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2017年10月31日 (火)

順調な回復を示す鉱工業生産指数(IIP)と完全雇用に近い結果の雇用統計とまたまた物価上昇率の見通しが下方修正された「展望リポート」!

今日は、月末の閣議日であり、いくつか主要な政府経済統計が公表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数 (IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも9月の統計です。鉱工業生産指数 (IIP)は季節調整済みの系列で前月比▲1.1%の減産を示し、雇用統計では失業率が2.8%、有効求人倍率が1.52倍といずれも前月と同じ水準を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、9月1.1%低下 電子部品振るわず 基調判断据え置き
経済産業省が31日発表した9月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み、速報値)は102.4と、前月に比べ1.1%低下した。低下は2カ月ぶり。スマートフォン(スマホ)向けの電子部品やディスプレー製造装置などが振るわなかったことが響いた。経産省は生産の基調判断を「持ち直しの動き」に据え置いた。
全15業種のうち9業種で前月を下回った。最も低下に寄与したのは電子部品・デバイス工業(5.6%低下)で、中小型液晶素子や半導体集積回路などスマホやタブレット端末に使われる電子部品の生産が落ち込んだ。輸出が伸び悩んだほか、有機ELへ代替する動きも生産絞り込みに影響した可能性がある。汎用・生産用・業務用機械工業も2.4%低下した。ディスプレー製造装置や掘削機械など、受注生産する品目が多いため前月の反動が生じたとみられる。
一方、上昇したのは5業種だった。上昇に最も寄与したのは、美容品やモイスチャークリームといった化粧品の生産が好調だった化学工業で7.6%上昇した。石油・石炭製品や非鉄金属なども上昇しており、素材系の業種が目立った。プラスチック製品工業は前月比横ばいだった。
QUICKがまとめた民間予測の中央値(前月比1.5%低下)は上回った。出荷指数は2.6%低下の99.2で、在庫指数は横ばいの107.3だった。在庫率指数は1.6%上昇の110.3となった。
メーカーの先行き予測をまとめた製造工業生産予測調査によると、10月は前月に比べ4.7%上昇、11月が0.9%低下となった。ただ予測には、神戸製鋼所(5406)の品質データ改ざん問題や、日産自動車(7201)やSUBARU(7270)の無資格検査問題の影響は織り込まれておらず、今後表面化する可能性もある。
正社員求人1.02倍、9月過去最高 人手不足より鮮明に
雇用情勢の改善が続いている。厚生労働省が31日発表した9月の正社員の有効求人倍率(季節調整値)は1.02倍で、前月より0.01ポイント上がった。統計をとり始めた2004年以降で最高となった。緩やかな景気回復に人手不足などが重なり、企業は正社員採用を増やして人材の囲い込みを進めている。ただ賃金への波及は鈍く、消費はなお勢いを欠いている。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人に何件の求人があるかを示す。パートタイム労働者らも含めた全体の有効求人倍率は1.52倍で、8月と同じだった。高度経済成長末期の1974年2月以来の水準で高止まりしている。
新たに出た求人をさす新規求人数は前年同月を5.6%上回った。業種別にみると、スマートフォン関連が好調な製造業が最も高く11.3%増だった。慢性的な働き手不足に直面している運輸・郵便業(10.2%増)や医療・福祉(8.6%増)も伸びが大きかった。
求人を出しても企業は思い通りに採用できていない現状がある。実際に職に就いた人の割合を示す充足率(季節調整値)は14.9%。インターネットで企業の採用サイトに直接求職するといった場合を含まないため「7人雇おうとしても採用できるのは1人」という計算になる。
総務省が31日発表した9月の完全失業率は、前月と同じ2.8%だった。求人があっても職種や勤務地など条件で折り合わずに起きる「ミスマッチ失業率」は3%程度とされる。3%割れは働く意思のある人なら誰でも働ける「完全雇用」状態にあるといえる。
正社員は3483万人で、前年同月より76万人増えた。伸び幅は1年5カ月ぶりの大きさだった。非正規社員は2万人減り、7カ月ぶりに減少に転じた。また15~64歳の人口に占める就業者の割合を示す就業率は75.8%で、前年同月より0.8ポイント上がった。比較可能な1968年以降で最高を記録した。
雇用改善の割に消費の回復は勢いを欠く。総務省が同日発表した9月の家計調査によると、2人以上世帯の1世帯当たり消費支出は26万8802円だった。物価変動の影響を除いた実質で前年同月を0.3%下回り、2カ月ぶりに減少した。
気温が高かった前年の反動で、エアコンなど家庭用耐久財が17.9%減と大きく落ち込んだ。ゴルフのプレー料金や宿泊料など教養娯楽サービスも5.0%減った。「敬老の日を含む連休に台風が直撃したため」(総務省)という。食料や衣料品への支出は増えており、消費の基調判断は「持ち直してきている」として据え置いた。
消費持ち直しが緩やかなため、物価上昇ペースも緩慢だ。9月の消費者物価指数(CPI)は値動きの激しい生鮮食品を除く総合で、前年同月比0.7%上昇となったが、主因のエネルギーも除くと、伸び率は0.2%にとどまる。家計の節約志向も根強く、小売り大手による日用品などの値下げが消費を下支えしている面もある。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、2本の統計に関する記事を並べるとやや長くなってしまいました。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上は2010年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下のパネルは輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は、続く雇用統計とも共通して、景気後退期を示しています。

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生産については、ここ1年でほぼほぼジグザグの動き、すなわち、隔月でプラスとマイナスを繰り返す変動をもって推移して来ていますが、9月統計ではマイナスの減産と出ました。鉱工業生産指数(IIP)の季節調整済み系列の前月比で見て、ここ半年6か月間の浮き沈みを追うと、4月+4.0%、5月▲3.6%、6月+2.2%、7月▲0.8%、8月+2.0%、そして、9月▲1.1%となります。どのペアで見るかにもよりますが、おおむね、絶対値でプラスの方がマイナスより大きく、統計作成官庁である経済産業省の基調判断も「生産は持ち直しの動き」で据え置かれています。先行きについては、製造工業生産予測調査に従えば、10月+4.7%の増産の後、11月は▲0.9%の減産とされており、この統計は過大推計のバイアスがあることから経済産業省では予測誤差について加工しており、それでも、足元の10月については+2.4%±1%の増産と試算しています。11月は減産ということのようですが、引き続き、絶対値でプラスの増産の方が大きい傾向は続いており、緩やかながら生産は回復・拡大の方向にあると考えてよさそうです。もちろん、先行きのリスクは目白押しで、最大のリスクは米国連邦準備制度理事会による利上げを伴う出口戦略の成り行きです。そして、国内要因では製造業の品質に関わるスキャンダルです。すなわち、自動車では日産とスバルによる不正検査、そして、神戸製鋼の品質偽装などが、今後、国内市場だけでなく、海外においてもどのように展開するか、あるいは、他企業の不正事案が発覚するかどうか、などなど、エコノミストには追い切れないリスクのような気がします。

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本年2017年7~9月期の四半期データが利用可能となりましたので、久し振りに、在庫循環図を書いてみました。上の通りです。ピンクの上向き矢印の2013年1~3月期から始まって、黄緑の今年2017年7~9月期まで、この4年余りは一貫して景気拡張気だったんですが、在庫循環図は1周しています。2002年12月の月例経済報告の付属資料である鉱工業の在庫循環図と概念図を見るまでもなく、現在の足元の景気局面が意図的な在庫積み増し期という点は幅広い合意あることと思いますが、景気後退期があった可能性が示唆されているところ、景気循環日付では確認されていません。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影をつけた期間はいずれも景気後退期です。失業率も有効求人倍率も前月と同じながら、かなりタイトな労働需給を示しています。加えて、正社員の有効求人倍率も前月から横ばいのながら1.01 倍と高い水準にあります。さらに、雇用の先行指標と考えられている新規求人数は一段と伸びています。ただし、繰り返しこのブログで指摘している通り、まだ賃金が上昇する局面には入っておらず、賃金が上がらないという意味で、まだ完全雇用には達していない、と私は考えています。要するに、まだ遊休労働力のスラックがあるということで、グラフは示しませんが、性別年齢別に考えると、高齢男性と中年女性が労働供給の中心となっています。もっとも、定量的な評価は困難ながら、そのスラックもそろそろ底をつく時期が迫っているんではないかと思います。特に、中小企業では人手不足が深刻化する可能性もあります。さらに、1人当たりの賃金の上昇が鈍くても、非正規雇用ではなく正規職員が増加することから、マクロの所得としては増加が期待できる雇用水準ではないかと私は考えています。

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加えて、一般職業紹介状況 (職業安定業務統計) から正社員とパートのそれぞれの有効求人倍率のグラフは上の通りです。いずれも、季節調整済みの系列です。引用した記事にもある通り、正社員の求人倍率は1倍を超えて高い水準にありますが、他方で、パートの求人倍率はさらに高い水準にあるものの、単月統計の結果ながら、直近の統計ではジワジワと上昇を続ける正社員有効求人倍率に対して、パートの方は6~8月の3か月連続の1.80倍からスリップして1.77倍に低下を見せています。もう少し継続的に統計を見極める必要がありますが、人手不足の中で求人の潮目に変化が現れつつあるのか、どうか、とても気にかかるところです。

  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
 
消費税率引き上げの
影響を除くケース
 2017年度+1.7~+2.0
<+1.9>
+0.7~+1.0
<+0.8>
 7月時点の見通し+1.5~+1.8
<+1.8>
+0.5~+1.3
<+1.1>
 2018年度+1.2~+1.4
<+1.4>
+1.1~+1.6
<+1.4>
 7月時点の見通し+1.1~+1.5
<+1.4>
+0.8~+1.6
<+1.5>
 2019年度+0.7~+0.8
<+0.7>
+2.0~+2.5
<+2.3>
+1.5~+2.0
<+1.8>
 7月時点の見通し+0.7~+0.8
<+0.7>
+1.4~+2.5
<+2.3>
+0.9~+2.0
<+1.8>

最後に、昨日から開催されていた日銀金融政策決定会合ですが、本日、「展望リポート」を公表しています。政策委員の大勢見通しは上の通りです。「展望リポート」 p.8 から引用しています。2017~18年度の物価上昇率はわずかながら7月時点での見通しから下方修正されています。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で、引用元である日銀の「展望リポート」からお願いします。

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2017年10月30日 (月)

順調な伸びを続ける商業販売統計の小売業販売額の死角は所得か?

本日、経済産業省から9月の商業販売統計が公表されています。ヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.2%増の11兆2860億円と増加を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の小売販売額、前年比2.2%増 自動車販売が好調
経済産業省が30日発表した9月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比2.2%増の11兆2860億円だった。プラスは11カ月連続。自動車販売が引き続き好調に推移している。経産省は小売業の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
11カ月連続で前年実績を上回るのは、エコカー補助金や家電エコポイントの追い風が吹いていた2010年1~11月以来、約7年ぶり。
業種別でみると、最も増加寄与度が高かったのは自動車小売業で、前年同月に比べ5.9%増えた。新型車効果が継続しており、14カ月連続のプラスとなった。
次に高かった医薬品・化粧品小売業(5.8%増)は、訪日外国人(インバウンド)需要を取り込み高額商品の販売が伸長。例年より低温だったため風邪薬も売れた。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計で1.8%増の1兆4968億円だった。既存店ベースでは1.9%増加した。百貨店は全店ベースで2.1%伸びた。インバウンド需要で高額商品が好調なほか、肌寒い天気が続いたことで秋冬物の衣料の売れ行きも上向いたという。
コンビニエンスストアの販売額は2.1%増の9781億円だった。新規出店が続いていることもあり、55カ月連続で前年実績を上回った。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた期間は景気後退期です。

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引用した記事にもある通り、昨年2016年11月に始まって、季節調整していない原系列の小売業販売額が前年同月比伸び率で見て11か月連続でプラスを記録しており、ドラッグストアにおけるインバウンド消費も含まれているとはいえ、インバウンドだけではなく国内の消費は底堅いと私は考えています。小売業販売額の内訳として、前年同月比の伸び率で高い順にいくつか業種を上げると、自動車小売業が+5.9%ぞう、さらに、医薬品・化粧品小売業が+5.8%増ですが、これにはGDPベースでは消費ではなく輸出と分類されるインバウンド消費も入っていると考えられます。続いて、織物・衣服・身の回り品小売業が+5.0%増を記録しています。燃料小売業の伸びも高いんですが、国際商品市況における石油価格の上昇に連動して名目値で伸びが高まっている気がします。ということで、足元の今年2017年9~10月も決して天候条件はよくなかったという印象を私は持っているんですが、気温が上がらず寒かっただけに秋冬物衣料が売れたのかもしれませんし、自動車や家電などの耐久消費財が、リーマン・ショック後の混乱やエコカー減税、家電エコポイント、消費増税などの政策的な攪乱要因が一巡し、自律的な買い替えサイクルがようやく復活しつつあるところではないかと受け止めています。統計作成官庁である経済産業省の基調判断も「持ち直しの動き」となっており、年度内くらいの先行きを含めて、消費は順調に回復・拡大を続けるものと期待しています。基本的には、雇用とマインドが消費をサポートするものと考えていますが、そろそろ経済財政諮問会議などで議論が始まった賃金の行方だけが気がかりです。先の総選挙でも企業の内部留保課税の議論が出た後、すぐにしぼんでしまいましたが、所得でサポートされなければ消費の持続性は長くない可能性も否定できません。合成の誤謬を克服して企業が賢明な経営判断を下すことを期待しています。

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2017年10月29日 (日)

2週連続の台風の週末来襲はどんな影響をもたらすか?

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先週末の21号に続いて、今週末もまたまた台風22号が関東に接近しています。日本気象協会の日直予報士のサイトから引用した上の画像の通りです。
人にもよるんですが、私の場合、週末の雨のもっとも大きな影響は読書に現れます。すなわち、雨のために自転車で図書館を回れず、読書量が低下する、特に、買い置いた小説などを読む傾向になって、経済書や教養書の読書量が低下する、という結果となります。「風が吹けば、桶屋が儲かる」ではないんですが、「雨が降れば、本が読めない」となるわけです。来週末は3連休ですから、1日くらいは自転車を飛ばせるお天気の日があるものと楽観していますが、お天気だけはどうしようもありません。

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2017年10月28日 (土)

今週の読書は話題の小説を含めて計6冊!

今週は経済書を含めて、計6冊でした。それなりのボリューム感だったんですが、先週末に台風21号の関東接近で自転車で図書館を回れなかったため、予約しておきながら引き取りに行けずにキャンセルされてしまった本が何冊かありました。

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まず、ジョセフ E. スティグリッツ/ブルース C. グリーンウォルド『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(東洋経済) です。著者の1人とタイトルに冠されたスティグリッツ教授はノーベル経済学賞受賞のリベラル派の経済学者です。英語の原題は Creating a Learning Society であり、2015年の出版です。完全版と縮約版があるような書き振りですが、邦訳は後者のようです。というのは、完全版にあるハズのパートがいくつか見受けられないからです。ということで、本書にいう「ラーニング」というのは、日本では馴染みのない用語かもしれませんし、私も戸惑っているんですが、まあ、正規の学校教育ではなく、むしろ、企業内におけるOJT、あるいは、イノベーションの基となるようなR&Dも含めた幅広い概念のような気がします。そして、読み始めは先進国における経済成長の底上げに関する議論かと思っていましたら、最後の方では、著者自身も「すべての国にあてはまるが、おそらく特に関係するのは発展途上国」(p.426)であろうと認めていて、ほぼ、私の専門分野である開発経済学とも重なります。すなわち、新自由主義のようなトリクルダウン経済学を否定し、かつてのワシントン・コンセンサスが機能しなかったと結論し、包括的(たぶん、inclusive)な経済発展・成長を目指すものとなっています。その対象は工業(あるいは、製造業?)であり、農業ではないとし、現在の自由貿易への過度の信頼、過重な知的財産権保護、金融の自由化をはじめとする行き過ぎた規制緩和、などなどを構成要素とする市場による経済問題の解決への期待をかなりの程度に否定して、より積極的な政府の市場への介入を求めています。その上で、ラーニングという動学的な比較優位の理論を再定義し、スピルオーバー(外部性)を十分考慮しつつ、開発戦略や成長戦略の練り直しを議論しています。例えば、かつての日本のもあった幼稚産業論ではなく、より動学的な意味でスピルオーバーの大きな幼稚産業保護論を展開し、為替政策や産業政策の導入を正当化し、また、景気変動を安定化させることによるラーニングの強化とイノベーションの促進の重要性などを論じています。そこに、独占の功罪の再考察も含まれます。それらの考察の結果として、米国型の競争的市場経済ではなく、北欧型の政府が大きな役割を担い、競争ではなく社会的な保護を提供し、その結果として格差が小さく寛大な経済モデルの優れた点を強調しています。500ページ近いボリュームがあり、しかも、かなりレベルの高い内容を含む質・量ともに上級のテキストですので、なかなか、短い読書感想文では書き切れませんが、pp.419-21の箇条書きされたサマリーを立ち読みして、買うか、借りるか、諦めるか、を決めればいいんではないでしょうか?

