高額品に加え、気温の低下によって秋物衣料が伸び、増加幅の大きさは2015年10月(3.8%増)以来となった。
コンビニエンスストアの販売額は1.9%増の1兆513億円だった。新規出店効果を背景に商品販売が伸びたほか、プリペイドカードなどが好調でサービス売上高も2カ月連続で増加した。
雇用安定、消費心理改善 消費支出2カ月ぶり増加
厚生労働省が29日発表した8月の有効求人倍率(季節調整値)は前月と同じ1.52倍だった。1974年2月以来の高さだ。企業は人材確保のため正社員の採用に力を入れており、正社員の有効求人倍率も1.01倍となり求人が求職を上回った。雇用環境の安定が消費者心理を下支えし、8月の消費支出は物価変動の影響を除いた実質で前年同月比0.6%増えた。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたりに何件の求人があるかを示す。
新たに出された求人を示す新規求人数は前年同月を6.3%上回った。産業別にみると、集団授業から個別指導へのシフトがすすむ教育・学習支援業が18.3%増えたほか、運輸・郵便業も12.3%増加した。
ただ企業の人手不足感は強まるばかりだ。企業の求人に対して実際に職に就いた人の割合を示す充足率は14.7%となり、比較可能な2002年以降で最低だった。インターネットなどを通じて企業に直接求職する場合を含まないが、7人雇おうとして採用できるのが1人という計算だ。
総務省が同日発表した8月の完全失業率は、前月と同じ2.8%だった。求人があっても職種や勤務地など条件で折り合わずに起きる「ミスマッチ失業率」は3%程度とされる。3%割れは働く意思のある人なら誰でも働ける「完全雇用」状態にあるといえる。
8月の失業者は189万人と前年同月と比べて23万人減った。一方、自営業を含めた就業者は84万人多い6573万人となった。
こうした雇用改善が消費を下支えしている。8月の家計調査によると、2人以上世帯の1世帯当たり消費支出は前年同月比0.6%増の28万320円だった。前年を上回るのは2カ月ぶり。消費の基調判断は「持ち直してきている」として据え置いた。
自動車の購入費用やガソリン代が膨らみ、交通・通信が7.1%増えた。住居は2.7%のプラスで、リフォーム費用が押し上げた。「昨年8月は台風が多く、リフォームの施工が滞った反動が出た」(総務省)。食料は0.6%増と、13カ月ぶりにプラスに転じた。
8月の全国消費者物価指数(CPI、15年=100)は、値動きの激しい生鮮食品を除く総合指数が100.3となり、前年同月を0.7%上回った。14年4月の消費増税の影響を除くと、14年10月以来2年10カ月ぶりの水準となった。
ガソリンや灯油などエネルギーが7%上昇した。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は100.8で、前年同月比0.2%上昇した。厚労省が70歳以上の高額療養費の負担上限額を8月診療分から引き上げた影響で、診療代が3.5%上昇した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、3つのの記事を並べるとやや長くなってしまいました。特に、3番目の記事で「消費支出」として触れられているのは総務省統計局の家計調査の結果であり、2番目の記事で取り上げている供給サイドの統計である経済産業省の商業販売統計とは異なり、需要サイドの統計です。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上は2010年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下のパネルは輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は、続く商業販売統計や雇用統計とも共通して、景気後退期を示しています。

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鉱工業生産は季節調整済みの前月比で+2.1%の増産を示し、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスである+1.9%増にほぼジャストミートしました。生産だけでなく、出荷もほぼ2%近い伸びを示し、在庫調整も進んでいる印象です。特に、自動車の増産が目立っており、国内の小売販売だけでなく、海外経済の回復・拡大に伴う輸出増も相まって、我が国のリーディング・インダストリーが順調に生産を伸ばしています。製造工業生産予測調査により先行きを考えると、足元の9月が▲1.9%減ながら、10月は+3.5%増との結果が示されており、10月の増産幅はやや大き過ぎてどこまで信頼できるかが疑問ですが、隔月でジグザグした動きながら、ならして見れば緩やかな増産という先行き見通しが示唆されていると受け止めています。少なくとも、9月の減産を悲観的に捉える必要はないものと考えるべきです。さらに先の見通しに関しても、家計部門を考えると、自動車や家電などの耐久消費財が、エコカー減税、家電エコポイント、消費増税などの政策的な攪乱要因が一巡し、自律的な買い替えサイクルがようやく復活しつつあり、企業部門を考えると、世界経済の順調な回復・拡大に伴う輸出の増加に加え、国内でも維持補修が中心ながら企業業績に支えられた設備投資が増加を見込めることから、生産・出荷は緩やかな回復・拡大を続けるものと期待してよさそうです。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた期間は景気後退期です。上のパネルの季節調整済みの系列で見ると、8月の小売販売額は▲1.7%減でしたが、季節調整していない原系列の前年同月比では+1.7%増ですから、評価としては難しいところですが、8月の天候、すなわち、梅雨が続いていたような雨が多くて日照時間が少ない気候条件を考え合わせると、消費は底堅い動きであり、昨年半ばくらいからの緩やかな回復が続いていると考えるべきです。鉱工業生産指数の前項で書いた通り、自動車や家電などの耐久消費財が、エコカー減税、家電エコポイント、消費増税などの政策的な攪乱要因が一巡し、自律的な買い替えサイクルがようやく復活しつつあるところですし、先行きも含めて消費は順調に回復・拡大を続けるものと期待しています。引用した記事にもある通り、今後とも雇用とマインドが消費をサポートするものと私は考えています。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影をつけた期間はいずれも景気後退期です。失業率も有効求人倍率も前月と同じながら、かなりタイトな労働需給を示しています。加えて、正社員の有効求人倍率も前月から横ばいのながら1.01 倍と高い水準にあります。さらに、雇用の先行指標と考えられている新規求人数は一段と伸びています。ただし、繰り返しこのブログで指摘している通り、まだ賃金が上昇する局面には入っておらず、賃金が上がらないという意味で、まだ完全雇用には達していない、と私は考えています。要するに、まだ遊休労働力のスラックがあるということで、グラフは示しませんが、性別年齢別に考えると、高齢男性と中年女性が労働供給の中心となっています。もっとも、定量的な評価は困難ながら、そのスラックもそろそろ底をつく時期が迫っているんではないかと思います。特に、中小企業では人手不足が深刻化する可能性もあります。さらに、1人当たりの賃金の上昇が鈍くても、非正規雇用ではなく正規職員が増加することから、マクロの所得としては増加が期待できる雇用水準ではないかと私は考えています。

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続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。さらに、酒類の扱いがビミョーに私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。ということで、コアCPI上昇率は、6月+0.4%から7月+0.5%、8月+0.7%と徐々に上昇幅を拡大しています。ただし、私の計算では、8月のコアCPI上昇率+0.7%に対する寄与を先ほどの4分割で考えると、大雑把にいって、エネルギーが+0.5%、食料が+0.2%であり、コア財とサービスはともにほぼゼロです。先行きについて考えると、エネルギー価格の動向が不透明ながら、引き続き根強い家計の節約志向に基づく価格引き下げ方向と人手不足とエネルギー価格などのコスト上昇に伴う価格引き上げの動きが入り混じっている気がします。国際商品市況における石油価格が急落しない限り、コアCPIのプラスがデフレに戻る可能性は低いものと考えていますが、逆に、現状のままでは日銀のインフレ目標である2%に達するほどのコアCPIのプラス幅拡大も見込めないものと考えるべきです。だからこそ、片岡委員がさらに積極的な金融政策を求めて反対票を投じたんだろうと私は認識しています。

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2017年9月28日 (木)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」World Economic Outlook 分析編やいかに?

日本時間の昨夜、来月のIMF世銀総会に向けて、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook の分析編が公表されています。今回の分析編は、先進国の賃金動向、気候変動の経済的影響、財政政策と3テーマを3章に渡って展開しています。章別のタイトルは以下の通りです。

Ch 2:
Recent Wage Dynamics in Advanced Economics: Drivers and Implications
Ch 3:
The Effects of Weather Shocks on Economic Activity: How Can Low-Income Countries Cope?
Ch 4:
Cross-Border Impacts of Fiscal Policy: Still Relevant?

国際機関のリポートに着目するのはこのブログの大きな特徴のひとつですし、いくつか画像を引用しつつ簡単に「世界経済見通し」World Economic Outlook の分析編について取り上げておきたいと思います。

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上のグラフは、IMFのブログサイトから引用しています。上のパネルでは失業率が低下し、労働需給がタイトになりながらも、2008-09年のグレート・リセッションから賃金上昇が鈍化していることが読み取れ、他方、下のパネルでは、労働時間が短縮化され、雇用がフルタイムではなく非自発的なパートタイムが増加していることが読み取れます。第3章では、先進国における賃金上昇が大きく鈍化した要因として、この非自発的なパートタイム雇用の拡大とそれに伴う労働時間の短縮を上げており、こういったパートタイム雇用の増加が遊休労働力を掘り起して、労働力市場のスラックが拡大するとともに、生産性の停滞や賃金上昇の鈍化が生じている可能性があると分析しています。その上で、賃金や生産性に影響する本来の労働スラックをヘッドライン統計の失業率から読み取ることは難しい可能性があり、金融政策運営においてはこの点に留意が必要と主張しています。

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上のグラフは、別のIMFのブログサイトから引用しています。縦軸は1度の気温上昇による産出へのダメージであり、横軸は気候変動の受け入れ可能なインデックスです。極めて大雑把ながら、赤いシンボルの低所得国がこの散布図の左下に位置して、気候変動への耐性が低い上に1人当たりGDPへのマイナスのダメージが大きく、逆に、日独英米といった青いシンボルの先進国は右上に位置して、気候変動の耐性が高い上に経済的ダメージも小さい、ないし、プラスの経済的効果がある。そして、新興国はその中間的な位置を占める、ということが読み取れます。従って、気候変動に伴う頻発する自然災害、海面上昇、生物多様性の喪失など、人類起源のこういった現象の緩和のための国際的な協力体制の構築の必要性を主張しています。

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上のグラフは、別のIMFのブログサイトから引用しています。財政政策、というか、財政ショックの大きさを上のグラフでは、国内経済状況により異なる、すなわち、国内経済にスラックがあったり、金融政策で25ベーシス以下の実質ゼロ金利政策(ELB)を取っている場合には大きく、また、下のパネルでは、減税よりも支出増の方が財政政策の効果が大きい、と示しています。当然ながら、貿易を通じて財政ショックは国境を越えて波及し、他国に恩恵をもたらします。我が国でもリフレ派の浜田教授が財政政策の必要性をより重視するような方向転換をしていますが、そろそろ、金融政策だけでなく財政政策も出番なのかもしれません。

最後に、IMFの「世界経済見通し」から目を転じると、9月26日付けで世界経済フォーラムから「世界競争力報告」Global Competitiveness Report 2017 が明らかにされています。首位は9年連続でスイスが維持し、2位は米国、3位はシンガポールなどとなっており、我が国の総合順位は137か国・地域中の9位と、香港に抜かれて前年の8位から後退しています。少し細かいコンポーネントを見ると、「マクロ経済環境」が前年の104位から93位へと改善した一方で、「健康・初等教育」は5位から7位へと悪化しました。アジア勢ではインドネシアとベトナムが大幅に順位を上げています。上のフラッシュは世界経済フォーラムのサイトからシェアしています。

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2017年9月27日 (水)

9月調査の日銀短観予想やいかに?

来週月曜日10月2日の公表を前に、シンクタンクや金融機関などから9月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業と非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下の表の通りです。設備投資計画は今年度2017年度です。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、今回の日銀短観予想については、その設備投資計画に着目しています。ただし、三菱総研だけは設備投資計画の予想を出していませんので適当です。それ以外は一部にとても長くなってしまいました。いつもの通り、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、html の富士通総研以外は、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
6月調査 (最近)+17
+23
<+2.9%>
n.a.
日本総研+14
+21
<+4.1%>
先行き、企業収益が堅調を維持するもとで、設備投資の腰折れは回避される見通し。円高や海外情勢不安が足許で設備投資をやや先送りさせているものの、過度な不安が後退すれば、持ち直しに転じる見通し。
大和総研+16
+23
<+4.9%>
2017年度の設備投資計画(全規模全産業、含む土地、除くソフトウェア)は前年度比+4.9%と、前回の6月短観(同+2.9%)から上方修正されると予想する。9月日銀短観の設備投資計画には、中小企業を中心に上方修正されるという「統計上のクセ」がある。今回は、企業収益の改善が設備投資に対してプラスの影響を及ぼす一方で、設備稼働率が伸び悩んでいることなどを踏まえ、例年の修正パターン並みの結果になると想定した。
なお、設備投資の前年比の水準が相対的に高いことが注目されるものの、これは昨年度の伸びが低かったことの影響も大きく、水準は幾分割り引いてみる必要があろう。総じてみると、短観で見る日本企業の設備投資計画は底堅い内容だと評価している。
みずほ総研+18
+24
<+4.4%>
製造業については、海外政治経済情勢の不透明感が重石となる一方、堅調な内需が下支えとなり、6月調査並みの伸び率を予想する。非製造業については、人手不足を背景とした省力化投資需要の高まりに加え、オリンピックやインバウンド対応投資の継続によって、前年比プラスに上方修正されると予想する。
ニッセイ基礎研+18
+23
<+4.3%>
今回の短観でとりわけ注目されるのは、2017年度の設備投資計画となる。前回調査からどの程度上方修正されるかがポイントだ。過度の円高の是正や世界経済の回復などを受けて、企業の利益水準は過去最高レベルとなり、手元資金も増加するなど、企業の設備投資余力は潤沢かつ改善している。投資余力の改善を受けて設備投資の勢いも強まるのか? それとも、先行き不透明感を理由に様子見姿勢が強まるのか? 動向が注目される。現在、国内では賃金上昇が鈍いなかで物価が上昇しており、消費回復の持続性には不安が残る。従って、企業の設備投資がどれだけの強さを発揮するかが、日本経済の今後の回復を占ううえで重要なカギとなる。
第一生命経済研+17
+22
<大企業製造業+15.7%>
<大企業非製造業+4.0%>
2017年度の設備投資計画は、大企業中心に小幅での上方修正が進む見通しである。特に、大企業・製造業は2桁の前年比増加を続けるとみられる。生産水準が高まると、製造業の利益率も高まり、企業は設備の能力増強を行おうとする。そうした好循環メカニズムの一端が働いていることは確かだろう。9月調査は設備投資計画がほとんど動かない調査回である。そうしたくせを念頭に置きながら、例年の9月対比で強いか弱いかをみていきたい。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+18
+25
<大企業全産業+8.5%>
大企業の上方修正幅は小幅にとどまるものの、既に6月調査の時点で、前年及び過去の6月調査における平均的な水準を大幅に上回っており、大企業の積極的な投資スタンスに変化はないとみられる。一方、中小企業の上方修正幅は、概ね例年並みとなる見込み。中小企業における人手不足の深刻さは大企業以上であり、今後も企業収益の回復に合わせて、設備投資計画の上方修正が続く見通しである。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+20
+25
<大企業全産業+8.9%>
足元までの設備投資は持ち直し基調にあり、今後も、企業の手元資金が潤沢であることや 、 深刻な人手不足の中で 機械への投資の重要度が増すことが国内の設備投資を押し上げるだろう。もっとも、将来に向けて国内需要の急速な拡大は見込めず、生産拠点を新興国などの消費地に近づける動きは変わらない。今後、為替円安が定着しても、生産を国内に移管する動きはほとんど出ないだろう。
中小企業の設備投資計画は、製造業が前年比-3.0%、非製造業が同-18.0% と、ともに上方修正が見込まれる。製造業、非製造業ともに前年比マイナスであるものの、例年、計画は調査を経るごとに上方修正される傾向があり、今後、マイナス幅は徐々に縮小していくだろう。
三菱総研+18
+23
<n.a.>
業況判断DI(大企業・全産業)は、+21%ポイント(6月調査から1%ポイント上昇)と、4期連続での業況改善を予想する。海外需要の持ち直しを背景に、製造業を中心とする改善を見込む。
富士通総研+18
+24
<+4.6%>
2017年度の設備投資計画(全規模・全産業)は前年度比4.6%と、6月調査から上方修正されると見込まれる。好調な企業収益が投資を支えており、このところ軟調であった機械受注も、7月は4ヵ月ぶりのプラスとなり、先行きの増加が期待できるようになっている。人手不足の深刻化により、省力化投資に対する企業の意欲はより一層高まっている。これに関連して、物流効率化のための投資も活発化している。さらに、IoT関連の投資需要の高まりも顕著になっている。大企業を中心に、設備投資計画は過去の平均を上回って推移しており、9月調査もその傾向が続くと予想される。中小企業も例年並みに上方修正されると見込まれる。

ということで、見れば明らかなんですが、6月調査の短観と比較して、景況感に関しては、ほぼ横ばい圏内の動きが予想されているように見受けられます。ビミョーに上がるところと下がるところと、決して見方は一様ではないんですが、いずれにせよ、大きな動きで一方に偏るという見方はないようです。要するに、景況感に関しては、設備投資計画もそうなのかもしれませんが、現在の海外要因の不透明さに対する見方次第であり、少なくとも、今週に入ってからのドイツ総選挙でメルケル現首相の与党勝利で、ある程度は払拭され、あとは北朝鮮情勢が大きな比重を占める、ということではないかという気がします。北朝鮮情勢だけはエコノミストには予測不能です。太平洋にて水爆実験、なんていわれても、その経済的なインパクトも含めて、私のような専門外のエコノミストにはサッパリです。設備投資も同様の懸念あるものの、少なくとも国内経済要因だけは投資増の方向かという気がします。すなわち、好調な企業業績による資金的な余裕と人手不足による省力化や合理化投資の必要性が設備投資を下支えすることは確実です。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから業況判断DIの見通しを引用しています。

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2017年9月26日 (火)

50か月連続で前年比プラスを記録した企業向けサービス物価(SPPI)!

