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2017年11月 4日 (土)

今週の読書はなぜか大量に8冊を読み切る!

台風が来なかった週末に、久し振りに自転車で図書館を回りました。今週の読書はなぜか大量に8冊に上っています。以下の通りです。

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まず、ポール・メイソン『ポストキャピタリズム』(東洋経済) です。著者は英国のジャーナリストです。かなりの年輩ではないかと読んでいて感じました。英語の原題は POSTCAPITALISM であり、邦訳タイトルはそのまんまです。原書は2015年の出版です。ということで、当然ながら、資本主義を生産様式として捉え、単なる市場における資源配分という経済学的な側面だけではなく、生産を中心とする社会的なシステムとして考えれば、資本主義の後釜はすでに250年ほど前にマルクスが提唱したごとく社会主義であり、さらのその先には共産主義が控えている、と考えられなくもありませんが、1990年代に入ってソ連が崩壊し、中国は社会主義なのか、という疑問がある中で、もはや、マルクス的な社会主義、というか、その移行過程についてはかなりの程度に否定されたと考えるべきです。ただし、本書では、古典派経済学のスミスやリカード、あるいは、マルクス的な労働価値説を援用しつつ、最終第10章で提唱されているように、「プロジェクト・ゼロ」=資本主義以後の世界として、限界費用ゼロに基づく新しいポスト資本主義の経済を描き出しています。すなわち、機械や製品の製造コストは限界的にゼロであり、労働時間も限りなくゼロに近づくことから、生活必需品や公共サービスも無料にし、民営化をやめ、国有化へ移行した上で、公共インフラを低コストで提供し、単なる賃金上昇よりも公平な財の再分配を重視し、さらに、ベーシック・インカムで最低限の生活を保障するとともに、劣悪な仕事を駆逐し、並行通貨や時間銀行、協同組合、自己管理型のオンライン空間などを促しつつ、経済活動に信用貸しや貨幣そのものが占める役割がずっと小さくなる社会の実現を目指す、としています。資本論全3巻をその昔に読破し、その他のマルクス主義文献もいくつかはひも解いた私から見て、かなりユートピアンな内容だという気もします。少し前に流行った単なるインセンティブによって、このような経済社会が資本主義に続いて自然発生的に実現するハズもなく、だから、マルクスは暴力革命とその後のプロレタリアート独裁を主張したわけで、要は、移行の問題ではなかろうかという気もします。私の歴史観からしても、歴史は円環的ではなく一直線に進み、生産力の向上の結果、かなり多数の財・サービスの価格がゼロになる経済社会は、確かに、近い将来に見通せる段階まで来ています。マルクス的な世界に近い気もします。ただ、それをどのように実現し、資本主義からポスト資本主義にどう移行するか、私はまだ決定打を持っていません。

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次に、朱寧『中国バブルはなぜつぶれないのか』(日本経済新聞出版社) です。著者は、中国の上海交通大学の研究者であり、行動ファイナンス、投資論、コーポレートファイナンス、アジア金融市場論を専門としているようです。原典は中国語で書かれており、邦訳書は英語版からの翻訳だそうです。中国語の原題は『剛性泡沫』であり、2016年の出版です。シラー教授が序文を寄稿しています。ということで、現在の中国経済のバブルについて、株式市場、土地神話に始まって、その他の金融資産市場及び実物資産市場における通常の価格決定メカニズムでは合理的な説明の出来な異様な資産価格形成について、そして、その広がりについて概観しつつ、そのバブルの原因について分析を加えています。すなわち、共産党が指導する中央政府が主導し、地方政府、国有銀行、国有企業、民間経済界も加わって、合成の誤謬を含みつつも各地方政府における経済成長を最大の目標とし、たとえ資産市場でバブルが発生していたとしても、それを政府が暗黙に保証し、しかも、「大きすぎてつぶせない」仕組みまで動員して、バブルがどんどん膨らんで行く様子が活写されています。特に、私の印象に残ったのは、事業や組織を生産することは「悪」であり、倒産・破産したり、債務支払いをデフォルトするのは大きな恥であり、メンツが潰れる、と捉える前近代的な経済観がまだ中国で主流となっている点です。西欧でも実際に存在したとはいえ、前近代的な債務奴隷の世界を思い起こさせます。事業や企業の健全な発展のための破産法制、チャプター11がもっとも整っている米国などとは大きく異なります。実は、今世紀はじめに私がジャカルタに駐在してODA事業に携わっていた折にも、インドネシアに破産法制を導入しようとしているJICA専門家がいました。私は専門外ですので、横からチラチラと眺めていただけですが、途上国では破産法制はまだまだ未整備であることは事実ですし、中国もその例から漏れないんだろうと思います。著者の見方では、経済成長最大化のために、バブルが崩壊しないように政府が暗黙の保証でサポートしていて、本来破裂するはずのバブルがなかなか崩壊しないのが現在の中国バブルの特徴、ということなんですが、それでも、その強靭なバブル、本書の中国語タイトルである「剛性泡沫」であっても、決して永遠にサステイナブルであるわけはなく、いつかはバブルが崩壊せざるを得ず、それは時間の問題である、と警告するのが本書、というか、著者の主張なんだろうと受け止めています。結論は平凡ながら、中国経済のバブルの現状について把握するのに適当な本ではないかと思います。

