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2018年2月28日 (水)

大きな減産となった鉱工業生産指数(IIP)とやや停滞を示す商業販売統計!

本日、経済産業省から鉱工業生産指数 (IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも1月の統計です。鉱工業生産指数(IIP)は季節調整済みの系列で前月から▲6.6%の減産を示し、商業販売統計のうちのヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.6%増の11兆7700億円を、また、季節調整済みの系列の前月比は▲1.8%減を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産1月6.6%低下 4カ月ぶりマイナス
経済産業省が28日発表した1月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み、速報値)は99.5と、前月に比べ6.6%低下した。低下は4カ月ぶり。自動車や土木建設機械などの生産が振るわなかった。経産省は基調判断を「持ち直している」から「緩やかな持ち直し」に引き下げた。
生産指数はQUICKがまとめた民間予測の中央値(4.0%低下)も下回った。低下幅は東日本大震災が起きた2011年3月(16.5%低下)以来の大きさ。基調判断の引き下げは、15年8月に前月の「一進一退」から「弱含み」にして以来、2年5カ月ぶりとなる。
全15業種のすべてで前月比マイナスだった。低下が目立ったのは輸送機械工業で14.1%低下した。北米での自動車販売の鈍化などを背景に乗用車や自動車部品の生産が落ち込んだ。汎用・生産用・業務用機械工業も7.8%低下。ショベル系掘削機械や金属工作機械などが振るわなかった。
出荷指数は5.6%低下の98.3だった。在庫指数は0.6%低下の108.8。在庫率指数は3.0%上昇の113.8だった。
メーカーの先行き予測をまとめた製造工業生産予測調査では2月が9.0%上昇、3月は2.7%低下だった。
1月の小売販売額、前年比1.6%増 3カ月連続プラス
経済産業省が28日発表した商業動態統計(速報)によると、1月の小売業販売額は前年同月比1.6%増の11兆7700億円だった。前年実績を上回るのは3カ月連続。原油高で石油製品の価格が上昇。天候不順による野菜の値上がりも影響した。経産省は小売業の基調判断を「緩やかに持ち直している」で据え置いた。
業種別では、燃料小売業が11.2%増と伸びが目立った。飲食料品小売業も2.0%増えた。一方、自動車小売業は0.3%減少。新型車の投入が一巡し、18カ月ぶりに前年割れとなった。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計で1兆6828億円と前年同月に比べ0.5%増えた。既存店ベースも0.5%増だった。
コンビニエンスストアの販売額は9323億円と1.8%伸びた。加熱式タバコやプリペイドカードが好調だった。

やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上は2010年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下のパネルは輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは中央値で▲4.0%の減産、予測レンジの下限でも▲5.3%の減産でしたので、その下限を突き抜けた大きなマイナスと受け止めています。ただ、製造工業生産予測調査では2月が+9.0%の増産と見込んでおり、実績ではやや下振れしがちな指標である上に、3月が▲2.7%の減産と見込まれているとはいえ、短期に1月減産のかなりの部分を取り戻す、という計算が成り立ちます。いずれにせよ、引用した記事では注目していませんが、中華圏の春節が2月16日に当たったカレンダー要因が生産の大きな振れに影響を及ぼしているようです。私が役所の仕事を始めた1980年代前半にはほぼほぼ考えられなかったことですが、中国をはじめとする中華圏経済がプレゼンスを高めている結果であることは間違いありません。ですから、2月生産の実績を見てみたい気が私はするんですが、統計作成官庁の経済産業省では気が早いというか、何というか、基調判断を「持ち直し」から「緩やかな持ち直し」に引き下げています。ただ、繰り返しになりますが、私は2月の統計も見たい気がします。というのも、1月統計では生産▲6.6%の減産、出荷も▲5.6%の低下を示しているうち、この生産と出荷に共通して、業種別では輸送機械工業、はん用・生産用・業務用機械工業、電子部品・デバイス工業が低下業種に上げられている一方で、2月の製造工業生産予測調査では、はん用・生産用・業務用機械工業、輸送機械工業、電子部品・デバイス工業が、やや並びが異なるとはいえ、上げられており、1~2月をならして見れば、統計公表のたびに経済実態の見方をアタフタと変更する必要はない可能性も否定できません。もちろん、直観的には1~3月期に生産はマイナスをつけそうな気もします。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた期間は景気後退期です。ということで、小売販売額は前年同月比で+1.6%増ながら、消費者物価が生鮮食品を除くコアCPIで+0.9%、ヘッドラインで+1.4%、持ち家の帰属家賃を除く総合で+1.7%のそれぞれ上昇を示していますから、実質値への変換は家計調査と違ってバスケットのウェイトが違うので簡単ではないものの、ほぼゼロくらいの感じで私は受け止めています。東京でも積雪が見られた天候要因のほかに、生鮮食品の値上がりによる実質所得の低下や伸び悩みが下押し要因となったと私は考えています。ただ、基調としては緩やかな回復・拡大が続いていて、先行きも引き続き緩やかな回復・拡大が継続するものと私は見込んでいます。春闘で政府の目論見通りに3%賃上げがなされれば、消費はさらに回復・拡大を続けると見込まれますが、賃上げ率がこれに達しない可能性も大いにあります。消費のさらなる増加のためには賃上げによる所得のサポートが欠かせませんし、賃上げは生鮮食品などの価格の上昇を埋め合わせ、さらに、デフレ脱却につながるわけですから、ある程度の賃上げの実現が待たれるところです。

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2018年2月27日 (火)

1年を経てプレミアム・フライデーは何をもたらしたか?

昨年2017年2月24日(金)に始まってから、先週2月23日(金)でプレミアム・フライデーは1年を経過しました。これを受けてインテージから「プレミアムフライデー施行から1年、定着はいかに?」と題する調査結果が先週2月20日に明らかにされています。1年前の同様の調査との比較が可能となっています。私はそれほど興味はないんですが、図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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1年前と比べて、さすがにプレミアム・フライデーの認知率は大きく向上しました。1年前は「知らない」が30%を超えていたんですが、最近時点では3%ほどにとどまります。ただし、グラフの引用は省略しますが、勤務先におけるプレミアム・フライデーの実施あるいは奨励に関する状況を聞いてみると、「奨励・実施している」と回答したのは最近時点でも11.0%にとどまっています。1年前調査では、プレミアム・フライデー初回が勤務先で「奨励された」または「実施された」と回答した人の合計が10.5%だったことを考えると、1年を経過してもほとんど奨励や実施の割合は伸びておらず、制度自体は認知されつつも、実際に早帰りがしやすい環境にある人はほとんど増えていない現状が調査結果から浮き彫りにされています。また、これもグラフの引用は省略しますが、プレミアム・フライデーの早帰り状況については、1月末までの12回のプレミアム・フライデーのうち1回でも早帰りをしたことがあるのは、わずかに8.3%であり、逆から考えると、90%超の人は1回も早帰りをしなかったことになります。昨年2017年2月24日(金)の初回実施時に早帰りを実行した人は3.7%でしたので、倍増を超えていますから確かに増加しているとはいえ、まだまだ幅広い普及にはほど遠いようです。

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そして、上のグラフはプレミアムフライデーの勤務先における奨励・実施状況と当日の早帰り状況について、企業規模別にみたものです。奨励・実施も、早帰りの実行も、いずれも割合はかなり低いとはいえ、1,000人以上規模の大企業に大きく偏った印象を受けるのは私だけでしょうか。

私はプレミアム・フライデーについては、実施当初は、雇用の安定した正規職員が早帰りをして、非正規職員が小売り店や飲食店などで対応に当たるという姿をイメージしないでもなかったんですが、どうも、切り分けるポイントは正規と非正規ではなく、大企業と中小企業だったのかもしれません。ただし、この調査結果を基に知り合いのエコノミストと少し雑談をしていると、一般的な常識を当てはめれば、いずれにせよ高所得者の消費の方がより大きく増加したのだとすれば、あくまでその仮定の下では、所得の再分配には効果があった可能性がある、という点を示唆されてしまいました。そうなのかもしれません。

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2018年2月26日 (月)

リクルートジョブズによる非正規雇用の賃金動向調査結果やいかに?

今週金曜日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートジョブズによる非正規雇用の時給調査、すなわち、アルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の1月の調査結を見ておきたいと思います。

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ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、アルバイト・パートの平均時給の上昇率は引き続き2%を超えてで堅調に推移していて、特に1月統計では1,019円と前月からは低下したものの、高い水準を維持し続けています一方で、派遣スタッフの平均時給は、一昨年2016年9月から昨年2017年8月までの12か月ではマイナスを記録する月の方が多かったくらいですが、昨年2017年9月からはふたたびそれなりのプラス幅を記録していて、1月は前年同月比で+2.6%上昇し、1,654円に達しています。引き続き、非正規雇用の求人は堅調と考えてよさそうです。

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2018年2月25日 (日)

日本気象協会による第2回桜開花予想やいかに?

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ちょうど2週間前の2月11日に第1回の桜開花予想を取り上げましたが、先週2月21日に日本気象協会から「第2回 桜の開花予想」が明らかにされています。上の画像と以下の解説は日本気象協会のサイトから引用しています。

各地の桜(ソメイヨシノほか)の2018年予想開花日の傾向
2018年の桜の開花は、九州で平年並みかやや早く、その他の地域では平年並みの予想です。桜前線は、3月20日に熊本と宮崎、高知でスタートします。21日には長崎と鹿児島、続いて23日に福岡、佐賀、24日には東京と大分で開花する見込みです。そして3月末までに四国、中国、近畿、東海、関東の多くの地点で開花するでしょう。桜前線はその後も順調に北上し、4月上旬には北陸や東北南部に達し、4月中旬以降には東北北部や長野県でも開花する見込みです。桜前線が津軽海峡を渡るのは、5月に入ってからとなりそうです。

昨日はかなり暖かだったんですが、今日はまた寒くなっています。この先もこういった寒暖の繰り返しかもしれませんが、春が待ち遠しいです。引用ばかりで悪しからず。

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2018年2月24日 (土)

今週の読書は経済書を中心に計7冊!

先週末に自転車で図書館を回ると、予約しておいた本がいっぱい届いていましたので、ついつい今週は読み過ぎた気がします。経済書を中心に計7冊なんですが、新書が2冊ですし、それほどのボリュームではありませんでした。今日はこれから図書館を周る予定ですが、来週もそこそこな量の読書をするような予感です。

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まず、チャールズ・ウィーラン『MONEY もう一度学ぶお金のしくみ』(東洋館出版社) です。著者は米国ダートマス大学の経済学研究者であるとともに、経済学や統計学の入門書のライターとしても人気あるところで、本書の英語の原題は Naked Money なんですが、すでに、Naked EconomicsNaked Statistics というタイトルで、いかにも同一ラインにあると思しき本を出版しています。本書の英語の原書は2016年の出版です。ということで、翻訳者の1人である山形浩郎が役者解説にも書いていますが、本書の内容は Naked Economics に含まれていないのか、という疑問が残りますが、私は読んでいないので詳細は不明ながら、まあ、含まれないわけはない一方で、別途論じてもいいともいえるような気がします。本書では基本的にとても標準的な経済学の見方考え方をベースに、冒頭にマネー=お金の役割について、会計的な計算単位、価値貯蔵手段、交換手段の3つのを提示し、その後も、金本位制のような本来的に価値あるもの、貴金属とは限らないものの、何らかの使用価値あるモノにマネーを結び付ける制度や現行の管理通貨制度、さらには話題のビットコインまで、もちろん、国内金融だけでなく国際的な取引の為替まで、幅広くマネーやその制度を概観しつつ、やっぱり、というか、何というか、2008年後半のサブプライム・バブル崩壊後の一連の金融危機についても分析を試みています。我が国については、1980年代後半のバブル経済崩壊後の長期停滞を、星-カシャップ論的な追い貸しを含めたゾンビ企業の存続に伴う生産性の停滞に一因を見出すとともに、アベノミクスについては基本的にとてもポジティブな取り上げ方がなされています。ただ、黒田総裁の5年の任期をもってしても2%インフレには到達していない現状についても批判的に見ているようです。本書の著者のような標準的な経済学の見方や考え方を適用すれば、ある意味で、当然の評価だという気もします。欧州のユーロについても、マンデル授の最適通貨圏理論を援用しつつ、金本位制に近い独立した金融政策を奪う可能性、特に、為替相場の調整政策の手段がなくなる危険に焦点を当てています。何度も繰り返しになりますが、とても標準的な経済理論・金融理論を当てはめた明快な解説・入門書ですので、判りやすいんではないかと思います。

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次に、岡崎哲二『経済史から考える』(日本経済新聞出版社) です。実は、私の大学時代の専門分野は西洋経済史で、その経済発展史を就職してからは開発経済学に当てはめているんですが、著者は日本経済史や比較経済史を担当する東大教授であり、その意味で、我が国でも屈指の経済史学者であるといえます。私なんぞとは大違いです。そして、本書では、朝日新聞などのコラムで書き溜めた小論を中心に書き下ろしも含めて、経済発展と停滞を解き明かそうと試みています。その意味で、かなり雑多なテーマを詰め込んでおり、私の興味ある分野に引きつけて感想を書いておくと、まず、高度成長期における産業政策の評価がやや高過ぎる気はしますし、産業政策の評価が高いのにつれてそれを策定した官僚の評価にもバイアスあるように感じなくもありません。ただ、おそらく、著者の専門外なので私から見て大きな疑問があるのはアベノミクスの評価です。財政均衡を重視し、金融緩和については、いまだに、ハイパーインフレを懸念するのもどうかという気がします。そして、財政規律に引きつけて昭和初期の軍拡路線を論じるのもやり過ぎだと思います。そして、これも極めてありきたりで表面的なアベノミクスに対する批判なんですが、成長率のトレンドを引き上げる政策の必要性を強調しています。高度成長期の産業政策評価の観点から、本書でもターゲティング・ポリシー、すなわち、政府が将来性ある分野に何らかの優遇措置を講じる政策が推奨されていますが、意地悪な見方をすれば、アベノミクスにおける財務省の財政政策は大赤字を出して財政均衡を失して間違っているが、経済産業省のターゲット産業を探す能力にはまだ信頼を置いている、ということなんでしょうか。また、デフレの原因のひとつに、1990年代で成長の源泉、すなわち、ルイス的な二重経済解消の過程における労働移動と先進経済へのキャッチアップ成長の2つの源泉が枯渇した、との議論も意味不明です。最後に、ピケティ教授の『21世紀の資本』における成長率と資本収益率の乖離から格差が生じる、という論点を批判していますが、本書でもご同様で、いくつか因果推論が逆ではないか、という議論が私のようなシロート、とまではいいたくないものの、少なくとも著者に比較して大いに格下のエコノミストの目から見てもあるような気もします。

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次に、リチャード E. ニスベット『世界で最も美しい問題解決法』(青土社) です。著者は米国ミシガン大学の社会心理学の研究者であり、10年余り前に『木を見る西洋人 森を見る東洋人』がベストセラーになったのを記憶している人も多いんではないでしょうか。それなりの心理学の権威なんではないかとおもいます。本書の英語の原題は Mindware であり、2015年の出版なんですが、邦訳タイトルはかなりミスリーディングであり、売上げ重視でやや不誠実の域に近いと思います。中身はかなりの重厚な読書になると思いますが、私は勉強不足にして第5部の論理学と第6部の認識論については理解が及びませんでした。副題で「賢く生きるための行動経済学、正しく判断するための統計学」とあるのが私の専門分野に近いと思って読み始めましたが、この副題に相当する部分は決してページ数で多くはありません。出版社に騙されないように注意することが必要です。統計学に関する部分では、ありきたりながら相関と因果の違いを強調しているものの、何度かこのブログでも指摘しましたが、本書でまったく取り上げていないビッグデータの世界では相関が重要であって、因果推論はそれほど重視されないというのも事実です。それから、あくまで私の理解であって、本書の著者の見方ではありませんが、経済学や医学で統計が重視されるのは、実は、分析の背景にあるモデルがかなりいい加減で、因果推論を成り立たせるのが苦しいので、仕方なく、リカーシブに統計的な有意性でお話を進めようとしているフシがあります。すなわち、本書でも因果の流れが実は逆というケースをいくつか取り上げていますが、理論的な因果関係が不明確であるがゆえに、統計で帰無仮説が棄却されるかどうかでごまかしている面があるような気がしてなりません。冗談半分によくいわれるように、セックスと妊娠には統計的に何の相関関係も見いだせませんが、因果関係があるのはそれ相応の大人なら誰でも知っていると思います。前著に続いて、東洋的というよりは中国的な円環的歴史観、というか、循環的な輪廻転生の時間の進み方とかなり一直線に近い西洋的な歴史観、時間の進み方の対比がまたまた示されたんではないかと思います。