本日、日銀から8月の企業向けサービス物価指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPI上昇率は+0.8%、国際運輸を除くコアSPPIも+0.7%と、上昇幅は前月から大きな変化なく、引き続き、+1%を少し下回るプラス圏内で推移しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

8月の企業向けサービス価格、前年比0.8%上昇 50カ月連続プラス
日銀が26日に発表した8月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は103.7で、前年同月比で0.8%上昇した。前年比での上昇は50カ月連続。テレビやインターネットの広告価格がマイナス幅を縮小したほか、宿泊サービス価格が上昇に転じ、指数を押し上げた。
テレビ広告は、前年のリオデジャネイロ五輪の時期に番組や時間帯の指定をせず放送するスポットコマーシャルの需要が落ち込み、価格が大きく下がっていた反動で持ち直した。携帯電話(ガラケー)からスマートフォンへの乗り換えを促す広告やオンラインゲームの広告の増加も寄与した。
宿泊サービスは、ホテルの宿泊価格が上昇に転じた。8月は夏季休暇でホテル需要がピークを迎え、価格水準が年間で最も高くなる。インバウンド(訪日外国人)の数が高水準を保っており、前年よりも値上げ幅が大きかった。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。対象の147品目のうち、前年比で価格が上昇したのは81品目、下落は32品目だった。上昇から下落の品目を引いた差は49品目で、7月の確報値(47品目)から2品目増えた。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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SPPIの前年同月比で見て、7月の+0.6%から8月は+0.8%にやや上昇率を高めましたが、引用した記事にもある通り、上昇幅が拡大した中で大きい寄与を示しているのは広告です。特に、テレビ広告が+0.12%、加えて、インターネット広告も+0.02%の寄与となっています。人手不足を要因とすると推察されるのは宿泊サービスの+0.02%の寄与です。他方で、ソフトウェア開発は▲0.02%とマイナス寄与が大きくなっています。私の直観としては、広告は需給要因で動きの大きい項目となっており、プラスにせよ、マイナスにせよ、寄与度としては絶対値が大きい印象があります。8月SPPI統計ではプラスで出たわけですし、最近では需給要因を反映してプラス寄与、ただし、前年同月比はまだマイナス、という月がチラホラと見かける気がします。SPPIのウェイトで約⅓を占める諸サービスの前年同月比で見て、土木建築サービス+4.6%、警備+3.1%、職業紹介サービス+2.9%、労働者派遣サービス+2.0%など、人手不足が原因で高い上昇率を示していると考えられる項目が並んでいます。エコノミストの中には、人手不足は長期化するとの見通しも少なくなく、物価上昇や賃上げに結びつくんではないかと私は期待しています。

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2017年9月25日 (月)

「マーケティング実務家によるプレミアムフライデー『実感』アンケート」調査結果やいかに?

2月に始まったばかりなのに、すでに見直し論議が巻き起こっているプレミアムフライデーなんですが、やや旧聞に属する話題ながら、マーケティングの実務家による国際組織であるMCEI (Marketing Communications Executives International)の東京支部から「マーケティング実務家によるプレミアムフライデー『実感』アンケート」の調査結果が9月1日に明らかにされています。今週の金曜日はプレミアムフライデーですが、この調査結果につきいくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはアンケート調査結果のリポートから、プレミアムフライデーに関して、実施状況、今後の定着、働き方改革への影響、消費拡大への影響につき問うた結果です。私の勤務する役所では当然にプレミアムフライデーは実施しているんですが、驚くほど実施していない割合が高いのが見て取れます。ただし、定着に関しては実施の比率に比べれば楽観的な見方が多く、働き方改革や消費拡大に向けた影響についてはさらに楽観視されているようです。

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そして、上のグラフはアンケート調査結果のリポートから、プレミアムフライデーの実施日について問うた結果です。一目瞭然なんですが、このままでいいというのは少数意見でしかなく、月中を推す意見の方が多い結果が示されていますいます。さて、見直し論議のゆくえやいかに?

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2017年9月24日 (日)

当面の敵である横浜に負けてクライマックス・シリーズは大丈夫か?

  RHE
D e N A200000000 270
阪  神000000000 040

当面の敵ながら横浜に完敗でした。先発の岩貞投手はまずまずの出来で、6回2失点ですからQSとはいえ、先日の広島戦の能見投手と同じで、立ち上がり初回の失点は防いで欲しいところです。まあ、まだ余裕あるのかもしれませんが、当面の敵の横浜や巨人にサッパリ勝てず、クライマックス・シリーズは大丈夫か、という気にもさせられます。

明日の横浜戦は、
がんばれタイガース!

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2017年9月23日 (土)

投打にヤクルトを圧倒して先発小野投手が2勝目!

  RHE
阪  神000220400 8141
ヤクルト000001000 131

ヤクルトに圧勝でした。先発のルーキー小野投手は2勝目です。
私はレギュラー・シーズンの優勝が何といっても一番で、クライマックスシリーズはどうでもいいと思っているんですが、やるんであれば、あるいは、出られるんであれば、やっぱリ、甲子園でファースト・ステージを迎えて欲しいです。

明日の横浜戦も、
がんばれタイガース!

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今週の読書は話題の経済書をはじめ計5冊!

今週は話題の経済書をはじめ、以下の計5冊とかなりペースダウンしました。これくらいが適当な読書量ではないかという気もしますが、さらにもう少し減らすのも一案ではないかと思わないでもありません。

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まず、 アンドレアス・ワイガンド『アマゾノミクス』(文藝春秋) です。著者は東独生まれで、アマゾンのチーフ・サイエンティストの経験もある人物です。科学者というか、起業家というか、そんな感じです。英語の原題は Data for the People であり、今年2017年の出版です。そして、英語の原題よりも興味あるのは上野表紙画像の右下に見える英語のサブタイトルであり、post-privacy economy をいかに消費者のために作り上げるのか、といった問題意識のようです。ということで、私は従来からプライバシーには2種類あって、片方が市場である消費生活で何を買ったとかのプライバシーは、もはや成立しない、と考えています。ただ、もうひとつのプライバシー、典型的にはベッドルームのプライバシーは守られるべきだと思います。タダ、ビミョーなのは片方が市場であって、市場でないような、政府による大きな規制のもとにある市場との取引、典型的には医療や教育などの場合は、個別に考えるべきだという気もします。ただ、本書の著者の見方は、私のべき論ではなく、事実として、ベッドルームのプライバシーすらも守られていない、という考えが第4章以下で強く主張されています。例えば、ベッソルームとはいわないまでも、在宅か不在かはスマート・メーターの電気の使用状況により判断できる、とか、町中の至る所に設置されている監視カメラとか、スマホのGPSにより個人の位置情報はほぼほぼ完璧に把握されている、とかです。その上で、英語表現的にいえば、get even だと思うんですが、一方的に消費者から企業に情報を提供するだけではなく、企業が収集し蓄積している自分に関する情報の開示を求める必要を論じています。あるいは、企業と対等な情報を収集するため、例えば、コールセンターへの電話は消費者サイドの承諾を得た上で録音されていますが、消費者には録音データは開示されませんから、同時に消費者の方でも企業サイドの承諾を得た上で録音するとか、といった消費者サイドでの対応も必要と論じられています。確かに本書を読むと、私のように2種類のプライバシーを分けて論じるのは、現実問題として、もはやその段階を超えているのかもしれないと感じさせられます。最後に、タイトルがよろしくありません。アベノミクスのように、アマゾンの経営上のポリシーとか、アマゾン的な新たな経済学を思い浮かばせるようなタイトルですが、中身はプライバシー情報に基づく企業と消費者の緊張関係を論じています。

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次に、坂野潤治『帝国と立憲』(筑摩書房) です。著者は東大社研の歴史学者であり、ご専門は日本近代政治史です。ですから、私はかなり楽しみに読み始めたんですが、読後は少し失望感もありました。すなわち、本書の主眼は帝国主義と立憲主義のせめぎあいの中で前者が優位を占めて、結局、日本が侵略戦争に突入してしまった、という反省から、戦争回避の可能性を歴史から探る、というものだったハズなんですが、サブタイトルにも見られる通り、日中戦争の開戦回避というかなり局所的な話題に終始したきらいがあります。実は、私も歴史の大きな流れには興味があり、例えば、地方大学に出向していた際に学生諸君に質問し、コロンブスが1492年の新大陸を発見しなかったら、現時点まで米大陸は発見されていなかったかどうか、を問うたところ、当然ながら、あのタイミングでコロンブスが米大陸を発見しなくても、誰かがいつかは発見していただろう、という見方が圧倒的でした。同じことは昭和初期の中国との開戦にも当てはまるような気がします。ですから、あおのタイミングで、あの場所で日本が中国に侵略戦争をしかけていなかったとしても、大きな歴史の流れとして日中戦争は起こっていた気がします。その根本的な歴史の流れの解明を私は期待していたんですが、1874年の台湾出兵に始まる日中戦争への大きな歴史の流れを解き明かす試みは、少なくとも本書ではそれほど明らかにはされなかったと受け止めています。私の専門分野ではないので、著者が別の学術書か何かで明快な解答を与えてくれているのかもしれませんが、残念ながら、本書ではクリアではありません。というか、私程度の読解力と歴史に対する素養ではクリアに出来なかったのかもしれません。圧倒的な大国、あるいは、歴史上の先進国として仰ぎ見ていた中国に対する侵略行動については、もっとさかのぼらなければ解明できない可能性がある、としか私には考えようがありません。侵略や植民地化で特徴つけられる帝国主義を防止するものとして立憲主義を対置した時点で、少し問題意識が違っていたのではないか、という気もします。また、立憲は立憲主義ではなく、帝国は帝国主義とは違う、とする著者の言葉遊びにもなぞらえられかねない主張も私の理解を超えていました。

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次に、新藤透『図書館と江戸時代の人びと』(柏書房) です。著者は図書館情報学を基礎に、日本近世史を専門分野とする研究者です。著者のおかげなのか、編集者が優秀なのか、構成がとてもシンプルかつ明解で、読み進むに当たってヘンにつっかえたり戻ったりする必要もなく、とても助かります。我が国の古典古代である飛鳥時代の聖徳太子のころから説き起こして、近代的な西洋文化に基づく図書館が出来る大昔からのわが国特有の図書館的な機能を持った施設の歴史をひも解いています。さすがに、第1章の古代から中世にかけての図書館はそれほど史料もないのか、大雑把にしか概観できていませんが、第2章と第3章の江戸時代が本書のタイトル通りにメインとなる部分であり、第2章の幕府の図書館、第3章の地方の藩校などの図書館などなど、興味深いエピソードが満載です。特に、私のような東京都内各区立図書館のヘビーユーザとして、毎週最低でも3-4冊は借りるタイプの読書をする人間には、とりわけ身に染みる部分もあって興味深く読めました。私のようなヘビーユーザでなくても、図書館や読書に対する関心が高まるような気がします。特に、我が国の図書館や読書の歴史を考えると、欧州中世にキリスト教の教会が知識や情報を独占し、そのために庶民が理解できないラテン語を大いに活用した歴史があり、それをルターの宗教改革やグーテンベルクの活版印刷が大きな変革を準備したのとは違い、決して識字率などが高かったわけではなかったものの、それなりに地方でも教養ある教育が実施されており、しかも、漢字だけでなくかな文字の普及もあって、読書の普及も見られたような気がします。本書本来のスコープである江戸幕府期に紅葉山文庫が整備充実され、系統的な収集と管理が行われて、しかも、改革者たる8代将軍吉宗が大いに利用したくだりなど、やや吉宗が借り出した書籍のリストがウザい気もしますが、それなりに興味深いものがあります。加えて、江戸時代に小山田与清が商人として築いた財を投じて江戸の町で解説した私設図書館など、当時の文化水準の高さを象徴する新発見、というか、私にとっての新発見もありました。ただ、図書館についての本ですので、例えば、グーテンベルクの活版印刷に相当するような蔦屋の印刷出版業に関して少し情報が不足するような気もします。図書館は図書を収集・管理するわけですから、出版される本と借りる読書人から成立していることは忘れてはならないと思います。

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次に、岡本和明・辻堂真理『コックリさんの父』(新潮社) です。タイトルの人物は一世を風靡したスプーン曲げのユリ・ゲラーとともに、1979年代の我が国オカルト界を席巻した中岡俊哉という人物です。実は、私は1970年代のそのころに、いかにもオカルトに興味を持ちそうな中高生だったんですが、まったく記憶にありません。なお、著者のうち、最初の著者はこの中岡俊哉のご令息で、後の方の著者は放送作家だそうです。ということで、主人公の中岡俊哉は「オカルト」というよりは、ご本人は心霊科学の研究者などと称していたようなんですが、本書はその生い立ちから始まって、戦争期に渡満し、その後もしばらく中国大陸にとどまって、北京放送のアナウンサーをしたりした後、我が国に帰国し、中国大陸の怪奇物語などを少年誌に寄稿しつつ、次第に超常現象の第一人者の1人とされ、テレビ番組で活躍したり、といった人生を概観しています。2001年に亡くなったそうです。10代で満州に渡ったあたりもそうですが、かなり冒険的な人生観をお持ちだったのかもしれません。ユリ・ゲラーのスプーン曲げには終始懐疑的だったようですが、クロワゼットの透視力を信頼してテレビでも取り上げたりした後、本書のタイトルであるコックリさんの体系的な解明に努めたりしています。コックリさんについては、私の中高生のころに流行ったりしていましたが、私はまったく信じておらず、やったこともありませんし、親しい友人がやっているかどうかも知りませんでした。そして、中岡俊哉はコックリさんの後、心霊写真やハンドパワーの方に向かいます。心霊写真については、ちょっと違うかもしれませんが、例の「貞子」の元になった『リング』のビデオテープへの念写などがオカルト界では有名かもしれませんが、私は可能性あると考えているのは、限りなく医療行為に近くて胡散臭いんですが、ハンドパワーの方です。というのは、医学の世界では、経済学のような因果推論というものはほとんど重視されておらず、単なる統計的な有意性で病気やケガを治しているように私には見えるからです。例えば、統計的にはセックスと妊娠はほぼ無相関なのだそうですが、明らかに因果関係をなしているのは、高校を卒業したレベルの知性を持った日本人であれば理解していることと思います。同様の知性があれば、喫煙と発がんの間に一定の相関があることも情報として知っている可能性が高いと私は考えますが、不勉強にして、その因果関係はどこまで明らかになっているかは私は知りません。おそらく、単に統計的に有意な発がん率の差が喫煙者と非喫煙者の間にある、という事実だけではないかと想像しています。その昔は、ナイフでケガをしたら、傷口とともにナイフの方にも塗り薬を塗布していたらしいですから、このあたりはオカルトに近いのかもしれません。

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最後に、前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書) です。著者は紛れもなくバッタの研究者です。バッタの中でも、アフリカで数年に1度大発生し、農作物に大きな被害を与えるサバクトビバッタだそうです。エコノミストの私はもちろん専門外であり、相変異を示すものがバッタ(locust)、示さないものがイナゴ(grasshopper)というのも知りませんでした。当然に実感ありませんが、日本人研究者がサハラ砂漠のバッタを研究することもあるんだ、というくらいの感想です。そして、人工的な研究室で飼育実験ばかりで野生の姿を見たことがなかったバッタの研究のため、ポスドクで研究資金を獲得してモーリタニアの研究所に2年間の予定で滞在し、本書はその間の研究とともに生活などを中心に取りまとめられています。新書としては異例のぶ厚さなんですが、読んで驚いたのは、バッタという昆虫に対しても、アフリカ途上国に対しても、著者がまったく上から目線を示していない点です。同じ高さの目線で、というよりも、ひょっとしたら、著者の自虐趣味かもしれませんが、さらに低い視点からバッタやモーリタニアを詳しく描写しています。私も開発経済学の専門家として、途上国に入ることもありますし、「指導」と称する業務を担当したこともありますが、こういった現地事情や現地人はもとより、研究対象に対する真摯な姿勢は見習いたいものだと感じました。ただ、現地語に対する学習意欲が異様に低い点は気にかかりましたが、私もジャカルタ滞在の折にマレー・インドネシア語を勉強しようとも思わなかったですし、スペイン語圏の大使館勤務をしながら、せっせと英語を勉強していたクチですから、大きなことはいえません。バッタに関する研究については何の基礎知識なくとも、モーリタニアやバッタに関して、とても実態に迫ったノンフィクションが楽しめます。

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2017年9月22日 (金)

ダイヤモンド・オンラインに見る商社への「就職に強い大学」ランキングやいかに?

先週金曜日の東洋経済オンラインの40歳平均年収ランキングに続き、今夜は9月19日付けのダイヤモンド・オンラインで明らかにされている商社への「就職に強い大学」ランキングです。我が家の上の倅は商社への就職はそれほど興味内容なんですが、週末前の軽い話題として簡単に取り上げておきたいと思います。

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極めて大雑把に考えて、入試の偏差値が適当なのかどうかは別として、学生の優秀さと正の相関があり、同時に、学生の多さとも相関しているような気がします。もっと、正や負やの相関を持つ変数がありそうな気もします。私の認識がとても古くて、しかも、偏っているんだろうと思いますが、トップ40に女子大が6校も入っているのは驚きでした。また、首都圏と関西圏の大学がほとんどで、名古屋圏がチラホラと見けかる他は、いわゆる旧帝大しかトップ40にランクインしていません。もっとも、筑波大学が首都圏なのかどうかは議論あるかもしれません。

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2017年9月21日 (木)

「OECD経済見通し中間報告」は順調な世界経済の回復・拡大を確認!