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次に、アンドリュー・キーン『インターネットは自由を奪う』(早川書房) です。邦訳者のあとがきによれば、著者は英国生まれのIT系企業家、著述家、コメンテータだそうで、現在は米国在住です。英語の原題は The Internet Is Not the Answer であり、ハードバック版が2014年の出版なんですが、邦訳は2015年出版のペーパーバック版を底本としています。ということで、やや邦訳タイトルは本書の全貌を網羅しているとはいえず、かなり狭い分野に限定しているようなきらいがあるんですが、要するに、インターネットに対するアンチな本です。もともと、インターネットについては民主的な幅広い参加が望めるメディアとして注目され、格差解消などに役立つ可能性が指摘され、本書では何の注目もされていませんが、私の専門分野である開発経済学などでは、世銀が「世界開発報告」2016年版で「デジタル化がもたらす恩恵」を取り上げたりもしています。しかし、同時に、勝者総取りのスーパースター経済学により格差が逆に拡大したり、プライバシーをはじめとして個人情報を含めた巨大なデータベースがかつての冷戦下での東独の秘密警察にたとえられたりと、逆に経済社会にマイナスの影響を及ぼしていると本書の著者は主張しています。そして、それらのマイナスの影響の解消のため、私が今まで接したことのない解決策が提示されており、歴史を待って人類の側でデータ量を積み上げる、という主張です。私が今まで何かにつけて接してきた中で、金融経済の弊害やインターネットをはじめとする情報化社会のマイナスの面などについて、それをさらなる技術進歩で乗り越えようという考えは、今までなかったような気がするだけに、かなり新鮮でした。ただ、それがホントに解決策になるかどうかは歴史が進まないと判りません。メディアの例を引くと、新聞などの印刷物に対して、音声で伝えるラジオ、さらに動画で伝えるテレビなどが技術進歩の結果として現れましたが、それが何らかのソルーションになったかどうかは評価の分かれるところかもしれません。まあ、本書でも指摘されているように、地道に反トラスト法なんぞをテコに、かつてのAT&Tに対峙したように巨大企業の分割、というのもアジェンダに上るのかもしれません。

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次に、スディール・ヴェンカテッシュ『社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた』(東洋経済) です。著者はコロンビア大学の社会学教授であり、本書に従えば、潜入中に終身在職権=テニュアを取得しています。アーバン・ジャスティス・センター(UJC)におけるセックス・ワーカー・プロジェクトの一環でのフィールドワークです。著者はコロンビア大学に移る前のシカゴにおいて、全米一の規模の公営団地であるロバート・テイラー・ホームズでの麻薬密売人に密着したフィールドワークで一躍有名になっています。邦訳書は『ヤバい社会学』として、同じ出版社から2009年に出ています。本書は、タイトルから明らかな通り、舞台をニューヨークに移し、ターゲットも売春婦としたフィールドワークの結果に基づくノンフィクションのリポートであり、学術書ではありません。英語の原題は Floating City であり、2013年の出版です。なお、英語の原題の "floating" は本書では「たゆたう」と邦訳されています。ということで、私はこの著者の前著は読んでいませんが、ホンワカと認識していた社会学のフィールドワークの結果を興味深く拝読しました。おそらく、前著の麻薬の密売人と違って、売春婦はかなりグローバルな存在であり、世界中のほぼすべての国や地域で少なくとも同じような性風俗産業は観察されるのではないかと思います。売春婦の中でも、下層の立ちん坊からデートクラブのコールガールまで、社会階層、というか、少なくとも所得においては決して下層とはいえず、中流以上の稼ぎのある売春婦も含めて、その実態を社会学の見地から明らかにしようと試みたフィールドワークの記録です。私自身はエコノミストですから、社会学と経済学の違いもわずかながら理解しているつもりですが、本書では pp.282-83 にかけて展開されています。いかにしてマイクロな人が階級、特に所得階級を決定するかについて、学歴とか、経験とか、何らかの知識やノウハウなんかを特定すべく、出来ることであれば統計的な検定に耐えられるサンプル、本書で「n」と称されている人数を確保し、特定化を試みることでしょう。著者は本書で社会学の2大派閥について同じような視点から触れており、エコノミストのやり方は著者の命名によれば科学派、ということになります。それに対して、著者のようなフィールドワークが配置されているわけです。そして、著者が明らかにしているように、経済学の中でも私の専門とする開発経済学の対象である発展途上国ではフィールドワークも大いに有効であろうと思います。誠に残念な点は、私自身が開発経済学の専門でありながら科学派に属していることです。比較的最近、というか、今年になってから読んだ中で、割合と同じような傾向のある本としては、1月28日付けの読書感想文で取り上げた『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』があるんですが、上から目線で、救ってやる、助けてやるといったエラそうな手柄話もなく、ニューヨークの売春婦に寄り添う、とまではいいませんが、同じ目線で何らかの出口を探る学究的なまなざしが好感持てます。