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次に、ガルリ・カスパロフ『ディープ・シンキング 人工知能の思考を読む』(日経BP社) です。著者はご存じチェスの世界チャンピオンであり、同時に、世界チャンピオンとしてIBMのディープ・ブルーに敗れたことでも、逆に、その名を高めたチェス・プレーヤーです。英語の原題は Deep Thinking であり、2017年の出版です。将棋の永世名人であり、チェス愛好家としても名高い羽生善治二冠が巻末で解説しています。チェスの世界王者といえば、本書の著者であるカスパロフから1世代前の米国の」ボビー・フィッシャーがあまりに有名でかつ衝撃的であり、ついつい変人であると想像しがちなんですが、本書ではそれは否定されています。1996~97年にかけての2回に及ぶIBMディープ・ブルーとの対戦が有名であり、1996年はカスパロフが3勝1敗2分で勝利したものの、1997年は1勝2敗3分で敗戦しています。特に1997年のシリーズには引き分けに持ち込める対戦を投了して負けてしまった2回戦を中心に、本書では第6章から第10章くらいが読ませどころなんでしょうが、やはり、著者のカスパロフは敗者ですので、ついつい愚痴が多くなるのも致し方ありません。IBM主催のゲームであったために多くの不利を背負い込んだのは理解できます。例えば、クラッシュ-リセット-再起動などで集中力が殺がれたことはまだしも、事前にディープ・ブルーの棋譜が公開されなかったこと、ロシア語を理解できる警備員を配されて控室での内密の会話をまるで盗聴するように聞き出されていたこと、そして、これは世間一般にも怒りの声が噴出したのを覚えていますが、カスパロフにはリターン・マッチが許されず、1997年の勝利を最後にIBMディープ・ブルーが勝ち逃げしたことなどです。チェスの世界チャンピオンでなくても、コンピュータが極めて大きなスピードで進化を遂げて、チェスの世界だけでなく人間の思考を代替したり、人間の認知能力を上回ったりする時点が、すでに過ぎ去りはしないものの、急速に近づいているという事実については理解しています。カーツワイル的に大雑把にしても、2050年の前にシンギュラリティが来る可能性についても否定できません。AIが人間の認知作業に取って代ろうとする現時点で、チェスの世界から人間と機械との向かい合い方に関して興味深い本が出版されたと受け止めています。

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次に、グレアム・アリソン『米中戦争前夜』(ダイヤモンド社) です。著者のアリソン教授はハーバード大学ケネディスクールの初代のトップであり、米国の歴代国防長官の顧問を務めリアルな国際政治にも通じる研究者です。英語の原題は Destined for War であり、2017年の出版です。私ははるか大昔に『決定の本質』を読んだ記憶があります。いわゆるキューバのミサイル危機をモデル分析した名著ですが、その点以外はすっかり忘れてしまいました。本書では、いわゆるトゥキディデスのトラップに基づき、新興国の台頭が覇権国のヘゲモニーを脅かして生じる構造的なストレスが戦争という武力衝突につながるかどうか、について分析し、現時点での焦眉の的である米国という覇権国に対抗する新興国である中国との関係をモデル分析しています。トゥキディデスの罠は古典古代の覇権国スパルタと新興国アテネの関係から始まり、本書ではいくつかのケースのデータベースを整備し、米中関係がどのように帰結するかを予測・考察しています。そのデータベースでは、覇権国の交代に伴う構造ストレスについては、戦争になってしまうケースが多いんですが、最近100年ほどの大きな衝突として、英国から米国への覇権の移行、さらに、米ソ間での覇権争いで米国の覇権にソ連が挑戦して敗れた冷戦、の2ケースについては小競り合いはともかく、全面戦争には至らなかった稀有な例として引き合いに出されています。もちろん、その昔にもポルトガルとスペインはローマ教皇という極めて高い権威を引き入れて戦争を回避し、トルデシラス条約により南米を分割した例もあります。そういった高い権威は現時点では国連というわけにもいかないでしょうから、戦争=武力衝突を避けるために米国が取りえるオプションとしては、覇権の移行=新旧逆転を受け入れて何らかの交換条件を設定するか、新興国の中国を弱らせるか、日中間で国交回復時に尖閣諸島の領有権問題を扱ったように一定の時期だけ継続する期限付きの平和を交渉するか、共通のグローバルな課題に対応するために米中関係を再定義するか、といったところが上げられています。ただ、オープンな外交姿勢を示したオバマ政権期にはともかく、米国ファーストのトランプ政権の現時点で採用可能なオプションは限られている気もします。

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次に、小野善康『消費低迷と日本経済』(朝日新聞出版) です。著者は大阪大学をホームグラウンドとしていたエコノミストであり、本書は朝日新聞などで掲載されていたコラムなどを取りまとめています。ですから、この著者の一貫性ない見識ゆえに仕方ないのかもしれませんが、内容的にムリある矛盾した中身となっています。ご案内の通り、民主党政権の菅内閣のころに私の勤務する役所の研究所の所長に政治任命されたエコノミストですので、野党的な見方でアベノミクスに反論しており、例えば、物価目標の2%を達成していないのでアベノミクスは失敗だと結論したかと思えば、円安で景気が回復した点はアベノミクスの成果ではなく、震災で原発が停止して燃料輸入が増加し経常収支が赤字になったのが原因であると主張するなど、およそ、真面目な経済に関する議論とは思えず、繰り返しになりますが、現政権に反対するための無理矢理な論陣を張るために、その昔の関西名物だったボヤキ漫才のような経済解説になっています。特に、私が理解できなかったのは、本書の著者の小野教授の何が何でもな前提は中長期に渡る需要不足が日本経済の低迷の根本原因だそうで、そのために失業が生じているらしいんですが、同時に、アベノミクスによるハイパーインフレの懸念も表明されており、不況克服が日本経済の課題なのか、インフレ抑制が重要なのか、現政権の経済政策をムリにでも批判する必要あることから、経済の現状に関してかなりムリある解釈、あるいは、矛盾した見方を必要としているような気がします。もっと、見識あるエコノミスト、あるいは、常識的なビジネスマンとして虚心坦懐に日本経済を見れば、確かに物価目標には達しないものの、民主党政権時に再確認されたデフレからの脱却も視野に入り、日本経済はかなりの長期にわたる回復・拡大過程にあると思うんですが、どうしても党派的な観点から現政権の経済政策に対する批判をせねばならないとすれば、本書のような形になるのかもしれません。

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最後に、中野信子『シャーデンフロイデ』(幻冬舎新書) です。著者はベストセラーをバンバン出している脳科学者であり、私も前著の『サイコパス』は読んでいたりします。本書のタイトルは、ネットにおけるスラングのひとつである「めしうま」と同じ意味であり、他人の不幸を喜ぶ心情を指しています。そして、その脳の働きにはオキシトシンが関係しており、このオキシトシンは愛情や人とのつながりを醸成する肯定的な働きをしつつも、「可愛さ余って憎さ百倍」のように、あるいは、愛情から出たストーカー行為が犯罪に転じるように、愛情から妬ましさに転化するらしいです。ただ、私はこのあたりの心理は理解できません。例えば、私は京都の出身であり小さいころからタイガースのファンですが、その昔にはいわゆる「アンチ・ジャイアンツ」といわれる人々がいたことを記憶しています。これは私には理解できませんでした。好きな球団があるのはいいことですし、それを応援するのも娯楽のひとつだと思うんですが、嫌いな球団を設定してそれを貶める、というのは私の理解を越えていました。本書のめしうまや他人の不幸を喜ぶ心情も、まったく同様に、私には理解できません。ですから、本書の問題設定自身が理解できないといってもよかろうかと思います。ですから、人類を代表して不埒な人にサンクションを加えるという心情も理解できません。ひょっとしたら、私は何らかの意味でサイコパス的な共感、あるいは、反感の心情が欠落しているのかもしれません。それはそれで心配な気もします。経済的な観点から、極めて大きな偏見を持って、どこかに金持ちがいたら、「お前ももっとよく勉強して立身出世して、もっと金持ちになれ」というのが、日本をはじめとするアジア的な発想であり、それゆえに教育が重視されたりしますが、ここから大きな偏見なんですが、「お金持ちがいれば自爆テロに巻き込んで殺してしまえ」というのがイスラム教原理主義だという見方も何かで聞いたことがあります。私はまったく同意できませんが、もしもそうだと仮定すれば、私は確かに圧倒的に前者の信条に近いと思います。

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2018年2月23日 (金)

2018年に入ってともに+1%近い上昇率を続ける消費者物価(CPI)と企業向けサービス物価(SPPI)!

本日、総務省統計局から消費者物価指数 (CPI)が、また、日銀から企業向けサービス物価指数 (SPPI)が、それぞれ公表されています。いずれも1月の統計です。どちらも前年同月比上昇率でみて、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は前月と同じ+0.9%を、また、SPPI上昇率は前月からやや上昇幅を縮小して+0.7%を、それぞれ記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の全国消費者物価0.9%上昇 エネルギーが押し上げ
総務省が23日発表した1月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、値動きの大きな生鮮食品を除く総合指数が100.4と前年同月比0.9%上昇した。プラスは13カ月連続。QUICKがまとめた市場予想の中央値(0.8%上昇)を上回った。電気代や石油製品などエネルギー品目が押し上げた。17年12月は0.9%上昇だった。
生鮮食品を除く総合では、全体の58.5%にあたる306品目が上昇し、165品目が下落した。横ばいは52品目だった。生鮮食品を除く総合指数を季節調整した前月比でみると0.2%上昇だった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合は100.7と前年同月比0.4%上昇した。安売り規制の影響でビールなど酒類が上昇した。婦人用コートなど衣服及び履物も押し上げに寄与した。
生鮮食品を含む総合は101.3と1.4%上昇した。消費増税の影響を除くと2014年7月(1.4%上昇)以来の高水準だった。天候不順や不漁でレタス、ミカン、マグロなどが高騰し、指数を押し上げた。
政府が進める統計改革の一環で、総務省は全国CPIの公表を今回から1週間早めた。調査項目として「格安スマホ通信料」「SIMフリー端末」「加熱式たばこ」の3点を加えた。総務省統計局は新品目に「価格は安定しており、指数への影響は限定的」との見方を示した。
1月の企業向けサービス価格、前年比0.7%上昇 テレビ広告が堅調
日銀が23日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は103.7で、前年同月比で0.7%上昇した。テレビ広告が堅調だった。人手不足を背景にソフトウエア開発や土木建築サービスの価格も上昇した。前月比では0.6%下落した。
テレビ広告は年始にあった人気の映画の放送が寄与した。前年と比較して積極化した仮想通貨の広告も価格上昇につながった。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。対象147品目のうち、前年比で価格が上昇したのは80品目、下落は31品目だった。上昇から下落の品目を引いた差は49品目だった。
宅配便など道路貨物輸送関連の価格は伸び悩んだ。ただ「これまでの値上げ幅が落ち着いてきたものの、上昇トレンドは変わっていない」(調査統計局)という。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、やや長くなってしまいました。続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。さらに、酒類の扱いも私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。

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昨年2017年12月統計に続いて、今年2018年1月もコアCPI上昇率は+0.9%を記録し、エコノミストの間では早ければ2月にも+1%に達し、場合によってはデフレ脱却宣言も遠くない、との憶測が飛び交っていますが、それでも日銀のインフレ目標の+2%にはほど遠く、しかも、エネルギー価格に伴う物価上昇ですから、コスト・プッシュの要因が強く働いていると考えられ、どこまでが順調な景気回復・拡大に基づくディマンド・プルなのかは疑問が残ります。私は決して「悪い物価上昇とよい物価上昇」を区別しようと思いませんが、少しくらいは考えてみる必要もありそうです。すなわち、石油価格などのエネルギー価格の上昇に牽引された物価上昇では、実質所得の減少につながる場合があると考えるべきですが、逆に、同じコスト・プッシュでも石油価格をはじめとするエネルギー価格ではなく、賃上げによる賃金に起因する物価上昇であれば、所得の増加が伴うので物価上昇による実質所得の低下は小幅で済むのはいうまでもありません。いずれにせよ、賃上げ動向次第で政府がデフレ脱却宣言を発する可能性があることは可能性なしとしません。

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エネルギー価格に牽引された物価上昇ということで、少し違う角度から消費者物価上昇率を考えてみたのが上のグラフです。いずれも前年同月比の上昇率で、上のパネルは購入頻度別に見た物価上昇率、月1回程度以上と未満のそれそれの上昇率であり、下のパネルは基礎的・選択的支出別の物価上昇率です。なお、基礎的支出と選択的支出の定義については、ホンワカと理解できるところですが、「消費者物価指数のしくみと見方」pp.35-36 で解説されています。ということで、グラフから明らかな通り、頻度高く購入する品目、また、基礎的な支出に当てる必需品の物価上昇率が最近時点で高く、しかも、ここ2~3か月で急上昇を示していることから、どうも国民一般には物価上昇が実感としては統計以上に感じられている可能性があるんではないかと懸念しています。

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最後に、企業向けサービス物価指数(SPPI)上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。ということで、SPPIも引き続き堅調な推移を見せています。特に、1月には景気動向と密接な関係を持つと考えられる広告が、前年同月比で+1.4%の上昇、前年比寄与度前月差でも大きな寄与を示しています。引き続き、人手不足を背景として企業向けサービス物価もプラスを続けそうです。

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2018年2月22日 (木)

ジャパンネット銀行によるシェアリングサービスに関する調査結果やいかに?

先週金曜日2月16日付けの記事に、私はエコノミストとして、Airbnb とか Uber などのシェアリング・エコノミーに興味がある、と書きましたが、2月15日付けでジャパンネット銀行から「ミレニアル世代の "シェア消費" 事情は?」と題する利用意向・利用実態を調査した結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、ジャパンネット銀行のサイトから調査結果トピックスを3点引用すると以下の通りです。

調査結果トピックス
  1. ミレニアル世代のシェアサービスに対する興味・関心
    場所・モノ・交通手段...3分野のシェアサービスについて、利用実態・利用意向を調査
    利用に関心を持つミレニアル世代は6割超、受容度は親世代の約3倍に!
  2. ミレニアル世代にとってのシェアサービスの魅力
    ミレニアル世代にとって、シェアサービスは「お得」で「合理的」な、賢い選択
    「他ユーザーとの交流のきっかけになる」の声も半数超え
  3. シェアサービスと親和性が高い、ミレニアル世代の消費傾向
    「モノをあまり持ちたくない」「合理性を重視する」「体験・つながりを大事にしたい」...
    ミレニアル世代の消費傾向は、シェアサービスの特性とリンクする部分が多数

私のような中年を対象にした調査ではなく、2000年以降に成人あるいは社会人になるミレニアル世代対象の調査です。米国などではシェアリング・エコノミーの牽引役はミレニアル世代であるといわれており、ややバイアスあるものの、我が国でもそれなりに興味深い結果が出ています。図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、ジャパンネット銀行のサイトから シェアサービスに対するミレニアル世代の利用意向 の画像を引用すると上の通りです。各分野の利用意向とは、「すでに利用している」と「ぜひ利用したいと思う」と「機会があれば利用したいと思う」の合計ですから、濃淡はあるんでしょうが、まずまず利用意向としては高い方ではないかという気がします。ただし、欧米先進国などで考えられているシェアリング・エコノミーとはやや定義がズレているような気がします。私が考えるシェアリング・エコノミーとは、事業者がインターネット上にマッチングのためのプラットフォームを設置し、それによって消費者同士が、すなわち、CtoC で取引がなされ、その仲介手数料がプラットフォーム企業の収益になる、というもので、最初に書いた通り、Airbnb とか Uber などが典型です。でも、上の画像の各分野の1位から3位までを見る限り、極めて伝統的で従来型の貸衣装とか、レンタカーなども「シェアリング・サービス」と称してマーケティングを行っているような気がします。かつて、電気製品で何でもかんでも「ファジー」を付けたマーケティングがありましたが、そういった売込み上のテクニックと化しているのかもしれません。

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次に、ジャパンネット銀行のサイトから シェアサービスに対するミレニアル世代の考え方 のグラフを引用すると上の通りです。「シェアサービスを利用するのは賢い選択だと思う」と答えた人は66%と約7割に上り、ほかにも、「シェアサービスは経済的だと思う」(77%)、「シェアサービスは合理的だと思う」(73%)と答えた人も、それぞれ7割を超えています。そのバックグラウンドとして、「モノをあまり持ちたくない」(51%)、「お金を使うときには合理性を重視するほうだ」(66%)、「モノよりも体験や人とのつながりを大事にしたい」(51%)などの結果も示されており、消費に対する意識がシェアリング・エコノミーとの親和性高いとの結果が示されています。

やや、本来のシェアリング・エコノミーを一部に誤解しつつ、売込み上のテクニックのように見えなくもありませんが、ミレニアル世代に対するシェアリング・サービスの浸透度はそれなりに高い結果が示されているように受け止めました。私は、たぶん、こういったシェアリング・サービスは利用する機会は少ないような気がしますが、エコノミストとして消費や経済への影響を考えたいと思っています。

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2018年2月21日 (水)

帝国データバンクによる「2018年度の賃金動向に関する企業の意識調査」やいかに?