日本時間の昨夕、経済協力開発機構(OECD)から「OECD経済見通し中間報告」OECD Interim Economic Outlook が公表されています。世界経済は緩やかな回復が続くとして、2016年の3%成長から、2017年の成長率を+3.5%と前回の6月見通しから据え置き、2018年は+3.7%と前回見通しから+0.1%ポイント上方修正しています。日本経済については、2016年の+1.0%成長から、2017年+1.6%成長、2018年+1.2%成長と、いずれも6月の前回見通しから+0.2%ポイント上方修正しています。下のグラフはOECDのサイトから総括的な成長率見通しを引用しています。

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国際機関の経済見通しなどのリポートに注目するのはこのブログの特徴のひとつでもあり、いくつか画像をお示ししつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上の画像は、OECDから公表されているプレゼンの p.2 から3点の Key messages を引用しています。第1に、欧州で予想を上回る成長が示され、短期的な成長モメンタムが広がりを見せていること、しかしながら、第2に、民間投資や賃金回復が不十分であり、力強く持続的な中期的成長が保証されているとはいいがたいこと、従って、第3に、政策の中心課題は金融政策から財政・構造政策による経済成長や賃金上昇への支援に転換し、包摂的な成長を目指す必要があること、と示されています。

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次に、同じくOECDから公表されているプレゼンの p.11 から就業率と雇用者1人当たり実質雇用者報酬のグラフを引用すると上の通りです。このグラフを示しつつ、生産性や賃金を下支えする構造改革を加速すべきことを強調しています。まあ、物価や賃金が上がらないのは、我が国だけでなく世界的な現象なのかもしれません。なお、私は記者会見のビデオを見ていませんが、日経新聞の記事によれば、OECD当局から「持続的な成長のためには、企業が積み上げた現金を賃上げや投資を増やすことに使うことが必要」との指摘があったように報じられています。

最後にご参考まで。10月のIMF世銀総会に向けて、国際通貨基金(IMF)でも経済見通し作業を進めているようで、IMFのサイトでは、来週9月27日に「世界経済見通し」 World Economic Outlook の分析編が公表される旨が明らかにされています。

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2017年9月20日 (水)

8月貿易統計に見る輸出と輸入の拡大は何を意味するか?

本日、財務省から8月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+18.1%増の6兆2780億円、輸入額も+15.2%増の6兆1643億円、差引き貿易収支は+1136億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

8月の貿易収支、3カ月連続黒字 1136億円 米向け自動車など伸びる
財務省が20日発表した8月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1136億円の黒字だった。貿易黒字となるのは3カ月連続。QUICKがまとめた市場予想の中央値は1200億円の黒字だった。自動車や半導体関連の品目がけん引した輸出の伸びが輸入の伸びを上回り、前年同月の346億円の赤字から黒字に転じた。
輸出額は前年同月比18.1%増の6兆2780億円となり、9カ月連続で増加した。増加幅は2013年11月(18.4%)以来の大きさだった。輸出数量が輸入を上回る伸び率で堅調に推移している。8月の為替レート(税関長公示レートの平均値)が1ドル=110.77円と前年同月から7%程度の円安となり、円建ての輸出額を押し上げたことも寄与した。
米国向けの排気量2000cc超の自動車や香港向けの半導体などの電子部品の輸出がけん引した。地域別では、前年同月が低調だった反動もあり、対米国が21.8%増と14年12月(23.7%)以来の伸びを記録したことが目立った。対欧州連合(EU)は13.7%増、中国を含む対アジアも19.9%増とともに増加した。
輸入額は15.2%増の6兆1643億円だった。資源価格の上昇と円安の進行で、石炭や液化天然ガス(LNG)、原粗油といったエネルギー関連を中心に増加した。中国からのパソコン、ドイツからの自動車や航空機などの輸入が増えたことから、対中貿易は6カ月連続、対EU貿易は2カ月ぶりに赤字となった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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メディアの報道では、上に引用した記事もそうですが、3か月連続の貿易黒字がハイライトされているような気がします。大きな要因は、石油価格などをはじめとする国際商品市況における資源価格の落ち着きに加えて、世界経済の順調な回復・拡大に伴って、我が国の輸出がまさに主力輸出品である自動車などで伸びているからであると私は受け止めています。そして、我が国の景気も順調な回復・拡大軌道にあり、従って、輸入額も国内経済活動に応じた伸びを示しており、輸出と輸入がともに拡大する好ましい局面に入りつつあることを実感しています。もうひとつは、昨年6月の英国の国民投票により、いわゆるBREXITが決まり、世界経済が昨年年央にはもっとも不透明感が大きかった1年後の反動、という側面もありますから、それほど手放しで楽観するのもどうかという気もします。ただ、昨年後半のBREXITやトランプ大統領の当選といった時期からは、大陸欧州でのポピュリスト政党の大幅な躍進も見られず、フランス大統領選挙の結果なども踏まえれば、少しだけ世界経済の見通しがよくなった気もします。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。世界経済の回復・拡大、さらに、不透明感の低下に加え、我が国からに輸出は、引用した記事にもある通り、為替がフォローの風となって、大きく伸び始めました。為替さえ通常の水準を維持していれば、自動車産業をはじめとして、我が国産業にはまだまだ国際競争力があるんではないか、と改めて感じています。

最後に、そうはいっても、世界経済にリスクがないわけではなく、昨年のような政治的、というか、経済外的なリスクではないものの、欧米の金融政策に起因するリスクが顕在化する可能性があります。すなわち、米国連邦準備制度理事会(FED)は6月にも利上げを決めましたし、年内にも追加利上げが実施されたり、資産圧縮が始まる可能性もあり、米国経済の下押し圧力になるとともに、新興国の金融市場での波乱要因となる可能性も否定できません。加えて、欧州中央銀行(ECB)でも来年以降の資産買い入れの圧縮=テーパリングが、早ければ今秋から議論される可能性があり、何らかの市場の反応が発生する可能性があります。

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2017年9月19日 (火)

今夏の気候に起因する野菜価格に関する消費者の実感やいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、ネット調査大手のインテージから、9月8日付けで2017年夏の野菜価格についての生活者の印象の調査結果が明らかにされています。今夏は梅雨が明けていないのではないか、とおもわれるほど雨が続き日照時間が不足している印象があり、野菜などの農作物価格が気がかりであったところ、なかなか興味深い調査結果が示されています。いくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、インテージのサイトから、今年の夏の野菜価格の印象 について問うた結果が上のグラフの通りです。「例年に比べて、高くなっていると感じた」が15.1%で、「例年に比べて、やや高くなっていると感じた」の47.2%まで含めると62.3%が、例年に比べて高くなっていると感じているようです。グラフの引用は割愛しますが、地域別で見ると、「やや」抜きで「高くなっている」との印象が四国と九州といった日本の南寄りのエリアで比較的高くなっているようです。

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次に、インテージのサイトから、高くなっていると感じた野菜 について問うた結果が上のグラフの通りです。見ての通りなんですが、上位に上がった品目はいずれも天候不順による生育不足や入荷量の減少が価格に影響した可能性があり、生活者として日常の買い物などにおいてもそれらの価格高騰が感じられているようです。

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2017年9月18日 (月)

広島リーグ優勝おめでとう!

  RHE
広  島100100010 360
阪  神000100100 280

広島カープのリーグ優勝おめでとうございます。
投手力も、打撃力も、守備力も走力も、そして、何よりもここ一番の勝負強さも、何から何まで阪神は広島にかないませんでした。実力差は大きいと感じてしまったシーズンといわざるを得ませんが、甲子園で敵チームの胴上げを見せつけられるのはとても悔しいものです。来年こそ優勝目指してがんばって欲しいと思います。クライマックスシリーズはどうでもいいです。

来年こそは、
がんばれタイガース!

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2017年9月17日 (日)

東洋経済オンラインによる「東京五輪を陰で支える」50法人ランキングやいかに?

本日9月17日付けの東洋経済オンラインで「東京五輪を陰で支える」50法人ランキングが明らかにされています。オリンピックを陰で支える、というよりは、公共事業をジャカスカ受注している、という方が正確な気もしますが、以下のテーブルの通りです。ご参考まで。

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2017年9月16日 (土)

今週の読書もついつい読み過ぎて計7冊!

今週の読書はぶ厚な経済書をはじめとして、以下の7冊です。先週も『戦争がつくった現代の食卓』と『世界からバナナがなくなるまえに』の食べ物関係2冊を読んだんですが、なぜか、今週も歴メシと和菓子の2冊が入っています。食欲の秋なのかもしれません。

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まず、 エドワード P. ラジアー/マイケル・ギブス『人事と組織の経済学 実践編』(日本経済新聞出版社) です。著者は米国の労働経済学者であり、ラジアー教授なんぞはノーベル経済学賞に擬せられたりもしているような気がします。英語の原題は Personal Economics in Practice, 3rd Edition であり、2015年の出版です。そして、学術的な水準は大学院博士前期課程くらいに使えるテキストです。学部生ではやや難しいでしょう。ただし、1998年にラジアー教授は邦訳で同じ出版社から『人事と組織の経済学』を出版しており、やや英文タイトルに変更あったものの、中身は半分以上同じだという気がします。というのも、私は労働経済学とかのマイクロな分野はほとんど専門外なんですが、数年前に勤務上の都合で国際共同研究を担当し、まったく専門外ながら労働や雇用に関する研究のグループの研究取りまとめをせねばならなかったことがあり、その際に1998年出版の旧版を読みました。旧版の方がややページ数が多かった気はしますが、冒頭の採用に関するチャプターなんか、安定した生産性を示す労働者よりも、リスクある労働者を雇うべし、といった結論も旧版から同じだと思いだしてしまいました。すなわち、野球でいえばアベレージ・ヒッターではなく、ホームランか三振か、といったバッターを雇用すべきであるという結論で、安定性を重視する日本人としては不思議に思ったんですが、本書の結論のひとつとしては、リスクある労働者が結果を出せない場合、すなわち、野球でいえば三振ばかりしている場合、解雇すればいいじゃないか、という、いかにも米国流の考え方だったのを思い出してしまいました。米国的なCEOの超高給と一般労働者との給与格差については、職階による給与の差が大きいほどスキルアップのインセンティブが大きくなる、と旧版と同じ論理を展開している部分が多いんですが、IT化の進展により意思決定の中央集権化が進む可能性を指摘していたりと、当然のように版を重ねている部分もあります。第2版を見ていないので何ともいえませんが、適切にアップデートしている気もします。ただ、人事管理に関しては、合理的なホモ・エコノミカスを対象とするインセンティブの体系ですので、合理的といえば合理的なんですが、資本と異なるモビリティの問題とか、個々人による異質性の問題とか、まだまだ解明されていない点は多いと考えさせられます。加えて、現時点では実験経済学は消費の場などにおける選択の問題が中心に据えられていますが、労働経済学が分析対象とする雇用や業務遂行の際の選択を実験で明らかにできれば、さらに経済学は進歩しそうな気もします。もっとも、専門外の私が知らないだけで、すでにそういった研究は進められていそうな気もします。

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次に、淵田康之『キャッシュフリー経済』(日本経済新聞出版社) です。著者は野村総研のベテラン研究員であり、著者が野村総研から出している主要なリポートの一覧が野村総研のサイトに示されています。本書のテーマは、今年5月27日付けの読書感想文で取り上げたロゴフ教授の『現金の呪い』の理論的な面を背景に、日本の現状に合致するように取りまとめてあります。というのも、買い物の決済でキャッシュが占める比率は日本ではとても高く5割ほどに達します。銀行預金が大好きな点と併せて、日本人のひとつの嗜好を示しているような気がします。米国では買物のキャッシュ支払比率は2割に届かず、カード払いが半分ほどに上ります。また、1000ドル札のような超高額紙幣はないものの、日本で1万円札が市中で何の問題もなく流通するのもやや不思議です。名目値でほぼ等価の米国の100ドル札は、少なくとも私の経験では、首都ワシントンのスーパーマーケットでとても使い勝手が悪いです。もちろん、米国の100ドル札はいわゆる法貨ですから、受け取ってもらえないことはあり得ないんですが、ホンモノの100ドル札であることをチェックするのに、やたらと手間取り時間もかかります。ロゴフ教授の主張するキャッシュレス化の利点はマネー・ロンダリングなどの不正対策や金融政策の効率化だったんですが、本書では4点指摘しており、第1にそもそも紙幣やコインを製造するコストの削減、あるいは、偽札や盗難などのリスクの減少、第2に銀行ATMでの現金引き出しやスーパーの支払いの場での小銭の勘定などに費やす時間の短縮、第3にストレスない快適な買い物の実現、第4にマネー・ロンダリングや不正送金の防止などを上げています。さらに、日本の現状にかんがみて、例えば、インバウンド消費の支払いにおけるキャッシュフリー化などの利点も論じていますし、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた課題ともいえます。キャッシュ大国である、当然に、その逆から見て、キャッシュフリー後進国である日本の実情に即して、どのようにキャッシュフリー化を進めるかにつき、政府や日銀の政策面も批判的に紹介しつつ、現実的な対応を議論しています。

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次に、大島隆『アメリカは尖閣を守るか』(朝日新聞出版) です。著者は朝日新聞をホームグラウンドとするジャーナリストです。国際報道のキャリアが長く、米国駐在経験もあるようです。ということで、本書のタイトル通りの内容について、米国のサイドから公開されている公文書などを渉猟して明らかにしようと試みています。というのも、オバマ前政権も現在のトランプ政権も、尖閣諸島における我が国の施政権を認めていて、我が国の施政権の及ぶ範囲は米国の防衛義務が及ぶと明らかにしていますので、本書のタイトルに対する回答は yes でしかあり得ません。そして、その yes である根拠を時代をさかのぼって明らかにしようと試みているわけです。もちろん、その背景には米国ファーストで、同盟国に対して応分の負担を求める発言を繰り返すトランプ大統領の存在があります。さかのぼるのはサンフランシスコ平和条約と同時に署名された日米安保条約です。でも、沖縄返還時の交渉経緯も重要です。ただし、この沖縄返還までは日米のほかのもう1国の当事者である中国とは、台湾の中華民国政府を意味していたのに対し、現在では北京の中華人民共和国の共産党政権となっています。そして、忘れてはいけない点は、本書でも何度も繰り返されている通り、尖閣諸島の領有権については米国は態度を明らかにせず、関係国で話し合いをすべき、という原則であり、尖閣諸島についても領有権に対する態度があいまいです。ただ、尖閣諸島の施政権については日本が有していることを認めており、従って、日本の施政権の及ぶ範囲で日米安保条約に基づく防衛義務が発生する、という立場です。ですから、本書では明記していないものの、竹島については韓国が実効支配していることから、日本の施政権を米国が認めない可能性が大いにある点は留意しておかねばなりません。おそらく、バックグラウンドで大量のドキュメントを消化している割には、出て来た結論はありきたりな気もしますが、バックグラウンドの確認努力を評価すべきなのかもしれません。

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次に、遠藤雅司『歴メシ!』(柏書房) です。著者は歴史料理研究家だそうで、本書では、最古のパン、中世のシチュー、ルネサンスの健康食、ヴェルサイユ宮殿の晩餐会などなど、オリエントから欧州にあった8つの時代の歴史料理を検証し、現代人向けのレシピにまとめています。第1章 ギルガメシュの計らい では古代メソポタミアを、第2章 ソクラテスの腹ごしらえ ではいわゆる古典古代のギリシアを、第3章 カエサルの祝勝会 ではローマ帝政期を、第4章 リチャード3世の愉しみでは中世イングランドを、第5章 レオナルド・ダ・ヴィンチの厨房 では中世イタリアを、第6章 マリー・アントワネットの日常 と 第7章 ユーゴーのごちそう会 ではでは革命期のフランスを、第8章 ビスマルクの遺言 では統一期のドイツを、それぞれ取り上げています。フランス革命までは料理人といえば、我が国の「天然平価の料理人」ではないですが、王宮や貴族のお抱えで料理を作っていたものの、革命により貴族が没落し、その料理人がパリ市内でレストランを開いた、ということのようです。私は料理はまったくせず、しかも、つくるほうだけでなく食べる方でも、グルメでも何でもなく、食事とは栄養の補給くらいにしか考えていません。ですから、長崎大学経済学部の教員として単身赴任していた折にも、鍋釜はもちろん、コップや皿などの食器すら宿舎に持っておらず、朝食の際にパンをミルクで流し込むほかは、大学生協などでの外食か、そうでなければ、弁当を買い求めていました。不健康な食生活でしたので、よく体を壊していましたし、2009年にメキシコ発の豚インフルエンザが我が国でも流行した際には、しっかりとり患して長崎でも流行の最先端ではなかろうかといわれたくらいです。ですから、いろんな料理のレシピを見ても実感が湧かないこと甚だしいんですが、お料理の好きな人は実際に作ってみようかと考える向きも少なくないような気がします。次の『和菓子を愛した人たち』と同様に、フルカラーの写真が満載です。