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次に、板坂則子『江戸時代 恋愛事情』(朝日新聞出版) です。著者はややご年配の専修大学の研究者であり、専門分野は江戸後期小説や浮世絵、江戸期のジェンダー論だそうです。ということで、タイトル通りの本なんですが、上の表紙画像を見てもある程度は理解できるように、カラーを含めてかなり図版、おそらくは半分近くが浮世絵、が挿入されており、かなり豪華本の印象を受けます。しかし、中には、電車などの不特定多数から覗き込まれる可能性ある場合には、やや気まずさを覚えるものも含まれていたりするので注意が必要です。というのは、著者が冒頭に書いている通り、江戸期の恋愛とは、いわゆる「惚れた腫れた」ばかりではなく、ほとんどが肉欲に基づく性愛、すなわち、セックスだからです。しかも、ヘテロの男女間だけでなく、ほぼ同等に近いスペースを割いてホモセクシュアルの男色についても本書では取り上げています。著者は明記していませんが、おそらく、江戸期のしかも将軍のおひざ元である江戸という当時の世界でもまれな大都会における恋愛事情ですしょうから、どこまで日本全国に拡張できるのかは不明、というか、疑問なんですが、私のような極めて無粋な田舎者には理解できない世界が展開されていたようです。私は関西人ながら、浅草近くの下町に住んでいた経験もあって、やむなく、それなりの江戸趣味、すなわち、相撲や歌舞伎などのたしなみを身につけているつもりだったんですが、とうていかなわないと感じました。単なる興味本位では読み解けない謎かもしれません。でも、私のような一般人には決して表芸にはならないような気もします。むしろ、BLに興味を示す「腐女子」向けかもしれません。

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次に、宮部みゆき『この世の春』上下(新潮社) です。著者はご存じの売れっ子作家であり、我が国でも五指はともかく、十指には入りそうな気がします。出版広告に「作家生活30周年記念作品」と銘打たれており、それなりのボリューム、重厚な内容であることはいうまでもありません。現代を舞台にしたミステリからゲームの原作、あるいは、時代小説なども含めて、幅広い作品を執筆していますが、まず、表紙画像でも理解できる通り、この作品は時代小説です。しかも、非現実的な要素を含むという意味でファンタジーに近く、その意味では、『孤宿の人』が同じ作者の作品の中で、というか、私が読んだ宮部作品の中では最も近い気もします。なお、出版社では「ファンタジー」ではなく、サイコ&ミステリーと称しています。でも、最近の作品の中では、『荒神』のように、非科学的な要素がそれほど大きな役割を果たしているわけではありません。ということで、舞台は江戸時代の比較的初期であり、八代将軍吉宗のかなり前で、北関東の小藩を舞台に、若い藩主の押し込め、すなわち、家臣・重臣による藩主の強制的な隠居、代替わりに始まり、その前藩主の闇の部分の究明、すなわち、ネタバレですが、隠居させられた藩主の多重人格の原因探しとなります。御霊繰と呼ばれる死者の霊との交信を司る一族の皆殺し、10歳を超えたあたりの少年のかどわかし、英明な名君主とされている押し込められた前藩主の父親に対する疑念、そして、藩内に暗躍する忍者、というか、闇の集団の存在とその悪意、そして、それらを利用するつもりで逆に祟られ呪われていた藩主一族、などなど、この作者の作品に特徴的なストーリーの運び、すなわち、1枚1枚の薄皮をむいていくように、決してどんでん返しなどなく、ほぼ一直線に一歩一歩謎の解明に向かいます。ですから、謎解きという点では途中でほぼほぼ明らかになりますので、その点では物足りないと感じる読者もいるかもしれませんが、このような謎の解明プロセスはこの作者の作品の特徴のひとつと私は受け止めています。それにしても、ボリュームにふさわしい複雑怪奇なプロットを易々と書き上げている作者の筆力、力量には相変わらず敬服しかありません。素晴らしい作家としての能力だという気がします。売れっ子作家の安定した作品ですし、私を含めたこの作者のファンは買って読む読書子が多そうな気がしますが、時代小説という点を加味しても、私はこの作者の最高傑作は『模倣犯』であるという信念は揺らぎませんでした。

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次に、伊坂幸太郎『AX アックス』(角川書店) です。同じ著者の『ホワイトラビット』も新潮社から出版されたばかりですが、出版順従って、コレから読んでみました。たぶん、『ホワイトラビット』も読むんではないかと思います。ということで、著者の人気シリーズのひとつの殺し屋シリーズの流れの作品です。すなわち、『グラスホッパー』や『マリアビートル』に連なる作品です。ただし、以前の殺し屋シリーズで登場した殺し屋の中で、この作品にも登場するのは槿だけで、そういえば、私のような記憶力に難のある読者にはやや複雑すぎるストーリーなのですが、最初に登場した蝉や鯨はもう死んでしまっているのかもしれません。なお、この作品の主人公は兜といい、子煩悩な恐妻家だったりします。これも、同でもいいことなのかもしれませんが、シリーズ前作の『マリアビートル』では槿が最強の殺し屋、と宣伝されたいたように記憶している一方で、この作品では新登場の兜が最強と宣伝されています。まあ、どうでもいいことです。それから、内科の医者が黒幕、というか、ストーリーに登場しないホント黒幕からの連絡者の役割を果たしており、兜は殺し屋の業界から引退したがっている、という設定です。アルファベットのAからFで始まる6章から成る連作短編のような仕上がりで、繰り返しになりますが、主人公の殺し屋である兜は引退したいんですが、他方、引退するにはもう少し義理を果たして、引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けねばならないという、まるで、芸能プロダクションの移籍問題のような展開があり、兜は仕方なくいくつかの仕事を請け負い、同時に、別の殺し屋からターゲットにされたりして、お話は進みます。同時に、ひとり息子を愛する子煩悩な父親であり、かつ、恐妻家である家庭人としての顔も余すところなく作品に盛り込まれており、それはそれで興味深く、殺し屋と恐妻家の2つの人格を使い分けている主人公のキャラの立て方には感心すると同時に、さすがの作者の力量をうかがわせます。ただ、主人公が殺し屋ですので仕方ないんでしょうが、一介の公務員である私から見て、世の中にはやたらと殺し屋がいるんだという誤解をしてしまいそうな密度で殺し屋が登場します。兜の家族以外の一般人の登場も望みます。ラストはさすがに伊坂流の心温まる(?)終わり方をします。

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最後に、天野郁夫『帝国大学』(中公新書) です。著者は東京大学教育学部をホームグラウンドとする研究者の大先生で名誉教授だったと記憶しています。2009年に同じ中公新書で『大学の誕生』上下を出版しています。そして、この本ではタイトル通りに戦前を中心に少しだけ戦後も含めて帝国大学を取り上げています。もちろん、帝国大学以外の大学や大学予備門としての旧制高等学校にも触れています。東京、京都に続いて、各地域の事情に応じて設立・拡充される歴史、帝大学生の学生生活や卒業後の就職先、教授たちの研究と組織の体制、大学入学準備の予科教育の実情、太平洋戦争へ向かう中での帝大の変容など、「学生生徒生活調査」などの豊富なデータに基づき活写しています。明治期から昭和戦前期にかけての建学から戦後、「帝国」の名称を外して国立総合大学に生まれ変わるまでの70年間を追い、大正期の大学令で確立し現在まで続くエリート7大学の全貌を描いています。はばかりながら、私もその7大学のうちのひとつの卒業生ですし、それなりの興味はあります。私の学生時代まで明らかに東大は官僚養成の一翼を担っていましたし、官界だけでなく、政財界、教育・文化界に多くの卒業生を送り出し、「近代日本のエリート育成機関」だった戦前期の帝国大学を明らかにしています。米国東海岸にはハーバード大学やイェール大学をはじめとして、いわゆるアイビーリーグと呼ばれる一群の大学があり、集合的な大学の存在とみなされていますが、日本でも「早慶」という呼称があったり、入試の偏差値のくくりでMARCHと呼ばれる一群の大学がありますが、現在の日本の大学で集合的に取り扱われるのは東京6大学とこの本で取り上げられている旧制帝国大学7大学くらいではないかと思います。前者は地域的な集合体、後者は学術レベルも含めたエリート排出機関としての集合体、という特徴があります。卒業生のひとりとしては、先輩方のご活躍を含めて興味深く読めました。

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2017年10月27日 (金)

消費者物価(CPI)の上昇率をどう評価するか?

本日、総務省統計局から9月の消費者物価指数 (CPI)が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコア消費者物価(コアCPI)の前年同月比上昇率は+0.7%と前月統計と同じ上昇幅を記録して9か月連続のプラスを記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の全国消費者物価、0.7%上昇 エネルギーが押し上げ
総務省が27日発表した9月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、値動きの大きな生鮮食品を除く総合指数が100.3と、前年同月比0.7%上昇した。8月も0.7%上昇だった。プラスは9カ月連続となる。QUICKがまとめた市場予想の中央値(0.8%上昇)は下回った。電気代や石油製品などエネルギーの上昇が押し上げた。
生鮮食品を除く総合では全体の52.8%にあたる276品目が上昇し、185品目が下落した。横ばいは62品目だった。
生鮮食品を含む総合では100.5と0.7%上昇した。台風の影響でサンマなど一部の魚介類が高騰した。生鮮食品とエネルギーを除く総合は0.2%上昇の100.8だった。安売り規制の強化でビール類が引き続き高かったほか、高齢者医療費の自己負担額が引き上げられたことも影響した。
併せて発表した東京都区部の10月のCPI(中旬速報値、15年=100)は生鮮食品を除く総合が100.3と前年同月比0.6%上昇した。上昇は4カ月連続。電気代などエネルギーの上昇が押し上げた。一方、生鮮食品を含む総合は100.1と0.2%下落した。レタスなどの生鮮野菜が前年に高騰した反動で大きく下落した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。さらに、酒類の扱いがビミョーに私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。

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コアCPI上昇率は、6月+0.4%から7月+0.5%、8月+0.7%と徐々に上昇幅を拡大していて、ただし、9月は8月と同じ上昇幅でした。私の計算では、9月のコアCPI上昇率+0.7%に対する寄与を上のグラフにある4分割で考えると、大雑把にいって、エネルギーが+0.5%強、食料が+0.2%強あり、サービスがほぼゼロで、コア財が▲0.1%弱のマイナスとなっています。先行きについて考えると、エネルギー価格の動向が不透明ながら、引き続き根強い家計の節約志向に基づく価格引き下げ方向と人手不足とエネルギー価格などのコスト上昇に伴う価格引き上げの動きが入り混じっている気がします。国際商品市況における石油価格が急落しない限り、コアCPI上昇率がマイナスに落ち込んでデフレに戻る可能性は低い一方で、逆に、現状のままでは日銀のインフレ目標である2%に達するほどのコアCPIのプラス幅拡大も見込めないものと考えるべきです。おそらく、エネルギー価格の動向がそろそろ打ち止めになると私は考えていますので、コアCPI上昇率が+1%に達するかどうかくらいのタイミングで上昇幅の拡大は反転し、マイナスまで落ち込むかどうかは不明なものの、プラス幅はかなり確度高く縮小に向かう可能性がある、と覚悟すべきです。

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いつものCPI上昇率のグラフに加えて、上の通り、耐久・半耐久・非耐久消費財別の分類や基礎的・選択的支出別の上昇率をグラフにしたのが上の通りです。今回の物価上昇の質を考えるうえで参考となります。すなわち、一時は、サービスが人手不足に伴う賃金上昇に起因してプラスであった一方で、財はエネルギー価格に従ってマイナスだったんですが、エネルギー価格の反転上昇に伴って、最近時点では、半耐久財・非耐久財はサービス価格の上昇率を上回って推移しており、耐久消費財についてもエコカー減税や下で家電エコポイントなどの政策的なかく乱要因を脱して買い替えサイクルが復活したことに伴いグングンとマイナス幅を縮小しています。このまま賃上げが進まなければ、ますますエネルギー価格に反応した物価動向となる可能性が高いものと考えられます。昨日の経済財政諮問会議では3%賃上げが要請されましたが、今後の賃金動向が物価に及ぼす影響が注目されます。多摩、下のパネルの基礎的・選択的支出別の上昇率を見る限り、昨年2016年11月から基礎的支出の価格上昇率が選択的支出を上回り、しかも、今年2017年2月からは選択的支出の物価上昇がマイナスに落ち込む一方で、基礎的支出がプラス、加えて、今年2017年4月からはその上昇幅が+1%に達しており、生活必需品の物価上昇が大きくて、生活実感としては通常の買い物時の値上がりをヘッドライン上昇率以上に大きいと感じかねません。したがって、多くの国民の生活水準を維持するためには、ここでも賃上げが必要となっている我が国の経済実態を指摘しておきたいと思います。

最後に、先の総選挙の争点のひとつだった幼児教育と保育の無償化について、大和総研のリポートに試算結果が明らかにされており、「保育所保育料と幼稚園保育料がともに完全無償化されるケースは▲0.9%pt程度」の影響が全国コアCPIにある、と結論しています。ご参考まで。

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2017年10月26日 (木)

徐々に上昇幅を拡大する企業向けサービス物価(SPPI)!

本日、日銀から9月の企業向けサービス物価指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPI上昇率は+0.9%、国際運輸を除くコアSPPIも+0.8%と、上昇幅は前月から大きな変化ないものの、徐々に上昇幅を拡大しつつ推移しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の企業向けサービス価格指数、前年比0.9%上昇 広告が寄与
日銀が26日発表した9月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は103.8で、前年同月比0.9%上昇した。前年比での上昇は51カ月連続。0.9%は6カ月ぶりの大きさで前月比0.1ポイント拡大した。新聞、テレビ、ネット、雑誌のすべての広告が上昇に転じ指数全体を押し上げた。前月比でも0.1%上昇し、2カ月ぶりに伸びた。
特に上昇への寄与度が高かった新聞広告では住宅や自動車の出稿が増えた。「企業収益は好調で株価も高水準にあるが、企業の広告出稿意欲は依然として低く、伸びたのは一時的」(調査統計局)とみている。サービス全体としては「価格改定期ではないため小動きだが、人手不足の宅配便や土木建築サービスでは上昇傾向が続いている」(同)という。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。対象の147品目のうち、前年比で価格が上昇したのは90品目、下落は22品目だった。上昇から下落の品目を引いた差は68品目で、8月の確報値(49品目)から19品目増えた。上昇から下落を引いた差の68品目は消費税を除いたベースでは10年平均となった11年1月以降で過去最高だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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SPPIの前年同月比で見て、7月の+0.6%、8月+0.8%から9月+0.9%と徐々に上昇率を高めましたが、引用した記事にもある通り、上昇幅が拡大した中で大きい寄与を示しているのは広告です。前年比寄与度前月差で見て、広告全体で+0.12%とほぼ総合指数の押し上げに匹敵する寄与度を示していますが、特に、新聞広告が+0.04%、次いでテレビ広告が+0.03%、加えて、インターネット広告も+0.02%の寄与となっています。私の直観としては、広告は需給要因で動きの大きい項目となっており、プラスにせよ、マイナスにせよ、寄与度としては絶対値が大きい印象があります。引用した記事にもある通り、統計作成を担当している日銀では「一時的」と見ているようですが、8月から9月にかけてのSPPI統計ではプラスで出たわけですし、最近では需給要因を反映してプラス寄与となる月が増えている印象です。広告分類の前年同月比上昇率も8月▲0.8%のマイナスから、9月には+1.0%のプラスに転じています。SPPIのウェイトで約⅓(より正確には1000分の335)を占める諸サービスのうちで前年同月比上昇率で見て比較的高い伸びを示している項目として、土木建築サービス+4.9%、警備+3.1%、職業紹介サービス+2.3%、労働者派遣サービス+1.6%などが上げられますが、人手不足が原因で高い上昇率を示していると考えてよさそうです。エコノミストの中には、人口動態を考慮すれば人手不足は長期化するとの見通しも少なくなく、物価上昇や賃上げに結びつくんではないかと私は期待しています。

本日の経済財政諮問会議では、「経済・財政一体改革」などとともに、「賃金・可処分所得の継続的な改善・拡大について」が議題として取り上げられています。賃上げに関する民間議員提案は、労使交渉の当事者である榊原経団連会長を除く3名から提出されており、引き続き、政府が賃金引き上げに何らかの影響力を及ぼそうとする姿勢が見られます。私は今『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』を読んでいるんですが、市場の効率性を重視して政府介入を排する経済学から、賃上げも含めて、何らかの政府の介入による市場の方向付けを許容する経済学に、徐々に主流派経済学が方向転換しつつあるんではないかと感じ始めています。

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2017年10月25日 (水)

勝手にランキング調査による食欲の秋の気がかりやいかに?

週初めの台風21号の列島縦断を過ぎてより、東京ではようやく穏やかな秋晴れのお天気が続いていますが、秋といえば、タイトルにある食欲の秋以外にも、読書、スポーツ、芸術などなど、いろんなアクティビティが冠せられることがあります。10月21日に勝手にランキングから食欲を中心にさまざまな秋に関する調査結果が明らかにされています。グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは勝手にランキングのサイトから引用しており、秋の性格付けについてなんですが、圧倒的に「食欲の秋」となっています。半分近い割合の支持を得ています。私はどちらかといえば「読書の秋」か「スポーツの秋」なんですが、読書は年がら年中やっている気もしますし、特に秋の特徴のひとつではないのかもしれません。「スポーツの秋」は私の父親の説によれば、1964年の東京オリンピック以降ではないか、と主張していたように記憶しています。

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「食欲の秋」の圧勝の結果を踏まえて、上のグラフは勝手にランキングのサイトから引用しており、美味しい食べ物のある季節を問うています。当然ながら、というか、何というか、ここでも秋の圧勝です。ちなみに、美味しい食べ物としてあげられたのは、「サンマ」、「ウナギ」、「鮭」をはじめ、「栗」、「松茸」、「りんご」など、さまざまな食材が上げられたそうです。

ただし、というか、何というか、美味しい食べ物のある食欲の秋の当然の帰結として、体重増加のおそれがあります。グラフは省略しますが、秋は太りやすいかどうかを問うた結果として、「感じる」17.0%に「どちらかと言えば感じる」35.1%を加えると過半数を超えた割合で秋には太りやすいと感じているようです。このあたりは要注意かもしれません。

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2017年10月24日 (火)

帝国データバンク「企業における喫煙に関する意識調査」の結果やいかに?