春闘における賃上げ3%の政府目標(?)が掲げられている中で、先週2月15日付けで帝国データバンクから「2018年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果が明らかにされています。まだまだ不十分との意見もあるでしょうが、少しは期待できる内容かという気もします。まず、調査結果(要旨)を帝国データバンクのサイトから4点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 2018年度の賃金改善が「ある」と見込む企業は56.5%と過去最高を更新。前回調査(2017年度見込み、2017年1月実施)を5.3ポイント上回った。「ない」は18.4%にとどまり、2018年度の賃金改善は概ね改善傾向にある。
  2. 賃金改善の具体的内容は、ベア45.4%(前年度比5.1ポイント増)、賞与(一時金)31.8%(同3.0ポイント増)。ベア・賞与(一時金)とも過去最高を更新
  3. 賃金を改善する理由は「労働力の定着・確保」が8割に迫る79.7%と4年連続で増加。人材の定着・確保のために賃上げを実施する傾向は一段と強まっている。「自社の業績拡大」(47.0%)が5年ぶりに増大するなど、上位5項目はいずれも前年を上回った。改善しない理由は、「自社の業績低迷」(55.6%)が4年ぶりに5割台へ低下。「人的投資の増強」(20.2%)は横ばいで推移した一方、「内部留保の増強」(17.9%)は3年連続で増加
  4. 2018年度の総人件費は平均2.84%増加する見込み。そのうち、従業員の給与や賞与は総額で約3.7兆円(平均2.65%)増加すると試算される

やや長くなってしまいましたが、リポートから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートからベースアップと賞与(一時金)に分けて、賃金改善の具体的内容について問うた結果のグラフは上の通りです。賃金改善を予定している企業はまだまだ少数で50%を割り込んでいるとはいえ、昨年度と比べてベアが5.1%ポイント、賞与が3.0%ポイント、それぞれ増加を示しており、いずれも過去最高だそうです。そして、賃金を改善する実施する理由としては、複数回答制で、「労働力の定着・確保」の79.7%がもっとも高く、ここ3年間でジワジワと割合が拡大しています。逆に、賃金を改善しない理由としては、「自社の業績低迷」が55.6%とトップとなっていますが、ここ3年間でジワジワと割合を下げています。

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私は、我が国の賃金が1人当たりでは上がる余地が小さいと考え始めてから、雇用の増加、しかも、正規雇用の増加と賃金上昇のかけ合せたマクロでの総人件費が消費に効いてくることから、マクロでの賃金動向にも目を配っているところ、次に、リポートから 2018年度の総人件費見通し のグラフを引用すると以下の通りです。ここ3年間で総人件費が増加する企業の割合が高くなってきており、逆に、減少の割合が低下しているのが読み取れます。ホントは、1人当たり賃金の上昇が加わって、物価上昇への圧力となるのがさらに望ましいような気もしますが、取りあえず、現時点では実感薄い景気回復・拡大の要因のひとつは消費の伸び悩みだと私は受け止めていますので、その消費の原資となるマクロでの総所得が伸びる方向にあるのは評価できるのではないかと考えています。

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2018年2月20日 (火)

連合総研による「AI(人工知能)が職場にもたらす影響に関する調査」結果やいかに?

先週2月16日付けで、連合総研から「AI(人工知能)が職場にもたらす影響に関する調査」の結果が明らかにされています。ネット調査であり、調査対象は加盟組合員だけでなく、働く男女1,000名の有効サンプルを集計したとされています。まず、リポートから調査結果の概要を6点引用すると以下の通りです。


  • AIのイメージ1位「記憶力や情報量が多い」
    臨機応変な対応や創造性の能力は、苦手なイメージ
  • AI導入で「自分の仕事が変わる」と3人に2人が予想
  • AIの導入で仕事は楽になる?それとも負担が増える?
    4割半ばが「仕事が楽になる」と予想
  • AI導入で労働時間がどう変わる? 2割半ばが「減る」と予想
    減少予想は「運輸」「金融・保険」で高く、AI導入で長時間労働の緩和に期待
  • AIの活用で「勤務先が維持・成長・発展する」と考える人は約6割
  • AIが導入されたら現在のスキル・知識で対応できる? 「できないと思う」が7割弱
    AIに関する知識やスキルに自信のない人が多いという結果

ということで、とても興味あるテーマですので、図表を引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、グラフは引用しませんが、AIに対する認知度ですが、「意味をよく知っている」は31.5%、「言葉自体は聞いたことがある」が57.8%と、合わせて9割近い認知度を示しており、男女差は大きくないものの、わずかに男性の方が認知度高く、年齢的には20代から60代以上まで大雑把に90%近くで大差ありません。
これも図表は引用しませんが、「記憶力や情報量が多い」で76.8%、「ミスが少なく正確な判断ができる」が67.5%、「複数の事象を把握・対応ができる」が64.2%、「経験にもとづいた対応ができる」が61.4%で続いており、記憶力や正確性、マルチタスク能力などに優れているとの印象が持たれている一方で、臨機応変な対応や創造性の能力については他に比べて優れているとイメージしている人が少ないようです。私が印象的だったのは、業種別に、「ミスが少なく正確な判断ができる」や「複数の事象を把握・対応ができる」とのイメージを持っている人の割合がもっとも高かったのは金融・保険業だった点で、それぞれ約8割に上っています。

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まず、リポートから 今後、AIが普及することに対してどう思うか に関するグラフを引用すると上の通りです。先ほどの正確性などに対する期待が大きかった金融・保険業で、期待感ももっとも高く70%超を示しています。建設業や飲食・宿泊業などの人手不足の影響大きい業種では期待度は決して高くなく、逆に、公務等で不安感がもっとも大きく20%に達しています。公務員のひとりとして判る気もします。

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次に、リポートから 今後、自分の勤務先が、AIの活用によって、維持・成長できると思うか に関するグラフを引用すると上の通りです。何と、AIを活用しても縮小したり、存続も難しいとする回答も一定割合あって、「維持・成長・発展が見込める」と一括されている割合が60%にとどまっています。私の実感としてはかなり悲観派が多い気もします。その背景として、これもグラフは引用しませんが、冒頭の調査結果概要にあるように、AIに関して現在のスキル・技術で対応できると思うか聞いたところ、「できると思う」は32.7%、「できないと思う」は67.3%で、後者が圧倒的多数でした。このあたりが今後のAI化推進の阻害要因のひとつになるのかもしれません。

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2018年2月19日 (月)

1月貿易統計の大きな赤字は先行き日本経済の悲観材料か?

本日、財務省から1月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+12.2%増の6兆856億円、輸入額も+7.9%増の7兆290億円、差引き貿易収支は▲9434億円の赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の貿易収支、8カ月ぶり赤字 9434億円、原油高で輸入増
財務省が19日発表した1月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は9434億円の赤字(前年同月は1兆919億円の赤字)だった。貿易赤字は8カ月ぶり。原油相場の高止まりが続き、輸入が増加した。
輸入額は7.9%増の7兆290億円だった。13カ月連続で増加した。原油や液化天然ガス(LNG)など資源価格上昇の影響を受けた品目が全体を押し上げたほか、医薬品の輸入も増えた。対中国の輸入額は3.3%減少したが、11カ月連続の貿易赤字だった。対米国の輸入額は9.4%増加し、貿易黒字幅は2カ月連続で縮小した。
輸出額は前年同月比12.2%増の6兆856億円と、14カ月連続でプラスだった。地域別に見ると、アジア向け輸出は3兆3503億円と16.0%増えた。このうち中国向けは30.8%増の1兆1600億円で、いずれも1月としては過去最高だった。輸出全体の増加に寄与したのは、中国向けのハイブリッド(HV)車や車両用エンジン、IC製造装置などだった。
中国は毎年、春節(旧正月)前に輸入を絞る傾向がある。1月の中国向け輸出額の伸び率が高かったのは春節の時期の違いが影響した面がある。今年の春節は2月16日だったため「対中輸出への影響は2月にずれこむ可能性がある」(財務省)という。
税関長公示レートは1ドル=112.47円。前年同月に比べ3.4%円高にふれた。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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毎年、この1~2月の季節になると、いかんともしがたく貿易統計の輸出額には中華圏の春節の影響が現れます。春節は、昨年2017年は1月28日、今年2018年は2月16日でしたので、月が違うと季節調整すらままならず、前年同月比で見ても大きなバイアスがかかりかねません。ただ、輸入額は我が国経済の回復・拡大と国際商品市況における石油価格の上昇により着実に増加を示しています。もっとも、NY市場における原油価格は、貿易統計の1月ではなく2月の現時点で、1バレル60ドルを少し超えたくらいのレンジですので、かなり上昇したとはいえ、それほどムチャな水準ではありません。そして、上のグラフの季節調整済みの系列の方の下のパネルに見られる通り、傾向を見る目的で引用している季節調整済みの系列ではまだ貿易収支は黒字であり、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスを下回り、大差ありませんから、原系列統計での貿易赤字をもって悲観材料とは考えられません。ただ、ひとつだけ、為替相場については、最近時点でも円高に振れていることから、例えば、最近の株式市場の乱高下などを見るにつけ、貿易にとどまらず、株価やマインド面も含めて為替の影響は大きいと、改めて感じています。

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輸出の動向については、繰り返しになるものの、春節効果による振れが大きく、それだけ我が国輸出に対する中国経済の影響度合いが大きくなったことを実感します。最近時点では、特に昨年2017年12月と直近統計の今年2018年1月には、為替相場における円高の影響から輸出価格上昇の抑制が観察されましたが、輸出数量の方で伸びを確保しているのがグラフから見て取れます。一番上のパネルです。輸出の先行きについては、中国をはじめとする新興国や先進国ともに世界経済が緩やかに回復・拡大する中で、我が国輸出も堅調に推移するものと見込んでいます。ただし、もう一度確認ですが、為替相場が安定的に推移するという前提の下ですので、米国が金融政策の正常化を進めて米国金利の動向が不透明な中で、為替だけは相場モノでもあり先が見通せません。

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2018年2月18日 (日)

英国『エコノミスト』誌のガラスの天井指数 = glass-ceiling index やいかに?

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毎年3月8日は International Women's Day であり、今年のテーマは PRESS for progress だそうです。第2インターナショナルを起源とする社会民主主義的な要素を持つ記念日ですが、この3月8日を前にして、英国『エコノミスト』誌が、上に引用したような Environment for working women のランキングを明らかにしています。The Economist's glass-ceiling index と名付けているようです。やっぱり、我が国はこういった分野は遅れているんでしょうね。

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2018年2月17日 (土)

今週の読書は経済史や経済学の学術書を中心に計6冊!

今週はペースダウンできず、結局、経済書をはじめ6冊を読みました。実は、今日の土曜日に恒例の図書館回りをしたんですが、来週はもっと読むかもしれません。

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まず、ロバート C. アレン『世界史のなかの産業革命』(名古屋大学出版会) です。著者はオックスフォード大学の経済史研究者であり、オランダ生まれで米国ノースウェスタン大学のモキーア教授とともに、産業革命期の研究に関しては現時点における到達点の最高峰の1人といえます。本書の英語の原題は The British Industrial Revolution in Global Perspective であり、2009年の出版です。産業革命に関しては生活水準の低下や過酷な工場労働の現場などから悲観派の見方もありますが、本書の著者のアレン教授はアシュトンらとともに楽観派に属するものといえます。ということで、このブログの読書感想文ほかで何度か書きましたが、西洋と東洋の現段階までの経済発展の差については、英国で産業革命が開始され、それが米国を含む西欧諸国に伝播したことが西洋の東洋に対する覇権の大きな原因である、と私は考えていて、ただ、どうして英国で産業革命が始まったのかについての定説は存在しない、と考えていました。本書を読み終えてもこの考えは変わりないんですが、本書における見方としては、やや定説と異なり、プロト工業化を重視する一方で、農業生産性の向上による生活水準の上昇、ロンドンを中心とする高賃金、石炭などの安価なエネルギーの活用、そして、機械織機、蒸気機関、コークス熔工法による製鉄を3つの主軸とする技術革新などの複合的な要因により、英国で世界最初の産業革命が始まり進行した、と結論づけています。私はマルクス主義史観一辺倒ではないにしても、何かひとつの決定的な要因が欲しい気がしますし、また、産業革命の担い手となる産業資本家の資本蓄積に関する分析も弱いですし、さらに、機械化の進行については馬や家畜などによる動力源を代替する蒸気機関だけでなく、手工業時代における人間の手作業を代替する機械の使用をもっと重視すべきだと考えており、やや本書の分析や結論に不満を持たないでもないんですが、繰り返しになるものの、世界の経済史学界における現時点でのほぼ最高水準の産業革命の研究成果のひとつといえます。よく私が主張するように、産業革命期の研究に関しては、英国=イギリスとイングランドをキチンと区別する必要があるという見方にも、当然、適合しています。完全なる学術書ながら、テーマが一般的ですので、研究者だけでなくビジネスマンなどの研究者ならざる、という意味での一般読者も楽しめるんではないか、という気がします。

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次に、ジェフリー・ミラー『消費資本主義!』(勁草書房) です。著者は米国の進化心理学の研究者であり、本書は必ずしも経済書とはいえないと考える向きもあるかもしれませんが、ツベルスキー・カーネマンのプロスペクト理論のような例もありますし、かなり経済書に近いと考えるべきです。英語の原題は Spent であり、2009年の出版です。ということで、大昔のヴェブレンによる見せびらかしの消費やガルブレイスの依存効果など、決して使用価値的には有益な利用ができないにもかかわらず、事故の何らかの優越性を誇示するための消費について、心理学的な側面も含めて分析を加え、最後の方ではその解決策の提示も行っています。まず、もちろん、見せびらかしでなく使用価値に基づく利用が行われている消費も少なくなく、典型的には食料などが含まれると私は考えていますが、本書では一貫してある種の自動車をヤリ玉に上げています。私は自動車を持っていませんので、まったくその方面の知識がないんですが、ハマーH1アルファスポーツ車です。いろんな特徴ある中で、私の印象に残っているのは燃費がひどく悪い点です。こういった見せびらかしの消費を本書の著者は「コスト高シグナリング理論」と名付けて、要するに、生物界のオスの孔雀の尾羽と同じと見なしています。ある麺では、要するに、将来に向けてその人物のDNAを残すにふさわしいシグナリングであると解釈しているわけです。そうかもしれないと私も思います。その上で、こういったプライドを維持するに必要な中核となる6項目として、開放性、堅実性、同調性、安定性、外向性を上げています。そして、解決策として、第15章でいくつか示していて、買わずに済ませるとか、すでに持っているもので代替するとか、有償無償で借りて済ませるとか、新品でなく中古を買うとか、といったたぐいです。しかしながら、その前にマーケターによるこういった見せびらかしの消費の扇動について触れながら、情報操作による消費活動の歪みを是正するという考えには及んでおらず、少し不思議な気もします。いずれにせよ、私のような専門外のエコノミストから見ても、消費の際の意思決定において心理学要因がかなり影響力を持ち、しかも、その心理要因をマーケターが巧みについて消費を歪めている、というのは事実のような気がします。ですから、行動経済学や実験経済学のある種の権威はマーケターではなかろうか、と私は考えています。