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次に、フランス・ドゥ・ヴァール『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(紀伊國屋書店) です。著者はオランダ生まれで、博士号の学位取得の後に米国に移った進化認知学の専門家です。英語の原題は Are We Smart Enough to Know How Smart Animals Are? であり、邦訳タイトルはほぼ直訳気味です。冒頭に、二派物語と題する章が置かれており、行動学派のように、動物には人間のような感情・認知・情動といったものはなく、ひたすら本能に従って生きている、と考える一派がある一方で、著者のように認知学派的に、霊長類はいうに及ばず、動物や、無脊椎銅動物、さらに、昆虫にすら何らかの認知行動や情動があると考える一派があるようです。そして、著者は p.351 において、エコノミストにもおなじみのヒュームの言葉を借りて「動物の内面も私たちの内面と似ていると判断する」として、多くの動物には認知や情動があるものとして、その例をしつこいくらいに上げています。同時に、我が母校の京都大学霊長類研究所の今西教授他の研究成果も数多く肯定的に引用されています。シロートながら私の考えるに、キリスト教的な魂の救済という宗教的バックボーンと、東洋的というか、日本でいうところの山川草木悉皆成仏のようなアニミズムに近い宗教観の差ではないかという気がします。すなわり、キリスト教的には魂を持って行動している生き物は人間だけであり、それゆえに、最後の審判では魂が救われるわけですが、日本では人間に限らず、妖怪のような存在まで含めて、生き物はすべて何らかの意義ある存在であり、決して人間を澄天とするヒエラルキーで世界が構成されているわけではない、と考えます。ですから、そして、現在の科学界の見立てでは、東洋的な人間を特別視しない世界観、宗教観がむしろキリスト教よりも科学的である、ということなんだろうという気がします。日本人には何をいまさら、という感がありますが、論旨が明快で判りやすく好感を持てる教養書です。専門外の読者にも一読の価値があります。ただ、神経系を含めて、そもそも人間にどうして認知や情動があるのかが完全には解明されていない現状で、どこまで動物の認知や情動を認めることに意味がるのか、という疑問は残ります。

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次に、佐々木彈『統計は暴走する』(中公新書ラクレ) です。著者は東大社研教授であり、専門は経済学だと思うんですが、やや期待外れの悪書でした。とてつもない上から目線で、要するに、統計を基礎にして論じている、あるいは、説得しようとしている内容について、それが著者の気に入らない主張であれば、論難する、という著書であり、著者が論難している議論よりさらにムリのある主張がツッコミどころ満載で取り上げられています。要するに、著者がこの本でいいたいことは、世論調査や統計の裏付けがあろうとなかろうと、著者の気に入った常識であればOKである一方で、どんな統計処理をシていても著者が気に入らなければNG、ということに尽きるような気がします。それ以外の論点はありえません。およそ、雑でガサツで特段の根拠ない議論が堂々巡りで展開されています。いくつか例を上げておくと、第4章で展開されているような二酸化炭素と地球温暖化の関係、喫煙と発がんの関係などは、どの等な統計を持ってどちらからどちらの方向の相関ないし因果を論証しても、著者が気に入る唯一のルート、すなわち、二酸化炭素は地球温暖化を促進し、喫煙は発がん確率を高める、という因果関係意外はすべて否定されるべきもののようです。そして、その著者の考えるカギカッコ付きの「正しい因果関係」は本書では何ら論証されていません。どうも、著者の考えはアプリオリに正しいと前提されているようです。私が本書を読んだ限り、「暴走」しているのは統計ではなくて、本書の著者のような気がします。よくこんな内容を東大社研の連続セミナーで取り上げたもんだと感心しています。十分批判的な目で読書できる自身がない場合はパスするのが賢明のような気がしますが、怖いもの見たさの読書を否定するつもりはありません。