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次に、虎屋文庫『和菓子を愛した人たち』(山川出版) です。虎屋のサイトで2000年から連載されてきた歴史上の人物と和菓子の内容を書籍化したものです。どうでもいいことながら、オールカラー300ページほどで税込み2000円弱というのは安いと思います。もっと、どうでもいいことながら、我が家の倅たちが幼稚園くらいのころに、絵本を買う場合、イラストだと安かったんですが、写真だととたんに高価になった記憶があります。上に見える表紙画像は川崎巨泉の饅頭食い人形なんですが、こういった写真がフルカラーで収録されています。ということで、もともとのサイトからの転載が中心ですから、タイトル通りに、原則2ページくらいの細切れながら、歴史上の著名人と和菓子の関係を明らかにしています。冒頭は紫式部から始まっています。フルカラーですから、和菓子の色彩上の利点なども手に取るように明らかで、谷崎潤一郎が引用している夏目漱石の言葉で、羊羹の色に対比して洋菓子のクリームの色は「あさはか」と表現されています。ただ、やや勘違いもあるような気もしますし、虎屋文庫がおおもとになっているので、虎屋で扱っていないタイプの和菓子が含まれていないという恨みもあります。上の表紙画像にしても、私は和菓子というよりは中国風の印象なんですが、どうでしょうか。また、本書冒頭の紫式部にしても、当時の文化を背景に考えれば、洋菓子のシュークリームがあるわけではなく、国風文化の下で中国の影響すら薄いわけですから、和菓子が好きだったというよりは、甘いもの、現在の言葉でいえばスイーツが好きだった、ということなんでしょう。鎖国下の江戸時代もチャプターひとつを占めていますが、同様だという気がします。また、唐菓子がよく取り上げられている気がして、和菓子との境界につきやや疑問が残ります。

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次に、本格ミステリ作家クラブ[選・編]『ベスト本格ミステリ 2017』(講談社ノベルス) です。本格ミステリ作家クラブの創設が2000年で、その翌年の2001年から編まれている短編集の2017年版です。収録作品は、天野暁月「何かが足りない方程式」、青崎有吾「早朝始発の殺風景」、西澤保彦「もう誰も使わない」、似鳥鶏「鼠でも天才でもなく」、井上真偽「言の葉の子ら」、葉真中顕「交換日記」、佐藤究「シヴィル・ライツ」、青柳碧人「琥珀の心臓を盗ったのは」、伊吹亜門「佐賀から来た男」、倉狩聡「もしかあんにゃのカブトエビ」の短編と評論が1編となっています。極めて論理的に謎が解き明かされる「早朝始発の殺風景」、また、なかなか上手に騙してくれる「交換日記」などが私の感性に合致した気がします。2段組みの小さな活字で、資料編も合わせれば500ページ近いボリュームなんですが、さすがの作家陣の短編作品ですので、私はとてもスラスラ読み進むことができました。

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最後に、米澤穂信ほか『短編学校』(集英社文庫) です。このブログでも読書感想文に取り上げた記憶がありますが、同じ集英社文庫から出版されている『短編少女』や『短編少年』といったシリーズの最新刊ではないかと思います。収録作品は、米澤穂信「913」、本多孝好「エースナンバー」、中村航「さよなら、ミネオ」、関口尚「カウンター・テコンダー」、井上荒野「骨」、西加奈子「ちょうどいい木切れ」、吉田修一「少年前夜」、辻村深月「サイリウム」、山本幸久「マニアの受難」、今野緒雪「ねむり姫の星」の10作品となっています。 短編集にもかかわらず、なかなか深い作品が多かったような気がします。でも、こういったアンソロジーの常として、10本もの収録作品があれば、2-3は既読である可能性があります。まあ、既読の作品数が多いということは、それだけ残念という意味ではなく、読書家の証なのかもしれません。

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2017年9月15日 (金)

東洋経済オンラインによる40歳平均年収「63業界」ランキングやいかに?

先週金曜日9月8日付けで東洋経済オンラインから40歳平均年収「63業界」ランキングが明らかにされています。以下のテーブルの通りです。

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実は、大学の3年生になる上の倅と先週に進路に関する雑談をしました。倅のいうところによれば、上のテーブルのトップを飾ったコンサルとか、外資系の投資銀行などは、確かに高給は高給だが、メチャメチャ働かされる、とのうわさを耳にする、ということのようでした。私が大学生だったころは、やっぱり、銀行とか商社とか、あるいは、生損保などが人気で、銀行や商社はハードワークだといわれていて、私にはムリだろうと考えた記憶があります。お給料やワーク・ライフ・バランスのほかに、さらに考慮すべきは勤務地で、私が入ったお役所は2000年の省庁再編前は地方支分部局がなくて、東京だけにオフィスのある役所だったんですが、そもそも、なぜか国際派になってしまった私は海外勤務を2度に渡って計6年余り経験しましたので、国内での転勤よりもある意味でハードだったかもしれません。いうまでもなく、2度目の海外勤務のジャカルタには倅も連れて行っています。商社のような国際派に適した職場もあれば、ややドメっぽいながら全国に支店網を持つ生保のような会社もあります。そのあたりも考えどころなんでしょう。

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2017年9月14日 (木)

終盤から延長戦で決定打なく巨人に勝てず引き分け!

 十一十二 RHE
読  売000000011000 2100
阪  神200000000000 290

この3連戦で、どうしても巨人に勝てませんでした。阪神恒例の9月の大失速の原因であるリリーフ陣の疲労蓄積は現在の阪神ベンチには認識されていないようで、先発秋山投手を早々に降板させて継投に入りましたが、やっぱり終盤で巨人に追いつかれました。9回から延長戦は塁上を賑わせたんですが、これまたおなじみの決定打に欠け、勝利にはつながりませんでした。代打に送り出された若手のバッターが、あれだけ選球眼悪くボール球を振り回していては、打てようハズもありません。

消化試合はほどほどに、
がんばれタイガース!

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今日は私の誕生日!

今日は私の誕生日です。着々と定年に近づいています。体力もかなり衰えを感じています。気力はもともとそれほど充実していません。我が家の恒例のくす玉のフラッシュを置いておきます。めでたいとお考えの向きはクリックして、くす玉を割って下されば幸いです。

なお、私と同じおとめ座の生まれである下の倅の誕生日を今年はすっかり失念していました。ご本人には少し遅れて祝意を伝達しておきましたが、誠に痛恨の極みです。

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2017年9月13日 (水)

先発岩田投手が序盤で試合を壊して巨人にボロ負け!

  RHE
読  売060100000 7152
阪  神000000002 2112

先発岩田投手が序盤で試合を壊して巨人にボロ負けでした。ここに来て、阪神恒例の9月の大失速が出たんですが、打線も塁上を賑わして11安打を放ちながら決定打が出ませんでした。クライマックス・シリーズはもし出られたとしても、もちろん、出られないかもしれませんが、まったく期待できないと思ってしまいました。広島と巨人には勝てるような気がしません。

消化試合はムリすることなく、
がんばれタイガース!

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さらに上昇幅を拡大した企業物価(PPI)と大企業景況感がプラスに戻った法人企業景気予測調査をどう見るか?

本日、日銀から8月の企業物価 (PPI)が、また、財務省から7~9月期の法人企業景気予測調査が、それぞれ公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は前月統計からやや上昇幅を拡大して+2.9%を示した一方で、法人企業景気予測調査のヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は4~6月期の▲2.0の後、7~9月期にはを+5.1記録し、先行きについては、10~12月期は+7.5に、また、来年2018年1~3月期は+5.6と、それぞれプラスを維持すると見通されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

8月の企業物価指数、前年比2.9%上昇 8年10カ月ぶり伸び率
日銀が13日に発表した8月の国内企業物価指数(2015年平均=100)は98.8で、前年同月比で2.9%上昇した。伸び率は7月(2.6%)から拡大し、消費税の影響を除くと2008年10月(4.5%)以来8年10カ月ぶりの大きさとなった。8カ月連続の上昇となる。前年比での原油価格の上昇を背景に石油・石炭製品の価格が上げ幅を広げた。
前月比では横ばいだった。中国の需要増加を背景に8月に銅の国際価格や古紙の価格が上昇した。世界的に自動車の需要が好調で中国やトルコが粗鋼の生産を増やし、鉄鉱石が上昇したため、競合する鉄くずの価格も上がった。一方で、原料の値下がりで化学製品が下落したほか、今夏の天候不順でバーベキューなどの行楽需要が不振となり、牛肉の価格も下落した。
円ベースの輸出物価は前年比で8.6%上昇し、13年12月(12.7%)以来の伸び率となった。前月比では0.5%下落した。輸入物価は前年比で12.5%上昇し、14年1月(12.7%)以来の伸び率となった。前月比では1.3%下落した。為替相場が前年比で円安、前月比では円高となったことが影響した。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの価格動向を示す。公表している744品目のうち、前年比で上昇したのは390品目、下落したのは256品目だった。上昇と下落の品目差は134品目と、7月の確報値(79品目)から55品目拡大した。
日銀の調査統計局は「中国の景気や国内の天候不順、地政学リスクが物価に与える影響を今後も注視していく」との見解を示した。
7~9月の大企業景況感、2期ぶりプラス 法人企業景気予測調査
財務省と内閣府が13日発表した法人企業景気予測調査によると、7~9月期の大企業全産業の景況判断指数(BSI)はプラス5.1だった。情報通信機械器具や生産用機械器具を中心とした製造業がけん引し、2期ぶりにプラスとなった。前回調査の4~6月期はマイナス2.0だった。
7~9月期は大企業のうち、製造業がプラス9.4となった。情報通信機械器具製造業で自動車やスマートフォン(スマホ)向けの電子部品が好調なことや、生産用機械器具製造業で半導体関連の製造装置の需要が増加したことなどが全体の景況感を押し上げた。4~6月期のマイナス2.9から大幅に改善した。
非製造業はプラス2.9となり、前回調査のマイナス1.6から改善した。建設業で建築需要が堅調に推移しているのに加え、サービス業のうち宿泊業や娯楽業での来客数増加などが寄与した。
先行き10~12月期の見通しはプラス7.5で、製造業がプラス11.2、非製造業がプラス5.7だった。2018年1~3月期は全産業でプラス5.6となった。財務省と内閣府の総括コメントは「緩やかな回復基調が続いている」となり、前回調査時の「企業の景況感は慎重さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」と比べてやや明るさがみられた。
17年度の設備投資は前年度比で3.9%増加する見込みとなった。情報通信機械器具製造業のでスマホ向け電子部品の生産能力増強などが見込まれている。前回調査の3.8%増も小幅に上回った。経常利益の17年度見込みは0.6%増となり前回調査の0.4%減から改善がみられた。
景況判断指数は「上昇」と答えた企業と「下降」と答えた企業の割合の差から算出する。今回の調査は8月15日時点。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。ただし、統計2本の記事を並べましたので、やたらと長くなってしまいました。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネルから順に、最初のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率、真ん中の2番目は需要段階別の上昇率、そして、最後の3番目は原油価格の指数そのものを、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、上2枚のパネルの影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、企業物価(PPI)のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で見て、8月は+3.0%の上昇と、前月7月の+2.6%からさらに上昇幅を拡大しています。ただ、上昇幅拡大の主因は電気やガスなどのエネルギー関連の価格上昇であり、国際商品市況における石油価格の上昇がラグを伴って波及しているだけという気もします。上のグラフの中の一番下のパネルでは原油価格の指数をそのままプロットしていますが、前年同月比上昇率のベースでは、今年2017年1~3月期の各月に+90%超の大幅な上昇を記録した後、すでに上昇率ではピークアウトし、直近8月統計では+20.0%まで上昇幅が縮小して来ていますが、昨年の指数のボトムは8月ですし、9~10月も指数のレベルは低くて、今年9~10月の指数が8月と同じであれば、まだ2ケタ上昇が続くことになります。いずれにせよ、国際商品市況で決まる価格ですので先行きは見通しがたいんですが、大幅な価格上昇の時期は過ぎた気もします。ですから、金融政策というよりも国際商品市況におけるエネルギー価格からの影響の強いPPI上昇率の先行きについては、このまま上昇幅がさらに拡大することは考えにくいと私は受け止めています。

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続いて、上のグラフは法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIをプロットしています。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は景気後退期を示しています。企業活動については、ハードデータの売上げや利益といった企業収益の部分が昨年年央から後半くらいに底を打ち、マインドのソフロデータについても昨年2016年10~12月期くらいから改善を示して来ていると受け止めています。ただ、跛行性が見られるのも確かで、規模の大きな企業ほどマインドは改善し、非製造業よりも製造業の方が海外経済の恩恵を受けやすく、マインドはより大きく改善を示しています。足元の10~12月期では大企業の景況判断BSIが+7.5、中堅企業は+4.6、中小企業は+0.7となっています。また、個別項目では、人手不足感が広がっており、特に、中堅・中小企業では大企業よりも人材確保が困難なようで、今年12月末時点の見通しで、従業員数判断BSIの不足超が大企業で14.8に上る一方で、中堅企業では26.6、中小企業でも25.2を示しています。また、注目の設備投資については、ソフトウェア投資額を含む、土地購入額を除くベースで、全規模全産業で見て今年度2017年度は前年度比+3.9%増、うち、製造業+8.2%増、非製造業+1.5%増となっています。人手不足に伴う賃金の上昇や設備投資の増加が景気拡大の好循環につながることが期待されます。

どうでもいいことながら、米国のアップル社からiPhoneの新製品が明らかにされています。iPhone発売から10年ということのようです。我が国の携帯3社はiPhone 8については9月22日発売を明らかにしていますが、iPhone X については未定だそうです。価格が10万円を軽く上回るようです。

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2017年9月12日 (火)

中国SNS上の「聖地巡礼」スポット分析結果やいかに?

やや旧聞に属するトピックですが、8月29日付けでトレンドExpressから、中国の代表的なSNSである新浪微博上の聖地巡礼に関するクチコミ分析の結果が明らかにされています。下のテーブルの通りです。

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ということで、ダントツ1位は「君の名は。」の飛騨高山となっています。なお、中国では昨年末から封切られているそうです。2位には「ジブリ各作品」の三鷹市がランクインしています。もともと、三鷹の森ジブリ美術館や9位にランクインしている清水市のちびまる子ちゃんランドは人気のスポットではなかろうかと思います。我が家の子供達が小さかったころは、熊本にウルトラマン・ランドなるスポットがあったんですが、ジャカルタで暮らしているうちに行きそびれて、結局、2013年に閉鎖されてしまいました。本題に戻って、3位「夏目友人帳」の八代市、4位「スラムダンク」の鎌倉市は昨年の1位と2位の作品です。10位「新世紀エヴァンゲリオン」箱根町は、この時期にどうして、という気になったんですが、昨年2016年夏に上海のゲームショーで高さ25メートルのエヴァ初号機が公開され話題になったので注目を集めたようです。
中国では、最近になって、アニメ・マンガなどの舞台となった「聖地巡礼」が日本旅行の目的のひとつとして扱われ始め、メディアへの露出が増えてきているようです。2015年8月からのクチコミ件数推移を見てみると、夏に盛り上がりを見せていて、夏休みや卒業のシーズンで多くの若者が旅行に出かけており、「聖地」ブランドのターゲットは若者ということになりそうです。

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2017年9月11日 (月)

7月統計で大きくリバウンドした機械受注の先行きをどう見るか?

本日、内閣府から7月の機械受注が公表されています。変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注の季節調整済みの系列で見て前月比+8.0%増の8533億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7月の機械受注8.0%増、鉄道車両けん引 自動車は堅調維持
内閣府が11日発表した7月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の受注額(季節調整値)は、前月と比べ8.0%増の8533億円だった。4カ月ぶりに増加し、伸び率は2016年1月以来の大きさとなった。鉄道車両でまとまった受注が重なったことが大きく寄与した。自動車関連の堅調も続いた。QUICK算出の市場予想(5.1%増)を大きく上回った。内閣府は7月の大幅増は単月として目立つものの「増勢が定着するか見極める必要がある」と指摘し、基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いた。
製造業が2.9%増と2カ月ぶりに増えた。自動車関連は0.8%増と伸び率は小さいが、2桁の伸び率となった前月(12.7%)の実績を上回った。その他製造業に含む合成樹脂加工機械にも関連した受注があったとみられ「自動車関連で好調が続いている」(内閣府経済社会総合研究所)。
非製造業は4.8%増と2カ月連続のプラスだった。運輸業・郵便業が64.9%増となり鉄道車両の寄与が全体を支えた面が大きく、内閣府は「想定された需要がようやく顕在化してきた」と指摘した。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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機械受注統計は単月でのブレが大きいとはいえ、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注の季節調整済みの系列の前月比・前期比で見て、1~3月期▲1.4%減、4~6月期▲4.7%減と、2四半期連続で前期比マイナスを記録し、月次ベースでも、4月▲3.1%減、5月▲3.6%減、6月▲1.9%減と3か月連続のマイナスの後の7月+8.0%増ですから、反動増の要因もあります。ですから、引用した記事にもある通り、統計作成官庁の内閣府では基調判断は「足踏み」で変更していません。上のグラフを見ても理解できるように、コア機械受注はほぼ横ばい圏内にあり、引用した記事の最後のパラにあるような需要の顕在化かどうかは、やや疑わしいと私は考えていますが、足元ではなくもう少し先を見通せば、設備投資は緩やかながら増加の方向にあると考えられます。ひとつには稼働率の上昇です。鉱工業生産指数のグループの一環に稼働率データがあり、季節調整済みの四半期データで見て、製造工業の稼働率指数が2016年1~3月期の96.1を底に、2017年4~6月期の101.9まで緩やかに上昇の方向にあります。私が役所に入ったころは、稼働率指数が90を超えると設備投資が増加し始めるという経験則があったんですが、指数の水準はともかく、稼働率の上昇が設備投資を増加させる方向性は変わらないと考えるべきです。それから、言い古された気がするものの、人手不足と2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたインフラ整備に伴う需要の盛り上がりも見逃せません。加えて、企業の供給サイドでも、業績の改善・高水準とともに、維持更新投資の必要も高まっていることから、かつてのように爆発的に設備投資が増加するという局面は考えにくいものの、緩やかに設備投資は増加の方向を示し、設備投資の先行指標であるコア機械受注はその動きに先立って増加に転じるものと私は予想しています。

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2017年9月10日 (日)

日本気象協会による紅葉の見ごろ予想やいかに?