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次に、井堀利宏『経済学部は理系である!?』(オーム社) です。著者は長らく東大教授を務めた経済学者であり、本書は冒頭で著者自身が「単なる経済数学の解説書ではない」と明記しているものの、否定されているのは「解説書」の部分ではなく、「単なる」の部分だと私は受け止めました。ですから、経済学で取り扱うさまざまなモデルを数式で解析的に表現し、微分方程式を解くことによりエレガントに解を求めようとする経済書です。しかも、ミクロ経済学にマクロ経済学、短期分析に長期分析、比較静学に動学、さらに、経済政策論として財政学や金融論まで、極めて幅広く網羅的に解説を加えています。最近の動向は必ずしも把握していないものの、私のころでしたら公務員試験対策にピッタリの本だよいう気がします。ですから、おそらく学部3#xFF5E;4年生向けのレベルであり、経済学部生であっても初学者向きではありません。一般のビジネスマン向けでもありません。実は、私は30年超の昔に経済職の上級公務員試験に合格しているだけでなく、20年ほど前には人事院に併任されて試験委員として、経済職のキャリア公務員試験問題を作成していた経験もあります。当時は、過去問だけを勉強するのでは不足だという意味で新しい傾向の問題を作成する試みがあり、私はトービンのQに基づく企業の設備投資決定に関する問題を作成した記憶があります。また、すでに役所を辞めて大学の教員になっている別の試験委員がゲーム理論のナッシュ均衡に関する問題を持ち寄ったのも覚えています。そして、本書ではナッシュ均衡についても解説がなされていたりしますから、さすがに、先見の明のあった試験問題だったのかもしれないと思い返しています。20年前にはほとんど影も形もなかった地球環境問題とか、さらに進んで排出権取引を数式でモデル化するといった試みも本書では取り上げられています。なお、本書の冒頭で偏微分記号の ∂ について「ラウンドディー」と読む旨の解説がなされていますが、これについては党派性があり、京都大学では「デル」と読ませていた記憶があります。大昔に、英語の planet を東大では「惑星」と訳した一方で、京大では「遊星」と訳し、現状を鑑みるに、東大派の「惑星」が勝利したように、偏微分記号の読み方でも京大派は敗北したのかもしれません。

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次に、中西聡[編]『経済社会の歴史』(名古屋大学出版会) です。本書は、同じ名古屋大学出版会から既刊の『世界経済の歴史』と『日本経済の歴史』を姉妹編とする3部作の最終巻という位置づけだそうですが、私は単独で読みました。20人近い歴史の研究者が集まって、各チャプターやコラムなどを分担執筆しています。副題が上の表紙画像に見られる通り、「生活からの経済史入門」ということで、4部構成の地域社会、自然環境、近代化、社会環境というように、やや強引な切り口から、災害、土地所有、エネルギー、健康と医薬、娯楽、教育、福祉、植民地などなど、ハッキリいってまとまりのない本に仕上がっています。アチコチで反省的に書かれている通り、経済史を考える場合は生産様式、というか、生産を供給面から追いかけるのが主流であり、生活面からの社会の変化は、まあ、服装の近代化とか、食生活の西洋化とか、住居の高層化とか、それなりに興味深いテーマはあるものの、誠に残念ながら、学問的な経済史の主流とはならない気がします。もっとも、私の読んでいない姉妹編の方で取り上げられているのかもしれませんが、それはそれで不親切な気もします。正面切ってグローバル・ヒストリーを押し出して、西洋中心史観から日本などの周辺諸国の歴史をより重視する見方も出来なくはありませんが、まあ、これだけの先生方がとりとめなく書き散らしているんですから、統一的な歴史の記述を読み取るのは困難であり、井戸端会議的な雑学知識を仕入れるのが、本書の主たる読書目的になるのかもしれません。その意味で、トピックとして雑学知識に寄与するのは、エネルギーのチャプターで、20世紀初頭に英国よりもむしろ日本で電化が進んだのは、実は、安全規制が疎かにされていたためである、とか、第2次世界大戦時の日本における戦時体制はかなりの程度に近代的・現代的かつ合理的であったと評価できる、とか、植民地経営の中で、安い朝鮮米を日本本土に飢餓輸出した朝鮮は満州から粟を輸入したとか、そういったパーツごとにある意味で興味深い歴史的な事実を発見する読書だった気がします。

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次に、平山雄一『明智小五郎回顧談』(ホーム社) です。著者は翻訳家であり、シャーロッキアンでもあり歯科医だそうです。本書は引退した明智小五郎を警視庁の箕浦刑事が「警視庁史」を取りまとめるために取材するという形で進行します。でも、最後に、この箕浦刑事の正体が明らかにされます。何といっても豪快に驚かされるのは、明智小五郎はシャーロック・ホームズの倅だった、という事実です。例のライヘンバッハの滝でホームズが死んだと思わせた後に日本に渡り、日本人女性、その名も紫とホームズの間に誕生したのが明智小五郎であり、結核で紫がなくなった後に明智小五郎に養育費を送付し、一高から帝大を卒業できるようにロンドンから仕送りをしたのがその兄のマイクロフト・ホームズです。もう何ともいえません。私は滂沱たる涙を禁じ得ませんでした。そして、明智小五郎が度々外地に赴くのはホームズと会うことも重要な目的のひとつであり、上海においては明智小五郎はホームズとともにフー・マンチュを追い詰めたりします。そして、もうひとつの驚愕の事実は怪人20面相は明智小五郎の親戚縁者であるという事実です。明智小五郎と怪人20面相は同じ師匠から変装を学んでいるのです。本名平井太郎こと江戸川乱歩は、当然ながら、明智小五郎の友人であり、明智小五郎が解決したさまざまな事件を記述しています。すなわち、「屋根裏の散歩者」であり、「D坂の殺人事件」であり、「二銭銅貨」であり、「心理試験」であり、「一枚の切符」などなどです。ただ、主たる事件は終戦までであり、戦後の小林少年を主人公のひとりとする少年探偵団の行動範囲までは本書では追い切れていません。これはやや残念な点です。そして、もっとも残念な点は、明智小五郎が戦時下で軍部の諜報戦に協力していることです。おそらく、江戸川乱歩も、横溝正史なんかも、言論の自由を封じ込め、伏せ字だらけの出版を余儀なくした軍事体制というものには反感を持っていたと、多くの識者が指摘しています。明智小五郎が軍部の戦争遂行に協力することは、当時の政治的な状況下で致し方ないのかもしれませんが、とても残念に感じるのは私だけではないでしょう。最後に、明智小五郎ファンにはかねてより明らかな事実なのですが、小林少年は3人います。本書冒頭で明らかにされています。こういった事実を整合的にフィクションとして記述しています。イラストは、集英社文庫で刊行された「明智小五郎事件簿」と同じ喜多木ノ実です。日本のミステリファンなら、是が非でも読んでおくべきです。

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最後に、玉木俊明『物流は世界史をどう変えたのか』(PHP新書) です。著者は京都産業大学の経済史の研究者なんですが、経済史ながら経済学ではなく、いわゆる文学部の一般的な史学科のご出身と記憶しています。本書では経済学帝国主義ならぬ物流帝国主義、物流中華思想、物流中心史観から、物流が世界史をどう形作って来たのかを分析しています。ローマとカルタゴ=フェニキア人との物流を巡る確執、7世紀からのイスラーム王朝の伸長、ヴァイキングはなぜハンザ同盟に敗れたか、ギリシア・ローマの古典古代における地中海中心の交易からオランダなどのバルト海・北海沿岸諸国が台頭したのはなぜか、英国の平和=パクス・ブリタニカの実現は軍事力ではなく海運力により達成された、英国の産業革命は物流がもたらした、などなど、極めて雑多で興味深いテーマを17章に渡って細かく分析記述しています。ひとつの注目されるテーマとして、ポメランツ的な大分岐の議論があり、要するに、明初期の鄭和の大航海をどうしてすぐにヤメにしてしまったのか、という疑問につき、本書の著者は、明帝国はほとんどアウタルキーのできる大帝国であって、外国との交易に依存する必要がなかった、との視点を提供しています。まあ、ありきたりの見方ではありますし、今までも主張されてきた点ではありますが、同意できる観点でもあります。ほかにも、学術のレベルではなく、井戸端会議の雑学のレベルではありますが、私のような歴史に大きな興味を持つ読者には、とてもタメになる本だという気がします。2時間足らずですぐ読めます。

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2018年2月16日 (金)

MM総研による「フリマアプリ・オークションサイトの利用動向調査」の結果やいかに?

ここ数年、シェアリング・エコノミーの利用が広がっています。Airbnb や Uber などのプラットフォーム企業がマッチングをして、CtoC で空き部屋のシェアリングや自動車による移動のシェアリング、あるいは、日本でいえばココナラなどのスキルのシェアリングが注目されています。もっとも、ココナラのサイトを見る限り、スキルのシェアというよりは、イラストを売っているに近い気もしないでもありません。
こういった中で、MM総研から先週2月6日付けで「フリマアプリ・オークションサイトの利用動向調査」の結果が明らかにされています。まず、MM総研のサイトから調査結果の概要を3点引用すると以下の通りです。

  • フリマアプリ・オークションサイトの利用率は38.0%、年代別には20代が47.6%でトップを占め、スマートフォン利用と親密性が高い
  • 購入品目1位は「衣類・服飾品」、次いで「チケット・クーポン」「コスメ・香水・美容」「タレントグッズ・アニメグッズ」「PC・タブレット」と続く
  • フリマアプリのサービス別の利用率は「メルカリ」が77.9%で1位
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まず、上のグラフはMM総研のサイトから フリマアプリ・オークションサイトの利用有無 を引用しています。出品か購入か、いずれか一方しかしない人を含めて40%近い人がフリマアプリやオークションサイトの利用をしており、決して無視できない割合といえます。グラフは省略していますが、年代別には、特に20代では47.6%と半数近い割合で利用しており、フリマアプリやオークションサイトがいわゆる「スマホ世代」に広く浸透していることがうかがえます。同時に、50代以上でも30.8%が利用しており、いろんな年代に渡って、男女ともに利用実態が幅広いことが確認できます。

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次に、上のグラフはMM総研のサイトから フリマアプリ・オークションサイトでの購入品目 を引用しています。この裏側では出品も同じようになっていると想像されます。「衣類・服飾品」がトップになった背景にはフリマアプリの多くが「ファッションアイテム」に注力していることも後押ししている可能性が指摘されます。2位の「チケット・クーポン」は、ライブやスポーツ観戦チケットなどがメインですが、株主優待券や抽選の応募券、割引チケットなどもあるようで、私なんぞが新橋あたりで買い物するリアルのチケット・ショップと変わりないようです。また、3位の「コスメ・香水・美容」で特徴的なのは、使い残しの出品が多いことが指摘されています。自分用にいったん買ったものながら、さまざまな理由から容器にまだ8~9割残っているものを出品するのだということで、購入者側も格安のためテスターとして試すケースもあるようです。

私はフリマアプリというよりも、Airbnb とか Uber などのシェアリング・エコノミーに興味があり、それなりに研究もしようと考えていますが、企業から大量生産品などとして市場に供給される製品やサービスに比べて、シェアリング・エコノミーのような C to C の場合は市場における情報の非対称性が問題になる可能性があると考えています。アカロフ教授がノーベル経済学賞を受賞した中古車市場のレモンとピーチです。さらに、フリマのように中古品を出品するとなれば、この非対称性がさらに大きくなる可能性もあるわけで、これもテーブルの引用は省略しますが、この調査では、フリマアプリのサービス別の利用率は「メルカリ」が77.9%で1位、との結果も示されており、メディアにメルカリがよくない意味で取り上げられるケースが散見されるのも、こういった情報の非対称性に起因している可能性があるような気がしてなりません。

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2018年2月15日 (木)

2017年12月統計で大きな減少を示した機械受注の先行きをどう見るか?

本日、内閣府から昨年2017年12月の機械受注が公表されています。変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注の季節調整済みの系列で見て前月比▲11.9%減の7926億円と大きなマイナスを記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

17年12月の機械受注、前月比11.9%減 17年は5年ぶり減少
内閣府が15日発表した2017年12月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整値)は前月比11.9%減の7926億円だった。減少は3カ月ぶり。QUICKがまとめた民間予測の中央値(2.9%減)を大きく下回った。製造業と非製造業がともに減少した。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きがみられるものの、12月の実績は大きく減少した」とした。
製造業の受注額は3648億円と前月比13.3%減少した。減少は2カ月連続。原子力原動機の反動減などによる「非鉄金属」が大幅な減少が響いた。非製造業は7.3%減の4457億円。3カ月ぶりに減少した。運搬機械など「卸売業・小売業」などが減少した。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」の受注額(原数値)は5.0%減だった。
併せて公表した2017年10~12月期の船舶・電力を除いた民需の受注額は2兆5427億円と前期比0.1%減少した。内閣府が前月時点で示していた17年10~12月期見通しは3.5%減だった。
17年の船舶・電力を除いた民需の受注額は10兆1431億円と前年比1.1%減少した。減少は5年ぶり。非製造業は5.1%減の5兆6817億円と3年ぶりに減少した。一方で製造業は4.2%増の4兆4828億円と2年ぶりに増加した。
18年1~3月期の船舶・電力を除いた民需の受注額は0.6%増の見通し。製造業が5.7%減、非製造業が7.4%増とみている。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの中心値は前月比で▲2.9%減であり、レンジの下限でも▲7.5%減でしたので、2ケタ減はかなり大きいと受け止めています。ただ、報道などでは明らかではありませんが、統計作成官庁である内閣府が基調判断を「持ち直しの動き」と総括しつつ、12月統計のイレギュラーさを浮き彫りにした表現を加えていますから、何らかの特殊要因で大幅減がもたらされたのかもしれません。です。いずれにせよ、2017年12月統計の大幅減をどう見るかには、いくつかの解釈が可能かと受け止めています。加えて、その先行きをどう予想するか、もいくつかの見込みがあり得ます。第1に、単純にイレギュラーな特殊要因による大幅減として、基調は「持ち直しの動き」で変わりないとの解釈です。根拠のひとつは2018年1~3月期のコア機械受注の見通しが前期比で+0.6%と増加を示している点です。第2に、為替要因を重視し、特に、足元での円高傾向から先行きを悲観視する見方です。根拠のひとつは、12月統計の前期比でコア機械受注のうち、船舶・電力を除く非製造業が▲7.3%減を示したのに対し、製造業は▲13.3%減であったからであり、2018年1~3月期見通しでも、製造業は前期比マイナス、船舶・電力を除く非製造業はプラスと見込まれています。第3に、足元は楽観しつつ、2019年以降くらいに消費増税の実施と資本ストックの循環要因から設備投資が減速する、という見方です。実は、私自身はこの第3の見方にやや近く、2019年10月の消費増税と2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催後の設備投資は明らかに減速すると予想しています。2019年後半よりはもう1年オリンピック・パラリンピックで需要が支えられる可能性が高いものの、2020年後半には明らかに設備投資は減速すると考えるべきです。ただ、足元や目先については、為替要因が小さいならば、まだ一進一退ないし横ばい圏内の動きを続けるものと考えています。もちろん、為替要因はかなり大きい可能性もあります。それなりのボラティリティを持つ相場モノの予想は私には出来ません。

最後に、四半期データが利用可能になりましたし、先行き四半期である2018年1~3月期見通しも明らかにされています。いつもでしたら、四半期データである達成率のグラフをお示しするんですが、引き続き、エコノミストの経験則である景気転換ラインである90%は超えていません。2017年7~9月期99.0%の後、10~12月期には103.1%となっています。念のため。

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2018年2月14日 (水)

2017年10-12月期GDP統計1次QEは8四半期連続のプラス成長!