やや旧聞に属する話題ながら、先週10月16日に帝国データバンクから「企業における喫煙に関する意識調査」の結果が明らかにされています。pdfの全文リポートもアップされています。まず、「企業における喫煙に関する意識調査」帝国データバンクのサイトから調査結果の要旨を4点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 自社の本社事業所もしくは主要事業所内の喫煙状況について、適切な換気がされている喫煙場所がある、または屋外に喫煙場所を設けている「完全分煙」が56.2%で最も高い割合となった。社内での喫煙を不可とする「全面禁煙」は22.1%と企業の5社に1社が実施。以下、「不完全分煙」(10.0%)、「特に喫煙制限は設けていない」(7.3%)、「時間制分煙」(3.4%)が続いた
  2. 本社事業所もしくは主要事業所において、何らかの喫煙制限を設けたことによる影響について、「職場内がきれいになった」と考える企業が61.2%で突出して高い。次いで、「安全面が向上した(火事のリスク低減など)」(34.3%)、「喫煙者と非喫煙者の公平性が向上した(業務中のたばこ休憩など)」(22.7%)、「業務の改善・効率化につながった」(11.5%)が上位にあがった
  3. 今後、法令等により職場や店舗などを含む公共施設の全面禁煙が実施された場合について、自社の業績に「影響はない」とする企業が69.3%で最も高かった。「プラスの影響がある」(8.0%)や「マイナスの影響がある」(7.9%)はいずれも1割弱となった
  4. 業種別にみると、「プラスの影響がある」のは、「教育サービス」「繊維・繊維製品・服飾品製造」「電気・ガス・水道・熱供給」「人材派遣・紹介」「メンテナンス・警備・検査」などが高い。「マイナスの影響がある」では、「飲食店」が47.6%と半数近くに上ったほか、「娯楽サービス」「旅館・ホテル」「各種商品小売」「飲食料品小売」など、個人向けの『サービス』や『小売』が上位となった

いつもながら、やたらと長い調査結果要旨なんですが、リポートからいくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 主要事業所における喫煙状況 を引用しています。適切な換気がされている喫煙場所があったり、あるいは、屋外に喫煙場所を設けている「完全分煙」が 56.2%で最も高い割合となっています。私の勤務する役所もそうです。他方、社内における喫煙を不可とする「全面禁煙」は 22.1%ですから、企業の5社に1社だったことになります。以下、屋内に適切な換気がされていない喫煙場所がある「不完全分煙」が10.0%、「特に喫煙制限は設けていない」が7.3%、決められた時間に指定場所での喫煙が可能な「時間制分煙」が3.4%と続いています。何となく判る気がします。

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次に、上のグラフはリポートから 主要事業所における「全面禁煙」割合 を引用しています。規模別・業界別・地域別となっています。規模別で規模の小さな企業ほぼ「完全禁煙」の割合が高いのは、逆から見て、「完全分煙」にできないから、という理由のような気もします。私は喫煙しないので詳細不明ながら、大企業ほど「完全分煙」が多いような気がしないでもありません。それから、業種別で「不動産」がトップなのは少し意外だった気がします。もっとも、私の意識が低いのかもしれません。「金融」が2位なのは判る気がします。地域別では東京を含む南関東がトップで、近畿が2番めというのも判りやすくなっています。

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最後に、上のテーブルはリポートから 法令等による全面禁煙実施が自社業績に与える影響 を引用しています。プラスの影響では「教育サービス」の22.7%は当然な一方で、マイナスの「飲食店」47.6%はお客さんが飲食するフロアでのことなんだと理解していますが、私がよく利用する中では、カフェのスターバックスや一部のミスター・ドーナツなど、完全禁煙でもお客さんがいっぱい入って繁盛しているように見受けられますので、夜にアルコールを出すお店などが懸念しているのかもしれません。「娯楽サービズ」ではパチンコが私の頭に浮かんでしまいました。

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2017年10月23日 (月)

リクルートジョブズによるアルバイト・パートと派遣スタッフ平均時給やいかに?

来週の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートジョブズによる非正規雇用の時給調査、すなわち、アルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の9月の調査結を見ておきたいと思います。

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ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、アルバイト・パートの平均時給は引き続き2%台で堅調に推移している一方で、派遣スタッフの平均時給は1年間ややマイナスを記録する月が多かった、すなわち、昨年2016年9月から今年2017年8月までの12か月のうち10か月で前年同月比マイナスとなっていましたが、直近のでーたでは2017年9月は+2.6%とジャンプアップしています。地域的には、関東、東海、関西で特に大きな差はないんですが、職種としてはデザイナー、Web関連、編集・制作・校正などのクリエイター系が+3.3%増と特に大きな伸びを示すとともに、医療介護・教育系がまだ水面下の▲0.1%減ながら、前月8月の▲1.2%や7月の▲1.0%などから大きくマイナス幅を減じています。給与水準が低い一方で求人ボリュームの大きな医療介護系が、全体としての派遣スタッフ給与の足を引っ張っているとの分析もありましたが、ここに来て、いろんな職種の給与の上昇が始まったのかもしれません。

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2017年10月22日 (日)

明日ははたして出勤できるか?

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台風21号が関東に迫っています。明日23日の未明から明け方に強い勢力で東海地方へ上陸するおそれが強く、関東地方の通勤通学時は大荒れで、交通の足が乱れるおそれが大きいと報じられています。私はこんな日に限って、午前と午後にていねいにも2つも会議が入っていたりします。定年まで1年余りで、そうでなくても若いころから勤務評価は気にもせず、従って、まったく出世できなかったんですが、同僚に迷惑をかけることにもなりかねませんから、明日は出勤したいと予定しています。なお、上の画像はいずれも日本気象協会の日直予報士のサイトから引用しています。

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2017年10月21日 (土)

今週の読書は経済書のほかに話題の新刊ミステリなど計7冊!

今週は、経済書は大したことのないのを1冊だけで、売れっ子作家によるミステリの新刊書を2冊ほど読みました。新書も入れて計7冊、以下の通りです。

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まず、ジョン・ケイ『金融に未来はあるか』(ダイヤモンド社) です。著者は英国のエコノミストであり、金融関係で政府のレビューなども執筆したこともあるそうですが、私はよく知りませんでした。英語の原題は Other People's Money であり、直訳すれば「他人のおカネ」ということになるのかもしれません。2015年の出版です。2008年から始まる金融危機とそれに伴う景気後退(Great Recession)について論じており、今さらながらの金融本なんですが、ハッキリいって、期待外れです。金融に限らず複雑に絡まり合った需要供給構造は経済の発展に即した現状の歴史的経緯を反映しており、もちろん、いわゆるグローバル化が複雑怪奇さを一層促進したのはいうまでもないとして、かつての小さな地理的商圏を発想の原点として、いわゆる「顔の見える範囲」での大昔の金融取引に戻れ、的な志向はややうんざりします。歴史認識の違いとしかいいようがないんですが、私は西洋人的に一直線に進む歴史を念頭に置いており、グルッと回って元に戻る円環的な歴史観を持っているのであれば、あるいは、ビッグデータの活用などから個人や企業に関する詳細情報をかつての「顔が見える」に代替して活用することも可能かもしれません。人工知能(AI)が現状のように金融スコアを機械的に弾き出すだけでなく、より詳細な個別情報を分析できるようになれば、あるいは可能かもしれないと思いつつも、本書で著者自身が防衛線を張っているように、かなりナロー・バンクに近いような銀行業務の縮小とか、フィクスト・インカムなどの債券に特化したカストディアンに近い決済専業に近い業務体系とか、時計の針を逆回しにするような処方箋であるとしか思えません。それほど指摘される点ではありませんが、少なくとも、too big to fail というのは、同時に、too complexed to be regulated であり、複雑すぎて規制できない、というのも単純化し過ぎている点を別にすれば、ほぼほぼ真実に近いような気もします。その上で、金融正常化の主体となるのが政府から企業へのラインであるというのは、余りにも発想が古いというか、従来通りであり、ムリがあります。注目したがるのは規制当局の金融庁くらいのものだという気がします。せめて、政府から消費者に情報が伸びて、消費者自らが市場で選択が出来るような情報の流れを想定するくらいの発想は出来ないものでしょうか?

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次に、ジョーン C. ウィリアムズ『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』(集英社) です。著者は米国の大学の法律の研究者なんですが、長らく女性の地位向上に携わって来たらしいです。英語の原題は White Working Class であり、今年2017年の出版です。ということで、昨年2016年の米国大統領選挙でトランプ政権誕生の原動力のひとつと見なされている白人労働者階級について論じています。出版社のサイトなどで章別の構成を見れば明らかなんですが、白人労働者階級の特徴を章別に解説しています。14章から成る構成のうち、10章超を白人労働者階級の特徴の解説に当てています。そして、その前提として、米国をザックリと3つの階層に分類しています。すなわち、エリート、労働者階級、貧困層です。そして、エリートはさらに専門職と富裕層に大雑把に分けています。白人の労働者階級はエリートの中でも専門職には反感を持っている一方で、富裕層にはそれなりの敬意を払っているという特徴も指摘されています。続いて、仕事のある場所に引っ越さない、大学に行こうとしないし子供の教育には熱心ではない、人種差別や性差別の傾向がある、製造業の仕事が増加しないことを理解していない可能性がある、看護師などの女性向のピンクカラーの仕事に就こうとしない、政府の福祉政策に対して極めて無理解であ利自身が恩恵を受けていることを知らない、などと行った白人労働者階級の特徴を論じつつ、その要因についても分析を行っています。英語の原題も class ですし、邦訳でも階級と明確に訳しているように、日本以外の国ではそれなりの階級らしき構造があることは明白であり、それは貴族や王族のいない米国でも同様です。私が米国連邦準備制度理事会(FED)のリサーチ・アシスタントをしていたころも、おそらく本書では専門職のひとつに分類されるんでしょうが、ビールは日本でも有名なバドワイザーは労働者階級のビールであり、エコノミストはクアーズを飲む、といった違いがありました。そして、酒を飲んだ席のジョークながら、その昔のニクソン大統領の最大の功績のひとつは、クアーズをロッキー山脈を越えさせたことである、などといい合っていたモノです。日本ではクアーズよりもバドワイザーの方が圧倒的に知名度が高いので、私は少しびっくりした記憶があります。本書でも、p.50あたりから記述しており、買い物をするスーパーマーケット、視聴するテレビ番組などなど、目には見えにくいながら明確な階級的な特徴があります。こういった階級の特徴を、とてもステレオ・タイプながら、本書ではなかなかよく捉えていそうな気がします。ただ、私には実態をどこまで自分自身で理解しているかが不明ですので、本書の記述についてもどこまで正確なのかは十分な把握ができません。ただ、少し前に『ヒルビリー・エレジー』や『われらの息子』などを読みつつ感じたのは、ポピュリズムの交流は、確かに、米国トランプ政権誕生がもっとも画期的だったかもしれませんが、英国のBREXITや大陸欧州のいくつかの選挙でも実際に観察されることですし、こういった欧米諸国の現状を総合的に分析する必要があるような気がします。強くします。米国が典型的でドミノの倒れ始めかもしれませんが、さらに、国別ではなく世界的なポピュリズムの台頭を分析するべきではないでしょうか。かつて、ドイツのナチズム、イタリアのファシズム、日本の国粋主義など一連の思想的な流れの中で戦争に行きついてしまって、こういった流れを止められなかっただけに、世界的な分析の必要を強く感じます。

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次に、古市憲寿『大田舎・東京』(文藝春秋) です。社会学者である著者が、東京の都バス100路線に乗ってエッセイを綴っています。著者の発見というわけでもないんでしょうが、都バスは東京23区の東部でよく走っており、新宿から西ではそれほど見かけません。もちろん、バスはそれなりに走っているんですが、都バスではなく私鉄会社などが走らせているバスが増える気がします。ですから、都バスに乗るということは、いわゆる下町やウォーター・フロントを回る確率が高くなります。著者の表現では、そこに「昭和」を見ることになります。世界に冠たる大都会の東京ではなく、高齢化が進み、場所によってはシャッター商店街と化しているところもありで、花の都東京というよりも地方の印象に近いのかもしれません。私が都バスを通勤に利用したのは、1990年から91年に在外公館に出向する前に外務研修所に通うのに都02の都バスを使っていました。外務研修所は現在では相模大野だか町田だかに移転しましたが、当時は茗荷谷にあり、私は大関横丁近くの荒川区と台東区の境目あたりに住んでいました。御徒町、というか、春日通りまで地下鉄で出て、そこから大塚車庫行の都02の都バスで半年近く通勤していました。通勤はそれだけですが、都バスで馴染みあるのはやっぱり都01です。なぜか、年末12月のベートーベン第9のコンサートに何年か続けて聞きに行くことがあり、なぜか、サントリー・ホールでしたのでこの都バスで行った記憶があります。後は、都バスとの連想ゲームで、私の場合は「統計局」という回答が飛び出したりします。その昔、副都心線や大江戸線の地下鉄が出来る前、霞が関から若松町の統計局に行くのには都バスを使っていました。そのころ、私自身が統計局勤務になるとは思っても見なかったんですが、統計局勤務になって驚いたのは、朝夕の通勤時に都バスが統計局のビルに横付けされることです。本書でも、いくつか片道180円で短距離の通勤・通学バスの紹介がありますが、私は乗ったことはないながら、たぶん、新宿と統計局の間の直通の都バスが平日の朝夕に運行されていました。通勤途上で追い抜かれたり、役所の建物に都バスがデンと駐車されているんですから、なかなか壮観だったと記憶しています。

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次に、東野圭吾『マスカレード・ナイト』(集英社) です。シリーズ第3作最新作です。日本橋のホテルコルテシア東京を舞台に、ホテルのコンシェルジュである山岸尚美と警視庁の刑事である新田浩介のコンビがホテルでの犯罪を未然に防止します。しかも、事件が起こる確率がもっとも高いのは大晦日から新年を迎えるカウントダウンパーティの会場であり、しかもしかもで、そのカウントダウンパーティが仮装で行われますので、まさにこの作品のタイトル通りのマスカレード・ナイトになってしまうわけです。関西弁をしゃべる若い夫婦に、金に糸目をつけずにサプライズでプロポーズをもくろむ米国在住の日本人男性、夫婦2人を装いつつも女性1人でしかも予約時と苗字の異なるクレジットカードを使おうとする女性、ネームプレートのないゴルフバッグを持ち込んだ暗い感じの男性、家族連れで宿泊した一家の亭主の浮気相手が突然鉢合わせ、などなど、怪しさ満点の宿泊客に加えて、ホテルのスタッフは山岸尚美と総支配人の藤木は前作からのお馴染みとしても、新田をサポートする氏家の頑迷固陋な融通の利かなさとホテルへの愛情から生じた警察への非協力的な態度もあり、時刻の経過とともに、いろんな事実が明らかになる一方で、同時に複雑怪奇な様相も混迷を深めて真犯人にはたどり着かない、という結果になります。もともと、大衆瀬包摂というか、エンタメ小説ではミステリの東野圭吾と企業小説の池井戸潤が、キャラ設定やストーリ・テリングの点で、読者に訴えかける筆力といったものが抜群の双璧と私は考えていたんですが、さすがに、ミステリですので、この作品についてはプロットがやや複雑怪奇に過ぎる気がします。黙秘を続けていた犯人が、最後に新田に対してだけ自白するわけですが、何と申しましょうかで、その犯罪に対する犯人の解説がやたらと長い気がします。犯行の動機や実行の経緯などについて、しっかり読めば判らないでもないんですが、冗長というよりは長々とした説明の必要なプロットなんだろうと思います。私はエコノミストとして経済の現象について説明する場合、「オッカムの剃刀」を念頭に置きますが、どうもその観点からは、この作品はどこまで評価できるか疑問です。ただ、シリーズ第2作の『マスカレード・イブ』はもちろん第1作の事前譚の短編集でしたし、第1作の『マスカレード・ホテル』も連作短編のような構成でしたので、第3作の本作品『マスカレード・ナイト』がシリーズ初めての本格長編である、という見方も出来ます。長編ファンにはいいんではないでしょうか。

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次に、道尾秀介『満月の泥枕』(毎日新聞出版) です。作者は『月と蟹』で直木賞を受賞した売れっ子、というか、私の注目のミステリ作家であり、この作品は1年に渡って毎日新聞夕刊に連載されていたものを単行本をして出版しています。ということで、幼い娘を亡くして離婚も経験した30代半ばの主人公の男性が、姪に当たる兄の娘の小学生が母親から捨てられた際に引き取り、とともに貧乏アパートに暮らすわけありの仲間とともに、よく実態の知れない冒険を繰り広げます。アパートの仲間はバイオリン趣味の老夫婦、物まね芸人、アパートの大家の倅、売れない画家などで、この小説でマドンナ役を演じる女性がアパートの外から参加します。どういう冒険家というと、町内の剣道場の小倅から行方不明の祖父について、実は殺害されて池に沈められている恐れがある、というか、その確率が高いとして、一計を案じて1年の準備期間を経て、夏祭りの時期に町内の人々を池を浚う役割に引き込みます。案の定、池からは頭蓋骨が発見されるんですが、その後、それを持って剣道場の師範親子孫とアパート住人の面々が岐阜県に行ったりと冒険が続きます。何となく、『透明カメレオン』に似たストーリーで、わけありで過去のやや暗い主人公に対して、同じ色彩を持ちつつ、じつはかなり嘘で固めた、とまではいわないまでも、決してすべての事実を明らかにすることなく、かなりの程度にうそや隠し事を持った周囲の人が主人公を巻き込んで、何らかの事件が展開して、でも、かなり際どいご都合主義によりハッピーエンドで終わる、というミステリです。この作者の場合、初期の作品はかなり本格的な謎解きミステリ、あるいは、ホラーやサスペンスの作品が多かったような気がしますが、受賞作品が増えるに従って、わけありの登場人物がうそを交えつつ事件を進行させ、人物や事件をていねいに描写する、という作品が多くなっている気がします。別の表現をすれば、だんだんと重松清の作品に近づいている気がしてなりません。その意味で、少し私の好みから外れつつあるのが残念です。