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やや旧聞に属する話題ですが、先週9月6日に日本気象協会から第1回の紅葉の見ごろ予想が明らかにされています。日本気象協会のサイトから引用した上の画像の通りであり、東京周辺は平年並みの11月下旬といったところでしょうか。
ここ数年、残暑が厳しくて、夏からすぐに冬になってしまい、秋がとても短い気がしていたんですが、今年に限っては、8月がまるで梅雨のように雨が多くて日照時間が少なかった一方で、9月に入るとともに残暑もなく秋らしい気候になった気がします。予報でも暑さがぶり返すことはないように聞き及んでいます。今年もクールビズのノーネクタイは9月いっぱいですし、秋の夜長を楽しんで読書する季節になりつつあるようです。

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2017年9月 9日 (土)

今週の読書は直木賞受賞の佐藤正午『月の満ち欠け』ほか計7冊!

今週もまたまたオーバーペースで、やや読み過ぎた気がします。話題の経済書もありますが、今週の読書の目玉は何といっても直木賞の佐藤正午『月の満ち欠け』です。私は村上春樹の好きなハルキストですが、最近の小説ではダントツだった気がします。以下の7冊です。

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まず、ルトガー・ブレグマン『隷属なき道』(文藝春秋) です。著者はオランダ人のジャーナリストであり、広告収入にまったく頼らない「デ・コレスポンデント」の創立メンバーの1人だそうです。2014年に出されたオランダ語の原書は自費出版に近かったらしいんですが、アマゾンの自費出版サービスで英語に訳されると、今年2017年には世界20か国での出版が決まったといいます。英語のタイトルは Utopia for Realist となっています。ということで、本書の邦訳の副題は『AIとの競争に勝つベーシックインカムと1日3時間労働』となっていますが、決してAIやロボットとの競争だけを視野にしているわけではなく、特に格差についてその解消を目指していると考えるべきです。英国の有名なスピーナムランド制をはじめとして、カナダやインドなどで実施され、社会実験レベルのものまで含めたベーシック・インカムの効果に関する文献をひも解き、ベーシック・インカムが決して勤労を阻害したり、怠惰を招いたり、といった事実は観察されず、むしろ、貧困や格差の是正に役立っている点を強調しつつ、その上で、産業革命期から1980年代まで一貫して減少を示した労働時間が上昇に転じ、しかし、そういった中でも労働生産性は上昇を続けている、という事実を説得力ある方法で示しています。また、ありきたりな国民総幸福量、ブータンの例を引きつつ、こういった幸福度指標については明確に否定しています。ケインズの週15時間労働の予言にも触れつつ、正統派の経済学に基づいた方法でベーシック・インカムの利点を展開し、同時に、本書の終盤では国境を開放して自由な個人の行き来を推奨しています。決して、グローバル化を格差の原因として排除する議論には与していません。これも、正統派の経済学に立脚した議論といえます。ラッダイト運動の歴史に言及しつつ、AIとの競争には勝てないことを明言し、その意味では「敗北主義」っぽく見えなくもないんですが、私から見ればリアリストなんだろうと思えます。マルクス・エンゲルスのような左派経済学者に加えて、ケインズなどの正統派エコノミスト、さらに、ハイエクやフリードマンなどの右派まで幅広く引用して、左右両派のどちらからも支持されているベーシック・インカムの利点を浮き彫りにしています。AIによる職の代替可能性からベーシック・インカムが議論されることが多いんですが、あくまで私の信頼厚い左派からする議論かもしれませんが、格差是正まで含めて幅広い議論に資する良書だと思います。

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次に、大湾秀雄『日本の人事を科学する』(日本経済新聞出版社) です。著者は東大社研教授であり、専門分野は労働経済学や人事制度などであると私は認識しています。私は景気循環や開発経済などの中でも、マクロ経済を専門分野とするエコノミストであり、労働経済学とか、人的資源管理論とかのマイクロな分野は専門外なんですが、本書でも紹介される初歩的なミンサー型の賃金関数は推計して研究成果として取りまとめたことがあります。ということで、タイトルから勝手に想像して、マイクロな人事制度、すなわち、人事評価やそれに基づく人事異動による個々の労働者・雇用者の配置、さらに、評価に基づく職階とそれに連動する賃金水準の決定に関する議論を期待していたんですが、私の期待は裏切られました。わずかに関連するテーマは第4章の人事採用、それに、中間管理職の貢献の計測に関する議論だけでした。まあ、そうなんでしょうね。今話題の女性活躍推進、働き方改革、高齢化対応などのほか、定着率の向上などの人的資源管理に関するトピックが中心で、その前提として統計的・計量的な分析手法に関する簡単な解説などがあります。本書冒頭では、人事についてはいわゆるPDCAが回っていないと断言されており、人事に集まるデータを統計的・計量的に分析することにより、人事の過大に対応しようと試みています。ただ、先月8月26日付けの読書感想文で取り上げた山口一男『働き方の男女不平等』についても同じことを書きましたが、個々人の能力や生産性、あるいは、家庭環境などもひっくるめて人事で評価し最適な人事配置を行うことは、現在のシステムでは不可能と私は考えています。だからこそ、役所ほど典型的ではないとしても、大手企業などでは入社年次で管理されて来たわけであり、別の言葉でいえば、横並びで人事管理され、特に、大卒総合職の場合はゼネラリストとして、会社や役所などの組織にメンバーシップ参加し、無限定に指定された役割をこなす、という人事制度がまかり通って来たわけです。しかし、他方で、本書の p.237 で指摘されている通り、ゾクセイ、ニーズキャリアなどが大きく多様化し、単純な相対比較が難しくなった現時点で、どのような人事評価制度の下で評価を下し、各個人の適性や能力や生産性やその他の属性に従って、職階を上らせたり、あるいは、下らせたり、また、どういった役割でどの職場に配置するか、の労働力の最適配置論を考え直すべき時期に来ている気がします。もちろん、マイクロな人的資源管理論から派生して、マクロの経済社会全体の生産性やその生産性に基づくマクロ経済の成長や、さらにさらに、で、人口問題の緩和・解消などまで視野に収めた議論は華々しくていいんですが、人的資源管理論の本来の役割である個々人の処遇のあり方をすっ飛ばして、いきなりマクロの議論をしても合成の誤謬を生じるだけのような気がします。従って、もう20年近くも前の邦訳出版ですが、ラジアー教授の『人事と組織の経済学』などと比べるとかなり見劣りします。もっとも、比較対象の相手のレベルが違い過ぎるかもしれません。ただ、人事部局に集まるデータをもっと活用した方がいい、という点については一般論としては大賛成なのですが、実際のデータ管理の運用は困難がつきまとうような気もします。すなわち、役所の人事部門などは「身内に甘い」との指摘を受けることがあったりするんですが、人事に関するデータや各種情報が人事部局には集まるわけで、それをどう使うかは考えどころです。「身内に甘い」といわれても従業員を守る姿勢を貫くのか、それとも、次は誰をリストラ対象としようか、という視点で活用するのか、人事としての情報活用の方向性も考えどころかもしれません。

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次に、ロバート H. フランク『成功する人は偶然を味方にする』(日本経済新聞出版社) です。著者は米国コーネル大学ジョンソンスクール経済学教授であり、長らくニューヨーク・タイムズ紙で経済コラムを執筆しています。本書の英語の原題は Success and Luck であり、2016年の出版です。私もそうですが、うまく行けば自分の努力や能力を要因として上げ、逆に失敗すれば運が悪かったとか、他人の責任にする、というとても立派な人格的な傾向がある人は少なくありません。現在および少し前の阪神の監督について私の評価が芳しくないのはそういったところで、試合後の感想で、打たれた投手について「あそこは抑えて欲しかった」とか、打てなかった打者に対して「あそこは打って欲しかった」とかいう監督は私は決して評価しません。逆に、選手起用に関する監督自身の責任をアッサリと認めると潔さなんぞを感じます。同様に、本書では成功したケースでもご本人の能力や努力だけではなく、運の要素がかなりあることを認めつつ、失敗したケースでも成功のケースとの差は紙一重であり、運の要素で失敗に終わるケースが少なくない、という点を明らかにしています。同時に、政府などの公的部門が個人の効用や企業の生産活動に対して補完的なインフラを提供している点も強調しており、例えば、スピードの出る高級車を買っても道路が凸凹ではスピードを出してのドライブができないわけで、これらの点を総合して、成功した高所得者から累進的にガッポリと税金を取るべきである、と主張しています。そして、エコノミストの目から見てとても特徴的なのは、累進消費税を提唱している点です。私は不勉強にして知りませんでしたが、第2次大戦中にフリードマン教授も戦費調達の観点からその導入を提唱していたらしく、現在の我が国の消費税のように財サービスの購入時に税抜き価格に上乗せして消費者が業者に支払って、そのために、益税が出来たりする制度ではなく、収入と支出と貯蓄のバランスから支出額を算定して、それに対して累進的に課税するというシステムのようです。いずれにせよ、成功と不成功の間の差は大きくなく、しかも、現在のような勝者総取り方式で、小さな努力の差に対して大きな格差が生じかねない経済社会では、何らかの格差是正策が求められるのは当然です。最後に、成功と不成功を分ける要因として能力や努力ではなく、本書のように運を強調し過ぎると、努力しようとする意欲を阻害する可能性がありますが、現在の日本のように努力し過ぎて過労死したりするような社会では、もっとゆったり構えるというか、私は少しくらい努力を推奨しない意見があってもいいような気もします。ダメですかね?

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次に、アナスタシア・マークス・デ・サルセド『戦争がつくった現代の食卓』(白揚社) です。作者は編集者であり、本書のために2年半を調査に費やしたフードライターでもあります。ご亭主がキューバ人、ということはラテン人であり、お姑さんも本書に登場し、私の大使館勤務時の南米生活に照らしても食生活は豊かではないか、という気がします。本書では、特に、ネイティック研究所なる米軍ご用達の軍人向けの糧食などの開発研究所をはじめ、米軍と通常の我々一般人の食卓の関係をひも解くんだろうと期待して借りてみたんですが、もっと食品学、化学や生物学などの食品に関する学問、日本でいえば女子大にあるような食物学科のような学術的な内容が中心となっています。少し脱線すると、我が国の明治期に軍と食料ということでいえば、彼の文豪森鴎外も軍医として横槍片手に参加した脚気論争があります。白米だけで十分なカロリーが摂取できる一方で、脚気は何らかの病原菌に起因すると主張する森鴎外などの陸軍一派に対して、海軍は麦飯や白米まで精製しない玄米などにより、実証的に脚気を回避した論争です。もちろん、米軍でもその昔には同じような事件があったのかもしれませんが、少なくとも本書では関係ありません。軍人に供する食品に関しては、シュンペーター的なイノベーションの観点からして、食材、調理、包装を含めた輸送、などなどのイノベーションが考えられ、一般人食卓に供される食品と共通する部分も少なくありません。例えば、食材については米国人大好きなステーキについては、Tボーン・ステーキのような骨付き肉ではなく、成形肉の利用が始まったり、調理は保存食として従来からの塩漬け、燻製、干物などに加えて、宇宙食にも応用されたフリーズ・ドライの製法が発達したり、包装についてはナポレオン戦争期に開発された缶詰に加えて、レトルト・パウチのような空気を通しにくい包装が開発されたり、輸送については、もちろん、冷蔵・冷凍での輸送が可能になったり、と軍民共通のイノベーションがさまざまに紹介されています。ただ、第12章のスーパーマーケットのツアーで紹介されているように、軍民で共通している食品は30~70%にも上る一方で、具体的にそれほど一般読者向けの楽しく理解できる例が多くありません。私は女子大に設置されている食物学科が理系だということを大学に入ってから知って、少なからぬショックを受けたんですが、そういった理系の人向けの本だという気もします。私は国際派の公務員ですから、売国出張はついつい首都のワシントンDCが多くなるんですが、倅たちへの土産にはスミソニアン博物館の宇宙食のアイスクリームを買う場合が多いです。軍ではありませんが、こういった新しい食品のイノベーションが一般家庭の食卓に並んだりするんでしょうから、そういった楽しい実例がもっと欲しかった気がして残念です。

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次に、ロブ・ダン『世界からバナナがなくなるまえに』(青土社) です。訳者あとがきのよれば、著者は米国ノースカロライナ州立大学の研究者であり、専門分野は進化生物学だそうです。英語の原題は Never out of Season であり、2017年今年の出版です。邦訳タイトル通り、プランテーション栽培されるバナナの話から始まって、ジャガイモ、キャッサバ、カカオ、というか、チョコレート、コムギ、天然ゴムなどなど、企業収益性の観点から植物や生物としての多様性を損なう形でのモノカルチャー化が進み、結果として、緑の革命などのように多くの人口のための食料生産には資することとなった一方で、病原菌やネズミなども含めた病害虫の侵食には弱くなり、極めて短期間のうちに緑の農場が茶褐色になってしまう被害をもたらす可能性が高まったリスクを指摘しています。繰り返しになりますが、緑の革命により、スーパーマーケットで消費者の食料の入手は容易になった一方で、殺虫剤や除草剤などの化合物に対する依存が強まったり、灌漑の必要が高まったりしたため、農村は収穫が増加して収益が増大した一方で、種子や農業機械や肥料などの化学品を購入する必要が高まり、同時に、支出も増加するという経済モデルに組み込まれる結果となった、と著者は指摘します。まあ、私のようなエコノミストからすれば、経済学が農学を支配するようになってめでたい、と考えられなくもありませんが、他方で、完全に人為的な世界である経済と自然との共存の思想が不可欠な農学との乖離に目をつぶらねばならない必要も生じたわけです。どちらが好ましいかは基本的な世界観、人生観、哲学によります。先の『戦争がつくった現代の食卓』にもありましたが、食品工業が生み出した加工食品にもそれなりの合理性はありますし、すべての食料生産を近代資本主義的に短期的な効率性だけを優先させて行うことは問題があるとしても、農業を自然のままにして餓死する貧困層を放置するのには忍びません。ということで、人類のそのコンポーネントのひとつであるところの多様な生態系の維持と、人類そのものの生存や種の維持と、両者が矛盾なき場合は問題ないものの、両者が両立しない場合には悩ましい問題が生じる可能性があります。そういった意味で、世界観や人生観などの哲学的な見方も含めて、考えさせられる本でした。

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次に、佐藤正午『月の満ち欠け』(岩波書店) です。ご存じ、第157回直木賞受賞の話題作です。タイトル通り、生まれ変わり、あるいは、輪廻転生の物語ですが、そのバックボーンは明らかに熱烈なる恋愛小説です。ということで、私はこの60歳超のキャリアの長い人気作家の作品については、『鳩の撃退法』くらいしか読んでいないんですが、おそらく、この『月の満ち欠け』クラスの小説は日本文壇ではそうそう出ないような気もします。それほどの大傑作といえます。私の場合、読書の中でも小説の比重はそれほど大きくなく、経済書をはじめとする教養書や専門書の方が大きな比率を占め、さらに、小説の中でも好みで時代小説やミステリが多いものですから、純文学やこういった現代ものの大衆小説はそれほど読みませんが、完全にノックアウトされました。論評の前に、まず、私は自然の摂理のひとつとして、輪廻転生や生まれ変わりはあり得る可能性を否定しません。すべての生き物が生まれ変わって輪廻転生する、なんてことを主張するつもりは毛頭ありませんが、この小説にあるような動機も含めて、何らかの強烈な思いがあれば、生まれ変わりになって生命をつなぐこともあり得ますし、生命をつなげなければ幽霊になることもあり得る、とその可能性を全否定することはしません。まあ、レアケースなんだろうとは思います。他方で、私自身はそれほど強烈な思いを持っているわけではないので、生まれ変わりや輪廻転生をしないとは思いますが、さらに積極的にこれらを否定するために、浄土真宗の信者となって念仏を唱えるわけです。なお、一般的な用語ながら、輪廻転生から抜け出すことを解脱と定義しているのは広く知られた通りです。宗教から小説に戻ると、この作品と似た小説に東野圭吾の出世作である『秘密』があります。広末涼子主演で映画化もされました。これも、特定の人物の記憶をはじめとする人格が親しい他の人物に転移する、というストーリーです。しかし、『秘密』の場合は転移された方がその思いを振り払って自立して行くのに対して、この『月の満ち欠け』は何と4代に渡って思いを遂げるために生まれ変わりを繰り返します。というか、初代を別にすれば、生まれ変わりとしてこの世に現れるのは3代と数えることも出来ます。そして、原則として、同じ名前を引き継ぎ、とうとう東京ステーションホテルに現れなかった三角くんを思い続け、ラストにはその思いを成就するわけです。加えて、生まれ変わりはこの流れだけではなく、もう1人いることが強く示唆されます。ハッキリいって、これが衝撃のラストです。また、人間でない生まれ変わりの可能性も示唆されています。映画化されたら、私はぜひとも見たいと思います。

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最後に、NHKスペシャル取材班『縮小ニッポンの衝撃』(講談社現代新書) です。昨年2016年9月25日に放送された同名のNHKスペシャルの取材結果です。タイトルからして、いかにも人口減少の問題点に着目しているように思ったんですが、どうも、原因が人口減少とは言い切れず、ハッキリしない現状の問題点もひっくるめて、地方の衰退全般を取り上げているように感じられ、やや焦点がボケているように受け止めました。日本創成会議が取りまとめて中公新書で出版された消滅可能性都市の中に東京23区で唯一登場した豊島区への取材から始まって、財政再生団体に指定された北海道の夕張市、夕張市がやや極端な例であるとして、一部の地方公共団体にて行政サービスの提供が放棄された例として、島根県雲南市、浜田市、京都府京丹後市などの取材の結果が明らかにされ、こういった行政サービスの提供停止は、決して一部の例外的な地方だけの問題ではなく、タイムスパンの長さは別にして、日本全体の問題に拡大しかねない、とのトーンで取りまとめています。注目の本であり、図書館の予約からかなり待たされましたが、どうも私には気になる点があります。繰り返しになりますが、人口減少だけでなく、あらゆる社会的な日本の問題点を、かなり恣意的な取材により極端な例を持ち出して誇張しているような気がしてなりません。京都出身で、長らく東京で公務員をしてきた私ですので、かなりバイアスのかかった見方しかできませんが、それでも、人口問題も含めて社会的に、あるいは、経済的には市場にて、政策の必要なく解決できる問題も少なくありません。おそらく、人口減少問題も政策の手当なしで反転する可能性が十分あると私は考えますが、問題は時間的な余裕です。人口減少が反転するにはとてつもなく長期を要し、その期間をもっと短縮するために有効な政策がある、という点については私も合意します。本書のタイトルの問題意識では人口を増加させれば解決できるような、誤った印象を持たされかねませんが、人口だけでなく、もっと根源的な問題があることを明らかにすべきではなかろうかという気がします。

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2017年9月 8日 (金)

下方修正された4-6月期2次QEをどう見るか?