本日、内閣府から昨年2017年10~12月期のGDP統計1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.1%、年率では+0.5%を記録しました。8四半期連続のプラス成長で内需主導ながら、+1%をやや下回るといわれている潜在成長率に達しない成長率でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

17年10~12月GDP、年率0.5%増 内需けん引
内閣府が14日発表した2017年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.1%増、年率換算では0.5%増だった。プラスは8四半期連続で、同じ基準で数値をさかのぼることができる1980年以降では約28年ぶりの長さ。輸入の伸びで外需は振るわなかったが、個人消費や設備投資など内需の伸びで補った。
QUICKが集計した民間予測の中央値は前期比0.2%増で、年率では0.9%増だった。生活実感に近い名目GDPは前期比0.0%減、年率では0.1%減だった。名目は5四半期ぶりにマイナスだった。
前期比で0.1%増となった実質GDPをけん引したのは内需で、0.1%分の押し上げ効果があった。個人消費は0.5%増と、2四半期ぶりにプラスだった。設備投資は0.7%増と、5四半期連続でプラスだった。生産活動が回復し、設備投資需要が高まった。住宅投資は2.7%減。公共投資は0.5%減。民間在庫の変動は成長率を0.1%分押し下げた。
外需は0.0%分の押し下げ効果があった。輸出は2.4%増、輸入は2.9%増だった。半導体製造装置などが好調でアジア向けを中心に輸出が拡大したが、輸入も増加した。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期比0.0%上昇した。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.5%上昇した。
同時に発表した17年通年のGDPは実質で前年比1.6%増、生活実感に近い名目で1.4%増だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2016/10-122017/1-32017/4-62017/7-92017/10-12
国内総生産GDP+0.4+0.3+0.6+0.6+0.1
民間消費+0.1+0.3+0.9▲0.6+0.5
民間住宅+0.8+1.2+0.9▲1.5▲2.7
民間設備+1.6+0.1+1.2+1.0+0.7
民間在庫 *(▲0.1)(▲0.0)(▲0.1)(+0.4)(▲0.1)
公的需要▲0.5+0.1+1.2▲0.5▲0.2
内需寄与度 *(+0.1)(+0.2)(+0.9)(+0.0)(+0.1)
外需寄与度 *(+0.4)(+0.1)(▲0.3)(+0.5)(▲0.0)
輸出+2.7+2.0+0.0+2.1+2.4
輸入+0.6+1.7+1.9▲1.2+2.9
国内総所得 (GDI)+0.1▲0.1+0.8+0.5▲0.2
国民総所得 (GNI)+0.1+0.1+0.9+0.7▲0.3
名目GDP+0.4+0.1+0.9+0.6▲0.0
雇用者報酬 (実質)+0.1▲0.2+1.1+0.6▲0.4
GDPデフレータ▲0.1▲0.8▲0.3+0.2+0.0
内需デフレータ▲0.4+0.0+0.4+0.5+0.5

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2017年10~12月期の最新データでは、前期比成長率が8四半期連続でプラスを示し、赤い消費と水色の設備投資がプラスの寄与を叩き出している一方で、黒の外需(純輸出)や灰色の在庫がマイナス寄与となっているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは中央値が前期比+0.2%成長、年率では+0.9%だったわけで、何人かのエコノミストも「物足りない」感を表明しているようですが、すでに、1次QE予想を取りまとめた先週金曜日2月9日付けの記事で指摘しておいたように、この市場の事前コンセンサスは高過ぎます。ただ、成長率の水準として素直に見ても、潜在成長率をやや下回るくらいですから、市場の事前コンセンサスと比較して、というよりは、潜在成長率と比べて、やや物足りない成長であった、ということは出来るかもしれません。また、あくまで言い訳ですが、私の実感は前期比でマイナスとなったGDIやGNIの所得面に起因しているのかもしれません。繰り返しになりますが、苦しい言い訳です。他方、ちゃんと数字を見ると、昨年2017年年央は4~6月期も7~9月期もともに前期比で+0.6%、前期比年率ではともに+2.0%を超える高成長を続けており、2017年通年でも前年比で+1.4%成長でしたから、10~12月期にこの程度の下振れはあり得る許容範囲だという気がしないでもありません。特に、天候条件などに起因する部分が小さくなさそうな印象ですので、なおさらです。10~12月期の成長を牽引した消費については、4~6月期に大きなプラスを記録した後、7~9月期にマイナスとなり、また、10~12月期にプラスに戻るなど、矢荒っぽい動きですが、天候要因もあって、ならして見る必要があるというのは私の従来からの主張です。住宅投資はやや下向き加減の動きながら、設備投資はジワジワと増勢を加速させる可能性もあります。在庫投資は成長にはマイナス寄与ながら、在庫調整が進んでいると考えるべきです。ただ、輸出の動向については為替がやや円高に振れていることもあり、先行きは注視する必要があります。そして、何といっても、金融市場の動向には不透明感が残ります。米国の長期金利の動向や、もちろん、為替動向など、相場モノだけに見通しがたいものがありますが、我が国の金融政策がさらに緩和を進めることがどこまでできるのか、私にはよく判りませんので、不透明感は不透明感として残るような気がします。

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今回の2017年10~12月期1次QEで着目したのは物価の動向です。すなわち、上のグラフは少し長めのスパンでデフレータの上昇率をプロットしています。GDPデフレータ、国内需要デフレータ、消費デフレータです。消費者物価(CPI)などと同じように、いずれのデフレータも季節調整していない原系列のデフレータの前年同期比を取っています。GDPデフレータの動きで注意すべきなのは、企業物価(PPI)や消費者物価(CPI)と違って、輸入物価が控除項目となることです。ですから、石油価格が上昇して輸入デフレータが上昇すると、他の条件にして同じであれば、GDPデフレータは下落します。そのため、2017年10~12月期にはGDPデフレータ上昇率はゼロでしたが、消費デフレータや国内需要デフレータが上昇し、同時に輸入デフレータも上昇してのキャンセルアウトの面もあります。例えば、2017年10~12月期には輸入デフレータは+8.4%の上昇を示しています。しかし、それを加味しても、消費デフレータと国内需要デフレータについては2017年年初から、GDPデフレータについても2017年年央から、上昇率がマイナスの下落からプラスに反転し、少しずつ上昇幅を拡大しているのが見て取れると思います。ホームメード・インフレにつながる動きと私は受け止めています。今春闘に本格的な賃上げが実現されれば、デフレ脱却が加速するのではないかと期待しています。

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2018年2月13日 (火)

企業物価(PPI)は上昇率を縮小させつつもヘッドラインの国内物価は+2.7%の上昇を記録!

本日、日銀から1月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は前月統計からやや上昇幅を縮小して+2.7%を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の企業物価指数、前年比2.7%上昇 原油高で
日銀が13日に発表した1月の企業物価指数(2015年=100)は100.3で前年同月比2.7%上昇した。前年実績を上回るのは13カ月連続。上昇率は市場予想の中央値と同じだった。原油高で石油関連商品の価格が上昇した。
前月比では0.3%上昇した。ガソリンや軽油といった石油・石炭製品やエチレンなどの化学製品、銅やアルミニウムなどの非鉄金属や鉄鋼の価格が上がった。
円ベースの輸出物価は前年同月比で1.8%上昇した。前月比での輸出物価は円高で0.4%下落した。
企業物価指数は企業間で売買するモノの価格動向を示す。公表している744品目のうち、前年同月比で上昇したのは390品目、242品目が下落した。下落品目と上昇品目の差は148で、2017年12月(確報値)の126品目から拡大した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネルから順に、上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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前年同月比で+2.7%の上昇率を示した1月の国内物価のうち、特に高い上昇率、すなわち、2桁の上昇率を示した品目は、石油・石炭製品+12.3%と非鉄金属+10.5%となっています。もちろん、石油・石炭製品は輸入物価から波及しているわけで、企業物価のうちの輸入物価では1月の上昇率で見て、石油・石炭・天然ガスが+13.6%、金属・同製品が+12.2%の上昇となっています。しかし、輸入物価のうち、原油については昨年2017年12月+34.0%の後、今年1月には+15.3%まで上昇率が鈍化してきており、国際商品市況における石油価格次第ながら、何度かこのブログで書いたように、石油価格が牽引する物価上昇がどこまで続くかは疑問なしとしません。ただ、引用した記事の最後の部分にあるように、品目数で見て上昇品目がジワジワと増加を示しており、それだけ物価上昇の裾野が広がっているともいえます。単なるエネルギー価格の波及なのか、それとも金融政策による物価の押し上げ効果なのか、現段階では判断が難しいところですが、賃上げによる消費のサポートがあれば、需給両面からさらに物価上昇につながりやすくなるのはいうまでもありません。

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2018年2月12日 (月)

週末恒例のお天気の話題を昨日に続いてもうひとつで、台風2号発生!

週末はついつい土曜日が読書感想文、日曜日が音楽やお天気の話題、というパターンが多いんですが、3連休ですので、昨日のサクラの開花情報に続いて、今日も無難なお天気の話題で、何と、2月にして早くも台風2号が発生したらしいです。ウェザーニューズのサイトから引用した台風情報の地図画像は以下の通りです。

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まったく私なんぞの知らないうちに、南の海上で台風1号が発生していたんでしょうね。上の台風2号の名称は「サンバ」、日本への影響はないそうです。

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2018年2月11日 (日)

暖かい週末にサクラの開花を考える!

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やや旧聞に属する話題かもしれませんが、2月7日付けで気象協会から「第1回 桜の開花予想」が明らかにされています。上の画像と以下の解説は日本気象協会のサイトから引用しています。

各地の桜(ソメイヨシノほか)の2018年予想開花日の傾向
2018年の桜の開花は、九州で平年並みかやや早く、その他全国的に平年並みでしょう。開花が最も早いと予想されるのは宮崎と熊本、高知でいずれも3月21日、次いで長崎と鹿児島は22日、東京や福岡は24日の予想です。3月末までに九州から関東南部にかけて次々と開花し、4月上旬には山陰から北陸、関東北部でも続々と開花の便りが届く見込みです。桜前線は4月中旬以降に東北を北上し、津軽海峡を渡るのは4月末でしょう。
この冬は、全国的に気温が低く経過し、特に1月下旬には数年に一度の非常に強い寒気が流れ込み、西・東日本を中心に記録的な低温となりました。このため、桜の花芽は休眠打破が順調に進んでいると考えられます。この先の気温は、2月中旬まで西日本を中心に平年より低い見込みですが、2月下旬から4月にかけて平年並みとなるため、桜の開花も全国的に平年並みでしょう。

暖かい週末3連休中日にサクラの開花に関する情報でした。
引用ばかりですが、悪しからず。

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2018年2月10日 (土)

今週の読書は学術書2冊を含めて計6冊!

今週は、やっぱり、6冊読んだんですが、ロビン・ケリー『セロニアス・モンク』のボリュームがものすごくて、私が足かけ3日かけて読まねばならない分量の本というのは久し振りな気がします。ほかにも、重厚な学術書が2冊含まれていて、それなりに時間を取って読書した気がします。なお、最後のオーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』は数年前の単行本出版の際に読んだ記憶がありますが、とてもスンナリと借りられたので文庫本も読んでしまいました。

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まず、寺西重郎『歴史としての大衆消費社会』(慶應義塾大学出版会) です。著者は金融史がご専門で長らく一橋大学をホームグラウンドとしていた研究者、エコノミストです。出版社も考慮すれば、明らかに学術書と考えるべきであり、読み進むためのハードルはそれなりに高いと考えるべきです。本書で著者は、我が国戦後の高度成長期について、極めて旺盛な大衆消費によって支えられていた特異な時期であったとし、敗戦に際しての方向感覚の喪失と政府介入によって生じた一時的な現象であったとの結論を導いています。私は一昨年に高度成長期研究の成果として経済計画の果たした役割に関する論文を取りまとめましたし、開発経済学の視点ながら、それなりに高度成長期に関する見識は持っているつもりですが、この著者の結論は間違っています。まず、著者が結論に至る論点は3点あり、第1に、戦後日本での爆発的な消費拡大は、敗戦による環境の変化に対して、人々と政府が「さしあたって」消費と生活様式の西洋化を決意したことによって引き起こされ、第2に、大衆消費を支えた分厚い中間層は、金融と産業に対する政府規制が生み出すレントの分配によって支えられており、1970年代後半以降に規制緩和が進展した結果、そのレントが消滅して高度成長は終焉したとされ、第3に、1980年代以降の日本で観察された消費の差異化は、普遍的なポストモダンの動きの一環ではなく、伝統的な消費社会への回帰現象であろう、というものです。そして、相変わらず、英国をはじめとする欧米のキリスト教的な供給が牽引する経済と我が国の仏教的な需要が牽引する経済の差をチラチラと出しています。高度成長期に政府が一定の役割を果たしたのは事実ですし、ある意味で、レントを生じていたのも事実です。そして、そのレントは当時極めて希少性の高かった外貨の配分から生じており、それを天下りなどに使っていたわけです。しかし、一般に19世紀後半の1870年代とされるルイス的な転換点は、我が国の場合は高度成長期であった可能性が高く、まさに農業などの低生産性の生存部門から製造業などの近代的な資本家部門に労働が移動したことが高度成長の基本を支えていたわけであり、その時期に大衆消費社会が訪れたのは戦争の期間と終戦直後の混乱期に抑制されていた消費が、米国をはじめとする当時の先進国との技術的なギャップをキャッチアップする過程で、大きく盛り上がった、と考えるべきです。1970年代半ばに高度成長が終焉したのは、石油ショックによる資源制約に起因する成長の屈折ではなく、ましてや、本書で主張されているような規制緩和によるレントの消滅ではあり得ません。立派なエコノミストによる重厚な学術書なんですが、中身はやや「トンデモ」な歴史観を展開しているような気がします。

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次に、ハンナ・ピトキン『代表の概念』(名古屋大学出版会) です。著者はドイツ生まれでユダヤ人であるために米国に渡り、カリフォルニア大学の旗艦校であるバークレイ校の研究者の後、現在は名誉教授となっています。その代表作のひとつである本書に対してはリッピンコット賞が授賞されています。英語の原題は The Concept of Representation であり、50年前の1967年の出版です。どこからどう見ても完全な学術書であり、代表論の古典とすらいえますので、読み進むためのハードルは決して低くありませんが、欧米でポピュリズムの影響力が大きくなっている昨今の政治情勢の中で、決して雲の上の学術だけの課題ではないと私は考えています。ということなんですが、何分、原題にも含まれている英語の Representation は日本語にすると、代表と表現のやニュアンスの異なる2種類の邦訳が当てはめられ、必ずしもスッキリしない場合も見受けられます。ホッブズから始まって、バークなどの理論家や実践家、すなわち、民主主義下での代表的な政治家の考えを引用しつつ、古典古代のような直接民主主義から自由主義まで、思想の土台より政治的代表の意味を徹底的に検討を加えています。政治的な代表だけでなく、君主制の象徴 symbol、あるいは、代理 proxy など、代表に類似する概念と併せて素材とされています。そのあたりの代表と象徴や代理の違いは、それなりに、理解できる一方で、代表の中でももっとも大きなポイントとなるには、いうまでもなく、民主主義下において投票によって議会の構成員を国民の代表として選出する際の代表の考え方です。バークの議論ではありませんが、この代表が何らかのグループの利害関係を代表するのか、それとも集合名詞としての国民、あるいは、国家の利益を代表するのかの議論は分かれることと思います。地域なり、職能なり、階級なり、何らかの利害集団の利益を代表するだけであれば、議会の構成員としての見識や経験はまったく不要であり、まさに、ポピュリズムそのものですし、後者の国民全体あるいは国家の利益を代表するのであれば、極めて高い見識を必要とする一方で、選挙を実施する意味がありません。というか、マニフェストや公約で示すのは、利害調整の際のポジションではなく、見識の高さを競うのかもしれません。いずれにせよ、50年前のテキストながら、ポピュリズムが台頭しつつある21世紀でもまだまだ参考とすべき内容を含んでいる気がします。