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次に、銀座百点[編]『おしゃべりな銀座』(扶桑社) です。銀座百店会が発行するタウン誌「銀座百点」に掲載されたエッセイ50篇を収録しています。最近、とはいうものの、2004年から2016年までの掲載です。見事に、執筆者の50音順で収録されており、どうしても、私の苗字である「やゆよ」の行とか、和田さんなどは日本語の50音順でも、アルファベット順でも最後の方になります。ということは別として、執筆者は作家やエッセイストなどのライターが多いんですが、それ以外にも映画や演劇、あるいは、建築家や画家・デザイナーなどの広い意味での文化人です。もちろん、銀座がお題ですので東京の人が中心になりますが、関西人をはじめとして地方在住者も何人か見受けられます。銀座ですので、どうしても、お酒を含む食べ物のエッセイとか、ファッション関係が目立った気がします。でも、なぜか、音楽関係はほとんど出て来ませんでした。山野楽器にヤマハもありますし、私自身はヤマハでスコアを買い求めた記憶もあります。それから、食べる方では竹葉亭を取り上げた執筆者が何人かいますが、やっぱり、竹葉亭はウナギではないだろうかと思います。銀座に興味ある方には何かしら参考情報になりそうな気がします。

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最後に、小山聡子『浄土真宗とは何か』(中公新書) です。著者は日本中世宗教史の研究者だそうで、タイトル通りに浄土真宗にフォーカスしていますが、あくまで著者ご専門の中世史からの視点であり、明治以降の清澤満之などの宗教論もなくはないですが、より近代的・現代的な浄土真宗についてはフォローし切れていないように見受けました。哲学、というか、宗教論からの解明ではありません。ということで、浄土真宗の信徒として少し不満の残る内容ではあるんですが、まずまず、よく取りまとめられています。ただ、本書では否定されていますが、キリスト教になぞらえて、浄土真宗や日蓮宗などの鎌倉新仏教を宗教改革以降のプロテスタント、それまでの南都北嶺の国家鎮護仏教をカトリックになぞらえるのは、もちろん、決して全面的ではあり得ないものの、部分的ながらかなりの程度に当たっていると考えていいと私は考えています。それと、法然の浄土宗と親鸞の浄土真宗の違いは、確かに本書で指摘されている通り、神道などの他宗教や仏教の他宗派に対する寛容性もありますし、それはそれでとても大衆的な理解ではあるんですが、実は、俗の部分ではなく聖の部分の違いが大きいと私は考えており、要するに、浄土宗では僧が受戒する必要があり、僧と信徒の区別が厳格であるのに対して、浄土真宗は戒がなく、従って、僧と信徒の差はかなりの程度にあいまいです。もちろん、他宗派との違いも浄土真宗の場合は大きく、死ぬことを往生というのは同じような気がしますが、戒名ではなく法名ですし、従って、仏壇に位牌は置きません。卒塔婆を立てないのは追善供養を否定するといいつつも、七回忌くらいまでは営んだりもします。でも、冥福という言葉を浄土真宗の信者に用いつことはかなりの程度に失礼に当たりますし、呪術はもちろん、霊という言葉も使用を避けます。ほぼほぼ一神教に近いのは同じながら、浄土真宗の方がその程度は強く、しかも、かなり天上天下唯我独尊で独善的というか、排他的な色彩が強いですから、織田信長ではありませんが、戦国武将にはそれなりの脅威だったのかもしれません。

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2017年10月20日 (金)

ニッセイ基礎研「中期経済見通し」を読む!

先週10月13日付けで、ニッセイ基礎研から「中期経済見通し」が明らかにされています。対象年度は2027年度までのほぼ10年間です。主要国別を含む世界経済の中期見通しと、もちろん、日本経済の見通しをセットでリポートにしています。今日びのことですから、pdfの全文リポートもアップされています。まず、ニッセイ基礎研のサイトからリポートの要旨を4点引用すると以下の通りです。

要旨
  1. 世界経済は緩やかな回復が続いているが、労働需給が引き締まる中でも賃金、物価上昇率は依然として低水準にとどまっている。今後10年間の平均成長率は先進国では過去10年平均を上回るが、新興国は少子高齢化に伴う潜在成長率の低下などから過去10年平均を下回ることが予想される。
  2. 日本はすでに人口減少局面に入っているが、そのペースは想定されていたよりも緩やかで、先行きの見通しも上方修正されている。今後10年程度は人口減少による経済成長への影響を過度に悲観する必要はない。2027年度までの実質GDP成長率は平均1.0%となり、過去10年平均の0.5%よりも高まると予想する。名目GDPの伸びは平均1.8%となり、2023年度に政府目標の名目GDP600兆円が達成されるだろう。
  3. 人口減少、少子高齢化が進む中で経済成長率を高めるためには、女性、高齢者の労働参加拡大を中心とした供給力の向上と高齢化に対応した潜在的な需要の掘り起こしを同時に進めることが重要である。
  4. 消費者物価上昇率は10年間の平均で1.3%(消費税の影響を除く)と予想する。日本銀行が「物価安定の目標」としている2%を安定的に続けることは難しいが、1%台の伸びは確保し、デフレ脱却は実現する可能性が高い。

なかなか包括的によく取りまとめられている印象です。なお、世界経済の中期見通しも興味あるところながら、今夜のブログでは日本経済に関して、リポートからいくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。なお、この見通しでは消費税については、2019年度と2024年度にそれぞれ消費税率を2%ポイント引き上げることを想定しており、従って、予測期間最終年度には消費税率は12%に達します。

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まず、リポートの p.19 から 実質GDP成長率の推移 を引用すると上の通りです。2019年度の消費増税は年度途中の10月である上に、その次の年度の2020年度に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることから、景気押し下げ効果は限定的であるものの、逆に、2021年度が東京オリンピック・パラリンピックの反動で成長率が下振れし、また、2024年度は消費増税の影響で成長率が低下します。中期見通しですから、短期変動の循環的要因は必ずしも明確ではありませんが、まあ、そうなんだろうと私も思います。なお、上に明記した以外の年度については、ほぼ潜在成長率見合いの1%強くらいの成長で推移すると見込まれています。

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その潜在成長率について、順序が逆になりますが、リポートの p.16 から 潜在成長率の寄与度分解 を引用すると上の通りです。労働投入のマイナス寄与は必ずしも大きくなく、資本投入と技術進歩で相殺して、ほぼ1%強の水準を確保しています。

冒頭の要旨との重複をいとわず、最後に、リポートの見通しの特徴を私なりにいくつか上げると、まず第1に、消費低迷の主因は巷間いわれているような家計の節約志向や将来不安に伴う過剰貯蓄ではなく、可処分所得の伸び悩みであると明快に指摘しています。私もほぼほぼ100%合意します。まったく、その通りです。ただ、短期的には少し天候要因やマインドも影響するかもしれません。でも、リポートは中期見通しですから、所得要因以外はあり得ないと私も考えています。第2に、消費者物価については日銀のインフレ目標である2%には届かないものの、1%台は確保してデフレ脱却は達成する、と主張しています。私もそう思わないでもありませんが、インフレ率が2%に達しない場合の購買力平価に基づく為替水準がどうなるか、とても気にかかるところです。なお、リポートでは中長期的には経常収支は貯蓄投資バランスで決まるとして、為替相場は必ずしも大きな考慮が払われていません。第3に、というか、最後の最後に、いくつかのキーナンバーをバラバラと脈絡なく取り上げておくと、名目GDP600兆円は2023年度にずれ込み、経常収支は予測期間最終盤に小幅ながら赤字化する一方で、訪日外国人旅行者数は2018年に3000万人を超え、東京オリンピック・パラリンピック開催の2020年政府目標の4000万人を突破する可能性が高く、政府財政のプライマリ・バランスは2024年度の消費増税を盛り込んでも予測最終年度の2027年度にGDP比▲2.2%の赤字が残り、財政収支の黒字化は達成できず、現在の日銀の異次元緩和は2022年度に出口局面を迎え、無担保コールの政策金利は+0.1%に設定され、長期金利も上昇局面に入るが、物価目標の2%を達成できないため大きな金利上昇は見込めない、とされています。ご参考まで。

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2017年10月19日 (木)

ハリケーンの影響で9月貿易統計の米国向け自動車輸出が伸び悩む!

本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+14.1%増の6兆8110億円、輸入額も+12.0%増の6兆1408億円、差引き貿易収支は+6702億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の貿易収支、4カ月連続黒字 6702億円 米向け半導体製造装置など堅調
財務省が19日発表した9月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6702億円の黒字だった。貿易黒字は4カ月連続。QUICKがまとめた市場予想の中央値は5600億円の黒字だった。米国向けの半導体製造装置など輸出の伸びが輸入の伸びを上回り、前年同月(4866億円の黒字)より黒字幅が拡大した。
輸出額は前年同月比14.1%増の6兆8110億円と、10カ月連続で増加した。9月の為替レート(税関長公示レートの平均値)が1ドル=109.48円と前年同月から7.5%の円安となり、円建ての輸出額を押し上げたことも寄与した。
地域別に見ると、対米国が11.1%増と8カ月連続で前年実績を上回った。半導体などの製造装置や車両エンジンの増加が寄与した。対欧州連合(EU)は11.5%増、中国を含む対アジアも18.7%増となった。
輸入額は12.0%増の6兆1408億円だった。資源価格の上昇や円安で原粗油や石炭などが増加したほか、医薬品も伸びた。対米国ではエネルギー関連のほかスケソウダラのすり身などの輸入が増加したが、3カ月連続の貿易黒字だった。対中国はパソコンやテレビの輸入が増加し、7カ月連続の貿易赤字。対EUは2カ月ぶりに貿易黒字となった。
同時に発表した2017年度上半期(17年4~9月)の貿易収支は1兆9190億円の黒字だった。黒字は4期連続。輸出は前年同期比12.8%増の38兆3738億円、輸入は15.3%増の36兆4549億円だった。輸出は米国向け自動車や中国向け電子部品などが伸びた一方、輸入も石炭や液化天然ガス(LNG)などエネルギー関連が伸びたため6期ぶりに増加し、貿易黒字は前年同期から20.3%縮小した。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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貿易収支を算出するもととなる輸出額と輸入額を数量要因と価格要因に分解すると、輸出額の数量要因は米国向け輸出などが落ち込んで、輸出額の増加幅が縮小しており、他方、輸入額は数量要因が小幅な減少に転じる中で、輸入価格が高水準を維持したことで輸入金額全体のプラス幅は小幅な縮小にとどまっています。引用した記事にもある通り、9月の税関長公示レートは1ドル109.48円と、前年比+7.5%の円安水準であったことから輸出入額ともに円建てで少し膨らんでいます。為替の価格要因だけでなく、所得要因についても、世界経済の順調な回復・拡大に伴って、我が国の輸出がまさに主力輸出品である自動車などで伸びている一方で、我が国の景気も順調な回復・拡大の軌道にあり、従って、輸入額も国内経済活動に応じた伸びを示しており、輸出と輸入がともに拡大する好ましい局面に入りつつあるんではないかと私は受け止めています。4か月連続の貿易黒字はメディア受けする一方で、昨年2016年の年央から後半にかけて、すなわち、6月の英国国民投票によるBREXITと11月の米国大統領選挙のころには、経済外要因ながら、ポピュリズムの動向に伴って世界経済の先行き不透明感が増していた時期ですから、今年2017年にはその反動も感じられます。もっとも、北朝鮮情勢次第では地政学的なリスクの顕在化も懸念されます。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。輸出については、9月の輸出額の伸び率が8月を下回りましたが、基本的に、米国のハリケーンの影響であろうと私は考えています。例えば、米国向け輸出を品目別に原系列の統計の前年同月比で見て、引用した記事にもある通り、半導体等製造装置などの一般機械は+21.0%の伸びを示した一方で、自動車などの輸送機械はわずかに+1.2%にとどまっています。米国向けの電気機械輸出でも、一般消費者向けなどの音響・映像機器が▲17.8%と減少を示した一方で、事業者向けなどの重電機器は+40.0%の伸びを示しています。ハリケーンの影響に伴う米国消費の低迷が我が国の輸出にも現れていると私は受け止めていますが、逆に、極めて一時的な影響でしょうから、天候要因さえ元に戻れば輸出も増加に転じる可能性が高い、と考えるべきです。

最後に、米国で金融正常化に伴う金利引上げが議論され、さらに、イェレン議長の後任の連邦準備制度理事会(FED)議長もそろそろノミネートされるかもしれず、為替が動くことも含めて、金融要因から何らかの貿易への影響が生じるリスクについて忘れるべきではないと思います。

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2017年10月18日 (水)

日本経済研究センターによる温暖化ガス削減試算やいかに?

10月13日付けで、日本経済研究センターから「第4次産業革命の中の日本」と題して、温暖化ガス削減に関する試算が明らかにされています。試算結果のグラフを日本経済研究センターのサイトから引用すると以下の通りです。

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化石燃料価格が2050年度までに足元の6倍程度の1バレル当たり275ドルまで上昇すると、7割以上の削減も可能になる一方で、インフレ見合いの2%程度の上昇率で実質横ばいで推移すると、7割削減を目標とすると最低でも総額12兆円程度の環境税=炭素税が必要になる、と試算しています。2025年度以降にCCSによる二酸化炭素の回収・貯留が可能となるという前提ではありますが、第4次産業革命といわれる経済の情報化を進めるイノベーションを加速すれば、環境と経済、すなわち、地球温暖化防止と豊かな社会の実現の両立は十分に可能であると結論しています。

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2017年10月17日 (火)

CS第3戦は能見投手が初回にKOされて万事休す!!

  RHE
D e N A300300000 6100
阪  神000001000 180

クライマックス・シリーズ第3戦は初回に能見投手が崩れてKOされ万事休すでした。打線はウィーランド投手のカーブが最後まで打てませんでした。
ここ一番の勝負強さに欠ける阪神の実力が如実に現れた一戦となりました。どうせ勝っても広島にはかなうはずのないCSファーストステージでしたが、悔しい思いは選手とベンチとファンで共有された気がします。来シーズンこそ戦力を立て直して優勝目指して、打倒広島を胸にがんばって欲しいと思います。ファンのみなさまも、1年間の応援おつかれさまでした。

来季は優勝目指して、
がんばれタイガース!

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東京商工リサーチ「全国社長の出身大学」調査結果やいかに?

昨夜に続いて、旧聞に属する話題かもしれませんが、東京商工リサーチから10月10日付けで「全国社長の出身大学」調査の結果が明らかにされています。114万人超の卒業生を擁する日本大学が調査開始から7年連続でトップを守った一方で、都道府県別に詳しく見ると違った特徴もありました。すなわち、東日本が日本大学を中心になど東京や首都圏に所在する大学への一極集中が目立った一方で、西日本は地元や域内の大学が上位を占める場合も見受けられ、東西で異なる傾向が出ています。ということで、下のテーブルの画像は東京商工リサーチのサイトから引用しています。我が母校の京都大学は、どうしても卒業生数が不足しますので、とてもではないです、トップテンには入りません。

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なお、引用はしませんが、東京商工リサーチのサイトでは都道府県別の社長の最多出身大学のトップだけがテーブルに取りまとめられているんですが、西日本では国立大学をはじめとする地元大学が活躍しています。福岡県では福岡大学がトップですし、何と、中国地方5県、すなわち、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県ではそれぞれの県名を冠したを国立大学がトップとなっています。どうでもいいことながら、我が郷里の京都府では全国9位の同志社大学がトップだったりします。

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2017年10月16日 (月)

帝国データバンク「人口減少に対する企業の意識調査」の結果やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、帝国データバンクから10月6日付けで「人口減少に対する企業の意識調査」の結果が明らかにされています。詳細なpdfの全文リポートもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を4点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 人口減少が与える影響について、「日本全体」では企業の90.2%、「自社の属する業界」では88.2%、「自社」では78.4%が「マイナスの影響がある」と認識
  2. 自社の経営における人口減少への捉え方について、「経営課題だが、それほど重要ではない」が39.2%、「重要な経営課題である」と考える企業は27.5%となり、3社に2社が経営課題として捉えている。他方、「経営課題ではない」は21.6%にとどまる
  3. 人口減少への対応策、「労働力人口の減少に対応した商品・サービスの開発・拡充」がトップ。次いで、「国内の店舗網・販売先等の拡大充実」が続く
  4. 人口減少への対応策を実施する際の阻害要因は、「人材確保」(72.5%)が突出して高く、以下、「販路拡大」(25.5%)、「他企業との連携」(21.6%)「外部の技術力の獲得」(19.6%)、「企画提案力の獲得」(17.6%)、「技術開発・研究開発」(13.7%)が続く

ということで、私の目から見て、どうして、あるいは、どのような観点から、人口減少が日本経済に問題なのか、という企業の意識は明らかにされていませんし、回答企業がわずかに51社ですので誤差がとてつもなく大きそうな気もしますが、それなりに興味深い調査ですので簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 人口減少による影響 について、日本全体と業界と自社のそれぞれについて問うた結果です。プラスの影響は流石にゼロですし、圧倒的にマイナスの影響が指摘されているんですが、それでも、自社へのマイナスの影響は業界よりも小さく、業界のマイナスの影響は日本経済全体よりも小さい、と企業が考えている結果が明らかにされていると私は受け止めています。要するに、ヨソは大変だけど、我が社はそれほどでもない、ということなのかもしれません。

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次に、上のテーブルはリポートから 対応策実施の阻害要因 を引用しています。あくまで、対応策実施の阻害要因ですから、マイナスの影響とは異なるんですが、何がマイナスの影響の原因かが透けて見えるような気もします。というのは、圧倒的に人材確保が上げられており、2番めの販路拡大の3倍近い数字を示してます。すなわち、人口減少の問題は供給サイドであって、需要サイドではない、と企業が考えているような気がしてなりません。

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2017年10月15日 (日)

CS第2戦は雨中の大乱戦で7回に桑原投手が大きく崩れて横浜が逆王手!