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次に、日本再建イニシアティブ『現代日本の地政学』(中公新書) です。見ての通りの地政学と地経学に基づき、13章に渡って日本が直面するリスクについて、各専門分野の著者が解説を加えています。すなわち、第1部では安全保障について、米国のアジア太平洋戦略、中国の海洋進出、不安定な朝鮮半島のリスク、中国外交、ロシア、トランプ政権下の米国、そして第2部では地球規模のリスク要因として、エネルギー、サイバー攻撃、気候変動、トランポ政権の経済政策、中国の一帯一路戦略とAIIBの展開、ポストTPPの通称戦略、地政学と地経学などなど、興味あるテーマが並んでいます。現時点での日本のリスクは、何といっても、安全保障面では、いわゆる核の傘を含めて、全面的に米国に依存しつつ、経済学的には中国への依存をじわじわと強めている点です。米国の安全保障政策・戦略についても、オバマ政権期にピボットとか、リバランスと称して、アジア太平洋の重視に戦略を転換しましたが、トランプ政権における安全保障についてはまだ不明な点が多く残されています。安倍総理との首脳間の信頼関係は強いように見受けられますが、政府としての組織の間での協力関係はどうなんでしょうか。この方面の知識は私には皆無に近く、まったくのシロートなのがお恥ずかしい限りなんですが、北朝鮮は本書では「すぐ崩壊しそうにない」(第3章冒頭のp.47) なんでしょうか。私はすでに末期症状に入っているような気になっていたんですが、謎が深まる限りです。TPPについては、私はまったく先行きの見通しをもてません。ただ、本書ではTPPにまだご執心で、日EUの経済連携協定については無視されていたりします。どうしてもこういったテーマになると、米中に加えて朝鮮半島には注目するものの、なぜか、欧州は軽視されがちになるような気がします。

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最後に、若竹七海『静かな炎天』(文春文庫) です。この作者の葉村晶シリーズの最新刊の短編集です。10年余振りのシリーズだと思ったんですが、2014年に『さよならの手口』と題する長編が出版されていたらしく、大慌てで併せて読みました。いずれも文春文庫からの出版です。なお、本作『静かな炎天』の前に出版されている同じシリーズについては、『さよならの手口』も含めて、『プレゼント』、『依頼人は死んだ』、『悪いうさぎ』はすべて私は読んでいます。主人公の葉村晶は女性探偵なんですが、シリーズ物としてとてもめずらしいことに、ほぼほぼ実際の出版と整合的に年令を重ねて行きます。最初の短編集は『プレゼント』であり、小林刑事シリーズの短編と交互に並んでいた記憶があるんですが、葉村晶のデビューは20歳代半ばか後半でした。そして、読み逃していて大慌てで読んだ『さよならの手口』では40代に入っており、この作品では40代も半ばの設定で、40肩で苦しんでいたりします。この短編集では5話目の「血の凶作」が私は一番おもしろかったです。そして、改めて、このシリーズの場合は、長編ではなく短編がいいと強く感じました。長編最新作の『さよならの手口』の文庫版解説にも明記されていたんですが、長編だとついついややこしい、というか、いくつか複数の謎を織り込まれてしまい、通常のミステリなら3-4作品くらいの謎が『さよならの手口』には詰め込まれています。それを評価する読書子もいるんでしょうが、少なくともミステリの場合は「オッカムの剃刀」よろしく、単純な謎解きの方が私は好きです。単なる好き嫌いのお話なんですが、複雑な謎を長々と解き明かされて喜ぶんではなく、シンプルな謎解きを、まさにカミソリのようにスパッと提示される方がミステリの醍醐味だと思います。最後に、このシリーズの主人公の女性探偵である葉村晶は、出版社の謳い文句によれば「不運な探偵」ということになっており、特のこの作品の最終話の「聖夜プラス1」が典型なんですが、私はこういうのを不運とはいわずに、単なるお人好しではないか、と受け止めています。ご参考まで。

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