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次に、伊東ひとみ『地名の謎を解く』(新潮選書) です。著者は奈良の地方紙のジャーナリストの出身で、私よりも年長ですのでリタイアしているんではないかと思わないでもありません。地名については在野の民俗学の権威のひとりであった柳田國男などにも同様の研究がありますし、ほかにもいろんな調査研究結果があるんでしょうが、本書では奈良ローカルらしく万葉仮名の表現まで引用して地名の起源や変遷について跡付けています。私が本書を読もうと思った本来の目的である雑学的な知識の詰め合わせは p.200 以降の最後の最後に取りまとめられています。本書の著者の前著がキラキラネームに関する雑学書でしたので、平仮名名の地名で外来語由来の地名などにやや嫌悪感、とまではいわないまでも、何らかの違和感を持って取り上げているような気がしますが、私はそれをいい出せばアイヌ語や沖縄由来の地名についても、何らかの色メガネを持って見られそうな気がして、もう少しオープンな視線で地名を見てみたい気がします。さらに、地名と姓名の入れ込み、というか、地名が姓になった利、逆に、姓が地名になったりした例も多いような気がします。例えば、我が家が引っ越し前に住まいしていた青山なんぞは、赤坂とともに、徳川時代に屋敷を置いていた旗本の姓に由来するんではないかと記憶しています。決して青山なる山があったり、赤坂なる坂があったりしたわけではありません。同様に、本書で縄文や弥生まで地名の起源をさかのぼるのが、どこまで意味があるのかどうかも私には不明です。地名の起源が古ければ有り難いというわけでもないでしょうし、実際に、本書に何度か出て来る表現を借りれば、ホントにフィールドワークをしたのであれば、歴史を経て大きな変更があった可能性もありますが、産物や景観なども含めた起源をフィールドワークして欲しかった気もします。ただ、東京になる前の江戸の起源がよどだったのは知りませんでした。あと、「谷」の漢字を「や」と読むのか、「たに」と読むのか、さらに、万葉仮名を持ち出すのであれば、決して漢字を音読みしない古今集タイプも同時に考え、音読み地名と訓読み地名についても、平仮名地名とともに、もう少し掘り下げて欲しかった気がします。まあ、私の期待値が高過ぎた気もしますし、努力賞なのかもしれません。

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次に、ロビン・ケリー『セロニアス・モンク』(シンコーミュージック・エンタテイメント) です。著者は2009年出版時点では南カリフォルニア大学の、そして、現在ではカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の米国史、黒人史などの研究者です。英語の原題はそのままに Thelonious Monk であり、繰り返しになりますが、2009年の出版です。歴史研究者が14年に渡って調べ上げたジャズ・ピアニスト、セロニアス・モンクの生涯をカバーするノンフィクションの伝記です。二段組みの本文だけで670ページを超え、索引と脚注で30ページあり、全体で700ページを超える極めて大きなボリュームの本であり、何と、大量の読書をこなす私が足かけ3日かけて読んだ本も、最近ではめずらしい気がします。一応、ていねいには書かれていますが、登場人物については、それなりのバックグラウンドを知っておいた方が読書がはかどります。当然ながら、モンクを知らないし、聞いたこともない人にはオススメできません。邦訳が出版された昨年2017年はモンク生誕100年ということで、1917年に生まれて、幼少のころからニューヨークで過ごし、1982年に64歳の生涯を閉じるまで、モダンジャズの歴史そのものの人生を送った偉大なるピアニストの生涯を極めて詳細に跡付けています。ビバップからモダンジャズの誕生については、チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーに果たした役割が大きいと評価されて来て、ピアニストとしてはモンクよりもバド・パウエルの存在を重視する見方が広がっている中で、モンクの再発見につながる本書は貴重な見方を提供しているといえます。単に音楽生活だけでなく、その基盤となったネリーとの結婚生活や、パノニカ・ド・コーニグズウォーター男爵夫人との交流や援助など、もちろん、音楽シーンでのほかのジャズ・プレーヤー、プロモーター、マイナーレーベルのオーナー、レコーディング・エンジニアなどなどとの人間関係も余すところなく描き出しています。化学的不均衡により、モンクの双極障害、統合失調症などによる特異な行動や言動などがどこまで説明できるのかは私には理解できませんが、ピアノの弾き方がとても独特なのは聞けば理解できます。決して、音楽の名声の点でも、もちろん、金銭的にも、恵まれた人生であったかどうかは疑問ですが、モダンジャズの開拓者、先導者としてのモンクの役割を知る上で、そして、音楽シーンを離れたモンクの人生を知る上で、十分な情報をもたらしてくれる本だといえます。ただし、かなりのボリュームですので、粘り強く読み進むことが出来る人にオススメです。

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次に、関満博『日本の中小企業』(中公新書) です。著者はご存じの製造業研究などで有名な一橋大学をホームグラウンドにしていた研究者であり、エコノミストというよりは経営学が専門なのかもしれません。繰り返しになりますが、中小企業というよりは、製造業がご専門のような気がしますが、本書では中小企業にスポットを当てています。特に、最近の中小企業経営を取り巻く環境変化として、国内要因の人口減少や高齢化、海外要因として中国をはじめとする新興国や途上国における人件費の安価な製造業の発展を上げています。その上で、第1章では統計的な中小企業の把握を試み、第2相と第3章では企業の観点から、また、第4章では継承の観点から、大量にケーススタディを積み上げ、繰り返しになりますが、第5章では中小企業経営の環境変化、すなわち人口減少・高齢化とグローバル化の進展について考察を進めています。なかなかに元気の出る中小企業のケーススタディであり、どうしても製造業の割合が高いながらも、高い技術に支えられた中小企業の存在意義を明らかにしています。ただ、こういったケーススタディによる研究成果、というか、本書のようなサクセス・ストーリーのご提供に関しては、2点だけ不安が残ります。第1に、これらの成功例のバックグラウンドに累々たる失敗例が存在するのではないか、という点です。我が国では米国などと比べると、起業件数とともに廃業件数も少なく、企業経営が米国ほど動学的ではない、とされていますが、他方で、その昔に「脱サラ」と称されたコンビニ経営などが、一定期間終了後に店仕舞いしている実態も、これまた目にして実感しているわけで、当然ながら、起業がすべて成功するわけもなく、成功例の裏側に失敗例が数多く存在し、単に成功例と失敗例は非対称的にしか扱われていない可能性があります。第2に、最近の中小企業経営の環境変化の中で、非製造業における人手不足について情報が不足しています。本書の著者の専門分野からして、製造業、特に、かなり高い技術水準を有している製造業に目が行きがちで、それだけで成功確率が高まるような気もしますが、建設や運輸、さらに、卸売・小売といった非製造業の中小企業もいっぱいあり、昨今の人手不足の影響はこれら非製造業の中小企業ではかなり大きいのではないか、少なくとも製造業よりもこういった非製造業への影響の方が大きそうな気もします。そういった、否定的な情報が、失敗例にせよ、人手不足の非製造業への影響にせよ、意図的に隠しているわけではないんでしょうが、ほとんど提供されておらないように見受けられなくもなく、技術力の高い製造業の成功例だけが取り上げられているおそれがあるのか、ないのか、やや気にかかるところです。

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最後に、ジョイス・キャロル・オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』(河出文庫) です。文庫本で出版されたので借りて読んでみました。私は単行本も読んでいて、2013年5月24日付けの読書感想文で取り上げています。その際に、私の知り合いの表現を引いて、「オーツの入門編として最適な1冊」と書いています。詳細は省略します。

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2018年2月 9日 (金)

来週公表予定の2017年10-12月期1次QE予想やいかに?

先週水曜日1月31日の鉱工業生産指数(IIP)をはじめとして、ほぼ必要な統計が出そろい、来週の2月14日に昨年2017年10~12月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の1~3月期から2018年の景気動向を重視して拾おうとしています。明示的に取り上げているシンクタンクはかなり多く、特にみずほ総研は詳細でしたので超長めに引用しています。もう1機関、三菱UFJリサーチ&コンサルティングも長めの引用となっていますが、その理由については後ほど取り上げます。いずれにせよ、より詳細な情報にご興味ある向きは一番左列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.3%
(+1.0%)
2018年1~3月期を展望すると、食料品やエネルギー価格の上昇による消費者マインドの悪化などが下押し要因となるものの、高水準の企業業績を背景に、工場新設や機械投資などが下支えすることで、緩やかな回復基調が持続する見込み。
大和総研+0.3%
(+1.0%)
先行きの日本経済は、基調として足下の緩やかな拡大が継続するとみている。個人消費を中心とした内需は一進一退ながら堅調な推移が続くと同時に、世界経済の回復を背景とした外需の拡大が日本経済の成長を支えるだろう。ただし、FedやECBの出口戦略に伴う外需の下振れリスクには警戒が必要である。
みずほ総研+0.2%
(+1.0%)
2018年の日本経済を展望すると、海外経済の回復を背景に輸出の増加が続くとともに、内需も底堅く推移し、日本経済は緩やかな回復基調を維持するとみている。項目別にみると、輸出は、新型iPhoneによる大きな押し上げ効果は期待薄となったものの、データセンターや車載向け半導体、半導体製造装置等の需要拡大が引き続き押し上げ要因となるだろう。実際、機械輸出に先行する傾向のある海外からの機械受注は、昨春以来高い伸びを維持している。設備投資は、五輪関係や都市再開発関連の案件が進捗すること、人手不足の深刻化を背景に省力化・効率化投資の積み増しが見込まれることから、回復基調を維持するだろう。個人消費については、堅調な雇用・所得情勢や株高が追い風となろう。ただし、このところ食料品やガソリンといった生活必需品の価格が上昇していることから、家計の節約志向の強まりには注意が必要だ。
リスク要因に目を向けると、世界的な資産価格の調整や円高の進行など金融市場が大きく変動すれば、不確実性の上昇を通じて実体経済に悪影響を及ぼすことになるだろう。中国における構造改革(不動産投機の抑制や過剰債務の調整)の進展も、その舵取り次第では景気が下振れする可能性がある。北朝鮮情勢の悪化など、地政学リスクにも引き続き留意が必要だ。
ニッセイ基礎研+0.2%
(+0.8%)
先行きについても、海外経済の回復に伴う輸出の増加、企業収益の改善を背景とした設備投資の回復が続くことが予想される。一方、名目賃金の伸び悩みや物価上昇に伴う実質所得の低迷から家計部門は厳しい状況が続きそうだ。当面は企業部門(輸出+設備投資)主導の経済成長が続く可能性が高い。
第一生命経済研+0.2%
(+0.8%)
先行きについても、景気は好調に推移するとみられる。米国を中心として海外経済が回復傾向を続けるとみられるなか、輸出は増加基調で推移する可能性が高いことに加え、設備投資も企業収益の増加や高水準の企業マインドを受けて増加傾向が続き、景気を押し上げる。1-3月期以降は再び成長率が高まることが予想される。
伊藤忠経済研+0.2%
(+0.8%)
10~12月期は内閣府が試算する潜在成長率1.1%を下回ることになるが、既に需給ギャップは7~9月期時点で需要が供給力をGDP比0.7%上回っており、10~12月期においてもGDP比0.6%程度の需要超過状態が見込まれる。したがって、デフレ脱却に向けて前進はしないが後退したわけでもない。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.0%
(+0.0%)
ゼロ成長となる原因は、第一に、個人消費が小幅ながら2四半期連続で前期比マイナスとなることである。10月に天候不順の影響で落ち込んだ後は持ち直しているが、落ち込みを埋めるまでには至っていない。また、物価が上昇していることも、実質値の押し下げに寄与したとみられる。第二に、住宅投資、公共投資がすでにピークアウトしており、いずれも2四半期連続で前期比マイナスとなると見込まれる。さらに、スマートフォンなど情報通信機械を中心に輸入が堅調に増加すると予想される。最後に、在庫投資の寄与度が7~9月期に急拡大した反動により、マイナス寄与に転じる可能性がある。
三菱総研+0.1%
(+0.4%)
2017年10-12月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.1%(年率+0.4%)と8四半期連続のプラス成長を予測する。外需は若干のマイナス寄与となるものの、内需は消費・設備投資を中心に底堅く推移した。

ということで、下の方にある三菱系2機関を別とすれば、引き続き、+1%もしくはそれに近い成長率で、8四半期連続のプラス成長を記録するものと見込まれています。需要項目別に詳しく見ても、昨年2017年7~9月期にマイナスを記録した消費もプラスに戻り、設備投資もプラスを続ける、という形で、内需中心の成長という望ましい姿が示されているように思います。ただ、成長率そのものは2017年4~6月期や7~9月期のような年率+2%超からは大きく縮小するものの、我が国経済の潜在成長率からみれば十分な伸びを確保するとの見込みです。かなり多くのエコノミストのコンセンサスは以上のようなものではないか、と私は考えていますが、実は、私自身はそれほどプラス成長に自信を持っているわけではありません。さすがに、大きなマイナス成長とは思いませんが、かなりゼロ成長に近い、もしくは、マイナス成長の可能性も排除できない、と考えています。理由はそれぞれに薄弱なんですが、第1に消費がどこまでの伸びを示すか自信がありません。野菜などの値上がりで実質消費がマイナスになった可能性すら考えられないでもない、と婉曲な表現ながら、消費が前期からの反動も含めて増加を示すかどうかに疑問を持ちます。第2に住宅投資のマイナス幅が大きい可能性です。あまり根拠ありません。第3に在庫がマイナスになる可能性です。これも、あまり根拠ありません。もっとも、在庫がマイナスになるのは在庫調整がさらに進展するという評価も出来るのではないかと思います。いずれにせよ、繰り返しになりますが、それほど強い根拠ではないですし、著名なシンクタンクに所属するエコノミストであれば躊躇するような異端の見方かもしれませんが、ゼロないし小さなマイナス成長の可能性もあり得る点は忘れるべきではない、と私は考えています。その意味で、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのヘッドラインを少し長めに引用してあります。ご参考まで。
最後に、下のグラフは、いつもお世話になっているニッセイ基礎研のリポートから引用しています。たぶん、仕上がりはこんなもんだろうという気はします。

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2018年2月 8日 (木)

2か月連続で悪化した景気ウォッチャーと黒字の続く経常収支をどう見るか!