  RHE
D e N A002020603 13211
阪  神021001200 6101

クライマックス・シリーズは勝利の方程式の桑原投手が7回に大きく崩れて、雨中の大乱戦で横浜が逆王手をかけました。執念のスクイズも実りませんでした。
かなり無理を押しての強行試合だった気がしますが、泥だらけになりながらの野球ですし、その上、メチャクチャに長い試合だったですから、高校野球でもここまでしないような気もします。負けて逆王手をかけられましたが、ケガがなくてよかった気もします。先発秋山投手をさっさと引っ込めたのは正解かもしれません。

第3戦は、
がんばれタイガース!

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映画「ドリーム」を見に行く!

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金曜日の雨から始まって、この週末はお天気がよくないような天気予報でしたので、この週末は室内競技を志向して、実は今日ではないんですが、NASAを舞台にして3人の黒人女性が活躍する映画「ドリーム」を見に行きました。とてもいい映画でした。
米国における黒人への人種差別を扱った映画としては、まさにモロの「ロング・ウォーク・ホーム」を見たことがあります。1955年のアラバマ州でのローザ・パークス事件とその後のバスのボイコットをテーマにしていました。ローザ・パークスにウーピー・ゴールドバーグが扮し、白人の女主人で黒人を支持するシシー・スペイセクがオスカーの助演女優賞を取ったと記憶しています。しかし、「ドリーム」ではモロの公民権運動ではなく、スプートニク・ショック後の米国の宇宙開発を支えるNASAに働く黒人女性3人が、自らの能力と度胸で周囲のサポートも得つつ差別を乗り越えていくところが感動的でした。特に、彼女たちは人種差別とともに、男女間の性差別もあったわけですし、アラフォーの黒人女性であるキャサリンが白人男性ばかりの職場や会議に乗り込んで、一瞬みんなが静まり返る、という場面が何回かありました。人工衛星の発射軌道や着水地点を計算するキャサリン、黒人女性の計算者集団を率い、後に彼女らとともにフォートランを勉強してIBM電算機を操るドロシー、白人に混じって勉強してNASA初めての黒人女性エンジニアとなるメアリー、そして、やや敵役っぽいドロシーの上司のミチェル、キャサリンの同僚のポール、逆に、彼女らを支えるハリソン本部長、加えて、実際に宇宙船に乗り込むジョン・グレン大佐がナイスガイです。いかにも、我々が想像する典型的な米国人であり、明るく前向きで、キャサリンの計算に全幅の信用を置きます。もちろん、NASAでのお仕事ばかりではなく、3人の女の子を残して亭主に先立たれたキャサリンの再婚のロマンスも進みます。舞台となる1961年にはすでにNASAにはトイレの有色人種と白人の差別はなかったとか、いろいろな批判も聞き及びますが、まあ、映画ですから多少の誇張やフィクションは混じります。それにしても、私は今年あまり映画を見ていないんですが、大当たりのとてもいい映画です。多くの方にオススメします。

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2017年10月14日 (土)

4番のホームランを完封リレーで守り切りCS先勝していきなり王手!

  RHE
D e N A000000000 041
阪  神00000200x 280

予想通りの先発で始まった投手戦のクライマックス・シリーズでしたが、4番福留選手のホームランを完封リレーで守り切って王手をかけました。
いかにもタイガースらしい勝ち方だった気がします。投手戦で始まったクライマックス・シリーズですが、6回に福留選手のツーランで先制し、中3日で先発したメッセンジャー投手から継投に入って、阪神自慢のリリーフ陣で完封リレーを完成させました。よく日程を把握していなかったので、8回からのテレビ観戦でした。第2戦はしっかり観戦したいと思います。

明日は雨かもしれませんが、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書から小説までいろいろ読んで計7冊!

今週の読書は、なかなかにして重厚な経済学及び国際政治学の古典的な名著をはじめとして、以下の通り計7冊です。がんばって読んでしまいました。

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まず、オリバー E. ウィリアムソン『ガバナンスの機構』(ミネルヴァ書房) です。著者はノーベル経済学賞を授与された世界でもトップクラスの経済学者であり、専門分野はコース教授らと同じ取引費用の経済学です。本書は、 『市場と企業組織』と『資本主義の経済制度』に続く3部作の3冊目の完結編であり、英語の原題は The Mechanism of Governance であり、邦訳書のタイトルはほぼ直訳です。原書は1998年の出版ですから、20年近くを経て邦訳されたことになります。本書の冒頭でも指摘されている通り、取引費用の経済学は広い意味での制度学派に属しており、その意味で、同じくノーベル経済学賞を受賞した経済史のノース教授らとも共通する部分があります。そして、いわゆる主流派の経済学の合理性では説明できないながら、広く経済活動で観察される事実を説明することを眼目としています。少なくとも、経済史における不均等な経済発展は主流派の超のつくような合理性を前提とすれば、まったく理解不能である点は明らかでしょう。その昔は、合理的な主流派経済学で説明できないような経済的活動については、独占とか、本書では指摘されていませんが、外部経済などに起因する例外的な現象であるとされていましたが、現在では、今年のノーベル経済学賞を受賞したセイラー教授の専門分野である行動経済学や実験経済学にも見られるように、個人の合理性には限界があり、この限定合理性の元での現象であるとか、ウィリアムソン教授やコース教授の取引費用の観点から、一見して非合理的な経済活動も合理性あるとする見方が広がって来ています。ということで、本書では取引費用から始まって、ガバナンスについて論じているのはタイトルから容易に理解されるところです。しかしながら、本書のレベルは相当に高く、おそらく、大学院レベルのテキストであり、大学院のレベルにもよりますが、大学院博士後期課程で取り上げられても不思議ではないレベルです。それなりのお値段でボリュームもあり、そう多くはありませんが、モデルの展開に数式を用いている部分もあります。書店で手に取って立ち読みした後で、買うか買わないかを決めるべきですが、読まなくても書棚に飾っておく、という考え方も成り立ちそうな気がします。だたし、最終第14章はそれほど必要とも思いませんでした。

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次に、フィリップ・コトラー/ヘルマワン・カルタジャヤ/イワン・セティアワン『コトラーのマーケティング 4.0』(朝日新聞出版) です。著者のうちのコトラー教授はノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の研究者であり、私でも知っているほどのマーケティング論の権威です。英語の原題は Marketing 4.0 であり、邦訳のタイトルはほぼそのままです。今年2017年の出版です。私は専門外なので知らなかったんですが、コトラー教授によれば、マーケティング1.0は製造者の生産主導のマーケティングであり、2.0は顧客中心、3.0は人間中心とマーケティングが進歩して来て、本書で論じられる4.0はデジタル経済におけるマーケティングです。ただし、本書でも明記されている通り、従来からの伝統的なマーケティングが消滅するわけではなく、併存するという考えのようです。もちろん、インターネットの発達とそれへのアクセスの拡大、さらに、情報を受け取るだけでなく発信する消費者の割合の飛躍的増大からマーケティング4.0への進歩が跡付けられています。といっても、私の想像ですが、おそらく、グーテンベルクの活版印刷が登場した際も、あるいは、ラジオやテレビが普及した際も、それをマーケティングと呼ぶかどうかはともかくとして、こういった新たなメディアの登場や普及によりマーケティングが大きく変化したんではないかという気がします。基本的に、経済学では市場とは情報に基づいて商品やサービスが取引される場であると理解されており、その意味で、市場で利用可能な情報が多ければ多いほど市場は効率的になるような気がします。ただ、それに関して2点だけ本書を離れて私の感想を書き留めれば、まず、本書では注目されていないフェイク・ニュースの問題があります。消費者のレビューにこれを当てはめれば、日本語でいうところの「やらせ」になり、いくつか問題が生じたことは記憶に新しいところです。こういったフェイクな情報とマーケティングの関係はどうなっているのでしょうか。フェイクな情報は市場の中で自然と淘汰されるのか、そうでないのか。私はとても気にかかります。こういったコトラー教授なんかの権威筋のマーケティング論の本を読むにつけ、今年のノーベル経済学賞を受賞したセイラー教授らの行動経済学や行動経済学における意思決定論は、おそらく、企業が市場でしのぎを削っているマーケティングにはかなわないような気がします。理論的な実験経済学や行動経済学よりも、理論化はされていないかもしれませんが、市場の場で鍛えられた実践的なマーケティングの方が、よっぽど的確に選択や意思決定を明らかにしているような気がします。いかがでしょうか。

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次に、フランソワ・シェネ『不当な債務』(作品社) です。著者はフランスのパリ第13大学の研究者であり、同時に、社会活動にも積極的に取り組み、近年では反資本主義新党NPAの活動に携わり、トービン税の実現を求める社会運動団体ATTACの学術顧問も務めているそうです。フランス語の原題は Les Dettes Illégitimes であり、邦訳のタイトルはほぼそのままです。2011年の出版です。ということで、私の目から見て、フランス国内で主流のマルクス主義経済学的な観点である蓄積論からの債務へのアプローチであり、同時に、ケインズ経済学的な観点も取り入れて、マイクロな経済主体の経済活動をマクロ経済への拡張ないしアグリゲートする際の合成の誤謬についても債務問題に適応しています。特に、この観点を日本経済に当てはめる場合、資本蓄積が先進諸国の中でももっともブルータル、というか、プリミティブに実行されており、かなりあからさまな賃金引き下げ、あるいは、よりソフィスティケートされた形である非正規雇用の拡大という形で、先進国の中でも特に労働分配率の低下が激しく、その分が実に合理的に資本蓄積に回されているわけです。最近時点での企業活動の活発さと家計部門の消費の落ち込みを対比させるまでもありません。その上で、かつての高度成長期から現在まで、債務構造が大きく変化してきているわけです。別の経済学的な用語を用いると貯蓄投資バランスということになりますが、高度成長期や、そこまでさかのぼらないまでも、バブル経済前で日本経済が健全だったころは、家計が貯蓄超過主体であり、家計の貯蓄を企業の投資の回していたわけですが、現在では、「無借金経営」の名の下に、企業はむしろ貯蓄超過主体となっており、一昔前でいえば月賦、現在ではローンを組んで、あるいは、クレジットカードによる支払いで、家計が債務を負った形での消費が進んでいるわけです。教育すら奨学金という過大な債務を学生に負わせる形になって、卒業後の雇用に歪みを生じていることは明らかです。加えて、政府債務についても、銀行やその他の金融機関、あるいは、民間企業を救済するための債務を生じている場合が多いのも事実です。こういった債務をいかにして解消するか、貯蓄と債務のあり方について、資本蓄積の過程から分析しています。かなり抽象度が高くて難しいです。私は一応、京都大学経済学部の学生だったころに『資本論』全3巻を読んでいますが、それでも、理解がはかどらない部分が少なくありませんでした。

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次に、秋元千明『戦略の地政学』(ウェッジ) です。著者は長らくNHKをホームグラウンドとして活動してきたジャーナリストです。アカデミックなバックグラウンドは明確ではありませんが、実際の外交や安全保障に関する情報には強いのかもしれません。本書では、最初の方で歴史的な戦略論、すなわち、マッキンダーのランドパワーとシーパワーの特徴やハートランドの重要性の強調、さらに、スパイクマンのリムランドからハートランドを取り囲む戦略論、マハンのシーパワー重視の戦略論、ナチスの戦略論を支えたハウスホファーなどなど、まったく専門外の私でも少しくらいなら聞いたことがあると感じさせるような導入を経て、最近の世界情勢を地政学的な観点から著者なりに解釈を試みようとしています。その基本的な考え方は、日本はシーパワーの国であり、その点から米英と連合を組み、特に、米国と同盟関係にあるのは安全保障の観点からは理由のあることである、ということについては、本書の著者以外も合意できる点かもしれません。その上で、第8章冒頭にあるように、著者は現在の安倍政権を安全保障に関する考え方が地政学に立脚しているとして大いに評価しています。吉田ドクトリンとして米国に安全保障政策を委ねて、日本は経済復興に重点を置く、という戦後の基本路線を敷いた吉田総理以来の地政学的な基本を共有していると指摘しています。その上で、やや外交辞令にようにも聞こえますが、米国をハブにしつつ、大昔のように日英同盟も模索するような視点も見られます。ただ、本書では明確に指摘していませんが、民主党政権下で米国との同盟重視から中国に方向を変更しようと模索した挙句、結局、虻蜂取らずというか、中国も袖にしてメチャクチャな反日暴動や日中対立の激化を招いた経験から、羹に懲りて膾を吹くような態度は判らないでもないものの、米国が世界の警察官を降りる現状では視点を大きく変えて、米国との同盟をチャラにする仮定での我が国の安全保障政策も、あるいは、そろそろ考える段階に達したのかもしれません。もちろん、その場合は、米国に指揮権を委ねている自衛隊の軍事行動の自律性というものも考慮する必要があります。私は専門外のシロートですので簡単にいってのけてしまうんですが、難しい問題なのかもしれません。

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次に、佐藤究『Ank: a mirroring ape』(講談社) です。私はこの作者の作品読んだのは、前作の江戸川乱歩賞受賞作『QJKJQ』が初めてで、この作品が2作目なんですが、当然の進歩がうかがえて、この作品の方が面白く読めました。前作はデニス・ルヘインの『シャッター・アイランド』の焼き直しのような気がして、どうも、オリジナリティが感じられなかったものの、本作は、おそらく、パニック小説に分類されて、高嶋哲夫の作品などと並べて評価されるような気がしますが、作品の出来としてはともかく、オリジナリティにあふれていたような気がします。以下、ネタバレを含みます。未読の方は自己責任でお願いします。ということで、要するに、アフリカで保護されたチンパンジーが「京都ムーンウォッチャーズ・プロジェクト」、通称KMWPなる霊長類の研究所、これは我が母校の京大の霊長類研究所とは違って、天才的なAIの研究家で大富豪となったシンガポール人によって設立された民間の研究機関ですが、そのKMWPに収容され、ふとしたきっかけで警告音を発してしまい、その警告音がヒトを含む霊長類を同種の生物の殺戮へと向かわせる、というものです。ただ、主人公の霊長類研究者とキーパーソンの1人であるシャガという若者など、鏡像認識の特殊な要因により軽微な影響もしくはほとんど影響を受けないヒトもおり、主人公がそのチンパンジーを始末する、というものです。警告音に対する遺伝子的な対応の違い、鏡像認識と警告音によって引き起こされるパニック現象との関係、さらに、シンガポール人大富豪がAI研究を手終いして霊長類研究に乗り換えた理由、などなど、とてもプロットがよく考えられている上に、タイトルとなっているankと名付けられたチンパンジーの警告音が引き起こすパニックの描写がとても印象的かつリアルで、さすがに作者の筆力をうかがわせる作品です。舞台を京都に設定したのも、霊長類研究とパニックが生じた際の人口や街の規模、さらには、外国人観光客の存在などの観点から、とても適切だった気がします。ただ、難点をいえば、現在から約10年後の2026年10月に舞台が設定されているんですが、AIとか霊長類研究とかの、かなりの程度に最新の科学研究を盛り込みながら、ソマートフォンとか、SNSとか、動画のアップロードとか、現状の技術水準からまったく進歩していないような気もします。このあたりは作者の科学的な素養にもよりますし、限界かもしれませんが、ここまで進歩内なら現時点の2017年でいいんじゃないの、という気もします。でもいずれにせよ、この作者の次の作品が楽しみです。

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最後に、サミュエル・ハンチントン『文明の衝突』上下(集英社文庫) です。著者は米国を代表する国際政治学者だった研究者であり、2008年に亡くなっています。英語の原題は The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order であり、邦訳タイトルは必ずしも正確ではなく、原題の前半部分だけを抜き出している印象です。英語の原点も邦訳もいずれも1998年の出版です。何を思ったか、集英社文庫から今年2017年8月に文庫版として出版されましたので、私は初めて読んでみました。よく知られた通り、第2章で文明を8つにカテゴライズしています。すなわち、中華文明、日本文明、ヒンドゥー文明、イスラム文明、西欧文明、東方正教会文明、ラテンアメリカ文明、アフリカ文明です。その上で、これらの文明と文明が接する断層線=フォルト・ラインでの紛争が激化しやすいと指摘しています。さらに、1998年の出版ですから冷戦はとっくに終わっており、以前は脅威とされていた共産主義勢力の次に出現した新たな世界秩序において、もっとも深刻な脅威は主要文明の相互作用によって引き起こされる文明の衝突である、と結論しています。このあたりまでは、あまりにも有名な本ですので、読まなくても知っている人も少なくないような気がします。もちろん、西欧文明=西洋文明中心の分析なんですが、エコノミストとしては西洋文明が覇権を握ったバックグラウンドとしての産業革命をまったく無視しているのが最大の難点のひとつだろうと感じています。専門外であるエコノミストの私ごときがこの個人ブログという貧弱なメディアで語るのはこれくらいにして、あとは、もっと著名な評論やサイトがいっぱいありますから、google ででも検索することをオススメします。何よりも、実際に読んでみるのが一番のような気もします。

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2017年10月13日 (金)

ダイヤモンド・オンラインによる「全国自治体30代未婚率ランキング」やいかに?

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やや旧聞に属する話題かもしれませんが、10月10日付けでダイヤモンド・オンラインから「全国自治体30代未婚率ランキング」が明らかにされています。上位の各自治体は上の画像の通りです。
未婚率が高いケースにはいくつかのパターンがあるということで、ダイヤモンド・オンラインのサイトから要約すると、第1には何かにつけて「ヨメ捜し」が話題になる農家はじめ第1次産業の従事者が多い街ということで、上のテーブルでは7位の三浦市、8位の常陸太田市、9位の八街市、10位の稲敷市、11位の山武市などで、いずれも農業従事者が10%近いと指摘されています。そして第2に京都市の東山区・中京区・上京区、札幌市中央区、名古屋市中区、福岡市中央区など政令市の中心部にある都市であり、就職で周辺の街、時には県境を超えて多くの20歳代前半の女性が移り住むことにより、30歳代の未婚女性の数が男性を上回って男女の比率がアンバランスになっています。
最近の合計特殊出生率は最低だった2005年の1.26より徐々に回復傾向にあるとはいえ、まだまだ低い状態が続いており、少子化に歯止めをかけるためには20歳代から30歳代の男女が子供を産むのに不安を持たない環境が重要です。現在の総選挙でも、いろんな対策が各政党の公約に盛り込まれているところ、果たしてどうなりますことやら?