本日、内閣府から4~6月期のGDP統計2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.6%、年率では+2.5%を記録しました。1次QEから設備投資を中心に下方修正されたものの、潜在成長率をかなり超えて、消費などの内需が牽引する高成長といえます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP年率2.5%増に下方修正 4~6月改定値、設備投資下振れ
内閣府が8日発表した2017年4~6月期の国内総生産(GDP)改定値の伸び率は物価変動を除いた実質で前期比0.6%増、年率換算では2.5%増と、速報値(前期比1.0%増、年率4.0%増)から下方修正した。設備投資が大幅に下振れた。内閣府の詳細な計算によると、年率でみると速報値から1.4ポイントの下方修正で、現行の統計算出方法になった2010年4~6月期以降では最大の下げ幅となった。QUICKが4日時点でまとめた民間予測の中央値(前期比0.7%増、年率2.9%増)を下回った。
設備投資が前期比0.5%増と、速報値の2.4%増から大幅に下方修正されたのが響いた。改定の参照統計となる1日発表の法人企業統計で、自動車を中心とする輸送機械や電機など製造業で投資が一巡していた影響が出た。内閣府は4~6月期の設備投資の下振れを「一時的」(経済社会総合研究所)とみている。企業の設備投資計画が高水準なためで「計画通り進めば7~9月期以降は堅調な投資が続く」と説明している。
民間在庫の寄与度はマイナス0.0%と、速報値のプラス0.0から下方修正した。設備投資と民間在庫の低下で、実質成長率への内需寄与度はプラス0.9ポイントと、速報値の1.3ポイントから鈍化した。
このほかの内需項目では個人消費が前期比0.8%増(速報値は0.9%増)、住宅投資は1.3%増(同1.5%増)などが下方修正された。一方で公共投資が6.0%増(同5.1%増)となるなど、公的需要は速報値を上回った。
輸出は前期比0.5%減と速報値と同じで、輸出から輸入を差し引いた外需の実質GDP改定値への寄与度はマイナス0.3ポイントと速報値と同じだった。
生活実感に近い名目GDPは前期比0.7%増(速報値は1.1%増)、年率で3.0%増(4.6%増)だった。総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期比マイナス0.4%だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2016/4-62016/7-92016/10-122017/1-32017/4-6
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.5+0.2+0.4+0.3+1.0+0.6
民間消費+0.1+0.4+0.1+0.4+0.9+0.8
民間住宅+3.2+2.8+0.2+1.0+1.5+1.3
民間設備+1.4▲0.3+2.0+0.5+2.4+0.5
民間在庫 *(+0.4)(▲0.5)(▲0.2)(▲0.1)(+0.0)(▲0.0)
公的需要▲1.2▲0.0▲0.4+0.0+1.3+1.5
内需寄与度 *(+0.4)(▲0.2)(+0.1)(+0.2)(+1.3)(+0.9)
外需寄与度 *(+0.1)(+0.4)(+0.3)(+0.1)(▲0.3)(▲0.3)
輸出▲0.9+2.1+3.1+1.9▲0.5▲0.5
輸入▲1.2▲0.2+1.4+1.3+1.4+1.4
国内総所得 (GDI)+0.5+0.0+0.2▲0.1+1.1+0.7
国民総所得 (GNI)+0.2▲0.1+0.1+0.1+1.1+0.8
名目GDP+0.2▲0.0+0.5▲0.1+1.1+0.7
雇用者報酬▲0.1+0.8▲0.3+0.4+0.7+0.8
GDPデフレータ+0.4▲0.1▲0.1▲0.8▲0.4▲0.4
内需デフレータ▲0.7▲0.8▲0.3+0.0+0.4+0.3

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された4~6月期の最新データでは、前期比成長率が6四半期連続でプラスを示し、黒い外需(純輸出)がマイナスであるものの、黄色い公的需要と主要な内需項目である赤い消費がプラスの寄与を示しているのが見て取れます。

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まず、報道のトーンは1次QEから2次QEにかけて下方修正された点を強調しているように見受けられますが、ホントは潜在成長率を超えてかなりの高成長であり、しかも、消費を中心とする内需が牽引する景気回復である上に、6四半期連続と安定したプラス成長を続け、先行きも世界経済の回復・拡大の順風を受けて、我が国経済を取り巻く環境はかなり明るい、と考えるべきです。ほとんど、以上で論評は終わりなんですが、先行きについて少し考えると、まず、消費については4~6月期ほどのプラスは望めないかもしれませんが、耐久消費財の買い替えサイクルがエコカー減税や家電エコポイント、さらに、消費増税前の駆込み需要などの攪乱から正常化して来ており、先行きも伸び率が鈍化するものの、着実な回復が見込まれます。設備投資は1次QEから大幅に下方修正されましたが、それでも前期比でプラスを記録しており、現在の人手不足や企業収益を考え合わせると、今後とも、緩やかながら増加を期待できると私は考えています。そして、在庫は1次QEの+0.0%の寄与度から、2次QEでは▲0.0%の寄与度に下方修正されて成長率の足を引っ張りましたが、逆に、在庫調整が進展して先行きの息の長い成長をもたらす可能性が高まったと見られます。外需についても、世界敬愛が回復・拡大を示す中で、4~6月期には前期比でマイナスとなった輸出も7~9月期には増加に転じると予想しています。3日前の9月5日に2次QE予想として示したテーブル第一生命経済研の見方にかなり近いと考えています。
ただし、私が考える先行きのリスクは2点あり、ひとつは賃金動向です。耐久消費財の買い替えサイクルが到来しても、基礎となる所得が伸びなければ消費の増加は実現しません。現状では、人手不足といわれつつも、賃金が上昇するに至っていません。雇用者数が増加して、しかも、正規職員へのシフトも見られますので、1人当たり賃金に雇用者数を乗じたマクロの所得は増加しつつありますが、この先、家計ベースのマイクロな賃金上昇が伴わなければ、消費は一層の拡大につながらないおそれもなしとはしません。もうひとつの先行きリスクは海外政策動向です。フランス大統領選挙の結果やドイツ総選挙の予想などから、クローズな政策を志向するポピュリスト政党のさらなる進出は後景に退いた気がしますが、米国のトランプ大統領は健在であり、特に通商政策動向は不透明です。加えて、米国では金融政策で金利引上げが志向されており、先行き、新興国や途上国を含めて金融上の何らかの問題を生ずる国が出る可能性もあります。そのあたりは、現時点では何ともいえません。

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4~6月期GDP統計2次QEから目を別の指標に転じると、本日、内閣府から8月の景気ウォッチャーが、また、財務省から7月の経常収支が、それぞれ公表されています。いつものグラフは上の通りです。グラフだけで簡単に済ませておきます。悪しからず。

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2017年9月 7日 (木)

すべてのコンポーネントがマイナスとなった景気動向指数の先行きをどう見るか?

本日、内閣府から7月の景気動向指数が公表されています。景気動向指数のうち、CI先行指数は前月比▲0.7ポイント下降して105.0を、CI一致指数も▲1.2ポイント下降して115.6を、それぞれ記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7月の景気一致指数、1.2ポイント低下 半導体関連など反動減
内閣府が7日発表した7月の景気動向指数(CI、2010年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比1.2ポイント低い115.6と2カ月ぶりに低下した。半導体製造装置や自動車の出荷が鈍化したのが響いた。ただ指数を押し下げた要因のうち自動車は8月に販売が持ち直しており、指数が一方的に弱含む可能性は「それほど高くない」(内閣府の経済社会総合研究所)という。一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断は最も強気の「改善を示している」に10カ月連続で据え置いた。
7月は投資財出荷指数(輸送機械を除く)が0.49ポイント、耐久消費財出荷指数が0.32ポイント、それぞれ低下した。鉱工業用生産財出荷指数や生産指数(鉱工業)、商業販売額(卸売業)など、速報段階で算出できる7指標すべてが押し下げ要因となった。全ての指標がマイナスとなるのは、現行の算出基準で遡ると2011年3月以来、6年4カ月ぶり。内閣府は「生産や出荷の指数が近年でみて高くとどまっており、半導体製造装置などで反動減が出た」と説明している。
数カ月先の景気を示す先行指数は0.7ポイント低下の105.0と、3カ月ぶりに低下した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、CI一致指数を構成するコンポーネントのうち、トレンド成分ではない7指標がすべてマイナスを示しています。マイナス寄与の大きい順に、投資財出荷指数(除輸送機械)、耐久消費財出荷指数、鉱工業用生産財出荷指数、生産指数(鉱工業)、商業販売額(卸売業)(前年同月比)、商業販売額(小売業)(前年同月比)、有効求人倍率(除学卒)となっています。特に、投資財出荷のマイナスが大きくなっています。ただ、これも引用した記事にもあるように、8月には我が国のリーディング・インダストリーである自動車販売がすでに持ち直していますので、CI先行指数が下降しているとはいえ、このまま景気動向指数が下降を続けるとは私も想定していません。従って、基調判断は「改善」で据え置かれており、判断根拠としては、3か月後方移動平均は▲0.36ポイント下降しているものの、振幅の目安となる標準偏差の1.04には遠く及びませんし、7か月後方移動平均はむしろ+0.16ポイントの上昇を示しており、12か月連続の上昇となっています。
なお、CI先行指数のマイナス寄与は、鉱工業用生産財在庫率指数、新設住宅着工床面積、新規求人数(除学卒)などで大きくなっています。いずれにせよ、CI一致指数は鉱工業生産指数(IIP)との連動性が高く、7月減産の後、過大推計のバイアスがあるとはいえ、製造工業生産予測調査で8月は前月比+6.0%の上昇を示していますので、来月の景気指数ではCI一致指数はプラスを記録するんではないかと私は楽観しています。

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2017年9月 6日 (水)

広島に連敗して今シーズンは完全に終戦!

 十一 RHE
阪  神01000011000 382
広  島00000003001x 4100
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新戦力の広島に連敗して今シーズンは終戦でした。ここに来て、阪神恒例の9月の大失速が出てはひとたまりもありません。残された目標は、クライマックス・シリーズに勝ち残れるように、ムリなく勝ちを拾いに行くことと、鳥谷選手の2000本安打だけのような気もします。

消化試合はムリすることなく、
がんばれタイガース!

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毎月勤労統計に見る賃金の減少は何を意味するのか?

本日、厚生労働省から7月の毎月勤労統計が公表されています。景気動向に敏感な製造業の所定外労働時間指数は季節調整済みの系列で前月から▲1.0%減を示し、また、現金給与指数のうちのきまって支給する給与は季節調整していない原系列の前年同月比で+0.5%増となった一方で、ボーナスなどの特別に支払われた給与が大きく減少したため、現金給与総額のは▲0.3%減を記録しています。さらに、消費者物価が上昇を示していますので、現金給与総額を消費者物価でデフレートした実質賃金は前年同月比で▲0.8%の大きなマイナスとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

名目賃金、7月0.3%減 1年2カ月ぶりマイナス
ボーナス減響く

厚生労働省が6日発表した7月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、労働者1人あたりの名目賃金にあたる現金給与総額は37万1808円と前年同月比0.3%減少した。前年同月を下回るのは1年2カ月ぶり。夏のボーナスが減ったことが要因だ。物価上昇分を差し引いた実質賃金は0.8%減少した。
名目の給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は前年同月比0.5%増の24万2487円と4カ月連続で増加。一方、ボーナスなどにあたる「特別に支払われた給与」は2.2%減の11万156円だった。夏のボーナスが飲食サービス業で前年同月比23.0%減と大幅に減少し、賃金全体を押し下げた。
実質賃金の減少は2カ月連続。減少幅は15年6月以来2年1カ月ぶりの大きさだ。消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が0.6%上昇したことで、実質賃金を名目賃金よりさらに押し下げた。
厚労省は「基本給は上昇傾向が続いており、給与総額の減少は一時的ではないか」との見方を示した。また速報段階ではボーナス分を集計できていない事業所もあり、確報値で変動する可能性がある。

やや賃金に関して集中的に報じている印象がありますが、まずまずよく取りまとめられている気がします。続いて、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額ときまって支給する給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、3番目のパネルはこれらの季節調整済み指数をそのまま、そして、1番下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。

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上のグラフに沿って見ていくと、まず、景気と連動性の高い製造業の残業時間については、鉱工業生産指数(IIP)とほぼ連動して7月は減少に転じています。次に、報道でも注目を集めた賃金ですが、前年同月比で見て、現金給与総額で▲0.3%減、内訳をもう少し詳しく見ると、所定内給与は+0.5%増、所定外給与は+0.1%増、所定内給与と所定外給与を合わせたきまって支給する給与は+0.5%増ながら、ボーナスなどの特別に支払われた給与が▲2.2%減となっていて、全体をマイナスにしています。消費への影響が大きく、経済学的にいわゆる恒常所得と呼ばれる部分の賃金は名目で増加しているんですが、ボーナスなどの臨時的な賃金部分が減少しているわけです。ですから、各家計にとって名目値では賃金や所得は増加の印象があると考えられますが、デフレ脱却に向けて消費者物価が上昇を始めていますので、物価上昇でデフレートした賃金はマイナスを示したままであることも確かです。ただ、上のグラフのうちの最後のパネルに見られる通り、パートタイム労働者の伸び率がかなり鈍化して、各企業はフルタイム雇用者の増加を目指し始めているように見えます。ですから、労働者がパートタイムからフルタイムにシフトすることにより、マイクロな賃金を集計したマクロの所得については、決してマイクロな労働者ごとに観察されるほどは悪化していない、と私は受け止めています。もちろん、9月1日に公表された法人企業統計に見る通り、企業が収益力を高める一方で労働分配率は低下を続けていますから、上のグラフの3番目のパネルに見られる通り、季節調整済みの系列で賃金を見ても、なかなかリーマン・ショック前の水準に戻りそうにありません。ただ、先行きに関しては、人手不足の進行とともにサービス業などで賃金上昇につながる可能性も大きくなっており、消費を牽引する所得の増加に期待が持てると私は考えています。

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2017年9月 5日 (火)

今週金曜日9月8日公表予定の2次QE予想やいかに?