本日、内閣府から1月の景気ウォッチャーが、また、財務省から昨年2017年12月の経常収支が、それぞれ公表されています。景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲4.0ポイント低下して49.9を、先行き判断DIも▲0.3ポイント低下して52.4を、それぞれ示し、また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+7972億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の街角景気、現状判断指数が50を下回る 大雪と寒波の影響
内閣府が8日発表した1月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は前月比4.0ポイント低下の49.9と2カ月連続で悪化した。節目の50を下回ったのは2017年7月以来、6カ月ぶり。低下幅は消費税を増税した2014年4月以来、3年9カ月ぶりの大きさだった。大雪や寒波の影響で小売りが苦戦した。
内閣府は基調判断を「緩やかに回復している」から、「緩やかな回復基調が続いている」へ引き下げた。判断引き下げは17年1月以来となる。
部門別にみると家計動向が4.5ポイント低下の47.8となった。そのうち大雪の影響や気温低下で小売関連が5.4ポイント低下したのが目立った。企業動向も3.1ポイント低下、雇用も2.8ポイント低下した。
街角では家計動向について、飲食店から「大雪の影響で県外からの予約はキャンセルが殺到し、隣県からのマイカーによる来店が途絶えた」(北陸の高級レストラン)との声があった。ガソリン価格や野菜価格の上昇も重荷で「消費者のマインドは冷え切っている」(東北のスーパー)との声も出た。企業動向も「寒さが厳しく客足が鈍い。受注量が減少し、積雪の影響で運送遅延による返品も発生しており厳しい状況」(中国の食料品製造業)との指摘があった。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は0.3ポイント低下の52.4と3カ月連続で悪化した。雇用が3.0ポイント低下の55.1、家計動向は0.2ポイント低下の51.8となった。一方、企業動向は0.6ポイント上昇の53.0だった。
17年12月の経常収支、7972億円の黒字 17年は10年ぶり高水準
財務省が8日発表した2017年12月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は7972億円の黒字だった。黒字は42カ月連続だが、黒字額は前年同月に比べて28.5%減少した。貿易黒字の減少が響いた。17年の経常収支は21兆8742億円の黒字と07年以来10年ぶりの高水準だった。
17年12月の貿易収支は5389億円の黒字で、黒字額は33.4%減少した。原粗油や通信機などの輸入が伸び、輸入全体で14.6%増加。自動車や半導体製造装置の好調で輸出も8.8%伸びたが、輸入の影響が上回った。
海外企業から受け取る配当金や投資収益を示す第1次所得収支は6148億円の黒字、10.1%減少した。第1次所得収支の黒字が対前年同月で減少するのは10カ月ぶり。海外株主への配当金の支払いが増加するなど証券投資収益の赤字が拡大した。
サービス収支は2045億円の赤字と前年同月(2886億円の赤字)に比べて赤字幅が縮小した。訪日外国人の増加を背景に旅行収支の黒字額が12月として過去最高となったことが貢献した。
同時に発表した2017年の国際収支状況によると、経常収支は21兆8742億円の黒字だった。黒字額は07年(24兆9490億円)以来10年ぶりの高水準だった。海外子会社から受け取る配当金の増加で第1次所得収支が黒字幅を拡大したことが寄与した。
17年のサービス収支は7061億円の赤字と比較可能な1996年以降で最小の赤字となった。旅行収支が1兆7626億円の黒字と過去最大だったことが追い風となった。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期です。

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今年1月統計の季節調整済みの系列で見て、景気ウォッチャーのうちの現状判断DIが大きく低下したのは、引用した記事の通り、天候要因が大きいとはいえ少し驚きました。家計動向関連DI、企業動向関連DI、雇用関連DIともそれなりに大きな低下を示しているんですが、昨年2017年12月統計から今年1月にかけての低下幅を見ると、やはり、というか、何というか、家計動向関連DIが▲4.5ともっとも大きく低下し、企業動向関連DIは▲3.1に、雇用関連DIも▲2.8の低下に、それぞれとどまっています。まあ、企業動向関連DIも雇用関連DIも、いずれも大きな低下ではありますが、家計動向関連DIが最大となっています。加えて、先行き判断DIでは、家計動向関連DIが▲0.2と低下を示した一方で、企業動向関連DIは+0.6と、むしろ上昇していたりします。企業部門に比較して、家計部門の停滞感が大きくなっていると考えるべきです。昨夜も景気動向指数と毎月勤労統計を取り上げた際に主張した点ですが、景気拡大の実感が乏しい理由は賃上げによる所得の増加がほとんどなく、消費拡大が実現していないのが大きな原因のひとつであろうと考えられますし、景気拡大局面も後半に達した現段階で、相対的に好調な企業部門から賃上げという形で家計部門に購買力を移転することにより、景気回復・拡大をさらに確実にし長期化することが出来るのではないかと私は考えています。なお、誠についでながら、今週に入ってからの世界同時株安については、大きな反発なくこのまま推移すれば、我が国の企業マインドや消費者マインドには確実に下押し圧力を加えるものと私は推測しています。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。先月11月統計の際には、季節調整済みの系列の統計ではサービス収支のうちの知的財産権等使用料の動きにより経常黒字の縮小がもたらされたことを明らかにしましたが、今月12月統計ではどこをどう見ても貿易黒字の縮小が謙譲黒字の縮小をもたらしているようです。すなわち、経常黒字は11月の+1兆7,005億円から12月には+1兆4,796億円に、▲2200億円超縮小しているところ、貿易黒字はそれ以上に、11月の+5,074億円から12月の+2,302億円へと、▲2770億円超の縮小を見せています。輸入の増加が主な要因であり、季節調整済みの系列で見た輸入は2017年7月の5兆8,087億円を底として、8月5兆8,494億円、9月5兆8,755億円、10月6兆1,433億円、11月6兆5,873億円、12月6兆7,326億円と増加を示しています。単純に見れば、国際商品市況における石油価格などの上昇が一因ですが、我が国が長期に景気回復・拡大を続けているのも輸入増加の要因のひとつであり、決して悲観視する必要はないものと私は考えています。引用した記事にもある通り、2017年通年の経常黒字は+21.9兆円であり、前年2016年の+20.3兆円を上回っています。

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2018年2月 7日 (水)

さらに上昇した景気動向指数と賃金上昇が物価に追いつかない実態を明らかにした毎月勤労統計!

本日、内閣府から景気動向指数が、また、厚生労働省から毎月勤労統計が、それぞれ公表されています。いずれも、昨年2017年12月の統計です。景気動向指数のうち、CI先行指数は前月比+2.8ポイント上昇して120.7を、CI一致指数+は▲0.3ポイント下降して107.9を、それぞれ記録した一方で、毎月勤労統計の名目賃金は季節調整していない原数値の前年同月比で+0.7%増の55万1222円を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

17年12月の景気一致指数、2.8ポイント上昇
内閣府が7日発表した2017年12月の景気動向指数(CI、2010年=100)は、景気の現状を示す一致指数が前月比2.8ポイント上昇の120.7だった。数カ月先の景気を示す先行指数は0.3ポイント低下の107.9。
内閣府は一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「改善を示している」に据え置いた。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。
実質賃金、12月は0.5%減 17年は2年ぶり減少 毎月勤労統計
厚生労働省が7日発表した2017年12月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比0.5%減少した。減少は2カ月ぶり。名目賃金は増加したものの、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が前年同月比1.3%上昇し、賃金の伸びを抑えた。17年の実質賃金は前年比0.2%減となり、1年ぶりに減少した。
12月の名目賃金にあたる1人あたりの現金給与総額は前年同月比0.7%増の55万1222円と5カ月連続で増加した。内訳をみると、基本給にあたる所定内給与が0.6%増、残業代など所定外給与は0.9%増、ボーナスなど特別に支払われた給与は0.7%伸びた。
パートタイム労働者の時間あたり給与は前年同月比2.1%増の1117円だった。パートタイム労働者比率は0.04ポイント高い31.23%となった。厚労省は賃金動向について「基調としては緩やかに増加している」との判断を据え置いた。
同時に発表した17年の実質賃金は前年比0.2%減と2年ぶりに減少した。名目賃金にあたる現金給与総額は0.4%増となったものの、消費者物価指数が0.6%上昇した。
所定内給与は0.4%増、所定外給与は0.4%増、特別に支払われた給与は0.4%増だった。パートタイム労働者の時間あたり給与は2.4%増の1110円となり過去最高となった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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まず、CI一致指数に対するプラス寄与度で大きかった系列を順に上げると、投資財出荷指数(除輸送機械)、生産指数(鉱工業)、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、有効求人倍率(除学卒)などとなっています。何と、現時点では昨年2017年12月の一致指数についてはすべてがプラス寄与であり、マイナス寄与の系列はありません。CI先行指数では、マイナス寄与では中小企業売上げ見通しDI、マネーストック(M2)(前年同月比)、新設住宅着工床面積などが上げられ、プラス寄与では新規求人数(除学卒)、最終需要財在庫率指数、日経商品指数(42種総合)などがあります。2017年12月までで、現在の2012年11月を底とする第16循環の現在の景気拡張局面は61か月に達し、高度成長期の1965年11月から1970年7月までの57か月続いた「いざなぎ景気」を超えて、戦後最長の景気拡大期間を記録した米国のサブプライム・バブルに対応した第15循環の景気拡張期の73か月に、あとちょうど1年=12か月と迫っています。ただ、米国のサブプライム・バブルに対応した第15循環の景気拡張期に比べて、現在の景気拡張局面は2014年4月からの消費税率引き上げや2015年年末から2016年年初にかけての新興国経済の減速の影響などがあって、景気動向指数が下降を示す景気の踊り場が多かったような気がします。そのあたりは、上の示したグラフに加えて、日本経済研究センターが昨年2017年5月から提供を始めた景気後退確率のグラフなどからも読み取れます。また、長期に及んでいる割には、景気拡大の実感が乏しい理由は賃上げによる所得の増加がほとんどなく消費拡大が実現していないのが大きな原因のひとつであろうと私は考えています。まさか、高度成長期のような2ケタ成長を目指すべきとの意見はほとんどないものと受け止めており、従って、景気拡大の果実を国民に均霑するためには、企業サイドで内部留保を溜め込むのではなく、賃金上昇という形で国民に広く還元する必要があるといえます。

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続いて、毎月勤労統計のグラフは上の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額ときまって支給する給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、3番目のパネルはこれらの季節調整済み指数をそのまま、そして、1番下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。賃金に着目すると、上のグラフのうちの2番目のパネルに見られる通り、現金給与総額は前年同月比+0.7%増の55万1222円と5か月連続で増加したものの、生鮮野菜などの値上がりなどによる物価上昇が+1.3%あって、実質賃金は減少を記録しています。また、引用した記事にもある通り、2017年を通じても実質賃金はマイナスでした。もちろん、デフレ脱却の初期局面では、物価上昇が賃上げを上回って実質賃金が低下することから雇用増がもたらされる、というのが教科書的な理解ながら、そろそろ、この人手不足が続く中で賃金の上昇がここまで抑え込まれているのは不可解ともいえます。ただ、上のグラフのうちの最後のパネルに見られる通り、パートタイム労働者の伸び率がかなり鈍化して、フルタイム雇用者の増加が始まっているように見えますから、労働者がパートタイムからフルタイムにシフトすることにより、マイクロな労働者1人当たり賃金がそれほど上昇しなくても、マクロの所得については、それなりの上昇を示す可能性があり、同時に、所得の安定性も向上して消費に向かいやすくなる可能性も出始めているんではないかと期待しています。

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2018年2月 6日 (火)

ダイヤモンド・オンラインによる「AI導入でリストラが進みやすい上場企業ランキング」やいかに?

昨日2月5日付けで、ダイヤモンド・オンラインにて「AI導入でリストラが進みやすい上場企業ランキング」が明らかにされています。2045年ともいわれるシンギュラリティの年に向かって、これからAI化やロボットの利用などが一気に加速し雇用が奪われる可能性も取り沙汰されています。私個人としては、そんなころまで命長らえる自身は毛頭ありませんが、エコノミストとしては興味あるところです。

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ということで、ダイヤモンド・オンラインのサイトから引用したテーブルと算出方法は上の通りです。算出方法はまず第1に、AI関連キーワードについて、この1年間において、それぞれの単語に関連する記事が企業ごとにどれだけ出たのかを調査し、記事が多ければ多いほど、AIやロボット化に関する取り組みが進んでいるとし、第2に、AI化が出来ているのはトップが強い権限を持ったオーナー系企業が多いことから、在任期間が長く強い影響力を持つ社長とか、持ち株比率の高いオーナー的経営者の存在を見て、第3に、従業員数が多いところこそがAI化の余地があると想定し、第4に、EBITDA=利払い前・税引き前・減価償却前利益で計測した稼ぐ力も加味して、実際に投資までつなげられるのかを考慮した、としています。7位のオプティムと10位のインベスターズクラウドはよく知らないんですが、それら以外はトップのトヨタ自動車をはじめとして、いかにも学生諸君が就職先として希望しそうな企業だという気もします。さて、シンギュラリティの2045年までに、どこまで正解が明らかになっていますことやら、エコノミストとして、また、就活を間近に控えた大学生の父親として、とても興味深いところです。

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2018年2月 5日 (月)

東洋経済オンラインによる「海外勤務者が多い会社トップ200ランキング」やいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、1月29日付けの東洋経済オンラインにおいて「海外勤務者が多い会社トップ200ランキング」が明らかにされています。我が家の上の倅も3月には就活を開始してエントリー・シートを準備したりしているようですので、昨年も同時期に同じ特集を取り上げているんですが、やや強めに興味を持って見ていたりします。

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ということで、上のテーブル画像は東洋経済オンラインのサイトから海外勤務者が多い会社 (1~50位)を引用しています。昨年と同じくトヨタ自動車がトップとなっています。ただし、人数としてはトヨタにかなわないものの、やっぱり、上のテーブルを見ても明らかな通り、総合商社の海外勤務者も決して少なくなく、三菱商事、三井物産、住友商事といった財閥系の総合商社御三家については、従業員数に占める比率としては、むしろ、トヨタよりも高くなっている印象です。昨年来、私が不思議に感じているのは、銀行業界で三菱東京UFJ銀行がランキングに現れない点です。上のテーブルに見られる通り、50位までのランキングに銀行からランクインしているのは三井住友銀行だけであり、銀行業界の第2位は三菱UFJ信託銀行が150人で139位にランクインしています。しかし、私がチリの日本大使館に勤務しているころには、まだ、東京銀行が単体で存在しており、広く海外展開していた記憶があります。その後、いくつか合併があって、現在では三菱東京UFJ銀行になっているハズなんですが、ランキングには現れません。です。

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2018年2月 4日 (日)

先週の読書は興味深い経済書など計6冊!

先週の読書は、もっとペースダウンしようと考えていたものの、それでも6冊を読み切ってしまいました。まあ、軽い本が多かった気がします。今週はすでにこの週末に図書館を回って、ハンナ・ピトキン『代表の概念』とか、寺西先生の『歴史としての大衆消費社会』といったボリュームある学術書を借りていますので、冊数としてはもっとペースダウンする必要がありそうな気がします。

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まず、トム・ウェインライト『ハッパノミクス』(みすず書房) です。著者は英国エコノミスト誌のジャーナリストであり、英語の原題は Narconomics となっていて、邦訳タイトルは忠実に訳されています。2016年の出版です。著者はジャーナリストらしく、中南米の原産地やメキシコや中米の輸送経由地、米国をはじめとする先進国の消費地などをていねいに取材しています。ものすごく危険な取材であったろうと勝手ながら想像しています。私は南米の日本大使館勤務の経験がありますので、そういったウワサ話も少しは理解できますし、少なくともスペイン語は一般的な日本人のレベルよりも格段に使えますが、ジャーナリストの取材でも現地語の理解は不可欠であったろうと想像します。ということで、ドラッグの生産・流通・消費、さらに、ドラッグを扱うギャング組織の経営実態までを経済経営学的な見地から跡付けた取材結果のリポートです。経営組織の連携や離合集散など、通常の企業体ではM&Aに属する経営判断、あるいはフランチャイズやアウトソーシングなどの活動、サプライ・チェーンの管理やマーケティングなどなど、通常のグローバルなビジネスの経営と同じように、ドラッグを扱うギャング組織も極めて経済学的かつ経営学的に合理的な活動をしている実態が明らかにされています。そして、それらのギャング組織によるドラッグ蔓延を阻止すべく活動を強化している政府の活動についても分析を加えています。現在のドラッグ阻止活動の中心は供給サイドの締め付けにより、経済学的な需要供給の関係からドラッグの価格上昇をもたらして、需要を抑え込もうという点が中心になっています。タバコの需要抑制のために価格引き上げを実施するようなものであろうと理解できます。しかし、それに対して麻薬カルテル側では買い手独占で負担を農家に負わることができるため、大きな影響は受けない、という実態も明らかにされています。そして、実は、これは私が勤務した当時の大使館の大使の主張のひとつでもあったんですが、ドラッグを合法化して流通の一部なりとも政府で押さえる、そして需要サイドの中毒者を把握し、必要に応じて、集中的に治療を加える、という方策が現実味を帯びるような気がします。私は決して経済学帝国主義者ではありませんし、経済学中華思想も持っていないつもりですが、本書を読んでいると、麻薬カルテルの活動に経済学や経営学を適用すれば、実にスッキリと理解がはかどるというのも、また事実のような気がします。