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2017年10月12日 (木)

企業物価(PPI)上昇率は順調にプラス幅を拡大!

本日、日銀から9月の企業物価 (PPI)が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は前月統計からやや上昇幅を拡大して+3.0%を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の企業物価指数、前年比3.0%上昇 8年11カ月ぶり伸び率
日銀が12日発表した9月の国内企業物価指数(2015年平均=100)は99.0で前年同月比で3.0%上昇した。上昇は9カ月連続となる。上昇率は8月の2.9%から拡大し、消費増税の影響を除くと08年10月(4.5%)以来8年11カ月ぶりの大きさとなった。世界経済の回復を背景にした原油や銅など国際商品市況の持ち直しを受けて石油・石炭製品や電力・都市ガス・水道の価格が上昇した。
前月比では0.2%の上昇だった。石油・石炭製品のほか、銅の国際価格が上昇した影響で銅地金や通信用メタルケーブルといった非鉄金属製品も値上がりした。
円ベースでの輸出物価は前年比で9.4%上昇し、13年12月(12.7%)以来の高い伸びとなった。前月比では1.1%上昇と2カ月ぶりにプラスに転じた。米南部を襲ったハリケーンの影響による供給懸念からポリウレタンの原料など化学製品が値上がりした。輸入物価は前年比13.5%上昇し、伸び率は13年12月(17.8%)以来の大きさとなった。前月比では1.8%の上昇だった。原油価格の上昇が影響した。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。公表している744品目のうち前年比で上昇したのは374品目、下落したのは268品目だった。上昇と下落の品目差は106品目と8月の確報値(109品目)から3品目減った。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネルから順に、上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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PPIのヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率がプラスに転じたのが今年2017年1月統計でしたが、2017年1月の+0.5%から急速にプラス幅を拡大し、10か月足らずで+3.0%に達しています。季節調整していない原系列の指数ですが、国内物価指数の前月比も昨年2016年9月からプラスに転じ、直近9月まで13か月連続で前月比プラスを記録しています。基本的には、国際商品市況における商品価格の上昇、特に、石油価格の上昇による物価押し上げ効果があるわけですが、逆に、こういった商品市況の上昇の背景には新興国を含む世界経済の回復や拡大、昨日取り上げた国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」の用語を借りれば upswing があるわけで、我が国も含めて世界経済全体でデフレを克服して成長軌道を取り戻すパスに乗っていると考えてもいいのかもしれません。

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2017年10月11日 (水)

IMF「世界経済見通し」World Economic Outlook 見通し編を読む!

日本時間の昨夜、IMF世銀総会を前に国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook 見通し編が公表されています。世界経済の成長率が2017年+3.6%、2018年+3.7%と、7月時点での見通しからいずれも+0.1%ポイント上方修正されている一方で、我が国の成長率も2017年+1.5%、2018年+0.7%と、やや上昇修正されています。まず、同じIMFのサイトから要約を引用すると以下の通りです。

Introduction
The global upswing in economic activity is strengthening, with global growth projected to rise to 3.6 percent in 2017 and 3.7 percent in 2018. Broad-based upward revisions in the euro area, Japan, emerging Asia, emerging Europe, and Russia more than offset downward revisions for the United States and the United Kingdom. But the recovery is not complete: while the baseline outlook is strengthening, growth remains weak in many countries, and inflation is below target in most advanced economies. Commodity exporters, especially of fuel, are particularly hard hit as their adjustment to a sharp stepdown in foreign earnings continues. And while short-term risks are broadly balanced, medium-term risks are still tilted to the downside. For policymakers, the welcome cyclical pickup in global activity provides an ideal window of opportunity to tackle key challenges-namely to boost potential output while ensuring its benefits are broadly shared, and to build resilience against downside risks.

適確に取りまとめられていると思うんですが、やや長くなってしまいました。次に、IMFのブログサイトから成長率見通しの総括表を引用すると以下の通りです。なお、このテーブルだ毛ではやや愛想なしですので、クリックすると別タブでリポートの pp.14-15 の総括見通し表の2ページだけを抜き出したpdfファイルが開きます。

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ということで、リポートでも指摘されている通り、2016年半ばころから世界経済の循環的な上昇局面が力強さを増しており、ハッキリいって、誠に素直に世界景気の強さを評価し直して多くの国や世界経済の成長率が上方修正された、ということなんだろうと私は理解しています。成長率は上振れし、他方で、石油価格の下振れに伴ってインフレ率は下方修正されています。これだけをもってすれば、私のような単純な思考回路を持つエコノミストには、かなり良好な世界経済の先行き見通しだと思うんですが、IMFは世界経済の回復の不完全さを指摘しています。すなわち、IMFのブログサイトを見る限り、世界経済の回復は不完全 (incomplete) であると指摘し、3点、国内的不完全 (incomplete within countries)、国際的不完全 (incomplete across countries)、時間的不完全 (incomplete over time) を上げています。国内的不完全は、すでに分析編で指摘されている賃金の伸びの低さ (wage growth have remained low) であり、国際的不完全は、世界経済の回復から取り残されている地域が残されていると主張しており、新興市場及び低所得の1次産品輸出国、特にエネルギー輸出国では依然苦しい状況が続いている (emerging market and low-income commodity exporters, especially energy exporters, continue to face challenges) と結論しています。最後の時間的不完全は、多くの国々でより長期的な1人当たり所得の伸びが過去のトレンド成長率を下回っていることから、国や地域により原因は異なるものの、先進国では生産性の伸びの鈍化と労働力の高齢化が大きな要因となっており、構造改革政策の必要性を指摘しています。

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最後に、目を国内に転じれば、本日、内閣府から8月の機械受注が公表されています。船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は季節調整済みの系列で前月比+3.4%増の8824億円と、2か月連続で増加しています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏み」から「持ち直しの動き」に上方修正しています。いつものグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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2017年10月10日 (火)

1年間の応援おつかれさまでした、今季最終戦は見どころ多くCSに期待盛り上がる!

  RHE
中  日000000010 150
阪  神10003020x 670

阪神ファンのみなさまとともに、今季1年間の応援、誠におつかれさまでした
いきなり被弾した安藤投手の引退試合でしたが、先発メッセンジャー投手の熱投も見事なら、最後を締めた才木投手の生きのいいピッチングも印象的でしたし、石崎投手の初勝利もめでたい限りです。野手では新井内野手の姿が忘れられません。今季2000本安打を記録した鳥谷選手の1000四球も、鳥谷選手らしさを感じさせる記録だった気がします。これで週末から始まるクライマックス・シリーズがますます楽しみになりました。

ポストシーズンの試合も、
がんばれタイガース!

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小売りが牽引する景気ウォッチャーと黒字が定着した経常収支と日銀「さくらリポート」!

本日、内閣府から9月の景気ウォッチャーが、また、財務省から8月の経常収支が、それぞれ公表されています。景気ウォッチャーでは季節調史絵済みの系列の現状判断DIが前月から+1.6ポイント上昇して51.3を、先行き判断DIは▲0.1ポイント低下して51.0を、それぞれ記録し、また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+2兆3804億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の街角景気、家計の景況感が改善 選挙後には懸念
内閣府が10日発表した9月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は前月比1.6ポイント改善の51.3だった。気温の低下で秋物衣料などが堅調だった小売りを中心に家計動向を示す指数が改善した。企業動向では非製造業の改善が目立った。ただ衆院選後の消費環境を巡る不透明感が重荷で、先行き判断指数は51.0へ0.1ポイント低下した。
内閣府は基調判断を「着実に持ち直している」と、従来の「持ち直しが続いている」から変更した。現状判断指数が節目の50を上回ったため。表現変更は4カ月ぶりで、同様の表現を使うのは指数が2カ月連続で51.4を付けた16年12月以来9カ月ぶりとなる。
部門別にみると家計動向が2.3ポイント改善し50.1と、2016年11月以来10カ月ぶりに節目の50を上回った。小売関連が3.8ポイント改善し50.7と、消費増税直前の14年3月(56.4)以来3年半ぶりの高さとなった。企業動向は0.3ポイント上昇の52.3、雇用は0.4ポイント低下の57.0だった。
街角では家計動向について「残暑もなく、秋冬物の季節商材の動きが前年よりも早くなっている」(近畿のスーパー)との声があった。北関東などで新型車の販売効果やスマートフォンの販売好転を指摘する声も出た。企業動向では「海外の景気動向が良くなっている。国内の季節要因もあり国内景気は徐々によくなっている」(北関東の金融業)と指摘されたほか、広告関係から業況改善を示すコメントが目立った。半面、製造業では鉄鋼業などで受注の鈍さを懸念する声などがみられた。
2~3カ月後を占う先行き判断指数を押し下げたのは家計動向。同指数は50.2で、サービス関連の低下を主因に前月から0.3ポイント下げた。「衆議院選挙の影響で企業の接待などの減少が懸念材料」(南関東の都市型ホテル)との声があった。
8月の経常収支、2兆3804億円の黒字 8月として過去最大
財務省が10日発表した8月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は2兆3804億円の黒字だった。黒字は38カ月連続。前年同月に比べて黒字額が4100億円拡大し、8月としては過去最大の黒字額を記録した。第1次所得収支の大幅黒字や8月としては初となるサービス収支の黒字が寄与した。
第1次所得収支は2兆2385億円の黒字で、黒字幅は前年同月に比べて2575億円拡大した。8月としては過去最高の黒字額となった。円安を背景に海外子会社から受け取る配当金が増加した。
サービス収支は202億円の黒字(前年同月は506億円の赤字)だった。黒字転化は8月としては初めて。訪日外国人の増加を背景に旅行収支が8月としての過去最高の黒字を記録した。通信など情報サービス関連の支払いが減少したことも寄与した。
貿易収支は3187億円の黒字と黒字幅が1006億円拡大した。自動車や半導体などの電子部品の増加で輸出が16.3%増加した。石炭や液化天然ガス(LNG)の増加で輸入も15.1%増えたが、輸出増が上回った。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。2つの統計に関する記事を並べましたので少し長くなってしまいました。次に、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りです。影をつけた部分は景気後退期です。

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景気ウォッチャーは、先行き判断DIはほぼほぼ横ばいでしたが、現状判断DIは大きくジャンプして改善を示しました。8月から9月にかけて総合で+1.6ポイントの上昇を見せた中で、3つのコンポーネントのうち、企業動向関連が+0.3ポイントの上昇、雇用関連が▲0.4ポイントの低下だったのに対して、家計動向関連は+2.3ポイントの上昇を記録しており、家計動向関連の中でも小売関連が+3.8ポイントと突出して上昇しています。もっとも、先行き判断DIに目を転じると、企業動向関連が+0.5ポイント上昇し、雇用関連が横ばいだったのに対して、家計動向関連は逆に▲0.3ポイントの低下となっています。それにしても、引用した記事にあるような衆議院総選挙後に対する懸念というのは、どこまで一般化できるんでしょうか。私には疑問です。家計のお話しに戻ると、極めて素直に判断する限り、8月は天候要因などで家計動向はよくなかったものの、9月には天候も回復して8月から9月にかけては上向きに見えるが、しかし、それほど腰の据わった家計部門の回復・改善ではない、ということになります。ただし、現状判断DIも先行き判断DIもともにかなり高い水準にあり、マインド指標の常として、これから先もグングン上昇を続けるという可能性は低いのかもしれません。そうなれば、ユーフォリアによるバブルのような気もします。それから蛇足ながら、統計作成官庁である内閣府の基調判断ですが、先月までの「持ち直している」から「着実に持ち直している」に変更されています。私は頭の回転が鈍いので、違いがイマイチよく判りません。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。引用した記事にもある通り、円安に伴う1次所得収支の円建て額が膨らんだことに加え、おそらくインバウンドなんだろうと想像していますが、旅行収支につれてサービス収支が改善しています。季節調整済みの系列では引き続きマイナスの赤字なんですが、季節調整していない原系列の統計ではサービス収支は黒字に転化しています。政府観光局の8月統計によれば、前年同月比で見て出国日本人数が+3.9%だったのに対し、訪日外国人旅行者数は+20.9%増を記録しています。輸出入はすでに貿易統計で見ているとして、9月のデータが利用可能になりましたので経常収支の対GDP比を計算してみました。1~3月期に+3.8%を示して、それまでじわじわと上昇し続けて来ましたが、4~6月期にはとうとう4.0%をつけてピークに達し、7~9月期も+3.5%と高い水準にあります。サブプライム・バブル末期には+5%近い経常黒字を記録していましたが、貿易収支や経常収支について厳しい見方をする米国大統領の誕生に伴って、それなりの摩擦を警戒するレベルに達したような気がします。

 2017年7月判断前回との比較2017年10月判断
北海道回復している回復している
東北緩やかな回復基調を続けている緩やかな回復基調を続けている
北陸緩やかに拡大している緩やかに拡大している
関東甲信越緩やかな拡大に転じつつある緩やかに拡大している
東海緩やかに拡大している拡大している
近畿緩やかな拡大基調にある緩やかに拡大している
中国緩やかに拡大しつつある緩やかに拡大している
四国緩やかな回復を続けている緩やかな回復を続けている
九州・沖縄地域や業種によってばらつきがみられるものの、緩やかに拡大している緩やかに拡大している

日銀支店長会議で10月の「さくらリポート」が公表されています。上のテーブルの通りです。9地域中の4地域で景気判断が引き上げられています。九州・沖縄ブロックは表現振りは違っていますが、景気判断としては据え置きということのようです。

間もなく始まるIMF世銀総会に向けて、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」 World Economic Outlook の見通し編が、米国ワシントンDC時間の10月10日午前9時に公表されるとアナウンスされています。日を改めて取り上げたいと思います。

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2017年10月 9日 (月)

ノーベル経済学賞はセイラー教授に授与!

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今年のノーベル経済学賞は、行動経済学のセイラー教授に授与されました。
誠におめでとうございます。

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2017年10月 8日 (日)

先週の読書は経済書や人気の時代小説など計7冊!

米国雇用統計で1日ズレて日曜日になった先週の読書は、経済書をはじめとして計7冊です。かなりよく読んだ気がします。でも、先週の読書界の話題はカズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞だったと思います。村上春樹はどうなるんでしょうか?

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まず、小川英治[編]『世界金融危機後の金融リスクと危機管理』(東京大学出版会) です。編者は一橋大学の国際金融論を専門とする研究者であり、編者以外の各チャプターの著者も一橋大学を中心に、学習院大学、中央大学、早稲田大学のそれぞれの研究者であり、出版社も考え合わせると明らかに学術書であると理解するべきです。ですから、読み進むのはそれなりにハードルが高くなっています。でも、マクロとマイクロの両方の観点から、タイトル通りの金融リスクや金融危機管理を論じており、2007-08年のリーマン・ショックをはさんだ金融危機から、ほぼ10年を経て、やや時が経ち過ぎて気が抜けた気もしますが、それなりの分析を披露しています。ただ、繰り返しになりますが、学術書ですので読み進むのはそれほど容易でもなく、特に、本書冒頭第1章の金融危機後のリスク分析の新しい流れの解説については、数式を中心とするモデル分析であり、モラル・ハザードという聞きなれた概念からモラル・ハザードに限定されない逆選択などの情報理論、あるいは、ネットワーク効果なども含めて、従来からの、というか、リーマン・ショック以前に主流であった金融リスク分析モデルである無裁定価格アプローチの限界を明らかにしつつ、決定論と確率論を比較する試みなどは、かなり理解が難しいといえます。第1章の結論として、モラル・ハザードの理論的な分析として、ブラウン運動に基づく正規分布からの乖離、下方へのジャンプ確立を服ネタ確率密度の変更可能性の考慮、それに、いわゆるファット・テールの問題など、そういった従来にない前提の変更などを行えば、シャープ比の引下げに伴うリスク資産価格の適切な評価、あるいは、リスク効用を投資者の限界効用と逆方向にヘッジさせるように動かす可能性など、極めて興味深い指摘がいくつも込められているだけに、今後の実証が楽しみながら、金融の専門家ならざる通常のビジネスマンには理解が難しそうな気もします。ほかに、私の目から見て興味深いテーマは危機時の流動性、とくに、世界経済レベルでの流動性の最終的な供給者、すなわち、Internationa Lender of Last Resort の議論なんですが、国際的な流動性が米ドルであるならば米国連邦準備制度理事会(FED)にならざるを得ないが、世界経済の必要性と米国経済の環境が必ずしも一致するとは限らない、という指摘も可能性は低いながらあり得ることだと受け止めました。2008年リーマン・ショック後の金融危機に際しては、世界経済の観点からも、米国経済の観点からも、FEDが大幅な金融緩和、量的緩和を含みレベルの金融緩和を行うべき経済情勢の一致が世界経済レベルと米国国内経済レベルで見られましたが、特に、物価上昇率の水準次第で、必ずしも世界経済の必要と米国国内経済の必要がFEDの金融政策レベルで同じになるかどうかは保証されていうわけではありません。そうなると、国際通貨基金(IMF)はどうなのか、私が3年間暮らしたインドネシアでは、少なくとも、IMFに対する信任が高かったとはいえないと思いますし、果たして、国際流動性の最終的な供給者はどの機関が担うべきか、まだまだ国際金融の問題が解決されるには時間がかかるのかもしれません。