先週金曜日の9月1日に公表された法人企業統計まで、ほぼ必要な統計が出そろい、今週金曜日の9月8日に4~6月期GDP速報2次QEが内閣府より公表される予定ですが、すでに、シンクタンクや金融機関などから2次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の4~6月期以降の景気動向を重視して拾おうとしています。明示的に取り上げているシンクタンクは、みずほ総研と第一生命経済研だけでしたし、かすったのも伊藤忠経済研だけでしたので、最初の2機関についてはやや長めにヘッドラインを引用しています。何分、2次QEですので法人企業統計のついでの扱いだったり、そうでなくてもアッサリしたリポートも少なくありません。いずれにせよ、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+1.0%
(+4.0%)
n.a.
日本総研+0.8%
(+3.3%)
4~6月期の実質GDP(2次QE)は、公共投資が小幅上方修正される一方、設備投資、在庫変動が下方修正となる見込み。その結果、成長率は前期比年率+3.3%(前期比+0.8%)と1次QE(前期比年率+4.0%、前期比+1.0%)から下方修正される見込み。
大和総研+0.7%
(+2.7%)
基礎統計の直近値の反映により公共投資が下方修正となるほか、需要側統計の法人企業統計の結果を受けて設備投資が下方修正される見込みだ。
みずほ総研+0.6%
(+2.6%)
7~9月期以降の日本経済について展望すると、海外経済の回復が、引き続き内外需の押し上げにつながるだろう。4~6月期の輸出はITセクターの減速などから減少したものの、7~9月期になると輸出は再び回復軌道に復するとみている。データセンターや車載向けの需要の堅調さに加えて、年後半に控えるiPhone8の発売がIT関連輸出の下支えとなるだろう。設備投資については、五輪関係や都市再開発関連の案件が進捗すること、人手不足の深刻化を背景に省力化・効率化投資の積み増しが見込まれることも、押し上げ要因になるとみられる。個人消費については、耐久消費財が持ち直していること、雇用情勢の改善や株価の堅調な推移などを背景に消費者マインドが回復していることがプラスに働くだろう。
ニッセイ基礎研+0.6%
(+2.4%)
実質GDPが前期比0.6%(前期比年率2.4%)となり、1次速報の前期比1.0%(前期比年率4.0%)から大幅に下方修正されると予測する。
第一生命経済研+0.7%
(+2.9%)
GDP成長率は明確な下方修正が見込まれるとはいえ、それでも年率+3%近い伸びであり、かなりの高成長であることは変わらない。また、設備投資も大幅下方修正ではあるものの、前期比でプラスは確保できそうだ。景気は好調に推移しているという評価を変える必要はないだろう。内容をみても、これまで景気を主導してきた外需がマイナス寄与になる一方で、個人消費を中心にした内需が牽引する形での高成長が実現しているという構図に変化はないものとみられる。
先行きについても、世界経済の回復を背景に輸出の増加傾向が続くことに加え、企業収益の増加を受けて設備投資も増加が期待できる。個人消費も基調としては緩やかな持ち直しが見込めるだろう。景気を取り巻く環境は良好であり、先行きも景気は着実な改善を続ける可能性が高い。
伊藤忠経済研+0.7%
(+2.7%)
2017年4~6月期の実質GDP成長率は前期比+0.7%(年率+2.7%)へ大きく下方修正されると予想。設備投資が大幅に、個人消費も若干下方修正される見込み。それでも国内民間需要主導の景気拡大という姿は変わらないが、持続性を確保するためには人件費の上昇加速が必要。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所+0.8%
(+3.1%)
実質GDP成長率が1次速報の前期比年率4.0%から同3.1%に下方修正されると予想する。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.8%
(+3.2%)
2017年4~6月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+0.8%(年率換算+3.2%)と1次速報値の同+1.0%(同+4.0%)から下方修正される見込みである。
三菱総研+0.5%
(+2.0%)
2017年4-6月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.5%(年率+2.0%)と、1次速報値(同+1.0%(年率+4.0%))から下方修正を予測する。

ということで、取り上げたすべての機関が1次QEでは1次QEから下方修正されると予想しています。大雑把に+3%前後の成長率であり、前期比年率で見て、取り上げた機関のレンジでは最低でも三菱総研の+2.0%であり、+3%を超える予想を示す機関も少なくありません。ですから、少なくとも、我が国の潜在成長率は十分に超えた高成長といえます。しかも、上のテーブルにはサマリーしか示していませんが、輸出主導ではなく、消費を中心とする内需が牽引する成長といえます。設備投資も1次QEから大きく伸び率が下方修正されそうですが、前期比でプラスが予想されています。ですから、典型的には、第一生命経済研の評価が私はもっとも当たっていると思います。先行きについても、消費が4-6月期ほどの伸びを続けるとは思えませんが、世界経済の回復・拡大とともに輸出が増加を続けるでしょうし、さすがにそろそろ人手不足や企業収益を背景に設備投資も増加の勢いを増すんではないかと期待していますから、我が国の景気を取り巻く環境は改善を示していると考えるべきです。
最後に、下のグラフはみずほ総研のリポートから引用しています。

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2017年9月 4日 (月)

インテージによる「全国ふるさと名物5000産品 1万人の知名度調査」の結果やいかに?

8月も終わって夏休みの季節も過ぎ、我が家には大学受験生がいるので、特に夏休みで出かけることもありませんでしたが、オフィスではいくつか郷土土産が楽しめたりしました。ということで、やや旧聞に属する話題ながら、インテージから8月9日付けで「全国ふるさと名物5000産品 1万人の知名度調査」の結果が明らかにされています。下のテーブルの通りです。

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テーブルを見れば明らかなんですが、全国知名度ランキングは、1位が「白い恋人」、2位「生八ツ橋」、3位「ちんすこう」となっており、4位「八ツ橋」を含めて3年連続で同じ順位であり、圧倒的に認知されているようです。私が大学に出向した長崎のカステラなんぞも全国的に知名度が高そうな気がするんですが、トップテンには入っていません。なお、やや変わったことろで、地元の県内における知名度と全国知名度のギャップに関しても調査が実施されており、秋田県「金萬」が2年連続でもっともギャップが大きいという結果になっています。県内知名度91.0%に対して、全国8.1%ですから、知名度ギャップが82.9%ポイントに達しています。それから、2位は福井県「越のルビー」でギャップは81.9%ポイント、3位の徳島県「金長まんじゅう」も81.3%ポイントのギャップがあり、80%ポイントのギャップがあるのはこの3産品だけだったりします。京都出身の私もこの3つは知りませんでした。そのほか、男性の間ではお酒の知名度が高く、女性ではスイーツの知名度が高い、との、いかにもありそうな結果なども示されています。

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2017年9月 3日 (日)

新加入のメンドーサ投手の続投が裏目で中日に負け!

  RHE
中  日000200200 491
阪  神000011000 271

新戦力のメンドーサ投手を続投させ中日打線につかまり敗戦でした。これだけリリーフ陣が豊富なんですから、ちょっと、引っ張り過ぎという気もしました。広島がヤクルトに負けるとは思えませんし、横浜は巨人を下していましたし、何としても勝っておかねばならない試合だったんですが、継投ミス、というか、継投をしないミスで死に体の中日に負けてしまいました。打線も新4番の大山選手がノーヒットに終わっての2得点は大いに物足りませんでした。

広島戦は3連勝目指して、
がんばれタイガース!

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先週の読書はかなりオーバーペースで経済書など計8冊!

先週の読書は、米国雇用統計が土曜日に割って入って、読書日で1日多かった一方で、ケインズものが冒頭に2冊並んでいますが、やっぱりマクロ経済学や開発経済学などの専門かつ好きな分野の読書が多かったものですから、かなりオーバーペースで8冊に達しました。以下の通りです。今週はもう少しペースダウンしたいと思っています。でも、直木賞の佐藤正午『月の満ち欠け』とか、昨日付けの日経新聞の書評欄で取り上げられていた東大社研の大湾教授の『日本の人事を科学する』なんぞが借りられたりしたもんですから、やっぱり、かなりのボリュームを読んでしまうかもしれません。

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次に、大瀧雅之・加藤晋[編]『ケインズとその時代を読む』(東京学出版会) です。著者はチャプターごとに大量にいたりするんですが、大雑把に、東大社研と日本政策投資銀行設備投資研究所とのコラボとなっているように受け止めています。例えば、政策投資銀行のサイトでは本書が研究成果として取り上げられていたりします。4部構成を取っており、第Ⅰ部 第一次世界大戦の帰結と全体主義勃興の危機 では、J.M.ケインズ『平和の経済的帰結』、J.M.ケインズ『条約の改正』とケインズ自身の2冊の後、E.H.カー『危機の二十年』とF.A.ハイエク『隷従への道』が取り上げられています。ハイエクの著作については、ケインズと比較対照される形で注目される場合もあるんですが、本書では西欧リベラルの同じグループの中に属し、やや左派と右派の違いだけ、といったトーンで並べられています。ただ、ケインズに着目した本ですので、ハイエクが後景に退いている印象はあります。当然です。第Ⅱ部 理論の展開 では、T.B.ヴェブレン『企業の理論』、A.C.ピグー『厚生経済学』、L.ロビンズ『経済学の本質と意義』がケインズ『一般理論』前史として、そして、J.M.ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』から始まって、R.F.カーン『ケインズ「一般理論」の形成過程』、A.P.ラーナー『調整の経済学』、J.E.ミード『理性的急進主義者の経済政策』が『一般理論』と並んで紹介されています。『一般理論』前史のピグーについては、古典派経済学から脱して、何らかの経済的厚生を高めるための政府の介入に道を開いた、と評価されています。続く第Ⅲ部 1930年代の世界と日本 では世界的なファシズムの台頭と日本に着目し、J.M.ケインズ『世界恐慌と英米における諸政策1931~39年の諸活動』、高橋亀吉・森垣淑『昭和金融恐慌史』、石橋湛山『石橋湛山評論集』が取り上げられており、どうでもいいことながら、現在のリフレ派エコノミストの先達となった昭和初期の我が国エコノミストを取り上げながら、現在のリフレ派経済学を否定して、財政赤字削減をサラッと主張しているチャプターの著者もいて、少し笑ってしまいました。最後の第Ⅳ部 ケインズの同時代人 では、J.M.ケインズ『人物評伝』、フランク・ラムジーのいくつかの論文と著書、E.H.カーのソ連史研究が取り上げられています。ご本人のケインズを別にすれば、複数のチャプターで取り上げられているのはカーだけなんですが、リアリストの立場から国際政治における権力=パワーを軍事力、経済力、合意形成力の3要素から論じており、私のようなシロートにもなかなか参考になります。また、ソ連型の経済が崩壊した現時点からでは理解が進まないものの、中央集権的な指令型の計画経済という面ではなく、男女間を含めて平等の実現、自由と民主主義の新しい形、などなど、本来のマルクス主義的な社会主義の明るい未来に憧れていた20世紀前半期の西欧の雰囲気がよく伝わります。各チャプターの最後に参考文献が数冊明示されています。唯一疑問なのは、シュンペーターがまったく取り上げられていない点です。ハイエクも含めて、いわゆるブルームズベリー・グループやケンブリッジ・サーカス以外のエコノミスト・文化人も取り上げているんですが、なぜか、シュンペーターだけは無視されている印象です。ケインズと立派な同時代人だと思うんですが、理由はよく判りません。

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次に、根井雅弘『ケインズを読み直す』(白水社) です。著者は私の母校である京都大学経済学部の研究者であり、入門書をはじめとして何冊かの著作があると記憶しています。私の在学中は木崎先生が教えていた経済学史の担当ではないかと思います。ご出身大学が早大ですので、若田部先生と同じコースかもしれません。ということで、タイトル通りに、ケインズの足跡をたどったケインズ経済学の入門書です。通常の理解の通りに、ケインズ卿については卓越した経済理論家であるとともに、同時に政治的なアジテータでもあり、また、国内外を問わずに国際金融などの制度論に立脚した実務にも精通していた、ということになります。ケインズ卿については最初に取り上げられるべき『平和の経済的帰結』が第1次世界大戦後のドイツ賠償問題ですから、ケンブリッジ大学卒業後のキャリアはインド省で始めたとしても、エコノミストとしての活動は割合と地味なドイツ経済の分析から賠償能力を積み上げ、それを英国内外にパンフレットとして明らかにする、という活動でした。同時に、金本位制への復帰に際しての平価の設定、さらに、その後、第2次世界大戦では英国の戦費調達のために米国を説き伏せたり、戦後は現在IMFと世銀で結実した国際金融体制の整備に努力しましたが、実際には英国のケインズ案は、ことごとく米国のホワイト案に凌駕されつつも、重要な骨格はいくつか残した、という結論ではないでしょうか。その後、実際にケインズ経済学が実践され花開いたのはケインズの死後であり、国としても1960年代のケネディ政権以降の米国なんですが、この実務的なケインズ革命について本書では終章で「『未完』に終わった」と結論しています。すなわち、1970年代に入ってのインフレ高進からケインズ経済学への不審が高まり、特に、決定的だったのは、ノーベル経済学賞も受賞したシカゴ大学のルーカス教授によるケインズ反革命であり、貨幣数量説の装いを新たにしたマネタリズムなどとともに、先進国の経済政策のシーンからケインズ経済学をかなりの程度に駆逐した、との印象かもしれません。しかし、私の印象ながら、今はもう死語となった「混合経済」、すなわち、古典派的な自由放任経済を終えて、経済政策が積極的に雇用の拡大、完全雇用を目指す体制を整え、戦後の社会福祉を重視して国民の経済厚生を政府が積極的に支援するような経済政策運営に舵を切ったのは、何といってもケインズ経済学の功績です。ケインズ卿の意図したような政策運営にはならず、右派的・古典派的な経済学の巻き返しに何度も遭遇したという意味では、確かに、ケインズ革命は未完かもしれませんが、私のような官庁エコノミストの目から見て、政府が何とか経済成長を加速し雇用を増大させるという方向で国民の経済的厚生の向上に努めるようになったのはケインズ経済学を基礎とする政策論の功績であると考えます。

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次に、森田朗[監修]/国立社会保障・人口問題研究所[編]『日本の人口動向とこれからの社会』(東京大学出版会) です。著者人はまさに国立社会保障・人口問題研究所の研究者で固めていて、専門家がズラリと並んでいます。出版社から判断しても、学術書と考えるべきですが、最後の方の第12章のシミュレーションなどの方法論のごく一部を除いて、人口問題ですから少子高齢化以外の何物でもなく、それなりに理解ははかどりやすいんではないかと思います。ただし、研究所の攻勢からして、社会保障や財政との関係をホンの少しだけチラリと論じているほかは、ほぼほぼ人口問題をそれ単独でユニラテラルに論じていますので、逆に判りにくい気もします。フランスのアナール派やジャレド・ダイアモンド教授のように病原菌と論じてみたり、あるいは、地理学と関連付けたりといった工夫は見られません。ひたすら過去のトレンドから投影された未来を垣間見ようと努力している様子がうかがえます。経済はかなりの程度に循環するんですが、人口動態はかなりの程度にトレンドに沿って動きます。もっとも、第Ⅱ部のライフコースの議論では、ヒトの個体たる人口だけでなく、社会的な構成要素のもっとも小さい単位である家族のあり方、さらに、人口高齢化に従って高齢者に有利な政策選択が行われがちなバイアス、などなどについても取り上げていますし、第Ⅲ部では日本に限らずシンガポールや韓国、台湾などのアジア諸国における猛烈な高齢化の進展についても解き明かそうと試みています。まあ、私の個人的な感想では、マルサス的な人口問題は人口と農地や耕地の比率が人口を養う上でやや厳しいアジアにこそ当てはまる可能性が高いんではないか、という気がしますし、従って、中国の一人っ子政策をはじめとして、シンガポールなどでも厳しい人口抑制作を採用していた歴史があるのも理解できるところです。日本もそうかもしれません。そういったアジアからの移民が欧米で黄禍論を引き起こしたりしたわけなのかもしれません。ただ、日本の場合はマクロとしての人口の総数ではなく、子供や若年者に厳しく、高齢者に甘い政策を意図的に取り続けてきましたので、中国やシンガポールなどとともに、明らかに政策的に人口の高齢化、さらに、人口減少がもたらされている点は見逃すべきではありません。せも、そういった議論を国立の研究所が展開するのも難しい、という点についても、公務員として理解していたりします。最後に、私も大学教員として出向中に書いた紀要論文「子ども手当に関するノート: 世代間格差是正の視点から」でも引用した Lutz et. al. (2006) による Low-Fertility Trap Hypothesis に関する論文が複数のチャプターで引用されていました。私は紀要論文で p.175 の Chart 1 を引用した記憶があります。

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次に、マイケル・ルイス『かくて行動経済学は生まれり』(文藝春秋) です。昨日付けの日経新聞の書評欄で取り上げられていました。著者はノンフィクション・ライターであり、特に売れたのは『マネー・ボール』ではないでしょうか。映画化もされましたし、私も読んでいたりします。本書の英語の原題は The Undoing Project であり、邦訳書の p.348 で「事実取り消しプロジェクト」と訳されています。2017年の出版です。ということで、その『マネー・ボール』に関する書評から行動経済学に関する関心が芽生えたようで、本書では主としてトヴェルスキー&カーネマンを中心に据えて行動経済学の歴史を、特に黎明期の歴史をひも解いています。記憶の不確かさ、あるいは、記憶の操作可能性から始まって、判断や意思決定の際の心理的アルゴリズムの解明、そして最後は有名なプロスペクト理論の発見のきっかけや平易な解説を展開しています。その前段として、トヴェルスキー教授も、カーネマン教授も、どちらもユダヤ人ですから、ナチスによるホロコーストにも触れていますし、中東戦争の記述もかなり生々しく感じられます。また、特にセンセーショナルな書き方ではなく、エコノミストであれば誰もが知っている一般的な事実ではありますが、トヴェルスキー教授の攻撃的だが水際立った知性とカーネマン教授の重厚だが慎重かつ少し進みの遅い知性を比較していて、さらに、愛煙家であり1日2箱の煙草を灰にしたカーネマン教授が生き残ってノーベル賞を授賞された一方で、嫌煙家であったトヴェルスキー教授が悪性腫瘍で早くに亡くなった事実も、それほど対比を鮮明にさせることなく淡々と跡付けています。そして、2人の心理学的な発見が、まず、医学に応用され、その次に経済学で注目され、結果的に、カーネマン教授がノーベル経済学賞を受賞したわけです。終章のタイトルが「そして行動経済学は生まれた」とされていて、ある米国ハーバード大学教授の言葉として、「心理学者は経済学者のことを不道徳だと思い、経済学者は心理学者のことをばかだと思っている」というフレーズを引用しています。最後は、カーネマン教授にノーベル委員会からと思しき電話がかかる場面で終っていますので、セイラー教授らによるその後の行動経済学の発展は、それほど重視されていません。まあ、経済学史の本ではないんですから、そうなのかもしれません。私自身は何らかの理論や実証で功績あった経済学者の生まれや育ちや性格などについては、それほど大きな興味あるわけではありませんが、映画にもなった『ビューティフル・マインド』のナッシュ教授の生涯などとともに、経済学に多くの人々の関心を引きつける効果がある、という意味で、こういった本の効用も十分評価しているつもりです。