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次に、『山を動かす』研究会[編]『ガバナンス改革』(日本経済新聞出版社) です。編者にはみさき投信の社長が含まれていて、そのあたりが中心か、という気もしますが、私はこの分野は詳しくありませんので、確たることは不明です。前著は『ROE最貧国 日本を変える』らしく、私は読んでいませんが、同じラインの本であり、我が国の資本生産性を上昇させることを目的にしているようです。そして、これまた私の専門外なんですが、アベノミクスの第3の矢であった成長政策のひとつの目玉が本書のタイトルとなっているガバナンス改革であったのも事実です。その中で、日本版スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードも制定され、投資家と企業の新しい関係も始まっています。ただ、ガバナンス改革については、かなり狭義に、株価上昇のための会計上の創意工夫、というややアブナい、というか、東芝なんかはそれで一線を超えてしまったようなラインで理解している向きもありそうで少し怖い気もしますので、本書のような本筋の知識を普及させることは大いに意味あることと私も理解しています。ただ、本書の中の第4章に収録されている対談にもある通り、ガバナンス改革は何らかの公的・自主的な規制やイベント、それこそ、日本版スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの制定とか、会社法の改正による社外取締役の義務付けとかですすむのかといえば、必ずしもそうではないような気もします。すなわち、市場における投資家や情報提供に携わるエコノミストやアナリストも含めて、市場からの圧力により、「自然と」という表現は違うかもしれませんが、いつの間にか気が付いたら、「山が動いていた」、すなわち、ガバナンスが革命的に短期間で、あるいは政府や証取などの公的な機関の指導やインセンティブ付与などで、カギカッコ付きの「改革」されるものではなく、それぞれの市場の歴史的経緯の経路依存性や参加者の構成などの実情に応じて、グローバル・スタンダード的なガバナンスが各国市場に一律に適用されるのではなく、各国のその時点の市場に応じた形でガバナンスが向上する、そしてその背景では、資本の生産性が上昇している、というものではないかという気がします。その点では、労働の生産性向上と大きく違う点はないものと私は考えています。そして、これまら労働の生産性と資本の生産性のそれぞれの向上を考える際に共通して、我が国は先進国としては、いずれの生産要素の生産性も決して高いとはいえず、先進例へのキャッチアップにより要素生産性を向上させることが可能ではなかろうか、という気がします。製造業の生産性は別かもしれませんが、少なくともサービス産業の労働生産性は、資本の生産性と同じように、まだまだ我が国は遅れている面があり、同じようなことがいえるんではないかと私は考えています。

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次に、岩田正美『貧困の戦後史』(筑摩選書) です。著者は日本女子大学を代表する社会政策や社会学分野の研究者なんですが、すでに退職されて名誉教授となっているようです。本書では、上の表紙画像に見られる副題のように、貧困を量的に捉えるのではなく、かたちとして、すなわち、何らかの類型や生活実態に即して捉えようと試みています。そして、タイトル通りに、これはあとがきにもありますが、最近の貧困論や格差論はせいぜいが1990年台のバブル崩壊以降しか視野に入れていないのに対して、戦後を通じた時間的な視野を持って分析が進められています。繰り返しになりますが、著者はそれをあとがきで自慢しているんですが、そうなら、もっと時間的にさかのぼって、明治期からの近代日本をすべて視野に収めるのも一案ではないかとも思いますし、特に戦後、というか、終戦直後から分析を始めることに意味があるとは私は思いません。そして、本書の特徴は著者の専門分野からして、ある意味で当然なんですが、かなり極端な貧困、すなわち、生きるか死ぬかのボーダーラインにあるような貧困を対象にしています。終戦直後であれば、いわゆる浮浪者、現在であればホームレスといったところが対象となっており、OECD的な相対的貧困率も取り上げていたりはしますが、そんな生易しい貧困ではなく、もっと強烈な貧困に焦点を当てています。ただ、どうしても私の目から見て、本書のような社会学的な貧困分析は表面的な印象を拭えません。エコノミストの目から見て、表面的、すなわち、かなり具体的に社会的な問題となっている、というか、見つけやすい貧困を対象にしているような気がしてなりません。それは第1に、都市の中で、人としては失業者、地区としてはスラムであって、地方の農村の貧困は等閑視されがちになっています。第2に、どうしても声高な主張のできる高齢層に目が向きがちで、子どもの貧困には関心が薄いのではないかと心配になります。ですから、この点は著者が批判的な眼差しを向けている戦前的な貧困対策、すなわち、働ける医師や能力を持った失業者への対策が政策の中心をなしていて、ホームレスなどについては置き去りにされがちな傾向と、実は、軌を一にしている可能性があることを考慮するべきではないでしょうか。貧困の三大要因は、私が大学のころに習った疾病、高齢、母子家庭から40年を経て大きく変化しているわけではありません。働けない人々に対していかに社会的な生活を保証するかの観点が重要です。

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次に、芳賀徹『文明としての徳川日本』(筑摩選書) です。著者は東大名誉教授の比較文学者であり、本筋は仏文だと記憶しています。ですので、歴史学者ではありません。本書では、与謝野蕪村などを多く引用し、徳川期について西洋の中世的な暗黒時代や文化・文明の停滞期と考えるのではなく、多様な文化・文明の花咲いた完結した文明体として捉えようと試みています。ただし、私の考えるに、タイトルの「文明」はやっぱり大風呂敷を広げ過ぎであり、まあ、「文化」程度に止めておいた方がよかった気もします。そして、著者の専門分野からして、本書の冒頭でも絵画的、というか、美術的な文化・文明にも触れていますが、やっぱり、文学が本筋だという気がします。その意味で、我が国独特の短い表現形式である俳句の世界から与謝野蕪村、そして松尾芭蕉を多く取り上げているのは、なかなかいいセン行っていると思います。私が興味を持ったのは、オランダのカピタンをはじめとして、鎖国状態の中でも海外からの情報取得が活発であり、もちろん、支配階層だけのお話でしょうが、かなり熱心な情報収集を行っている点です。加えて、改めて、なんですが、文化・文明のそれなりの発展のためには平和が欠かせない、という点です。戦争状態であれば、国内の内戦であろうと、海外との戦争はいうまでもなく、文化・文明は戦争遂行、特に戦争の勝利に支配されるわけで、文化・文明の発展は大きく滞ります。その点で、天下泰平の徳川期に文化・文明は大きく発展し、識字率などの我が国国民の民度も向上し、明治期の近代化を準備したといえます。本書では、徳川期を他の日本史の時期から切り離して、単独での文化・文明を論じていますが、私は大きく我が国の近代化が進んだ明治期につながる準備期間としての徳川期の文化・文明というのも重要な観点ではないかと思います。

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次に、織田一朗『時計の科学』(講談社ブルーバックス) です。著者はセイコーの前身となる服部時計店の広報などを担当してきており、時の研究家と自称しているようです。本書では、その昔からの欧州や中国における時計の歴史、日時計や水時計、もちろん、機械時計そして、現在のクオーツ時計や電波時計などの最新技術を駆使した時計まで、その歴史をひもとき、時計と時に関して技術的な、あるいは、場合よっては哲学的な知識を明らかにしています。読ませどころは、第4章のセイコーによるクオーツ時計の開発ではないでしょうか。著者ご本人が勤務していたわけですので、それなりに詳細に渡って興味深く展開しています。時計に関しては、私は朝が弱いので目覚ましがないと起きられません。時計だったり、女房に起こしてもらったりします。腕時計は、いくつか持っているんですが、 ビジネス・ユースは2つあって、いずれもオメガです。亡き父親の形見の自動巻きのコンステレーションは50年以上前のものだと思います。もうひとつの手巻きのスピードマスターは結婚前の結納で女房からもらったものです。いずれも機械時計ですので3~5年に1回位の頻度でオーバーホールしています。一度に2つともオメガの正規店に持ち込むと平気で数万円かかりますので、半額くらいで済む街中の時計店にお願いしています。他に週末の普段使いとしてスウォッチをいくつか持って使い回しています。ですから、腕時計はすべてスイス時計だという気がします。オメガは機械時計ですが、スウォッチはクオーツです。それから、時計代わりにラジオやテレビの時報などを用いるというのもありますが、テレビに時刻が表示されることもあります。朝のニュースなどです。私が南米はチリの日本大使館の経済アタッシェをしていたのは1990年代前半で、まだ日本のテレビでも分単位の時刻表示しかしていなかったところ、何と、チリの首都サンティアゴのテレビは秒単位の時刻表示をしていて、少し驚いたことがあります。そして、もっとびっくりしたのは、テレビ局によってかなり表示時刻が違っていることです。曲によっては平気で2分くらい違います。日本では考えられないことだと思いました。また、南半球のクリスマスやお正月は真夏の季節なんですが、ラジオも曲によって時報がズレています。南半球の真夏の年越しカウントダウンに参加したことがあるんですが、あるラジオ局を聞いているグループは、我々よりも1分くらい早く新年を迎え、我々のグループはそこから1分あまり遅れて新年を迎えてクラッカーを鳴らしたことを記憶しています。ラジオ局やテレビ局によって独自の時報の設定がなされていたようです。ラテンの国らしく、とてもいい加減だと感じざるを得ませんでした。

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最後に、マリオ・リヴィオ『神は数学者か?』(ハヤカワ文庫NF) です。著者は米国の宇宙望遠鏡科学研空所に勤務する天体物理学の研究者です。名前を素直に読むとイタリア人っぽく聞こえるんではないでしょうか。英語の原題は Is God a Mathematician? であり、邦訳タイトルは忠実に訳されているようです。原書は2009年の出版であり、2011年出版の邦訳単行本が文庫本として出されたので読んでみました。著者の邦訳は3冊目らしく、第1作は『黄金比はすべてを美しくするか?』、第2作は『黄金比はすべてを美しくするか?』となっています。本書では、特に、「数学の不条理な有効性」と著者が呼ぶもの、すなわち「何故数学は自然界を説明するのにこれほどまで有効なのか?」について、ピタゴラス、プラトン、アルキメデスなどの古典古代から始まって、ガリレオ、デカルト、ニュートンなどの中世から近代にかけて、そして、もちろん、ユークリッド幾何学の否定から始まったリーマン幾何学を基礎としたアインシュタインの相対性理論、さらに、数学というよりも論理学に近い不完全性定理を証明したゲーデルなどなど、数学の発展の歴史をたどりながら論じています。本書でプラトンが重視されているのは、プラトンは本来は数学分野の功績はないものの、数学は発見されたのか、発明されたのか、という問いに関係しているからです。すなわち、プラトン的な見方からすれば自然の中にすべてが含まれているわけであり、数学も自然になかにあることから、人間が自然を記述するために発明したのではなく、もともと自然の中にある数学を発見した、ということになります。私はこういった哲学的な観点は興味ありませんが、エコノミストの目から見ても、少なくとも、自然科学だけでなく、経済的な現象、というか、モデルの記述には数学がとても適しています。南米駐在の折は経済アタッシェとはいえ、外交活動、というか、社交的な活動が中心だったんですが、ジャカルタではゴリゴリのエコノミストの活動で、いくつか英語で学術論文を書いたりしていましたので、数学の数式でモデルを提示するのは英語という外国語で記述するよりも格段に論理的かつ便利であることを実感しました。アムエルソン教授の何かの本の扉に「数学もまた言語なり」というのがあったのを思い出した次第です。

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2018年2月 3日 (土)

米国雇用統計は堅調で金融政策は追加利上げを進める方向か?

日本時間の昨夜、米国労働省から1月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数は前月統計から+200千人増と、市場の事前コンセンサスだった+175千人くらいの増加という予想を上回り、失業率も前月と同じ4.1%という低い水準を続けています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、USA Today のサイトから記事を最初の7パラだけ引用すると以下の通りです。

Employers added 200,000 jobs in January, topping forecasts
The labor market perked up in January as U.S. employers added a better-than-expected 200,000 jobs and wages grew at their fastest pace since the recession, fresh signs that hiring could remain solid this year despite a low unemployment rate that's creating worker shortages.br />The unemployment rate, which is calculated from a different survey, remained steady, as expected, at 4.1%, the Labor Department said Friday. The jobless rate remained at its lowest level since December 2000.
And in good news for workers, average hourly earnings in January rose 2.9% vs. a year ago, up from a 2.5% rate in December and above economists' projections of 2.6%. The nearly 3% jump in pay marks the fastest pace since the middle of 2009, just as the economy was emerging from the Great Recession, according to Nationwide's chief economist David Berson.
"The faster pace of wage gains indicates that the labor market is tightening, with employers having to pay higher wages to get the workers they want," Berson said.
In January, average hourly earnings for all employees on private non-farm payrolls rose by 9 cents to $26.74, following an 11-cent gain in December.
The number of jobs created in December was revised higher by 12,000 jobs to 160,000, further reducing fears that employment might be slowing.
Hiring appeared to slow late last year, possibly reflecting a low jobless rate that has diminished the pool of available workers. Many economists expect average monthly job growth to moderate further to about 160,000 in 2018 from about 170,000 last year as workers shortages intensify in a solidly-growing economy.

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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失業率は前月から横ばいの4.1%でしたが、この数字はサブプライム・バブル崩壊直前の水準を下回っており、ほぼほぼ完全雇用に近いと考えるべきです。非農業部門雇用者の伸びも+200千人を回復し、米国の雇用は堅調に推移していると理解すべきです。特に、民間部門については、米国労働省の統計では昨年2017年12月の前月からの伸びが+166千人、今年2018年1月が+196千人なわけですが、民間の給与計算会社であるADPの統計によれば、12月+242千人、1月+234千人ですので、米国労働省の米国雇用統計に現れている数字以上に米国の雇用は堅調である可能性があると私は考えています。ですから、米国の金融政策はかなり利上げに傾いていると、多くのエコノミストは理解しています。すなわち、先月1月最後の連邦準備委員会(FOMC)はイエレン前議長の最後のFOMCでしたし、見事に無風で追加利上げ無しで終わりましたが、パウエル新議長の下で3月20-21日に開催予定のFOMCでは追加利上げが大いに議論されることが確実視されています。もちろん、3月FOMCの前に公表される米国雇用統計で寒波の影響などによりイレギュラーな結果が出たりすると、スケジュール通りの追加利上げは出来ない可能性もありますが、むしろ、トランプ政権の減税政策などにより景気が加熱する恐れもなしとしないことから、連邦準備制度理事会(FED)の利上げペースが速まる可能性すらあるとの市場観測も出いていたりします。

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最後に、時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、底ばい状態を脱して少し上向きに転じつつも、もう一段の加速が見られないと考えられてきましたが、それでも、1月は前年同月比で+2.9%の上昇を見せています。日本だけでなく、米国でも賃金がなかなか伸びない構造になってしまったといわれつつも、物価上昇を上回る賃金上昇が続いているわけですから、そろそろ金融政策で対応すべき段階であるのかもしれません。

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2018年2月 2日 (金)

インテージによる「2017紅白歌合戦」の視聴実態の調査結果やいかに?

今週月曜日1月29日付けで、ネット調査大手のインテージからテレビ視聴ログデータを用いて、昨年2017年大晦日の「紅白歌合戦」の視聴実態の調査結果が明らかにされています。とても詳細な調査結果で、私は大いに興味をひかれました。いくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはインテージのサイトから、紅白2017 毎分接触率推移 を引用しています。7時15分から放送が始まって、たぶん、私の直感では8時半くらいまでは出演者や場面に関係なく、少しずつ視聴率、というか、接触率が上昇していく時間帯ではないかと思いますので、統計的、あるいは、計量経済学的には上昇トレンドの「単位根」がありそうな気がして、評価の難しいところではないかという気がします。でも、明らかに、郷ひろみの少し前からハーフタイムショーにかけて、そして、何といっても、安室奈美恵の前には大きな上昇が見られます。

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ということで、上のグラフはインテージのサイトから、接触率急上昇ランキング を引用しています。算出方法としては、アーティストごとに出演前後の各5分での接触率の上昇率を算出して、ランキングの順位を見ています。やはり、上昇率でみても安室奈美恵がトップとなっており、接触率のレベルだけでなく接触率を上昇させる盛り上がりにおいても存在感が大きかったことがうかがえます。続いて、渡辺直美やブルゾンちえみらが出演したハーフタイムショー、さらに、バブリーダンスで話題となった登美丘高校とコラボした郷ひろみなどが続いています。

その昔には、私と同世代の山口百恵などが紅白に出演していたんですが、最近では、どうしようもなく日本全体の人口動態が高齢化してしまった影響で、紅白でも出場者の年齢がかなり上昇しているような気がします。私は典型的にウッダーソンの法則が当てはまるケースですので、もっと若い女性歌手が見たいです。

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いよいよ球春 プロ野球のキャンプが開幕!

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今日からいよいよプロ野球の各チームがキャンプインしました。
まさに球春の到来です。我が阪神タイガースは、一軍は沖縄の宜野座で、二軍は安芸で、それぞれキャンプを始めます。新しい4番を期待されているロサリオ内野手、復活なるか藤浪投手、鳥谷選手や福留選手などのベテラン勢の調整も注目ですし、さらに成長が期待される若手選手もセカンドへコンバートされた大山内野手をはじめとして目が離せません。ただ、私的には、二軍スタートでキャンプを始めた上本内野手の活躍も期待したいと思います。なお、上の画像は朝日新聞のサイトから引用しています。

今年もやっぱり、
がんばれタイガース!

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