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次に、西川祐子『古都の占領』(平凡社) です。著者は仏文の研究者から、女性史などの研究もしているようで、京都的には、私の記憶ではその昔に寿岳章子先生がいらっしゃいましたが、その後継かつ小型版といったところなんだろうかと受け止めています。ということで、本書は、読んだ私の目から見て、京都における戦後占領の歴史の研究書というよりも、ジャーナリスト的にトピックやキーパーソンをインタビューした結果を取りまとめたものであり、逆から見て、著者である取材者のバイアスは当然に反映されています。すなわち、占領軍の兵士に着目する場合でも、京都の地域住民の生活に貢献し、市民から感謝されるような兵士もいれば、占領軍の治外法権などの特権的優越的な地位を悪用して強盗強姦などの犯罪行為そのもので地域住民を苦しめた兵士もいたんでしょうし、統計的なマクロの把握と比較であればともかく、どちらに着目するかは取材者のバイアスです。その意味で、私は本書がどこまで意味ある労作なのかは判断しかねます。同時に、戦勝国から進駐してきた占領軍と敗戦国の地域住民ですから、俗に表現しても、仲良く協同して占領目的である非軍事化と民主化を進められれば、それに越したことはないものの、決して対等な関係であるハズもなく、もしも、仮にもしもですが、本書でいくつか取り上げているような交通事故や売買春などでは、加害者と被害者に分かれるとすれば、占領軍が加害者的な立場になり、京都の地域住民が被害者的な役回りになる、というのはある意味で自然かもしれません。そして、それは大昔の京都だけではなく、現在の沖縄でも生じている関係であることはいうまでもありません。もちろん、大昔の京都と現在の沖縄の重要性を論ずるつもりはありませんし、すでに戦後長らくの期間が経過し、記録や記憶が失われつつあり、あるいは、意識的か無意識的かは別にして、決して意図的に思い出したくもないと考える日本人が少なくない中で、こういった資料の歴史を何らかの形で残しておく作業は貴重なものといえます。

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次に、マイケル L. パワー/ジェイ・シュルキン『人はなぜ太りやすいのか』(みすず書房) です。著者2人は産婦人科の医師、というか、研究者であり、邦訳者も医学の研究者です。英語の原題は The Evolution of Obesity であり、直訳すれば、「進化する肥満」とでもするんでしょうか、2009年の出版です。ということで、タイトルから明らかなように、肥満をテーマにしており、肥満とはBMIで体重との関係を測ったりはしているものの、基本的に、脂肪の過剰と定義しています。そして、もちろん、肥満については健康への阻害要因として、好ましくないものと捉えられています。しかし、人類の長い長い歴史からして、肥満が問題となり始めたのはせいぜいが20世紀からの100年間であり、肥満がほぼほぼ存在しない前史時代や人類史の初期段階を別にしても、19世紀くらいまでは肥満が問題視されることはなかったと指摘しています。まあ、人類の寿命がそれほど長かったわけでもないことから、肥満が問題視されることもなかったんではないかと考えられます。でも、人類の寿命が長くなるに従って、肥満が死亡率の高さと相関していることが注目されたようです。そして、本書では肥満に対して進化生物学的アプローチを中心に迫っており、結論として、肥満の増加はヒトという種の適応的生物学的特性と現代という時代環境との間のミスマッチに起因する、というものです。すなわち、種としての誕生以来、人類は生命維持に必要な食物獲得のために身体を動かさねばならず、現在のようなあり余る食物に恵まれることが稀な環境で数十万年を生き延びて来たわけであり、生存のための適応は、当然、食物というエネルギー摂取の効率を高める方向に働いたんですが、20世紀以降のここ100年ほどの期間では、高カロリー食料が市場に溢れ、例えば、ピザが自宅の玄関まで宅配され、身体活動は余暇のスポーツという贅沢に変わった一方で、身体は過去の進化の刻印をとどめているため、食物摂取を通じたエネルギーの過剰蓄積への歯止めが弱いまま人類は飽食の時代を迎えた、その結果が肥満である、ということになります。加えて、進化の過程で大型化した脳を支えたのが脂肪だったこと、また、脳の発達のために赤子が脂肪を豊富に蓄えて生まれてくることも、太りやすさの背景にある、と指摘します。そして、最後の結論として、「肥満の回避も何かひとつによって達成できるわけではない」ということになりますので、とても学術的な内容ながら、当然、実践的ではないわけです。私のような専門外の者の読書としては、ともかく難しかったです。一定の前提を必要とする本のような気がしますので、決して、多くの方にはオススメできません。私自身も半分も理解できたとは思えません。でも、興味あるテーマを取り扱っていることは事実です。

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次に、三浦しをん『ぐるぐる♡博物館』(実業之日本社) です。著者はご存じの通りの直木賞作家です。ミステリ作家以外で、私のもっとも好きな作家のひとりです。ですから、余りにも当たり前ですが、文章はとっても達者です。訪れた、というか、本書の表現では、ぐるぐるした博物館は、東京の国立科学博物館をはじめとして、計10館です。本書で取り上げている、というか、同じことですが著者が訪れた順に、長野の茅野市尖石縄文考古館、東京の国立科学博物館、京都の龍谷ミュージアム、静岡の奇石博物館、福岡の大牟田市石炭産業科学館、長崎の雲仙岳災害記念館、宮城の石ノ森萬画館、東京の風俗資料館、福井のめがねミュージアム、大阪のボタンの博物館、となっており、番外編としてコラムで取り上げられているのが3か所あり、熱海秘宝館、日本製紙石巻工場、和紙手すきの人間国宝である岩野市兵衛さんの工房、となっています。だいたいにおいて、名は体を表していますので、何の博物館か明らかではないかと思いますが、石ノ森萬画館の「萬画」はマンガの意味ですし、京都の龍谷ミュージアムは龍谷大学という大学があり、浄土真宗のお寺が母体となっていますが、ご同様に龍谷ミュージアムも西本願寺が母体となっていて、でも、浄土真宗に限定されず幅広く仏教を中心にコレクションを行っているようです。私は三浦しをんのエッセイは何冊か読んでいて、やや年代は異なるものの、酒井順子のエッセイについては、調べがよく行き届いていて、お利口な大学生や大学院生が提出するリポートのような印象があるのに対して、三浦しをんのエッセイは、バクチクの追っかけをやっているとか、電車に乗っている際に耳をダンボのようにして聞き及んだ街の話題とか、かなりエッセイストの生活に密着した話題が多かったような気がしていたんですが、最近では、キチンとした取材に基づいてジャーナリストのような、というか、雑誌に連載されるに堪える調べの行き届いたエッセイになっているようです。本書の博物館訪問記のエッセイも、とてもよく取りまとめてあり、ページ数の関係か何か、ボリューム的にもう少し詳細な情報が欲しいと思わないでもありませんが、楽しく読める達者な文章のエッセイに仕上がっています。テーマも博物館ですから、目からウロコの知識も得られて一石二鳥ではないでしょうか。ただ、マンガに関する石ノ森萬画館訪問の際に、とても興奮した文章が見受けられますが、マンガに関しては10年ほど前に開館した京都国際マンガミュージアムを取り上げて欲しかった気がします。それだけが残念です。

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次に、畠中恵『とるとだす』(新潮社) です。昨年15周年を迎えた「しゃばけ」シリーズの最新第15話です。長崎屋の跡継ぎの若旦那である一太郎を主人公とし、次の「まんまこと」シリーズとは違い、妖がいっぱい出て来るファンタジーです。今年2017年1月号から5月号までの「小説新潮」に連載されていた5話を収録しています。すなわち、「とるとだす」、「しんのいみ」、「ばけねこつき」、「長崎屋の主が死んだ」、「ふろうふし」です。5話が続きものになっており、一太郎の父親である長崎屋藤兵衛が広徳寺での薬種問屋の寄合で倒れてしまいますが、その原因は他の薬種問屋さんたちに勧められるまま、沢山の薬を一度に飲んでしまったことで、昏睡状態になってしまいます。藤兵衛旦那の意識を回復させるべく一太郎は奔走することになります。それが「とるとだす」とそれに続く5話で語り尽くされます。「しんのいみ」では、一太郎は江戸の海に現れた蜃気楼の世界へと紛れ込んでしまいます。さらに、「ばけねこつき」では、一太郎は奇妙な縁談話を持ちかけられ、騒動に巻き込まれます。「長崎屋の主が死んだ」では、詳細不明ながら長崎屋に恨みを持って死んだ狂骨という骸骨の亡霊のような妖もどきが現れ、次々と人を襲い、中には死に至るものも出てしまいます。最後の「ふろうふし」では、神様の大黒天が現れて長崎屋藤兵衛の本復のためのヒントをくれて、一太郎が常世の国に渡ろうとしますが、結局、お江戸の中で騒動に巻き込まれてしまいます。でも、最後は、父親の藤兵衛が回復し、めでたし、めでたしで終わります。

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次に、畠中恵『ひとめぼれ』(文藝春秋) です。人気シリーズ「まんまこと」最新刊第6話です。町名主の跡取りであるお気楽者の麻の助とその友人を主人公にし、お江戸を舞台にするシリーズで、「しゃばけ」のシリーズと違って、妖が登場しません。普通の人間ばかりです。その上、時が流れます。子供は大きくなり、老人は死んだりもします。このシリーズ第6話は、『オール読物』に2015年から16年にかけて掲載された6話を収録しています。すなわち、札差の娘と揉めて上方へ追いやられた男の思わぬ反撃に端を発する「わかれみち」、盛り場で喧伝された祝言の約束が同心の一家に波紋を呼び起こす「昔の約束あり」、麻之助の亡き妻に似た女にもたらされた3つの縁談の相手が目論むホントの目的を探る「言祝ぎ」、火事現場で麻之助が助けた双子から垣間見える家族や大店の内情とそれを原因とする騒動に巻き込まれる「黒煙」、大店次男坊が東海道で行方不明となり店の内情が明らかとなる「心の底」、沽券が盗まれた料理屋に同心一家と雪見に行ったから麻の助がその料理屋の隠された暗部を明らかにする「ひとめぼれ」の6話です。町人の営む大店や料理屋などで、一見して外からはうかがい知れない何らかの暗い部分が、麻の助の巻き込まれる騒動により明らかとなって行く短編が多く収録されており、町人や武士の商売や一家の内情に深く切り込んだ内容となっています。もちろん、楽しいことばかりではなく、暗い部分の方が圧倒的に大きいんですが、それなりに明るく乗り越えようとする麻の助とその仲間たちを微笑ましく応援できる好編です。

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最後に、木俣冬『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書) です。著者は、ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポ、インタビュー、レビューなどを得意とするライターです。この新書では、タイトル通り、NHKの朝ドラについて、特に2010年前後くらいからSNSなどで拡散し、再び大きな盛り上がりを見せていると分析しています。朝ドラが人口に膾炙し始めるのは、1966年の「おはなはん」からであるのは衆目の一致するところであり、1983年のバブルの走りのころの「おしん」がもっとも注目を集めたのもご同様です。しかし、年末大晦日の紅白歌合戦と同じで、朝ドラも長期低落傾向にあったんですが、2007-09年くらいにほぼ底を打ち、2010年度上半期の「ゲゲゲの女房」から再び上向きに転じています。最近では「あさが来た」や「とと姉ちゃん」などがヒットといえますが、かなり全体的にいい出来栄えではないかと思います。というのは、私は実はほとんどの朝ドラを毎日のように見ているからです。2003年の夏の人事異動でジャカルタから一家で帰国して、その2003年度後半は「てるてる家族」でした。本書の著者によれば、低迷期入りの第1陣を飾った作品だそうですが、石原さとみは決して悪くなかったと記憶しています。最近お作品で私が途中で見るのを止めてしまったくらいにひどかったのは「まれ」でした。本書でもややキツい評価になっています。「てるてる家族」の後は低迷期に入り、「ゲゲゲの女房」の後もいくつか駄作はありましたが、本書では2011年下半期の「カーネーション」が史上最強の朝ドラと評価されています。そうかもしれません。先週月曜日から下半期の「わろてんか」が始まりました。期待は膨らみます。

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2017年10月 7日 (土)

ハリケーンの影響で米国雇用統計の雇用者は7年振りの減少を示す!

日本時間の昨夜、米国労働省から9月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数は前月統計から▲33千人減と、7年振りの減少を示した一方で、失業率は前月から▲0.2%ポイント下がって4.2%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、Los Angeles Times のサイトから最初の6パラだけ記事を引用すると以下の通りです。

U.S. payrolls shrink for first time in 7 years: Hurricanes walloped job growth
urricanes Harvey and Irma walloped the labor market last month, causing the nation to lose jobs for the first time in seven years, the Labor Department said Friday.
Total nonfarm employment declined by a net 33,000 jobs in September compared with an upwardly revised gain of 169,000 the previous month. The Labor Department said 1.5 million workers - the most in 20 years - were not at their jobs during the survey week last month because of bad weather.
Restaurants and bars took the biggest hit. Total employment in September declined by 105,000 "as many workers were off payrolls due to the recent hurricanes," the Labor Department said.
The sector had averaged job growth of 24,000 over the previous 12 months.
"We've very confident those jobs are coming back," Gary Cohn, the top White House economic advisor, told Fox Business Network.
Analysts had expected the major hurricanes that devastated large parts of Texas and Florida would significantly reduce job growth in September, but the decline was much bigger than expected.

長くなりましたが、金融政策動向も含めて、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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ということで、非農業部門雇用者数は何と7年振り、すなわち、サブプライム・バブル崩壊後の金融危機に伴う景気後退期を終えた1年余り後の2010年9月以来の減少を記録しました。かなりの程度にテキサス州やフロリダ州を襲ったハリケーンの影響と見られています。全産業ベースで▲33千人の非農業部門雇用者減、うち民間部門で▲40千人の減少なんですが、Leisure and hospitality 産業の減少が何と▲111千人に上っています。他方で、雇用増をけん引してきた Health care and social assistance については、8月+20.9千人増の後、9月は+13.1千人増となっており、やや減速したものの引き続き雇用は増加していますし、Transportation and warehousing などでも雇用者は伸びています。加えて、失業率は低下しているわけですから、9月の雇用減少はハリケーンの天候要因による一時的なものである可能性が高いと受け止められています。さらに、米国雇用統計では一時的に給与が支払われないケースも雇用が減少したと見なしていることから、こういった制度要因もあって、9月の指標が大きく下振れした可能性があると指摘されています。従って、金融政策当局である米国連邦準備制度理事会(FED)では、引き続き、年内の追加利上げに関する検討を続けるんではないか、と多くのエコノミストは考えているようです。その理由のひとつは下のグラフに見られるように、賃金の上昇がやや加速する可能性が高まっているからです。

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ということで、時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、底ばい状態を脱して少し上向きに転じつつも、もう一段の加速が見られないと考えられてきましたが、それでも、9月は前年同月比で+2.9%の上昇を見せています。日本だけでなく、米国でも賃金がなかなか伸びない構造になってしまったといわれつつも、物価上昇を上回る賃金上昇が続いているわけですから、生産性の向上で物価に波及させることなく賃金上昇を吸収しているとはいえ、金融政策の発動が必要とされる場面も近くなるかもしれません。

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2017年10月 6日 (金)

8月景気動向指数から現在の景気回復・拡大はいざなぎ景気の57か月を超えるか?

本日、内閣府から景気動向指数が、また、厚生労働省から毎月勤労統計が、それぞれ公表されています。いずれも8月の統計です。景気動向指数のうち、CI先行指数は前月比+1.6ポイント上昇して106.8を、CI一致指数も+1.9ポイント上昇して117.6を、それぞれ記録しています。毎月勤労統計では、景気動向に敏感な製造業の所定外労働時間指数は季節調整済みの系列で前月から+1.1%増を示し、また、現金給与指数のうちのきまって支給する給与は季節調整していない原系列の前年同月比で+0.6%増となった一方で、ボーナスなどの特別に支払われた給与と合せて現金給与総額のは0.9%増を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

8月の景気一致指数、117.6に上昇 建機、半導体など堅調
内閣府が6日発表した8月の景気動向指数(CI、2010年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比1.9ポイント高い117.6と2カ月ぶりに上昇した。水準は消費増税直前の2014年3月と並ぶ高さ。建設機械や半導体製造装置など幅広い業種で出荷と生産が堅調だった。一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断は最も強気の「改善を示している」に10カ月連続で据え置いた。
8月は投資財出荷指数(輸送機械を除く)が0.79ポイント、鉱工業用生産財出荷指数が0.50ポイント、生産指数(鉱工業)が0.40ポイント、それぞれプラスに寄与した。建設機械のほか、スマートフォンなど半導体関連の生産機械が伸びた。自動車の出荷好調で耐久消費財出荷指数もプラス寄与となり、速報段階で算出できる7指標のうち5指標が指数を押し上げた。
数カ月先の景気を示す先行指数は1.6ポイント上昇の106.8と、2カ月ぶりに上昇した。
景気回復の期間などを正式に判断するデータをまとめる景気動向指数研究会の開催は、現時点では未定という。茂木敏充経済財政・再生相は9月25日の月例経済報告で現在の景気回復期間について「いざなぎ景気を超えた可能性がある」との見通しを示している。
実質賃金8カ月ぶりプラス 8月0.1%増
賃金好調、名目賃金も増加