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次に、ショーン B. キャロル『セレンゲティ・ルール』(紀伊國屋書店) です。著者はウィスコンシン大学マディソン校の進化生物学の研究者ですが、本書は進化生物学の本ではなく、むしろ、生物多様性に関する食物連鎖・栄養カスケードに関する理論と実践に関して、ポピュラー・サイエンスとして取りまとめられています。舞台はアフリカはタンザニアにあるセレンゲティ国立公園です。タンザニアの北部、ケニアとの国境に近い地域で、従って、ビクトリア湖のすぐそばに位置する哺乳類の多様性に富む地域です。世界遺産に指定されています。そして、本書の第Ⅲ部第6-7章において、本書のタイトルであるセレンゲティ・ルールを6点に渡って取りまとめて提示しています。専門外のシロートである私なりの解釈なんですが、一般的に食物連鎖と呼ばれている流れを本書では栄養カスケードと称していて、要するに、ネコ科の肉食獣がシカなどの草食獣を捕食し、そして、草食獣は草木を食べる、という構造です。そして、本書では二重否定の構造を持ち込みます。すなわち、イエローストーンでヘラジカが増えすぎた場合、日本でもよくありますが、シカやイノシシが増えて農作物が被害にあうケースでは、日本ではヒトが猟銃をもってイノシシなどを直接に駆除する一方で、イエローストーンではシカを捕食するオオカミを放った、という例が紹介されていて、そうすると、当然に、オオカミはヘラジカの一種であるエルクを捕食しますから、エルクそのものが個体数を減少させる一方で、エルクが食べつくしていたポプラの成長が促進される、という2段階目の効果が発現します。これを本書では二重否定と呼んでいます。そして、本書のもうひとつの特徴は、こういったオオカミエルクとポプラといったマクロの連鎖、もちろん、地球規模のマクロではないにしても、日本でいえば都道府県くらいの大きさの地域のマクロの栄養カスケードや生態系に見られる現象を、何と、マイクロのレベルのガンになぞらえている点です。物理学などでマクロの宇宙論とマイクロの原子や分子に関する理論に類似点を見出す方法論も見かけたりしますし、生物学でも生物の集団であるマクロとマイクロな個体にそういった類似点を例示しることもあり得るんでしょうし、何よりも、それなりにポピュラー・サイエンスとして私のようなシロートの一般大衆の理解を促進もするんでしょうが、私の目から見て、少なくともマクロの生態系の攪乱をマイクロな生物個体や遺伝子レベルのガンに例えるのは、ややムリがあるような気もします。少なくとも、エコノミストの世界では合成の誤謬があり、マイクロな世界を足し上げて行ってもマクロな世界にはなりません、というか、ならない場合があります。たっだ、エコノミストの目から見て興味深かったのは、マルサス的な『人口論』の世界が密度依存調整により否定されていることです。p.204 あたりです。マルサス的なくらい将来像は技術革新により克服される、というのが私のような平凡なエコノミストの一般的理解ですが、そもそも、個体密度が増加すれば個体数の増加率はマイナスに転化する、というのは、それはそれとしてあり得ることですし、生物学的に明らかにされていることは、とても参考になりました。

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次に、又吉直樹『劇場』(新潮社) です。話題の作者の芥川賞受賞後第2作目の小説です。東京を舞台に演劇人である主人公の永田と、永田の恋人の沙希、さらに、中学のころから永田とともに演劇を続けてきた野原、さらに、永田・野原の劇団からスピンアウトしてライターとしても一定の成功を収めた青山という女性、さらにさらにで、別の注目劇団を主宰する小峰などなど、かなり限られた登場人物なんですが、永田と沙希の愛の行方がストーリーの中心となります。なお、永田・野原のコンビは関西人で、この作者の前作「火花」と同じで関西弁でしゃべります。そして、主人公である永田の行動のターニング・ポイントとなる感情は嫉妬です。嫉妬が怒りに転じて、そして人間関係が壊れて行くような気がします。「本音と建前」という言葉がありますが、決して本音を隠してうわべだけの建前で人間関係を築いて、大人の付き合いを進めるのが上品だとは決して思いませんが、本音をさらけ出して人間性の底の底まで理解し合えないというのも、少し問題ではなかろうかという気もします。その意味で、本書の主人公の男女関係、劇団や演劇関係者との人間関係については、私も理解できる部分と理解を超えている部分があります。ただ、前作と違って嫉妬というテーマがかなり露骨に現れていて、その分、決して上品ではない可能性もあるものの、作者の魂の叫び、とまではいわないまでも、誠に正直に書き綴っている気もします。何かのメディアで報じられていましたが、「火花」よりもこの作品の方を先に書き始めていた、という情報もあり、ある意味で、作者の第1作のようでもあり、言葉は悪いかもしれませんが、第1作目のつたなさのようなものが感じられるかもしれません。また、純文学ですから、文体や表現力はかなり上質といえますが、ストーリーを追うものではありません。主人公である20代の男女間の恋愛の進行はかなりつまらない、と感じる読者も多そうな気がします。

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次に、タンクレード・ヴォワチュリエ『貧困の発明』(早川書房) です。私はよく知らないんですが、作者はフランスのエコノミストであり、小説家だそうです。私はフランス語には決して詳しくないんですが、スペルは Voituriez であり、もしも、最後が z で Voiturier であれば、英語でいえば Valet Parking の意味であり、私はフランスはパリしか知りませんが、パリ市内でも何度か見たことがあります。ということは別にして、本書はあくまでフィクションの長編小説であり、ピケティ教授が「今までに読んだいちばん可笑しな小説」と評価したと出版社のサイトでは紹介されています。フランス語の原題は L'Invention de la Pauvreté であり、邦訳タイトルはそのまま直訳されています。タイトル通りに貧困をテーマにしていますが、先進国内の貧困ではなく、途上国の貧困、あるいは、経済開発を主題にしています。主人公は世銀チーフエコノミストにして、国連事務総長の特別顧問でもあるプリンストン大学教授のロドニーです。誠に僭越ながら、私と専門を同じくする開発経済学者です。ここまでの肩書からは、ノーベル経済学賞も受賞したスティグリッツ教授が強く連想されるんですが、そうでもないようです。フィクションのフィクションたるところです。でも、国連事務総長ドン・リーは韓国人の設定で、そのモデルは、明らかに、前国連事務総長の潘基文ではないでしょうか。そのほか、国連、世銀、国際通貨基金(IMF)、また、組織ではなく会議名ですが、ABCDE会議など、ほぼほぼ実在の名称をそのまま流用している印象です。エロ・グロ・ナンセンスの部分は別にして、開発経済学を専門分野のひとつとする私から見ても、確かに開発経済学にはいくつかの考え方があり、『エコノミスト 南の貧困と闘う』の著者であるイースタリー教授のように市場メカニズムを活用して、途上国の国民のインセンティブに基づく行動に期待するエコノミストもいれば、サックス教授に代表されるように、先進国からの開発援助などを活用しつつ、公的部門も関与した形でのビッグ・プッシュを重視する開発経済学者もいっぱいいます。実は、私は後者の考え方に近かったりします。冒頭のバレー・パーキングは別にしても、開発経済学のいくつかの考え方を背景知識として持って読めば、さらにこの小説が楽しめるかもしれません。あるいは、私のように、少しだけ不愉快さが増すかもしれません。

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最後に、水野和夫『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書) です。著者は証券会社のエコノミストから学会に入り、埼玉大学から法政大学教授に転じているようです。ということで、相変わらず、独特の長期的な歴史観を披露しているんですが、ヒストリアンとしてその歴史の底流に流れる法則性が感じられずに、私はいつも戸惑っています。従来と同じように、1970年代のルイス的な二重経済の消滅と石油ショックなどにより、我が国を含めて戦後先進諸国の高度成長が終了し、1970年代からゆっくりと時間をかけて低成長と低金利に象徴されるように資本主義が終焉する、そして、中世的な停滞の定常状態の時代が来る、というのが著者の見立てです。ただ、資本主義の勃興については大航海時代のイノベーションにより、世界が広がり英蘭が覇権を掌握した、ということに本書でもなっているんですが、それがなぜなのか、そして、成長率や金利が低下して資本主義が終焉するのはなぜなのか、加えて、産業革命の位置づけについてもほとんど無視されており、私には疑問だらけです。資本主義が終焉して中世的な定常状態に戻る、という史観ですから、基本的には循環史観だと思うんですが、おそらく、著者の歴史学に関する素養からして、そういった歴史観の確立があるのかどうか疑問であり、歴史的な事実を跡付けて、室町幕府の後は戦国時代になって、全国統一を果たした織豊政権から徳川が江戸幕府を確立する、それはなぜなのか、よく判らないながら、そうなのだ、といっているに等しい気もします。蒐集=コレクションについては、その基礎となっている生産活動について何も見識がないので、どこかで湧き出た蒐集対象品を持ち出す、という以外の感触はありません。基本的に私の歴史観はマルクス主義に近いんですが、ほぼほぼ一直線に生産力が増加するという単純な歴史観で、その生産力の桎梏となる生産システムが革新される、場合によっては土地や生産手段=資本の所有制度の変更も歴史を動かす原動力になる、という意味で、ノース教授らの制度学派にも近いかもしれない、受け止めていますが、この著者の歴史観はまったく理解できません。その上、閉じたvs開いた、資本主義、帝国などの用語がかなり感覚的に、そして、キチンと定義されずに並べられていて、もう少し読者の理解を助ける工夫も欲しい気がします。

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2017年9月 2日 (土)

ホームラン攻勢で中日を撃破し5連勝!

  RHE
中  日002000000 270
阪  神13110111x 9120

ホームラン攻勢で中日を撃破し5連勝でした。坂本捕手や大山選手をはじめ、4ホーマーの乱れ打ちでした。能見投手も6回2失点のQSでしたし、大差がついて接戦の勝ちパターンのリリーフ陣3投手を温存できました。1安打ながら着実にヒットを積み重ねる鳥谷選手も、2000本安打へのカウントダウンは止まりません。

明日は3タテ目指して、
がんばれタイガース!

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米国雇用統計はやや鈍化するも堅調な雇用の伸びを示し利上げをサポートするか?

日本時間の昨夜、米国労働省から8月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の増加幅は+156千人増となった一方で、失業率は前月から+0.1%ポイント上がって4.4%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、Los Angeles Times のサイトから最初の5パラだけ記事を引用すると以下の通りです。

U.S. employers add 156,000 jobs in August; unemployment rate edges up to 4.4%
August was a good month for blue-collar jobs, but hiring on the whole tailed off from earlier in the summer and there was no indication of an upturn in wage growth, which has been missing in the nation's long economic recovery.
Despite solid gains in manufacturing, construction and mining, U.S. job growth overall last month fell short of economists' expectations and recent trends. Employers added 156,000 net new jobs, a slowdown from payroll increases of 189,000 in July and 210,000 in June, the Labor Department said Friday.
The nation's unemployment rate ticked back up to 4.4%, from 4.3% in July. Average hourly earnings barely rose, and the typical number of hours worked per week slipped a fraction last month.
Economists cautioned against reading too much into one's month data, especially coming in a summer when seasonal factors are more tricky for statisticians to filter out.
Job creation last month was still more than enough to absorb the growth in the working-age population. The unemployment figure remains just shy of a 16-year low, and the economy this summer entered its ninth year of expansion.

長くなりましたが、金融政策動向も含めて、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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米国の雇用については、8月統計の非農業部門雇用者の増加幅に関する市場の事前コンセンサスは+180千人くらいと見込まれていたところ、この水準は下回り、また、前月7月実績の+189千人増には達しませんでしたが、+150千人増を上回って+156千人増はまずまず堅調と私は受け止めています。特に、製造業が3か月連続で雇用を増加させているのが目につきます。すなわち、6月+21千人増、7月+26千人増、8月+36千人増で、3か月連続増加だけでなく、その増加幅が拡大したりしています。トランプ米国大統領が特に重視しているセクターではあるものの、特段の政策的な対応がなされていると思えないところ、どうなっているんでしょうか。金融政策に関しては、米国の報道を私が見ている限りで、+100千人増ならOKといったラインをイエレン連邦準備制度理事会(FED)議長ご本人が発言しているようですし、この9月19~20日に次回の米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される際には、量的緩和により米国債などを大量に買い入れ、バランスシートが大きく膨張しているところ、リーマン・ショック後の金融危機対応の金融政策運営からの脱却を目指してバランスシートの圧縮を議論する可能性がFED幹部などから示唆されています。今年は25ベーシスの利上げが年間3回と想定されてきましたが、3月と6月に2度の利上げが行われた後、3度目はあるとすれば12月と私は考えていて注目しているところです。先日公表されたばかりの4~6月期の成長率は+3.0%と、かなり高い伸びを示した一方で、日本や欧州とも共通して、物価がやや伸び悩みを見せています。私は米国内の報道しか見ていませんが、物価動向から利上げを疑問視する味方がある一方で、一部の商業用不動産価格の上昇がバブルの兆しとみなされていたりして利上げをサポートする意見も見受けます。FOMCの前にFEDが市場とどのような対話を交わすのか、私は大いに注目しています。

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ということで、時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、底ばい状態を脱して少し上向きに転じた印象ながら、もう一段の加速が見られません。ただ、一時の日本や欧州のように底割れしてデフレに陥ることはほぼなくなりましたが、日本だけでなく、米国でも賃金がなかなか伸びない構造になってしまったのかもしれません。

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2017年9月 1日 (金)

法人企業統計に見る企業の収益力はほぼ史上最高も賃上げや設備投資は低調!

本日、財務省から今年2017年4~6月期の法人企業統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で、売上高は3期連続の増収で前年同期比+6.7%増の327兆9184億円、経常利益も4期連続の増益で+22.6%増の22兆3900億円でした。また、設備投資は製造業で▲7.6%減、非製造業で+6.9%増となり、非製造業が牽引する形で、全産業では+1.5%増の9兆4506億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

4~6月期設備投資1.5%増、前期比では鈍化 法人企業統計
財務省が1日発表した2017年4~6月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比1.5%増の9兆4506億円だった。プラスは3四半期連続。サービス業や物品賃貸業の増加が自動車や情報通信関連の減少を補った。ただ国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となる「ソフトウエアを除く全産業」の設備投資額は季節調整済みの前期比で2.8%と3四半期ぶりに減り、直前と比べた設備投資は鈍化傾向となった。
設備投資の前年同期比の動向を産業別にみると、非製造業は6.9%増えた。訪日外国客の流入を背景に、サービス関連の宿泊設備への投資が伸び、娯楽施設も堅調だった。レンタカーやカーリースといった物品仲介業で車両購入が増えたのも寄与した。通信回線の敷設も貢献した。
季節調整済み前期比で設備投資額が2.8%減となった「ソフトウエアを除く全産業」の内訳は製造業が5.4%減、非製造業が1.4%減だった。製造業では新型車向け増産投資が1~3月期に大きかった反動が出た。通信業では半導体や素材関連の投資が一服し、企業の設備投資は全体でみれば直前の四半期と比べると一巡感が出ている。
全産業ベースの経常利益は前年同期比で22.6%増の22兆3900億円と、統計をさかのぼれる1960年度以降で最高となった。増加は4四半期連続。製造業が46.4%増と3四半期連続、非製造業が12.0%増と4四半期連続のプラスとなった。原油価格の上昇で商社など卸売業が好調だったほか、新規出店を続けた小売りも伸びた。財務総合政策研究所は「堅調な世界経済を背景に、企業業績はゆるやかな回復基調をたどっている」と指摘している。
売上高は6.7%増の327兆9184億円と3四半期連続の増加で、非製造業が7.4%増、製造業が4.8%増となった。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や収益動向を集計。今回の17年4~6月期の結果は、内閣府が8日発表する同期間のGDP改定値に反映される。

やや長いものの、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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上のグラフのうちの上のパネルに示されたように、売上高についてはサブプライム・バブル崩壊前はいうに及ばず、いわゆる「失われた10年」の期間である1990年代のピークすら超えられていませんが、経常利益についてはすでにリーマン・ショック前の水準を軽くクリアしており、我が国企業の収益力は史上最強のレベルに達しています。季節調整していない原系列の統計ながら、4~6月期の売上高経常利益率は製造業が8.8%、非製造業が6.0%と、1~3月期をともに上回り、加えて、国内経済もそれなりに堅調に回復・拡大を示しているものの、世界経済のいっそうの拡大や円安を受けて、製造業が非製造業よりも高い収益力を示しています。従来からのこのブログでお示ししている私の主張ですが、我が国の企業活動については昨年2016年年央くらいを底に、昨年2016年後半から明らかに上向きに転じ、今年2017年1~3月期から4~6月期にかけてもこの流れが継続していることが確認できたと思います。ただ、設備投資については、同様に、2016年年央を底に上向きに転じていたんですが、今年2017年4~6月期にはマイナスに転じました。季節調整済みの系列で見て、全産業ベースの設備投資は4~6月期に前期比で▲2.8%減でしたが、製造業で▲5.4%減、非製造業で▲1.4%減を示しており、利益率が高い製造業の方で投資がより大きく減少しているのは、海外へ投資が漏出している可能性が示唆されていると私は受け止めています。また、引用した記事にもある通り、この法人企業統計の公表をもって、来週9月8日に内閣府から4~6月期のGDP統計2次QEが公表される予定となっています。シンクタンクなどの2次QE予想は日を改めて取りまとめる予定です。直観的には設備投資が下方修正される分、2次QEでは成長率が下振れするんだろうという気はします。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出しています。このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。この2つについては、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。利益剰余金は統計からそのまま取っています。上の2つのパネルでは、太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下しましたし、キャッシュフローとの比率で見た設備投資は50%台後半で停滞が続いており、これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。他方、いわゆる内部留保に当たる利益剰余金だけはグングンと増加を示しています。これらのグラフに示された財務状況から考えれば、まだまだ雇用の質的な改善のひとつである賃上げ、もちろん、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないか、と私は期待しています。また、経済政策の観点から見て、企業活動がここまで回復ないし拡大している中で、さらなる法人税引き下げなどによる企業活動活性化がどこまで必要なのかは疑問ですし、企業が国内での設備投資や賃上げに慎重姿勢を示しているのであれば、企業の余剰キャッシュを雇用者や広く国民に還元する政策が要請される段階に達しつつある可能性を指摘しておきたいと思います。

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最後に、法人企業統計を離れて、内閣府から公表された8月の消費者態度指数のいつものグラフは上の通りです。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直している」から「ほぼ横ばいとなっている」に下方修正しています。

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