厚生労働省が6日発表した8月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、物価上昇分を差し引いた実質賃金は前年同月比で0.1%増加した。増加は8カ月ぶり。物価上昇に賃金増が追いついた。1人当たりの名目賃金にあたる現金給与総額は27万4490円と前年同月比0.9%増加した。
名目賃金が増加したのは2カ月ぶり。現金給与総額のうち基本給にあたる所定内給与は前年同月比0.4%増の24万952円と5カ月連続で増加。残業代などの所定外給与も1.5%増の1万9012円と2カ月連続で伸びた。ボーナスなど「特別に支払われた給与」は1万4526円で6.1%増加した。
名目賃金を産業別にみると、金融・保険業(前年同月比7.1%増)や鉱業・採石業(5.2%増)などで増加が目立った。
8月の消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が0.8%上昇したため、名目賃金の伸びが実質を上回った。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、2つの統計の記事ですので、長くなってしまいました。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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7月統計では、景気動向指数のうち、速報公表時にはCI一致指数のすべてのコンポーネントがマイナスを示していたんですが、その反動もあって、8月統計ではCI一致指数、CI先行指数ともプラスを記録しています。プラス寄与の大きい順に、投資財出荷指数(除輸送機械)、鉱工業用生産財出荷指数、生産指数(鉱工業)、耐久消費財出荷指数、商業販売額(卸売業)(前年同月比)がそれぞれ寄与度で+0.1を超えており、逆に、マイナス寄与度が▲0.1より大きい、というか、絶対値で大きいのは有効求人倍率(除学卒)だけです。CI先行指数についても+1.6の大きな上昇のうち、+1.2の半分超のプラス寄与は、ともに逆サイクルの最終需要財在庫率指数と鉱工業用生産財在庫率指数となっており、在庫の調整が進んでいるわけですから、先行きのさらなる景気回復・拡大にはとてもプラスなんだろうと考えるべきです。なお、引用した記事にもある通り、現在の景気回復・拡大の期間について考えると、CI一致指数から見て現在の第16循環の拡張期が続いていると仮定すれば、内閣府か明らかにしている景気基準日付に従って、景気の谷が2012年11月ですから、拡張期間は今年2017年8月までで57か月となり、1965年10月を谷とし1970年7月を山とする第6循環、いわゆる「いざなぎ景気」の拡張期間に並んだことになります。そして、もしも、足元の9月まで景気回復・拡大が続いているとすれば、「いざなぎ景気」を超えたといえるかもしれません。なお、現在利用可能な情報では、もっとも長い景気拡張期間は2002年1月を谷とし、2008年2月を山とするサブプライム・バブル崩壊前の第14循環の73か月です。ご参考まで。

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続いて、景気動向指数を離れて、毎月勤労統計のグラフは上の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額ときまって支給する給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、3番目のパネルはこれらの季節調整済み指数をそのまま、そして、1番下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。ということで、上のグラフに沿って見ていくと、まず、景気と連動性の高い製造業の残業時間については、鉱工業生産指数(IIP)とほぼ連動して8月は増加に転じています。次に、報道でも注目を集めた賃金については、ようやく、実質賃金が上昇しています。ただ、8月統計については、ボーナスなどの特別に支払われた給与の寄与が大きくなっています。なお、上のグラフのうちの最後のパネルに見られる通り、パートタイム労働者の伸び率がかなり鈍化して、フルタイム雇用者の増加が始まっているように見えます。ですから、労働者がパートタイムからフルタイムにシフトすることにより、マイクロな労働者1人当たり賃金がそれほど上昇しなくても、マクロの所得については、それなりの上昇を示す可能性が大きいと私は受け止めています。もちろん、企業が収益力を高める一方で労働分配率は低下を続けていますから、上のグラフの3番目のパネルに見られる通り、季節調整済みの系列で賃金を見ても、なかなかリーマン・ショック前の水準に戻りそうにありません。ただ、先行きに関しては、人手不足の進行とともに非製造業などで賃金上昇につながる可能性も大きくなっており、消費を牽引する所得の増加に期待が持てると私は考えています。

9月の米国雇用統計が間もなく公表される予定ですが、日を改めて取り上げたいと思います。

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2017年10月 5日 (木)

消化試合ながらルーキー・バッテリーの活躍で中日に競り勝つ!

  RHE
中  日000001000 140
阪  神00000110x 270

最後のドリス投手こそお馴染みの顔でしたが、終盤はルーキー・バッテリーの活躍で中日に競り勝ちました。すでに順位は確定しており、まあ、消化試合であることは確かなんですが、竹安投手は初登板初勝利ですし、長坂捕手が三振のウィニング・ボールをキャッチしたのも象徴的かもしれません。長坂投手が、そのウィニング・ボールを持ってオロオロし、矢野コーチに何度か頭をはたかれていたのも印象的でした。

明日は帰って来たメッセンジャー投手を盛り立てて、
がんばれタイガース!

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東京商工リサーチ「東京都23区『社長の住む区』調査」の結果やいかに?

昨夜に続いて、とても旧聞に属する話題のような気がしますが、9月8日付けで東京商工リサーチから「東京都23区『社長の住む区』調査」の結果が明らかにされています。人数ベースでもっとも社長がたくさん住んでいるのは世田谷区で、住民との人口比ベースで社長割合がもっとも高いのは港区、などの結果が示されています。東京商工リサーチのサイトから、いくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上の表は、東京商工リサーチのサイトから引用しています。東京都23区の区別社長人数を取って、人数の多い順でソートしてあります。一目瞭然の結果で、社長が最も多く住む街は世田谷区であり、3万8,771人の社長が住んでいます。そもそも、世田谷区は人口が23区の中でもっとも多い上に、それなりの高級住宅街などもあり、当然という気もします。東京23区内に居住する社長は全部で35万5,175人に上りますが、その10人に1人に相当する10.9%が世田谷区に住んでいることになります。ただ、区内人口に対する社長の比率、すなわち、人口比では港区がもっとも高く9.9%に上ります。つまり、港区では子供も含めて老若男女の住民の10人に1人が社長さん、ということになるわけです。それはそれでスゴいような気がします。

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続いて、上のグラフは、東京商工リサーチのサイトから引用しています。エリア別で職住一致の社長の住む区 (同一区内企業経営)を見ています。なお、エリアではなく、区のベースで、経営する企業の本社と社長の住む区が同一の「職住一致」数では、世田谷区の1万8,912人が最多となっている一方で、「職住一致」の比率は台東区が71.2%とトップとなっています。エリア別の構成比は、上のグラフの通り、城東エリア63.8%、都心・副都心61.8%、城北エリア59.3%、城南エリア57.5%、城西エリア51.2%の順となっています。住宅地を多く抱える城南エリアと城西エリアは居住と仕事の分離傾向が見られるようです。

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2017年10月 4日 (水)

帝国データバンク「天候不順が企業に与える影響調査」の結果やいかに?

とても旧聞に属する話題ですが、9月8日付けで帝国データバンクから「天候不順が企業に与える影響調査」の結果が明らかにされています。東京における2017年8月の日照不足により、東京の家計消費支出は約189億2900万円、平年と比較して▲1.2%減少するとの試算が示されています。まず、帝国データバンクのサイトから結果の概要を3点引用すると以下の通りです。

調査結果 (要旨)
  1. 東京における2017年8月の日照不足により、東京の家計消費支出は約189億2900万円、平年と比較して1.2%減少すると試算される。飲料やアイスクリームなどの飲食料、住宅設備修繕、宿泊料、理美容サービス・用品の減少が目立つ
  2. 日照不足による経済波及効果は、全国でマイナス約406億9900万円と試算。産業別では、「対個人サービス」が最も高く、「商業」が続く。地域別では、「関東」が全体の86.5%を占めるものの、「近畿」や「中部」、「東北」など全国にマイナス効果が波及
  3. 2013年1月~2017年8月の「天候不順」を要因として倒産に至った企業は98社判明。業種別では「卸売業」が構成比41.8%を占め、細分類別では「野菜卸売業」が最多

推計には、総務省統計局の家計調査と国勢調査、さらに、気象庁の地点気象データに加え、経済産業省の地域間産業連関表などを用いた資産となっているようです。帝国データバンクからアップされているpdfの全文リポートからテーブルを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のテーブルはリポートから、東京都における家計消費支出への影響 を引用しています。夏の日照時間や気温などの影響を受けたアイスクリームが▲14億3300万円減少したほか、飲料は▲22億4900万円減少したことなどから、「食料」は購入機会増などの影響で増加した項目もあるが▲12億4700万円の減少と試算されています。「住居」も、屋外での日曜大工などに関連する設備修繕・維持への支出が▲90億1500万円減少したと見込まれています。また、宿泊料を含む「教養娯楽」が▲43億4400万円、理美容サービス・用品などへの支出も▲43億2300万円減少したとみられます。

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次に、上のテーブルはリポートから、産業別と地域別の全国ベースの経済波及効果 を引用しています。産業別にみると、「対個人サービス」が▲94億8800万円で最も大きなマイナスの影響を受けるとみられるほか、以下、「商業」の▲64億6600万円、「飲食料品製造」の▲36億3400万円、「金属製品製造」の▲30億7500万円、「金融・保険・不動産」の▲30億4700万円などと、マイナスが続いています。個人が長雨により外出を控えることで、関連するサービスや商品への売上減少が、また、気温の低下飲料製造へのマイナスの影響が生じたとの推計結果が示されています。さらに、地域別に波及効果をみると、「関東」が▲351億9600万円のマイナス効果となり、全体の86.5%を占めているのは当然として、以下、「近畿」が▲13億3800万円、「中部」が▲11億9700万円などと、極めて大雑把に、経済規模の順で並んでいる気もします。

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2017年10月 3日 (火)

費者態度指数は横ばいながら底堅い動きを示す!

本日、内閣府から9月の消費者態度指数が公表されています。前月から+0.6ポイント上昇し43.9を記録しています。統計作成官庁の内閣府では基調判断を「ほぼ横ばい」で据え置いています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の消費者態度指数は0.6ポイント上昇 長雨の影響一巡
内閣府が3日発表した9月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比0.6ポイント上昇の43.9だった。上昇は2カ月ぶり。東北や北陸で8月の長雨などの影響が一巡し、野菜価格などの高騰への懸念が後退した。8月の指数は前の月と比べ0.5ポイント低下していた。内閣府は消費者心理の基調判断を「ほぼ横ばいとなっている」で据え置いた。
8月の日照不足と長雨の影響をうけた東北・北陸地方の押し下げ圧力が9月はなくなり、その反動が指数改善につながった。東京や大阪、名古屋など都市圏では前月に続き安定した消費者の態度が続いている。
指数を構成する意識指標は「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」のすべてが前月を上回った。
1年後の物価見通し(2人以上世帯)について「上昇する」と答えた割合(原数値)は前月より0.1ポイント高い76.2%と2カ月連続で上昇した。一方で「低下する」との見通しは2カ月ぶりに上昇した。「変わらない」は3カ月ぶりの低下だった。調査基準日は9月15日。調査は全国8400世帯が対象で、有効回答数は5780世帯(回答率68.8%)だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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消費者態度指数を構成する各消費者意識指標について前月からの差を見ると、耐久消費財の買い時判断が+0.9ポイント上昇し43.5、暮らし向きが+0.8ポイント上昇し42.5、収入の増え方が+0.5ポイント上昇し41.8、雇用環境が+0.4ポイント上昇し47.8と、引用した記事にもある通り、すべてのコンポーネントが上昇を示しています。今年2017年に入ってからの消費者態度指数を月別に見ると、1月43.1、2月43.2、3月43.9の後、偶数月には低下し、奇数月には上昇するという一進一退の動きを繰り返しており、その中でも、43台のレンジで推移していますので、まあ、基調判断通りの「横ばい」なのかもしれません。直近では8月の長雨や日照不足に起因する野菜価格の高騰などの天候要因で低下し、9月調査ではその影響がはく落して上昇に転じた、ということのようです。消費者態度指数は典型的な需要サイドの消費者マインド指標であり、一進一退ながら底堅い動きを示し、賃上げが進まない中で、正規職員の雇用者増などに伴うマクロの所得増とともに消費を支えていると私は考えています。

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2017年10月 2日 (月)

9月調査の日銀短観では景況感がさらに上昇し設備投資も上方修正される!

本日、日銀から6月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは6月調査から+5ポイント改善して+22を記録し、本年度2017年度の設備投資計画は全規模全産業が前年度比+4.6%増と集計されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月日銀短観、大企業製造業DIは4期連続改善 07年9月以来の高さ
日銀が2日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス22だった。前回6月調査(プラス17)から5ポイント改善した。改善は4四半期連続。2007年9月(プラス23)以来、10年ぶりの高さ。半導体などの電子部品の出荷増加や電子機器、自動車関連を中心とした設備投資の改善などが景況感を押し上げた。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。9月の大企業製造業DIは、QUICKがまとめた市場予想の中央値であるプラス18を上回った。回答期間は8月29日~9月29日で、回収基準日は9月12日だった。
3カ月先の業況判断DIは大企業製造業がプラス19と伸び悩む見通し。市場予想の中央値(プラス16)は上回った。北朝鮮情勢を巡る不透明感などから先行きの見方は慎重だった。
2017年度の事業計画の前提となる想定為替レートは大企業製造業で1ドル=109円29銭と、実勢レートより円高・ドル安だった。
大企業非製造業の現状の業況判断DIはプラス23と前回と同じだった。卸売業や対事業所サービスで改善した一方、通信や宿泊・飲食サービスで悪化した。3カ月先のDIは1ポイント改善のプラス19だった。
中小企業は製造業が3ポイント改善のプラス10、非製造業は1ポイント改善のプラス8だった。先行きはいずれも悪化を見込む。
大企業全産業の雇用人員判断DIはマイナス18となり、前回(マイナス16)から低下した。DIは人員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いたもので、1992年3月(マイナス24)以来のマイナス幅となった。
17年度の設備投資計画は大企業全産業が前年度比7.7%増と、市場予想の中央値(8.4%増)を下回った。6月調査(8.0%増)からは0.3ポイント悪化した。
大企業製造業の販売価格判断DIはゼロと、前回(マイナス1)から1ポイント上昇。マイナス圏を脱するのは08年9月(プラス11)以来9年ぶり。販売価格判断DIは販売価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」と答えた企業の割合を差し引いたもの。

やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。

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ということで、規模と製造業・非製造業を押しなべて、昨年12月調査や今年3月調査に続いて3期連続で今期も景況感が改善しつつ、しかし、先行きの来期はやや落ちる、という典型的な短観の統計としての「クセ」が出ています。さはさりながら、DIですので水準よりも方向性が重要ながら、水準もかなり高くなっています。ですから、このブログでも何度か強調している通り、企業部門の景況感はとても堅調で、ソフトのマインドだけでなく、ハードデータの企業業績もグングン改善を示しています。その一方で、設備投資増や賃上げなどの要素所得への波及が生じていませんが、前回調査の結果に続いて、個人消費の関連で小売業に着目すると、大企業では、3月調査で+5の後、6月調査では+10にジャンプした後、9月調査では天候要因などからやや低下したものの、+8と引き続き高い水準にあり、先行きも+13と上昇を示す可能性が示唆されています。中堅企業小売業でも、6月調査から9月調査にかけて+7と横ばいで、先行きも同じく+7と高い水準にあります。そして、中小企業小売業でも、6月▲9から9月には▲5とマイナス幅を縮小させ、先行きでは▲4と、まだマイナスながらそのマイナス幅がちゅく称する方向にあることは事実です。こういった小売業の企業マインドから、個人消費の今後の方向も透けて見える気がします。さらに、事業計画の前提となっている想定為替レートについては、3月調査でも6月調査でも1ドル108円台の後、9月調査でも109円台で極めて安定しており、為替の安定は企業の活動計画や見通し立案の際にはそれなりに重要だという気がします。

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続いて、いつもお示ししている設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。設備については、後で取り上げる設備投資計画とも併せて見て、設備の過剰感はほぼほぼ払拭されたと考えるべきですし、雇用人員についても不足感が広がっています。特に、雇用人員については規模の小さい中堅企業・中小企業の方が大企業より採用の厳しさがうかがわれ、人手不足幅のマイナスが大きくなっています。9月調査の短観では新卒採用計画の調査項目がないんですが、就活は売り手市場が続きそうです。

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最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。今年度2017年度の全規模全産業の設備投資計画は3月調査で異例の▲1.3%減という高い水準で始まったんですが、6月調査では+2.9%増、9月調査では+4.6%と順調に上積みされています。グラフに見える通りです。日銀短観の設備投資計画は、統計のクセとして、12月調査でピークを迎え、結局、6月調査ないし9月調査の結果あたりで着地する、という実績になるようなんですが、人手不足や企業業績を考え合わせると、今年度の設備投資への期待は膨らみます。

先週、シンクタンクなどの日銀短観予想を取りまとめた際には、景況感についてはほぼ横ばい圏内の動きが予想されていましたが、円安や輸出の改善を背景に製造業の景況感が、予想を上回って一段と改善した点が注目されます。短観の統計としてのクセとして、先行きの景況感に対して企業は慎重姿勢を維持しているものの、現時点でのの内外の経済環境などを考慮すると、先行きの景況感の低下に対して過度の懸念は不要ではないかと私は考えています。

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2017年10月 1日 (日)

盤石の阪神リリーフ投手陣が巨人をAクラスから叩き落とす!

  RHE
阪  神003020000 580
読  売000200002 480

今日は、最後のドリス投手こそ久し振りに失点しましたが、タイガースご自慢の盤石のリリーフ投手陣で巨人を2タテして、ジャイアンツをクライマックス・シリーズから叩き落としました。苦手だった田口投手に黒星をつけたのも大きいかもしれません。なお、5時過ぎの現時点で、横浜球場の結果はまだ出ていませんが、クライマックス・シリーズの甲子園でのファースト・ステージの相手はかなり絞り込まれてきたような気がします。残り2試合は、いよいよ本格的な消化試合なんですから、しっかり調整してポストシーズンの試合に臨んで欲しいと思います。

残り2試合の消化試合も、
がんばれタイガース!

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ノーベル賞を予想するクラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞やいかに?

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すでに広く報じられている通り、今週はいわゆるノーベル賞ウィークであり、ノーベル賞の受賞者の発表が明日の月曜日10月2日の医学生理学賞から順次明らかにされます。すなわち、3日は物理学賞、4日は化学賞、5日は慣例によりまだ公表されていないものの文学賞が予定され、6日は平和賞、週末の土日をはさんで、9日はいよいよ経済学賞です。ということで、昨年までトムソン・ロイターから明らかにされていた引用栄誉賞が、今年からクラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞として、9月20日にプレス・リリースされています。経済学の引用名誉賞が授賞されるのは、以下の通り、3分野から6人です。なお、画像の引用元はどこか失念してしまいました。悪しからず。

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さすがに、私の専門からして、3番目の企業財務=コーポレート・ファイナンスの意思決定に関する研究で上げられている先生方は、お名前を聞き及んだくらいですが、最初の行動経済学と2番目労働経済学については以下の代表的な論文に目を通した覚えがあります。

さて、ノーベル賞ウィークの結果、特に、今年こそノーベル文学賞に村上春樹さんは選ばれるんでしょうか?

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